ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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57話:re.乱入※

子供の成長は早い。

否断の稽古を時々手伝いながら五年が経ち、もう10歳だ。戦闘訓練だけではなく獅子那にも勉強を教えてもらっているようで平均水準の子供よりもハイスペックになってしまった。

当たり前なのだが、長年警察を弄んでいる頭脳タイプの大物(ヴィラン)に教育され、その男の幹部のような立ち位置にいる二人に戦闘を教わっているのだ。【思考加速】は私でしか教えられないので、時間がある時に付きっきりで教えている。今は10倍でしか動けないが、林間合宿で戦った時は100倍になっていたので将来は約束されたも同然。

 

後は外を歩くレベルには育ったので、最近は連れて歩いている。万が一の為に地面以外を拒絶させているので、不意打ちで足を狙う変わり者が来ない限り怪我は負わない筈だ。ずっと使用しているので個性の訓練にもなる、一石二鳥。

 

 

 

 

そして今日。

遠くで大掛かりな爆発が起き、キノコ雲が空高く昇る。一昔前の戦争にて、核爆弾が落とされた時のよう。

こんな大きな戦闘は数年ぶりだ。誰と誰が戦っているのかとても気になる。気付いた時にはオールマイトが平和の象徴と騒がれて街中で暴れる奴が激減していた。私の世間知らずさが浮き彫りになったみたいで恥ずかしかったのを覚えている。だってテレビなんて見ないし…。

 

周りはヒーローが市民の避難誘導をしていて戦闘状況を詳しくは知らないみたいだ。こうしている間にもキノコ雲の方向から聞こえる激しい音が市民を不安にさせて、避難誘導に手間取っている。

それをビルの上で見下ろしながら、音の発生源に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそこでは、オールマイトとオール・フォー・ワンが戦っていた。

オールマイトが後ろの市民を庇いながら、オール・フォー・ワンはそれを見越して市民を巻き込む攻撃を繰り出す。本当に嫌らしい奴だ。他のヒーローは邪魔になる事を知っていて、いち早く市民を避難させようとしている。

ここでオールマイトが奴を倒してくれるのを期待して見学していよう、否断が戦う時の良い資料映像になるだろうし。

そう楽観視していたら、オールマイトの左脇が抉られる。それでも彼は平和の象徴らしく、笑って(はらわた)を撒き散らしながらオール・フォー・ワンの顔に一撃を叩き込んだ。

互いに満身創痍だが、まだ戦う事をやめようとしない。オール・フォー・ワンは起き上がり、オールマイトもまたそれを迎撃しようと拳を構える。

 

 

「否断、先に帰ってて」

「……いいえ、見ています」

 

全く、悪い子に育ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

カチリ。

ビルから飛んで、オールマイトに当たる一撃を受け止める。ダメージは無いが、今ので皮が剥がれてしまった。変わっていた声も元に戻ったので、喋るのはご法度だ。

 

「……レプリカか、5年ぶりだね。暴走した精神は落ち着いたかい?」

「レプリカ……11年前の君か…!」

「…………」

「ん?……君、個性はどうしたんだい?無個性じゃないか」

 

 

話す気は無いし話せないので、オール・フォー・ワンに飛びかかる。あちらはもう顔が潰れて、目もまともに見えていない。それでも私の攻撃を躱すのは、センサーや赤外線、或いは空気の流れ、音の反響を読む個性を持っているのだろう。私に「個性をくれないか」「与えてあげる」と言ったのならば、そうして奪った他人の個性で感知している筈だ。

 

 

「あの時は大変だったよ。並の個性では吸収されてしまったから、僕が使い慣れたものを使ってやっと距離を取った。無差別だったから、その間にお暇させてもらったんだ」

「…………」

「言葉も話せなくなったのかな?それとも話す気がない?今の状態で君とは戦いたくないし、退かせてもらおうかな」

 

 

いや、出来るなら今ここで倒しておきたい。

撤退行動を始めたオール・フォー・ワンに、それを阻止する私。オールマイトには黄色い老人が近寄っていった。

 

 

「レプリカ、避けたまえ!」

「!」

「頭に血が上っているね、ありがとうオールマイト」

 

 

大怪我をしているのに、オールマイトは戦闘している私達に向かってくる。そのパンチの衝撃でオール・フォー・ワンから離れ、その隙に逃げられてしまった。

目標がいないならば、ここにいても面倒になるだけだ。私に声をかけようとして吐血したオールマイトを無視して否断のいるビルに登り、連絡してくれていたのか迎えに来た扮貌(ふんぼう)の個性で撒いた。本当に便利だ。相澤先生がいなくてよかった。

 

 

 

 

 

 

獅子那の元へ戻ると、彼は真剣な表情で私を待っていた。

何か言いたい事がいるのだろう。ここ最近は考え事をしていた様だし、そろそろかもしれない。

 

「おかえりレプリカ、何があったかは把握しているよ。君も薄々気付いていると思うけど、タイミングが良いから今言うよ。私はこの組織を潰して、警察に自首する。ヒーローになろうと思うんだよネ。君と接触したことで、組織の行動をだんだん軽くしてきた。改心されたと勘違いしているだろう」

「…ならば、雇われている部下は?」

「ちゃんと考えているサ!悪党にはそのまま捕まってもらうし、信頼していた部下は真っ当な場所に紹介したよ。組織は弱体化しているからと警察も突撃しようと考えている。計画はもう立ててあるから、しばらくお別れだね」

「俺たち2人はヒーロー免許取って、この人が出てくるのを待つよ」

「立ち位置は幹部だけど、上手く誤魔化しているから警察は私達をチンピラだと思ってるし」

(しゅん)クンはそのままレプリカと一緒にいてね。無茶しないように見張っててよ」

「は、はい!」

 

 

……まぁ、そうなるか。

これで獅子那は裏社会から引退。その後釜にオール・フォー・ワンがなると見越している。ある程度のコネは残しつつ、ヒーローとしてそれを使った活躍を期待していよう。

 

 

「そうと決まればヒーローネーム考えよう、ヒーローネーム!もう「蜘蛛」なんて言われたくないもんね!」

「俺はもう決めてる」

「私も〜」

「え〜決まってないの私だけ?ねね、レプリカが決めてよ!お互いに名付け合うって良いよね!ネ!」

「…蜘蛛じゃダメなの?」

「えぇ〜!?だって端的すぎない!?もっとカッコいいの頂戴!」

「…スパイダー(英語)スピン(オランダ語)アラクネ(ギリシャ語)アラーニャ(スペイン語)マクラ(ネパール語)シュピンネ(ドイツ語)

「うんうん、それから?」

「……………………パワーク(ロシア語)

「それにしよう!うん、それがいい!」

「…どうして」

「それを言う時、一番愛がこもってたからネ!」

「…………」

「痛い!暴力反対!」

「俺はメタモル。個性「化けの皮(ドッペルゲンガー)」で変身するし、こんなんでいいだろ」

「私はロベリアとマーガレットを足してロベレット!花言葉は教えてあげないからね」

 

 

 

こうして、未来に必要な一つの欠片が誕生した。

 

 

 

 

**************

 

パワークが自首してから、思いのほかスムーズにヒーロー免許を取得したらしくもう事務所を立ち上げている。一体どんな手段を使ったのか。

パワークのことだから、私と会った時にはもう仕込んでいたのかもしれない。普段のイタズラならまだしも本気の悪巧みは悟らせないから、その頭脳に衰えはない。

警察の監視が付いているのも想定内だろう。私は買い物で外に出るメタモルと接触し、姿を変えてから客としてパワークの事務所に入るようになった。

 

 

 

 

否断も更に成長してもう13歳。依存度は減ったが、カルガモのように付いてくるのは相変わらずだった。

 

「レプリカ様、今日はどこへ行きますか?」

「……さあ、どうしようか」

 

 

 

 

 

特に記憶に残ることもない日々を過ごす。

今日は、そんな中で少しだけ覚えている出来事だった。

 

 

筋肉が皮膚外に出て腕が太くなった男が、ヒーローらしき瀕死の男女に腕を振り上げている。顔の左側は血で染まり、けれども楽しいのか笑顔で殺そうとしている。周りの人間は野次馬精神丸出しで、ヒーローの誘導を無視してスマホを構えている。

そのヒーローが殺されたら、次の標的は自分かもしれないと考える頭が無いのだろう。

 

 

間に割り込んで、その拳を受け止めた。

 

 

 

「おおっ誰だ誰だ?」

「すげー!ちょーカッコいいー!」

「これSNSあげたらバズるって!いいね超もらえんじゃん!」

「ああ、何だお前?代わりに遊んでくれんのか?」

「ええ、遊んであげる」

「ノリいいじゃねーか!今ハイなんだよ!遊ぼうぜえ!!」

 

 

拳を弾いて、瀕死のヒーローと距離を取らせる。すかさず否断が2人を移動させて、止血を始めた。左目を負傷しているのか、攻撃する場所が拳一つずつズレている。けれどそれを悟らせると修正してくるので、それっぽく避けておいた。

というか、最新の義手の硬度がエゲツない。誰かの「無変形」みたいなノリの個性でも使っているのではないかと疑うくらい丈夫だ。

 

 

「戦わないなら指示に従え!撮ってんじゃねえよ!!2人死にかけてんだぞ!?誰か救急車呼べよ!」

 

 

後ろで否断がキレてる。私に対していつも敬語だからか、フェイクの口調になるのを初めて聞いた。

傷口に手を入れ、(はい)り込んだ瓦礫などの異物を体内に触れないように取り出しているのを見て、個性の使い方が上達したと感心してしまった。

 

 

「個性使ってんのか?お前良いな!久々に楽しめる!」

「…子供はお家に帰りなさい」

「ああ?」

 

 

追い討ちで負傷した左目を狙って殴ればよほど痛かったのか、叫んで私から離れるのを眺める。自分から攻撃しない限り何もしてこないと分かったのか逃げていった。追いかけるのは警察の役目だ、頑張ってほしい。

野次馬に牙を向いている否断を呼び戻して、追っ手を撒いた。

威嚇していたのに、私が呼ぶとコロリと顔を変える否断を見て犬を飼っている気持ちになった。便利な忠犬だ。

 

 

あと2年、頑張って戦闘を叩き込むとしよう。




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