ダウナー系が本当のヒーローになるまで   作:鶴クレイン

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9話:ダウナー系と未知との遭遇

侵入者センサーは反応無し。アラームも捕縛装置も作動せずにこの隔離空間に来たのならば、あの時はそういう目的だったのだろう。

首に巻いている捕縛武器が緩く広がりつつ、相澤先生の髪が持ち上がる。

13号に生徒を任せて彼は急な階段から飛び降りた。着地先で待つ遠距離個性の3人を秒で戦闘不能にし、異形型の個性主も統計的に分析された弱点を突いて行動不能にした。

簡単に記したが、イレイザーヘッドの個性は「抹消」であり身体能力は自前のものである。「個性に頼らない」を体現しているヒーローなのだ。

上から相澤先生の戦いを眺めながら、あの時に遭遇した霧のスーツを観察する。イレイザーヘッドが個性発動中に髪が上がるのを見抜き、その隙をついて消えた。

………となると、その消えた先は間違いなく、

 

 

「初めまして 我々は敵連合」

 

 

まぁ、こちらであろうな。

敵連合なんてチープにして安直な名前、一体誰が付けたんだか。

 

「せんえつながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは、平和な象徴オールマイトに、…息絶えて頂きたいと思ってのことでして。

本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ…ですが何か変更あったのでしょうか?まぁ…それとは関係なく…私の役目はこれ」

 

 

 

霧が何かを仕掛けるのを察して、先制だと言わんばかりに爆豪と切島が飛び出して攻撃をした。わざわざ先導していた13号の前に躍り出て、だ。

この位置は13号の個性にとって邪魔でしかなく、彼のブラックホールでは2人を巻き込んでしまう。冷静な判断は良いが、大局を見る目はまだ育っていないらしい。

 

 

「危ない危ない……そう…生徒といえど優秀な金の卵。散らして嫐り殺す」

 

 

イレイザーヘッドの観察で皆より離れた場所にいた市は、霧に巻き込まれるのが数瞬遅かった。後ろに下がる轟、先頭の爆豪と切島、麗日と砂糖を担いで離脱する飯田に、芦戸と瀬呂に覆いかぶさる障子。一瞬で見えたのはそれだけだった。

【思考加速】をしようにも、その助走である思考を巡らす事が出来ていない。まず自分の体をいつもより大きな「大魔の手」2本で祈る様に包み、姿勢の低い障子に大魔の手1本を上から被せて隙間無く覆う。

魔手は地面の中から出ている風に見えているが、概念的にはその限りではない。市がイメージして出しているだけで、どこにだって出現させる事が出来る。炎の中、氷の中、水の中に空中、影など他にもあるが、霧の個性がワープならば、それをドーム状に張り巡らされていても地中深く抉ってワープしなければ魔手は転移されない。これが相手の個性を知るという事だ。

結果、離脱した飯田、麗日、砂糖の3人の他に障子、芦戸、瀬呂、市が13号と共に転移せずセントラル広場に残された。

 

 

霧が晴れて広場に残されたと悟った麗日と芦戸の女子2人は市の方へ顔を強張らせながらも後ずさり、それを守る様に背に庇い男子4人が前へ進み構える。

障子が複製腕に目と耳を作り、周りを確認し始めた。

 

 

「障子くん、皆はいるか!?確認出来るか!?」

「散り散りにはなっているがこの施設内にいる」

 

 

USJ外に移動したり、霧の中に取り込まれていない事に安堵の表情を浮かべた。しかし安心してばかりはいられないと気持ちを切り替えて霧へと向き合う。

 

 

「クソッ…物理攻撃無効でワープって…最悪の個性だぜおい!」

「……委員長!」

「は!!」

「君に託します。学校まで走ってこの事を伝えて下さい!警報が鳴らず、そして電話も圏外になっていました。警報器は赤外線式…先輩…いえ、イレイザーヘッドが下で個性を消し回っているにも拘らず無作動なのは…恐らくそれらを妨害可能な“個性もの”がいて、即座に隠したのでしょう。とすると、それを見つけ出すより君が走った方が早い!」

「しかしクラスを置いてくなど委員長の風上にも…」

「行けって非常口!!外に出れば警報がある!だからこいつらはこん中だけで事を起こしてんだろう!?」

「外にさえ出られりゃ追っちゃこれねえよ!!お前の脚でこのモヤを振り切れ!!」

 

 

皆の中で結論は出たらしい。そして飯田の覚悟も出来た。ならば、飯田を逃すという点において足手まといになる市は他の事をしようと広場の噴水を階段の上から見下ろした。

 

 

「みんな、頑張ってね…私はあっちに行くから」

「天魔ちゃん!?無茶だよ、どうして!」

「飯田くんのサポートしよ!ね!」

「……天魔さん、任せていいんですね?」

「先生!?」

「ええ…。私の個性は遠距離にも対応してるわ。危なくなったら引く…」

「…分かりました。全員、位置について下さい!」

「手段がないとはいえ敵前で策を語る阿保がいますか」

「バレても問題ないから、語ったんでしょうが!!」

 

 

黒いフェイスマスクで表情が見えない市と13号の目が合う。互いのアイコンタクトで意思の疎通を完了させ、足に力を入れて膝を軽く曲げた。霧と13号が戦いを始めようとする空気を背中で感じながら、市は相澤先生のように階段を跳び下りる。市を見て驚いたイレイザーヘッドがこちらに来ようとするも、死柄木に道を塞がれて舌打ちをした。

 

 

(うめ)け死の華」

 

 

 

フェイスマスクに隠れながらも空中で確かにそう呟いた市は、魔手に支えられて着地する。空気抵抗で舞っていたローブがバサリと市を隠し、そのフードの間から赤く光る目が覗いていた。

 

 

「あ"ぁあ…」

 

 

身体の内部で、心音が大きく響く。

技の反動で大きく力が抜けて前のめりに倒れそうになる所を堪えて俯きながら呼吸を整えながら、足元からは際限なく小さな魔手が現れて消滅を繰り返す。一歩一歩を踏みしめるようにゆっくりと足を出した市を格好の的だと思ったのか、敵が大勢向かって来た。しかし敵達は市に触れる前に、その足元で蠢いている魔手に絡め取られて悲鳴をあげながら上へと巻き上げられ、地面に叩きつけられる頃には意識を失っていた。敵を絡め取るだけでなく吸い寄せる性質も持っているのか、犠牲になった仲間数人を見て足を止めるも呆気なく捕まり二の舞になっていく。市が進む事によってその範囲は移動し、周りを一掃していった。

 

 

 

「…あのガキ、ヒーロー科か…すごいなあ、イレイザーヘッド」

「天魔……あのバカ!」

「かっこいいなあ、かっこいいなあ。ところでヒーロー、本命は俺じゃない」

「___ッ!?」

「……………あ、」

 

 

死柄木が言うのが早いか、イレイザーヘッドの後ろと市の前に脳を剥き出しにした大男2人が現れる。相澤先生は血が、市の所では千切られた魔手が飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチリ。と脳内で音がする。

【思考加速】の準備が出来た合図だ。発動すれば世界が遅れて流れ、全ての音は低音に変わるだろう。しかし、市が大男に体を掴まれたのと同時だった為に発動を中止させた。まるで子供がリカちゃん人形の腕ごと胴体を鷲掴みにするようにされて大男の顔近くまで持ち上げられる。

 

 

「天魔さん、あんな所にどうして…!?」

「天魔ちゃん…!!」

 

 

すぐそばの水辺に、緑谷と峰田と蛙吹がいるのを視界に捉えた。少し向こうではイレイザーヘッドのゴーグルが宙を舞って地面に落ちる。身体が片手で掴まれ力を込められたのでギュグキュと骨が軋む音が身体から鳴る。

背骨ごと鯖折りにしようとしている力の入れ方だ。掴まれた拍子にローブは外れて何処かへいった。ローブに付いているフードではなく、自身の水色の髪が視野にパラつく。

 

 

 

「ぅ…うぁ…」

 

 

【思考加速】はまだ使わない。掴まれている状態で発動しても何の意味も無いからだ。相澤先生の両腕は潰され、顔面が叩きつけられるのを水辺の3人が見ている。

これ以上力を込められると骨が折れて内臓が傷つくので、大男の両足と空いてる片手を大魔の手で掴み動かないようにした。市の身体を握っている手の中にも魔手を出して、内部から反作用の法則の様に押し返す。いつでも拘束から抜けられる均衡を保ちながら、タイミングを見計らう為に苦しげな表情をキープしつつ冷静に周りを見回して聞き耳を立てた。

死柄木はこの大男を改人“脳無”と言った。

 

人改め(改人)]ならば、元々コレは人間か。

黒い霧がこちらに戻ってきたということは、階段組は上手くいったようだ。死柄木はイライラして自分の首を掻き毟っている。よく観察すると、親指だけ首に触れていない。校内と比べてイレイザーヘッドとの戦いを合わせて分析すると、USJでは5本の指全てで触っていた。触れた物を壊す個性の条件は全ての指で触れている事かもしれない。これは良いアドバンテージだ。

癇癪を起こした子供みたいに声を荒げ、スイッチが切れたのか帰ると呟いた死柄木。

 

 

「けどもその前に、平和な象徴としての矜持を少しでもへし折って帰ろう」

 

 

水辺で立ち竦んでいた緑谷、蛙吹、峰田の3人に目で追える速さで接近した死柄木はその大きな手を蛙吹の顔へ当てる。

 

果たして崩壊は起こらなかった。

個性を発動したと思われる髪を揺らしたイレイザーヘッドの顔を脳無がまた地面へと叩きつけ、それによって抹消が消えた事を察した緑谷が死柄木へと殴りかかった。

相澤先生の元を離れた脳無が、オールマイト似の個性を持った緑谷のパンチを腹で受け止めてその手を掴む。涙目になる緑谷を助けようと死柄木の腕を退かし舌を伸ばす蛙吹に、退けられた手を峰田と蛙吹に触ろうとする死柄木。

 

咄嗟に小さな魔手を死柄木の両二の腕から出して中指だけを掴ませ、骨折させる勢いで手の甲へと引いた。人間の骨の構造上、中指根元を関節と逆に引っ張れば全ての指で1つの物を触れなくなる。中指を引っ張る魔手を壊そうとしても五本指が触れる事は不可能。

次に緑谷をと考えた時、咄嗟だったとはいえ誰かを救けようとしている自分に市は驚いた。こんな事をする為に雄英に入った訳ではないのにどうして、そう思った時、USJの扉の方から何かを壊す音が聞こえ煙が上がった。何事だと、死柄木と脳無の手が止まる。

 

 

 

 

 

「もう大丈夫。私が来た!」

「「「オールマイトォォ!!!!!」」」

 

 

 

 

流石だ。

お疲れ様、我らが委員長。

 

 

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