マ「いわば戦兎と翼の初デートって所ね」
翼「はう・・・」
ク「・・・・」
未「ん?どうしたのクリス?」
ク「・・・ふんっ!」龍我に向かって腹パン
龍「うげあ!?」クリスに腹パンされる
ク「龍我の馬鹿!」
龍「何故だ・・・」
響「アハハ・・・それで、前回ですが、クリスちゃんが歌いました」
切「そして、アタシたちがクリス先輩に喧嘩を売ったのデース!」
調「という訳で、負けない」
慧「俺もみたかったなそれ」
調「そ、そう・・・」
シ「はあ・・・まあ、それはともかくだ」
マ「では、今回はシンの過去が明らかになる第二八話をどうぞ!」
突如として、カラオケ大会の会場にその姿を見せた調と切歌。
「翼さん、戦兎先生、あの子たちって・・・」
「ああ・・・だが一体なんのつもりだ?」
一体、何が目的で姿を現したのか。
「ただの対抗心からじゃねえのか?」
「馬鹿は黙ってろ」
龍我の言葉を一蹴しつつ、戦兎はなおも二人から目を放さない。
「キュルル・・・」
警戒して唸るクロを一度みつつ、未来は響に尋ねる。
「響、あの子たちを知ってるの?」
「あ、うん・・・あのね未来・・・」
響がどう説明しようかと悩んでいると、おもむろに翼が立ち上がって説明する。
「彼女たちは、世界に向けて宣戦布告し、私たちと敵対するシンフォギア装者だ」
「じゃあ、マリアさんの仲間なの?」
「ああ」
「ライブ会場でノイズを操って見せたのも、あの人たちなんです」
セレナが、捕捉を加えて、彼女たちを見上げた。
その一方で、港近くの倉庫内にて、フィーネの所有する飛行機は隠されていた。
その中で―――
「よし、全快だ」
包帯を取り、体の動きの調子を確認してそう言うシン。
「あまり無理しないで」
「ハザードレベルが上がっているお陰で傷の治りが早くなっている。だからもう心配はない」
マリアの言葉にシンはそう返す。
事実、慧介も既に傷は治している。
しかしマリアはその返しに、俯いてしまう。
「マリア・・・」
「後悔しているのですか?」
そんな中、同じ部屋にいたナスターシャがそうマリアに言う。
その言葉に、マリアは首を横に振る。
「大丈夫よマム。私は、私に与えられた使命を全うしてみせる」
そうマリアが言った直後、シンはおもむろに壁の方を見た。
「シン?」
「・・・・敵襲だ」
「なっ!?」
その言葉に、ナスターシャはすぐさまモニターを映し出す。
そこには、徐々に集まりつつある戦闘服を着て武装した集団が映っていた。
「今度は本国からの追手・・・」
「もうここが嗅ぎ付けられたの!?」
「異端技術を手にしたとっても、私たちは素人の集団・・・少年兵であったシンがいても、訓練された集団を相手に上手く立ち回れるなど、虫が良すぎます」
それは事実であり、実際に奴らにここを特定されてしまっている。
シンも元少年兵と言えど、彼は作戦参謀を任された存在ではなくあくまで戦闘員。その場その場の判断において長けてはいても、本気で作戦を立てる相手に、勝てる訳がない。
「どうするの?」
「俺が出る」
すぐさまシンが申し出る。
「いくら元少年兵である貴方でも、それでも七年のブランクがあります。ライダーシステムがない状態でどれほど戦えるか」
「問題ない。勘は十分に取り戻している」
ナスターシャの言葉に、シンはそう返す。
「だったら俺も・・・」
「お前はダメだ。それに相手はただの人間。ライダーシステムを使うまでもない」
シンはそう告げると、すぐさま部屋を出ていこうとする。
「待ってシン、相手はただの人間だとしても銃をもっているのよ?いくら貴方でも・・・」
「問題ない。全て斬るまでだ」
シンはなんでもない、とでも言うように言い返す。
「だとしても・・・・」
「マリア」
それでも食い下がろうとするマリアに、ナスターシャが厳しい声で言う。
「ライブ会場の時もそうでした。マリア、その手を血に染める事を恐れているのですか?」
「マム、私は・・・」
その言葉に、何も言い返せないマリア。
「だからこそ」
そんな中で、シンが言う。
「俺が代わりに血を浴びるんだ」
「シン・・・?」
マリアの方を見ず、シンは部屋を出ていく。
「待って、シ―――!」
マリアが何かを言いかけるが、それを無視してシンは駆け出す。
「ジェームズ博士、敵襲だ。刀の方は出来ているか?」
ジェームズの部屋に駆け込み、シンは尋ねる。
「そこに立てかけてある。それを使え」
机に座って作業に没頭しているジェームズの言葉に横を見れば、機械的な鞘に納められた一本の刀が置いてあった。
「完全聖遺物『
「完全聖遺物だと?どうやって起動した?」
「あのライブ会場の時だ。ネフィリムと一緒に起動した」
「そうか」
深くは聞かない事にする。
それを肩にかけ、すぐさま部屋を出ていく。
そして、部屋を駆け出ていく。
明かりの灯った会場にて、調と切歌の二人が階段を降りてステージに向かってくる。
そして、切歌はクリスに向かって目の下を引っ張って舌を出した。
「べー!」
「ッ!」
完全にこちらを馬鹿にしている行為にクリスは思わず頭にくる。
しかしここで暴力に訴えかける程彼女も愚かではない。
「切ちゃん、私たちの目的は?」
「聖遺物の欠片から作られたペンダントを奪い取る事デース」
「だったら、こんなやり方しなくても・・・」
調が呆れたように言う。
「なるほどな・・・・」
その一方で、ラビットの能力で二人の会話を盗み聞いた戦兎は納得した様子で二人を見ていた。
「どうだった?」
「どうやらシンフォギアのペンダントが狙いらしい・・・」
「シンフォギアって、なんで・・・!?」
「それは分からない・・・だけど・・・」
一つだけ確信している事がある。
「聞けば、このステージを勝ち抜けば、望みを一つ叶えてくれるとか。このチャンス逃す訳には・・・」
「面白ぇ、やりあおうってんならこちとら準備は出来ている」
「クリスが売られた勝負を買わない訳がないんだよなぁ・・・」
戦兎の予想通り、クリスは勝負を受けて立ったのだ。
呆れない訳がない。
そんな中で、調の溜息が一つ。
「特別に付き合ってあげる。でも忘れないで。これは・・・」
「分かってる。首尾よく果たして見せるデス!」
切歌が不敵に言って見せる。
そうしてステージの上に立つ調と切歌。
「それでは歌っていただきましょう!えーっと・・・」
「月読調」
「暁切歌デース!」
「オーケー!二人が歌う、『ORBITAL BEAT』!もちろんツヴァイウィングのナンバーだ!」
そうして流れる前奏に、観客席の響達は驚く。
「この歌・・・!?」
「翼さんと奏さんの・・・!?」
「なんのつもりの当て擦り・・・」
「なんだ誘ってんのかあいつら?」
「まあ、挑発なんだろうな」
聖遺物の欠片を使っているペンダント。それを使って、一体何をしようというのか。
そして、調と切歌による、
倉庫の外で待ち構える武装集団。
壁に爆弾を取りつけ、爆発による混乱に乗じて一気に制圧するつもりなのだろう。
しかし、倉庫の扉の面のすぐ横の面の壁が、突如として吹き飛んだ。
「ッ!?」
「なんだ!?」
思わず驚く戦闘員たち。巻き起こる粉塵の中、微かに光る、青白い光―――
それが迸った瞬間、その粉塵より一番近かった戦闘員の首が跳ね飛ぶ。
「「「な―――ッ!?」」」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。しかし、その青白い光が再び迸った時、その姿を認める前にまた一人から鮮血が舞う。
その光景に、彼らは後ずさる。
それもそうだろう。
今時リアルなスプラッタなんてありえないのだから。しかし、それは現実だった。
青白い光を放つ刀を片手に―――シンは、血塗れでそこに立っていた。
「・・・・」
ただ、シンはそこに立ち、後ずさる彼らを見据える。
そして―――
「・・・このまま退いてくれるというのならこれ以上死人は出ない。だが、このまま続けるというのならば・・・」
切っ先を向け、そして柄を顔に近付けるように構えて、シンは警告する。
「全員斬る」
その眼光に当たられた彼らは―――
「う、撃てぇぇぇええ!!」
恐怖に負けて、シンに向かって銃撃を開始した。
その弾丸の嵐を、シンはその手に持つ刀―――完全聖遺物『雷切』の能力を開放する。
雷切―――人が作った、通常の聖遺物よりも遥かに力の劣る人造聖遺物の一つ。
伝承において、雷の中の雷神を切ったとされるその刀は、その身に雷を纏い、操る。
それによって引き起こされる体内を駆け巡る信号を加速させ、筋肉を強制稼働。それによって直撃する弾丸を叩き落し、そして、放たれた弾丸の嵐を駆け抜ける。
そしてすれ違い様に一人を切り伏せ、すかさずその横にいる一人を先ほど切った一人の背後から周り背中から心臓を一刺し。そして引き抜くと同時にその後ろにいた一人を袈裟懸けに叩き切り、最後の一人の首に雷切を突き刺す。
その間、僅か三秒。
「がは・・・」
何が起きたのか分からず、絶命する戦闘員たち。
最後に突き刺した一人から刀を抜いて、刀についた血を払う。
完全聖遺物なのは刀身だけ、即ち柄は人工物――――しかも高周波ブレードとしても機能しているため、その切れ味は、この世のどの武器よりも鋭利となっている。
そして、その中の一人が、こうつぶやいた。
「・・・白い・・・悪魔・・・」
血塗れで佇むシンに向かって、死にかけの兵士が、そう呟いた。
その様子は、監視カメラから見えていた。
すぐさま異変に気付いた他の部隊が警戒する中、シンは何の躊躇いもなしに走り出す。
「う・・・」
そして、その惨状に、マリアは思わず手で口を抑えて目をそらす。
慧介もその様子に戸惑いを見せ、ただナスターシャだけは、そのシンの姿から目をそらさなかった。
(白い悪魔・・・
かつて、少年兵だったシン。しかしこれは本当の名前ではない。
ナスターシャが自らの養子とした際に与えた名である。
その本名は――――ジャック。
アフリカ大陸における戦争において、その名を馳せた兵士部隊がいた。
決まった名はなく、その構成員から、『
所属する者全てが一流の戦闘能力を有する
それぞれがかつて凶悪な殺人事件を引き起こしたシリアルキラーの名前を冠し、シンは、その一人―――刃物使い『
刃物を使わせれば右に出るものはおらず、戦場で彼が通った場所には必ず血の海が出来る程だと言われていた。
事実、弾丸よりも出血量の多い刃物であるなら、一度斬れば多くの血が流れるのは当然の事だ。
しかし、彼が刃を振るえば、間違いなく血の海が出来上がったのは事実だった。
浴びる血は全て敵の血。
白髪色白という事で、『白い悪魔』とも呼ばれ、まさしく彼の名は一躍有名だった。
やがて、その国での戦争は終結を迎え、『幼き殺人者たち』は、原因不明の解散を遂げ、シンはただ一人、戦争が終結した戦場に佇んでいた。
そして、そんな彼を拾ったのが、ナスターシャだった。
そして、自分の養子として『シン・トルスタヤ』の名を与え、レセプターチルドレンとしてF.I.Sの研究所に迎え入れた。
それが、『ジャック』であり『シン・トルスタヤ』という一人の少年だった。
シンが刃を振るえば、その分大量の血が広がる。
(貴方は、今でもその血濡れた刃を振るうのですね・・・・)
そんな血塗れのシンを見て、ナスターシャはそう思った。
しかし、別のモニターに映る兵士が、突如としてどこかに向かって発砲していた。
そしてすぐさま、そのうちの一人が、真っ黒な塵となって消滅した。
その光景に、彼女らは見覚えがあった。
「炭素・・・分解・・・・?」
モニターに映るもの。戦闘員たちを炭素分解させられるものなど、この世に一つしか存在しない。
ノイズだ。
そしてそれを召喚しているのは―――ウェルだ。
「ドクターウェル・・・!?」
『でしゃばり過ぎだとは思いますが、この程度の敵、僕一人で十分ですよ』
その手には、ソロモンの杖。その杖を使って、ノイズを呼び出しているのだ。
戦闘員たちが反撃する。しかしその放たれた弾丸はノイズたちによって阻まれ、また別のノイズが彼らに近付き、そして触れた瞬間から一気に炭素分解していく。
モニターから、彼らの悲鳴があがる。
シンとウェルによる殺戮が、モニターの奥で繰り広げられていた。
その様子に、マリアは、歯を食いしばって、必死に耐えていた。
調と切歌の歌が終わりを告げ、会場からクリスの時と同様の歓声があがる。
その歓声に調は呆然とし、切歌は素直に受け取っていた。
そんな二人の様子に、彼らは戸惑いを隠せなかった。
「翼さん・・・」
響が翼に尋ねる。
「・・・何故、歌を唄う者同士が、戦わねばいけないのか・・・」
その切実な想いに、戦兎たちは、何も言えなかった。
「すごい音がしてたのここじゃない?」
そう言って、倉庫の近くにやってきたのは、これから球団へ向かう子供たち。
「どうせ何かの工事だろ?」
「早く練習に行かないと、監督に怒られるってば」
そんな風に軽口を叩き合っていた。
しかし―――
「うわぁぁあ!!」
誰かが、路地裏から出てきた。そしてその途端、黒い炭素となって、欠片も残さず消え去った。
子供たちは、何が起きたのか分からず茫然としていると、先ほど炭素とかした人間が出てきた所から、白コートを着た男が出てくる。
「おやおやぁ?」
ウェルだ。
だが、ウェルはその子供たちを確認すると、怪しい足取りで彼らに近付く。
『やめろウェル・・・』
その行為に、マリアは、気付く。
『その子たちは関係ない!』
しかしウェルは止まらない。
ソロモンの杖を掲げて、ノイズを召喚する。
『やめろぉぉぉおお!!』
そして、そのノイズが、子供たちに向かって迫る。
『シン――――ッ!!!』
もはや願望に近い形で、マリアはシンの名を呼んだ。
次の瞬間、雷鳴が轟き、ノイズのみが炭素となって消え去る。
「・・・なんのつもりですか?」
ウェルが、つまらなそうにそう尋ねると、全く反応出来ない速度でその首に刃が押し当てられる。
「ぐ・・・く・・・!?」
その行為に、ウェルは動く事が出来ない、一方のその刃を向けた者であるシンは、恐ろしい眼光でウェルを見上げていた。
「それはこちらのセリフだ。民間人にまで手を出す必要はない」
「はっ・・・『
「どうせここはノイズを出した時点で奴らに特定されるのは目に見えている。始末した所で手遅れだ。そして――――」
刃を、ウェルの首に押し当てる。
「俺は貴様が気に入らん」
そしてウェルをどつく。
「ぐう!?」
「貴様は戻って聖遺物奪取の為の算段でも考えてろ」
「く・・・後悔しますよ?僕に向かってこのような事・・・」
「―――ここで死ぬか?」
その手の雷切の真っ赤な刀身を捻って見せて、そう言うシン。
「ぐ・・・」
その眼光に完全に威圧されたウェルはそれ以上何も言えなくなり、立ち上がって倉庫へ戻っていく。
その様子を見送りつつ、シンは後ろを見る。
そこには、何が起きているのかさっぱり理解できていない子供たちの姿があった。
シンは、血塗れのまま彼らに向かって歩み寄り、そして言う。
「ここで見た事は全て忘れろ」
「え?」
「さっさと消えろッ!俺の気が変わらないうちになッ!!」
鬼の形相で怒鳴れば、彼らはすっかり怯え、乗っていた自転車を全力でこいで逃げていく。
「・・・・」
『お疲れ様です、シン。すぐに帰投してください。戻り次第出発します』
「了解だ」
ナスターシャからの連絡を聞き受け、シンは踵を返す。
ふと、シンは自分の血塗れの手を見た。
(・・・久しぶりに、血を浴びた・・・)
もう七年も前になる。
レセプターチルドレンとして、白い孤児院に入ったのは。
その以前まで、自分は―――
(やめよう・・・)
首を振って、その過去を振り払う。
(もう、戻る事はないんだ・・・)
あの時に、戻る事なんて、二度と――――
歓声が収まらぬ中、その中心人物である調と切歌に、司会が賞賛を送る。
「チャンピオンもうかうかしていられない、素晴らしい歌声でした!これは得点が気になる所です!」
確かに、クリスの時もそうだったが、彼女ら二人の歌もすさまじかった。
クリスの歌が野原のように穏やかなものであるなら、彼女らの歌はまさしく烈火の如き勢いのあるもの。
対極ではあれど、その凄まじさはクリスのものと引けを取らない。
「二人がかりとはやってくれる・・・!」
一方のクリスもそれは認めていた。
その事に得意気になろうとした所で、二人の通信機に連絡が入る。
『アジトが特定されました』
「「ッ!?」」
『襲撃者を退ける事は出来ましたが、場所を知られた以上、長居は出来ません。私たちも移動しますので、こちらの指示するポイントで落ち合いましょう』
「そんな、あと少しでペンダントが手に入るのかもしれないのデスよ!?」
『緊急事態です。命令に従いなさい』
有無を言わせぬ言動で、通信を切られる。
それに、二人は悔しそうに俯く。
「何かあったのか?」
「何が聞こえた?」
翼が訪ねる。
「通信機で誰かと連絡を取っていたみたいだが、相手との会話は聞き取れなかった」
「そうか・・・」
「あ・・・!」
響が声を挙げる。その視線の先では、調が切歌を連れてさっさと壇上から降りていくのが見えた。
「さあ、採点結果が出た模様です・・・ってあれ?」
「ッ!?おい!ケツをまくるのか!?」
クリスの声にも目もくれず、二人はさっさと出ていこうとする。
「調!」
「マリアやシン、それに慧くんもいるから大丈夫だと思う・・・でも、心配だから・・・」
そう言われると、切歌は何も言えなくなってしまう。
「追うぞお前ら」
戦兎が立ち上がってそういう。
「おう」
「ああ」
それに、翼、龍我、そして響が続く。
「分かりました・・・未来とセレナちゃんはここにいて」
響が、二人にそういう。
「もしかしたら、戦う事になるかもしれない」
「う、うん・・・」
クロも響と共に、行ってしまう。
そんな彼らを見送り、未来は両手を合わせ、呟く。
「響・・・やっぱり、こんなのって・・・・」
「未来さん・・・」
そんな未来の様子に、セレナは何も言えなかった。
学園の敷地内を走る調と切歌。
その前をふと、大きなくじらの模型が通り過ぎている。
二人は、それを茫然に見る。
まるで楽しそうだ。
自分たちは、こんなにも苦しいのに。
「くそ・・・どうしたものかデス・・・!」
切歌が、悔しそうに言う。
そうしてそのクジラの模型が通り過ぎた所で、行こうとした所を、翼と戦兎に遮られ、後ろからクリス、響、龍我の三人が塞ぐ。
「・・・切歌ちゃんと調ちゃん・・・だよね?」
響がそう尋ねる。先ほど、そう名乗っていたから当然だ。
「五対二・・・数の上ではそっちに分がある・・・だけど、ここで戦う事で貴方たちが失うものの事を考えて・・・」
そう言って、調はこの場に来ている民間人を見る。
「お前、そんな汚い事言うのかよ!?」
「さっき、あんなに楽しそうに歌ってたのに、なんでそんな事言うんだ!?ていうかそもそもなんで戦う事前提なんだ!?もっと頭使え!」
「お前は言い過ぎだ」
それを言われて、切歌は、しばし考えた後、苦し紛れにある事を言い出す。
「ここで戦いたくないだけ・・・」
そしてびっとクリスたちの方を指差して宣言する。
「そうデス決闘デス!」
「は?」
「しかるべき決闘を申し込むのデス!」
「いや馬鹿かお前」
龍我がばっさりと言ってしまった。
「別に会ったからって必ず戦わなくちゃいけない訳じゃないだろ?」
「そうだよ!会えば戦わなくちゃいけないって訳でもない訳でしょ?」
「どっちなんだよ!?う・・・」
「どっちなんデス!?あ・・・」
思いっきりかぶる。
(なんかの恒例行事かなんかなのか・・・?)
被った事が恥ずかしいのか顔を赤くするクリスと切歌の様子に戦兎は呆れきる。
「決闘の時はこちらが告げる。だから・・・・」
調は切歌の手を取って、さっさと行ってしまう。
「待てよ」
しかし、そこで戦兎が呼び止める。
「決闘を始めるのはいい。だけど、その前あの慧介って奴からスクラッシュドライバーの使用をやめるように言ってほしい」
そういうと、調は鋭い視線で戦兎を睨み返す。
「それは貴方たちのメリットにしかならない。それに、そうする理由が見当たらない」
「あれを使い続ければ、いつか暴走して死ぬぞ。アイツ」
「「・・・・!?」」
その言葉に、調と切歌は目を見開く。
「あれを作ったのは俺だ。あのドライバーは、体内のアドレナリンを過剰に分泌して闘争本能を刺激して戦闘力を高める。だがその反面、体への負担はすさまじい事になる。あのまま使い続ければ、いずれは意識を失う程のダメージを負う筈だ。さらに、闘争本能を刺激されるから、使えば使う程戦いを求めるようになる」
「で、でも、最初の変身では、そんな事・・・」
「最初の一回はな」
切歌の言葉を、龍我が遮る。
「だけど、使い続ける度に、自分が何をしたいのか見失って、ただ戦いたいとだけしか思わなくなる。それで体がボロボロになって、いつかは訳が分からず倒れちまう。そうなっちまったら、もう止める事は出来ねえぞ」
「だ、だったら、なんでお前は無事なんデスか!?」
切歌の指摘は最もだ。
龍我もスクラッシュドライバーを使う事が出来る。だけど、であるならばどうして今、こうしてここにいるのか。
「確かにスクラッシュドライバーの暴走は意思の力で克服する事は可能だ。だけど、それまでに死なないとは限らない。スクラッシュドライバーを使いすぎて、克服する前に身を亡ぼす事になるかもしれない。だから・・・」
「克服できるのなら、それで十分」
調が、戦兎の言葉を遮る。
「慧くんなら、きっと暴走を克服してくれる」
調は、それだけを言って、さっさと行ってしまう。
「行っちまいやがった・・・」
龍我がそう呟いた時、彼らが携帯しているインカムに二課から通信が入る。
『五人ともそろっているか?』
相手はもちろん弦十郎だ。
『ノイズの出現パターンを検知した。まもなくして反応は消失したがな。念のために周辺の調査を行う』
「分かった」
「「はい」」
「ああ」
「おう」
五人は、すぐさま二課に向かった。
二課仮説本部にて。
(遺棄されたアジトと、大量の切断された斬殺死体とノイズ被災者の痕跡・・・それも、死体の方はアメリカの特殊部隊の人間ばかり・・・これまでと違う状況が、一体何を意味しているのか・・・)
顎に手をあてて、弦十郎は思案する。
そこへ、藤尭が弦十郎にある事を報告する。
「司令、永田町都心部電算部による、解析結果が出ました。モニターに回します」
そう言って、正面モニターに映し出されたのは、奇妙な形をした図形。
それが、アウフヴァッヘン波形だ。
それが二つ、全く同じ形の色違いの図形がそれぞれ映し出された。
「誤差、パーツは、トリオンレベルにまで確認できません」
それはつまり、全く同じだと言う事。
それは、響のガングニールの波形と、マリアのガングニールの波形と全く同じだという事を意味していた。
その事実に、彼らは一様に驚愕した。
「マリア・カデンツァヴナ・イヴの纏う黒いガングニールは、響君のものと寸分違わぬという事か・・・」
がっくりと弦十郎は現状を把握する。
「響さんとマリアさんのが・・・」
セレナが、そう呟く。
「私と、同じ・・・」
響が、胸に手を当てて呟く。
これから考えられる事は、フィーネ―――米国政府と繋がっていた了子によってガングニールの一部が持ち出され、創り出されたと考えられる。
しかしそれはそれで謎がある。
米国政府は了子の研究を狙っているが、F.I.Sという機関があり、シンフォギアが作られているというのなら、もう狙う必要などどこにもない筈なのだ。
しかし、現在、F.I.Sは暴走している。
これから考えられることは―――
「―――向こうは米国政府にすら聖遺物に関する情報を秘匿・独占し、そしてその管理下から離れ、独自判断で動いているって所か・・・」
戦兎が顎に手を当てて、そう推察する。
「F.I.Sは、自国の政府まで敵に回して、何をしようと企んでいるのだ・・・」
弦十郎のその問いかけに、誰も答えるものはいなかった。
六年前―――
「・・・」
自室にて静かに本を読んでいたシン。しかし、突如として部屋が揺れた事に気付く。
「なんだ・・・?」
―――この時、シンがいたF.I.Sの研究所では、ネフィリムの起動実験が行われていた。
しかし、歌を介さずしての起動ではネフィリムは制御出来ず、今現在暴走状態に陥っているのだ。
そしてシンは、その状況において未だ抜けきらない少年兵時代の勘をもって判断。
今起きている状況について考察、そして―――何かあったのでは、と推察した。
その結論に至ったシンはすぐさま部屋を出た。途中、警備員がいたが、すぐさま締め落として突破し、揺れの中心へと走った。
とにかく、今は一体何が起きているのか把握しなければ。
「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」
「・・・!?」
突如聞こえた、歌に立ち止まるシン。
「なんだこの歌は・・・」
当時、シンはまだ、セレナがシンフォギア装者だという事を知らなかった。
シンが来たのは、起動実験の二ヶ月前。その時はまだ、フィーネの器の候補である、レセプターチルドレンの一人だったが故に、そして、まだセレナとマリアと大きな接点を持つ前だったからだ。
「―――Emustolronzen fine el baral zizzl―――」
どこから聞こえるのだろうか。この、清らかで、穢れを知らないような歌は。
「向こうか?」
その声を辿り、シンは走る。
だが―――突如として目の前から、凄まじい衝撃が叩きつけられた。
「何っ・・・!?」
思わぬ事態に反応できず、シンは、そのまま吹き飛ばされる。そして、壁に激突し、意外にも呆気なく気を失ってしまった。
「ぐ・・・ぅ・・・・」
気が付いたのは、警報がけたたましく鳴り響いていた時の事だった。
眼を開き、視線を動かして自分が倒れている事を認識し、少し痛む体を起こす。
「何が起きた・・・?」
まるで訳が分からない。だが、今はとにかく動かねばならない。
その結論に至ったシンは立ち上がり、走り出す。
そうして、風に混じった熱風から、その奥の状況を察し、そして、自分から飛び込む。
―――そこはまさしく、惨劇の場だった。
天井は崩れ去り、炎は燃え盛り、ありとあらゆる機器が派手に壊れていた。
そして、その惨状の中、一人佇む少女がいた。
「アイツは・・・」
「セレナ・・・セレナぁ!」
誰かが、誰かの名を呼ぶ。
気付けばもう一人いる事に気付いた。しかし、その頭上から瓦礫が降ってきていた。
「ッ・・・!」
思わず声をあげようとしたが間に合わない。瓦礫は、声を挙げた直後にその少女の頭蓋に直撃し、砕くだろう。
そんな事を呑気にも考えてしまい、それによって焦りが加速してしまう。
だが、そこへ背後からもう一人がその少女を後ろから押し退ける。
そして、少女の代わりに、その人物の足が下敷きとなる。
(助かった・・・のか・・・?)
否、である。
先ほどの崩れが原因で、一気に崩れが広がり始めたのだ
「まずい・・・」
ここに来て、最悪の展開。このままでは、あの少女はともかく、その向かい側にいる少女が下敷きとなってしまう。
「チッ」
小さく舌打ち、シンは駆け出す。
(全く、なんて所に連れてきたんだ貴方は・・・)
瓦礫を踏み分け、尚且つ最短ルートで突っ走る。
そして、シンは、少女を――――
「・・・・ん」
目を、開いた。
「眠っていたか・・・・」
目を擦り、状況を把握する。今、自分が着ているのはTシャツとボタンを留めていない白いシャツとスーツパンツだけの服装。
視線を動かせば、そこには血塗れのスーツやシャツなどが乱雑に置かれていた。
「・・・・・」
それを一瞥し、シンは立ち上がる。
(マリアには、悪い事をした・・・)
そうして、シンは、雷切を片手にナスターシャの元へ行くのだった。
次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!
無事、マリアたちと合流する調と切歌。
「決闘すると、そう約束したから・・・・」
そんな二人を叱責するナスターシャ。
「そのくらいにしましょう」
しかしウェルがそれに賛成、ジェームズも決闘に賛同する。
「ここでやるなんてな・・・」
決闘の場にやってくる二課の装者とライダーたち。
そこで待ち受けていたのは――――
「俺・・・は・・・負けない・・・!!」
「何を企てる!?F.I.S!」
「―――もっと多くの誰かをぶっ殺してみせる訳だァ!!」
「それが、私のシンフォギアだぁぁぁぁああ!!!!」
次回『彼の地にてのデュエル』
「慧くん、やめてぇぇえ!!」