神世界からの来訪者   作:禅 

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鬼姫の奇行

「うう……近頃の朝は冷える……我が君は何故このようなことを……」

 

 僅かに空がしらみ始めた頃。

 "破滅王(メナスロード)"カレラは、主への素朴な疑問をぼやきながら主の寝室へと向かっていた。

 三日前、リムルが国を抜け出し、友人や部下と遊びに行っていたことが分かり、それ以来リムル十二守護王が交代で護衛につくことになった。

 それに伴い、朝に我が君を起こす役割が護衛の仕事になったため、今日の当番であるカレラがこうしてリムルの寝室へと向かっているのだ。

 

「我が君に倣って耐性を切ってみたはいいものの……これのどこが良いのかは分からないな。やはり、我が君の崇高なる嗜好を、私が理解しようなど傲慢だったか」

 

 そんなことをぼやきながら廊下を進んでいくカレラ。

 寒いなら耐性を戻せば良いだけの話なのだが、もしも仮に戻して、同僚のウルティマとテスタロッサが涼しい顔をしているのを見かけたら?

 

「……ダメだ」

 

 貧弱だと馬鹿にされるのが目に見えている。

 そんなことは、誇り高いカレラのプライドが許すはずもなく。

 

「我が君に近づくため、我が君に近づくため、我が君に近づくため……」

 

 カレラは自分に暗示をかけながら、廊下を歩く。

 

 しばらくして、カレラはリムルの寝室の扉の前へとたどり着いた。

 凍える手で扉をノックする。

 

「我が君。おはようございます。"破滅王(メナスロード)"カレラ、お迎えにあがりました」

 

 声をかけるとすぐ寝室の扉が開き、中から寝間着姿のリムルが顔を出した。

 

「ありがとう、カレラ。今支度するよ」

 

「お手伝い致しますか?」

 

「いや、いい。それより、今日の予定を確認しておいてくれ。ディアブロが居なくなってから、スケジュール管理が大変なんだ」

 

「左様ですか。では、ごゆっくりどうぞ」

 

 バタリ、と扉が閉まると同時に、カレラはリムルの言動に違和感を覚えた。

 

「……スケジュール管理が大変?我が君は確か、演算の能力をお持ちのはずでは……?」

 

 そんな疑問を呟くカレラ。

 だが、思慮深いリムル様のことだ。何か事情があるのだろうと考え、あまり深く考えず、そのまま扉の前で待機することにした。

 

 

『リムル様。夜分遅くに申し訳ございません。至急ご報告したいことが』

 

 真夜中に届いたソウエイの思念伝達に、熟睡中だった俺の意識は一気に覚醒した。

 夜中に緊急の報告があるなんて、本来ならばあり得ないのだ。

 それこそ、よっぽどのことでもない限り。

 

『何が起きた?』

 

『は、先程、シュナ様が魔物の国(テンペスト)を出て何処かへと転移なさるのを、『月の瞳』にて確認しました』

 

『転移?シュナが?何故……』

 

『それが、俺にも分からないのです。シュナ様に声をかけようと思い、そこへ転移を試みたものの、その空間への侵入が拒絶されてしまい、結果的に見失ってしまいました』

 

『結界が張られてたってことか?』

 

『いえ、そのような形跡は認められませんでした』

 

 結界ではない空間への侵入拒絶?

 

(そんなこと、俺ですらできない……よな?)

 

《いえ。個体名:ルナの『無知の知』を行使すれば、一度接触した相手へ一時的な能力妨害を行うことは可能です。ですが、それを行使できるのは現在、個体名:ルナと主様(マスター)のみ。個体名:シュナが行ったというのは考えにくいと思います。》

 

 となると、消去法で能力妨害はルナの仕業ってことになるが……。

 

「ぅ、ん……姉さん……どうか、した……?」

 

 隣で眠気MAXの声を発するルナの姿を確認し、俺はその可能性を切り捨てた。

 だが、だとすれば今回の出来事の辻褄が合わない。

 少なくとも、俺達が認知するこの『世界』のみでは。

 

『シュナの行き先は分かるか?』

 

『いえ』

 

『そうか……ありがとう。じゃあこっちでも探してみるから、お前らも引き続き探索を頼む。くれぐれも無理はしないようにな!』

 

『御意』

 

 そうして、ソウエイとの思念伝達は終了した。

 しかし……不味いことになったな。

 ただでさえ、終末の混世宴(ラグナロク)絡みでバタバタしてるっていうのに、そこにシュナの謎行動+失踪とは。

 ……これは、久々に気を引き締める必要がありそうだ。

 

『ヴェルダナーヴァ、聞こえるか』

 

『ヴェルダで良い。君とボクの仲じゃないか……と、そんなことを言っている場合じゃないようだね』

 

 魂から、冷静で強かな声が強い意志を伴って返ってきた。

 

『ヴェルダ。俺の言いたいことは分かるな?』

 

『……ああ。恐らく、ご期待に応えられると思うよ。ボクはこれでも、君たちの創造主だからね』

 

 ヴェルダの声が説得力に満ちたものであるのは、気のせいではないだろう。

 そう信じて、俺は『虚数空間』の中でシエルさんに思うがまま魔改造(フルチューンナップ)を施されていた星皇竜角剣(ヴェルダナーヴァ)を取り出した。

 もはやそれは剣の原型を留めておらず、最高品質の究極の金属(ヒヒイロカネ) によってデコレーションされた一つの芸術作品と化している。

 かつて、ウルグレイシア共和国にて創造した最高傑作、ベレッタに勝るとも劣らないその出来栄えに、俺は思わず感嘆の息を漏らした。

 

(流石はシエル。凄まじい出来だな)

 

《ええ。少々奮発して、貯蔵していた究極の金属(ヒヒイロカネ)を大量に使用しました。おかげで、これ以上ない出来に仕上がったと思いますよ!》

 

 シエルさんの興奮っぷりが、声から直に伝わってくる。

 尻尾でもあったら、振りまくっているんじゃないだろうか。

 そんなことを考えつつ、俺は『虚数空間』から宝珠(ギジコン)を取り出すと、魔法人形の胸の辺りに埋め込んだ。

 思いの外すんなりと宝珠を呑み込む魔法人形。次いで、その胸に手をあてがい、魂に再度問いかけを行う。

 

『準備はいいか?』

 

『いつでも』

 

 その短い返答に込められた強い意志を感じ、俺はヴェルダナーヴァの心核(ココロ)を、魔法人形に投影し──

 

 

 ──直後、部屋の中を、眩い光の奔流が埋め尽くした。




遅くなってすみません!
pixivのほうには何日か前に出してたんですが……
言い訳するわけではありませんが、受験生って……大変なんですね(今更)

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