神世界からの来訪者   作:禅 

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すみません!ある方の感想を見て「あれ?」って思ったら、この話が抜けてたみたいです!
教えてくださった方、ありがとうございました!


見極める大魔王

 『記憶喪失』。

 それは、ドラマやアニメでよく耳にする症状だ。

 だがまさか、始めて本物の記憶喪失の人に出会うのが異世界になろうとは。

 人生──もとい、スライム生というものは、なかなか分からないものである。

 

「私……自分がどこから来たのかも、誰なのかも分からないんだ」

 

 少女は、自分の記憶がないことに戸惑いながらも、精一杯の愛想笑いを浮かべているようだった。

 見ていて、とても痛々しい。

 

「私は誰でどこから来たの?あなたは、私のこと知ってるの?」 

 

 すがるように、俺に問う少女。

 この少女は確かに堕天使だが、同じ堕天使のディーノによれば、この世界にはディーノ達以外の堕天使はいない。

 で、こいつは記憶喪失でどこから来たのかも、自分が誰なのかも分からない。

 となると、残された可能性は別世界からの転移者か、少女が嘘を吐いているかのどちらかだ。

 しかし、魂の管理者としての『天使』や『悪魔』といった存在は、ヴェルダナーヴァと最も関わりが深いであろうこの世界にのみしか存在しない筈。

 

 じゃあ、この少女は嘘を……?

 あの痛々しい表情が嘘だとは到底思えないが、念には念をという言葉もある。俺はこの国の元首として、あらゆる危険は取り除いておかなければいけない。

 

 嘘、か。出ていってもらってから早々に悪いが、ここはあいつを呼び出すのが最善だろう。

 

『ディアブロ。聞こえるか?お前にちょっと頼みたいことが」

 

「クフフフフ。何なりと。我が主よ」

 

 聞こえたのは思念伝達の声ではなく、直接的な音声だった。

 ディアブロは、俺の思念伝達を聞いてコンマ何秒で反応し、ここに馳せ参じたのである。

 ホント、何なんだろうね。このこいつらの狂信っぷりは。

 あれ?俺思考誘導かけてないよね?

 

《そのような事実は確認できません。》

 

 うん。

 ……じゃあやっぱり、素でこれかぁ……。

 

 まあいい。今はそれより、少女の言葉を見極めてもらうのが先決だ。

 

『ディアブロ。この少女が嘘を吐いているかどうか、『穏便に』調べてくれ。拷問とか、物騒なのはNGだ』

 

 もし嘘を吐いていた場合、対策をされては困るので、思念伝達を使ってディアブロに用件を伝える。

 ディアブロは後ろを振り向くと、そこにいた少女をしばらく見つめ、やがて『ほう……』と興味深そうに目を細めた。

 

『先程と魂の質が違いますね……変質する魂とは……クフフフフ。なんと面白い。魔神王(デモンロード)の名にかけて、必ずやこの魂を見極めてみせましょう!』

 

 嬉しそうにそう言うと、ディアブロは少女に近寄り、観察を始める。

 少女は、いきなり現れたイケメンに観察されているからか、おどおどとして落ち着かない様子だ。

 何だろう。イケメンが美少女をまじまじと観察している構図が、どこかナンパに似ているような気がする。

 俺に経験?あるわけないだろ。元魔法使いで賢者予備軍だぞ。

 ……自分で言っていて悲しくなってきた。はい、この話は終わりです。

 

《それは周りの女に見る目が無いんですよ!ほら!私なら何時でも大歓迎ですよ!分身体を使えば簡単に──》

 

 俺しーらない。スルーが一番。これ常識。

 ところで、シエルさん?ディアブロが魂の変質とかなんとか言ってたけど、あれって……?

 

《是。事実です。少女の魂は、寝ていた時と違い、存在力(エネルギー)の総量が覚醒魔王級にまで引き上がっています。》

 

 そんなことってあり得るのか?

 さっきは存在力(エネルギー)を一部秘匿してたって可能性は?

 

《否。ありません。あの時点で潜在している力も全て、主様(マスター)は把握していました。》

 

 そうか……。

 だとすると、これは一体どういうことだ?

 俺がいない間ずっとディアブロが見張っていた以上、『変質者』みたいなスキルで何かと合体したのならすぐに分かった筈だ。

 ディアブロからそんな報告は受けていないし、何より表面的な魂の質は似ているような気がするので、別人という可能性もないだろう。

 

 ……まさか、本当に魂の変質が起こったっていうのか?

 信じられないが、ここまでくるとそれしか考えられない。

 とりあえず、今はディアブロのジャッジが終わるのを待つのみだな。

 

『リムル様。終了しました』

 

 はやっ!俺、今もう少し待つことを覚悟したところだったんだけど!?

 ま、まあ、早く終わったのならそれにこしたことはない。

 早いところ、結果を聞くとしよう。

 

『で、どうだった?』

 

『いくつか揺さぶりをかけてみたのですが、どれもこれといった反応はありませんでした。それどころか、少し怯えが感じられるほどでして』

 

『怯え……何も知らないからか……?』

 

『そうですね、恐らくは。ですので、この少女の言っていることは本当だと見てよろしいかと』

 

 うーーん……そうなると、もう、あり得る可能性が……。

 なるほど。これが手詰まりってやつか。

 こうなったら、信頼できる魔王とかに相談するしかないな。

 魔王達の宴(ワルプルギス)を開こう。

 発動は俺で、承認はラミリスと丸め込み、ディーノを脅すかミリムに頼めば事足りる。

 あとは、またギィやルミナスがうるさそうだから旨いお菓子でも持っていって、──

 

「…………知ってるの?」

 

 俺が魔王達の宴(ワルプルギス)へ持っていく菓子を考えていると、少女の問いが耳に入った。

 あ。忘れてた。返答がまだだったんだ。早く返答を──

 ん?待て。ここで、真実を口にしても良いのか?

 俺は何一つ分からないが、少女にしてみれば、何もかもが分からない状態で身に覚えのないことを咎められている、そんな状況だ。

 何もすがるものがない少女に、ありのままの真実を告げる。

 それは本当に──

 

 ──正しい選択なのか?

 

 

   ◆◆◆

 

 暫し、耳の痛くなるような静寂が俺達を包む。

 そして、俺はゆっくりと口を開いた。

 

「いいや。知らない。でも」

 

「君が記憶を取り戻すまでは、俺達魔物の国(テンペスト)が、責任を持って君を保護する。だから、安心してくれ」

 

 俺は少女に歩み寄り、その手を優しく握った。

 

「……そう。ありがとう」

 

 少女から、満面の笑みが溢れる。さっきと違って、無理のない、心からの笑顔。

 

 悩みに悩み、俺が出した結論は、真実を話しつつ、少女の心に寄り添うことだった。

 正体不明の堕天族(フォールン)だろうと、存在している以上、どこかにルーツは存在している筈だ。

 そのルーツを見つけ出し、本人の希望にそって送り届けてやればいい。

 万が一それが悪意を含んだものだったとしても、それなら尚更、俺の目の届く場所に置いておいた方が良い。

 俺の身に危険が及ぶ?そんなこと、気にするに値しない。

 なにしろ、俺は『大魔王リムル』なのだから。

 

「ところで、君……名前があった方が呼びやすいな。何か良い名前は……」

 

「ルナ、なんてどうです?リムル様」

 

「え?」

 

 そう呟いたのは、シュナ。

 今までのやり取りを無言で見守っていたシュナが口を開いたので、俺は思わず驚いてしまった。

 そんな俺に構わず、シュナは名前の由来を説明し始める。

 

「リムル様のいた世界の言葉で、月は『ルナ』というそうですね。月は満月でも美しいですが、欠けているのもまた風情があります。翼が欠けているのにも関わらず美しいこの子には、ぴったりなのでは?」

 

 ルナ……って、確かラテン語だよな。

 どこからそんな言葉を知ったんだ?俺、教えたっけ?

 まあ、それは置いておくとして……ルナ、ルナか……。

 うん。響きがいい。それにしよう。

 

「よし。じゃあ、君は今から記憶が戻るまで、ルナを名乗るといい。……で、大丈夫?」

 

 危ない危ない。こういうことは本人の意向を優先しないと。

 俺が少女に問いかけると、少女はこくこくと首を縦にふって肯定の意を示した。

 それと同時に、俺の魔素が一気に減っていく。

 な、なんだこれ。今までに類をみないほどごっそり持ってかれたぞ。

 というか、これも名付けに入るのかよ!

 それならそうと、先に言ってくれ……心の準備があるんだから。

 

主様(マスター)も学びませんね……。不用意に名付けをしてはいけないって、何度言ったら分かるんですか。この前だって、観葉植物に愛着が湧いたからって名前なんかつけるから、大変なことになったじゃないですか!少しは自重してください!ぷんぷん!》

 

 と、名付けで大量の魔素を抜かれてシエルさんはご立腹の様だが、そもそもシエルさんだってそんなノリで進化したような気がするのは俺だけか?

 それに、自重してって台詞に関しては、シエルさんにそっくりそのまま返したい。

 ゼギオンとか、あれヤバすぎだろ、普通に。

 

《……》

 

 おっと。これ以上の追及はやめておいた方が良さそうだ。

 少なくとも、明日からの書類整理にシエルさん無しはキツすぎる。

 まあ、とにかく。この後は魔王達の宴(ワルプルギス)の発動と、ギィ達への菓子を準備しなきゃいけないから、早々に席を外すとしよう。

 俺は椅子から立ち上がり、転移の準備を始める。

 

「あの、リムル、お姉さん?」

 

 進化の予兆なのか、うつらうつらしているルナが言った。

 お、お姉さんって……中性的な容姿だから仕方ないか。

 

「なんだ?」

 

「よろしく、ね」

 

「……ああ、よろしくな、ルナ」

 

 倒れこむルナをシュナが支えたのを見届けると、俺はミリムから魔王達の宴(ワルプルギス)の発動に承認をもらうべく、ミリムがいるであろう迷宮へと転移していった。

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