愛和創造シンフォギア・ビルド   作:幻在

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戦「天っ才(てぇんさぁい)物理学者の桐生戦兎は、見事エボルトを倒し、新世界を創る事に成功した。だが、その世界ではノイズという脅威が人々を脅かしていたのでした」

翼「おいなんだこれは!?聞いてないぞこんなの!」

戦「こっちじゃ当たり前なあらすじ紹介ってやつだよ。察しろ」

翼「察しろってお前、私たちはこれでも初対面だぞ?」

戦「そんなの関係ないよ細かい奴だな。とにかく、この世界でも愛と平和を愛する正義のヒーロー『仮面ライダービルド』として戦う事を決意した俺は、前回にしてついに変身するのであった!」

翼「そして私の事については何も触れないのか・・・」

戦「この物語の主人公は俺だからな」

翼「はあ・・・もういい。えーっと・・・・」←台本読中

戦「そんなわけでど―――」

翼「どうなる第二話!」

戦「―――って俺のセリフを取られた!?」

翼「はっ!」




作者「前回のタイトルとか変えました」


兎と剣のムーンサルト

――――少女の歌には、血が流れている。

 

 

 

 

戦兎が仮面ライダービルドに変身した時、特異災害対策機動部二課では、今まさに、正体不明の戦士の登場に混乱していた。

「なんだ奴は!?」

そこの司令官である『風鳴(かざなり)弦十郎(げんじゅうろう)』は、すぐさまビルドの正体を探ろうと指示を飛ばす。

「分かりません!」

「対象からのエネルギー検出量は確認出来ず!」

「アウフヴァッヘン波形も検知出来ず、全くもって未知なる存在です!」

「正体不明の謎の戦士だとでもいうのか・・・!?」

そして今、モニターの前で、正体不明の謎の戦士、仮面ライダービルドが動き出す。

 

 

 

 

「お前は・・・一体・・・・」

翼が、目の前で変身した戦兎―――仮面ライダービルドに問いかける。

その問いかけに、ビルドは快く答える。

「仮面ライダービルド。作る、形成するって意味のbuild(ビルド)だ。以後、お見知りおきを」

そう名乗った時、ノイズが一斉にビルドに襲い掛かる。

「ッ!」

すぐさまノイズを迎撃しようとする翼。しかし、その前にビルドが立ち塞がる。

「だからそこで見てなさいって」

そう言うと、ビルドは一度腰を落としてから、左足で一気に踏み出す。すると、ほぼ一瞬にしてノイズとの距離を詰め、そのまま一気に殴る。

すると殴られたノイズは吹き飛び、一瞬にしてその体を炭素の塊へと返す。

「お、やっぱ効くじゃねえか!」

一方のビルドの体に異常はない。これなら、問題なく戦える。

さらなるノイズが襲い掛かる。しかしそれをビルドは何の苦もなく躱し、さらに反撃で一撃二撃と殴り飛ばす。

さらに人型(ヒューマノイド)ノイズが背後から襲い掛かるが、突如としてビルドドライバーから再びスナップライドビルダーが展開されたかと思うと、それが一つの武器を形成する。

あの戦いで唯一壊れておらず、そして一番使い慣れたビルドの武器『ドリルクラッシャー』だ。

それを片手に一薙ぎ一閃。範囲内にいたノイズが纏めて消滅する。

さらにノイズがビルドに襲い掛かるも、ビルドは一切慌てた様子もなしにノイズを蹴散らしていく。

「すごい・・・」

その戦いぶりに、翼は呆気にとられる。

「数が多いな・・・」

一方のビルドは、その数の多さに少し鬱陶しさを感じていた。

「これでいくか」

それで取り出したのは、ハリネズミの柄が入ったフルボトルだ。

「今は武器がないから、これで我慢してくれよっと」

 

ハリネズミ!』

 

それをラビットフルボトルと入れ替え、ボルテックレバーを回す。

ボルテックチャージャーが回転し、スナップライドビルダーがすぐさま展開し、そのパイプの中を、白い液体が流れ、新たなアーマーを形成する。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

白い装甲が、赤い装甲の上に重なるようにビルドに装着される。

白い装甲が重なると同時に赤い装甲は粒子となって消え、そして白い装甲がビルドの新たな装甲となって合着する。

それは、ベストマッチとは違う、いわゆる『トライアルフォーム』と呼ばれるものだった。

 

その名も、『仮面ライダービルド・ハリネズミタンクフォーム』

 

しかしそれでもノイズはなおもビルドを攻撃する。だが、襲い掛かってきた大量のノイズに対して、ビルドがやった行動は、()()()()()()()()()()

そのままノイズの集団がビルドにある範囲まで近付いた瞬間―――

 

右手を包むグローブの棘が突如として伸び、襲ってきたノイズを全て串刺しにする。

 

「な・・・・!?」

その鋭さと範囲の広さは凄まじく、一瞬にしてそのノイズたちを炭素へと変える。

すぐさま針は元に戻り、ビルドは、一気にノイズを殲滅するべくノイズの集団に向かって行く。

「うぉぉぉぉぉお!!」

肩と手の棘を利用しての突撃(チャージ)で、ノイズを一気に蹴散らす。

その最中で、強襲型のノイズが戦兎を踏み潰さんとその巨大な足を上げる。

「うおっと!」

そのノイズの踏み潰しを躱し、戦兎は、新たに二つのフルボトルを取り出す。

「お前にはこいつだ!」

シャカシャカと振り、宝石の柄の入ったフルボトルと、ゴリラの柄の入ったフルボトルをスロットに差し込んだ。

 

ゴリラ!』ダイヤモンド!』

 

ベストマッチ!』

 

更なるベストマッチ。

それが意味する事は、ビルドの新たな力のお披露目。

ボルテックレバーを回し、そして、スナップライドビルダーを再展開する。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

スナップライドビルダーが、ビルドを挟み込む。

 

輝きのデストロイヤーゴリラモンド!イェイ・・・!』

 

纏われたのは茶色と水色の装甲。

右腕には、見るも巨大な剛腕が形作られ、一方の左側は眩い宝石の光を放っていた。

「今度はダイヤとゴリラだと!?一体何の関係がある!?」

すかさず翼のツッコミが炸裂する。

「俺だって知らないよ!?まあいい!」

ビルドはノイズと向き合う。その間にも、ノイズは今にもビルドを踏み潰そうとしていた。

だが、ビルドは敢えて避けず、その足をまさかの()()()()()()()()()()

するとどうだ?剛腕から放たれた一撃は、淡くもノイズの足を押し返すどころか見事に粉砕してみせた。

その怪力に、さしもの翼も唖然とする。

そして―――ビルドはボルテックレバーを回す。

何回か回した所で、ビルドは手頃なノイズの元へ向かう。

 

Ready Go!』

 

ビルドは、手頃なノイズに触れると、その瞬間、そのノイズが宝石に包まれる。

そして、右の剛腕を引き絞って―――

 

ボルテックフィニッシュ!』

 

その塊を砕いて、宝石を―――ダイヤモンドを散弾銃の如く散らばらせ、ノイズを一気に殲滅する。

しかし、それほどの広範囲攻撃をしたにも関わらず、ノイズはまだ残っていた。

「やれやれ、しつこい男は嫌われるぞ。あれ?こいつらに性別なんてあったっけ?」

なんて事をぼやいていると。

「ん?」

どこからともなく、聞き覚えのある曲が流れてきたかと思うと、

 

「―――去りなさい!無想に猛る炎、神楽の風に滅し散華せよ!」

 

そして、聞き覚えのある声で、その歌が聞こえた来た瞬間、ビルドの目の前のノイズが一瞬にして一層される。

 

千ノ落涙

 

「うお!?」

そして、目の前に、一人の少女が降り立つ。

この場において、ビルド以外にノイズを殲滅せしめる力を持つのは、ただ一人。

 

風鳴翼だ。

 

翼は、歌を歌いながら、背後のビルドを見る。

「やれやれ、見てろって言ってたんだけどな」

仕方がないとでも言うように、ビルドは翼の隣に立つ。

「仕方がない。一緒に戦うぞ」

その言葉に翼はただ頷くのみ。

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

ビルドは再びラビットタンクフォームに戻り、取り出したドリルクラッシャーをガンモードに変形、ハリネズミボトルを差し込んでノイズを迎え撃つ。

そして、その前に翼が出て、接近して敵を叩く。

ビルドの放つ針状の光弾がノイズを叩きつつ、翼がその刃を振るい、ノイズを一気に殲滅する。

翼が逆立ちし、その足を大きく広げて回転しだせば、脚部のブレードで一気に敵を薙ぎ払う。

 

逆羅刹

 

そのまま敵を一気に殲滅していく中で、またもや強襲型が姿を現す。最後の一体だ。

(このまま・・・)

「おっと!止めはこの天っ才に任せな」

「な!?」

そのまま一気に倒そうとした翼を止め、ビルドはボルテックレバーを回す。

「ちょーっと待って」

(は?)

次の瞬間、ビルドはそのノイズから背を向けて走り出す。

「何をしてるんだ!?」

思わず怒鳴る翼だが、ビルドは何も無意味な行為をしている訳ではない。

何歩か走った所で、ビルドは思いっきり地面を踏む。するとその地面が抜け、ビルドは一気に地中に沈む。

その間に、どこからともなく白いグラフが現れ、そのX軸がそのノイズを挟み込み、拘束する。

「これは・・・!?」

それが、ビルドの必殺技の前兆だと、翼は知る由もない。

 

Ready Go!』

 

そして、ビルドが穴から飛び出し、Y軸上へ飛ぶ。そして、展開された放物線に沿うように、ビルドはノイズに向かって蹴りをぶっ放す。

 

ボルテックフィニッシュ!イェーイ!』

 

放たれた必殺の一撃。右脚の裏にある『タンクローラーシューズ』の無限軌道装置(キャタピラ)が、敵の皮表面を一気に削り取り、貫く。

そして、その必殺の蹴撃を喰らったノイズは、炭素の塊となり、消滅した。

その様子を見て、戦兎は振り返る。

「よし、終わり!」

見れば周囲には、翼とビルド、そして逃げ遅れた女の子のみ以外、炭素の塊しかなかった―――

 

 

 

 

 

数十分後――――

自衛隊であろう組織が現場にやってきて、『立入禁止』と書かれたバリケードを設置。

事態の収拾を行っていた。

その最中で、戦兎はこっそりノイズの炭素を回収しようとしていた。

「よーし」

無事、余っていた空のフルボトルの中にノイズの炭素を入れる事に成功した戦兎。

やはり科学者、探求心と好奇心は留まる所を知らない。

誰にも見られていない事を良い事に好き勝手したい放題である。

そんな中で、戦兎は現場の様子を見渡した。

「しっかし、仕事が速いな・・・」

その場にいる者たちは、それぞれのエキスパートなのか、役割を分担し、炭素の回収や侵入者が入らないように警備をし、保護した少女の面倒もしっかりと見ている。

何度もこういう事を経験していなければ出来ない迅速な行動だ。

「何度もあるんだな・・・こういう事」

ふと、戦兎は新世界を創造する前の事を思い出す。

 

そういえば、自分も戦う事が日常茶飯事だったな。

 

(あの時は自分探しとかで色々やってたけど、あの戦いがあったから今の俺があるんだよなぁ・・・)

宿敵に、生まれてくるべきではなかったと言われた。

だけど、今の『桐生戦兎』と『仮面ライダービルド』を創ったのは、仲間の存在があったからだ。

この胸に『愛と平和(ラブ&ピース)』を掲げられるのも、その仲間たちがいたからだ。

「今どうしてんだろうな・・・」

かつての仲間たちは、この世界で、一体どうしているだろうか。

会いたいとは思う。だが、彼らはきっと、桐生戦兎の事など覚えてはいないだろう。

それでも、会いたい事には変わりない。

「はあ・・・」

「お母さん!」

ふと、あの女の子の嬉しそうな声が聞こえた。

どうやら、母親と再会できたようだ。

「お母さん・・・!」

「ああ、良かった・・・」

その様子を見て、戦兎は思わず顔を()()()()としてしまう。

「良かったな」

「あ、おじさん・・・!」

「おじっ・・・まあいい。ちゃんとお母さんに会えてよかったな」

「うん・・・!」

「あの、もしかして貴方が・・・」

母親が、戦兎を見る。

その問いかけに、戦兎は立ち上がって高らかに言った。

「ええ!この天才物理学者にして自意識過剰な正義のヒーロー桐生戦兎がお助けしました!」

そんな完全にイキっている名乗りをする戦兎に、母親は呆然とするが、

「本当だよ。おじさんが助けてくれた・・・」

「そう・・・・ありがとうございました。娘を助けていただいて」

「いえいえ」

深々と頭を下げる母親に、戦兎は当然の事のように謙遜する。

「あの、お礼は必ず」

「ああ、いいっていいって、そういうのの為に助けてる訳じゃないから」

「ですが」

「大丈夫!もし、何かお礼がしたいなら、そのお礼を娘さんの為に使ってやってください」

「しかし・・・」

「俺はいつだって無償で人を助ける正義のヒーローですので」

そう言って、戦兎は最後までお礼を受け取ろうとはしなかった。

そんな中で、一人のスーツを着た女性が話に割り込んできた。

「お取込み中すみません。この同意書に目を通した後、サインをして頂けますでしょうか?」

そう言って、女性は母親に何やらタブレットを見せた。

「本件は国家特別機密事項に該当する為、情報漏洩の防止という観点から、貴方の言動、及び、言行には今後、一部の制限が加えられる事になります。それと―――」

「えーっと・・・結構あるな・・・・」

とりあえず、ある程度の挨拶をした後にその場を離れ、その親子が無事に帰っていく所を見届けて、戦兎は、先程からこちらを監視していたあの少女を見た。

戦兎の視線に気付いた少女は、すぐさま戦兎に近寄る。

「さっきはありがとうな」

「別に、当然の事をしたまでです」

「そっか・・・あ、そういやお前のあの鎧ってなんなんだよ?」

「まだ引きずるか!?」

「科学者として探求したいのは当然だ!」

そう言って、物欲丸出しで翼に歩み寄ろうとする戦兎。

その戦兎をどうにか押しとどめて、翼は戦兎に告げた。

「とにかく、貴方をこのまま帰す訳にはいきません」

「はあ?」

「特異災害対策機動部二課まで、同行して頂きます」

「ああ、別にいいけど―――」

 

ガチャン

 

問答無用で手錠を掛けられる。

「・・・なんで?」

「すみませんね。貴方の身柄を、拘束させていただきます」

「ッ!?」

戦兎が気付かない間に、彼のすぐ傍に、所謂優男的な男が立っていた。

その気配を、一切気付かせないで。

(いつの間に・・・!?)

なんて思っている間に車に押し込まれ――――

 

 

 

「・・・ここって・・・確か女子校だったよな?」

そうして連れてこられたのは、戦兎がこの世界で最初に目を覚ました『私立リディアン音楽院』だった。

だがそれに答えてくれる者はおらず、そのまま手錠を掛けられたまま廊下を歩く。

「ほえー・・・」

とりあえず道順を覚えるべく、廊下を見回す。

随分と綺麗に掃除されており、設備から見ても、名門だという事も窺い知れた。

そんなこんなで中央棟に案内され、そこのエレベーターに乗る事になる。

男がエレベーター内のある装置に端末を掲げると、扉が閉じると同時に何故か隔壁のようなものが閉まり、さらに床から取っ手のようなものが出現した。

「どーなってんだこれ!?」

当然食いつく戦兎。

「下に設置されてたのか?だとするならば格納する必要がある筈だ。おそらく折り畳み式でさっきの端末を掲げる事で何かのスイッチが起動してそれで―――」

「あのー、危ないので掴まってください」

男に促されつつ、その取っ手に掴まる戦兎。

はて、何故このような取っ手に掴まる必要があるのか。

なんて思っていると、

 

突然、エレベーターが落ちた。

 

「うぉぉぁぁぁぁああぁああぁぁあああぁぁあああ!?」

凄まじい絶叫が戦兎の口から吐き出される。

「び、びびったぁ・・・どうなってんだこりゃ・・・」

どうやら凄まじい速度で降りているようだ。

一体、この下に何があるというのか。

そうしてしばらくすると、突如として視界が開け、そこで見えたのは、様々な模様の描かれた壁が円柱状に描かれている光景だった。

「どうなってんだこりゃ・・・」

もう一度、同じ言葉を言う戦兎。

一体、どれほどの時間をかけてこのような空間を作ったというのだろうか。

戦兎は最初から最後まで興味深々であった。

そんな戦兎の様子を、翼はじっと観察していた。

そうして、エレベーターが止まり、そしてさらに案内された先で――――

 

突如としてクラッカーの音が炸裂した。

 

「ようこそ!人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

やけにガタイの良い男が、そう言い、その周囲ではここの職員と思われる者たちが拍手で戦兎を出迎えていた。

その上の横断幕では、『熱烈歓迎!仮面ライダービルド様』と書かれていた。

その様子に翼は頭を抱え、側にいた優男は苦笑するだけだった。

「は、はは・・・最っ高だ!」

そんでもってなぜか戦兎は嬉しそうだった。

 

 

 

 

「では改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

「そして私は出来る女と評判の櫻井了子。よろしくね」

ある程度落ち着き、手錠を外してもらった所で、自己紹介を始める弦十郎と了子。

「天っ才物理学者の桐生戦兎です!よろしく」

そして戦兎はここぞとばかりに名乗る。

「天才・・・?」

それでもって翼は首を傾げるだけだった。

「君をここへ呼んだのは他でもない。協力を要請したい事があるからだ」

「あのノイズとかいう化け物の事だろ?もちろんいいぜ」

即答する戦兎。

「それもある・・・が、我々が真っ先に知りたいのは、君が変身した、あの『仮面ライダービルド』という姿と力についてだ」

まあ、そうだろう。

あれは彼らにとっては未知の力だ。

地球外生命体エボルトを倒す為に、戦兎の父親の葛城忍が設計し、そして戦兎そのものである葛城巧が創り上げた究極の防衛システムにして兵器だ。

そう易々と教える訳にはいかない。

故に、

「それについては、俺から条件がある」

「なんだ?言ってみろ」

「そこの女の子が使ってた鎧について教えてくれ。それが、俺の持つ仮面ライダーという情報への対価だ」

科学はいつだって等価交換。特に、ライダーシステムだけは絶対に秘匿しなければならない力だ。

それ相応の対価がなければ、話せない。

「ふむ・・・いいだろう。その代わり、こちらが話したら、お前も『仮面ライダー』について教えてくれ」

「よし、交渉成立」

そうして、手頃な部屋にて、あの鎧の事について説明を受ける事となった。

 

 

その部屋にて。

座って向かい合う戦兎と弦十郎。その弦十郎が、後ろに控える翼に視線で合図を送る。

それに、翼は服の下に入れていたネックレス―――その先にある、宝石を取り出す。

「『天羽々斬(あめのはばきり)』、翼の持つ第一号聖遺物だ」

「聖遺物・・・遺跡だとかから発掘された、古代の遺産だとかなんかか?」

「厳密にいえば、世界各地に存在する伝承に登場する、現代の技術では製造不可能な異端技術の結晶の事。多くは遺跡から発見されるんだけど、経年による破損が著しくって、かつての力を秘めたものは本当に希少なの」

「へえ・・・つまり、そこの奴が持ってる宝石みたいなものも、本来のもののほんの一部って事なのか。んでもって力を開放する為には歌を・・・いや、特定の波長をもった声じゃないとダメなのか」

「お、天才と名乗るだけはあるわね。そう、欠片にほんの少しでも残った力を増幅して、解き放つ鍵が、特定振幅の波動なの」

「なるほどなるほど・・・となると・・・」

頭をフルに回転させて、戦兎は一つの結論を導き出す。

「その活性化した聖遺物を一度還元して鎧として身に纏ったのが、あの鎧って事か・・・」

「それが、翼ちゃんの纏うアンチノイズプロテクター『シンフォギア』なの」

「シンフォギア・・・」

自分の知らない、未知の力。よもや、歴史や伝承の産物が実在し、その力を利用する技術を開発してみせるとは。

世界とは広いものだ。

「だからと言って、誰でも纏える訳ではない。聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏える歌を歌える僅かな人間を我々は、適合者と呼んでいる」

「それが、そこの女の子という訳か」

などと返事を返していると、ふと周囲の視線が何やら奇妙なものでも見るような視線である事に気が付いた。

「・・・あれ?俺何かまずい事でも言った?」

「・・・君、風鳴翼を知らないの?」

「風鳴翼?そこの女の子の事か?」

その返しに、周囲は酷く驚いたような表情になる。

戦兎は、ますます訳が分からなくなり、首を傾げるだけ。

「この国民的トップアーティストの風鳴翼を知らない人間がいるなんて・・・」

「どんだけ世間知らずなんだ・・・・」

「・・・え?何?俺何か悪い事をした!?」

その場に居合わせている男女二人組の物言いにさしもの戦兎も混乱する。

「落ち着きたまえ戦兎君。そうだな・・・こいつの名前は風鳴翼。俺の姪に当たる奴で、この日本じゃ知らぬ者はいないと言われる程の大人気歌手だ」

「日本で知らぬ者はいないって・・・すごいなそりゃ」

「・・・どうも」

翼はそっけなく返す。

「まあ、翼ちゃんの紹介はこのぐらいにして、どうかしら?シンフォギアについては少しは理解できたかしら?」

「まあな。俺の知らない技術があるとは、やはり世界は広いものだ」

戦兎はうんうんと頷く。

「それじゃあ、今度は君の番だ」

「っと、そうだったな」

そこで戦兎は少し考え、そして、説明する為の文章を脳内で構築。

それを速攻で組み立てて、戦兎は懐からビルドドライバーを取り出して、それを目の前の机の上に置いた。

「これは・・・」

「ビルドドライバー。この俺の発・明・品!にして、仮面ライダーに変身する為の必須アイテムだ」

そして、二つの小さなボトル『ラビットフルボトル』と『タンクフルボトル』を取り出し、それをビルドドライバーの横に置く。

「そんでもって、これはフルボトルと言って、特殊な成分が入った特別なボトルだ」

それらを並べて、戦兎は話す。

「この二つを使って、変身する――――」

 

 

 

 

 

 

「―――と、いう訳だ」

戦兎は、仮面ライダーの事を隅々まで話した。

流石に新世界創造だとかエボルトだとかの事とかは伏せ、自分は父親の設計した物を完成させたとか適当な事(嘘は言ってない)を抜かしつつ、重大な部分だとかはぼかして説明した。

ボトルの成分だとか、このスカイウォールの無い世界では、というかエボルトがいなければ製造されていなかった代物であるが故に、既に作られていて、そしてそれを創った父親は死んでいるという事にしておいた。

こういう理由なら、複製しようなんて考える者もいないだろう。

「なるほどな」

ビルドに事について話しきると、弦十郎は腕を組んで頷く。

「にわかに信じられんが、あの姿と強さも見れば、それも頷ける」

「この小さなボトルが、ねえ・・・」

「・・・」

(あの驚異的な身体能力は、あのボトルの所為だったのか・・・)

了子がラビットフルボトルを片手に、信じられないとでも言うように呟き、一方の翼は、戦兎が見せた身体能力について、合点がいったという顔をしていた。

そこで試しに了子がラビットフルボトルを振り、移動して見せると。

「うわっと!?」

凄まじい速度で部屋を駆け巡った。危うく壁にぶつかりそうになるも、ギリギリの所で止まる。

「すっごぉい!本当なのね!振ればボトルの力を使えるのって!」

了子が興奮している傍ら、弦十郎は真剣な眼つきで戦兎に尋ねる。

「戦兎君。そのビルドドライバーは誰でも扱えるのか?」

それは、おそらく、戦えない者故の問いかけだろう。

あんな、年端もいかない少女に、人類守護の要を任せる。それが、大人にとってどれほど悔しい事か。

しかし、戦兎は首を横に振る。

「いや、使えるのは、ある条件を満たしている人間のみだ」

「その条件とは?」

「・・・・ハザードレベル。いわゆる、ベルトを使うための能力値って奴か・・・」

かいつまんで説明してみる。

 

ハザードレベル。

それは、かつてのスカイウォールから抽出される『ネビュラガス』に対する耐性を意味する。

普通の人間では、注入した時点で消滅、あるいは『スマッシュ』と呼ばれる怪人へと変異してしまう。

だが、極稀にネビュラガスを注入されてもスマッシュにならないケースの人間が存在し、そういった人間のみ、ライダーになる事が出来る。

 

戦兎は、その水準がどれくらいのものかというものを伏せて、あくまで仮面ライダーになれる基準として弦十郎に説明する。

「そうか・・・」

弦十郎は、非常に残念そうにそう返事を返した。

その様子を見かねた戦兎は、立ち上がって言う。

「大丈夫だって!この正義のヒーローの桐生戦兎が、ノイズの脅威から人々を守りますから!」

「自分からヒーローだというか。変わってるな君は」

「ヒーローですから」

なんの恥ずかし気もなく言ってのける戦兎に、弦十郎は笑う。

一応、調子を取り戻したのか、弦十郎は立ち上がって戦兎に問いかける。

「では、協力してくれるって事でいいかな?」

「ああ。人々の平和を守るのも、仮面ライダーの仕事だからな」

「なら歓迎しよう、桐生戦兎君。君を正式に二課の職員として認める。今後の活躍を期待している」

「こちらこそ、よろしく」

そう言って、握手を交わす二人。

だがそこで、今まで沈黙を貫いていた翼が、口を挟んだ。

「司令、少しよろしいでしょうか」

「ん?どうした翼」

弦十郎の問いかけに、翼は、戦兎と向き合った。

「何故、ヒーローである事に固執する?」

「え」

「それは生半可な覚悟で口にしていい言葉ではない。ましてや、我々が相手にしているのはノイズ。普通の人間では、太刀打ちする事すら出来ない、人類の天敵だ。そんな脅威を前にして、貴方は果たして、その信念を貫けるの?」

「・・・・」

翼は、問いただす。

「貴方の戦う理由は何?」

その、翼の鋭い視線と問いかけに、戦兎は、答える。

 

「―――『愛と平和(ラブ&ピース)』」

 

それは、即答だった。

何の躊躇いもなく、惜しげもなく、するりと戦兎の口から出てきた。

しかし、それは戦兎にとってはあまりにも当たり前な言葉。

彼の、信念を体現したかのような言葉だ。

「・・・愛と平和の為と言うか」

「一つ教えといてやる。くしゃっとなるんだよ」

「くしゃ・・・?」

戦兎の言葉に、訳が分からず翼は首を傾げる。

「誰かの力になれたら、心の底から嬉しくなって、くしゃっとなるんだよ。俺の顔」

それは、あの時、小さな女の子が母親と再会できた時に戦兎が見せた笑顔。

誰かの力になれた。誰かの為になれた。そう思うだけで、戦兎は心の底から嬉しくなって、その笑顔を見せる。

愛と平和(この言葉)が、この現実でどれだけ弱く脆い言葉かなんて、分かってる。それでも俺は謳うんだ。愛と平和は俺がもたらすものじゃない。一人一人がその思いを胸に生きていける世界を創る・・・その為に、俺は戦う」

確固たる意思をもって、戦兎は翼に言い切って見せる。

愛と平和を胸に生きる、桐生戦兎だからこそ言える、彼の捻じ曲がる事の無い信念。

「・・・それは、決して容易い道じゃない」

「知ってる。だけど俺はその為に科学者になったんだ。どれだけ時間がかかってもいい。俺は、そんな世界を目指したい」

生半可な覚悟などではない。

戦兎は、ことこの事に関しては本気も本気だ。

「・・・・そうか」

それを改めて理解した翼は、手を差し出す。

「私は風鳴翼。第一号聖遺物『天羽々斬』のシンフォギア装者にして、防人だ」

それに、戦兎は答えるように、その手を握り返す。

「俺は桐生戦兎。仮面ライダービルドで天才物理学者だ。よろしくな」

 

 

愛と平和を胸に戦う正義の兎と過去を引きずりなおも戦う比翼の剣―――相反する二つの性質を持つ二人。

 

それが、新たなベストマッチ(シンフォニー)を生み出すとは知らずに。

 

しかし、彼らは知る由もない。

 

 

 

 

 

 

今、この瞬間、強大な魔の手が迫ってきている事に――――

 

 

 




次回の愛和創造シンフォギア・ビルドは!

「天才物理学者の桐生戦兎です」

まさかの教師に就職する戦兎。

「何故これとこれがベストマッチとかなんだ?」

「すごいでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ?」

ビルドについて興味津々な翼。

「ノイズです!」

そしてまた出現するノイズ。その渦中に、戦兎は、相棒の姿を目にする。

次回『覚醒!完封!クローズ&ガングニール!』

「ば、万丈・・・!?」

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