愛和創造シンフォギア・ビルド   作:幻在

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作「新型コロナの所為で学校が一週間近く休みになってしまったなぁ」
麗人「その分創作が捗るんだからいいんじゃないのか?」
作「それがそうでもないんだよ。学校から宿題出されるはその間の生活の事なんか書けとか言われてるし、時間が削られてしまう・・・」
原型「それが学生の本分なんだから諦めろ」
作「畜生めぇ!」
サイボーグ「あらあら、お姉さんが慰めてあげようかしら」
作「いやアンタの場合はおっ〇いミサイルで固いだろ」
サイボーグ「それもそうね」
麗人「はあ・・・まあそれはともかく、二つ目だ。二本立てだから、楽しんでくれるとありがたい。では、本編をどうぞ」


創造しない ちょっと長い話編

―――セレナ発端の騒動―――

 

 

「―――なあ」

「はい」

「とりあえず言わせてもらうとな。なんて事してくれたんだ」

「ごめんなさい」

「いや、な?ごめんなさいで済む話かこれ?控えめに言っても大惨事だぞこれ?」

「誠に反省しております・・・」

「一体どうやったらこうなるんだよ」

「はい・・・本当ごめんなさい。ですので―――未来さんの顔でその表情はやめてください」

現在、戦兎宅では非常に珍しい光景がそこにあった。

戦兎がいつも座る机に未来が座り、そしてそんな未来の目の前では調が青い顔して正座していた。

なんとも珍しい光景である。

ただ、もう一つ言わせてもらうと、現在、戦兎宅ではとんでもない事が起きていた。

 

「お、重ぇ・・・胸が凄まじく重ぇ・・・」←マリア

「こ、これがシンの体・・・シンの筋肉、シンの肌!」←シン

「何故こうなった・・・」←切歌

「ど、どうしよう・・・」←龍我

「おい!どうなってるんだよこれ!?」←翼

「落ち着け雪音!私も何がなんだか分からんのだ!」←クリス

「じぃー・・・」←セレナ

「・・・あ、あの、調?なんデスか?」←慧介

「ど、どうなってるのこれぇ!?」←戦兎

「な、何がなんだか全然分からねえよぉ!」←響

 

 

 

 

―――と、こんな風に、まるで人格が入れ替わったかのようにそれぞれがありえない行動を起こしているのだ。

 

 

 

ことの発端は、ほんの三十分前に遡る。

 

 

 

それは、セレナがとある発明をした事だった。

 

 

「つ、作ってしまった・・・」

目の前に置かれた、丸い球体をてっぺんに、その下には螺旋を描くコードに巻かれた細長い円錐と四角い箱とスイッチ―――その全てが金属製。

「つい、学校で聞いた話題を元に創り上げたこの発明品・・・・ついつい二課に保管されていた聖遺物もちょーっと(語弊)持ち出したりもしたけど、それで完成してしまった装置・・・」

自分の才能におののくセレナ。

「・・・動くかな?」

試しにスイッチに手を伸ばすも。

「セレナー、いるかぁ?」

「ヒィッ!」

戦兎の声が聞こえた瞬間、思わず近くにあった布をその装置の上にかぶせる。

「せせせ戦兎先生!?は、早いですね!?」

「まあな。ってかお前さっき何隠した?」

「べ、別に、なんでもないですよ!?ただ失敗したものを見られたくないってだけですから!」

「失敗?一体何を失敗したんだよ?」

「そ、それは・・・」

「ダメよ桐生戦兎。あまりそういうのに踏み込むものじゃないわ」

「あ、姉さん!」

思わぬ助け船にセレナは内心ほっとする。

それだけでなく、

「やっほー、セレナちゃん!」

「遊びに来ちゃった」

「キュルー!」

「暇だから来てやったぞ~」

「おう元気にやってるか?」

「すまない。お邪魔するぞ」

「ここが戦兎さんの暮らしてる倉庫・・・」

「なんだか無駄に広いデスね・・・あだ」

「そういう事いうものじゃない」

「そうだぞ切歌。ここ案外気に入ってるかもしれないんだから」

響、未来、クロ、龍我、クリス、翼、調、切歌、シン、慧介が次々に入ってくる。

「皆さんなんで?」

「ちょっと戦兎先生を見かけてね。それで先生の部屋にお邪魔しようかと思ったらみんなついてきちゃって・・・」

「まるで芋づる式にぞろぞろとな」

「そうなんですか・・・すみません。ここじゃあお茶とか用意できなくて・・・」

「ああ、いいよセレナ」

「戦兎さんの発明品でも見て楽しむデスよ!」

「ふっふ~ん。俺の発明品を見て驚け凡才ども!」

と、切歌の言葉にすっかりいきり立つ戦兎に苦笑するセレナ。

が、そこでセレナは警戒するべきだった。

 

クロの悪戯心というものを。

 

「キュル~?」

「ん?あ」

いつの間にか、セレナが隠したとある発明品の近くに忍び寄っていたクロ。

そしてクロは、その発明品の隠れていないボタン部分を見つけると―――

「キュル~」

「待って!それは押さな―――」

「キュル!」

所謂、えいっ!の掛け声を同じだろう声と共にクロがボタンを押し、次の瞬間光が溢れ出し――――

 

 

 

その結果がこれである。

 

 

簡単な話、人格が変な形で入れ替わってしまったのだ。

一人の意識が別の誰かの体の中に入ってしまったのだ。

簡単にするとこうである。

ちなみに、矢印の向いている方向が体、その逆がその中に入っている意識である。

 

 

 

戦兎→未来

 

龍我→マリア

 

響→戦兎

 

未来→龍我

 

翼→クリス

 

クリス→翼

 

セレナ→調

 

マリア→シン

 

調→セレナ

 

切歌→慧介

 

慧介→響

 

シン→切歌

 

 

 

な感じである。

 

訳の分からなさこの上ない。

 

「―――と、いう訳で」

解決策として、本来の体での髪型をやっておく、あるいは普段とは違う髪型にするという事になった。

「こんなものか・・・」

 

未来(戦兎) リボンを外す

マリア(龍我) ポニーテール

戦兎(響) N字の髪飾りをつける

龍我(未来) リボンを首に巻く

クリス(翼) くし型の髪飾りをつけ、ツインテールをやめる

翼(クリス) 髪飾りを外してツインテール

調(セレナ) 蝶の髪飾りをつけ、ツインテールをやめる

慧介(切歌) バツ印の髪飾りをつける

響(慧介) とりあえずオールバックにしてみる

切歌(シン) 雷切所持

 

という事になった。

「しっかし、本当にとんでもないもの作ってくれたな。これ一体なんの聖遺物だよ?」

「それが私もよくわかってなくて・・・」

「アホ!」

「はうあ!?」

「おおー、未来が調ちゃんを叩いてる・・・」

未来(戦兎)が調(セレナ)を叩く光景に新鮮さを感じる戦兎(響)。

「しかし、ずっとこのままというのも問題だな」

「いや待てそもそもこれ戻れんのか!?」

「最悪、それぞれがそれぞれの生活をしなければならなくなる訳だが・・・」

想像する一同。

「すぐに元に戻して!」

「お願いデス調からの視線がめっちゃくちゃ怖いのデス!」

「胸が重すぎて動きづらいわ!」

「だぁああ!!分かった!分かったからちょっと待ってろ!それとセレナァ!」

「は、はいィ!」

「テメェも手伝え!じゃないと殴る!」

「サーイエッサー!」

そんな訳で、未来(戦兎)と調(セレナ)が作業を開始。

「しかし、前々から思っていたが、やはり大きいな・・・」

と、クリス(翼)は自らの胸を見下ろしてそう呟く。

「毎度毎度肩が凝ってひでぇんだよ」

「胸が大きいっていうのも悩みものよね」

「「・・・」」

「・・・って!?セレナ・・・じゃなくて調と未来さんが凄い眼光で二人睨んでるんだけど!?」

翼(クリス)が肩をもみ、未だその体を堪能して既に鼻血すら流し始めているシン(マリア)をハイライトオフで睨むセレナ(調)と龍我(未来)。

「それに、思ってたけど先輩の体って大きいだけじゃなく軽いんだな」

「まあ鍛えているからな」

「慧介の体も軽くて柔らかいのデース!」

「えい」

「デスゥ!?」

慧介(切歌)を蹴っ飛ばすセレナ(調)。

「な、何をするんデスか調ぇ・・・?」

「慧くんの体で、好き勝手しないで。じゃないと刻むよ?」

「で、デース!」

いつになく黒いオーラを発するセレナ(調)に慧介(切歌)は思わず直立姿勢になる。

「あー、重すぎて肩がいてぇ・・・」

「だからといって胸を机の上に置くな目のやり場に困る」

「いいじゃねえかこれ結構辛いんだぞ。あ、それともあれか?マリアの体によくじょ―――」

「それ以上何か言ったらお前の体を斬り刻むぞ」

「ひぃ!?」

マリア(龍我)の揶揄いに思わず背中の雷切を抜きかける切歌(シン)。そしてそれにビビる龍我(未来)。

本当にシュールな光景である。

「じぃー・・・」

「・・・・」

「それで、お前はさっきから何やってんだ?ずっとソイツの事見てるけど」

その一方、セレナ(調)のとてつもない眼光に曝され続けている慧介(切歌)の様子に気付く翼(クリス)。

「・・・なんで」

「ん?」

「なんでマリアはシンの体なのに、私は慧くんの体じゃないの・・・!」

今にも誰かを呪いそうな程真っ黒なオーラを発してそう呟く調。

「た、助けてシンー!」

「ま、待って!?今は私よ!?いくらシンの体くんかくんかでもあのセレナじゃなかったハアハア調を相手にするのはきついわ!」

「おいマリアどさくさに紛れて俺の体の匂いを嗅ぐな!」

もはやカオスである。

「・・・あ」

と、そこで戦兎(響)がある事を思い出す。

「戦兎先生の体ってこ・と・は~」

「響?」

戦兎(響)の何かを企んでいるような様子に、いち早く気付く龍我(未来)。

「ふっふ~ん」

そうして取り出したのはビルドドライバー。

「そ、それは!?」

「前はハザードレベルや遺伝子操作受けてないから変身は無理だったけど、戦兎先生の体ならば!」

「ん?あ!?ちょ、待て!」

戦兎(響)の行動に気付いた未来(戦兎)すぐさま止めに入るも、

 

ラビット!タンク!

 

ベストマッチ!』

 

装着したビルドドライバーにラビットとタンクのボトルを装填、そして一気にボルテックレバーを回す。

止めに入ろうとした未来(戦兎)は展開されたスナップライドビルダーに道を阻まれ、その間にも変身準備が完了してしまい―――

 

Are You Ready?

 

変身(へ~んしん)!」

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

すぐさま戦兎(響)は仮面ライダービルドに変身してしまう。

「うぅう・・・仮面ライダー、来たぁぁぁぁああ!!」

一度縮こまってから両手を振り上げるビルド(響)。

「わーいわーい!」

「やってくれたなコイツ・・・」

はしゃぐビルド(響)に頭を抱える未来(戦兎)。

「あわわ、響ぃ~」

「響センパイずるいデス!アタシも変身するデス!」

「あ!?切歌待て!」

 

『スクラァッシュドゥライバァーッ!!』

 

響(慧介)の制止も無視して慧介(切歌)はスクラッシュドライバーを装着。

 

タイガァージュエリィー!』

 

タイガースクラッシュゼリーを装填し、いざ変身―――と思った直後だった。

「で、デース!?」

慧介(切歌)の体に電流のような痛みが走り、その場でダウンする慧介(切歌)。

「き、切歌ぁー!?」

「言わんこっちゃない・・・」

響(慧介)に抱き起されつつ、慧介(切歌)はちかちかする視界の中で疑問を口にする。

「な、何故変身出来なかったデスか・・・」

「中身の問題だな」

作業しつつ未来(戦兎)が答える。

「ビルドドライバーと違ってスクラッシュドライバーは大量のアドレナリンを分泌する。その影響でお前の脳・・・というか精神が耐えられなかったんだろ」

「じゃあアタシじゃ変身できないと・・・トホホ・・・」

がっくりと項垂れる慧介(切歌)

(この慧くんも良い・・・)

そんな慧介(切歌)を写真に収めるセレナ(調)。

「・・・なあ」

「なんだ?」

「お前ンとこの装者ってどいつもこいつも変態しかいないのか?」

「・・・・」

マリア(龍我)の問いかけに答えない切歌(シン)。

何故なら、シン(マリア)はシンの匂いを堪能し、一方でセレナ(調)は撮った慧介の写真を見てよだれを垂らしているからだ。

見ていて汚い。

「響、そろそろ戻ろうよ~」

「ええ~いいじゃんもう少し~」

「しかし、せん・・・響さんが変身出来たってことはもしかして・・・」

響(慧介)が来ていた制服の下からギアペンダントを取り出す。

それをしばし見て、ぎゅっと握ってみる。

だが。

「・・・ダメか」

「聖遺物は特定の波長―――個人の歌で起動するとは言え、やはり精神面にも関わってくるみたいだな」

響(慧介)の意図に気付いたのか、クリス(翼)はそのように呟く。

「でも、アタシらなら出来るんじゃねえか?」

そう言い出すのは翼(クリス)。

「待ちなさいくんくんシンフォギアを起動する時はぷにぷにアウフヴァッヘン波形はぐはぐが出て本部に察知される可能性くんかくんかがあるわ」

「せめてその変態行為をなんとかしてから喋ったらどうだマリア!」

シン(マリア)の言い分としてそう言うが。

「ああそれならさっき本部に連絡して入れ替わったって言っておいたぞ。それでもしかしたらシンフォギア起動するかもしれないから許可とっといた」

「用意周到だな!?」

未来(戦兎)がビルドフォンを見せびらかしてそう言うので、翼(クリス)は嬉々として、クリス(翼)は仕方がないとでも言うように溜息を吐いた。

そうして少し片づけた部屋の中央に、クリス(翼)と翼(クリス)は向かい合って立つ。

ちなみに戦兎(響)はクロを使って変身したクローズ(未来)に叩きのめされて伸びています。何故叩きのめす事が出来たし。

「さて、いざシンフォギアを纏う事になると、少し緊張するな・・・」

「先輩でも緊張する事あるんだな」

「ああ。初めてシンフォギアを纏った時のようだ」

「そっか・・・さて、と。じゃあ早速やるか」

「ああ」

「ああ、ちょい待ち」

そこで未来(戦兎)からストップが入る。

「なんだよ?」

「貴重な事態だからな。この時の事をデータにしときたい」

「ふむ。言われてみれば確かにな」

「さっさとしてくれよ。こっちは早くやりたくてうずうずしてんだ」

「分かってるよ・・・よし。いいぞ・・・ってかやっぱこの体の手小さいな」

「なんかすみません・・・」

改めて体が違う事の不便さを実感する未来(戦兎)。

ちなみに調(セレナ)はというと。

「シクシクシク・・・」

装置の改造を完全に押し付けられていた。自業自得だが。

全ての準備が整い、そんなわけで、その手にギアペンダントを持つ二人。

(しかし、雪音のギアか・・・確か、北欧神話のウルという神の弓矢だったな)

(先輩のギアか・・・なんだっけ。この国の神話のスサノオ?っていうカミサマの刀だっけ)

なんて、互いのペンダントを見つめ、そう物思いのふける。

(雪音は両親を失い、戦争を経験している・・・そんな雪音の心の形があのギア・・・心象の変化によってギアは変わるというだから、あのような形になるのは当然なのかもしれないが・・・)

(何年も一緒に戦ってきたんだよなぁ・・・辛いことも、苦しい事も、一緒に経験してきたんだよなぁ・・・今更、そんな先輩のギアをアタシが纏ってもいいのかな・・・)

(しかし、こうなった以上は纏わせてもらおう。新たな危機の出現に、ギアと体が違うから戦えませんでしたと言い訳するのは、それは私の信念に反する)

(何を怖気づいてんだ。もしアタシ以外戦えない状況になったら、一体誰が皆を守って言うんだ)

ギアを握りしめる。

(答えてくれイチイバル。中身はお前の本来の主人のものではないが、必ずお前を使いこなして見せると約束しよう)

(答えてくれ天羽々斬。こんなアタシだが、せめて誰かの夢を守れるだけの力をアタシにくれ)

そして、そんな二人の想いは、ギアの届く。

 

「―――Imyuteus Ichaival tron(風切る弾丸は翼となりて)―――」

 

「―――Killter amenohabakiri tron(その撃鉄は夢を守る刃)―――」

 

その身に、シンフォギアを纏う二人。

クリス(翼)は、カチューシャのようなヘッドギアではなくなり、耳に取り付けるタイプのものへと変化し、天羽々斬の時と同じような軽装スタイル。

その一方翼(クリス)はあのヘッドギアとは形の違うものがついており、またその体の方もイチイバルメインの装備となっている。

大きな違いとしては色だろうか。

「おおー!」

「やはり中身が違うとギアも変わってくるのね」

「しかし、武器はまあ二人らしいよな・・・」

クリス(翼)のアームドギアは刀であるのは変わりないんだが、その鍔部分が回転式銃となっており、柄には引き金がついているようなものだった。

翼(クリス)のアームドギアはその一方で、時代錯誤なのか連射式のボウガンだったりする。その先には銃剣のように短剣がついていたり。

「それでも互いのギアの本来の形に引っ張られたな・・・」

「それを言うなら先輩、なんでアンタは剣に銃つけてんだよ」

「し、仕方がないだろう!雪音を意識したらこうなって・・・というかそういう雪音だってその先の剣、明らかに私の天羽々斬に似せたんじゃないのか!?」

「うぐっ・・・そ、そんな訳ないだろ!バーカ」

「ち、違うのか・・・?」

「あ、アタシの顔でそんな顔するなぁ!」

そ、言い合うクリス(翼)と翼(クリス)だが。

「なあ」

「ん?」

「これってさ、なんというかさ・・・」

「仲がいい先輩後輩?」

「あるいは夫婦ね」

「何故そこで夫婦!?」

「で、出来ましたぁ~。これでみんな元に戻ると思いますぅ~」

一同、それぞれ言い合っていると、やっと装置の改造を完了した調(セレナ)が泣き顔でやってくる。

 

 

 

そうして、どうにか元に戻った一同。

 

 

 

「うむ、やはり自分の体が一番だな」

「ああ、なんというか。落ち着く」

「あー、やっと胸が重い地獄から解放された」

「体中に自分のよだれが・・・」

「ごめんなさい・・・」

「切ちゃんモードの慧くんを取っちゃった~♪」

「調ぇ!それを今すぐ消せ!ていうかどんだけ写真とってんだ!?」

「調が怖かったデスゥ~・・・!!」

「もっと変身していたかったなぁ~」

「ダメだよ響」

そうして、感想はそれぞれだが元に戻れたことを喜ぶ一同。

「セレナ」

「はい・・・」

「しばらくお前の宿題を五倍にするから覚悟しておけ」

「はい・・・」

「な、なんて古典的な・・・」

その一方、セレナは完全に怒り心頭の戦兎から仕置きを喰らっていた。

「しかし、存外他人のギアというのも悪くないものだな。だが、やはり自分のギアを使うのが一番だ」

「そうかぁ?」

ふと翼が言い出し、クリスはそれに首を傾げる。

「ああ。流石に試し切りとかは出来なかったが、なんというか、雪音のこれまでを肌で感じていたような気分だ。だからこそ、イチイバルは雪音にこそ相応しい。体が雪音であっても、中身が別人なら意味はないからな」

「そ、そうか・・・」

翼の言葉に、クリスは顔を赤くして俯く。

(ったく、それは先輩にも言える事だっての)

その顔は、やや笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――他人の服―――

 

 

「桐生~、いるか?」

それは翼がアメリカへ発つ数週間前の事だ。

翼は戦兎の家を訪ねていた。

「いないのか・・・」

しかし、肝心の戦兎がいなく、その事にしゅんと落ち込んでしまう翼。

だが、このまま帰るのも何か癪であり、しばらくここで戦兎の帰りを待つと決めた翼は、早速中に入っていく。

ふと、そんな翼の眼に入ったのは―――戦兎のトレンチコート。

「これは、桐生がいつも使っているコートか」

それを手に取って持ち上げて広げて見せる翼。

それには多くの縫い目がしてあり、長い間戦兎と共に激戦を駆け抜けたという事が伺える。

貼り直しといった事もされており、おそらく焦げたか何かしたのだろう。

おそらく、戦兎にとっても一種の相棒的な立場にあるこのコート。

戦兎の戦いを、冬の間は多く見てきた、戦兎のコート。

「・・・・」

それを見て、翼はふと思う。

 

これ、着てみたら駄目だろうか?

 

(いや、いやいや、何を考えている風鳴翼!そ、そんな他人のものを勝手に着るなど、言語道断であろう!)

と、自分を律する翼。しかし、ちらりと見た戦兎のコートを見て、しばし葛藤した後―――

「・・・す、少しくらいなら」

あっさりと誘惑に負けた。

そうして来た戦兎のコートだが。

「やはり少し大きいな・・・」

翼の身長は167cm、その一方戦兎の身長はそれより9㎝高い176cm。

だから、若干大きいのは致し方ないのだ。

が、しかしである。

「そういえば、桐生は服をどうやって洗濯しているのだろうか・・・」

見た所洗濯機が見当たらない。おそらくコインランドリーか何かでどうにかしているのだろうが、ここ最近、戦兎がコインランドリーに入っていくところを見た覚えはない。

いや、ストーカーをしている訳じゃない。帰宅する道が偶然戦兎の行きつけのコインランドリーだけだという事だ。

だがしかし、臭くないだろうか。きっと汗で汚れている事だろう。洗ってやっても―――

 

―――すん

 

(―――はっ!?何をやっているのだ私は!?)

思わず袖の匂いを嗅いでしまった。いや、決してやましい気持ちがある訳じゃない。

ただ、臭くないかを確かめただけだ。そう。ただそれだけの事だ。

汗で臭くなっていないか。ただそれだけの事。

(戦兎の・・・汗・・・・)

翼、沈黙。

「・・・・」

 

―――くん

 

「ん・・・」

袖を鼻に押し当てて、匂いを嗅ぐ。

実際、何か匂いがするわけじゃないし、ただほんの微かに男の香りがするだけだろう。

が、それを対象の人物のものだと妄想した場合、翼の女としての部分が刺激される。

「す、少しくらいなら・・・」

結局誘惑に負けるトップアーティスト。

本当に何をしているのか。

「ん・・・せん・・・と・・・」

戦兎のコートに包まれ、まるで、戦兎自身の包まれているかのように錯覚する翼。

「はあ・・・はあ・・・こんな・・・こと・・・だめ・・・なのに・・・」

止まらない。どうしても止まらない。

彼の事を想うと、どうしてもその行為が加速してしまう。

やめなければと思っても、もう少し、もう少しと長くなる。

そして、あと一歩、その一線を越えてしまう―――その寸前で、

 

翼の視界にクリスが映った。

 

「あ・・・」

「――――」

「あ、いや、覗き見るつもりじゃなかったんだぞ?ただ先輩が随分と珍しい事をしてるなぁって思ってさ・・・いや、別に馬鹿にするとかじゃなくてな?」

と、どうにか言いつくろうとするクリスに対して、翼は。

「―――ゆきね」

深淵の闇から声を発したかのような声を発する。

そして、どこからか取り出した小刀をもって、ハイライトが完全に消えた目で、翼はクリスに迫って―――

「しんでくれ、そのあとわたしもしぬ」

「ちょ!?待て!待ってくれ!誰にも言わねえから!だからその小刀を仕舞え今すぐ!!」

数分後。

「ころせ・・・」

真っ黒ネガティブオーラを発して、翼はその場で三角座りをしていた。ちなみに戦兎のコートは着たままである。

「いや、別に、先輩があの先公の事が好きなのは知ってたからよ、こうなるんじゃないかな~って思ってたというかなんというか」

「ころしてくれ・・・・」

「そ、それに、今時の女子、好きな男の匂いを嗅ぐってのは、おかしくもなんともないと思うぞ?だって、好きな男の匂いって、なんかこう、くせになるというか・・・」

「・・・おい」

「ん?」

「まるで、自分もやった事があるような口振りだな?」

「・・・・あ」

クリス、自爆。

「うぅぅう・・・・」

顔を真っ赤にして、顔を覆って翼に背中を向けるように座り込むクリス。

そんな様子のクリスを見て、翼は思わず笑ってしまう。

「ふふっ」

「なんだよ・・・」

「いや、雪音も同じなんだなと思って、少し安心しただけだ」

自分だけがおかしい訳じゃない。そう思うと、少し安心してしまう。

そんな様子の翼を見て、クリスはふと、ある事を思い出す。

「・・・なあ」

「ん?どうした?」

「前に言ってたよな。アタシと先輩は龍我と先公に似てるって」

「ああ。あれか」

それを聞いて、翼はうんうんと頷く。

「私は桐生ほど頭は良くはないし、雪音も万丈のような馬鹿ではない」

「おい!」

「すまん。でも、私と雪音は、やはり桐生と万丈と似ていると思うんだ」

出会いが最悪だった事。黒幕から力を与えられていたという事。並々ならぬ事情を持っているという事。互いを信頼し合っているという事。

「おい。最後のはどうかと思うぞ」

「違うのか?」

「それは・・・」

否定しきれないのがなんとも。

「・・・運命、だったのかもしれないな」

「ん?」

「桐生と万丈が出会った事は、きっと運命だったのだと思う。だって、桐生と万丈が出会わなければ、きっとエボルトに負けていたと思うんだ。誰よりも信頼し合える相棒であり、互いに支え合ってきたからこそ、新世界を成す事が出来た」

「・・・」

「だから、私はそれが少し羨ましい。奏がいたから良くわかる。今はもういないからこそ、彼らの関係が羨ましいを思ってしまうんだ」

そう語る翼は、どこか楽しそうだった。そんな翼の様子に、クリスは少し、複雑な気持ちで。

「じゃあ、さ」

「ん?」

「アタシが、その、相棒って奴になってもいいぞ・・・」

「んん?」

「ああいや、別にそこまで深い関係じゃなくていい。一緒にステージに立つとか、そういうのは無理だしさ。だけど、戦う時とかは、頼ってくれると嬉しいというか、困った時は助けてやるっていうか・・・」

どんどん声がしぼんでいく。その様子に、翼はふっと笑って。

「では、その時は頼らせてもらうとしよう。私も人だ。一人では飛べぬと知る者の一人だ。私が困っている時は雪音が助けてくれると嬉しい」

「そ、そうか・・・」

「そして、雪音が困った時は私も助けてやる。お互い様というものだ」

そう胸を張って言う翼。しかし、その空気にクリスは―――

「~~~だぁぁあ!!なんか恥ずかしくなってきた!おい先輩!丁度あの先公のコート着てるんだ!ちょっくら決め台詞の一つでも言ったらどうだ!」

「なぬ!?そ、それはいくらなんでもむちゃぶりが過ぎるのではないか!?」

「ほぉ~んそれじゃあさっきそのコート使って先公の匂いかいでたってあの馬鹿に言っちまおうかな~」

「な!?雪音が唯一馬鹿と呼ぶ相手は立花だけ。つまり立花に話すと言う事!?た、頼む雪音!立花に聞かれたら死んでも死に切れん!」

「だったらやるんだなぁ」

「く・・・だったら、雪音もそこにある万丈のジャケットを着て、万丈のセリフを言ってもらうぞ!」

「なうあ!?な、なんでわかった!?」

「大方クリーニングにでも出そうと思ったのだろう!流石にあの生地の洗濯は骨が折れるだろうからな!」

「う・・・よーし分かったいいだろうやってやるよ!その代わり、先輩もちゃんとやってくれよな!」

「ああ分かった、やってやる!」

「そんじゃあまずは先輩から!ほら!言え!」

「えう・・・さ、さあ、実験をはじめようか・・・」

「はいだめー声が小さすぎまーす!」

「う、ぅう・・・お、落ち着け風鳴翼。ステージに立った時の事を思い出せ。観客は雪音一人なのだ・・・こほん」

咳払い一つの後で。

 

「―――さあ、実験を始めようか」

 

「ぶっはは!すげぇ!めっちゃ似てる!」

「な!?雪音!?いつの間にビデオを!?」

「永久的に保存してやろーっと!」

「く、ぅぅう・・・!さ、さあ私はやったぞ!今度は雪音の番だ!」

「えー次のはやってくれねえのかよ?」

「雪音がやったら私ももう一つやろう」

「うぐ・・・分かったよ!やりゃあいいんだろ!」

そうしてクリスは龍我愛用の青いジャケットを着こむ。

「ふむ、結構ぶかぶかだな」

「当たり前だろ!アイツとアタシの身長差考えろってんだ!」

「それもそうか。さあ雪音、やるがいい!」

「う・・・よ、よぉーし!やるぞぉ!アタシだって言った事はあるんだ。それを先輩一人に見られぐらい―――」

そうして頬を叩いた後、

 

「―――今の俺は、負ける気がしねぇ!」

 

「くっはは!随分と似ているではないか雪音!」

「くっぅう・・・実際やってみるとめっちゃ恥ずかしい・・・あとカメラに取るのやめろぉ!」

「お返しだ。私も事あるごとに聞いて活力にさせてもらおう!」

「うう・・・さ、さあ今度は先輩の番だぞ!そうだな・・・あれだ!相手に止めさしたりなんか妙案が浮かんだ時にいつも言ってる奴!」

「あ、あれか?あれは桐生のアイデンティティのようなものだが・・・仕方がない。こほん」

 

「―――勝利の法則は決まった」

 

「しっかり決めポーズまで取っちゃってくれちゃってまぁ~」

「・・・雪音」

「あん?」

「・・・どうしよう癖になりそう」

「・・・」

沈黙が数秒。

「・・・先輩」

「ん?」

「・・・続けよう」

「賛成だ」

そういう訳で。

「雪音!音声は私がやる!だから変身だ!」

「よ、よぉーし!やるぞ!」

「じゃあ Are You Ready?」

「変身!」

「良い感じじゃないか!ポーズもバッチリだ!」

「今度は先輩の番だぞ!Are You Ready?」

「変身!鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!」

「やっぱ先公バージョンもバッチリだな。ついでに変身の時の音声もやるなんて」

「まああれだ。歌手だからな!」

「言ったな!じゃあこれだ!―――俺はプロテインの貴公子、万丈龍我だ!」

「プハハ!ば、万丈の奴、そんな事を言っていたのか!?」

「これがマジなんだよなぁ」

「そ、それなら私も――――天っ才物理学者の桐生戦兎ですっ♪」

「アハハハハ!ま、マジで似てやがる!」

「そうか!あ、雪音!今度はこれはどうだ!?―――自意識過剰な正義のヒーローの復活だぁ!」

「―――おっせぇんだよ!」

「・・・くく!」

「・・・はは!」

「よし雪音、もっとやろう!」

「ああ!もうこなりゃ全部やってやろうじゃねえか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・戦兎先生、これどうします?」

「楽しそうだから、このままにしといてやるか」

なお、その様子は未来と戦兎にばっちり録画されていたという事は、二人は後にバレて死ぬほど恥ずかしい思いをする事になる事は、この時まだ知らない。

 


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