神世界からの来訪者   作:禅 

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自堕落な堕天使

 退屈だ、と、ディーノは思った。

 ふと、自分の主が魔物の国(テンペスト)へ出かけていることを、思い出す。

 あの国には、退屈というものが存在しないように思える。

 食べ物は旨くて種類も多いし、娯楽はいくらでもある。

 ちっ。俺も付いていけばよかった。

 まあ、すぐフレイに連れ戻されて終わりだろうけどな。

 こういうときは、リムルに貸してもらった漫画を読みながら惰眠を貪るに限る。

 そんなことを考えていると、目の前に強烈な気配が転移してきて、腰を抜かした。

 その気配は──

 

 

   ◆◆◆

 

 

「リムル!いきなり転移してくるなよ!お前の気配はデカいから驚くんだよ!」

 

 転移して、挨拶よりも前に言われた言葉。

 だが、別に気にしない。

 こいつは仕事をサボって俺が貸した漫画を読みながら惰眠を貪っていたのだ。自業自得だろう。

 あれは……呪○廻戦の最新刊か?

 俺が読む前に貸してやったから、そろそろ返して欲しいんだが。

 

「ディーノ。その漫画、読むの何周目だ?」

 

「あ!リムルお前!そこは俺の生得領域だからな!その中ではお前は俺に……」

 

「何周目だ?」

 

「……十周目」

 

 サボりすぎだろ。いくらなんでも。

 

「で、お前は一体何の用だ?ミリムのことなら今フレイが連れ戻しに行ったぞ?」

 

 早く帰れと言わんばかりに、ディーノはソファーに寝転がって再び漫画を読み始めた。

 一回どついてやろうかとも思ったが、話が進まないのは困るので、我慢である。

 

「それは大いに助かるが、その事じゃない。お前に用があるんだ」

 

 そう言うと、いつも半開きのディーノの目が僅かに見開かれた。

 ディーノは漫画をソファーに置くと、きちんと座り直す。

 いつものディーノとはとても似ても似つかない姿に、思わず笑いそうになるが、それはなんとかこらえて。

 俺は単刀直入に、ディーノに話を切り出した。

 

「お前、お前ら三人以外で堕天族(フォールン)って知ってるか?」

 

 俺の一言に、ディーノは体を強ばらせた。

 その表情から明らかに動揺しているのが見てとれる。

 しばらく間をおいて、今度はディーノから言葉が発せられた。

 

「天使が魔に転じるのは、長い歴史でみればそんなに珍しいことじゃねえ。

 お前も知ってる有翼族(ハーピィ)長鼻族(テング)だってそうだし、俺の部下の天魔族(エンジェル)達だってそうだ。

 ……だが、堕天族(フォールン)となれば話は別。

 天使の性質を残したまま堕天するのは、容易なことじゃない。

 そんなことができたのは俺達くらいだ。

 何の理由があって堕天族(フォールン)を探してるのかは知らないが、諦めることだな。絶対に見つからねえよ」

 

 そう言いきると、ディーノは漫画を読みに戻った。

 こいつ、後でフレイさんに怒られるのを見越してサボってるのか?

 だとしたら、相当な精神力の持ち主だな。少しだけ見直したよ、ディーノ君。

 しかし、これでますます少女の謎が深まった。

 ディーノの知らない、正体不明の堕天使が、俺の国にいきなり現れて、暴れたってことだろ?

 自分で言っていても意味が分からない。

 ディーノは俺が堕天族(フォールン)を探していると思っているようだが、素直に明かして協力してもらうのは良いんだろうか?

 

《解。この事案は何処かの国の陰謀という可能性もあります。もう少し慎重に行動することを推奨します。》

 

 俺がどうすべきか悩んでいると、シエル先生からの助言が届いた。

 確かに、あまり大事にはしたくない事案ではあるが──

 

 ──果たして、大事にせずに解決できる事案なのだろうか──

 

『リムル様!至急お戻りください!』

 

 突然届いた思念に驚いて、思考が一瞬停止した。

 この声はディアブロか?

 

『どうした?何かあったか?』 

 

『いえ、それが──』

 

 

   ◆◆◆

 

 

 リムルが驚いた表情をして、『分かった、すぐ行く』と呟く。

 大方、魔物の国(テンペスト)で何かがあったのだろう。

 

「ディーノ!俺は急用ができたので帰らせてもらう!あと、これは返してもらうぞ!俺まだ読んでないんだからな!」

 

 手に持っていた漫画が消えた。

 否、リムルに奪われた。

 

「え、おい!ちょっと待っ……行っちまったか……」

 

 反論するよりも前に、リムルはその場を後にしていた。

 全く、何故ああも強いんだあいつは。

 魂もどこかヴェルダナーヴァ様に似ていて……。

 そういえば、とディーノは今はもう朧気にしか覚えていない、かつての主との会話を思いだす。

 

   ◆◆◆

 

『僕はね、この世界の他にも、別の世界があると思うんだ』

 

『?それはそうでしょう?あなたがそう作ったんだから』

 

『いや、そうじゃなくてね。僕の他にも、別の神がいて、その神が僕のいるこの世界の外側で、いくつかの世界を作っているんじゃないかってこと」

 

『そんなバカなことが……』

 

『あるわけがない。確かにそうだ。でもね、こうも考えられるんだよ。僕達というものがこの世界に存在している限り、『絶対にありえない』なんてことは、ないんだってね』

 

『へえ……』

 

   ◆◆◆

 

 ディーノは思う。この世界に、堕天族(フォールン)は自分達三人以外にはいないだろうと。

 だが、それはあくまでこの世界(・・・・)での話だ。

 万が一、本当にヴェルダナーヴァの言う通り、この世界の外側にヴェルダナーヴァと同じ『神』が居て、この世界によく似た別の世界(・・・・)があったとしたら……?

 あまりにも馬鹿馬鹿しいリムルとの会話だったが、過去の主との会話を思い出せたことだけは収穫だったと、ディーノはソファーにその身を預けながら思うのだった。

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