神世界からの来訪者   作:禅 

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欲求不満の鬼姫

 俺がディアブロから連絡を受けて転移すると、そこには先程の少女を着せ替えて遊んでいるシュナ達がいた。

 一瞬、少女に敵対の意思がある可能性を考えて身構えたが、少女が無抵抗であたふたしている姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 あの少女は確かに美少女だからな。新作の服の格好の餌食になってしまったらしい。

 ディアブロはというと、面倒なことには関わりたくないのか、我関せずを決め込んでいる。

 だが、俺にそれを咎める気はない。なんたって、俺がそうするように教えたのだから。

 

『よく頑張ったな、ディアブロ。あとは任せろ』

 

『クフフフフ。そう言っていただけると、私も我慢したかいがあったというものです』

 

 我慢……?という言葉がどうにも引っ掛かったが、そこはいちいち気にする俺ではない。ディアブロとの付き合いも、もうなかなか長いのだ。

 もっとも、ディアブロの生きてきた年数に比べれば、微々たるものなのだろうがね。

 

 さて、まずはシュナを止めないことには話が進まない。

 なんとか、話を始めないと。

 

「シュナさん?一回それを止めてもらっても……?」

 

「あら、リムル様!おいででしたか!それよりも、見てください!可愛いと思いませんか!?」

 

「こちらも良いですね!ああ!もうどうしましょう!」

 

「そうです!今度イングラシアでファッションショーがあるんです!是非ウチのモデルとして出ていただきたい!」

 

「えっと、その……私は……?」

 

 シュナの目がガチだ。あれは正に草食動物を前にした肉食動物……!

 俺もあの状態になったことはあるので、その恐ろしさは身にしみて知っている。

 あの少女も美少女なだけあって、シュナの服を選ぶ目に凄まじい熱気がこもっているのだ。

 そんなわけで、シュナ以外の皆も、目の前の極上素材に食いついてこちらには目もくれない。

 俺が最近着せ替えを拒んでいたせいか、少々欲求不満なのかもしれない。

 ……どうしよ、これ。

 ディアブロは頼りにならない……というかここで助けを求めたら格好がつかないし……ベニマルとソウエイはなぁ……あれだろ、ちょっと。

 シオンに至っては、シュナに便乗して脅威が二倍になる可能性さえある。

 誰か頼りになりそうなやつは……。

 そ、そうだ!俺にはシエルさんという素晴らしい味方がついているじゃないか!こんなときはシエル先生に相談だ!

 シエル先生!どうすれば良いんですか?

 

《解。今から言う通りに、言葉を発してください。そうすれば、この状況を打開できます。》

 

 おお!流石はシエル先生!どこぞの悪魔と違って、物騒な手段じゃなく穏便な『話し合い』で解決してくれるのか!

 じゃあ早速、お願いします!

 

 えーと、なになに……

 

「シュナ。今なら、お前の気が済むまで俺を着替えさせて良いぞ。……って!ちょっと!やっぱり今のな──」

 

 遅かった。

 俺は、目の前の鬼姫の、服に対する執念を軽く見ていたのだ。

 俺の前言撤回の言葉が届く前に、シュナは俺に近寄り、流れるような動作で服を脱がせ始めた。

 その鬼気迫る(シュナだけに)周りの雰囲気から、訂正する気力も奪われてしまい──

 

 ──結果、俺はそのまま拘束され、あれやこれやと服を着せられることになってしまったのである。

 

 

   ◆◆◆

 

 

 いやーキツかった。凄く。

 まさか、シエルさんがあそこで私利私欲に走るとは。

 さしもの俺も予想外だった。

 

《嘘はついていませんよ。それに、一番早く穏便に解決するには、この方法しかありませんでした。仕方ないことなんですよ。それにしても、どの衣装もよくお似合いでしたよ、旦那様(マスター)!》

 

 あ、ありがとうございます。

 でも、その『これしかなかった』って、本当ですかシエルさん……?

 二時間が本当に、最短ルートなんですか……?

 ……まあ、いいか。別に数時間くらい。

 この程度、いつも頑張ってくれているシエルさんへの労いだと思えば安いもんである。

 ただ、そのマスターって呼び方、漢字が違うと思いますよ?

 いつも通り、主様でお願いします。

 

 さっきの様子から、危険がないと判断した少女は、今は別室でシュナに諸々の身だしなみを整えてもらっている。

 ちなみに、俺のそばにいたディアブロは仕事に戻ってもらった。

 少し寂しそうだったので、後で何か差し入れでも持って行ってやろう。

 そうそう、ディアブロといえば、着替え地獄の途中、隣のディアブロが『尊い』を連呼しながら恍惚とした表情をしていたのにはちょっと引いたな。

 ディアブロといい、ゼギオンといい、アダルマンといい……何故皆、俺をそんな神格化するのだろうか。

 何?俺には見えない魅了のスキルがあるとか?

 

《解。そのようなスキルの存在は、確認出来ません。あったなら、とうの昔に私が統合して隠蔽していますから。》

 

 はっはっは、だよな。知ってる。

 ……え。

 

「リムル様。準備が出来ました」

 

 扉のむこうから、ご機嫌なシュナの声が聞こえてきた。

 無事ここ数ヶ月分の欲求不満を精算したからか、声から機嫌の良さが伝わってくる。

 入室を促すと、シュナに続いて、藍色の浴衣を身にまとった美少女が入ってきた。

 目の色はサファイアを彷彿とさせる深い青色で、腰まで伸びた紫色の長い髪が、その美しさを引き立たせる。

 背中には、堕天使の象徴たる漆黒の翼が、右側にのみ現れていた。

 

「座って、話をしよう。君が誰で、どこから来て、何をしに来たのか。それを、聞きたいんだ」

 

 真剣な表情で、少女に着席を促しながら、用件を伝える。

 さっきの時点で敵意がなかったとはいえ、魔物の国(テンペスト)の領土を荒らし回ったのは確かだ。それがどういうことなのか、それを聞かないことにはまだ、この少女が敵である可能性は捨てきれない。

 少女はソファーにゆっくりと座ると、俺の方にむかって困惑した笑みを浮かべながら、言った。

 

 

「あの、私、誰なの?どうして、ここに……?」

 

 

 俺の頭に、前世のドラマやアニメでよく聞いた、四文字の熟語が思い出された。

 

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