調「なお、土曜更新はちゃんとやりますので安心してください」
戦「というわけで、ちょいとあのバカとクリスの日常の一幕を見ろ!」
―――クリスと付き合う事になった。
とはいっても、一方的な宣告による、勝負ごとのような関係ではあるが。
「どうだ?今日の味噌汁」
あの日以来、クリスはよく、朝食と夕飯を作りに来てくれるようになった。
無理はしていないか、と尋ねはするが、彼女は気にするな、といって笑顔で返してくる。
「ん、美味い。ダシでも変えたのか?」
今日の朝食は、焼き魚に味噌汁、そしてご飯、と、れっきとした日本定番の献立だ。
「そーなんだよ。最近いいダシ見つけてさー」
と、楽し気に語る彼女の顔は、見ていて飽きない。
こういう関係になってからしばらく経ってはいるものの、この笑顔だけは、どうしても代わり映えしない。しかし、それでも見ていたくなるのもまた、不思議なものだ。
「そういや、今日休みなんだっけか?」
「ああ、今日一日、ごろごろして過ごすつもりだぜ」
「なんかやんねえのかよ。筋トレとか」
「龍我じゃあるまいし・・・でもまあ、テレビとかは見るかなぁ」
「テレビねえ・・・なんか面白いのやってんのかよ?」
「ああ、バラエティだとか、世界の面白い話だとか、あ、この間雨の中で酒飲んでた男の映像があったぞ」
「なんで雨の中で酒なんで飲んでんだ・・・馬鹿なのか?」
「龍我以上の馬鹿かもな」
なんて言い合い、自然と笑いが零れる。
しかし、そんな中で龍我はふと思う。
何か、忘れている気がする―――
「・・・あ」
「ん?どうした?」
そして、唐突に思い出す。
「そういや俺、お前の両親に挨拶してねえ」
「・・・・」
クリス、フリーズ。
「は、はあ!?」
それでもって再起動と共に沸騰。うん、可愛い。
「な、ななな何言ってんだよ!?そ、そんな、まだ付き合ったばっかでそんな・・・・・って、アタシの両親もういないんだけど!?」
「え、いや、仮にも付き合う事になったんだから、ちょいと仏壇にお香でもあげにいこうかなと・・・」
「・・・・」
ただの親切。龍我の中にはそれしかなかった。
「そうだった。龍我はそこまで深く考えない奴なんだった・・・」
「失礼な」
そういい合ってるうちに、龍我は朝食を食べ終える。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
朝食を食べ終えたところで、龍我はおもむろに立ち上がる。
「そんじゃ、今日はクリスの家にでもお邪魔しようかね」
「え!?」
「ん?ダメか?」
「いや、だめってわけじゃねえけど・・・その、なんでだ?」
「さっき言った事もあるけど、まあたまにはお前の部屋に行きたいからだな」
「うう・・・」
と、クリスに拒否する理由もないわけであり、
「どうぞ」
「お邪魔しまーっす」
あっさりと家に招き入れてしまった。
「言っておくが、おもてなしはあまり期待すんなよ」
「まあいきなりだったしな。仕方がねえよ。ま、その分別の事で楽しませてもらうからよ」
「・・・・ちょっせえ」
にしし、と笑う龍我に、クリスはそっぽを向く。
彼が、そんな深い意味でそんな事を言っている訳がないからだ。
クリスの部屋は思いのほか片付いており、とくに面白そうなものはないように見える。
ただ、家具などはこれなりに高価なものそうであり、彼女の金の使い道が十全と伝わってくる。
まあ、そんな趣味を持たぬ彼女の事だ。他の事に金を使いたいのだろう。
しかし、部屋の片隅に置かれている仏壇。それだけは、他の家具なんかよりも遥かに豪華であり、力が入れられているという事が十分にわかる。
彼女が、どれほど両親の事を想っているのか、それだけで十分に伝わる。
何か飲み物を用意しようとしているクリスを他所に、龍我の足は自然とその仏壇の方へと向いていた。
「ん?龍我?」
戻ってきたクリスが、龍我が仏壇に向かっている事に気付く。
龍我は、仏壇の前に立つと、まず座布団の上に正座で座り、そして、手慣れた手付きで線香に火をつけ、リンを鳴らす。
そして、静かに手を合わせ、合掌する。
「・・・はじめまして」
ふと、合掌をやめた龍我が、仏壇に向かって話し出す。
「万丈龍我といいます。挨拶が遅れましたが、先日よりあんたたちの娘さんとお付き合いをさせてもらっています。その、八百長だとか、冤罪だとかで、色々と後ろめたい事が多いんだけども、それでも、付き合うと決めた以上は、全力で、クリスの事を守ろうと思います。そんな、頭なんてよくねえし、馬鹿だって馬鹿にされがちだし、この腕っぷししか取り柄はねえ俺ですが、どうぞ、よろしくお願いします」
そう言って、龍我は、仏壇に頭を下げた。
そんな龍我の姿に、クリスは、目尻が熱くなるような感覚を覚えた。
そんなこんなで、しばらくクリスの部屋で休日を過ごしていた訳だが、ふとクリスが、外を歩きたい、と言い出し、せっかくなので二人して外を歩くことになった。
「龍我、早く」
「分かってるって」
クリスが龍我を急かし、それに龍我は急いで靴を履こうとしたところで、ふと後ろを見た。
「ん?どうしたんだよ?」
「いや・・・なんでもねえ」
気のせい、と片付けていいのかもしれない。
「先に外出てるからな?」
「おう」
だけど、その声に、龍我は、安心させるように答える。
「ああ、任せとけ」
―――娘をお願いします。
微かに見えた、二人の男女の面影に、龍我はそう答えるのだった。
「うう、やっぱ冬は冷え込むな・・・」
「だったらなんで外に出たいなんて言ったんだよ・・・」
「いいだろ別に」
冬の冷たい風が肌を刺す。
いくら厚着をしていても、こればかりはどうにもならないらしい。
そんなこんなでアーケード街。こんな寒い中でも人通りは多いらしい。
「いいのか、こんな人の多い所で」
「龍我は嫌なのかよ?」
「別に、ただ心配なのは突然の人の波でお前とはぐれる事だが」
「じゃあ手でも繋ぐか?」
「んじゃそういう事で」
「んあ!?」
と、割と容赦なくクリスと手を繋ぐ龍我。
それにクリスの体温は一気に急上昇する。
「どうだ?
と、龍我は悪戯っ子のような笑顔でクリスにそう言ってくる。
―――どうやら、そういう事らしい。
「うう・・・逆に熱いよ!馬鹿!」
何か、なにか面白くない。この手玉に取られている感が無性に腹が立つ。
経験か、経験の差なのか。
こちとら未経験の十七歳の子供、向こうは経験のある二十四歳。
この人生経験の差か、そうなのか。
「馬鹿のくせに・・・」
「馬鹿っていうな」
しかし、それでも手は繋いだまま。折角繋いだ手を、そうそう離したくはないからだ。
そうして、しばらくこのアーケード街を歩いていると、唐突に龍我の足が止まる。
クリスはそれに気付き、先ほどまで見られなかった龍我の顔を見上げると、どこか悲し気な眼差しで、前を見ている龍我の姿があった。
その視線を追っていくと、そこに―――彼女らはいた。
「冬は、やっぱり冷えるわね」
「最近変な事件もあったし、いい加減にしてくれって感じだよな」
「でも、貴方がいるから辛くはないわ」
「恥ずかしいこというなよ・・・」
「ふふ、私は貴方の恋人よ?当然でしょう?」
「ふっ、言ってくれるな」
楽し気に、こちらの事など知らない―――いや、実際に知らないのだろう―――という様子で楽しく話す、二人の男女。
人込みの合間から、その姿を見つける。本当に、不幸な事なんてないかのように、その二人は楽し気だった。
その姿に、クリスは一種の不安感を覚える。
また、先日みたいな事にならないだろうか。そんな一抹の不安が、クリスの脳裏に過る。
恐る恐る、龍我の顔を見上げるクリス。
その時見た龍我の表情は、まるで、いつかの日を懐かしみ、そして、もう二度とそんな時間は戻らないという、そんな、悲しみのこもった表情だった。
そんな表情の龍我に、クリスは一重に、胸からこみ上げてくる熱をそっと抑え込んで、静かに、龍我の手を握る手に、力を込める。
「ん?」
それに、龍我が気付き、クリスの方を見る。
クリスは、俯き気味に龍我と同じ方向を向いており、
「アタシじゃ、不満なのかよ・・・?」
そう、拗ねたように言った。
そんな様子にクリスに、しばし呆気にとられた龍我は、ふっと笑い、声をあげる。
「あー、そうだな。まだまだ全然足りねぇなぁ」
その言葉に、ぴくりとクリスが反応する。
「だから、満足させてくれよ?そういう話だったよな?」
そして、続けてそう言って見せる。
その言葉に、クリスは弾かれたように龍我の顔を見上げて、にやり、と笑って見せる。
「おう言ったな。絶対の絶対に満足させてやるから覚悟しとけよ!」
「望むところだ。そう簡単に俺を香澄から引き離せると思うなよ?」
「やってやるよ!香澄よりアタシの方が断然良い女だって言う事を思い知らせてやる!」
不敵に、大胆に、二人はそう言い合う。
そんな中で、ふとクリスは、視界の片隅に誰かの面影を見る。
それは、女性。優しい笑顔を浮かべて、真っ直ぐにクリスの方を見ていた。
そして、その言葉が、クリスに向かって告げられる。
その言葉に、クリスは、ふっと笑ってしまう。
「ん?どうした?」
そんな中で、龍我はクリスがどこかを向いている事に気付く。
「いんや、ちょいとあのバカが見えたから、気になっただけだ」
「え?響いんの?どこだ?」
「さあな。ほんの一瞬だから見失っちまったよ」
龍我が響の姿を探す隙を見て、先ほどの女性がいた場所を見る。
もう、影も形もない、女性の姿。
そんな彼女に、クリスは、そっと答える。
「ああ、任せとけ」
―――龍我を、よろしくね。
その声は、クリスの胸に、いつまでも響いていた。
ちょいと特殊な事情
この話において補完したい事は、旧世界香澄は新世界香澄として復活していないという事です
理由はまあ想像に任せるとして、作者個人の見解では、
ネビュラガス投与→スマッシュにされる→スマッシュ解除されてすぐ消滅
といった具合に、肉体と精神が早い段階で既に消滅、新世界において新たな肉体にその精神が入らず、旧世界の事を想い出さなかった、といった具合で、まあそのあたり、ノベライズ版で何かわかると思いますけど、この作品ではこのような設定で推し進めたいと思っております。
なんか修羅場とか想像していた読者の皆様には申し訳ありませんが、そういう事とさせていただきます。
では、次回のGXを楽しみにしててください。
では。