「さて、今日は皆、ここに集まってくれてありがとう。……と、俺は堅苦しいのは苦手だから、そういうのは抜きで。今から
俺の宣言を聞くと、ディーノとミリム、それにラミリスが、一斉にテーブルの上のお菓子に手を伸ばす。
『はぁ……』と、それぞれの従者から呆れの声が漏れた。
「ま、まあ、食べながらで良いから聞いてくれ。
皆も知っての通り、今回集まってもらったのは他でもない。
うちの領土に迷いこんだ、ある魔物について意見をもらいたいんだ。
まずは、紹介しないとな。ルナ、入ってきていいぞ」
「うん」
大きな音をたてて扉が開き、入ってきたのは一人の少女。
右側にのみ漆黒の翼を携え、眼は
鮮やかな紫色の髪はシュナによって綺麗に整えられ、その美貌を引き立たせている。
先日の浴衣姿とはうってかわり、今日はいかにも女王といった感じの藤色のドレスを身に纏っていて、それが圧倒的な魔王覇気と相まって、覚醒魔王級を遥かに超越した存在としての威厳が全面に現れていた。
ルナに見惚れ、コンマ数秒反応が遅れた後、すぐに魔王達が席を立つ。
全員、魔王覇気を全開にして戦闘体勢をとっている。
「リムル!こりゃ一体どういうことだ!明らかに、そいつの実力はここにいる魔王と同格かそれ以上!いや……なんなら、俺やミリム、お前や竜種と比べても遜色ないレベルだぞ!」
「この気配……まさか
ギィとディーノが聖剣と魔剣を構え、俺とルナを威圧する。
こうなることは分かっていた。別にそこまで慌てるほどのことではない。
むしろ、当然の反応であると言えるだろう。
自身の目の前に、自分達の築いてきた平和を揺るがす可能性を秘めた魔物が、いきなり現れたのだから。
しかし、こうして睨み合っていては一向に話が進まないので、ここは皆を宥めることに全力を注ぐことにしよう。
「分かったから、一旦、剣を収めてくれ。こいつは俺の仲間だ。心配することはない」
俺がそう言うと、魔王達の表情に僅かに戸惑いが混じる。
しかし、ギィ達は依然としてルナを警戒して、戦闘体勢を崩さない。
「信じて……いいんだな?」
「ああ」
ギィの質問に、簡潔に答える。
下手にここで弁明をするより、単純なyesかnoかで答えた方が信憑性がある。そう考えた結果の行動だ。
ギィは初めは俺の魂を覗いて信じるべきかを確認していたが、そのうち魔剣
「お前がそう言うなら、俺は座るとしようか。俺は『調停者』だからな」
そう、言葉を発して。
これは暗に、『調停者たる自分の前で世界の平和を乱すならば、容赦はしない』という意味を含んでいた。
俺は頷き、他の魔王達に着席を促す。
今度は、全員が席についた。
「よし、まずは紹介するよ。こいつが、うちの領土に迷いこんだ
◆◆◆
「なるほど、そういうことか。全く、柄にもなく取り乱しちまったぜ」
俺の説明を受けて、ギィが納得したようにうんうんと頷いた。
他の魔王達にも、どうやら納得してもらえたようである。
良かった良かった。
「しかし、のう。この小娘、認めたくはないが……妾よりも強いのではないか?このような存在が、いきなり現れるとは、考えがた……」
「あ、いやそれは、ヴェルドラが名付けを二重に……」
「ん?」
「あ」
しまった。失言だった。
物凄い形相でルミナスとヴェルザードさんがヴェルドラを睨む。
ヴェルドラが顔を背けると、二人はほぼ同時に舌打ちをしてヴェルドラから視線を外した。
息ぴったりですね、お二方。
ヴェルドラの方を見ると、もう今にも泣きそうな目で俺を見ている。
ぶっちゃけ、初めに名付けをしたのは俺なので、ヴェルドラだけに非難が集まるのは少し可哀想でもある。
ヴェルドラ、すまんな。後でケーキ買ってきてやるから。
「で、皆。今の話を聞いた上で心当たりはないか?どんな些細なことでもいいんだ。少しでも思い当たることがあったら言ってくれ」
俺がそう呼びかけると、真っ先にディーノが手を挙げる。
珍しいな。あいつでも、たまにはやる気を出すのか。
確かに、同じ
この前は『この世界に
今回の話を聞いて、何か思い出したのかも……?
そんな俺の期待をよそに、ディーノは悠々と言い放った。
「この……バームクーヘンだっけ?おかわりくれよ」
はい、分かってましたとも。平常運転ですよね。
そもそも、『
俺はシュナにバームクーヘンを注文し、再び円卓に座り直す。
「一つ、いいか?」
話を切り出したのは、今まで沈黙を貫いていた
てっきり、情報源になりうるのは長い時を生きているギィ達かと思ったが……レオンにも心当たりがあるのだろうか?
俺は首を縦に振って、レオンの話を促す。
「その
「この
「……偶然……とは、思えないな」
「?」
何か、あったのか?
一ヶ月前に、レオンの治める
「一度、休憩を挟まないか?少し、俺にも引っ掛かりがあってな。情報を整理する時間が欲しい」
ギィが、休憩を要求してきた。
断る理由もないし、認めようと思うが、一応シエルさんにジャッジをお願いしよう。
《特に怪しい点は見られません。魔王達の中には、敵対心を持った者はいないと思われます。少なくとも、今回の件に魔王達の陰謀は関わってない可能性が高いです。休憩を認めましょう。》
了解。ありがとな、シエル。
「じゃ、これから部下に各々の待機部屋に案内させるから、そこで少し休憩しよう。一時間後に、ここに再び集まろう。解散!」
俺の掛け声で、全員が席を立ち、扉の方へと歩いていく。
『リムル様。少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?』
俺に届いたのは、ディアブロの思念だ。
なんだこんなときに?何か問題でも起きたか?
『どうした?』
『いくつか、至急お耳に入れておきたいことがございまして。執務室まで来ていただいても?』
『構わないけど……思念伝達じゃダメなのか?』
『クフフフフ。実は一つ、お渡ししたいものがございますので』
渡したいもの?こんなときにプレゼントとかじゃないよな?
まあ、いい。詳しい話は、執務室で聞けばいいだろう。
『分かった。今行く』
ディアブロに思念を返し、俺は執務室へと転移していった。
◆◆◆
「……。行った、かな」
誰もいなくなった会場で、呟く者が一人。
髪は長く、紫色で、藤色のドレスを着ている少女。
オッドアイの眼を妖しく光らせるその人物は、見透かすように言った。
「居るんでしょ、ニクス。もう出てきてもいいよ」
少女の声に呼応して、現れたのは銀髪の男。
眼は少女の片目と同じ碧色で、少女と同じく
「……ふ、ふふふ、ふはははは!流石、流石だ!実に見事だね!」
愉快な気分を隠しもせず、むしろ誇張するように笑う男は、ひどく楽しげに少女へと近付いていく。
「うるさい。消すよ?」
少女は男に『魔王覇気』を放ち、威圧する。
が、男はそれを意にも介さず、少女の言葉に失笑しながら言った。
「消す?どうやって?それが出来ないから、君はこの世界に
少女は忌々しげにその眉間に皺をよせ、ジリジリと後ずさる。
次の瞬間、男は瞬時に少女との距離を詰め、その耳元で忠告するように囁いた。
「よく、考えることだね。君が守りたいものについて」
男は不敵に笑い、右手に魔法陣を描いた。
数秒後、淡い蒼色の光を放っていた魔法陣がその輝きを増し、蒼の光が辺りを覆いつくし始める。
その光が治まると、もう既に、そこには男の姿はなかった。
「……リムル、か……」
少女は、一言それだけ呟くと、悠々と扉を開き、その場を後にした。