私が雄英に入学した。
そういえば20年前の私はあんな雰囲気だったと思い出す。少し恥ずかしく、これがいつか誰かに聞いた黒歴史というものだと理解した。
それとも、私が20年でここまで変わってしまったのか。身体は成長しない15歳のままここまで来てしまった。精神年齢は単純計算で35だ。
きっとあの日を過ぎれば、成長するのだろう。
運命の日が近付いたからなのか、魔手は使えないけれど闇に潜る事が出来るようになった。入学した頃の私はまだ闇の制御に慣れていなかったので、中にいても見つかることはないと思う。
そこで否断と別行動をすることにした。闇に潜るのを見られたくないし、タイミングは分からないがそろそろ否断をフェイクとして
「…否断、ここからは別行動」
「えっ、な、何故です?まだ強さが足りませんか…?貴方にずっと鍛えられて、強くなれたのだと…」
「いや、君は充分強い。けれど、私の目的は伝えた筈だ」
「…はい、研究所の完成品を見つけ次第交戦と仰っていました。それに見合う強さに、なれていないのということでは」
「君は内部、私は外から探そうと考えてる。離れていても、ずっと見ているから」
「……ですが…俺は、貴方と共にいると…」
「…否断 峻、君に課題だ」
「は、はい!」
「君が美しいと思うものを、決して壊さないようにしなさい」
「美、しい…?それは、どういう…」
「骨董品や自然、それ以外にも君が美しいと思ったならばなんでも」
「お待ちください!俺はずっと、貴方を美しいと…それではいけませんか!?」
「…ああ。
よし、これで離すことが出来る。小さい頃から一緒にいるから、もう私の中で息子のような扱いだ。親離れ、子離れには強引だったと思うけれど、これくらいがちょうどいい。
というか私が美しいか……そうだろう、この仮面は素晴らしいだろう。私が自分に神を見出したのも、この仮面と後光によって神々しさを感じたからだ。
「君は内部」と言ったから、聡明な否断なら
こうして、否断と別れた私は自分を観察することにした。
もちろん普段は闇から出て人救けをしている。潜るのは夢を見る感覚と思ってもらえればいい。
個性把握テスト、戦闘訓練、USJでの
クラスメイトは私と友達になろうとしてくれていた。蛙吹には酷いことも言った。それでも話しかけてくれたクラスメイトには感謝しかない。
体育祭では轟を私と重ねていた。必要とされずに機械的に作られた子供である轟と、試験管ベビーである私。結局、轟は私とは違って愛されていたが、今なら分かる。私も白色さんに愛されていたと。
母親だと明かされない代わりに、世話係を理由にたくさんの事をしてくれた。それに気付けなかったのは私の落ち度だ。
今度、轟と話をしてみたい。体育祭前とは違う丸くなった彼と、家族の話をしてみたい。
そう考えている時に、闇の中に私が入ってきたので驚いて身を隠す。そうだ、そういえばこの時に悪意を感じて移動のために潜ったのだった。そこに向かうのに夢中だったのか、気付かれることなく闇から出ていった。
ホッと胸を撫でる。
職場体験では、本当に運命だったのかパワーク事務所を選んだのだった。
そこでパワークに世話になって、豪華客船でディーラーとして潜入したんだっけ。目上の者に対する態度がなってない、本当に黒歴史だ。
パワークもよく怒らなかったと思う。もしかしたら、この時点で私だと気付いていたのかもしれない。
化けの皮も纏っているし万が一は無いと分かっているが、闇に潜ってパワークの近くにいた。
脳無が現れて、それをメタモルに投げられた自分が無効化する。
今考えれば、正体を隠す為とはいえディーラーになる時にあの見た目にする必要があったのか。誰の趣味とは言わないが、考えたくない。
それにしても、メタモルとロベレットは大きくなった。私と会った時が11歳くらいだから、16年過ごして…もう27歳か。
職場体験期間が終わって、自分が雄英に帰っていく。見送りを終えて談笑しながら事務所に帰ってきた三人は、好きなことをしながらも会話をやめなかった。
「なるほど。君が言った「2回目」の答えがこういう形で判明するとはね。そりゃ過去の私も首をひねるってものさ!とても興味深い因果をお持ちのようだ。ね、レプリカ」
「………」
やはり近くにいることはバレでいたようだ。パワークがくつろいでいるソファの後ろに出て、次の言葉を待つ。
初めてパワークにプレッシャーをぶつけられた時に言った言葉をまだ覚えているようだった。そういう些細な違和感を見逃さない所が流石というか、長年裏社会に君臨していただけのことはある。
私が職場体験で受けたプレッシャーを1度目。理由は知らないが過去に戻って受けたのが2回目だと正確に理解している。
「私が付けている狐面は、恩人である君を真似していたんだけど…君、可愛い所あるんだね」
「…………」
出来ればそれは忘れていてほしかった。「お世話になった人の真似」で自分に行き着く所が本当に嫌いだ。正解だけど恥ずかしくて消えてしまいたい。
「伏線回収ご苦労様。約束は約束さ、私達は今後、全力で君のサポートに徹するとしよう」
「ええ、楽しそうだし私も賛成〜」
「…はぁ。ま、アンタには救けられたしな。俺も異論は無い」
「そういう事。さ、これから何をするのかナ?なんでも言ってよ!」
「……………ありがとう、ございます」
「頭なんて下げなくていいって。君と私の仲だろう?いや、むしろ娘だから!」
下げていた頭をあげて、ずっと付けていた狐面を外す。素顔を見せるのは、この世界に来たばかりの時に会った冬美、
「…おわかりかと思いますが………天魔、市…です。その…よろしくお願いします…。あと、長年…すみませんでした…」
反応が無い。そういえば3人に顔を見せたのも初めてか。そんなに見られるとなんだか居たたまれなくて、俯いた。
「〜〜〜〜お市ちゃん!もうレプリカさんじゃなくてお市ちゃんって呼んでいいのね!?ずっと本当の貴方とお話したかったの!」
「いつも俺の化けの皮被ってたし、声も変えてたからな。頼ってくれるのは嬉しかったけど…恩人のことが知れて良かった」
「お市ちゃん!!!大きくなってこんなに表情も豊かに……っ将来有望だよぉ〜〜!!もう一回パパって呼んでよ〜!!」
「…大きくなったって…髪が伸びただけ。そう言ってくれてありがとう…パパ」
「ごばぁっっっ!!!」
「職場体験初日よりもダメージが!?」
「ね、ねえ!困ってたんでしょ?だからずっと頼ってくれてたのよね?〜〜〜もう!大好き!!」
「ガフッ……ゲホッ…気付いてあげられなくてゴメンね〜!私の
「……!」
「あー…そのままにしてやってくれ、感極まってるだけだから。ついでに俺も交ざる」
「!?」
一通り揉みくちゃにされた。
そうか、こんな私でも職場体験の別れ際に言われた約束は有効なのか。
それは…………とても嬉しい。
落ち着くまでされるがままにして、今度の事を伝えた。3人がいてくれるなら心強い。私は今まで見ようとしなかっただけで、人に恵まれていたのだ。
林間合宿は記憶に新しいので付いていかなかった。
否断が
そして林間合宿での不祥事が知られて、世間がザワつき始めた。雄英に集まるマスコミは多く、情報の開示を求めている。
謝罪会見ではメディア嫌いの相澤先生が出演し、それに目をつけた記者が棘のある質問を繰り返す。民意の代弁者を気取るその姿勢を哀れに思った。被害者の家族は決してそんな事を知りたくないだろうし、学校側からも説明をされている筈だ。
炙り出された所をこれでもかと突いて、金を得ようとしている。そしてでっち上げとも言えるニュースや新聞に世間は騙され、情報操作される事例は多い。
神野の一部が吹き飛んだ。ついに始まったのだ。
そこへ向かおうと闇に潜って目的地へ向かう。途中で2年前に戦った大男がいた。否断が野次馬に怒鳴った時のあの男、林間合宿の襲撃に参加していたのか。名前…マスなんとかだったような気がする。そこまで詳しく覚えてない。
私を見てなにか言っていたが、構っている暇がないので瞬殺してから外に叩き出しておいた。闇の中で自在に動ける機動力を舐めないでもらいたい。動けない程度に痛めつけただけで殺してはいない、安心してくれ。
私は、自分が跳ばされる所を見届けなければならない。
闇の中に自分とフェイク、兄の3人が入ってくる事は分かっていたので、入る瞬間に入れ替わって違う出口から外に出た。戦っているのは分からなかったけれど、オール・フォー・ワンとオールマイトの戦いは熾烈を極めている。
USJの時に見た痩せ細った姿で、尚も立ち向かおうとする平和の象徴。近くで気絶しているヒーローを救け出す為に合流したヒーロー達。遠くから聞こえる「勝て」の声援。
それを受けてオールマイトが力を振り絞った一撃を、5年前のあの時のように顔に叩き込んだ。オール・フォー・ワンは動かず、左腕を上げて勝利を伝えるオールマイトに歓声が聞こえる。
そして、そんなオールマイトの近くで闇が蠢き、闇の中で戦っていた3人が吐き出された。ならばと、私は闇に潜む。自分が跳んだ時に姿を現せられる様に観察を続けた。
一度死んだ兄が起き上がり、自分の両腕が斬り飛ぶ。それでも兄を救おうとする自分に、フェイクは何を感じたのか。もしかしたら、死にそうだったフェイクを救けた私の事を思い出していたのかもしれない。
「ああ…そういう事か。レプリカ様、そういう事だったんですね。俺がやるべきこと。美しいもの。あなたは天魔を生かしたいんですね」
「跳べェッッッ!!!!!」
そして、一筋の光が天に消える。
それを見送り、後ろに倒れていくフェイクを受け止めて兄を見た。
「交代だ、フェイク」
涙を流して見上げてくるフェイクに、少しだけ笑ってしまった。
本当によくやってくれた。後は私に任せてほしい。
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「初めまして…だっけ?人と話す時は目を見ろって教わらなかったの?取りなよ」
神速で放たれた斬撃も、今の私は避ける事が出来る。
顔を逸らして避けたけれど、元々の狙いは攻撃が目的ではないようで仮面だけが切られてしまった。
「さて、その顔を………っ!?」
「………!」
「20年ぶりです、兄様」
「天魔少女!!?」
20年、この時をずっと待っていた。さあ兄様、戦いの続きをしましょう。
全ては、このどうしようもなく長い夜を越えるために。