朝。
古来より、人は太陽が昇るこの時間から活動を始めるとされている。
この世界でも、それは変わらない。魔物にも、人間と同じ『朝』の感覚はあるのだ。
それ故に、朝はこの
……ごく一部を除いては。
「シオン?今日は私がリムル様を起こす番だった筈では?」
「いーえ、シュナ様。昨日はディアブロが起こしてしまいましたので、あれはノーカウントです!」
「リムルはワタシが起こすのだ!なぜなら、リムルの『
何故、こいつらはこんな時間からここまで騒がしく出来るんだろうか。
最早恒例となったこの朝の聖戦だが、今日はミリムがいる分、また一段とうるさい。
でもまあ、ミリムに関してはベットに潜り込んでこなくなっただけ成長したかな?
「はあ……全く。良いですか、脳筋のミリム様とシオンに、繊細なリムル様のお世話が務まるはずがないでしょう」
シュナが呆れたような声で二人を挑発した。
それにしても、脳筋って。決して否定は出来ないが、この前
なんにせよ、この様子では、今日も聖戦の勝者は変わらなさそうだ。
「リムル様、ディアブロです。朝の準備が整いましたので、お呼び立てに参りました」
ほらね。やっぱり。
聖戦を華麗にスルーして、見事俺のもとにたどり着くのはいつもディアブロである。
日々磨かれていくその技術に驚嘆しているのは秘密だ。
「ああ、おはよう。すぐ行くよ」
俺が返事をすると、ディアブロは満足げな顔をして扉から出ていった。
さて、と。俺も、そろそろ準備をしようかね。まずは服を着替えないと。
こうして、俺は一日の活動を始めるべく、入り口付近からいまだに聞こえてくる騒ぎ声をBGMに準備を始めたのだった。
◆◆◆
「今日の予定は──」
執務室に向かう途中、ディアブロから今日の予定を読み上げられる。
内容は全てシエルに記録してもらっているので、俺はただ頷いているだけで良い。
え?そんなんでいいのかって?
いやいや、シエルさんは俺のスキルなんだから。そのシエルさんがやっていることは、俺がやっているも同然でしょう。
……かなりの暴論だな、訂正しよう。
シエルさん、いつもありがとうね。
《はい。遠慮しないで、どんどん頼ってください、
う、うん。よろしく。
あと、多分マスターの字が間違っていると思うから、直しておいてくださいね?
「──といったところです。よろしいですか?」
おっと。シエルさんのボケに突っ込んでいたら、いつの間にかディアブロが説明を終えていたみたいだ。
《私は至って真剣ですよ!》とかなんとか聞こえた気がするが、気にしないでおこう。スルーだスルー。
「分かった。ありがとうな」
「クフフフ、お褒めに預かり光栄です」
ディアブロにお礼を言うと、俺達は黙々と執務室への道を歩いていく。
静かなお陰で、遠くの鳥の囀りが聞こえてきた。
こういう朝も良いよな……と俺が感傷に浸っていると、魂に語りかける声が聞こえた。
『──今日は、良い日になりそうだ──』
『ああ、そうだな』
反射的に返して、ふと違和感を感じる。
あれ?今、誰が話しかけたんだ?
「なあ、今お前何か言ったか?」
「いいえ、特には?どうかなされましたか、リムル様」
ディアブロはこの反応。じゃ、他の誰かからの思念伝達?
《そのようなことは確認されていません。》
うーーん。俺の中にいるシエルが言うなら、そうなんだろうけど。
おかしい。確かに、声が聞こえたはずなのだ。
気の、せいなのか?
『リムル様!至急ご報告がございます!」
そんな疑問は、直後に聞こえてきた緊迫した声で一瞬で吹き飛んでしまった。
もしかしなくても、この思念はソウエイのもの。
あの冷静沈着なソウエイが、ここまで慌てるとは。一体何事だ?
『どうした?』
『ただいま、突如として強力な魔物が現れ、我が国の国境を越えて近くの森を荒らし回っているとの報告が、ソーカから寄せられました」
強力な魔物?そんな気配は感じなかったんだが。
『どのくらいの強さなんだ?お前でも処理ができないのか?』
『いえ、もう既に捕縛は完了しました」
報告を聞いて、内心ホッとする。
あの緊迫感だったから、『ソウエイだけじゃ対処不可能だったんじゃないか』とか考えてしまったが、よくよく考えれば覚醒魔王級のソウエイが手間取る相手なんて、そうはいない。
というか、そこまで強かったら俺の脅威の一つに認定される。
そんなぽっと出の魔物が、俺の脅威になる訳がなかった。
──その、はずだった。
『……ですが、その種族と強さが問題です』
『ん?そういえば聞いていなかったな。その魔物の種族は?』
ソウエイから放たれた言葉に、俺は絶句した。なぜなら──
『片翼が欠けていますが、黒い翼を持った姿から察するに、ディーノ様と同じ
──全てが、『想定外』だったからである。