ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

53 / 68
お、思ったよりコメントが来ていて驚いたぜぇ…


53話:re.出会い

「どうかね、義手の具合は?」

「…完璧、の一言」

「それは良かった。私のコネで用意出来る最高峰の物を選んだからね!あとなんでいつも通りなの?ツッコんだ方がいい?それとも君の通常運転なの?」

「……なにが?」

 

「どこで子供なんか拾ってきたの!?元の場所に戻してきなさい!」

 

大声を出さないでほしい。子供が驚いてしまったではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男に名付けてもらった日から数週間は考えすぎでノイローゼになりかけたので、考えることをやめた。市は「神様」と呼んではいるが、何をしていたかなんて詳しいことまでは知らない。市の中でレプリカは「神様」であり、それだけで充分だったから。

だから、これからの行動についていつまでも考えるのはやめた。そういうのはあまり得意ではないし、神様もそう思って人を救けていたのではないだろう。今の市の苦悩は、過去があり未来があるからだ。

そう思ったので、力をつける為にまず多くの人を救けることにした。兄に会うためだけに雄英に入学したが、腐ってもヒーロー志望のクラスメイトに揉まれてきたのだ。自己犠牲の精神は無いが、目につく範囲の人間なら救けようと思ったから。

そうすれば、人伝(ひとづて)に聞く神様との大きな乖離(かいり)はしないだろうと考えた。

 

 

自分が少しずつ変わりはじめている。

それが良いことなのか悪いことなのか、今は分からなかった。

 

 

 

 

 

さて、着ているローブに潜って男から隠れた二人の子供は市が偽善にて救けた人間の一部だ。どちらもまだ小学校高学年くらいだろうか。平日の昼間にいるのを見つけたので、まともな教育もされていないのだろう。

少年は変身をする個性らしく、人に化けて盗みをしたのがバレて袋叩きにされていた所を救けた。

付けてもらった義手の試用運転のつもりで殴っている大人をボコボコにしたので、使い心地は悪くなかった。【思考加速】を使っても壊れない強度もまた良い。いや、【思考加速】を使ったから壊れるとは限らないが、あの空間の中でいつものパフォーマンスが出来るという点では相当優秀な義手だ。

袋叩きから救けると、懐かれた。引き離しても付いてくるし、ローブを掴んで離さない。そのうち飽きるだろうと放置する事にした。

個性を使って窃盗をしたのだから、(ヴィラン)の類に入ってしまうだろう。けれど、そんな社会の仕組みを知らない子供だ。無知は憐れだが罪でははなく、それを教えなかった大人に罪があると市は思っている。

そんな善悪の見分けが付かない子供は、あの男に押し付けてしまおう。父性が枯れてしまうとボヤいていたし、ちょうどいい。地頭がなまじ優秀なので良い教育者となってくれるだろう。

 

少年の個性では市も姿を変えられるらしく、顔を見られたくないならどうかと勧められた。流石に仮面をしているとそういう気遣いをされてしまうか。この歳でそんな事を提案するとは、そういった環境で育ってきたと安易に予想が出来る。

提案を受け入れて姿が変わり、そしてなんと声まで変わった。どこにでもいるような女性の顔。その市に手を繋いでもいいかと顔を赤らめて尋ねてくるあたり、スレていると思っていた割には可愛げがあった。それもそうか。まだ親の庇護(ひご)下にいるべき子供だ、市が白色さんに求めたように人恋しいのかもしれない。

 

 

そうして手を繋いで歩くと、嫌に暗いアパートに辿り着いた。人気が無く日光も差し込まないでどんよりとしている。建物自体もボロボロで、ここに住む人は相当な金欠かワケありだと考えてしまうような古さだった。

見上げていると、大きな声で言い争う音が聞こえた。入り組んだ道の先にあるにも関わらず、遠くの大通りを歩く正義感の強い人に聞こえたのか通報する声もする。しばらくすればヒーローが到着するだろう。

どこかの部屋の窓ガラスが内部からの衝撃で吹き飛び、道に降ってきた。割れたガラスは凶器になりえる。市がいる場所から近くはなかったが、破片が飛んでこないとも限らないので少年を片手で抱き上げて回避。

喧嘩にしても、確実に今個性を使った。警察沙汰確定だ。

 

抱えている少年に怪我が無いのを確認して、ヒーローが来るなら放っておこうと道を戻ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___て

 

 

か細い声がする。いつも道行く人が聞き逃してしまうであろう声量。先ほど窓ガラスが割れた事で市に聞こえた少女の声。それはすなわち、あの部屋に声の主がいるという事だ。

 

 

__誰か…救、け…て…

 

 

抱えていた少年を置いて、その部屋に向かって跳ぶ。手すりや壁を足場にして登り、目的の部屋のベランダに着地する。

……しまった、()()()()()()()()()()()()()()()

喧嘩ならば放置していたが、あの激しさの渦中にいるらしき声が救けを求めているのを聞いてしまえばそうはいかなくなった。これではまるでヒーローではないかと自分に呆れてしまう。

 

部屋の中では、服を脱がされて震える少女と、それを囲む大柄の男数人。

はい有罪確定。合意ならまだしも、無理矢理、それも小学生の少女に詰め寄るとは人間失格。

先ほどの大声に窓の破壊は、抵抗する少女を脅す為のものか。

 

 

「なんだお前は。人ん家に勝手に入ってくんじゃねーよ!」

「今から楽しいことするんだからよォ。誰かも分からねえ豚はどっか行けっての」

「なんだ交ざりてえのか?それならそうと言えって」

「オラさっさと脱げよ雌豚!てめェにはそれしか取り柄がねえんだからよ!」

「お前そんなにガキ虐めるの好きだっけ?」

「…や…嫌だぁ……!」

 

 

胸糞悪い。

 

 

「ブタに対してしか自己顕示出来ないなんて、可哀想ね」

 

思った事を言ったら図星だったらしく、顔を赤くして殴りかかってきた。思考も攻撃パターンも安いチンピラだ、煽り耐性が低すぎる。【思考加速】を使うまでもない。

人体の皮膚が光り、大振りにテレフォンパンチをしてくる奴を投げて窓から落とした。死なないだろ、全身硬くする個性っぽかったし。

テレフォンパンチとはその名の通り、耳まで拳を引くので電話しているようなポーズであり「今からパンチを打ちますよ」と電話で教えてから打ってくる状態の事だ。つまり、軌道とタイミングが丸わかり。

次の二人も同じように落とした。最初に落とした男が移動していなければその上に落ちるような場所に。

 

部屋に残っているのはあと二人。家主らしき男と一番大きな男。家主は分からないが、もう一人の男は見るからに異形系の個性だ。ゴリラだか猿だか分からないが、人類の進化前の姿。だから知能が低いのか、納得。

ゴリラが呻いて腕の筋肉が肥大していく。オールマイトのような太さだが、彼ほどの威圧感はない。見せかけだけ大きくて中身が無いなんて、本人を体現しているようだ。

異形系や増強系の個性は多くが近接戦闘を得意とする。これは相澤先生に教えられてテストで出た。食らわなければなんということはない。そいつも外に蹴り飛ばして家主に向き合った。

 

「…ッチ、こっち来んなよ女。ガキがどうなってもいいのか?」

「ええ。私はヒーローじゃないし」

「なっ………く、来るなよ!?俺が指を鳴らせば、ガキは死ぬ!」

 

…なんて効率が良くて頭の悪い攻撃だ。それはヒーロー相手には効果抜群だろうけど相手が悪かったね。指を鳴らせば、なら相手が知覚出来ない速度で少女を取り返してしまえばいい。

 

 

カチリ。

足に力を入れて突進する。指を鳴らす前に少女を抱いて、ついでに顔に右ストレートをお見舞いして【思考加速】を解除する。新しい義手は鉄の塊なので、顔面陥没する程度の威力はあったようだ。醜い顔を整形してあげたのだ、むしろ感謝してほしい。

 

 

「……パパ?」

 

 

……なるほど。あの顔からこんな美少女が何故生まれたか疑問だが、実の父親に売られていたらしい。身体中の痣から、日常的に暴力を受けていたと見ていいだろう。これは保護施設直行だな。

とりあえず部屋から出ようとベランダの手すりに立った。下は警察に囲まれていて、突然上から降ってきた男共ににじり寄っている。

置いてきた少年は保護されているが、どうも彼の機嫌が悪い。

 

 

「司令官、人が出てきました!少女を抱えています!」

「ヒーローの到着まで待て!どんな個性を持っているか分からないぞ、警戒は怠るな!」

「性犯罪で指名手配を受けていた男達を確保しました!」

 

 

………犯人扱いされてないだろうか?気のせいだと思いたいが、そう上手くいかないようだ。あの弱さで凶悪犯だったのか?来るヒーローは期待しないでいよう。どうせそれなりの前衛とサポート特化の相棒(サイドキック)だろうと予想して面倒事にならない内に帰ろうとした。その時。

 

 

「私が来た!!!」

「……………」

 

 

前衛が強すぎる

あと16年であの時に戻るので活動していてもおかしくは無いが、いや、まさかこんな小物(ヴィラン)にまで出しゃばってくるとは思わなかった。

 

「おお、オールマイト!来てくれたのか!」

「勿論だとも!どんな(ヴィラン)であろうと、救けを求められたら向かうのがヒーローってやつさ!」

「頼もしいよ。目標だった指名手配犯は確保したんだけど、ちょっとトラブルがあってね」

「現場にトラブルはつきものさ、心配するな!何故なら、私が来たから!」

「指名手配犯がいた部屋に保護対象である少女を抱えた女性が見える。見たことない顔だし、一見すると少女を守ったように思うだろう。だが指名手配犯を無効化したのはあの女性だ、気をつけてくれ」

 

 

カチリ。

一日に何度も【思考加速】は使いたくないが、オールマイト相手に四の五の言ってられない。使ったと同時にオールマイトが向かってきたので避けた。少女を傷付けないように配慮してあわよくば取り返そうとしているが、少女はオールマイトを知らないのかその顔の濃さに驚いて涙目だ。ニュースや動画サイトを見ていないのだろう。

それにしても、前にUSJで見た時よりも圧倒的に速い。速度に威力、どれをとってもあの時の比ではなく、こちらも避けるのに精一杯だ。

何度も避けていれば、流石に偶然ではないと気付いたのかオールマイトの顔が笑顔のまま険しくなっていく。市が変身してる女性を只者ではないと思ったのだろう、攻撃速度を上げてきた。だが、まだ追える。

市の【思考加速】だって100倍のままではなく、今では精度も上がり100倍以上の世界にいる。それでもこのスピードに素で追いつくなんて、オールマイトも立派な人外だ。正直気持ち悪い。

 

狭い部屋だと不利なので、ベランダから飛び降りて着地する。先に落とした男達はもう回収されたようで、落ちてくる市に驚いた警察は蜘蛛の子を散らすように距離をとった。遅れてオールマイトも顔を潰した家主を抱えて降り、家主を警察に預けて市に向かい合う。

その着地の衝撃で目が覚めたのか、家主は市を見た途端に周りの警察を無視して喚き散らした。

 

 

「く、クソ女!こんな事してただで済むと思うなよ!そんなゴミなんてくれてやる!この俺が犯してやったのに産むだけ産んで自殺しやがって…!ガキなんざストレス解消にしかなんねーんだよ!!育てんのも面倒くせーしよぉ!ゴミが!てめェなんざいらねーんだ粗大ゴミ!」

「黙らせろ!!」

「なんだお前ら離せ!触んな殺すぞ!」

「…………っう、ぅ〜〜〜〜…」

 

 

あーあ、周りをよく見ないから。警察の前でそんなこと言ったらそうなるに決まってるだろうに。ほら、少女が泣き出した。市は泣いてる子供の慰め方を知らないから、放置するしかない。家主を取り押さえた警察に、困惑するオールマイト、ヘッドホンマイクに手を当てて考える司令官らしき男。

 

 

「え〜と…君はヒーローなのかな?」

「オールマイト、それは違う。ヒーロー名簿にあんな女性はいなかった」

「マジ?どうするの?」

「どうもこうも……っ待て!撃つな!」

「!?」

 

 

額に衝撃が走って思わず仰け反る。その後から銃声がした。

どうやら遠くで待機していた狙撃手に撃たれたらしい。指令系統はしっかりしてくれ、命に関わる。

市が撃たれたのを間近で見て、警察に保護された少年が制止を振り切ってこちらに駆け寄ってきた。

幸いにもダメージは無い。全身が光り、皮が剥がれて変身が解けている。ゆっくりと背中の筋肉を使って起き上がると、いきなり別人になった市に周囲が驚いていた。まぁ、一般女性がいきなり全身黒の狐面になったらそうなるのは分かる。

 

 

「貴方にはゴミでも、私にとってはゴミじゃない。…無価値な人など存在せず、私はこの子がゴミだとも思わない。捨てるなら、私がもらう」

「君は……?」

「その仮面、お前は……レプリカ!!」

「こんな所で会うとはな…総員、配置につけ!」

 

 

神様、こんなに前から知名度あったのか。流石だと思いたいが、今は自分がレプリカなので素直に喜べない。

逃げようとすれば、もちろん追いかけてくるのがヒーローだ。追い縋ろうとしていたオールマイトに義手に仕込んでいたナイフを投げて牽制し、ちょうど少年が足に抱きついてきたので地面に闇を出してその中に沈む様に潜った。魔手は見せていない、大丈夫な筈だ。

 

魔手は使っていないが、闇の中に入ることは増えた。魔手を見せなくて済むし、回避や移動にも使える。自分の個性の使い方が分かってきた、と思いたい。

そして出る場所はもちろん最近根城にしている男の元だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それだけ!?なんかもっとこう…他に言うことは!?」

「貴方が育てて。大丈夫、この子達にも了承は得てるから」

「大胆にして繊細な心遣い!!」

「怒鳴ると怯える。善悪くらいは教育出来るでしょ?」

「私には君という人間はハードルが高すぎるヨ!!」

 

この子達の傷付いた心は、ゆっくり育てていかないといけない。自尊心、自己承認欲求、その他にもたくさんある人の心を解きほぐして成長して欲しいのだ。

 

 

「ハァ……恩人の頼みだし、仕方ないね。君達、名前は?」

「…俺は扮貌(ふんぼう) (こう)

密芳(みつほう)好美(よしみ)、です」

「ウン、良い名前だ。私は…獅子那(ししな) (あゆむ)、本名さ」

「……どうして、仮面を?」

「よくぞ聞いてくれた!実は誰かのツッコミ待ちだったんだよ!知りたい?知りたい!?秘密〜〜!!」

「……ハァ」

「溜息なんて酷いじゃないか。三十代のオッさんの理由にしては恥ずかしいから言わないだけですぅ〜!そういうレプリカだって、どうして仮面を付けてるのさ!教えてくれたっていいじゃない!名前付けたの私なんだぞぅ!」

「……憧れの人と、お世話になった人の真似」

「ぶーぶー!その答えじゃ不満だよ!私は満足しないぞ!」

「そのうち分かる。…貴方が思い出せた時、また会いに来るわ」

「え、義手の更新とかメンテナンスには来ないの?」

「………改めて名乗る、という意味だから」

 

 

 

過去に来て、20年の月日を省みて真っ先に浮かんだのはロマンスグレーのあの人だった。あの時言われた「困った時はいつでも頼っておいで」を馬鹿正直に信じて、縋ろうなんて断じて考えてなどいない。

 




10秒で考えた名前解説
扮→扮する
貌→無貌(むぼう):貌(顔)が無いこと
甲→何かの囲い、又は外の覆い

密→密室
芳→芳しい(かんばしい):いい匂い
好→好き
美→美しい

獅子那 歩:イメージ元はfgoのジェームズ・モリアーティ。又の名を「犯罪界のナポレオン」。よって、
ナポ→那歩
レオン→獅子

いやマジ名前解説するの恥ずかしいです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。