ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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3日間に渡る巨大ゴキブリと死闘の末、おじいちゃんを召喚して勝利したので更新します。朝一で敵の寝込みを襲いましたが、卑怯ではありません。奇襲も立派な作戦です。


60話:re.君の神様になりたい。

今までだったら押し負けていたであろう激闘を耐えて確信する。私が成長してきた経験を、個性“レプリカ”にも反映出来ることを。

 

(とがを)()(くぎ)(はなちた)魔手(まのて)

 

赤くなっていた魔手が闇に沈み、再び出てきた時にはその手にたくさんの釘が刺さっていた。魔手自体を躱せても、あの釘が掠るだけでダメージにはなるだろう。出し惜しみをして負けるなんて言語道断。初めから全力で行かせてもらおう。

私は魔手を出し、兄が六魔(りくま)で迎え撃つ。私に腕を伸ばしてきた兄の手を、恋人のように指を絡ませて握った。頭上では魔手と六魔(りくま)が一撃を相殺しながら剣劇を何十、何百回も繰り広げて互いに一歩も譲らない。兄の方が力は強いけれど私は義手だ、どれだけの力で握られていても、痛みを感じることはない。

 

「私も兄様も、もう飛べないのよ。後は泣いて眠るだけ」

「戯言を……僕の翼はまだ飛べるし、眠る気は毛頭無い」

「きっとイカロスの翼ね。可哀想な兄様」

「それは市の方だろう?僕はダイダロス、堕ちることはないよ」

 

ギリギリと握られた手同士が音を鳴らす。私だって、無意味に20年を過ごしていたのではない。確固たる実力をもって、兄と眠る為に舞い戻ってきたのだ。

頭上で行われていた剣劇を制したのは、魔手だった。六魔(りくま)を弾き、それにつられて兄が仰け反った。それを逃さずに、握った手を引いた勢いのまま顔面に膝を入れる。

 

 

 

生きた証が欲しい。

誰かに称えてほしい。

前はずっと考えていたのに、人を救うことを知った私にはさほど重要な事じゃなかった。

 

 

 

戦いが熾烈さを増す。

【並列演算】と【思考加速】を同時に行って、六魔(りくま)の相手は魔手に任せた。私は切り離した思考を用いて兄の相手をするだけだ。頭上では人ならざる者が戦い、地上で兄妹がしのぎを削る。義手は欠け、服は破れ、身体の傷が増えていく。

けれど、これでいい。身体にダメージが蓄積されていくのを感じる。身体のパフォーマンスが悪くなり、攻撃を受ける回数も多くなってきた。

 

 

「そろそろ限界じゃないのかな?僕以上にダメージが多い。油断はしないから、決めさせてもらうよ」

「…たくさん考えて、答えに行き着いたの。私じゃ、兄様を救うのは無理かもしれないって」

「そう、それは残念だったね。“災禍(さいか)のうちに夢を見よ”」

「……!」

 

 

魔手が相手しているのとはまた別の六魔(りくま)ノ王が現れて、地面に剣を突き立てる。刺された地面が不気味なほどに白く光り、回避行動を取ろうとした時には遅かった。爆発とともに身体が浮いて、地面に叩きつけられる。瀕死と言っても過言ではない。今まで一度も壊れた事の無い義手の左腕が吹っ飛んだ。残った右腕も激しい攻撃は受け止められなさそうだ。

今の技はそう簡単に撃てるものではなく、強化に回した魂を多く削るので連発は嫌がるだろう。現に頭上で魔手と戦っていた六魔(りくま)は姿を消している。

逆に、あの大技でしか相殺出来ない攻撃を受けるしかなくなったという事だ。勝利を確信したからこそ兄は手札を出し切った。

私を殺さなかったから、負けるのだ。

 

 

地面に横たわったままで、考える。

誰かを救いたい。

誰かを守りたい。

その起源は、兄を救いたかったから。

行き着いた答えは、長年思っていたものとは違っていたけれど……納得もしてしまった。結局、私は誰一人として本当の意味で救うことは出来ないのだと。自分を表現することは大切。けれどそこに「誰かを救う」という崇高な理想が生まれた時、エゴの塊になってしまうと分かったから。

 

 

「……市、もういいだろう?僕を救えないと結論を出したのに、どうしてそんなに頑張るの?」

「まだ、やることがある、から…」

「やること?誰も救えないと分かって、まだ足掻くの?それとも諦めないで僕を救う?」

「それは無理」

「…………」

「兄様は、兄様が勝手に…自分のやり方で幸せになれるから!」

 

 

私が兄を救うことは出来ない。けれど、兄は幸せになれる。私の存在があろうとなかろうと、幸せになれる生き物だから。

人は弱くない。誰しもが生まれながらに幸せになれる権利を持っているから。

 

 

(キタ)レ、(ツド)エ、夢ヲ見ヨ!」

 

 

横になったままの私を、多くの魔手が抱えて兄に向かう。今まで出した技とは比べものにならない威力のもの。個性“レプリカ”は私の残り体力が少ないほど強化される性質を持ち、追い詰められた時に本領を発揮するのだ。これまでに追い詰められた事がないから気付くのに遅れてしまった。

これを迎え撃つには、先ほどの六魔(りくま)を出すしかない。

20年前はその片鱗を纏った腕で受け止められていたけれど、今はそんなことで止まるほど甘くない。

それでも抵抗しようと薄い六魔(りくま)を顕現して受ける。拮抗したのは数秒で、力負けすることことを兄も察したのだろう。

 

 

「僕に何度も語りかけた強い意志と思い、その中に混ざる諦めに似た絶望。……大人になったんだね、市。その幾重にも積み重なり、折り重なった想いは、きっと誰かの心を打つ力強さを持っているよ」

 

 

六魔(りくま)が搔き消え、無防備になった兄は巨体となった魔手に轢かれた。体で土埃をあげて地面を滑る兄を確認して、発動をやめて魔手の支えで立つ。兄はフラフラと立ち上がったが、私と同じく限界だったのか後ろに倒れていった。

すかさず魔手で兄の身体を後ろから掴んで動きを封じる。今のがカウントされているならば残り3人。けれど、それを相手する体力は残っていない。そんなことは既に理解している。

だから、眠ろう。

 

「………っ市…まさか…」

「母様から、兄様を止めてって言われたの。兄様を連れて行く…貴方の代理品として生まれた私の役目」

 

地面に固定される兄の元へ近付き、隣に座る。そういえば、大きくなった兄の顔を近くで見ることは無かったと残った右義手で頭を撫でた。

 

「ちゃんと満足してる…だって兄様と一緒だもの。兄様も、寂しくないよね?」

「……く、あははは……仕方ないなあ…好きにしなよ」

 

兄が力を抜いて夜空を見上げた。

その胸を枕にして、兄の身体に伏せる。

コポコポと水が沸騰するように、闇が広がる。私の周りに広がった闇はこれまでとは違う場所に繋がっていて、きっともう帰っては来られないだろう。私自身も、帰ってくるつもりは無い。

兄と共に身体が沈んでいき、目を閉じる。

あの時に手放した筈のゆりかごが、優しく身体をなぞっていく。

 

 

 

こうして私は睡臥(すいが)した。

 

 

 

 

 

**************

 

 

一夜明けて、二つの戦闘によって壊されたビルや埋まった住居に埋まった民間人の救助が行われる。レポーターによって中継され、カメラ越しの被害はお茶の間に衝撃を与えた。

 

『オールマイトの交戦中もヒーローによる救助活動が続けられておりましたが、死傷者はかなりの数になると予想されます…!!

そして長年の謎だったレプリカの正体が判明し、女性の詳細を調査中です。レプリカと謎の青年が戦った近くで、雄英の(ヴィラン)襲撃事件にて容疑者とされていた「血狂いマスキュラー」が発見されました。意識不明ですが命に別状は無く、先ほど移動牢(メイデン)に入れられて搬送されました。

元凶となった(ヴィラン)は今…あっ今!!移動牢(メイデン)に入れられようとしています!オールマイト達による厳戒体制の中、今…!』

 

 

移動牢(メイデン)の近くでオール・フォー・ワンを見張る痩せたオールマイトが、中継カメラに向かって指を指した。

 

「次は…………次は、君だ」

 

短く発信されたメッセージ。

それは一見、まだ見ぬ犯罪者への警鐘。平和の象徴の折れない姿。中継映像を見てそう捉えた大半の人間が、オールマイトへ歓声を送る。

その中で、正しくメッセージを受け取った少年だけが、涙を流していた。それを隣で黙って見る幼馴染。

平和の象徴オールマイトの折れない意志に騒がしい世界の中で、2人だけが静かだった。

 

 

 

 

 

『数年前からレプリカと共に行動していた少年は事情聴取の為に警察へと連行されます。(ヴィラン)からヒーローに転身して注目を集めていたパワークも、事務所に所属している2名と共にレプリカとの関係があったと警察署に自首しました。

あ、あの白い髪の少年です!情報では(ヴィラン)連合の一味だとありますが、レプリカの指示で潜入、脅威の探索だと判明しています。青年と共に消えたレプリカは、一体どこへ………ん、何…?ッカメラ、あれ!』

 

 

レポーターの焦る声と共にブレながらカメラに映ったものは、戦いでクレーターのようになった地面に黒い点が浮かび上がっている所だった。

 

 

「レプリカ様!」

「あ、待て!君!」

『レプリカの協力者である少年が黒い点に向かいました!なんでしょうか、あれ…なっ、な!?ご覧下さい!!噴水みたいに黒い水のようなものが噴き出しました!ヒーローも戦闘態勢に入っています!(ヴィラン)なのでしょうか!?あっ何か出てきました!!!………服?噴き出てきたのは、服、です?あの服は一体…。少年が服を抱いて泣きはじめました。ヒーローが連れ戻そうとしても個性なのでしょうか、手がすり抜けています』

 

 

まるでいらない物を吐き出すように、水とも言えない何かが出される。地面に落ちた服を掻き抱いて、否断 峻は涙を流す。

言わずもがな、レプリカが身につけていたものだ。

 

 

 

そしてその意味を知った雄英の一部の生徒達が、誰に知られる事もなく泣いた。




完?
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