AH4地区
つい最近設立されたばかりで最前線でも後方でもないありふれた地区とはガリルの談。指揮官は入社したばかりの新米で毎回の損害が大きいものの、採用試験と教育では優秀な成績を収めている。そのため経験を積めばいい指揮官になるそうだ。
人形とのコミニュケーション能力は良好で自分たちが損傷すれば自分のことのように心配し、夜遅くまで戦術の勉強するため戦闘指揮に不満はあるものの憎めないと言う。人望があり自己啓発に余念が無い、素晴らしい指揮官じゃないか。私の前世もこんな上司がいれば……おっと、そんなことを考えてる時間は無いな。それに名誉のために言っておくが前世の上司は普通にいい人だ。
やあ諸君、私だ。今は機上の人となってAH1地区の基地に向かっている。戦闘が終わり、G17を保護して最寄りの基地に向かっていたと説明したら快く受け入れるとのことなので、お言葉に甘えて帰りのヘリコプターに乗せてもらい基地に向かっている最中だ。恥ずかしがるG17を膝に乗せ揺れるヘリの中であれこれ質問するスコーピオンが可愛いなぁと思いつつ、早くも基地に到着した。戦闘したところから数十キロも離れていないのでものの数分で到着した。
ヘリ発着場に降り立つと頑丈そうなプレハブ小屋がいくつか並ぶ基地が広がっていた。部隊全員の案内で指揮官の執務室兼指揮所に通される。すこっぴ(勝手に命名)が先に入り、G17が無事だったことと戦術人形見つけたから保護したことを元気よく報告している。なぜ分かるかって? 大きな声だから丸聞こえなんだ。防音性をもっと考えろグリフィン。しばらくして「入ってください」と促されたのでドアを開けた。
「失礼する」
「グロックを助けてくれてありがとうございます。スコーピオンからとても強い戦術人形だと聞きました。あなたの名前は?」
「余はMannlicher M95/30、試作の戦術人形よ。いろいろあって流浪の身となった」
指揮官は黒のストレートロングヘアに可愛らしく整った顔立ち、ゲームでデフォルトである指揮官の女性アバターと同じ顔である。そういえば指揮官実装した頃はみんな女性指揮官アバターだったな……それはさておきいろいろ話した結果、しばらくここに居候する許可を貰った。ついでに銃の修理も手配してくれるようだ。感謝しかないな。
「では余はこれにて失礼する」
「夕食に歓迎会するので是非いらしてください」
「うむ、楽しみにしているぞ」
敬礼して部屋を出るとガリルが腕を組んで壁にもたれかかり待っていた。
「おー、やっと終わったかー。ここの基地の案内するからついてきやー」
ひょいひょいと手招きして歩き出すガリル、特に拒む理由もないので付いて行くことに。少し歩き角を曲がるとすぐの部屋の前へ。
「ここはブリーフィングルームや、普段は集まってダラダラしとる。あっ、お菓子やジュースはみんなで金出し合って買てるから食べてもええけどその分自費で補充してな」
「うむ、覚えておこう」
中ではスコーピオンとステンがささやかな飾り付けをしている。歓迎会の準備だろうか? かわいい。続いて次の部屋へ。
「ここが医務室や。医務室ゆーても医者も医療ロボットも無いからちょっとした傷を自分で治すのに使う程度や。あと指揮官に何かあった時用やな」
「どうせなんもないけどなー」とドアのガラス越しに少し医務室を覗いただけで終わる。おいフラグを立てるな。続けて歩くと次はデータルームと銘打った部屋に着く。
「ここはデータルームや。……と言ってもパソコンもサーバーもないし埃被った机があるだけや。本来なら報告書をパソコンで書くんやけど、電力も予算も無くて指揮官が全部手書きで書きよる。ここの規模が大きくなればここで仕事するんかもなー」
「報告書を手書きで書くのか……今度手伝ってやろう」
まぁ、カリーナが居たら10時間報告書手書き耐久レースが始まるしどっちも人間には辛い作業だ。……人形でもやりたくはないが。今いる建物(中央棟と呼ぶらしい)はデータルームが最後で、次は北棟に行くようだ。中央棟と北棟、そして宿舎がある南棟は学校の渡り廊下のように繋がっている。吹きっさらしの渡り廊下を渡って北棟に入ると、若干の油臭さと硝煙の臭いが漂う。
「ここが北棟、別名"工廠"や。銃の整備とか訓練とか新しい戦術人形の調整とか、メインフレームがやられた時にバックアップを新しい素体に入れるのをここでやるで。入って最初の部屋が整備場や」
ガリルがドアを開けると工具が散乱した机と古びた工作機械がいくつかある。おい整理整頓しろよ、前世が機械屋の前でこんな悲惨な整備場を見せるな。後で整理しようと固く決意し次の部屋へ。
「ここが修復室や、包帯巻くだけじゃ治せん損傷はここで修復するで。使い方は説明書あるからそれ見てやー」
緑色の液体で満たされた、いわゆる修復カプセルが4つ並ぶ薄暗い部屋がこの修復室だ。どういった原理で修復されるかは不明だが、このカプセルに損傷した人形を放り込み説明書通りに設定して資源を投入すれば修復してくれる代物である。一体どんな原理なんだ……今は全損したP38とM1911のメインフレーム、そしてスコーピオンとステンのダミーが修復中だ。やはりというか全裸で入るんだな……目のやり場に困るぞ。
続いて案内されたのは長細い無機質な部屋にいくつかの仕切りと穴だらけの的、そして無数に落ちている薬莢、間違いなく射撃場だ。
「ここが射撃場や。コンテナの扉を全部外して繋げただけの簡単なやつでここで射撃の訓練するで。間違ってもここで手榴弾の訓練なんかやったらあかんで! すこぴっぴが燃やして大目玉喰らったでな。やるなら外やで」
射撃レンジの真ん中あたりがやけに焦げて黒くなっているのはそういう事なんだろうな。というかすこぴっぴ呼びなのか……
「最後がうちらの宿舎やで」
そう言って外に出て歩くこと2,3分、これまたプレハブ小屋が3棟並んだエリアに着く。西側から壁面に何も書かれていないプレハブ、1と書かれた真ん中のプレハブ、2と書かれた東側のプレハブが並ぶ。
「なんも書かれてないのがカフェと共用スペースや。ここのカフェのコーヒーは美味いで、高いけど。1って書いてあるプレハブがうちらの宿舎で5人用や。うちとすこぴっぴとステンとP38とガバメントの5人が入っとる。グロックは2の宿舎に割り当てられとるから、あんたも第2宿舎に割り当てやね」
G17と一緒か、すでに一緒に寝た仲だし拒まれることは無いだろうな。これで基地の案内は以上となった。「夕飯の時間になったら呼ぶからそれまでゆっくりしていってなー」と言ってガリルは第1宿舎の自室に戻っていった。ガリルもああ言っていることだし、空いている部屋で一休みするとしよう。
宿舎に入ると中は簡素なベッドが横一列に5つ並びロッカーや机がいくつか置いてある兵舎のような大部屋だった。段ボールと備蓄ペットボトル飲料水だけの部屋よりはマシかと思いつつ汚れた服を脱いでロッカーのハンガーに雑にかけると下着姿でベッドにダイブ。ここに来てどっと疲れが溢れてきた。夕食と呼べる時間まではあと2,3時間はあるが、体の奥底から湧いて来る睡眠欲に勝てそうもない。掛け布団と枕を手繰り寄せたところで瞼が閉じ、暗転する視界の中で意識を手放した……
これにて仮ですが基地所属となりました。マンリヒャーM95/30の派遣、つまりコラボがようやく解禁です。コラボしてもいいのよ?
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