「もう一度作戦内容の確認だ」
揺れる輸送ヘリの中でAH基地の全員が顔を合わせる。鉄血の大部隊を捉えたセンサーは1時間前に音信不通となったため、より先回りするために予想進路の先にあるゴーストタウンとなった市街地に機首を向けていた。
「現在の位置はここ、鉄血の予想進路はこの矢印で、先回りして待ち伏せるためにこの位置にある市街地に向かっている」
ホログラムの地図に赤い点で鉄血の予想地点を示す。現在いる地点は青色のデフォルメしたヘリのマーク、そして市街地が黄色の点だ。鉄血の予想地点からは市街地、そしてその先の補給路である幹線道路へと続いている。突如現れた鉄血の侵攻を許せば基地だけでなくAH地区全体が脅かされるだろう。
鉄血を食い止めなければ食材が届かず、ハルの手料理が
「市街地での戦闘は慣れていない上に分断され各個撃破される可能性がある。そこでここに陣取ることにする」
ホログラムを動かしG〇〇gleマップのような詳細な地図に切り替える。地図は世界大戦前のものだが地形は大して変わってないだろう。地図に表示したのは市街地の外縁部。住宅が点在し程良く視界が開けている。頑丈そうな建物もあり待ち伏せにはうってつけだ。M1911とスコーピオン、P38とステンを前衛として、撤退ルートを確保できる住宅に配置する。そして後衛に私とG17、ガリルが背後のビルに陣取り、主力として前衛と共有した情報を元に射撃する。戦術人形の視覚とセンサーの情報を集約して瞬時に整理し作戦案と共に指揮官に送り、細かい指示でなくとも作戦意図を理解しより詳細な指示を各人に伝達する。さながら前線指揮官と参謀を兼ねたような仕事だ。こんな複雑な仕事も狙撃の片手間にやってのけるだけの電脳があるらしい。
「はーい質問!」
「ステンか、言ってみろ」
すこっぴと仲がいいステンが手を挙げる。最近は性癖が歪んでないかチェックするらしい。どういうことなの……
「街の真ん中に橋あるけど、そこで待ち伏せすればいいんじゃないの? それか橋を落とすとか!」
「橋か……」
地図をスライドし橋の付近を拡大する。確かに橋なら一本道になり火力を集中させやすく、敵が渡ってる最中に橋を爆破してしまえばマンティコアも苦労せず破壊できるかもしれない。だが橋を爆破できるだけの爆薬は手元に無い。土木工学は素人だがそれなりに大きな橋だ、爆薬量はそれ相応になる。それに橋は街の中心部であり、迂回した鉄血に挟まれる可能性もある。練度が高ければその手も使えたが……部隊全員はダミーも使えないほどの練度、さらに実戦は初めての私では正直上手く指揮できるか自信は無い。
「橋を爆破できるほど爆薬は無く、中心部で奇襲される可能性もある。指揮官に提案はしてみるが、先ほどの作戦の通りとなるだろうな」
「うーんいい案だと思ったのになー」
「だが良い提案だ、橋付近での戦術を考えておこう」
しばらくすると機体が大きく揺れる。パイロットの『着陸用意』の号令に皆の顔は引き締まった。ドアの向こう側は戦地だ。
「よし、行くぞ諸君!」
意を決してドアを開け大地に降り立つ。周囲に敵がいないか銃を構えて確認する。周囲にはいないようだ。全員無事に降りたのを確認してヘリは飛び去っていった。降ろされた場所は市街地外縁部、家と畑がまばらに点在し開けた場所だ。市街地に向かって駆け足で街道を進み、鉄血を待ち伏せするのに丁度いい場所を探す。時折後ろを振り返りつつ全員遅れることなく着いて来ていることを確認し、市街地外縁の朽ちたビルに差し掛かったところで違和感を感じた。壁に寄りハンドサインで止まれと指示すると全員その場で棒立ちして「何かあったの?」と聞いてくる。良い的だ、狙われるぞと物陰に隠れさせるとすこっぴが顔を近づける。
「なになに? なにか見つけた?」
「しっ、静かにしろ。……やはりな」
「どうしたの?」
「僅かだが銃声が聞こえる。それに足跡もよく見れば新しいものだ……間違いない、鉄血に先を越されている。急ぐぞ、警戒しろ」
違和感の正体は銃声と足跡だ。我々の足音と話し声に交じって僅かに銃声が聞こえる。最初は気のせいかと思ったが、足を止め静かにするとはっきりと聞こえてくる。他のメンバーは良く耳を澄ませてようやく聞こえる程度なようで、この身体は耳も高性能らしい。道路にうっすら積もった砂に付く足跡は始めスカベンジャーのものかと思っていたが、足跡が新しく数が多い上に形は人の靴跡ではなかった。この状況から考えるに、鉄血主力はすでに市街地に入っており誰かと交戦状態にある。問題はその”誰か”は必ずしも我々の味方ではない、と言う事だ。鉄血は誰であれ平等に敵対するが他の勢力はそうでもない。統治機構たるグリフィンと敵対する犯罪者や競合相手のPMCだった場合、助けに行っても三つ巴になる可能性がある。ひとまずG17をビルの屋上に行かせ様子を探らせることにした。数分後、G17から通信が入る。
『マンリヒャーさん? 聞こえますか?』
「聞こえている。何かわかったか?」
『800m先にJaguarが6体、市街地中心部に撃って移動してを繰り返してます』
「わかった、まずはJaguarを倒す。G17は先行してJaguarの動向を監視してくれ。出来るな?」
『
G17にJaguarの行動を逐一報告させ我々は先回りし待ち伏せ奇襲する。この先進むにあたって遠距離攻撃してくるJaguarは脅威であり、ここで排除しておきたい。待ち伏せに最適な場所は無いかとしばらく思案していると、G17の報告からJaguarは一定の順路を周回しながら射撃を繰り返しているのがわかった。奇襲に適した住宅地の一本道に先回りし待ち伏せを行う。
「こっちです」
「無事だったか」
「ばっちりですよ、Jaguarは1列で真っ直ぐこの道を走ってきます」
少し進んだ先にある閑静な住宅地。G17の報告通り、道にJaguarが通ったと思われるタイヤの跡が残っている。そして道は若干狭く車両タイプの鉄血人形が展開するだけの広さはない。正に奇襲にはうってつけの場所だろう。
「ほう、1列とは行儀がいいな。すこっぴとP38はそこの家、ステンとM1911はあそこの家、ガリルは青い屋根の家、G17は余とここの家で待ち伏せる。作戦は単純だ、1番目に先頭、次に最後尾、最後は全てに弾をぶつけて倒す。何か質問は?」
「はいはーい! 手榴弾使ってもいい?」
「使ってもよいが、あまり使い過ぎるなよ。……ほかに無いな。では配置に就け」
それぞれ持ち主が居なくなった一軒家に入り窓からJaguarが来るのを今か今かと待ちわびる。「お邪魔します」と言ってドアを開けて入るG17を意外と礼儀正しいなと思いつつ、家に入り射撃に最適な位置を探す。略奪の痕跡が随所に見られるボロボロの家だが、大きくて持ち出せなかったのか家財道具はそのまま残っている。中身は期待しない方がいいようだ。Gでも出たら泣き叫ぶ自信がある。前世の時から虫は苦手なのだ。射撃姿勢が取りやすい位置に机を窓際に移動させ、半身たるマンリヒャーM95/30を置き依託射撃の姿勢を取る。窓から銃を突き出していては格好の的だからな。G17には観測手に徹してもらい待つこと数分、タイヤを回すモーター音が近づいて来た。
「来たぞ。……まだだ、よく引きつけろ……今だ!
銃声と共に金属片が飛び散り火花が走る。先頭のJaguarは瞬く間に蜂の巣となり慣性で前のめりに転倒し動かなくなった。コッキングハンドルを引いて排莢、装填し続いて最後尾に照準を向け引き金を引く。9mmパラベラムと32口径、5.56mm NATO弾、そして8 mm×56R弾が胴体を粉砕し、Jaguarの集団は進むことも退くことも不可能となった。ようやく自分達が襲われていることを理解したJaguarは周りの家々に砲撃を始める。近くに着弾し破片が飛び散るもこちらの位置を把握できていないのか命中弾は無い。残り4体も銃弾で穴だらけとなり焼夷手榴弾で燃やされ炭となる。ものの数分でJaguarは動かなくなった。銃声に誘われ増援が来ないか屋根に上り双眼鏡で周囲を見渡す。増援は無いようだ。
「こちらマンリヒャー。周囲に敵影確認出来ず。そちらはどうだ?」
「こちらM1911、同じく敵影無し」
「こちらG17、こちらも同じで敵は確認出来ません」
「了解した。今ので全部の様だ。3人ともご苦労」
「ひゃ~Jaguarの奴らが撃って来た時はびびったでぇ」
「私なんて隣の部屋が吹き飛んだんですよ!?」
「でも案外簡単に倒せたね!」
「この調子なら任務は簡単に終わりそうやな」
ぞろぞろと半壊した家屋からM1911やガリル達が出てくる。M1911とステンが待ち伏せた家のすぐ近くに着弾した時は焦ったが、2人とも無事のようだ。
「アイツらは誰を攻撃していたんだ……?」
屋根から降りてJaguarの残骸に何か記録が残っていないか確認する。運良く無事のメモリーを発見し、情報が引き出せないか探ってみる。セキュリティは無いも同然であっさりと記録を遡ることができた。記録にあるのは他の鉄血人形からの射撃要請とその座標のみで相手が何なのかはわからなかった。だが記録を見るに鉄血を瞬殺できる正規軍でも素人集団の犯罪者でもないようだ。そこから導き出された答えは一つ、
「まさか……我々以外に戦術人形の部隊が?」
振り向いた先にはJaguarが砲撃し煙が立ち上り陽炎のようにビルが揺らいでいた。
コラボ回はまだまだ続きます。