愛和創造シンフォギア・ビルド   作:幻在

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弦「ここでは装者や仮面ライダーたちの恋愛事情を見せていくぞ!」
緒「作者の実力でどこまで読者の血糖値があげられるかが分かりますね」
友「まあ、あの作者の実力でどこまでいけるかどうか見ものだけども」
藤「ハハハ・・・まあ、何はともあれ、この小説の装者たちの恋愛事情はある程度は垣間見えるかもしれない創造しない ラブコメ編をどうぞ」


創造しない ラブコメ編

―――返ってきたラッキースケベ―――

 

パターンその1

慧「さあてシャワーシャワーっと・・・」更衣室からシャワールームへ

調「ふう・・・」一通り浴びてシャワールームから更衣室へ

けいしら「「え」」扉の前でばったり

調「きゃぁぁああ!!」張りて打ち

慧「うげあ!?」喰らって吹っ飛ぶ

 

 

パターン2

切「あ、調ー!」慧介と話し合っている調を見つけた走り出す切歌

調「あ、切ちゃ―――」見つけて振り返ろうとする

切「あ」何故か足を引っかけて転ぶ

調「え」調を押す

慧「ぬぐあ!?」調に押し倒される

調「いったたぁ・・・」

切「ご、ごめんなさいデス・・・あ」見てはいけないものを見る

慧(お、重い・・・!)顔にのしかかっているものを押し上げる。

調「ふへっひゃふうっ!?」脇に指を差しこまれて素っ頓狂な声をあげる

慧「へ?」

調「ひやぁああ!」耐え切れず殴り飛ばす

慧「ふぼあ!?」

 

 

 

パターン3

切「もうちょっと右デス」慧介に肩車されて棚の上をのものを取ろうとしている

慧「こうか?」指示されて右へ移動する

調「何してるの?」そこへやってくる

切「あ、調」

慧「ちょっと上にあるものを取りたくて・・・あ」何故かビンを踏んでバランスを崩す

切「デェェェス!?」倒れ始めて悲鳴をあげる。

調「え!?きゃぁああ!?」巻き添えを喰らう

慧「うおぁあ!?」そのまま倒れる

切「デェェェス!?」遠心力で破壊力アップで床に叩きつけられる。

慧「いってて・・・・ん?」両手に柔らかい感触を感じる

調「うう・・・ふぇ?」慧介の両手が自分の胸に

切「デェス・・・」気絶

調「いやぁああ!!」びんた

慧「ぬがぁああ!?」叩き飛ばされる

 

 

 

パターン4

慧「ん?あ、これ翼さんの写真集だ。どれどれ・・・」

調「あ、慧くん・・・ん?」

慧「マリアのもシンが見ているのを横から見てたけど、翼さんもこれはこれで結構あざとい」

調「慧くん・・・?」ゴゴゴ

慧「ん?ああ調・・・ってなんでそれ取り上げてんの?」

調「私より、翼さんの方がいいんだ・・・」

慧「え。いや、ただ写真集見てただけだぞ?」

調「翼さんのような、大人びた人が好きなんだ・・・」

慧「調も結構大人びているような気もするけど・・・」

調「もう知らない!」

慧「え!?ちょ、ま・・・」調の腕を掴みます

調「え?きゃ!?」思いのほか力が強すぎて反動で引き戻され、そのまま慧介の方を振り向きながら引っ張られる。

慧「うお!?」思わず受け止める「あ」しかしその手は調のお尻に

調「はわ・・・」

慧「ん゛ん゛・・・・!?」

調「ううう・・・」涙目

慧「あー・・・アハハ・・・・」笑って誤魔化す

調「馬鹿ぁぁああ!!」

慧「うごあ!?」

 

 

 

シ「・・・いつも思うのだが、あの二人は何か、呪いでもかかっているんじゃないのか?」

マ「ええ。でなければ切歌が犠牲になってまで二人にラッキースケベがこんな頻度で起こる訳ないものね」

切「きゅう・・・」

調「けけけけ、慧くーん!!」何故か胸あたりの服が裂けてそこを隠しながら慧介に殴り掛かる

慧「だからわざとじゃないんだってば!」その調から逃げている

 

 

 

―――通い妻―――

 

AM 5:30

 

クリス宅寝室にて

ク「・・・んぅ」起床

ク「ふぁあ・・・」あくびをしながらパジャマから制服へ

ク「ん~・・・」水道にて顔に水

ク「~~!よしっ!」両頬叩いてオメメパッチリ

 

 

AM 6:00

 

龍我宅寝室にて

ク「おい龍我、起きろ。朝だぞ」

龍「ん・・・まだ・・・あと五分・・・」

ク「そんな事言うなよ。そうだな・・・あ、プロテインの特売やってるぞ!」

龍「プロテイン!?」

ク「よし起きたな。着替えそこに用意したから、着替えてリビングに来てくれ」

龍「お、おう・・・」ボーゼン

 

 

AM 6:15

 

ク「ほい」

龍「おお・・・」目の前に置かれた食事に目を輝かせる

ク「たーんと食べてくれよ」

龍「おう!いただきまーす!」ガツガツ

ク「・・・ふふ」

龍「んぐんぐ・・・美味い!」

ク「そいつは良かった」

龍「ん~・・・ん?お前は食わねえのか?」

ク「え?ああ、そうだったな。じゃ、アタシも、いただきまーす」

 

 

AM 6:35

 

ク「~♪」皿洗い

龍「・・・」皿拭き

ク「ほい」渡し

龍「おう」受け取り

 

 

 

AM 6:50

 

ク「よし、これでアイロンがけも終わり。後はたたんでっと」

龍「なあクリス、これどこにおきゃあいい?」

ク「ん?ああ、それはあっちに片付けてくれればいいぞ」

龍「そうか」

 

 

AM 7:10

 

ク「そんじゃ、アタシこれから学校だから」

龍「おう、気を付けていって来いよ」

ク「そんじゃ、行ってきます」

龍「おう、いってらっしゃい」

 

 

 

~しばらくして~

 

 

PM 17:00

 

ク「今夜の夕飯何にしようかな・・・」スーパーで買い物

未「あ、クリス」

ク「ん?ああ、お前か」

未「今日も龍我さんの所の夕飯を?」

ク「ああ。アイツ下手するといつもカップラーメンだからよ」

未「印象に違わぬ食生活だね」

ク「聞いて驚け。最近料理のバリエーションも増えてきたんだぞ」

未「龍我さんの為に、料理教室行ってたものね」

ク「う・・・それ、あの馬鹿や先輩の前で言うなよ?」

未「ふふ、分かってる」

ク「うう・・・あ、肉安い」

未「本当だ。今夜は焼肉かな・・・」

ク「プルコギでも作るか」

未「あ、それいいかも」

 

 

 

PM 18:00

 

ク「・・・」ピンポーン

龍「ドタドタ・・・おう」

ク「夕飯の材料買って来たぞ」

龍「なんかわりぃな毎日」

ク「いいって、アタシがやりたくてやってるんだからさ」

 

 

PM 18:10

 

ク「~♪」料理中に鼻歌

龍「・・・」ソファでテレビ見ながら待つ

 

 

PM 18:30

 

ク「はい、おあがりよ」

龍「うっは!美味そう!」

ク「たーんと食べてくれよな」

龍「おう!いただきまーす!」

ク「・・・ふふ」美味しそうに食べる龍我を見て微笑む。

 

 

PM 19:00

 

ク「じゃ、アタシはこれで。お風呂沸かしといたから入ってくれよ」

龍「何から何まですまねえな。なんか申し訳ねえ気分になってくる」

ク「気にすんなよ。言ったろ?アタシが龍我を幸せにするって。だから龍我は黙ってアタシに幸せにされてろ」

龍「そうか・・・じゃあ言わせてもらうけどな」

ク「ん・・・!?」突然頭の上に手を置かれる

龍「俺の幸せはお前が楽しそうにしてることだ。そこのところは忘れるなよ」

ク「・・・ん」キューン

龍「それじゃ、また明日な」

ク「ああ・・・また・・・」ポケー

 

 

 

 

 

龍「―――って感じなんだけどよ」

戦「完全に通い妻じゃねえか!?」

 

 

 

 

 

 

―――翼の歌―――

 

戦「~♪」

翼(む、桐生が口ずさんでいるのは・・・私の歌・・・?)

戦「ん?ああ翼いたのか」

翼「ああ、今さっき来たところだ。それと、さっき唄っていたのは・・・」

戦「お前の歌だけど?」

翼「そ、そうか・・・」テレッ

戦「特に、ルナアタックからあとの歌が俺は一番好きかな」

翼「そうなのか?」

戦「ああ。だってお前、その時までずっと戦い続けていたんだよな。それまでの歌は、どこか暗くて固かった。だけど、あれからの歌は、なんだかそういうのがどっか行って、まるで羽のように心が軽くなる。そんな歌だ」

翼「そうか・・・そうなんだな・・・」

戦「ま、俺としては最初の頃の喋り方のお前が見れなくなって寂しいとも思うがな~」

翼「あ、あれは、その・・・勘弁してくれ・・・」

戦「ハハハ!ま、その方がお前らしいからいいけど!」

翼「もう!戦兎は私にいじわるだ!」

 

 

 

 

 

 

 

―――邂逅 慧介と調―――

 

 

 

私は月読(つくよみ)調(しらべ)

F.I.Sという研究機関のレセプターチルドレンにして、シンフォギア『シュルシャガナ』の装者。

とは言っても、それはもう前の話。今はS.O.N.Gの特別監察の元、学校に通わせてもらったり、家を貰ったり、不自由の無い生活をしています。

家は、切ちゃんと二人暮らし。マリアとシンとは別々に暮らしている。

少し残念だったのは、慧くん・・・涼月(りょうげつ)慧介(けいすけ)と一緒の部屋じゃなかったことと、学校が同じじゃなかったことぐらい。

うん、まあ、部屋は別々なのは良い。だって家は隣同士、いつでも会える。

だけど、学校が別っていうのはどういうこと?

いや、リディアンは女子校だから慧くんは入れないっていうのは分かってる。

でも、なんだか慧くん学校でモテてるみたいで、慧くんが学校に馴染めてるのはうれしい事なんだけど・・・何か面白くない。

っと、話しがそれてしまった。

今から話すのは、私と慧くんの出会い。

出会いは、全くもってロマンチックの欠片もない、平凡な出会い。

だけど、だからこそ、私は、慧くんを好きになったんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

私と慧くんが初めて話をしたのは、私が自分の持ち物を纏めていた時の事だ。

当時、私は何か精神的なショックで記憶を失い、何も分からない状態だったのだという。

物心ついたばかりの子供、という事なのかもしれない。

そんな、右も左も分からないまま、ただ流れていく時間を無為に、大人たちの研究に付き合わされるだけの日々を過ごしていた時だった。

 

慧くんが、話しかけてきたのは。

 

「よっ」

その声に、私は振り返る。

「何してるんだ?」

「持ち物を纏めてる・・・・」

当時、私は酷く引っ込み事案で、初めて慧くんに声をかけられたときは、実はかなり驚いて、そしてびくびくしていた。

だから、こんな内気な私の所には誰も来なくて、とても心細かったのを覚えている。

「そうなんだ・・・あ、俺は涼月慧介。お前は?」

と、頼まれてもいないのに自己紹介をする、自分と同い年かそれ以上の男の子。

だけど、自分には自己紹介を返す以外の選択肢はなかった。

「・・・月読、調」

「調っていうのか。それって親から名付けられた?それともここにきて?」

と、ずかずかと踏み込んでくる涼月くん。当時、私は慧くんの事を、涼月くんと呼んでいた。

「ここにきてから・・・私、ここに来る前の記憶がないから・・・」

「切歌と同じなんだ・・・」

切歌、とは一体誰だろうか。同じ、という事は、彼女もまた、自分と同じ、過去の記憶をもってないのだろうか。

「なんだか、ちょっとうらやましいかな」

「羨ましい?」

一体何故。

「俺は、調と違って父さんと母さんの記憶を持ってるんだ。でも、俺の知らない間に、父さんと母さんは死んでて、気付いたら、ここに連れてこられてた」

そう言って、涼月くんはすぐ傍のベッドに腰をかける。

「だから、さ、ちょっと辛くて、こんな想いするぐらいなら忘れたほうがいいなーって思っててさ」

「・・・」

彼は笑っている。笑っているけど、どこかがズレている気がする。

引っ込み思案で、相手の顔色を伺う事が多かったから、分かってしまった彼の様子に、私は自然と、その頬に触れていた。

「調?」

「・・・!」

涼月くんに声をかけられて、初めて気付いた私は慌てて、その手を放していた。

「ご、ごめんなさい」

「いや、いきなりだったからびっくりしただけだよ。どうしたんだ?」

「べ、別に、なんでもない・・・」

なんて、誤魔化すも、涼月くんはそっかといって天井を仰ぎ見る。

だけど、先ほどの彼の言葉には、少し反論したくて、少し勇気を出して、自分の言葉を伝えた。

「私は・・・貴方が羨ましい」

「え?」

「私は、お父さんの顔も、お母さんの顔も知らない。だから、お父さんのことも、お母さんのことも覚えてる涼月くんがとても羨ましい。少なくとも、私にとって、そうだと思う」

「・・・」

果たして、答えを間違えていないだろうか。何か、彼の気に障ってしまっただろうか。

そんな不安が、拳を当てた胸に広がる。

だけど、そんなことは杞憂で、涼月くんは、優しく微笑んだ。

「そっか。そういえばそうだな」

そう言って、腰かけていたベッドから降りる。

「どっちもどっちだ。ははっ」

そう言って、涼月くんは笑う。それは、先ほどのように、どこかズレたものじゃなくて、ちゃんと、心の底から笑っているような笑顔だった。

「よかったら、一緒にご飯食べないか?切歌の事も紹介するからさ」

「え?別にいいけど・・・」

「だったら決まりだ!行こう!」

「え?あ、ちょ・・・!?」

そう言って、涼月くんは、私の手を取って走り出す。私はされるがままに引っ張られていく。

 

 

 

 

そこから、私は切ちゃんと出会い、マリアと出会い、セレナと出会い、シンに出会った。

慧くんが、皆に引き合わせてくれた。

だから私はもう、寂しくなんてなかった。

皆がいてくれるから、慧くんが、私を見つけてくれたから。

だから、今、とても幸せなんだ。

「調」

鍋を煮込んでいると、慧くんが声を掛けてくる。そちらに視線を向ければ、そこには慧くんだけでなく、切ちゃんも一緒にいた。

「何か手伝う事はないデスか?」

今日のおさんどん担当は私なのに。でも、私はその好意に甘える事にする。

「じゃあ、切ちゃんは冷蔵庫からお野菜を出して、それで慧くんは私が言った通りに切ってくれないかな?」

「お安い御用だ」

「了解デース!」

そう言って、二人は動いてくれる。慧くんは、シンほどじゃないけど、包丁の扱いはとても上手で、料理も、たぶんF.I.S組の中じゃ一番だと思うぐらい、料理上手だ。

その慧くんのお眼鏡にかなうように、私も日々、精進しているぐらいなんだから。

「おおー」

と、そこで切ちゃんが感嘆に声を漏らした。

「切ちゃん?」

「切歌?」

「この角度で二人の姿を見ていると、共同作業をしている夫婦のように見えるのデス!」

「ふ、夫婦!?」

「ははは、何言ってるんだ切歌。まだ結婚もしてないってのに」

「ケッコ―――っ!?」

切ちゃんと慧くんのダブルパンチで、私の頭の中は真っ白になる。

というか、体がとても熱い。なんだか頭から湯気が出そう。

「ん?調、どうした?」

「・・・慧くんの馬鹿」

「なんで!?」

私の言葉にちょっと凹むも包丁捌きは衰えない慧くんも見て、少し噴き出す。

 

ああ、やはり私は幸せだ。

 

切ちゃんと出会えたこと、マリアやセレナ、シンとも出会えたことも。

だけど、私に多くの発見をくれるきっかけをくれた慧くんと引き合わせてくれた運命に、私は心の底から感謝したい。

だって、今、私はこんなにも幸せなのだから。

まだ、告白も出来ていないけれど、今、心の中だけで言わせてください。

 

 

私、月読調は、慧くんの事が、大好きです。

 

 

 

 

 

 

―――邂逅 マリアとシン―――

 

 

フロンティア事変が終わり、留置所にてしばらく拘束されたのち、私は国連のエージェントとして、再び世界で歌を唄う事となり、今現在、その為にどうしようかと悩んでいた。

あのような事件を引き起こしておいて、今更どの面下げてステージに上がればいいのか、分からなかったからだ。

「マリア」

そんな時、私と一緒に国連所属のエージェントとして、引き続き私のマネージャーとしてついてきてくれたシンがあったかいココアを差し出してくれた。

「ああ、ありがとう・・・ん、美味しい」

「ならばよかった」

「昔は酷かったわよね。包丁はちゃんと使えるのに、いざ料理するとなると、てんでダメだったのに」

「料理はほとんどしなかったからな。支給されるレーションばかりを食べていたから、普通の料理を忘れるほどな上に、まともに料理をしようなんて思う奴などいなかった」

「まあ、戦争中らしかったからね」

 

アフリカ大陸で引き起こされた『第一次キリフデラ戦争』。

それは、ヨーロッパ諸国とキリフデラと呼ばれる国との間で引き起こされた、十年も続いた大規模な戦争だ。

それは、第三次世界大戦期にヨーロッパに支配され、当時のヨーロッパから迫害まがいの扱いを受けてきたキリフデラの戦争経験者たちが、ヨーロッパのS国の要人を射殺したことが発端。

これに対し、S国はキリフデラに対し謝罪と十項程度の要求をする。

その要求にキリフデラは一部を除く要求に同意したが、それに不満を持ったS国は武力行使を実行。宣戦布告の後、キリフデラに攻撃を仕掛けた。

それに対し、国民の反欧州意識が爆発。結果、双方の大規模な戦争へと発展してしまった。

 

幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』は、キリフデラの側としてその戦争に参戦した。

 

 

シンは、その時には既に『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』の一員であった。

家族で旅行に出ていたところを強盗に両親を殺された、のが主な理由だ。

そしてその後にシンは『幼き殺人者たち』に拾われ、長い間戦地を渡り歩き、ナイフなどの刃物の使い方を覚え、そして、キリフデラ戦争で多大なる功績を残し、軍事力の乏しかったキリフデラを、勝利へと導いた。

だが、軍事力が自衛隊と比べて劣るキリフデラに勝利をもたらし、なおかつS国の軍をほぼほぼ壊滅状態に追い込んだ『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』を国連は危険視。

騙し打ち―――という形で、国連は『幼き殺人者たち』を捕らえるべく大軍を総員。

多量の被害を出しつつも、まだ子供であった彼らを捕まえるのは、容易い事だった。

 

そしてシンは、国連の襲撃から逃れ、一人放浪していた所をマム―――ナスターシャ教授に拾われた。

 

 

 

「完全に不利な戦いだった。そもそも個人的スキルが高いだけで装備はそれほど揃っていなかった俺たちが、フル装備、戦車、軍事ヘリ、ミサイルなどを用意した国連軍を相手に勝てる道理がなかった」

と、シンはその時の事を思い出すかのようにそう語る。

「まあほとんど子供だけの部隊だったみたいだしね」

「殺される訳ではなく、ただ捕まる。戦争の中で生きてきた俺たちにとって、閉じ込められることにおいて抵抗はない訳じゃないが、静寂というものは、あまりにも現実離れしていたと思う」

そう言って、シンは自分のココアを飲む。

そんな彼に、私は微笑みを浮かべながらマグカップに注がれた温かいココアの水面を覗き込む。

「ココア、か・・・なんだか、懐かしいわね」

「お前が初めて俺に振る舞ってくれたものだ。忘れる訳がない」

「そうね・・・今思えば、あれが私と貴方の、初めての出会いだったのかもしれないわね」

本当の意味での、私とシンの出会い――――

 

 

 

 

セレナを失い、私はしばらく失意に暮れていた。

当時の私は十五歳。シンは十七歳。今は気にならなかったが、その時は、とても身長差があったと思う。

とにかく、私は、あの日、ネフィリムの起動実験でセレナを失った。

セレナのギア『アガートラーム』の絶唱特性であるエネルギーベクトルの変換を利用し、ネフィリムを起動前に戻す。だが、絶唱を放ったことでバックファイアを受けたセレナの体はボロボロであり、私は、そんなセレナに近寄ることが出来ず、結果、崩れ行く建物の下敷きになる瞬間を見ている事しか出来なかった。

私は、妹を救えなかった。実際は、シンがセレナを助けて、そして治してくれていたのだけれど。

だけど、そんなこと知りもしない私には、ただただセレナを失った虚しさだけが今の私の胸に、ぽっかりと穴を空けていた。

「セレナ・・・」

特に何をするでもなく、廊下を歩く私。何をするにも気力が湧かなくて、それでも何かをしていないと、あの日の苦しみが再びこの胸を締め付けそうで、とてもではないが耐えられなかった。

と、失意のままに、廊下を歩いていた私は、不意に暗い廊下の向こうから、ぴちゃ、ぴちゃ、と言う規則正しい音が聞こえてきた。

「え・・・」

その音に、私は思わず足を止め、通路の向こう側から来る何かを警戒した。

ぴちゃ、ぴちゃという音は、次第にこちらに近付いてくる。

音からして、水の音。何か、規則的に誰かが水を落としているのか―――否、ぴちゃ、という音と一緒に、こつっ、という音も聞こえてくる。

つまりこれは足音。誰かが、びしょぬれの状態でこちらに歩いてきているのだ。

一体誰なのか。そういえば、外は確かかなり強い雨が降っていた筈。

まさか、こんな雨の中へ、馬鹿みたいに出ていった者がいるというのか。

警備員・・・であるはずもない。

であるならば、一体―――

暗闇の中、ぼんやりと見える、人影。

その人影が、一歩一歩こちらにやってきていた。

私は、その人影に、思わず足が竦んでいた。

きっと、セレナを失ったことですっかり弱気になっていた為に、その人影に対して恐怖してしまっていたのだろう。

だから、足が竦んで動かなかった。

そして、同時に一人だけだったから、とても心細かったのを覚えていた。

やがて、その人影が、近付いてきて――――

 

その時、雷が鳴り響いた。

 

「きゃあ!」

「ッ!?」

光と音の同時攻撃、それに柄にもなく驚いてしまった私は、思わず悲鳴を上げてしまった。

頭を抱えて、その場で背中を丸めて、立ったまま縮こまってしまう。

「う・・・ぅぅ・・・」

それが酷く情けなくて、思わず目尻に涙が浮かぶ。

だけど、そんな私に、声をかける者がいた。

「その声・・・」

その声に、私は、ゆっくりと顔をあげると、そこにいたのは、真っ白な少年だった。

白い髪に、病的なまでに真っ白な肌。典型的な白人とも言うべきその少年は、まっすぐに私を見ていた。

だが、その体はびしょ濡れで、髪からは雨水が滴っていた。

「確か、マリアって言ったな」

「え、ええ・・・」

その白髪の少年の言葉に、私は間の抜けた返事を返してしまう。

そんな私に、彼は私をしばし見つめた。

まるで、物色するかのように。

しかし、すぐに視線を外して、何か思案顔になると、姿勢を正して話しかけてくる。

「雷が苦手なのか?」

そういわれて、私は思わず恥ずかしくなったのを思い出す。

もう克服した筈なのに、今更驚いただなんて、なんという黒歴史か。

「べ、別に、油断していただけよ。普段は、そうそう驚くなんてことはしないわ」

「そうなのか」

次の瞬間、再び雷が鳴る。

ただし、今度は驚かない。そう何度も驚いてたまるもんですか。

「どうやら本当のようだな」

やれやれ、といった風の彼。そんな彼に、私は一つ、重要な事を思い出す。

「ていうか貴方、なんでそんな濡れてるのよ!?」

「それは・・・庭の花壇の手入れをしていた」

「こんな雨の中を!?」

なんでそんなことをしていたのか。訳が分からない。

「ていうか貴方、そういう趣味あったかしら・・・?」

「関係ないだろう今・・・はっくしゅ」

ふと、彼は小さくくしゃみをする。

「流石にこれ以上体を冷やすのはよくないな・・・」

なんて呑気に言う彼の言葉に、私は少し頭にくる。

「何さも当然なことをいまさら言ってるのよ!ちょっと来なさい!」

「な!?おい、なにを・・・!?」

そう言って、私は彼の手を取り引っ張り、部屋に連れてくると、洗濯したばかりのバスタオルを彼に投げつつ、引き出しから、とあるパックを取り出す。

彼は、受け取ったバスタオルで体についた雫を拭き取っていた。

「・・・何をしているんだ?」

ふと、彼が何かをしている私にそう声を掛けてくる。

私がやっている事、それは、ココアを作っているだけだ。

とは言っても、ココアパウダーにお湯を注いで作るだけの簡単のものだが。

「はい」

そして、出来たココアを、私は彼に差し出した。

「ん?」

「はい」

首を傾げる彼に、私は半ば無理矢理彼にそのココアを押し付ける。

「・・・これはコーヒー、なのか?」

「ココアよ。知らないの?」

「ココア・・・あの泥水とは違うのか・・・?」

「泥水って何よ泥水って・・・」

心外な。これでもセレナが美味しいと言ってくれるぐらいは美味しい飲み物だ。それを泥水と呼ぶとは、なんて男なの。

そう、セレナが、美味しいを言ってくれた、ココア。

セレナの事を思い出し、私は、自分の手にあるココアの注がれたマグカップの中身を覗き込んでいた。

散々泣きはらした所為か、目の下には隈が出来ていた。

未だに、あの時の事が夢に出てくるのだから、仕方がないといえば仕方がないのだろうけれど。

「美味い」

そんな風に、感傷に浸っていた私の耳に、その声は届いた。

そちらを見れば、そこには信じられないとでも言いたげに目を見開く彼の姿があった。

そんな彼を見やり、私は、そっぽを向きながら、彼に話しかける。

「当然でしょ。私が注いだんだから」

「これがココア・・・コーヒーとは、違う・・・こんな甘い飲み物があるなんて・・・」

「知らなかったの?」

「ああ。知らなかった」

素直に、彼は答えてくれる。

「暖かい」

もう一口飲んで、彼は、笑みを零した。

その顔に、私は、心臓が一度強く跳ねるような感覚を覚えた。

その気持ちが、一体なんなのか、その時の私は知らなかった。

ただ、今となって言えるのは、彼がふと見せた小さな笑みに、私は『ときめいて』いたという事だろう。

気付けば、彼はマグカップに注がれたココアを全て飲み干していた。

そして、満足そうに息を吐く。

「美味かった・・・」

「そう・・・」

「すまない。手間を取らせてしまったな」

「別に、なんか寒そうだった貴方を、放っておけなかっただけよ」

「そうか」

何を、ムキになっているのだろうか。

こんな男の子相手に、どうしてこんなにどきどきしてしまうのか。

私には、分からなかった。分からない分からない。

でも、不思議と不快な感じはしなかった。

「できれば、機会があればもう一度作ってくれるか?」

「え?別にいいけど・・・でも、これとお湯があれば簡単に出来るわよ?」

「何・・・!?」

それを聞いて、シンは私が見せたココアパウダーのパックを興味深そうに見る。

「これで簡単に?」

「ええ。これをカップに注いで、お湯を入れるだけであっという間に出来るわ」

「こんな粉が、あんな美味しい飲み物に変わるのか・・・!?」

「何を驚いてるのよ・・・」

不思議な人、だと思う。

そんな中で、ふと思い出す。彼の事だ。

確か、マムが連れてきた、新しいレセプターチルドレン。

マムと同じ名前を与えられた、彼の名前は確か・・・

「・・・・シン」

「ん?」

私の呟いた言葉に、彼は―――シンは反応する。

「シン・・・でよかったわよね?」

「ああ・・・とはいっても、ナスターシャがつけた名前だ。本当の名前は別にある」

「そうなの・・・?」

「ただ、俺としては今の名前で呼んでもらえると助かる。俺を救ってくれた恩人から貰った名だ。出来れば、それに慣れていきたい」

そう言う彼の目は、真剣そのものだった。

その真っ直ぐな瞳に、私は思わず見惚れてしまう。

だけど、すぐに我に返ると、私は頷いた。

「じゃあ、シン、そう呼ばせてもらうわ」

「ああ、よろしく頼む。マリア」

そういえば、彼も私の名前を知っているんだった。

「そういえば、お前は飲まないのか?」

「え?ああ、そうだった」

自分用に、もう一つ用意していたんだった。

私は、それを慌てて飲む。

「ふぅ・・・」

少し飲んで、口を離す。

「・・・妹の事を思い出していたのか?」

「・・・」

その言葉に、私は思わず黙ってしまう。

「・・・すまない。踏み込むべきではなかったな」

「いいえ・・・」

そんな彼の言葉を、私は静かに否定する。

「丁度良かった。少し、捌け口になってくれる人を探してたから」

「・・・分かった。俺でいいなら」

シンは、そう言ってくれた。

同じベッドに、同じように腰を掛け、私は、セレナの事を、初対面の筈のシンに何から何まで打ち明けた。

生まれ故郷のこと、ここに連れてこまれた時の事、ここのでの生活、セレナがどんな子なのか。

気付けば、私は勢いのままに、彼に全てを打ち明けていた。

ネフィリムの起動実験、絶唱を発動したセレナ、瓦礫の下敷きになる瞬間―――

その全てを、私はシンに打ち明けていた。

そして、気付けば私は泣いていて、そんな私に、シンは戸惑っているようだった。

ずっと、泣き続けていたと思う。

だけど、そんな私から、彼は片時も離れなかった。

「・・・マリア」

泣き続ける私に、ふとシンは、話しかける。

「泣けるときに泣く、というのは大事だ。もちろん、溜め込むのも良くはない。だからこうし打ち明けたことについて、俺はお前を笑わない。むしろ、お前の事を知れたことが少し嬉しいと思う。ただ、それでも一人で抱え込まず、時には誰かに寄りかかってもいいと思う。お前にはまず、そんな相手が必要だ」

そう、彼は言う。その言葉は、きっと彼なりの気遣いなのだと、私は思った。

ちょっと不器用だけど、私は、それに少し、救われた気がした。

「・・・それじゃあ」

頬を伝う涙を拭い、私は、シンの方へ体を傾けた。そして、そのままシンに寄りかかる。

「マリア・・・?」

「少しの間だけ、寄りかからせてもらおうかな」

隣に座る彼の体は、少し冷たい。思い出してみると、服を着替えてなかったな、と今更に思い出す。

だけど、その体温が、今は少し、心地よかった。

そしてシンは、そんな私を振り払おうとせず、ただ、ずっと傍にいてくれた。

 

 

 

 

 

 

そんなことを思い出しながら、私は、ふと隣に座るシンの体に寄りかかった。

「・・・どうした」

彼は驚くでもなく、さも当然のように聞いてくる。

「少しよりかかりたくなっちゃって」

「そうか」

彼は短くそう返し、そして、タブレットに記載されている情報を暗記していく。

「・・・・ああ、そうだ」

ふと、彼は何かを思い出したかのように、声をあげる。

「風鳴翼に連絡を入れてみたらどうだ?」

「翼に?」

「ああ、奴と一緒のライブであれば、復帰ライブとしては十分、向こうも向こうで殺到するオファーをどう断ろうかと難儀している頃だと思うから、タイミングとしては十分なんじゃないか?」

「貴方の冴えわたる判断力がとても頼もしいわ・・・」

しかし、悪い話ではない。むしろ好都合だ。

「貴方が一緒に来てくれて、本当に嬉しい。きっと、私一人じゃ、いずれ押し潰されていたかもしれないから」

「お前を一人にする方が危なっかしいからな。今は、二課改めS.O.N.Gがあるとは言え、少し落ち着くまでは、一緒にいてやる」

「いじわるな事言うのね」

「いじわる?何がだ」

変な所で鈍感なんだから。

本当に酷いわ。私が、どれほど貴方を(おも)っているのか。

「何でもないわ」

「そうか・・・」

そう言って、シンは特に気にした様子もなく、タブレットに目を戻す。

その態度が、少し憎たらしく思える。

でも、これが私たちにとっての当たり前の距離感。

それを、どう突き崩していけばいいのか。

いずれはこの関係も壊れてしまうかもしれない。

それでも私は、シンの事を愛してる。

シンに寄りかかるのをやめて、立ち上がる。

そのまま窓際に立って、外の景色を見る。すっかり日も落ち、夜景が綺麗だ。

その景色を眺めながら、私は、シンに声をかけた。

「シン」

「なんだ?マリア」

シンは、タブレットから視線を外して私の方を見る。

「ありがとう。私と一緒に来てくれて」

貴方と一緒にいられる時間、貴方と共に過ごす時間、そのどれもが、私にとっては掛け替えのないもの。

この幸せを、私は、失いたくない。

「何を言っている。当然の事だろう」

シンは立ち上がって、私の事を真っ直ぐ見てくれる。

「お前たちが浴びる()は全て俺が被る。それが出来ないならせめて、一緒に背負ってやる」

「・・・ありがとう」

彼の言葉に、私はいつも救われる。

彼の言葉が、私に前に進む勇気を与えてくれる。

セレナを失ったあの日に、『誰かに寄りかかる』という事を教えてくれた、彼だから。

 

 

シンだから、私は好きになったの。

 

 

 

 

 

 

バレンタイン

 

 

「―――と、言うわけで、チョコ作りだぁー!」

「・・・ってなんでアタシん家の台所なんだよ!?」

響の宣言通り、響、未来、翼、クリス、マリア、切歌、調、セレナの七人はクリスの家の台所にて、チョコ作りを始めようとしていた。

「まあまあいいではないか雪音」

「まあ、チョコを作るってのは反対じゃあないんだけどさ・・・なんでアタシん家なんだよ」

「二課の台所じゃ男の人たちが来ちゃうかもしれないでしょ?それに一番大きな台所もってるのクリスの家ぐらいだと思って」

「今、隣の家に龍我がいないとはいえ、それは・・・ああ、もう分かった分かった勝手にしろ。だけど龍我へのチョコは譲らないからな」

「本当にぞっこんね・・・」

と、言うわけで、彼女たちの目の前には、大量のチョコの材料やラッピンググッズが置かれていた。

「そういえば、翼さん、クリス先輩、マリアや調は渡す相手が決まってるデスけど、響さんと未来さん、セレナは誰に渡すんデスか?」

ふと、思った疑問を口にする切歌。

「もちろん、未来にだよ」

「私も響に」

「それここで言ってもいいのかな・・・」

「いつもの事だから、気にすることはないかな?あ、それと日頃の感謝を込めて、戦兎先生や龍我さんにも渡すつもりだよな」

「ほう・・・い、一応聞くが、義理なんだよな?」

「え?義理ですけどなんでそんなことを?」

「いや、なんでもない」

「ふふ、大丈夫ですよ~、とったりしませんから」

「どういう意味だ小日向!?」

咆える翼に生暖かい笑顔を向ける未来。

「私は、お世話になった二課の人たちにお礼のつもりで」

「本当の所は?」

「その手には乗りませんよ調さん」

「チッ」

「あーあー、もうさっさと作るぞ。じゃねえとバレンタイン過ぎちまうぞ」

「おっとっと、じゃあ早速始めましょうか」

「まずは買ってきたチョコを細かく切らないとね」

そうして始まるチョコ作り。

「・・・ん?翼、砂糖ちょっと入れすぎじゃないかしら?」

「ああ、実は戦兎、大の甘いもの好きでな。この間、あるカップケーキ屋のとてつもなく甘いカップケーキを何の苦もなく平らげていたんだ」

「へえ・・・」

「マリアさんマリアさん」

「ん?どうかしたの響?」

「そのカップケーキ・・・胸焼けするほどの甘さだったんです」

「・・・・へ?」

それを聞いて顔を引きつらせるマリア。

「~♪」

「随分と手際がいいんだねクリス」

「まあ、練習してきたからな」

「しかも作ってるのはカップケーキときた」

「ん?何かおかしいか?」

「カップケーキを送ることの意味分かってる?」

「え?そんなもんがあるのか?」

「カップケーキの意味はね・・・こしょこしょ」

「・・・っ・・・そっか」

未来から耳打ちされて、胸をなでおろすクリス。

「クリス?」

「だったら、安心かな」

そう、笑みをこぼすクリスに、未来は―――

(か、可愛すぎる・・・!)

普段との違いに、身もだえしていた。

「あれ?マリア姉さん、それココアパウダーだよね?」

「ええ。シン、ああ見えてココア大好きだから」

「そういえばシンが飲んでたの、あれコーヒーじゃなくてココアだった・・・」

「意外。シンさんあんな性格だからビター派だと思ってた」

「人は見かけによらないものよ」

 

と、そんな感じにチョコ作りは順調に―――進むはずもなく。

 

「あー!手が滑ってボウルの中身がー!」

「何してるの翼!?」

またある時は、

「翼さん!焦げてる!焦げてるデス!」

「はっ!?余所見してたらつい・・・」

またまたある時は、

「ん?なんか焦げ臭いような・・・」

「先輩、温度高すぎだ!」

「なに!?」

主に翼が原因で、惨事を連発していった。

「すまない・・・」

度重なる失敗ですっかりしょんぼり、あるいはショゲモリになってしまった翼は、ソファでチョコ塗れ粉塗れの状態で座っていた。

心なしか目尻には涙が。

「ま、まあ失敗は誰にでもあるわよ。だからそんな落ち込まなくてもいいじゃない」

「すまない・・・料理が出来ない歌女ですまない・・・」

「完全に落ち込んでる・・・」

彼女の目の前には焦げてどうにかお菓子として食べれる程度に袋詰めされたクッキー(深い意味はない)が一つ。

ちなみに、何度も焦がしたことによって食べ物を通り越して炭となってしまった材料はやむを得ず捨てる事となってしまっている。それも翼が用意した材料の三分の二ほどを全部である。

ちなみに、翼以外の者たちはそこそこいい具合に仕上がっている。

主に何でもできるマリアはしっとりとしたチョコブラウニー。

最近料理を習い始めたクリスは上出来な出来栄えのチョコマフィン。

響の料理をいつも作っている未来はそれなりの出来のガトーショコラ。

あまり料理はしないがたまに未来の手伝いをしている響は簡単な星型チョコ。

F.I.S組の料理当番であった調は一口サイズのトリュフ。

料理慣れしていない切歌は不格好な形のミルクチョコ。

そして研究ばかりではないセレナはマドレーヌ。

といった具合だ。

「喜んでくれるだろうか・・・」

翼が、そう不安そうにつぶやく。

「きっと受け取ってくれますよ。だから、頑張ってください」

そんな翼を、響が元気づける。

「立花・・・」

「当たって砕けろ、だぜ」

「いや砕けちゃだめでしょ」

「でもぶつからないと想いは伝わらないのデス!」

「ファイトです」

「大丈夫です。戦兎先生ならきっと受け取ってくれますよ」

「みんな・・・・」

皆からの激励を受ける翼の表情に、少し生気が戻る。

「それじゃあ明日に備えて、今日はもう解散しようか」

「それじゃあ、互いの健闘を祈って」

そんなこんなで、彼女たちは解散したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、バレンタイン当日―――

 

 

 

 

マリアの場合

 

「シン」

「ん?」

本部の廊下にてシンはマリアに声をかけられる。

「マリアか。どうした?」

「今日って何の日か、知ってる?」

「今日・・・ローマ皇帝の迫害によって殉教した聖ウァレンティヌスに由来する、西方教会の記念日だと思うが・・・」

「違わないんだけどなんかずれてない・・・?」

シンのずれた認識にとりあえず咳払いをしつつ、マリアは、背中に隠していた箱を差し出す。

「はい」

「ん?箱・・・」

それに首を傾げるシンだが、

「今日はバレンタインデー。女性が男性に贈り物をする日よ。忘れたの?」

「バレンタインデー・・・ああ、そういえば」

思い出したかのように、シンはマリアが差し出すその箱を受け取る。

「今年は色々な事があって忘れていた」

「そうね・・・」

「ルナアタック、フロンティア、ナスターシャ・・・思えば、あれほど苛烈な時間を過ごしたのは久しぶりだ」

思い出すように、シンは呟く。

「そうね」

それに、マリアも同意するようにうなずく。

「・・・開けてもいいか?」

「・・・ええ」

マリアの返事を聞き、シンはリボンを解き、箱を開ける。

「ブラウニーか。それにこの匂いはココアか」

「貴方の好きな味でしょ?」

「ああ」

それにうなずいて、シンはブラウニーをひと切れとり、口に運ぶ。

そして食べて、何度か咀嚼し、そして飲み込む。

「うん、美味い」

「それなら良かった」

そう言い合う二人の間には、笑みが零れていた。

 

 

 

 

調と切歌の場合

 

 

「慧くん、はっぴーバレンタインデー」

「アタシたちのチョコを受け取ってほしいのデース!」

二人そろって慧介に作ったものを渡す調と切歌。

「ありがとう二人とも。いやー、今年もバレンタイン迎えられるなんて思わなかったよ」

「私も思わなかった」

「こうして調と慧介と一緒に過ごせて良かったデス!」

二人からのチョコを貰いつつ、慧介の素直な言葉に、二人は頷いて見せる。

そんな中で、調が、慧介と切歌の手を取る。

「慧くんと、切ちゃん・・・二人がいてくれたから、今、私はここにいる。だから、ありがとう」

そう、満面の笑みで調は言う。

その笑顔に、二人も笑顔で答える。

「そんなの、こっちだって同じだよ。ありがとう、調」

「そうデスよ。ありがとうはお互い様なのデス!」

「マムも、喜んでくれるかな」

「きっとな」

そんな風に言い合う三人。そんな中で、切歌はふと、調の方へ近づいたかと思うと、

「まあそれはさておき、調はもうちょっと慧介とくっついた方がいいんじゃないデスか?」

「え!?」

「んな!?」

そうして切歌が調を押した結果、調が慧介の腕に密着するようになってしまい、その調の華奢で柔らかい感触が慧介の脳髄を討ち貫く。

「き、切ちゃん!」

「ほらほら、そうしてた方がお似合いデスよ~。というわけで今デス!」

「え?」

次の瞬間、どこからともなくシャッター音が鳴り響く。

それを聞いた調と慧介が、ぎぎぎ、とさびたブリキ人形のように首を回転させた先にいたのは、自分のスマホを構えた藤尭朔也の姿が―――

「・・・藤尭さん・・・?」

「い、いやー、ごめんね調ちゃん、慧介君。切歌ちゃんにどうしてもって言われて・・・」

「切ちゃん・・・?」

「藤尭さん!パスデス!」

次の瞬間、藤尭に向かって走り出した切歌が藤尭から彼のスマホをキャッチ。

そのまま全力で逃走を始める。

「逃がさない・・・!!」

一方の調はハイライトオフした目で切歌を追走。絶対に逃がさないという虎のようなオーラを滾らせて、切歌を全速力で追いかけていった。

「うわぁ・・・」

「ああ・・・」

その様子に藤尭と慧介は引きつった笑みを浮かべていたが、ふと慧介が動いていない事に気付いた藤尭が慧介の方を見る。

「・・・・慧介君?」

「え?ああ、なんか、うちの切歌がすみません・・・」

「ああ、いや、別に・・・なんかごめん・・・」

と、何かいたたまれない雰囲気となっていた。

 

 

 

クリスの場合

 

「ここ、だよな?」

クリスが訪れたのは、この潜水本部内にある、ジムルーム。

そこには様々な筋トレ道具やら運動道具などが出そろっており、そこで筋トレをする者は数多く存在する。

無論、弦十郎もここを利用している。

(最近、ここに通い詰めてるって聞いてたから、いるかな・・・)

実はかなり緊張してきているのだ。

何せ初めての恋人に初めて贈り物をするのだ。

しかも彼女自身、素直じゃない性格が突っかかってその緊張がさらに高まっている始末だ。

しかも、意外にも人が多く、さらにトレーニング道具が遮蔽物となって一目では龍我を見つけられない。

と、入り口で龍我の姿を探していると、ふととある人物が目に入る。

「あ、あんたは・・・」

「ん?クリスちゃん?」

なんと友里だった。その身をトレーニングウェアに身を包んで、片手にペットボトルを持っていた。

「なんでここに・・・?」

「オペレーターといっても、たまに外出することもあるからね。こうして体を鍛えておかないと、いざって時に逃げられないからね」

「ああ・・・」

自分たちシンフォギア装者や仮面ライダーと違って、彼女たちは普通の人間。ノイズに触れればその体を炭化されてしまう。弾丸が当たれば怪我するし最悪死ぬことだってあり得る。だから彼女らは、自ら生きる為の方法と選択肢を作ろうとしているのだ。

「偶に藤尭君も来るのよ」

「あの人もかよ・・・」

「クリスちゃんがここにいるってことは、龍我君を探しに来たってことよね?もしかしてバレンタイン」

「ま、まあ・・・そんな所だ」

指摘されて恥ずかしくなり、顔を逸らすクリス。

「だったらあそこにいるわよ」

そうして視線を向けた先にあったのはベンチプレス用の道具が置かれた場所。

「あ」

そのうちの一つに、周囲の人間が注目していた。

それに視線を向ければ、そこにいるのは、寝っ転がってバーベルを上げ下げしている龍我の姿があった。

「さっきからずっとやっててね。確か、百キロを十回セットでやって、もう三セット目から数えてないわね」

「流石だな・・・」

もはや龍我の身体能力には慣れて苦笑いするクリス。

と、そんな中で、大きな金属音が聞こえ、そちらに視線を向けてみれば、龍我がバーベルを専用のラックに置いて、ベンチプレスをやめていた。

激しく呼吸をしており、腹式呼吸か腹が上下していた。

「丁度終わったみたいよ。行ってあげたら」

「お、おう・・・」

友里に言われ、クリスは龍我の元へ向かう。

一方の龍我は上体を起こしてベンチに座ると、ゆっくりと深呼吸をして呼吸を整えていた。

「ふぅー・・・すぅー・・・ふぅー・・・」

元格闘家だからか、筋トレをどのようにやればいいのかは理解しているようだ。

そしてまた、気付いたことだが、トレーニングウェアの上からもわかるほど、龍我の体は夏に見た時よりも、ずっとずっと逞しくなっていた。

その体から汗が滴り、ゆっくりと息を整えている様子に、クリスは少し、心臓が跳ねるような感覚を覚えた。

そんな中で、龍我がクリスに気付く。

「クリス」

「よ、よお・・・」

気付かれて、タイミングを見失うクリス。

「どうしたんだ?お前がここに来るなんて珍しいな」

「りゅ、龍我を探してたんだ」

「俺を?そりゃまたなんで?」

「その、今日、バレンタインで・・・」

「バレンタイン・・・あ、そうか。なんかここの女どもが男になんか送ってるなと思ったら、そうかそういう事か」

納得、といった具合で龍我はそうぼやく。

「で?お前はどうなんだ?」

そして、龍我は含み笑顔でクリスの方を見る。

その視線に、クリスは思わずうぐっ、と唸る。

「ど、どうって」

「俺の分のチョコはないのかよ?」

と、いじるように尋ねる龍我に、クリスは体の体温が一気に上昇していくのを感じる。

「の・・・のぼせ上がるな筋肉バカ!あ、アタシ様のお菓子は、こんな人目に付く所で渡すもんじゃねえんだよ!」

ここで素直になれない性格が邪魔をして思ったこととは違った言い方をしてしまう。

ただ、チョコはあることは伝えられたので、ある意味上々なのだが。

「じゃあ誰かいない時なら渡せるんだな?」

「うぐっ」

そしてそれは全くその通りであり、龍我に指摘されて顔を赤くするクリス。

そして龍我は立ち上がる。

「分かった。んじゃ行くか・・・うおっ!?」

しかし、いきなり龍我の胸に何かが叩きつけられる。

それは、クリスの拳とそれに握られた紙袋。

「え、えーっと、くりす・・・?」

「ん」

「え?」

「ん!」

「お、おう・・・!?」

クリスの無言の圧力に龍我は思わず紙袋を受け取る。

そのまま、クリスは無言のままジムの出口へ早足て向かっていってしまう。

そして、入り口の前で止まると、唐突に龍我の方を指さして叫ぶ。

「あとで感想聞かせろよ!?絶対だからな!?」

顔を真っ赤にした状態でさっさと出て行ってしまうクリス。

「・・・・」

一方の龍我はぽかーんとその場に突っ立っていた。

だが、すぐさま渡された紙袋の中をあさり、中に入っていたマフィンを一つ取り出す。

袋に入れられていたそれを取り出し、一口かじってみる。

「・・・・美味い」

羞恥のままあてもなく廊下を早歩くクリスには聞こえていないが、龍我は確かにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

セレナの場合

 

 

緒川慎次は二課のエージェントである。

主に機密保護、情報操作、隠蔽工作などの『裏方まわり』を全般的に引き受ける存在であり、また表向き『小滝興産株式会社』に所属する風鳴翼専属のマネージャーでもある。

そしてその正体は風鳴家に代々仕える飛騨の隠忍『緒川家』の次男。

その身体能力は凄まじく、分身の術やらなんやらいろいろと使え、翼の使う『影縫い』もまた、彼の忍術の一つである。

 

 

さて、何故いきなり緒川の事を話したのか。

 

 

―――緒川が、翼の海外進出について、色々と下準備をするために、スケジュール表を確認しながら本部の廊下を歩いていた時の事だった。

「日頃の感謝の気持ちです。よかったら受け取ってください」

「ああ、ありがとうね」

「ん?」

ふと声が聞こえてそちらを向いてみると、そこにいたのは、二課の女性職員に小包を渡すセレナの姿があった。

(そういえば、今日はバレンタインでしたね)

その事を思い出し、緒川は、弦十郎の元へ向かおうとする。

と、そんな緒川の背中から声をかけられる。

「あ、あの、緒川ひゃん」

「ん?」

それに振り返れば、そこにはセレナが立っていた。その片腕にはおそらくここの職員に送るものであろうチョコの入った紙袋。

「セレナさん。どうかしましたか?」

そう問いかけると、セレナは紙袋、ではなく別の場所から四角い箱のようなものを取り出し、渡す。

「緒川さんに、バレンタインのお菓子です。マドレーヌです」

そう、笑顔で渡してくるセレナに、緒川は微笑むように笑みをこぼし、それを受け取る。

「では、あとで美味しく頂かせてもらいますね」

「はい。では、私はこれで」

そう言って、セレナは駆け足で去っていく。その後ろ姿を見送りつつ、緒川は発令所に向かった。

「司令」

「おお、緒川か」

「今度の海外進出について、少し話が・・・」

そして発令所にて、しばし談義していると、友里と藤尭が戻ってくる。

「友里あおい、ただいま戻りました」

「藤尭朔也、同じく・・・」

友里はしゃきっとしており、しかし藤尭はなぜかげんなりしていた。

「おう戻ったか」

「あれ?藤尭さん、どうかしましたか?」

「それが、切歌ちゃんのいたずらに加担したから調ちゃんにお仕置き喰らってて」

「どうにかスマホの破壊だけは免れたんですけど、一時間近く説教を喰らってしまいまして・・・」

それに緒川と弦十郎は苦笑いを零していた。

ふと、そんな中で藤尭が緒川がもっている箱に気付く。

「あれ、それは・・・」

「ああ、先ほどセレナさんから貰いまして」

「セレナちゃんから?・・・なんか他の人のと違くないですか?」

「え?」

藤尭の言葉に、緒川は思わずきょとんとしてしまう。

「そうなのか?」

「ええ。先ほど私たちもセレナちゃんからチョコを貰ったんですけど、私も朔也君も同じもので・・・」

そういって二人そろって同じ小包に入ったチョコを見せてくる。

「俺のと同じか」

「司令も貰ってたんですか?」

「ああ。ほれ」

そう言って弦十郎も自分の席に置いていたチョコの小包を見せる。

「一人だけ違うってこれってまさか・・・」

藤尭の言葉に、緒川はこの人生で初めて顔をひきつらせたかもしれない。

「まさか、ですよね・・・」

 

 

 

 

その一方で、

「ったく、龍我の奴は・・・」

先ほど龍我にマフィンを渡して体の熱を冷まそうと本部の廊下内を歩き回っていたクリス。

そんな中で、ふとT字路を真っ直ぐ行こうとした時に、横の通路で、セレナが壁に手をついて膝をついて、背中を丸めている姿を目撃する。

「なっ!?」

どことなく激しく呼吸をしているようにも見え、クリスは慌ててセレナの元へ駆け寄る。

「おい!?どうした!しっかりしろ!」

そして、その背中をさすってやる。

「ハア・・・ハア・・・だい、じょうぶ・・・です・・・」

「そんな訳ないだろ?どこか痛むのか?酷いんだったらメディカルルームに・・・」

「本当に、大丈夫なんです・・・」

そうして顔を挙げたセレナの顔を見たクリスは、一気に顔をひきつらせた。

まるでリンゴのように真っ赤にした顔に引き攣った笑顔、そして、心なしかものすごくぐるぐるしている目。

「そう、さっき、緒川さんにマドレーヌ渡せたんですよ。でもその時ちょっと噛んじゃってですね。だから今死にたいなーなんて思ってた所なんです。ええそうです。冷静ですよ私は。冷静にこの羞恥を抱えたまま素晴らしい死に方が出来ないか模索しているところなんです。アハ、アハハハハ・・・」

「うわあ・・・」

背中に手を回しているが、そこからでもしっかり伝わってくる激しい心臓の鼓動と彼女の顔の様子から見て、クリスは、ただ引く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翼の場合

 

 

「よもや、本部にはおらず、家にいるとは思いもよらなかった・・・」

戦兎の住む『No.3』の倉庫。そこに翼はやってきていた。

理由は、本部に戦兎がいなかったから。緒川に居場所を聞き出して、バイクですぐに来たのだが。

「・・・・受け取ってくれるだろうか」

そう言って、翼が視線を落とすのは、失敗してしまったチョコレートクッキー。

焦げて、どうにか食べられそうなものだけ厳選して袋に纏めたものだが、あの甘いもの好きで二課でもかなり有名な部類に入る甘党の戦兎が、果たしてこんなものを食べてくれるだろうか。

と、悩んでいると、唐突に僅かに開いていた扉から声が聞こえてきた。戦兎の声だ。

「誰かと話している?」

そっと耳を傾けてみると、

「―――だから、お前の方で解析できないか?サンプル送っただろ。・・・え?何?兵器開発なら協力しない?いや違うって!もしもの時の為の保険だよ保険!」

覗いてみれば、ビルドフォンで誰かと連絡を取っているようだ。

「これを完成させれば、負荷を大幅に軽減できるんだ。今は仮面ライダーやシンフォギアは災害救助の為の力だけど、いつまた大きな戦いが起きるか分からない。だから頼む」

誰かに、何かを頼んでいるのだろうか。何か、一生懸命のようにも感じる。

「・・・ありがとう。じゃあ、なんかわかったら連絡をくれ。うん、それじゃあ。母さんたちによろしく」

それを最後に、戦兎は通話を切る。

「ふう・・・これでもう少し前に進める」

「桐生」

「ん?」

翼が、戦兎に声をかける。

「誰と話をしていたんだ?」

「ああ、俺の知り合いの科学者。ちょいと奏の残したLiNKERについて調べてもらおうって思ってな」

「大丈夫なのか?そんなことをして・・・」

「大丈夫大丈夫。だってあいつの嫌いなことは兵器開発なんだからな。悪い事に使ったらあいつに殺されかねない」

「そ、それほどまでなのか・・・なんだか気になるな」

と、そういい合っていると、翼は戦兎の机の脇に置かれている紙袋に気付く。

するとそこには、溢れかえりそうな数のチョコが。

「桐生、これは・・・」

「ん?ああ、学校の奴らからめっちゃもらってな。会えば次から次へと、挙句の果てには学校の靴箱にまでしのばされてる始末だよ」

「・・・・」

それを見て、翼は思わず失笑してしまう。

(なんだ。私が渡さなくても、桐生は沢山もらっているじゃないか・・・)

下手な自分のものより、上手い他の子の方が、戦兎も喜ぶ。

わざわざ、失敗したものなんて、彼は食べないだろう。

そう思い、翼は、手にもった袋を、そっと背中に隠した。

と、そこで、

「そうだ。丁度良かった」

「ん?何がだ?」

呟いた戦兎の言葉に、翼は思わず首を傾げる。

そうして戦兎が手にしたのは、何かの刀。

「シンの雷切を改造して、フルボトルを装填できるようにして性能を大幅パワーアップさせたその名も『デンショッカー雷切』!すごいでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ!?」

「ああそうだな。そういうわけで私はこれから用事が・・・ひっ」

立ち去ろうとするも戦兎に肩をがっしり掴まれた翼は小さく悲鳴を上げる。

「試したぁいなぁ~」

「あ、あの、ちょっと待ってくれ。頼む、頼むからそれを振るのだけはやめてくれ。聞いたところによると高周波ブレードって鋼鉄をも撫でるだけで斬り裂くんだよな?だったらそれを喰らったら私はただじゃすまないと思うんだが・・・」

「科学に犠牲はつきものだ」

「だからって人で実験するなぁぁあ!!」

「ってか、お前の手に持ってるそれなんだよ」

「え?」

いきなり話題を変えられて混乱する翼。実は掲げられた翼の手には、翼の作った焦げたクッキーが握られているのだ。

それを戦兎は強引に掻っ攫う。

「あ!?」

「クッキーかこれ?」

と、おもむろに袋を開けて中にあるクッキーの一つを口に放り込んだ。

「あ」

「んぐっ!?」

それを食べた戦兎の顔が一気に青ざめる。

思わず口を押える戦兎。しかし、ごくり、と飲み込んだ。

「―――っだはぁ!?こ、焦げてる・・・」

「す、すまない。それは失敗した中でどうにか食べられそうなものを厳選したものなんだ」

「作ったもんの中で一番の出来がこれかよ・・・これ誰が作ったんだ?」

「・・・私」

「え」

翼のカミングアウトに、戦兎は思わず固まる。

「・・・・え?これお前が作ったの?」

そう尋ねた翼の顔は、恥ずかしいのかほんのりと顔を赤くしていた。

「・・・・」

その様子に、戦兎はどこかいたたまれなくなる。

「ま、まあ、焦げてるとはいえ、一応食えなくもないし、焦げてることを除けば、砂糖の加減は俺好みだから、一応大丈夫なんじゃねえの?」

「ほ、本当か!?」

戦兎の言葉に、翼は思わず目を輝かせる。

「へ?あ、ああ。少なくとも甘さは俺の好きな方だが・・・」

「そうか。それなら良かった・・・・」

その言葉に、翼は心底胸を撫でおろす。

「少し砂糖が多すぎたかと思ったが、丁度良くてよかった」

「まあな。他の奴らのチョコはどうにも甘さが足りないんだよ。一般的な甘さだという事は理解できるんだが・・・何分俺の好みじゃないというか・・・」

「他の者たちのも食べたのか?」

「ん?ああ、食ったよ」

「そ、そうなのか・・・」

「だけどここだけの話。チョコに髪の毛やら爪やら混ぜてあるものがあってな。流石にそればっかりは食えないんで捨てさせてもらった。なんで髪の毛ごと喰わなきゃならないんだっての・・・」

「そ、そうなのか・・・」

そんなことをするような輩がいるとは思いもよらなかった翼。

何故髪の毛やら爪やらを混ぜる必要があるのか。

「ま、今まで食った奴の中でなら、一番好きなのはこいつかな」

それを聞いて翼はうれしそうにする。

「味は努力点だが」

だがしかし下げられてテンションが下がる。ある意味質が悪い言い回しである。

だがしかし、である。

「桐生」

「ん?なんだ?」

「来年は、もっと美味しいお菓子を送る。今度は焦げてない、桐生好みの甘いお菓子を」

そう言って、翼は、宣言する。

「だから、待っててくれないか?」

そう尋ねると、戦兎は不敵に笑って答える。

「俺を満足させられるならな」

相も変わらず、不敵な感じで、戦兎はそう言い返す。

 

来年、もう一度、贈るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、響と未来は互いで交換してましたとさ。




裏事情

来週の土曜日で投稿だとバレンタインからさらに離れてしまう訳だから、せめて二月の代わりに二日という感じで投稿したかっただけなのである。

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