起きた。
兄との戦いで追った傷は治療されていて、壊れかけていた義手も元通り。リカバリーガールが治してくれたのかと推測した。どうやら丸一日眠っていたらしく、私が寝ている間に警察病院に運ばれたようだ。とはいえ、所々に包帯が巻いてあるので、完治とまではいかないらしい。一日中ずっと側にいたのか否断が私の手を握っていて、起きたと同時にナースコールを押した。
すぐに看護師と医者が駆け込んできて容態を聞かれる。どこも痛くないのでそれを伝え、彼らは警察に連絡する為に部屋から出て行った。
「…よかった…天魔、様…!」
「……………」
「服が出てきた時…もう会えないって、思ってました」
「……………」
「生きてて、よかった…!また話すことが出来て嬉しいです」
「……………」
「?あの……天魔様?イッ!?イタタタ!痛いです!」
否断が首を傾げたので、思いっきり耳を掴んで引っ張った。
「様をやめなさいと、遠回しに言ったのに…分からなかった?」
「すっ、すみませ……ごめんなさい、つい癖で」
「レプリカはもう終わり…だから私を追いかけてこなくていい。まずは高校に通わないとね、峻」
「!!…はい!」
「よろしい」
警察に連絡がついたのか、警官がゾロゾロと部屋に入ってきた。身体を動かすのに支障は無いので、彼らに連れられて警察署へ大人しく付いていく。どんな処罰であろうと、それを受け入れるつもりだ。ヒーロー免許を持たずに行う救助活動は犯罪、とっくに分かってる。
署内で否断と別れ、取り調べ室に入れられた。そこで私のこと、オール・フォー・ワンとの関係、レプリカのこと、時間跳躍のことを全て話した。信じられないと驚いていた警察も否断の個性を考えて可能かもしれないと思い当たったようだ。
「君のこれまでの活動は違法であり、私たち警察はそれを裁かなければならない。しかし今は神野の事で手が回らなくてね。少しの間だけど、拘束させてもらうよ」
「はい」
「あの戦いはテレビで中継されていた。おかげでレプリカの正体は全国区で生中継。画像はネットを通して世界中に広まり、君は話題の人物として世間を騒がせている」
「オールマイトと共に検索率は同率1位。ヒーローと警察、国と相談して処分を決めさせてもらう」
上層部らしき人にそう言われるが、分かっていた事だ。レプリカとして自覚したことを決めた時からそうなるのは予想済み。むしろ何度も言われるので耳にタコができてしまう。
厳格に言って部屋を出た男につられて、取り調べ室にいる警官の大半が出ていく。最後に出ていこうとした優しげな警官が、声を潜めて話かけてきた。
「心配しなくて良いと思うよ。平和の象徴がなくなった以上、民意から反感を買うのは避けたいだろうし、悪いようにはならないって」
そう言って、私に朝刊を渡して出ていった。右にオールマイト、左にレプリカと見開きで一面を飾った朝刊には、私の顔がバッチリと載っている。というか闇から出てきた時、服を着ていないのを今知った。魔手で隠されているとはいえ四捨五入したら全裸だ、コンプライアンス的にこの写真は載せて大丈夫なのだろうか?
『20年前から活動を始めたヴィジランテ「レプリカ」。長年に渡って考察されていた、機械の腕を持つ正体不明のミステリアスさに心惹かれる読者も多いことだろう。No.1ヒーローによって歴史が動いた昨夜、オールマイトの真の姿と共に明かされたレプリカの正体。それはオリンピックに代わる日本の一大イベント、雄英体育祭にて上位入賞した天魔 市であった。高校生が20年前から活動という矛盾を孕んだ現状で、解明しようと全国の科学者達やテレビ番組が熱い議論を交わしている。ヒーローの穴を埋めるように活動していたレプリカは今後どうなるのか?戦闘力、事件解決数、社会貢献度、国民支持率は並のヒーローを凌駕する彼女へ下される処罰は?若くして脚光を浴びる彼女に注目していきたい(写真は絶望的状況から生還した際のもの。やはり高校生のようだが…?)』
目覚めてから少し気になってた事がある。
…レプリカってオールマイトと同レベルの扱いを受けるの?レプリカである私に重い刑を言い渡せば国民の反感を買う?
そんな大それたことをしたつもりは無いし、犯罪者への刑罰を世論で左右してどうする。そうしないための三権分立ではないのか。
それから警察署で長い間拘束された、といっても好待遇だ。私が住んでいたアパートよりも広い部屋で過ごし、神野から持ち込まれた両腕を繋げて義手とお別れした。義手を付けていた傷口が塞がっていたので、魔手で軽く表面を切り落とした後に極小サイズの魔手で神経系統を繋いで終わりだ。さすが私の個性、痛かったけど元通りに動くようになった。そう褒めると照れているのか手を震わせていた。
それを見た否断が悲鳴をあげながら部屋を飛び出して警官を呼び、血飛沫で汚れた部屋でしこたま怒られたのは納得いかなかった。仲良くなっているようで何よりだけれど。
そんなエキセントリックなことを仕出かしたからなのか、否断がくっついて離れなくなった。流石にトイレと風呂は赤面して逃げていくが、それ以外は腹に手を回されてずっと背後にいる。正直言って邪魔だ、動きにくい。
拘束されてから何日か経過し、校長先生、相澤先生、オールマイトが訪ねてきた。引退した平和の象徴は右腕を固定しているが、体調は平気そうで何より。広い部屋のソファに腰掛け、真面目な雰囲気を察したのか否断が手を離して隣に座った。向かいのソファにも3人を座らせて話出すのを待つ。
「久しぶりだね、大体のことは聞いているよ。そこの少年の個性で20年も前に跳び、レプリカとして活動していたと。まずはその選択をしてくれたことに感謝を」
「5年前、私をオール・フォー・ワンから救けてくれてありがとう。感謝しても足りないよ」
「問題なのは、無免許で個性を使用したこと。違法なのは知ってるだろ」
「はい、存じています」
「なら話は早い。つまるところ、お前は犯罪者だ。
「君への刑罰はザッと「傷害罪」に「個性違法使用罪」さ」
「っちょっと待てよ!人を救けて罪に問われるのか!?レプリカ様でなきゃ死んだ奴は大勢いた!俺が一緒に行動した10年間ですら万単位の人間が死ななかったんだ!」
「それも知っているさ。レプリカがいなければ、パワーク、メタモル、ロベレットという素晴らしいヒーローは誕生しなかったかもしれない。けれど英雄ならばルールを破ってもいいのかい?極端に言えば、たくさんの命を救ったから人を殺す事が許されるのかい?」
「………っそ、れは…!」
「…ハァ。校長先生、合理的じゃないですよ」
「ああ、ごめんね!大人として説教をしてしまったよ」
反論に立ち上がった否断が、流れが変わったことに気付いたのか座り直した。久しぶりに見た相澤先生の鋭い目が私を射抜く。
「1-Aテスト成績6位、問題だ。今の話にある穴を答えろ」
「はい。「資格未取得者が保護管理者の指示なく“個性”で危害を加えたこと」が規則内容であり、あの時の私は林間合宿にて相澤先生から出された戦闘許可は解けていませんでした。同様にレプリカとして活動している間は個性を使用していません。それは目撃情報から判明している筈です」
「正解。20年前に跳んだから無効と指摘されても、レプリカは個性を使っていない。神野で使用したタイミングは俺が戦闘許可を出した後だ。広い目で見れば、お前は規則違反をしていない。そこんとこ、考えてたのか」
「少しは。パワーク事務所でお世話になっていたので、そういう知恵は学びました」
「アウト寄りのグレーゾーンだがアウトではない、それに未成年だ。それを踏まえて、君の判決を言おう」
オマケに闇に潜んだ場所もちゃんと選んでいる。個性を使った場所は私有地であり規則にある「公の場」には引っかからない。
「君の刑罰は、これからも雄英に通うことサ!正規の手続きを踏み、正規の活躍をする!君が本当にヒーローになると世間に知らせなさい!」
「…………はい」
「…っよかった…!じゃあ、罪には問われないんですね!」
「ああ、厳重注意で終わり。オールマイトと同列の影響力を持ったレプリカだ。無理に刑を下しても良いことは無いからね」
「喜ぶのはいいけど、峻は有罪だから」
「…エッ」
「ああ、うん。否断 峻くん。君はバッチリ個性を使っているし、戦闘許可も出されていない」
「天魔は抜け道があるが、お前はフルコースだぞ。潜入とはいえ
「ぅ、……レプリカ様が無事なら、俺はそれで…」
「違うでしょ峻」
「は、はい。い………市が、無事なら…」
「…お二人とも、あまり揶揄っては可哀想です」
オールマイトが相澤先生と校長先生を窘めて、否断はようやく遊ばれていたことに気付いたらしい。頰を膨らませて拗ねている。仮にも同い年の男子高校生なのに、どうしてこんなに可愛い仕草なのか?ロベレットとパワークか、次会ったらチョップでもお見舞いしておこう。
「今、雄英高校は世間から厳しく見られている。そこで「レプリカとして活動していた雄英生が
「2年前にウォーターホースの件で野次馬が撮影していた動画に映っていただろう?それを「改心してレプリカと共に慈善活動」と発表し、
「……つまり?」
「雄英高校ヒーロー科、1-Bに編入しないかい?A組だけ21人で中途半端だったから丁度いいし、どう?」
「…雄英のヒーロー科は毎年の受験倍率が異常だと聞くし、そこに落ちた奴が普通科に行くことも知ってる。そいつらを差し置いて俺を編入させる意味、本当に分かってるのか?」
「もちろん、他の教師にも通達済みだよ。君の個性と似ている子が雄英にはいてね。君はもっと強くなれる」
「どうしてもってなら雄英卒業した後に活躍しろ。んで俺らの判断は間違ってなかったと結果で表せ」
「………ハァ、分かりましたよ。けど活躍については保証しない。俺は市の
「私は認めていません」
「そんな!?」
先生達がここに来た目的は達成された。あと雄英が全寮制になることを知らされて同意する。先に私のアパートに行ったらしいが、あまりに物が無くて驚いたらしい。物に執着もしていないので、服と靴、タオル、アメニティグッズだけ運ぶように頼んだ。
夏休み終了前の十数日からヒーロー科は授業があるらしく、それに間に合うようレプリカの会見を雄英が開いてくれるらしい。私を寮に入れるのは、マスコミ対策もあるのかもしれないと思った。
ついでに携帯の使用も許可されたので、否断に操作させてニュースを見た。確かにオールマイトも盛り上がっているが、ネットではレプリカの方が議論が進んでいる。
『中継見たけどヤバくね』
『ほんとソレ』
『音声も入ってたっぽいけど周りの音がうるさくて聞こえなかった』
『俺氏、読唇術の個性持ちな件』
『ぐう有能』
『マ?はよはよ』
『体育祭の映像見返したけどあのJKか』
『顔は良かったけど死人っぽかったよな』
『強個性だってことしか分からん』
『JKの裸……!!ふぅ』
『戦犯で草』
『おまわりさんこっちです』
『でも体育祭よりか大人?』
『雰囲気だろ。髪も伸びてるし』
『あと笑ってるからそう思うんじゃね』
『読唇術俺氏、言葉の深さに号泣』
『どうした』
『おかえり読唇術ニキ』
『読唇術ニキ!読唇術ニキじゃないか!』
『涙拭けよ…ウェッティーで』
『なんだウェッティーって』
『不覚にもトキめいた』
『ウェッwwwティーwww』
『ウェットティッシュのことそう言わんの?』
『初耳だわ』
『ちゃんと言えよ略すな』
『大草原不可避』
『読唇術ニキ生きてる?』
『おうよ』
『なんて言ってたん?』
『全裸待機』
『服着ろよ』
『パンツ穿いてないから恥ずかしくないもん!』
『パンツは穿け』
『モラル欠如男は黙ってろ』
『多分だが「兄様は兄様が勝手に自分のやり方で幸せになれるから」って言ってる』
『うわ刺さる』
『下手な歌よりも響くわ』
『私それ聞こえてた。生きようって思ったもん』
『兄妹で戦ってるのか』
『衝撃の事実』
『知りたくなかった』
『ずいぶん被害の出た兄妹喧嘩だな』
『てか体育祭の子が一回負けてなかった?』
『あの強個性が?』
『確かに。光った後にレプリカが出て、仮面取れたらその子だったよな』
『そうなん?最初から見てないから分からん』
『その前も所々だが言い合ってたぞ』
『「私じゃ兄様を救うのは無理」だとも言ってた』
『救いたい奴に自分で幸せになれるって言ったの?ワケワカメ』
『ヒーロー科なのに救えないってどんだけ』
『いや真剣に考えた結果だろ。この場合の救いたいは心の方だと思うし』
『自分じゃ心を救えない。なぜなら自分自身が気付けば幸せになれるからってこと?』
『そんな感じ』
『うわ………………うわ』
『響くじゃなくて刺さるんだが』
『誰かを救う力は無いけどそれでも誰かを救いたいって、そういうことだろ』
『変わったのは自分のおかげだけど、この言葉が変わるキッカケなのは確かなんだよなぁ』
『……なんか頑張ろ。オールマイト引退で騒いでる場合じゃない希ガス』
『つまんないことで文句言うのやめよ』
『彼女の感性で作られた曲を聴きたい』
『胸張って生きようと思った』
『レプリカの処罰、内容次第ではストライキも辞さない』
『俺レプリカに救けられたことある〜』
『裏山』
『勘違いしても謝らずに上から目線で喧嘩吹っかけてくるヒーローよりヒーローだったぞ』
『あるある』
『プライド高い奴は認めないからな。逆ギレしてくる』
『俺もストライキ参加するわ』
『もう一回素顔見たい』
そこまでスクロールした所で否断に画面を切られた。良い所だったのだが否断の顔が怖かったので何も言わなかった。賢明な判断だと思う。
**************
レプリカに関しての会見が開かれ、またネットがうるさいらしい。といっても否断が見せてくれないので「らしい」止まりなのだが。
今日から雄英で授業だ。寮に荷物は運ばれているらしいので、警察署から学校まで車で送られた。顔をなるべく隠してくれと言われたので、お粗末にメガネとマスクを装着。
雄英に到着して中に入り、1-Aの大きな扉を開ける。既に全員が席に着いていて、教室に入ってきた私の事を凝視してきた。
マスクを指に引っ掛けて下げる。メガネはしているけどこれで分かってくれるだろう。20年ぶりのクラスメイトとの対面だ。待ち望んでいた、と言うのも恥ずかしいが会いたかった。
「………どう、かな?」
前と比べて、少しは変われただろうか?
数秒の沈黙の後、動いたのは女性陣だった。
「………っ天魔ちゃーーん!!!!!」
「うええええん、無事!?生きてる!?」
「怪我は!?大丈夫なん!!!?」
涙を浮かべた女性陣に飛びつかれ、倒れそうになったのを魔手に支えられた。現状を理解した男性陣もワラワラと集まり、入り口で団子状態だ。それぞれから「心配した」や「レプリカってどういうこと」、「裸ヤベェな」など様々な声を掛けられた。
それに笑って返し、腕に抱きつく蛙吹に顔を向ければ彼女も私を見た。
「…梅雨ちゃんって、呼んでいい?」
「!ええ…お友達になりましょう」
「市って呼んで?それかお市と」
「分かったわ、お市ちゃん。ずっと貴女とお友達になりたかったの」
「私も呼んでよろしいですか!?お市さん!」
「ウチも響香でいいから、市」
「お市ちゃん!えへへ、もっと仲良くなれたみたいで嬉しいな」
「私もお茶子でいいから!」
泣いてキャピキャピと騒ぐ女性陣に、緑谷が果敢にも近寄ってきた。
「てっ…天魔さん!」
「緑谷、どうしたの?」
「クラスの皆、相澤先生から全部聞いたんだ。天魔さんがレプリカだった事とか、20年も前に跳んで今ここにいるとか、難しいことだらけだった」
「うん、知ってる。だから分からなかったら聞いて。教えるから」
「ありがとう。それでもね、入学した時の僕らと関わって来なかった天魔さんもレプリカだった天魔さんも、全部同じなんだって僕らは考えたんだ」
「……それで?」
「救けてくれてありがとう。それと、覚えてるかな……僕、雄英に入ったんだ!」
笑って手を差し伸べてきた緑谷。もちろんちゃんと覚えている、逆に緑谷の方が忘れていないかと思っていたよ。
「ええ、おめでとう。言った通りだったでしょ」
「うん」
差し出された緑谷の手を握って握手をした。
「なんか天魔の奴、雰囲気変わったな」
「笑ってるからじゃん?」
「良いことだ!」
「……チッ」
「あの天魔が…変わるものだな」
そろそろ相澤先生が来るし、着席した方がいいんじゃないの?
【挿絵表示】
イラスト作成ページはこちら↓
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ヒーロースーツ新調するので時間ください。新技もあります。描きます。考えておいてアレですが、グラブルのカオスルーダーは描きたくない…あれやだ…鎧嫌い…。
フィクションなので刑の内容については異論を認めません。私の想像力は乏しいのです。