翼「物理教師という二面性生活を送る桐生戦兎。しかし今回の主役はそんな桐生戦兎ではなく、彼の相棒である万丈龍我である」
万「やっと俺の出番か」
戦「んな訳ないでしょーが、この物語の主人公にして主役は俺。OK?」
翼「残念だがこの物語の主人公であったとしても、今回の主役ではないからな?」
響「あ、なんだか戦兎先生と翼さんの出番ほんの少しみたいですよ」
戦「しかーし!この物語の主人子は俺!桐生戦兎だからな!」
万「なんでそんな必死なんだよ?」
翼「この際見苦しいな」
響「えーっと、では、私、立花響と龍我さんが変身―――」
戦「――しない仮面ライダービルドが活躍―――」
翼「―――しないしちゃんと二人が変身する第四話をどうぞ」
戦「俺の出番がぁぁああ!」
OP『Be The One(By Tsubasa Kazanari〈CV.Nana Mizuki〉)』
戦「自分の願望書いてんじゃないよ・・・まあ俺も聞きたいけど」
翼「そ、そうか・・・」
作「水樹奈々さんBe The One歌ってくんねーかな~」(願望)
―――
何故いきなり彼女の事を話したのか。理由は、彼女がガングニールの装者なのだが、何故彼女が装者として覚醒したのかは、事の始まりを昨日の夕方にまで遡る必要がある。
事の始まりは昨日の帰りに拾った謎のボトルだった。
「なんだろう。これ・・・」
青い竜の柄が入った小さなボトル。
一見、ただの玩具にしか見えないのだが、シャカシャカと振ると意外に楽しい。
「もう響ったら、誰かの落とし物かもしれないよ」
「分かってるよ。後で交番に届けるって」
そんな彼女を咎めるのは、響の通う私立リディアン音楽院の寮と同部屋であり、小さな時からの親友である、『
しかし、やはりこのシャカシャカという音と感触は心地良くて楽しい。
「でも、こんな玩具って売られてたっけ?」
そこでふと疑問に思った事がそれだった。
「それもそうだね。玩具売り場でこんなもの売ってなかったと思うけど」
「もしかして、実はすごいアイテムで、振れば振る程パワーが上がる、とかなんかだったりして」
「もう、そんな事あるわけないでしょ?」
「えー、そうかな―――」
なんて、右手でボトルを持ったまま拳を前方へ突き出した瞬間、
―――目の前の大気が吹き飛んだ。
「「・・・・」」
幸い、目の前に人がいなかったら良かったものの、もしこれが誰かに当たっていたりしていたら大惨事である。
たかだか振っていただけで大気が吹き飛ぶレベルの威力。
その光景を目の当たりにした顔を見合わせた二人が取った行動は―――その場からすぐにでも逃げ出す事だった。
「はぁー、びっくりしたぁ・・・」
離れた公園にて、響と未来は肩で息をしながらベンチに座っていた。
あのボトルは響のポケットの中である。
「なんでこんなものが・・・」
「まさか、どこかの秘密結社が製造して、世界征服を企んでるのかも!」
「ノイズの出るこのご時世に?」
「だよね・・・」
触れただけで体が炭化するというのに、たかがパンチ力を引き上げるだけのボトルを作って一体何になるというのか。
「でも、実際にこれがあるんだよね」
試しに数回振った後に、それを持ったまま拳を振るってみる。
すると、凄まじい風切り音が鳴り、先ほどとは打って変わった弱いパンチが放たれる。だがそれは、年頃の少女が放っていい威力の拳ではなかった。
「交番に届けるのやめた方がいいかも・・・・」
「確かに、これを悪い事に利用しようとする人がいたら、大変だもんね・・・」
ボトルをポケットにしまい、項垂れる響。
「はあ、私って呪われてるかも・・・」
「そんな事ないよ。まあ、こんなボトル拾っちゃったのは災難かもしれないけど・・・」
「だよねぇ・・・まあ、家に置いておくだけなら大丈夫だよね」
一見はただの玩具だ。誰にも怪しまれないだろう。
発信機とかもついているかもしれないが、そんな日常とは無縁の彼女たちには、そんな考えは思い浮かばないのだが。
「へいき、へっちゃら!」
と、いつものおまじないの言葉を響が口にした瞬間、
―――目の前で人が倒れた。
「え、えぇぇええ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
突然の事にテンパる二人。
だが、響は慣れているのか意外と冷静だった。
「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
見た目は素行の悪そうな男だが、容姿は良い方で、茶髪で筋肉質。
そんな男が目の前で倒れたとあっては、未来はともかく響は黙っていられなかった。
「う・・・」
「あ、よかった。気が付いた・・・」
意識がある事にほっとした響と未来。
「・・・た」
「はい?」
ふと、その男が何かを言ったかと思い、耳を近付けてみると、
「・・・腹、減った」
「あー・・・」
どうやら、空腹だっただけらしい。
「いやー悪いな奢ってもらってよ」
駅前のお好み焼き屋『ふらわー』にて、見事復活を果たした男に礼を言われる。
「そんな事はありませんよ」
「響のいつものお節介ですので心配しないでください」
「酷いな~、人助けと言ってよ」
「響の場合は度が過ぎてるの」
親友の辛辣な言葉が突き刺さるも、それでもめげない響。
「ふ~ん・・・あ、ばあさん水くれ」
「あいよ。それにしてもアンタ、食べるねぇ」
「まあこの一週間なにも食べてなかったからな」
「一週間!?」
これには驚きを隠せない二人。
「いやー、いきなり知らない場所に投げ出されるわ、俺のもってる金は使えないわ、ついでにチンピラどもに難癖付けられてボコっても今度は警察のお世話になりそうで逃げだすわでもう散々でさー」
「わ、わーお、壮絶・・・」
「ついでに俺、馬鹿だから何すればいいのかわかんなくてよ」
「はあ・・・」
よく分からない人だ、と未来は思った。
嘘を言っているようには見えないし、彼の言うように、頭もそこまで良い訳ではないのだろう。
だが、悪い人ではないとはなんとなく分かる。
なんというか、馬鹿でお人好し、という感じがする。
「あ、そういえばまだ名前言ってなかったな。俺は万丈龍我だ。よろしくな」
「あ、立花響です」
「小日向未来と言います」
「ていうか響、お前なんかアイツに似てるな」
「え?似てるって誰にですか?」
「俺の知り合い。あいつも結構なお人好しでな。困ってる奴がいたらどこにいても駆けつけるような奴でさ。自分の事より他人の事を優先させちまうんだよ」
「そうなんですか・・・私も会ってみたいです」
「ぜってぇ気があうと思うぜ」
何やら和気藹々としている。
それが、なんか、微妙に面白くない。何故だろうか。
「ん?あ!?ちょ、おま、出てくんな!」
と、突然、龍我がジャケットの中に手を突っ込んだかと思うと、そこから何かが飛び出し、未来の方へ向かう。
「え?わっ!?」
「キュルッキュイーン!」
それは未来の頭にこつんと当たると、未来の差し出した手の上に降り立った。
「わあ、可愛い」
それは、四角い胴体をもった機械の動物だった。
「龍我さん、これは?」
「あー・・・俺の知り合いが作ったもんでな。クローズドラゴンっていうんだ」
「じゃあクロだね」
「ネコかよ・・・」
そんな万丈のツッコミなど無視して未来や響はクローズドラゴンを愛でる。
が、よくよく見てみると、どういう訳かドラゴンは未来にかなり懐いているようだ。
(戦兎の奴そんな機能つけたか?)
軽く火を噴いたり毒を吸い出したりは出来る。だがあんな風に人に懐くようにあの男は設定するだろうか。
あくまで、万丈のお目付け役という事で作られたものだというのに。
まあそんな事万丈に分かる筈がないのだが。
しかし、特定の相手にのみこれほどまでに懐くだろうか。
訳が分からなくなる。
結局、何もわからず仕舞いのまま、万丈はそのまま夕飯をご馳走になった。
「悪かったな。奢ってもらってよ」
「いえ、人助けは私の趣味なので」
「もう、響ったら」
響の発言に呆れる未来。
「ていうかお前、いつまソイツに引っ付いてるつもりだよ」
「キュルル!」
それでもって、未来から離れようとしないドラゴン。
「未来の事が気に入ったのかな」
「機械の動物に好かれてもね・・・」
「とにかく行くぞ」
「キュル!?」
無理矢理ドラゴンをひっつかむ万丈。
「キュルッキュイーン!キューン!キュルルルル!」
「あ、こら!暴れんな!」
それでもって暴れるドラゴン。どうやら相当未来の側にいたいらしい。
そんなドラゴンに、未来は優しく声をかける。
「ごめんね。もう少し一緒にいてあげたいけど、貴方の主人はこの人でしょ?」
「キュル・・・」
「また機会があったら、もう一度遊ぼうね」
「・・・キュィーン!」
どうやら納得したらしく、ドラゴンは万丈の懐に戻る。
「なんか納得いかねえ・・・」
「乱暴過ぎるんですよ龍我さんは」
「そういうもんかぁ?」
いまいち良くわからない様子の万丈。
「まあいっか、そんじゃ、またな」
「はい!」
そう言って、万丈は去っていく。
「なんだか、不思議な人だったね」
「うん。機械の動物もってて、それで何日も食べてなかったなんて。あんなに良い服着てるのに」
おそらく、何かしら事情があるのだろう。
しかし、それにしては落ち込んだ様子も無く、意気揚々としていた。
そんな、掴みどころの無い人。
「なんだか、すぐに会える気がする」
「私も、なんだかそう思うよ」
響と未来は、そんな予感がしていた。
その夜、戦兎と翼がノイズと戦ってた事なんて露知らず、翌日の昼休み時。
「自衛隊、特異災害対策機動部による避難誘導は完了しており、被害は最小限に抑えられた、だって」
自分の携帯の液晶画面を見ながら、未来はそのように呟く。
それは、昨晩おきた、ノイズに関するニュースだ。
「ここから、そう離れていないね」
「うん・・・」
ご飯を食べつつ、そう返事を返す響。
しかしその心象は、いつにもましてぼーっとしていた。
理由は昨日の万丈との邂逅―――などではなく、この学園へ入学した目的だった。
立花響は、風鳴翼に会うためにこのリディアン音楽院に入学した。
二年前、ライブ会場の惨劇の渦中に、響はいた。
その最中、ツヴァイウィングの二人が戦う姿を響は目撃し、そしてその戦いに巻き込まれて、胸に傷を負った。
その時の傷―――どういう訳か楽譜の記号で使われる
響が知りたいのは、あの日戦っていたツヴァイウィングの事と、あの日何が起きていたのかという事だ。
それを翼から聞けば、何か、分かるような気がする。
だから、響は、翼に会いにリディアンに入ったのだ。
その事を考えながら、昼食を食べていた響だが、
「ねえ、見て。風鳴翼よ」
「ほんとだ!」
「ッ・・・!」
生徒の一人が、そうひそひそと話す声が聞こえた。
「芸能人オーラ出まくりで、近寄りがたさが凄い・・・」
「孤高の歌姫といった所ね」
それを聞いた途端、響はすぐさま立ち上がって翼の元へ行こうとする―――が、翼は目の前にいた。
それも超至近距離、文字通り目と鼻の先だ。
長く綺麗な青髪。整った綺麗な顔。
いつも写真や映像で見ているものじゃない、生の顔だ。
だが、それが問題だった。
いざ対峙すると体が固まり、動けなくなる。
聞きたい事があったのに、口が強張って上手く話せない。
周囲からは色々とひそひそと声がする。
「あ・・・あの・・・」
いつまでも口ごもっていると、翼は何故か、自分自身の頬を指差した。
それに、響は同じ様に自分の頬に触れてみると、そこにはご飯粒がついていた。
「・・・・」
それだけ言って満足したのか、翼は横を通り過ぎていってしまう。
「・・・・」
(あ、結構ダメージ受けてる)
目に見えてやってしまったという感情が滲んでいるのが分かる。
響は何も言わずに席に戻ると、すっかり落ち込んだ様子でもくもくとご飯を食べ始める。
その様子に、未来は苦笑するだけだったのだが。
「あ!見て!戦兎先生よ!」
「ほんとだほんとだ!」
明らかに翼の時よりテンション高めな黄色い声が聞こえてきて、今度は未来がそちらを見ると、そこにはトレンチコートを着て、悠々と食堂に入ってくる、このリディアンに一週間前に勤務し始めた男性教師、桐生戦兎がいた。
その授業は、この学園では凄まじい評判を受けており、どこのクラスも彼の授業を受けたいと躍起になる程だ。
噂では、勤務一週間にして既にファンクラブが出来ているとか。
「戦兎先生、ナルシストで自意識過剰だけど、授業はとっても面白いよね」
「うんうん、あの授業一回で今度の物理のテスト百点はとれる気がする!」
「それに顔も良いし。ああ、一度でいいから個別授業受けてみたいな~」
「ちょっと!抜け駆けは許さないわよ!」
「私だって受けたいんだからね!」
「何よ!ぽっとでのモブの癖に!」
「「それは貴方も同じでしょ!」」
・・・何やら、人気があり過ぎるというのも問題な気がするが。
そんな戦兎が、響の横を通った。
その時、戦兎の視界に落ち込んでいる響が入る。
「おい、どうした?」
そしてすぐさま声をかけてきたのである。
「せ、戦兎先生が自分から声をかけたー!?」
「羨ましすぎるぅ!」
「ずっるーい!」
「・・・」
もはやこの際無視しようと決め込む未来。
一方、戦兎に声を掛けられた響は、
「あー、大丈夫ですよ。自分の意気地なさにショック受けてるだけですので」
「それはそれで大丈夫じゃないと思うんだが・・・」
戦兎は響の方へ向き直ると、
「まあなんだ。何で落ち込んでるのかは知らないが・・・諦めずに、またチャレンジすればいいだろ。科学者の俺に言わせれば、失敗は成功の元だ」
「戦兎先生・・・・」
事情も何も聞いていないのにこの的確な指示。
自称天才と言うだけの事はあるというのだろうか。
「失敗は成功の元・・・はい、そうですね!私、頑張ってみます!」
「元気になってよかったよ。そんじゃ、俺は忙しいんで」
「ありがとうございました!」
そう言って、去っていく戦兎を、響と未来は見送った。
「はぁ・・・」
だが結局は落ち込むのであった。
「翼さんに完璧可笑しな子だと思われた・・・」
「間違ってないんだからいいんじゃない」
そして親友の辛辣な一言。
「・・・それ、もう少しかかりそう?」
響は未来がノートに書いているものを見て、そう尋ねる。
「うん。・・・ん?ああ、今日は翼さんのCD発売だったね」
風鳴翼は日本が誇るトップアーティスト。そのCDの発売日が今日なのだ。
「でも、今時CD?」
「うるっさいな~初回特典の充実度が違うんだよ~CDは」
これでも翼の大ファンである響は、今日という日を待ちわびていたのだ。
故に、
「だとしたらもう売り切れちゃうんじゃない?」
「ッ!?」
当然、行動は早かった。
「あぁ~・・・腹減った」
万丈龍我は、一人ベンチに座って項垂れていた。
「金は使えねえし、変な奴らには絡まれるし、危うく警察に掴まりそうになるし、もう散々だ・・・」
「キュルッキュイ」
「お前はいいよなぁ、そんな能天気でよぉ・・・・」
万丈の上空を自由気ままに飛び回るドラゴン。
しかし、そんな事を呟く龍我の心情は、かなり弱っていた。
(今頃どうしてんだろなぁ・・・戦兎たちはよ)
あの戦い―――新世界を創るためにエボルトと死闘を繰り広げた。
その戦いの最中で、多くの仲間が死んでいった。
一海、幻徳、その他にも、大勢の人たちが死んでいった。
そして、自分は今、一人死に損なっている。
この世界で、たった一人、生き残ってしまっている。
まさか、一人だという事がここまで堪えるとは思わなかった。
「もう一度会いてぇな・・・」
「キュィ・・・」
「ん?なんだよ。慰めてくれてんのか?」
万丈の膝の上に乗って心配そうに見上げるドラゴン。
そんなドラゴンの気遣いなのかどうかも分からない行動に、少し心が軽くなる。
「よし!うだうだ考えてても仕方がねえ!もう少し歩いてみっか!」
「キュイ!」
そんな訳で街中を歩く万丈。
「しっかし、ここは俺の知ってる街とは色々と違うところがあるよなぁ・・・・」
宙吊りの列車、空中に映し出される映像、謎の警報。
ここ一週間、この街の様々なものを見てきたが、ほとんどが万丈が知らない事ばかりだ。
警報が鳴った時はよくわからずその場で立ち往生して、そのまま一週間が過ぎてしまったが、よくよく考えてみれば、あれは何かの襲来をしていたのではないだろうか。
「だとしたらあんな所で棒立ちになってるわけにはいかねえよな・・・」
なんて思いつつ、万丈は曲がり角を曲がった。
そしてふと立ち止まって、異常に気付いた。
「・・・・」
目の前―――の、足元にあったのは、黒い、砂の小さな山。
他にも、道路の上や、店の中。至る所に黒い砂があった。
万丈にとっては、それが人間とその天敵がなった炭素の塊とは知らない。
だけど、それが、あまりにも異常な事態だという事だけは、本能で理解できた。
「なん・・・だよ・・・これ・・・・」
「いやぁぁぁあぁあ!!」
「ッ!?」
小さな、子供の悲鳴が聞こえた。
「今のは・・・!」
「キュルッキュイー!」
「あ!おい!」
万丈が、突然飛び出したドラゴンの後を追う。
それが、全ての始まりだったのかもしれない。
「キュル!」
「あそこか・・・ってなんじゃありゃあ!?」
辿り着けば、そこには小さな女の子が何か半透明の化け物に襲われていた。
「だれかぁ!たすけてぇ!」
「って呆けてる場合じゃねえ!今すぐ助けて・・・あれ?」
ポケットに手を突っ込むが、何故かそこには何もない。
「ない!?ない!?ボトルがない!?」
ジャケットのポケットやズボンのポケット。あのボトルを入れられそうな場所をくまなく探したが、結局見つからず。
それで万丈は、ある結論に行きついた。
「・・・ボトルを落とした」
「キュルル!?」
何故かドラゴンが驚いた。
しかし、そうしている間にも化け物は女の子に近付く。
「って、ボトルがあろうがなかろうが関係ねえ!今はアイツを助けねえと・・・!」
だが、万丈からの距離じゃ間に合わない。
このままでは女の子は化け物の攻撃を受ける。
「間に合え・・・!」
だが、無常にも化け物は女の子に襲い掛かり――――
「やぁああ!!」
間一髪で、一人の少女が女の子を救い出す。
その少女は―――響だった。
「響!?」
「え!?龍我さん!?」
響は真っ直ぐこちらに走ってくる。
「何してるんですか!?今すぐ逃げましょう!」
「いや、お前らは先に行け、ここは俺がどうにかする!」
「なに言ってるんですか!?触れたら死んじゃうんですよ!?」
「は!?触ったら死ぬのか!?」
「なんでノイズの事を知らないんですか!?」
「ノイズ?なんだそりゃ・・・ってあぶねえ!」
「きゃあ!?」
化け物が―――ノイズが一斉に万丈たちに襲い掛かる。
間一髪で躱す事が出来たが、それでもノイズは追いかけてくる。
「キュルッキュイーン!」
「ドラゴン!?」
その最中、ドラゴンが先導するように飛び出す。
「行きましょう!走れる?」
「う、うん・・・!」
「よし、行こう!」
「あ!?おい!」
三人は、走る。
響が女の子の手を引き、万丈は後ろからいつでも襲い掛かられてもいいように走る。
だが、ノイズは先回りしていたのか、路地裏の川の両方の道に待ち構えていた。
「嘘・・・」
「おねえちゃん!」
女の子が響に抱き着く。
「大丈夫、お姉ちゃんがいるから・・・」
「くそ!殴る事が出来れば良かったんだがなァ!」
「え!?万丈さん何をぉぉぉお!?」
万丈が二人を担ぐなり、向こう岸へ一気に投げ飛ばす。
その後を追うように、万丈は川に飛び込む。
「うわっと・・・龍我さん!」
「俺に構うな!行け!」
「・・・はい!」
想像以上のスピードで川を泳ぎ切ってくれた万丈を背に、響は走る。
途中、女の子が疲れて走れなくなり、そんな女の子を追いついた万丈が背負って走る。
それでもノイズは追いかけてくる。
「はあっはあっはあっ!シェルターから、離れ、ちゃった・・・!」
「シェルター!?マジかよ!」
まだ余裕のある万丈の後ろを、息を切らせながらも必死に走る響。
それでもなおもノイズは追いかけてくる。
「くそ!まだ追いかけてきやがる!」
「きゃあ!」
「ッ!?響!」
響が転んだ。
倒れた響は、酸素を求めるように必死に呼吸をしている。
「無理すんな!」
万丈は、響すらも担いで走る。
その最中で、響は、後ろからまだ追いかけてくるノイズの群れを見て、ふと二年前の事を思い出す。
『生きる事を諦めるな!』
その言葉を思い出すと、不思議と力が湧いてくる。
生きようって、思えてくる。
「大丈夫です・・・まだ走れます!」
万丈の腕から降りて、自分の足で走る。
―――二年前のあの日、あの時、あの瞬間、間違いなく、私はあの人に助けられた。
工場の中を走り、逃げて、逃げ続けて。
―――私を救ってくれたあの人は、とても優しくて、力強い歌を歌っていた。
女の子をジャケットで縛り、離れないようにして、気が遠くなるほど高くて長い梯子を上る。
「―――っはぁ!はあ・・・はあ・・・」
「おい、大丈夫か?」
女の子を降ろした万丈は、疲れ切った様子の響に声をかける。
「ァ・・・はぃ・・・だいじょ・・・ぶです・・・!」
どうにか答える響だが、明らかに疲弊しきってるのは明らかだ。
「くそ、ドラゴンフルボトルさえあれば・・・!」
そう悪態を吐く万丈。
「死んじゃうの・・・?」
ふと、少女の小さな弱音が聞こえた。
そんな少女の言葉に、万丈は勇気づける。
「大丈夫だ!俺がいる!この・・・えーっと・・・そうだ!『プロテインの貴公子』―――バサッ!(自分で言っている)―――万丈龍我様がいるからな!」
苦し紛れのジョークなのか、自分でジャケットを靡かせて、天を指差す万丈。
そんな万丈の言葉に、二人は、思わず吹き出す。
「「あ、アハハハハ!」」
「な、なんだよ・・・」
「ご、ごめんなさい!でも、面白くって」
「たくよう・・・」
いじける万丈。
「キュイ!」
だが、ドラゴンが鋭い声を発してそちらを向けば――――ノイズの大群が、目の前に立っていた。
「「ッ!?」」
女の子が、響に抱き着く。万丈が、そんな二人の前に立って、ノイズと対峙する。
「キュルル・・・!」
ドラゴンが、ノイズたちを威嚇するように唸る。
それでも、ノイズたちはじりじりと近付いてくる。
「くそ!ボトルさえあれば!」
「ボトル・・・?」
先から万丈が言っている『ボトル』という言葉。
―――何か、私に出来る事・・・!
運命が、動き出す―――
―――私に出来る事が、何かある筈だ・・・!
少女は、自然と二年前に言われた言葉を叫ぶ。
「生きるのを諦めないで!」
その胸に、秘められた希望が、今、歌と共に輝く。
「―――Balwisyall Nescell gungnir tron―――」
光が、迸る。
黄色く、黄金の光が、その場に拡散する。
「なんだ!?」
「キュイ!?」
これには、万丈も驚く。
だが、万丈が驚いている間にも、響の体の中ではある変化が起きていた。
細胞の一つ一つが書き換えられていくかのような激痛が体を駆け巡り、細胞の全てが侵食され、流れる血を構成するヘモグロビンすらも変わり、人ならざる者へと変り果てる。
されど、彼女は、人の形を保つ。
「う――っあ!あぁぁぁああぁぁあぁああぁあああッ!!!」
四つん這いになって絶叫する。
背中から、何かしらの機械のようなものが飛び出したり引っ込んだりする度に、響の体に、白い鎧が纏われていく。
「響!?」
完全に着装が済んだと同時に、鎧の隙間から蒸気が吹き出す。
その姿は、まさしく、戦士そのもの。
万丈にとっては、それは戦士と呼ぶに相応しいものなのかと思うものだが、それは間違いなく、立花響の戦士としての装束だった。
そして、響は、自分の変化を改めて認識した。
「え?うぇえ!?なんで!?私、何がどうなっちゃってるの!?」
明らかに混乱している様子の響。
「おねえちゃん・・・格好いい!」
「え?」
女の子が、きらきらした目で響を見上げていた。
「だぁくっそ!お前変身できたのかよ!」
「へん・・・しん・・・?」
「ああ?お前仮面ライダー・・・な訳ないか。くそっ、俺にもボトルがあれば・・・」
「あ、あの!龍我さん!」
響は、懐から、寮の部屋から持ってきていた青い竜の柄が入った小さなボトルを取り出した。
「ボトルってこれですか?」
「な!?お前が持ってたのかよ!?」
「じ、実は昨日拾ってて・・・」
「何でもっと早く言わねえんだよ!?・・・まあいい」
万丈はボトルを受け取ると、ノイズの方を見る。
「まあ丁度いい機会だ。やっとこいつらを殴れる気がするからなぁ!」
万丈は、懐から、謎の機械―――ビルドドライバーを取り出す。
それを腰にあてがえば、アジャストバインドが腰に巻き付いて固定される。
「キュィィキュゥッルルッルル!」
そして空中を取りまわっていたクローズドラゴンを掴み取ると、響から受け取った青いボトル―――ドラゴンフルボトルを思いっきり振る。
「見せてやるよ・・・俺の変身をなァ!」
そして、クローズドラゴンに振る事でトランジェルソリッドを十分活性化させたドラゴンフルボトルをセットする。
そして、クローズドラゴンの頭部と尻尾を折りたたむと、本体の赤いボタンを押す。
『Wake UP!』
そして、そのままビルドドライバーにセットする。
『CROSS-Z DRAGON!』
クローズドラゴンをセットしたビルドドライバー。そのボルテックレバーを一気に回す。
回して回して、ドライバーから伸びるスナップライドビルダーに、ドラゴンフルボトルの成分で構成された鎧が構成される。
「え?なにこれ?なにこれぇ!?」
その範囲から逃れつつ、響は驚きを重ねる。
そして、あの言葉がドライバーから発せられる。
『Are You Ready?』
その答えは、あの日からいつも決まっている。
自分が信じた人間の為に。
その身を賭して、今、変身する。
「変身!」
『Wake UP Burning!』
『Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』
スナップライドビルダーに構成された装甲が万丈を挟み、そして、その装甲の上に『ドラゴライブレイザー』が纏われる。
それはまるで、炎を纏いし、炎龍の如く。
「え、ええぇぇええ!?」
「わあ!」
響は驚き、女の子は目を輝かせて、変身した万丈を見上げた。
それこそが、仮面ライダービルドの最高の相棒の『仮面ライダークローズ』だった。
「さあ行くぜぇぇえ!!」
万丈―――クローズは再誕を祝うが如く雄叫びを上げた。
次回の愛和創造シンフォギア・ビルドは!
ついに変身した仮面ライダークローズと立花響!
「いくぜぇ!」
「―――絶対に離さない、この繋いだ手は」
クローズがノイズたちを蹴散らす中で、ビルドたちもやってくる。
「戦兎先生ぃ!?」
正体がばれる戦兎。
「おい!?なんだよこれ!?」
問答無用で掛けられる手錠。
果たしてどうなるのか!(分かり切った事を)
次回『再開のナイトバトル』
(私は・・・一人だ・・・)