『さて。これでよし、と』
……?
『ちょっとした誤算で予定が狂ったけど』
誤算?予定?
『そろそろ、こちらも動き出さないとね』
動き?一体、何の……って、そもそも、お前は誰だ?
『ボクかい?ボクの名は──』
◆◆◆
「リムル!起きるのだ!今日はワタシが起こしにきてやったのだぞ!」
「うーん……だ、れだ……」
「むー!
俺の腹にエルボー。
この世の頂点の一人たる魔王のエルボーは、比類なき鉄槌となって俺の腹に打ち下ろされた。
「いっ……てぇぇぇぇ!」
「あ、起きたか?おはようなのだ!」
普段、より生活感を出すために切っていた『痛覚無効』と各種耐性が祟ったな……。
目の前でニコニコと笑う
「起きたか?じゃない!またお前は俺の布団に……!」
「そんなことはどうでもいいのだ!早く!早く準備するのだ!今日はワタシと遊ぶ約束だろう?」
ミリムは俺を急かすように揺さぶり、喚いている。
一昨日はシュナ、昨日はシオンときて、今日はこいつ。
ディアブロがいなくなってからというもの、俺の静かな朝は終わりを迎えてしまったのだ。
ディアブロ……必ず連れ戻すぞ……俺の平穏な朝のためにも。
◆◆◆
「さて、行くか」
「「おーー!」」
「うわっ!うるせえお前ら!静かにしろ!」
大声を出したミリムとゴブタを注意する。
全く……これがバレたらどうするつもりなんだ。
一応、『並列存在』と『擬態』、その他諸々のスキルで俺達の
絶対に、見つかるわけにはいかないのだ。
もう二週間後に迫った
巷では『ついに魔王が世界の実行支配に乗り出した』なんて主張も出てきていて、俺達魔王は各国の信用を得ようと四苦八苦している状況だ。
そんな中、ミリムと俺が釣りに出かけたって知ったら、
特にギィなんて、信頼を得るためにお得意の恐喝を封印し、営業スマイルで頑張っているらしいからな。……まあ、結果調子に乗って国のトップが半殺しにされたケースが殆どだが。
それでも、着実に全世界は一体となりつつある。
このままいけば、二週間後の
「お姉さん。釣りって、楽しい?」
俺の隣を歩いているルナが、目をぱちくりさせながら聞いてくる。
今回、本当は俺とミリムだけで行くつもりだったのだが、途中でゴブタとルナに見つかってしまい、二人もこうして連れてくることで口封じを図ったのだ。
「ああ、好きなやつは結構好きだと思うぞ」
「ふーーん……」
そうこうしているうちに、お気に入りの釣り場へとたどり着いた。
釣竿を取りだし、一人ずつ手渡していく。
「ここに、これをつけるの?」
「そうだ。それで……」
せっせと釣りの準備をしている俺の脇では、ミリムがルナに釣竿のセットの仕方を教えていた。
ミリムが何かを教えるなんて、珍しいこともあるもんだな。
ゴブタとカリオン?あれは遊びも入っている……というかそっちがメインだからノーカウント。
しばらくして、俺達は皆それぞれに釣糸を垂らし始めた。
何もないまま、少しずつ時が過ぎていく。
ミリムは飽きてきたのか、俺が持ってきたおやつをつまむペースが段々早くなってきている。
それとは対照的に、ルナの方は落ち着いていて、この釣り独特の時間を楽しんでいるようだ。
はは……さっきはミリムが姉のように見えたが、これじゃルナの方が精神年齢は高そうだな。
「おっ、あたりだ」
下らないことを考えていると、俺の竿に反応があった。
釣り上げてみると、釣糸の先にそこそこの大きさの川魚が、日光を浴びて鱗をキラキラと光らせている。
俺は針を取り外して魚をバケツに入れると、再度水面に針を投げた。
『あ…………聞こ……る?…………か?』
魂に響いてきた声。
どこかで聞いたような……。
あれは確か……夢の中で……?
いや、少し前に二回ほど聞いた気がする。
この声は……誰なんだ?
『あ……あ……ながった。ふぅ……やっとだ』
その声が聞こえたかと思うと、俺の体から、ガクンと力が抜けていく。
あ、あれ?力が入らないどころか、スキルも使えないような?
こ、これは一体!?シエルさん!
《告。
魂からの干渉?その魂は俺のだぞ!?
何者かって……俺以外に誰がいる?でも、俺はやってない。
どうなってるんだ!?
『うん。確かに、この魂は君のものだ。でも、気づかなかったかい?何故、君が竜種の因子に適合することができたのか。何故、君がヴェルダですら再現不可能だった虚無崩壊を扱えたのか。その理由には、このボクの存在があったんだ』
何者かから告げられた言葉。
俺はその言葉と今までの情報から、この声の正体について一つの答えを導きだした。
竜種の因子、虚無崩壊。未だ復活しない始まりの竜種の存在。
そう、俺がたどり着いた答えとは──
『やあ、リムル・テンペスト。ボクは"星王竜"ヴェルダナーヴァ。この世界を創りし
至高にして最強の存在が、今ここに再臨した。