ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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6話:ダウナー系とヒーロー基礎学

市が通う雄英高校は、全国的に見ても偏差値が79と高い。にも関わらず、ヒーロー科の倍率が300と高いのは、雄英を出ることが一種のステータスとされているからである。

万を超える受験ライバルを蹴落として合格した1-A、1-Bの時間割はそれに見合うものであり、月曜から金曜まで昼休みを挟み7限もの授業が。土曜も休みは無く6限までの授業を受ける。最高峰らしくハイレベルな授業内容に加え、現役ヒーローがそれぞれの科目の教師となって学ぶことが出来る。授業の合間に語られるヒーローの武勇伝は飽きる事なく、よくある授業中の居眠りは発生しない。

 

入学からオリエンテーションが終わって本格的に授業が始まる今日、午前に必修科目や英語の後に、クックヒーロー:ランチラッシュが作る一流を料理をリーズナブルに。学生の懐事情を理解した優しい対応だ。

 

 

「君、白米は!?白米は良いよ白米!!」

 

 

食堂解放初日、行く気は無かったが校内探索の為に食堂を利用した市は、熱心に白米を推すランチラッシュを平和的に無視して安価の味噌汁を頼んでカウンター席に座る。どうやら今後「味噌汁の子」と覚えられていそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして昼休みを挟み午後の授業が始まる。

ヒーロー科を志望して入学したクラスメイトが待ちに待った授業、「ヒーロー基礎学」だ。そわそわと落ち着かないクラスメイトに、なぜそこまで興奮するのだろうかと市は純粋に思う。

 

 

「わーたーしーがー!!」

「来っ」

「普通にドアから来た!!!」

 

 

興奮を抑えられなかった緑頭が、「私が」の後に続く言葉を言う。きっと被せて言いたかったのだろうが、残念そもそも言う言葉が間違っているので教師のオールマイトの言葉を遮る形になってしまった。

No.1ヒーロー:オールマイト。All might(全ての可能性がある)を語源にした言葉であろう、名は体を表すに相応しいヒーロー名だ。強大な力を持っていながらも、人として親しみやすくコミカルさを忘れない。彼がNo.1で在り続けるのは、常人には想像も出来ない葛藤があるのだろう。越えねばならない死があったのだろう。

だからこそ、彼はいつも笑っているのかもしれない。ピンチの時、人々を助けた時、ブラウン管の向こうで。笑っていないと、No.1の自分を保てないのかもしれない。

その心うちを他人に悟らせない辺り、さすがヒーローといった所か。

 

 

「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!」

 

 

 

雄英のヒーロー科にて、当たり前だが最も単位数が多いのがヒーロー基礎学。ヒーローを育てる為の素地をつくる課目だ。戦闘力に状況判断力、戦闘指揮力に医療知識、ヒーローに関する法律に本番を想定した救出訓練。

一般的な高校では予算的にも再現出来ない事をやってのける。

 

 

「そしてそいつに伴って…こちら!!入学前に送ってもらった「個性届」と「要望」に沿ってあつらえた…戦闘服(コスチューム)!!!」

「おおお!!!!!」

 

 

雄英に入って初めてのヒーローらしき事に、クラスから歓声があがった。

 

 

「着替えたら順次グラウンド・β(ベータ)に集まるんだ!」

「はーい!!!」

「格好から入るってのも大切な事だぜ少年少女!自覚するのだ!!!今日から自分は…ヒーローなんだと!!

さあ!始めようか有精卵共!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗な奴だ、と思った。

どこか懐かしくて、遠い昔に失った何かを想い出すような感覚に陥る。

懐かしいでもない。されども美しい。

綺麗はともかく、自分が何かを「美しい」なんて形容する日が来るなんてまだずっと先だと思ってた。

病気に見える少し怖い細さも、淡い青の白縹(しろはなだ)色の髪も、血のような赤い瞳も、まるで完成された人形のように、天魔 市という人間は完結している。

 

 

自分という人間を救えずに、あの瞬間だけ狂気に囚われてしまった母親のような儚さを持っていた。天魔 市という人間は、何を考えているのだろうか。彼女の思考は、父親の虐待に近い訓練から俺を守りきれなかった母親と似通ったものがあると、その時に漠然と考えたのを覚えている。

 

 

 

…………そういえば、あの時親父から救けてくれた奴はなんて言っていただろうか。突然現れて、No.2ヒーローである親父と渡りあったアイツを。

まるで親父の手の内を知っているような戦い方だった。個性を使っていたのか分からないが、炎に臆さずに身体だけで戦っていた。素早い動きで翻弄し、幼い俺でも分かる重い一撃が叩き込まれる所を。

 

何も言わなかったけれど、孤独だった世界に出来た味方のようでとても頼もしかった。

親父に勝った後、呆然と見てた俺を機械の腕で撫でてくれた。

温度の無い機械だったにも関わらず、今までのどの手よりも温かかったんだ。

 

それなりに大きくなってから調べてみるとヒーロー免許を持っていない犯罪者としてメディアは放送し、救けられた人からはヒーローだと祀られていた。人によって真逆の印象に驚き、ヒーローでないのにあの強さは勿体ないと思った。

 

 

レプリカは、オールマイトに並ぶ俺のヒーロー(憧れ)なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

被服控除(ひふくこうじょ)

雄英高校は、入学前に「個性届」「身体情報」を提出すると、学校専属のサポート会社がコスチュームを用意してくれるシステムだ。「要望」を添付することで便利で最新鋭のコスチュームが手に入る。

 

市の個性は魔手を利用した身体の拡大補助を主としたものだ。魔手が無ければステゴロ(素手喧嘩)になる。よって、市がサポート会社に提出したコスチューム要望はこうなった。

・両手両足にダメージを加算する鎧

・手の動きをなるべく隠すローブ

・表情から動揺を悟らせないフェイスマスク

シンプルにと箇条書きで要望を出したのがいけなかったのだろうか。

 

 

本当に書いた事しか再現されていない。

鋭角的で薄汚れたローブに、何故か左腕だけ肩まである鎧。膝蹴りや肘打ちの為か、関節部には趣味の悪い髑髏がいた。露出した二の腕と片脚の太ももには、拘束用であろう鎖がジャラジャラと音を鳴らして巻きついていた。肋骨を保護する器具が付いた物々しいストラップレスの見せるブラジャーに、厳ついベルトのショートパンツ。極め付けに、黒いフェイスマスク。

目元だけが露出しているが、目のハイライトが消えて死んだ目をしているようだ。一瞬敵ヴィランに見えてしまう凶悪な姿。普段の不気味さがより先鋭化している。

 

 

 

「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」

 

 

コスチュームに着替えたクラスメイトを見回す。私服のようなカジュアルな者は少ない。

 

 

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうが凶悪敵出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売…このヒーロー飽和社会…ゲフン。真に賢しい敵は屋内やみにひそむ!!君らにはこれから「敵組」と「ヒーロー組」に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」

「!!?」

 

 

基礎訓練では無く、突然の実習にA組は戸惑いを隠せない。昨日の相澤担任による個性把握テストの事もあり、疑心暗鬼のようだ。

 

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

「ブッ飛ばしてもいいんスか」

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

「このマントヤバくない?」

「んんん〜〜聖徳太子ィィ!!」

 

 

新米教師のオールマイトは、生徒数人から一度に聞かれた質問に対応出来ずに面白い事を口走った。意外とコミカルな人柄のようだ。

まだ教師としての適応力がない為、懐から小さな紙…いわゆるカンペを取り出して本人的にコッソリと盗み見た。

 

 

「いいかい!?状況設定は「敵」がアジトに「核兵器」を隠していて、「ヒーロー」はそれを処理しようとしている!「ヒーロー」は制限時間内に「敵」を捕まえるか、「核兵器」を回収する事。「敵」は制限時間まで「核兵器」を守るか「ヒーロー」を捕まえる事」

 

 

急なアメリカン設定に周囲が騒ついた。彼がアメコミ風な画風に関係しているのだろうか。とりあえず彼がアメリカ推しという事は伝わった。コンビ及び対戦相手はクジで決めるようだ。しかし、1-Aは21人いる。どうやっても1人余ってしまうが、どうするのだろうか?

同じことを疑問に思ったのだろう、ポニーテールで凛とした女子が手を上げた。

 

 

「お言葉ですが、A組は21人います。クジを引いても1人余ってしまいますが、どうするのですか?」

「うん、それはしょうがないよね!だから何処かのチームは3人グループになるけど、対戦相手は作戦でカバーしよう!その経験は、きっと糧になるさ!」

 

 

 

どこかの組み合わせは2対3になる。数の利というのは大きく、正面から戦う際は誰かが2人を相手取ることになるということだ。

クラスの全員がクジを引き、市が出したのは「B」。顔の左半分を氷で覆った少年と、顔を隠す銀髪のリーゼントに口元を隠すマスクの少年だ。

リーゼントの大柄な少年の肩から腕が伸び、本来は手が出来る場所に口が作られた。

 

 

「俺は障子 目蔵。個性は「複製腕」だ。この触手の先端に身体を複製出来る。諜報や情報収集向きだが、戦う事も可能だ」

「轟 焦凍だ。個性は「半冷半燃」。右手で凍らせて左手で燃やす」

「…天魔 市。作戦は任せるから…私の個性は、これ…」

 

 

 

Bチームは圧倒的に会話がない。飛び交う言葉も無い。簡単な自己紹介にて、市は個性の名前も言わずに魔手を地面から出す。出てきたはいいが放置されて寂しかったのか、猫のようにすり寄ってきた魔手を肩越しに弄る。

どうやらこれで交流は終わりのようだ。障子は一足先に、屋内対人戦闘訓練に使うビルの地下モニタールームへと行ってしまった。

 

 

「……………」

「………?」

 

 

視線を感じる。2人きりでの空間で、轟に見られていたようだ。

何かを言う訳でもなく、ただ市の顔を凝視する轟に、疑問符を浮かべながらも見つめ返した。

市を通して、誰かを見ているのだろうか。その目は市を見ていない。

満足したのか、無言のまま轟はモニタールームへと足を進めた。そろそろ市もモニタールームに行かなければ。構ってもらえて嬉しそうな魔手を消し、通常のビルよりも強固に設計された建物に入っていった。

 

 

 

地下のモニタールームには、ビル内に設置されている音声を拾わない定点カメラからの映像が幾つものウィンドウに投影されている。

対人戦闘訓練にて、互いに持ち物は決まっている。コンビと連携をとる小型無線、ヒーロー側には建物の見取り図を。そして確保テープ。相手に巻き付けた時点で「捕らえた」証明となる。「核」に少しでも触れれば回収と見なされて勝敗が決まる。

制限時間は15分

「核」の場所を「ヒーロー」は知らず、探索しながら敵を迎撃しなければならない。

この訓練の勝敗は大きく分けて4つ。

・制限時間をオーバーする(敵勝利)

・核を回収する(ヒーロー勝利)

・敵全員に確保テープを巻き付ける(ヒーロー勝利)

・ヒーロー全員に確保テープを巻き付ける(敵勝利)

 

 

 

 

最初の対戦相手はAヒーロー対D敵。

緑頭の少年は、緑谷 出久というらしい。だんだんとクラスメイトの名前も覚えてきた。対戦する緑谷と爆豪には因縁があるようで、ビル内がただならぬ緊張感に包まれている。あまり他人の戦闘に興味は無い。オールマイトからは考えて見るように言われているが、彼らの戦い方は大体分かる。

個性把握テストで判明した個性に性格。類い稀なる頭脳で、モニターにて戦いを見ながら、その解析と思考を切り離して演算する。市が「思考加速」と共に持っている「並列演算」。脳のリミッターが外された副産物で、同時に2つの事柄を考えながら行動する事が出来る。

視線はモニターに固定したまま、魔手と戯れた。

 

 

爆豪は随分と暴力的で自尊心が高い。にも関わらず、冷静な所がある。敵なら誰でも良いわけではなく、強い敵を倒したいという繊細で複雑な闘志。そう、まるで乙女心の様な戦闘狂だ。

対して緑谷は、自身を追い込む強化型の個性。自分でそれをセーブしている代わりに、鋭い洞察力と観察眼がある。モニタールームが大きく揺れ、ビルの一階部分が吹き飛んだ。

緑谷が小型無線で麗日と連絡を取った。その時点で、市の脳内演算が結果を叩き出した。きっと市の予測演算通りになるだろう。結末が分かった戦いをこれ以上見る意味も無く、後方へと移動して寝転がる。

麗日の位置とリンクした爆豪と緑谷の戦い。モニター室にはきこえない小型無線でのやりとりで柱に抱きつく麗日。それぞれの個性に思考回路。緑谷がアッパーカットを打てば、市の演算結果は証明される。

 

 

 

 

 

 

「麗日さん行くぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ほらね。




市ちゃんのコスチュームはグラブルのカオスルーダーです。
然るべき時に挿絵アップします。

補足説明(ほとんど転スラ)
【思考加速】
通常の100倍に知覚速度を上昇させる
【並列演算】
思考と切り離して演算を行う(同時に二つの事を考えられる)
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