双頭の鷲の下に   作:スツーカ

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回想を1話で終わらす予定がなかなか執筆時間が割けなかったので区切りのいい所で一度投稿しました


第5話

 自分はゲームとサバゲーが好きなただの大学生だった。大学の合間にバイトして金を貯めては装備を買いサバゲーに繰り出し、おはようからおやすみまでスマホやPCでゲームをする毎日を過ごしている、どこにでもいるオタクの大学生だった。

 

 ある日、大学生最後の夏休みだと言うのに卒業研究とバイトに明け暮れるのは如何なものかと思い、アニメの聖地巡礼をする旅に出ようと考えた。

 中間発表が終わって卒業研究の区切りがつき、バイト先に数日休むことを連絡して準備を終えたのが夏休みが終わる1週間前。

 5日間ほど遊びに行くと言ってレンタカーを借り、いざ出発しようとしたその時だった。

 右側から迫る大型トラックを見過ごしたままレンタカー屋を出た瞬間に衝突した。目まぐるしく変わる視界、右から飛び散るガラス、遅れてやってきた激痛、そして押し潰される感覚を最期に意識を失った。

 

 次に目が覚めたのは緑色の液体で満たされたポッドの中だった。意識自体はその前から回復していた。体が動かなかったことから、病院に運ばれ治療を受けたが植物状態になってしまったのかと思い絶望していた。

 だが意識が回復てすぐに大量の意味不明な数字と文字の羅列が止めどなく脳内に溢れてきたのだ。あまりの情報量に頭がパンクし、思考が押し潰され、今まで経験した事のない頭痛が濁流の如く押し寄せた。

 情報の津波が収まると聞き覚えのある単語が次々と思い浮かんでくる。コーラップス、北蘭島事件、E.L.I.D、第三次世界大戦、自律人形、Advance Statistic Session Tool…

 

『戦術人形"Mannlicher M95/30"を起動します』

 

 そして機械音声が頭の中に響くと、真っ暗な視界は一転して緑色の液体に満たされたポッドの中になった。

 機械音と共に水位が下がり体に繋がれたチューブが外れる。口からチューブが外され完全に液体が無くなった時にようやく呼吸していないことに気付き慌てて呼吸をする。

 息をせずとも苦しくなく、先程の浮かび上がった単語と機械音声から混乱した脳は一つの答えを導き出した。

 

自分は戦術人形になった

 

 ありえない。こんな小説投稿サイトに溢れる典型的な転生が実際に起きるなんて。

しかし現に自分は痛みを感じる暇もなく死に、そしてこの体になっている。

 

『戦術人形Mannlicher M95/30、服を着て指定の部屋で待機せよ』

 

 スピーカーからの無機質な声。おそらくこれに従って行動しないと異常と見做されて良くない結果を招くだろう。

 ……人生で一度もお目にかかる事が無かった実物の女性の体が、豊かな双丘が眼下に見えるが好奇心を我慢して服を着よう。

 液体に浸かっていたにも関わらず体は乾いている。不思議なものだと思いながら始めに壁にかけてある下着を手に取る。当然だ、今は全裸なんだから。

 初めて触れる可愛らしい女性の下着を手に取り、まるで最初から知っていたかのような動作でショーツとブラを着け、シャツ、ズボン、ジャケット、そして装備を手にする。おそらく予め着方をインプットされているんだろう。

 恥ずかしがりながら女性物の下着を四苦八苦しながら着る事はなさそうだ。いや少しは恥ずかしいんだが。

 

 FPSで見たことあるような第一次か二次世界大戦の軍服を身に纏い、最後に壁にかけてあったライフルを手に取る。

 美しい木目に金属光沢が美しい機関部、流れるように動作確認をすると特徴的な動きのコッキングレバーは見覚えがあり、先程頭に響いた声を思い出す。

 

「そうか、これが、そして余の名前であり我が半身……"Mannlicher M95/30"か」

 

 ……うん?余?それに思ったのと違う喋り方になっている。意識してもしていなくても喋り方は変わらないので、元からメンタルモデルがこのような喋り方なのだろう。気を抜いた時にボロが出ない分こちらの方が楽ではあるが。

 さて、指定の部屋で待機と言われたので電脳に予め記録された施設マップの点滅するアイコンに向かう。SF映画に出てくるような白く無機質な廊下を抜け隣の長く広い部屋に入る。

 なるほどシューティングレンジか。ここで基本的な射撃の性能を見ようという事なんだろう。中はシューティングレンジと言うよりは障害物をいくつか置いた室内サバゲーフィールドといった塩梅だ。

 

『Mannlicher M95/30の戦闘性能試験を開始する。仮装空間戦闘ゴーグルを着用せよ、着用しだい安全装置解除及び戦闘を許可する』

 

 ガシャンと壁からアームが飛び出しVRゲーム用ゴーグルみたいなものが手渡される。帽子と干渉して若干邪魔だなと思いつつ装着すると、景色が障害物が置かれた無機質な広い部屋から一変して荒廃した市街地となっていた。

 視界の端には様々なウィンドウが表示され自身と半身たるライフルの状況、周囲の気温や湿度、風向きと風量、0と表示されているがダミーリンクの数など大量の情報が見やすく表示されている。

 なるほど、現実とほぼ同じ環境で戦闘できるのだな。安全装置を解除した途端に地図上に反応、ホログラムの敵が出現した。

 

 サバゲーで身に付けた要領で遮蔽物を利用して身を隠し、一瞬だけ銃口と体を出して撃ちまた身を隠す。反応速度と処理速度が桁違いな人形だからこそ為せる技だ。人間なら銃口と体を出して敵を確認してから撃つまでもっと時間がかかり、確実に反撃されるだろう。

 隠れ、身を出し、5発撃ってリロード、また5発撃ってを繰り返すこと1時間、終了のアナウンスがかかりゴーグルを外す。

 

 別室で待機を言い渡され部屋から出る。今度は治療室のように中央に診察ベッドがある部屋だ。

 ……まさか今から解剖とかされないだろうなと不安になりながら考えていると、ぞろぞろと白衣を着た科学者がやってきた。入ってくるなり服を脱げ検査をすると言い放ち若干嫌がりはするも抵抗は無駄だと悟って服を脱ぐ。

 下着姿になると診察ベッドに寝かせられ天井や機械から伸びるアームやコードを身体中に刺される。何をしているかと問えば先程の戦闘のデータ収集だと答える。

 むず痒い異物感に顔をしかめること数分、データが取り終わり今日の仕事は終わりだと告げられ宛てがわれた自室で翌日まで待機を言い渡された。

 部屋の移動ばかりだと思いつつ自室に到着。部屋は狭いビジネスホテルの部屋と言った感じで生活するのに一通り揃っている。頼めばそれなりのものは用意してくれるそうだ。

 人形相手に待遇が良いなと思いつつ情報収集用の端末と暇つぶしの新聞や本、軽食と飲み物を頼んでから装備と服をクローゼットに仕舞いラフな格好でベッドに寝転がる。しばらくして運搬用ロボットが運んできたので受け取り端末で色々と検索をしてみた。

 

 検索した結果、やはりここはドールズフロントラインの世界だった。それなりにやり込んでいた身としてはこの世界の行末と世間一般の自律人形の扱いの悪さを知っているので不安しか感じていない。しかもこの手の転生はバックアップが取れないから死んだら終わりと相場が決まっている。

 だが自分は試作の2.5世代戦術人形らしい。権限が無くとも閲覧可能なここの施設のページにアクセスすると、"新たな前線指揮用高性能戦術人形を開発しており、戦闘指揮を代行することで指揮官の負担軽減が可能となる"とあった。

 脳内にある自己定義の一部と同じ文言だ。貴重な試作の戦術人形なら余程の事が無ければ廃棄されないはずだ。そう思っておけば精神衛生は悪くないだろう。

 

 そう言えばさっきの戦闘で多少汗をかいていたなと思い部屋にあるシャワー室でシャワーを浴びようと思い立った。下着も全て脱いでシャワーの蛇口を捻る。少しして温かいお湯が肌を打つ。

 髪を濡らしてから男の時より遥かに長く繊細になった白髪をシャンプーで丁寧に丁寧に洗っていく。続いてリンスで髪質を整え、ボディーソープで体を洗い、泡を洗い流しシャワーを止めた。

 鏡の曇りを拭き自分の姿を改めて見ると、今まで心を無にしていたが濡れた女性の体を見ると嫌でも意識してしまう。

 首筋の白い肌から豊かな双丘へ水滴が伝って落ちていく。濡れた腹筋と引き締まった尻は女性としての魅力を余すことなく訴える。

 つい昨日まで股間にあったモノも女性にあるべきモノも綺麗さっぱりなくなっている。……えっ、ないの? 思わず3度見した、なんなら何度も触ったが触れた感覚しか無かった。試しにこの豊かな双丘を揉みしだいても痛覚と触覚しかなく、心の奥底で期待していた女性の快楽は何も湧いてこなかった。

 最初から戦闘用として設計されていたからなのか、そう言った機能は無いのかもしれない。都合が良いのか悪いのか、若干残念に思いながらシャワーを止めて浴室から出て体を拭き髪を乾かす。

 シャワーの後は美味しくも無いが不味くもない、そんな味と見た目の戦闘食糧を夕飯に支給されてそれを食べて今日は終わった。

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