俺が執務室に着くと、ディアブロが手に何やら杖のような物を持ち、跪いていた。
「お待ちしておりました、リムル様」
ディアブロが顔を上げる。やや緊張感のある面持ちは、どこか一ヶ月前のソウエイに似ていた。
「おう。ところで、何なんだ?俺に報告しておきたいことって?」
俺が尋ねると、ディアブロは手に持っていた杖のような物を俺へと差し出す。
「まずは、こちらを」
「ん?なんだこれ」
差し出されたのは、長さ三メートル程の長杖。
黒い柄の先に赤色の宝石があしらわれた、特に何の魔力も感じない杖だ。
……特に変わったところは無さそうだけど。
シエルさんに『解析鑑定』を頼もうか。
受け取った杖をシエルさんに『解析鑑定』してもらう間、ディアブロに事情を聞くことにした。
「実は一ヶ月程前、私は各地に密偵を放ち、情報を集めていました。すると、風の噂でこんなことを耳にしたのです。『カナート大山脈の近くに、新たな大洞窟が発見された』と。ですが、あそこは武装国家ドワルゴンが近くにありますので、ほぼ探索しつくされた場所。そんなところに、未知の大洞窟?不自然にも程があるというものですよ。クフフフフ」
楽しげに笑うディアブロ。
なるほど、大体察しはついた。
「で、お前がそこに行ったところ、最深部でそれを発見したと」
「ええ。流石はリムル様。察しがよろしいようで。クフフフフ!」
ディアブロが出張以外で
日中はずっと俺の隣にいたし……夜の間は自分の仕事をしているはず。
「いつ行って来たんだ?」
「先程です」
「……
「はい」
「……ちなみにどのくらいの時間かかったんだ?」
「五秒ですね」
わお、スマートに済ませたね。
ディアブロはもう、俺には勿体無すぎるような気がする。
優秀すぎて、下手をしたらこちらが劣等感を感じるくらいなのだ。
というか、確実に俺の前世の世界にいたら社内のNo.2くらいに君臨していそうである。
そうなると、他の十二守護王あたりが各部の部長とかかな?
……シオンの部が大変すぎるな。可哀想に。
《『解析鑑定』が完了しました》
俺が下らない妄想に浸っていると、シエルさんから解析完了の報告が届いた。
おう、お疲れシエル。
それで、どうだった?何か変わったところはあったのか?
《完了、というと語弊がありますね。終了、というのが正しいでしょうか》
ん?それは一体どういう……?
《簡潔に言いますと、解析鑑定が不可能でした。この世界及びそれに連なる世界にあるどの物質とも、一致し得ない物質です。つまり、存在しえない物、ということですね》
シエルが心なしか少し嬉しそうなのはこの際置いておくとして。
……存在する物質じゃない?今までの歴史の、どこにも存在しない物質?
そんなもの、在るわけが──
俺の思考に、割り込んで入ったのは鋭い金属音。
俺に降り下ろされた漆黒の長杖を受けたのは、宙に浮いた虹色の光沢を放つ魔剣"
その持ち主は、当然。
「何をしやがる。お前はリムルの忠実なる従者じゃなかったのか?
俺と並ぶ世界最強の魔王、"
「クフフフフ。流石は"
そして、いつのまにか俺の手から消えていた長杖を手にし、笑いを溢す人物は、俺の忠実なる配下、ディアブロ。
つまり、さっき俺を殺そうとしたのは、ディアブロだということになる。
……何故、こんな事を。
慕ってくれていたんじゃなかったのか?
俺が、悪かったのか?俺が、ディアブロに負担をかけすぎたから……。
思えば、あんなに慕ってぐれていたのに、俺は滅多に労いをしてやらなかった。
──そうだ。俺が悪いんだ。ディアブロに、狙われて当然──
《
シエルの声が届き、俺は我に帰った。
……そうだよな。今は、この国を守らなきゃな。
落ち込むとかはそのあとだ。
まずは、この国と、皆を守る。それが俺の、大魔王の義務なのだから。
「ギィ。手間をかけて悪かったな。あとは、俺が片をつける。下がっててくれ」
俺はギィに礼を言うと、ディアブロに向かって『大魔王覇気』を全開にする。
だが、最大限の威圧の意味を込めたその覇気に、ディアブロは眉一つ動かさない。
流石は俺の配下で一番の強さを誇るディアブロだ。
なら、今度は『虚数空間』で結界を張るか、もしくは転移からの速攻で無力化するか。
どちらにせよ、こいつを傷つける選択肢はない。
敵対したら容赦はしないとは言ったが、
何かと俺をサポートしてくれ、時には一緒に騒いで遊ぶ。
こちらの世界で家族同然のあいつらに向ける刃は、生憎俺は持ち合わせていない。
(シエル。行くぞ)
《御心のままに、
シエルとの連携体勢をとり、ディアブロを無力化する。
それが今の最優先事項。
俺はディアブロを『虚数空間』の結界に取り込むべく、ディアブロに向かって駆け出し──
「……違うな。ディアブロじゃねえ。お前、一体なんなんだ」
ギィの放った言葉に、耳を疑った。
◆◆◆
ギィはディアブロを真っ直ぐに見つめ、問う。
自分がここに駆け付けたのは、リムルに対しての凄まじいまでの殺気──それも、魂レベルで秘匿された僅かな揺らぎ──に気付いたからである。
そのほんの僅かな揺らぎに込められた、底無しの悪意。
あれは、無知が故に知識を求める感情。すなわち、興味。
だが、今更この悪魔が、リムルに悪意を含んだ興味など抱くだろうか。
何があろうとも、
では、今、自分の前に立っている悪魔──いや、悪魔の形をしたものは、一体何者なのか。
「……クフ、クフフ、クフフフフ!なるほど、ここまでとは!多様性のある世界だとは思っていたが、これほどレベルの高い悪魔が居るとはな!正直、予想外だ。仕方ない。ここは一度、退くとしよう。だが、一つ、覚えておくと良い」
「お前らが抱え込んだあの堕天使は、ほぼ確実にお前らに破滅をもたらす。精々、気を付けることだ」
その言葉を放った直後、ディアブロの持つ長杖が部屋の中の光を奪うように黒ずみ始める。
しばらくして、部屋の中に光が戻ると、そこには既にディアブロの姿はなかったのだった。
「忠告……か?」
リムルが戸惑いを隠せずに呟いた。
……情報の交換は、
俺の仮説が正しければ、今回の事態の終結を図るには、魔王達はおろか、全世界での協力が不可欠となる。
「先に戻るぞ」
リムルにそう告げて、部屋を出るギィ。
『ヴェルザード。聞こえるか?』
『あら、ギィ。何か用かしら?』
『竜種の回線で、ヴェルグリンド達に連絡を入れてくれ。近いうち、お前らの力が必要になる、と』
『……分かったわ』
これでよし。
後は、このあとの
レオンにも、今回の異変に何か心当たりがあるようだ。
それが、俺の仮説を裏付けるものであったなら、近々、開く必要がある。
世界の全勢力の代表による、会談。