響「そしてその新世界で戦兎先生はシンフォギア装者である風鳴翼さんと出会い、そこから様々な戦いに巻き込まれていくのであった!」
翼「様々な戦いの末、桐生戦兎の所属する特異災害対策起動部二課改め『S.O.N.G』は、新たな装者、マリア、月読、暁、仮面ライダーにシン、涼月を加え、新たな戦いの火蓋を切って落とすこととなる」
龍「その新たな戦いの敵とは・・・えーっと、錬金術師?だっけか」
ク「ここで詰まるな!というわけで、錬金術師+αとの戦いの幕が今上がる!」
戦「というわけで、砂糖しか生成できなくなった読者の体に再びシリアスと言うなのブラックコーヒーを喰らわせてやるぜ!新章GX編第一話をどうぞ!」
奇跡の殺戮者とワールドブレイカー
突然だが、ロケットが操縦不能で大気圏に突入し、全力で陸地に向かって落下している。
理由は至極単純――――宇宙圏内に漂い、仮面ライダーリベンジが吸収しなかった、フロンティアの残骸を回収するために、国連調査団が派遣したロケットが、帰還時のシステムトラブルによって制御不能状態となっているのだ。
「―――全く、なーんでいつもこんな事になるんだか」
体にかかる重圧、それを受けながら、戦兎はそうぼやく。
「ってか、結構狭いんだからもう少しつめろよお前ら」
「うるせぇ!だいたいなんで俺たち四人が纏めて乗ってるんだよ!?ミサイルもう一本増やしても良かったんじゃねえのか!?」
「予算の問題だろう」
「ヒゲは黙ってろ」
「黙れポテト」
「んだとォ?」
「やんのか?」
「はいはいストップだ。ここで暴れて軌道が逸れたらどうするんだっての」
戦兎以外に、龍我、一海、そしてどういう訳か日本の事で忙しい筈の幻徳が乗っていた。
「それで、どうすんだよ?あんな勢いで飛んでるもん、どうやって止めんだよ?」
「そこはどうにかするさ」
一海の質問に、戦兎がそう答える。
「そうだよな?」
『―――はい!』
無線から、元気ある返事が返ってくる。
『私たちなら、へいきへっちゃらです!』
『この身は常に、人を守るためにある。必ず止めて見せるさ』
『ま、そういうこった』
聞き慣れた、三人の少女の声。
その直後だった。
『ミサイル!?俺たちを撃墜するために!?』
知らない男の動揺しきった声が聞こえる。
『致し方なしか・・・!』
そしてもう一人、覚悟を決めたかのような声―――だが、それはすぐさま驚きへと変わる。
『へいき、へっちゃらです!』
もう何度も聞いた、彼女のおまじない。
それが、スピーカーを通して、彼らの耳に届く。
『だから、生きるのを諦めないで!』
「―――いくぞ」
戦兎の言葉に、彼らは頷く。
『パンダ!』『ロケット!』『ベストマッチ!』
『Wake UP!』『CROSS-Z DRAGON!』
『ロボォットジュエリィーッ!!』
『Danger!』『クロコダイル!!』
『Are You Ready?』
覚悟はいいか、という問いかけに、彼らは、さも当然のように叫ぶ。
「「「「変身!」」」」
『ぶっ飛びモノトーン!ロケットパンダ!イェイ!』
『Wake UP Burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』
『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』
『ロボット・イン・グリィスゥッ!!』
『ブルァァァァア!!!』
『割れるゥ!喰われるゥ!!砕け散るゥッ!!!』
『クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』
『オゥラァァァア!!!キャァァァア!!!』
四人の変身が完了する――――それと同時に、歌が響き渡る。
「始まる歌」「始まる鼓動」「響鳴り渡れ希望の音―――」
三人の装者の、
彼らの乗る二つのミサイルの外装が
「『生きる事を諦めない』と」
『Ready Go!!』『ドラゴニックフィニッシュ!』
その一つ、イチイバルを纏ったクリスがミサイルを三機展開、その上に響と翼、ローグがそれぞれ乗り、すかさず発射。
「示せ」「熱き夢の」「幕開けを」
その一方、一海が変身した仮面ライダーグリスはスクラッシュドライバーに『ジェットフルボトル』を装填。肩のマシンパックショルダーから凄まじい速度でヴァリアブルゼリーを噴出。
「爆ぜよ」
クローズは必殺技によってクローズドラゴンを呼び出し、その上に飛び乗る。
「この」
そしてビルドは、左手のコスモビルダーのジェットを噴射、一気に落下していくロケットに近付いていく。
「奇跡に」
「「「嘘はない!!」」」
「いっくぜぇぇぇええぇぇええ!!!」
グリスが咆哮、一気に飛んでいく。
ミサイルをまるでサーフボードのように操る装者三人とライダー一人。
が、やはりミサイルな上に重力の弱い大気圏。少しでもバランスを崩せば即落下でいくら装者といえども一溜りもないだろう。
「まるで、雪音のようなじゃじゃ馬っぷり!」
「だったら乗りこなしてくださいよ!先輩」
装者やライダーたちはロケットに接近。
まず響がミサイルから飛び降り、装甲に拳を突き刺して振り落とされるのを阻止。続いて翼が船体に張り付き、続くようにビルドが船体に右のジャイアントスクラッチャーを突き刺す。
「立花!桐生!」
「はい!」
「分かってるよ!」
連結部に張り付いた響と翼がギアのブースターを、ビルドが右手のコスモビルダーを全開で噴射、大気圏での空気摩擦を軽減。
しかしまだ止まらない。
「その手は何を掴むためにある?」
続いて取りついたクリスがミサイルを四基展開。その後ろでクローズが支え、四基とも一気に点火する。
その船体の真下からはクローズドラゴンが押し上げる。
『ディスチャァァジボトルッ!!』『潰れなァァいッ!!』
『ディスチャァージクラッシュッ!!!』
さらにグリスがジェットフルボトルをスクラッシュドライバーに装填。肩のマシンパックショルダーから溢れ出るヴァリアブルゼリーの勢いが増し、むしろ燃え上がり、推進力を増加させる。
「たぶん、待つだけじゃ叶わない!」
脚のアンカージャッキを船体に突き刺し、腕部のギアを変形、ブースターナックルと化し、そのブースターを炸裂させてさらに押し返そうとする。
『フルボトル!』『ファンキーアタック!!フルボトル!』
ローグはネビュラスチームガンに『UFOフルボトル』を装填。続けて、スチームブレードを船体に突き刺し、ネビュラスチームガンの引き金を引く。すると銃口から引力が発生。それを上に向けて、船体を持ち上げようとする。
「その手は何を守る為にある?」
さらに翼が船体に刀を二本差し、足のスラスターを大きく展開。勢いよくブーストさせ、さらに減速を促そうとする。
『ボルテックフィニッシュ!!』
そしてビルドがコスモビルダーの墳出力を必殺技発動によって強化。凄まじい勢いでコスモビルダーのジェットから凄まじい噴射が巻き起こる。
「伝う」「熱は」「明日を」「「「輝かす種火にィ―――ッ!!!」」」
そこで大気圏を突破、空気摩擦による燃焼を阻止。
「おい!?それでここからどうするんだ!?」
「まあどちらにしろ減速は間に合わねえだろ。このままいけば、カラコルム山脈への激突は免れねえだろうな」
「どうすんだよ!?」
意外に冷静なビルドに怒鳴り気味に聞くクローズ。
「せめて船内に突入して、パイロットだけでも救出した方がいいだろうな」
「かもな・・・でもだめだ」
ビルドがローグの提案を拒む。
「了子さんが残した研究データ、ナスターシャ教授が命懸けで守ったフロンティアの残骸―――どっちも聖遺物に関する貴重なデータだ」
地上が刻一刻と迫る。
「もしこのロケット見捨ててこんな人目の付かない所に落としてみろ。どっかの国がバックレて盗み出すかもしれねえだろ。それで軍事転用されたらたまったもんじゃない!」
船体に突き刺す爪が装着された手を握りしめる。
「誓ったんだ。俺に研究データを託してくれた了子さんに、全人類救って見せたナスターシャ教授に―――この力を『愛と平和』の為に使うと言う事を!」
コスモビルダーのエンジンが唸る。
「だからこんな所で諦めてたまるかぁぁぁああぁああ!!!」
目の前に巨大な山がある。このままいけば直撃は免れない。
「そうですよね!」
その叫びに、響が答える。
「了子さんの想いも、ナスターシャ教授の想いも全部、届けてあげないといけませんからね!」
山が接近してくる。
「龍我!!」
「ん?ぬぐあ!?」
そこでクリスがミサイルを分離、飛び上がってなんとクローズの顔面に逆肩車をしてくる。
その構図は、見ているとかなりけしからん構図になっているのだが、この状況ではそれを気にする余裕はない。
そうしてクリスが展開したのは六基の大型ミサイル。
それを一気に背後の山脈に向かってぶっ放す!
『MEGA DETH SYMPHONY』
放たれた六基のミサイルは空中で無数に分離。それが山の岩壁に突き刺さり、直前上に炸裂、爆発、粉塵を巻き起こす。
「ぶん殴れぇぇえぇええ!!」
「な、なにぃぃぃいい!?」
クリスの無茶ぶり。しかし、もはや考えている時間はなく、むしろ龍我の場合は考えるよりも体が先に動いていた。
『ボトルバーン!』
取り出したのはナックルダスター型の武器。それにあるボトルスロットに黒いボトルを装填。そして、正面のドラゴニックイグナイターを押す。
すると凄まじい曲調の待機音声が鳴り響き、そのまま一気に拳を振り抜く。
『ボルケニックナックルッ!!アチャァァア!!!』
岩盤すらも溶かし砕く、必殺の一撃が叩き込まれ、その山は―――まるで中部の一部を切り取られたかのように砕かれ、そして一気にその標高を下げる。
「なあ、今の山って名前なんだ?」
「確か世界で二番目に高いK2って山だったか?」
「今ので世界三位に下方修正されただろうな・・・・ッ!不時着するぞ!」
ローグが叫んだ直後、船体が大きく揺れる。地面に不時着したのだ。しかし、未だ勢いは止まらず。
「うぉぁぁぁああ!?」
「ヒャッハー!こりゃあ良い!路線無しのジェットコースターだぜ!」
「何はしゃいでるんですかー!」
絶叫を上げるローグ、はしゃくグリス、突っ込む響。
「ッ!翼ァ!」
「承知!」
そして唯一正面を見ていたビルドが見る先には森。このまま向かえば、木に激突して転倒やら船体が傷ついてガソリンが燃えて引火して大爆発やらが起きかねない。木は意外と丈夫だからだ。
船体の先頭に躍り出た翼は、その手に持つ刀を巨大な刃へと変形。進行方向にある木を根こそぎ削ぎ落す。
しかし森を突っ切って見えた先に、今度あるのは巨大な山。
「今度は山ァ!?」
「任せろォ!」
「行きます!」
それにグリスと響が反応。
グリスが両手にツインブレイカーを呼び出し、響がブースターナックルを掲げる。
そして、目の前の岩山に向かって拳を叩き込む。
叩きつけられた衝撃によって船体が逸れ、直撃を免れる。
「次は左だ!立花!猿渡!」
翼の声に、響とグリスは続けて反応。左の拳とツインブレイカーを叩きつけ、再度船体をそらす。
「まだまだ来るぞぉ!?」
「ッ!」
今度は正面に小さな岩。しかもかなり鋭く、二人がいる位置では拳を叩きつける事が出来ない。
『クロコダァイル…!』
それに対応するはローグ。再びネビュラスチームガンを取り出し、それにクロコダイルクラックフルボトルを装填。
エネルギーが銃口に充填されていき、それを目の前の岩に向ける。
そして、十分に威力が溜まった所で、引き金を引く。
『ファンキーブレイクッ!!クロコダァイル…!』
放たれた紫の砲弾。それが岩に炸裂し、砕け散る。
「まだまだ来るぞォ!!」
一気に山を駆け下りていく過程で、様々な障害物が出現、それをクリスの銃撃で破壊したり翼の斬撃で斬り飛ばしたり響の拳で粉砕したりクローズのクローズドラゴンで吹き飛ばしたりグリスの可笑しな破壊力でぶち抜いたりローグの謎の頑丈さで振ってくる瓦礫を
「この調子で麓まで行ければ―――」
『―――なんて呑気に言ってる暇ないですよ!』
しかしそこでセレナの声が無線越しに響く。
『その先に村があります!』
「んな!?」
セレナの声に、七人は前を向く。
見れば、そこには確かに村が―――
『マックスハザードオンッ!!』
すかさず、戦兎が動く。
「さあ―――実験を始めようか!」
やや早口で言った決め台詞を叫び、戦兎はハザードトリガーをビルドドライバーにセットする。
そして続けて取り出したのはあの細長のボトル――――『フルフルラビットタンクボトル』だ。
そしてそれを振る―――
ピョンピョンピョン―――
そのような音がそのボトルからなるも、それでもビルドは振り続ける。すると―――
―――ピョンピョン―――ドンドンドン!
突如として音声が代わり、フルフルインジケーターが青く発光する。
そして、ボトルの金色側のキャップ、セレクティングキャップを捻り、リボルインジケーターに、青の柄を向ける。
『タンク!』
そのままボトルを伸ばし曲げてビルドアップコネクターを接続。そのままビルドドライバーに装填する。
『タンク
そしてすさまじい勢いでボルテックレバーを回転。それと同時に、どこからともなく、七体の小さな青い戦車たちが凄まじい勢いでロケットの周りに整列する。
『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』
展開されるハザードビルダーと、整列する蒼き戦車たち。
それらの要素を踏まえて、彼は叫ぶ。
『Are You Ready?』
「ビルドアップ!!」
ビルドが叫び、ハザードビルダーに挟まれると同時に、響が船体の正面に躍り出る。
「馬鹿!?」
「何を・・・!?」
そして、ハザードビルダーから出てきた、真っ黒な装甲を纏ったビルドは、飛び上がった戦車を、その身に纏う。
『オーバーフロウッ!!』
『鋼鉄のブルーウォリアー!!!』
『タンクタンクッ!!!』
『ヤベェーイッ!!!ツエェーイッ!!!』
これが、ハザードフォームを制御する、もう一つの変身。
その名も、仮面ライダービルド・タンクタンクフォーム。
ラビットラビットが速さに特化した形態なら、タンクタンクはパワーに特化した形態。
「―――勝利の法則は、決まった!」
その姿に変身したビルドはすぐさま響と同じように船体の正面に飛び出し、そして、その船体を真正面から受け止める。
「っしゃァ!俺も付き合うぜ!」
「仕方がない」
「やってやるよォ!」
「ええ!?龍我!?」
「氷室長官、猿渡まで・・・!?」
さらに、クローズ、グリス、ローグまでもその後に続き、五人そろってシャトルを止めようと躍起になる。
しかしそう簡単に勢いは止まらず、シャトルは村に迫る。
―――絆、心、一つに束ね。
シャトルが村に到達、大通りを突っ切り、そのすぐ近くの家に僅かながらに損害を与えていき、街を一気に横断していく。
―――響き鳴り渡れ希望の音!
車が爆発し、爆炎が上がる。それが彼らを巻き込むも、それでも彼らは、止めようと力を振り絞る。
―――「信ず事を諦めない」と
「ぬぅぅぅぅッ!!!」
「ぐぅぅぅうッ!!!」
「うぉぉおおッ!!!」
「だぁぁぁあッ!!!」
ライダーたちが絶叫。シャトルの正面には、一際大きな建物。
―――唄え 可能性にゼロはない
「歌に合わせろォ!」
「「「おう!!」」」
そして、シャトルが建物に直撃―――する寸前で、
「飛べよ」
翼が叫ぶ、
「この奇跡に」
クリスが叫ぶ、
「―――光あれッッ!!!」
響が叫び、そしてシャトルは―――真上に投げ飛ばされる。
そして、シャトルは建物の頭上ぎりぎりを通過し、僅かに建物を掠めながらもエンジンを噴射、姿勢を立て直し―――見事、着地に成功する。
「ぜはー、ぜはー、ぜはー」
「ああ・・・死ぬかと思った・・・」
「どちらかと言えば、パイロットやこの街の住民の方だがな・・・」
ライダー四人、疲れ切った様子で変身を解除し、それぞれ思い思いの言葉を吐く。
「ふう・・・任務完了」
そして、無事見事に、シャトルを止める事に成功したのだった。
「無事か!?桐生!立花!」
「龍我!」
「おい俺たちはどうした?」
そして、船体に張り付いていた翼とクリスがやってくる。
その問いかけに、仰向けに倒れていた響は、声を出して笑い出す。
「おかしな所でもぶつけたか?」
その様子を不思議そうに見るクリスと翼。
それに、響は笑って答えて見せる。
「私、シンフォギアを纏える奇跡が、嬉しいんです」
その言葉に、一同は微笑みを零す。
「お前、本当の馬鹿だな」
ただ、世界二位から三位に格下げされたK2には、南無三という他ないが。
このシャトル救助の一件の後、特異災害対策機動部二課は、国連直轄下にて、超常災害対策機動部タスクフォース『Squad of nexus Guardians』、通称『
それから三ヶ月後――――
「―――彼女が動いたか」
一人、蝋燭の光のみが灯った部屋に、長い食卓の最端にて、一人の男がそう呟く。
「はい。現在、彼女の分身体である『エルフナイン』がドヴェルグ=ダインの遺産をもって逃亡、それを
「そうか・・・であるならば、我々も動くとしよう」
傍らの金髪の女性からそのような話を聞き、男は、その席から立ち上がる。
「世界の終わりは近い・・・故に、新たな夜明けの幕開けとなる・・・!」
男は両手を広げて高らかに言う。
「終末の夜明けに栄光あれ・・・!」
そして、日本の横浜でも、時を同じくして一人の少女―――否、少年か?そんな、良く分からない一人の子供が、一枚のローブのみを纏って真夜中の街を走る。
その足元に、銃弾のようなものが炸裂する。
それが幸いにも当たらなかったものの驚いて転倒し、しかしすぐさま立ち上がって近くの公衆電話に身を隠す。
「はあ・・・はあ・・・」
荒い呼吸を整えて、その子供は、その腕に抱えた箱を見る。
(ドヴェルグ=ダインの遺産・・・)
その中に何が入っているのかは、彼―――彼女か、彼女を追う追跡者しか知らない。
(
その確信を胸に、彼女は再び走り出す。
そんな彼女を見つめる、一つの影。
何故か、キメにキメているポーズをとっているその人影というか女性は、月を背中に、その姿を目で追う。
「私に地味は似合わない・・・だから次は、派手にやる」
そして、そう呟くのだった―――
夏も間近なその日頃。
桐生戦兎は多くの女生徒が登校する様子を遠目に見ていた。
と、そんな時だった。
「クーリスちゃ―――うぶぅ!?」
聞き覚えのある声がしたのでそちらを向いてみれば、丁度クリスが響に鞄を叩きつけている様子が目に見えた。
その傍らには、その見事な直撃に感心している切歌と調、そして驚く未来に、苦笑するセレナの姿があった。
「アタシは年上で、学校では先輩!コイツらの前で示しがつかないだろ?」
「私は別にいいんですけどね」
「お前はもう少し先輩としての自覚をもて」
「あうち」
クリスからそれなりに痛いでこぴんを喰らうセレナ。
「おはよう、調ちゃん、切歌ちゃん」
そんな中で、未来が調と切歌に挨拶をする。
「おはよう・・・ございます」
「ごきげんようデース!」
調はやや慣れない様子で、切歌は鞄を振り上げて元気よく答える。
「暑いのに相変わらずね」
「キュールル!」
その未来の肩の上にはクロがこれでもかとくつろいでいた。
「よう」
「あ、戦兎先生!」
タイミングを見かねて戦兎が会話に入る。
「おはようございます・・・戦兎先生」
「先生もごきげんようデース!」
「おう。しっかし、お前ら、こんな暑いって時に相変わらずだな」
そう言う戦兎の視線の先には、所謂恋人繋ぎで手を繋ぎ合っている切歌と調の手があった。
「いやいやそれがデスね~、慧介には申し訳ないデスが、調の手はひんやりしてるので、ついつい手を繋ぎたくなるのデスよ~」
「ここでもう片方を慧君が繋いでくれていれば完璧だったのに・・・」
ふと、この暑い中ですっと空気が冷たくなったような気がした。
「どうして・・・」
「あー・・・調さん?」
セレナが恐る恐る呼びかける。しかし、調から溢れ出る黒いオーラは留まるところを知らず。
「―――どうして、この学校は共学じゃないの・・・!?」
「イタタタタ!?し、調!痛い痛い痛いデスよ!ちょっと、ちょっと手に入れた力を緩めてください!お願いします結構きついデスイタタタ!!」
「あああ!?調ちゃん落ち着いて!」
「切歌ちゃんの手が壊れちゃう!」
「落ち着けぇ!」
「だって、ここは女子校なのに慧くんが通っている所は共学校なんだよ。それで私以外の女と関係をもったりしたらどうするの?その女の子コロサナクチャ・・・」
「ああ、やっぱこうなった・・・」
学校に慧介を結びつけると高確率でこうなるのだから溜まったものじゃない。
「ったくもう・・・」
「そういうクリスさんは龍我さんとはどうなんですか?」
「え?そりゃあまあ・・・朝飯作って夕飯作って、それで風呂沸かしたり・・・まあ、それなりにデートもしてるっちゃあしてる・・・って何言わせんだ!」
「あら可愛い」
「~~~」
実際、精神年齢はクリスの方が上だが、実年齢二十歳(奏と同い年)な上にマリア(豆腐メンタル)の妹だ。クリスを手玉に取る事などお手の物だろう。
そこで、やっと落ち着いた調が一言。
「慧くん・・・今頃何してるんだろうなぁ・・・」
「へっくち!」
リディアンから割と近い場所にある高等学校の教室にて、慧介は派手にくしゃみをかましていた。
「どうした慧介?風邪か?」
「そんな筈は・・・誰かが噂でもしてるんだろうか」
「ま、異常に体が柔らかくてそれなりにイケメンなお前なら噂の一つ二つあってもおかしくないわな」
「あるいは、その事に妬み嫉みを持つ輩が暗殺の算段を企てているか」
「なんだその洒落にならない冗談は・・・」
と、慧介に話しかけてくるのは、三人の男子。
一人は金髪に染めた髪と明らかにちゃらく見えるが根は良い奴な『
三人とも、この学校における慧介の友人たちである。
「しっかし驚きだよな。学校初日の自己紹介でいきなりめっちゃ体が柔らかいって言って実際に披露して見せた奴」
「あれは驚きだった。体が柔らかいのは女の特権かと思っていたが、あそこまで体が柔らかい人間は初めて見たぞ」
「まさに軟体動物だね」
「アハハ・・・まあ、自分も遺伝としか言いようのない特技である事には変わりないんだけども・・・」
慧介は苦笑する他なかった。
(まあ調も結構柔らかかったりするんだけども)
細くてすべすべに見えて意外にしっとりもっちりとしているのを知っているのは、日頃からラッキースケベを引き起こしまくっている慧介といつも調と一緒にいる切歌だけの特権だが。
「そういやお前、今夜、あれ見るか?」
「ああ、見るよ」
修の言葉に慧介は頷く。
「世界に進出した風鳴翼と、再び世界で歌うマリア・カデンツァヴナ・イヴ!ああ、楽しみだなぁ・・・!」
浩司がなんともうっとりとした様子でそう呟く。
その様子に、慧介は無言でうなずく。
(また、世界で歌えるようになったマリア・・・それを全力で応援するのが、俺たちの役目だ)
慧介は、鞄の中に潜ませているジェームズが作り、戦兎によって再調整されたスクラッシュドライバーとポケットの中に忍ばせているタイガースクラッシュゼリーを掴みつつ、そう心の中で呟くのだった――――と、ここで場面が切り替わる所だが、
「そんな事よりだ慧介」
「ん?」
「お前、巨乳か貧乳、どっちがタイプだ」
「ぶっふぅ!?」
思いっきり吹き出す慧介。
「ななな何を言ってんだお前はァ!?」
「なぁんだよぉ。別にいいじゃねえか友達に自分の性癖教えるぐらい。あ、俺はもちろんボンキュッボンのナイスバディがタイプだけどな」
「誰もお前の性癖なんて聞いてないわ」
「俺は綺麗なお姉さんタイプ」
「待て修!?お前もそういうキャラだったか!?なんでお前もその話に乗ってんだよ!?」
「僕はどちらかというとロシア系の白髪の女性かな」
「お前もかよ!?あーもう!お前らどうせ胸のでかい女ばっか妄想してるんだろ!?残念だったな俺は黒髪ツインテールの幼女体形が好みだぁ!」
「え、お前ロリコンだったの?」
「だぁぁぁあ!!もういい何を隠そう俺は喧嘩の達人!今ここでお前をシバいてくれる!」
「あ、ちょ、ま、お前洒落にならねえ程強いからそれはやめアーッ!!」
「へっくち」
「あれ?調、こんな暑い時期に風邪デスか?」
「汗を掻いて冷えちゃったからかな・・・?」
一方、喫茶店『nacsita』にて。
「今日もみーたんは可愛いな~」
「カシラ!鼻の下伸ばし過ぎです!」
相も変わらず美空にフォーリンLOVEな一海。その他にも三羽ガラスが一海と同じ席に座っている。
「ぶれないわね~」
「ポテトが・・・」
その別の席ではコーヒーを飲む紗羽と幻徳。
「ああ?なんか言ったかぁ?」
「やめなさい。少なくとも私の店で暴れるのだけはやめて」
「俺の店でもあるんだけどね?」
今にも喧嘩に発展しそうな一海と幻徳を止める美空と、コーヒーを注ぐその父惣一。
「あー、暇だ」
「そう言って突っ伏さないでよ」
そして、カウンターに頭を突っ伏す龍我。
「いやー、まさかこんなに娘の友達が来てくれるなんて。お父さん感動だな~」
「やめてよお父さん。確かに友達ではあるけど、そこまで感動する程の事じゃないし」
「そうですぜお父様。少なくとも俺はみーたんのファ」
「ふんッ!」
「ふげう!?」
「「「か、カシラー!?」」」
「ふん!」
「何やってんだか・・・」
美空から強烈な肘打を喰らって床に沈む一海とそっぽを向く美空の二人に呆れる龍我。
「それにしても、最近クリスとはどうなのよ?」
「あ?・・・ああ、クリスか。うん、まあ・・・いつも通りだぞ」
「いつも通りって・・・そんなんじゃいつか愛想尽かされちゃうわよ?」
「う・・・」
別段、いつも通りと言えばいつも通りなのだが、十分にいちゃいちゃしてるし、料理作ってもらったり、時々甘えさせてくれたりとそれはそれは贅沢な生活を送っちゃってたりする。
その生活の中で龍我が言える事は、クリスはしっかりとあの宣言を実行しようと努力しているという事だ。
であるならば、それに自分も答えたいと思っている。
思っているのだが・・・
「なんか、日頃の感謝を込めてなんかプレゼントでも送ろうかな~・・・っと」
「へえ?万丈にしては気が利くじゃん」
「それについてちょっと考えてんだよ。クリスに何を渡したら喜ぶのかって考えててさ。これがなんも思いつかねえんだわ」
「ふーん・・・ああ、そっか、万丈にとっては付き合うの二度目なんだっけ?」
「まあな」
そう、龍我は女性と付き合うのはこれで二度目なのだ。
ただ、最初の相手は自分たちとの戦いに巻き込まれて消滅してしまった。それが、今でも龍我の心に深い傷を残している。
(だから、今度は必ず――――)
あんな想いをしないために。
と、そんな龍我の前に一つ、フルーツタルトが置かれる。
「ん?」
「そんな思い詰めた顔してると、彼女さんに心配させちゃうぞ」
惣一だ。
「マスター・・・」
「それ、奢りだから遠慮しないで食べて」
「・・・さんきゅ」
惣一の厚意に感謝しつつ、龍我は、一度手を合わせてからそのフルーツタルトを口に運んだ。
そして、夜―――クリスの部屋にて。
「・・・で?どうしてアタシん家なんだ?」
眉をぴくぴくとさせながら、そう尋ねる家主のクリス。
「すみません。こんな時間に大人数で押しかけてしまいました」
「ロンドンとの時差は約八時間!」
「チャリティドッグフェスを皆で楽しむためにはこうするしかない訳でして・・・」
今、クリスの家には龍我はもちろん、響や未来、セレナ、その友人の安藤創世、寺島詩織、板場弓美に加え、調に切歌、慧介、そして戦兎がいた。
もちろん、クロも未来の膝の上である。本当に懐きすぎ。
その理由は、その日ロンドンで開催される、とあるライブを見る為である。
「ま、頼れる先輩ってことで」
「そうですよ。ここは先輩として気を利かせませんと」
そう言いつつ、響はクリスから人数分のガラスコップの乗っかったおぼんを受け取り、セレナはそんなクリスの肩に手を置く。クリスは学生の中では一番年上だが小柄な為、セレナより胸はでかくても身長では負けている。
「なんか今物凄くむかつく事言われたような事を言われたような・・・」
「そうですか?」
こめかみに青筋を立てるクリスと首を傾げるセレナ。
補足だが、セレナはマリアの妹である。即ち、装者の中では三番目に胸がデカかったりする。あとは察しろ(威圧
「それにやっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよ?」
そう、それが今夜行われるライブを見る理由。
世界からノイズが消え去った事で、翼はついに、アーティストとして海外進出し、歌を世界に届けるという夢を駆け抜けている所なのだ。
「皆で応援、しない訳にはいかないよな」
クリスが、そう答える。
「そしてもう一人・・・」
「マリア」
「歌姫のコラボユニットの」
「復活デース!」
もう一人、また、新たに歌姫として復帰した者がいる。
「ほら、始まんぞ」
「戦兎先生!翼さんとマリア姉さんのステージだよ!」
「ん?おう」
一人、パソコンの画面を覗いていた戦兎は龍我に声をかけられ、改めてテレビ画面の方を見る―――
真っ暗な会場。その暗さの中で、響くのは観客たちの声援。
暗闇とは静寂の象徴―――しかし、そんなものをぶち壊すかのような熱気が、その会場を包み込んでいる。
だが、その熱気は、突如として響いた『前奏』によって、一気に上昇する――――
「―――遺伝子レベルの」
前奏が始まると同時に、天井の大画面のライトがカラフルに点灯。
そして、その直後に、桃色の髪を靡かせる青と白のフリルの衣装に身を包んだマリアがスポットライトを当てられ、その右手を天に掲げる。
「―――インディペンデント」
続けて、同じような衣装に身を包んだ翼が同じように左手を振り上げる。
「絶望も希望も―――」
「
さらに、声を繋いで、放つは彼女たちの絆の成す歌。
「「足掻け命尽きるまで―――ッ!!」」
その声に呼応するかのように、会場が一瞬にして沸く。
これが、世界にその名を轟かせるマリア・カデンツァヴナ・イヴと日本より世界進出した、日本が誇るトップアーティストの夢のコラボレーションライブの輝きと情熱―――
『間奏』―――スモークが彼女たちの素足を包み込み、まるでバレエのような足取りでステージを歩く。そして、その最中で彼女たちの足元から見えるのは―――水面。
そう、彼女たちがステージとして歌っているのは、水面、水の上。
それが彼女たちが素足の理由―――だけに留まらず、彼女たちの背後のモニターが開き、そこから、広大な海とロンドン橋、そして、夕焼けに染まる空と沈みかけの太陽が現れる。
指定された時間、予定通りの天候、二人の歌女―――それは、まさしく奇跡の『調和』とも言うべき現象。二人だけの、世界―――
「ヒカリと飛沫のKiss―――…」
口付けを指先に乗せて放つような仕草。その直後、彼女たちを囲うように水の柱が吹き上がる。それはまるで王冠―――
「恋のような――!」
「虹のバースデイ!」
その飛沫が虹を描き、彼女たちの魅力を引き立てる。
「どんな美しき日も―――…」
水の柱が収まり、二人の歌姫は、鏡写しのように左右対称に踊る。
「何か生まれ―――!」
「何かが死ぬ!」
そして、次の瞬間、二人が海面をアイススケートよろしく滑り出す。
そのまま、ステージを駆け抜ける。
「せめて唄おう」
「I love you!」
その声に、会場の観客たちが同時に叫ぶ。
「世界が酷い地獄だとしても」
立ち止まった二人の背後で、再び水が横一列に吹き上がる。
「せめて伝えよう」
「I love you!」
再び滑り出し、まるでフィギュアスケーターの如き動きで滑りながら全身を使って自らを魅せる。
「解放の、時は来た―――」
「星降る」
「天へと」
しかし、ここは海面上、氷の張るスケートリングではない。
ましてやフィギュアスケートではない。
そう、これは―――ライブだ。
誰もがその口で、自らの声を世界に届ける、轟かせる最高のステージ―――!!
「「響き飛べ!」」
再び水が吹き上がる。その円の中を、二人の歌姫がくるくると踊りながら並び立ち、そして―――
「「リバディソング――――」」
―――星空が、輝く。
「「―――Stardust」」
天を差した天井、そこから、流星が降り注ぐ。
その中を、青のフリルを靡かせる翼と、赤のフリルを靡かせるマリアが駆け抜ける。
まるで星空のように暗くなり光り輝く世界へと変貌したステージを、二人の歌姫がここ一番の盛り上がりを魅せる。
「「そして奇跡は待つモノじゃなくて」」
二人が駆け抜ける海面。その二人が描くのは――∞の形。
「「その手で創るものと咆えろ!」」
腕を振り上げ、その声に応えるように一緒になって叫ぶ。
その声を受けて、二人は飛び上がる。
「涙した過去の苦みを!」
するとどうだ?二人は、突如として海面から離れ、その
それに合わせるように、水柱が爆発するように立ち昇る。
「レクイエムにして!」
二人が空中ですれ違うば、その場で空中で前転し、海面に着地。
「「生ある全のチカラで―――」」
そして、再び海面を駆け抜け―――
「輝けFuture world」
「信じ照らせ」
並び立った二人。それはいつかの競い合うようなものではなく、和解し合った友のような立ち姿。
「「星天ギャラクシィクロス―――…!」」
その天井の空では、二つの銀河が交じり合い、一つの輝きを―――新たな宇宙を創り出す。
それは、まさしく、全く別のもの同士が交じり合い、新たな『命』を創り出すが如くの奇跡―――
「うわっはー!」
会場が沸き立つ様子が映し出され、その日のライブを見に来てくれた
「こんな二人と一緒に、友達が世界を救ったなんて、まるでアニメだね!」
「お前はいつもアニメに繋げるよな」
そんな板場に呆れを見せる龍我。
「あはは・・・ソウダネェ・・・」
「キュルル」
そんな言葉に、響はやや棒読み気味に反応するのだった。
その一方で、ステージを降りたマリアは―――
昇降盤で降りていく先にいたのは―――アメリカ人のスーツを着た屈強な男が二人。
「任務、ご苦労様です」
そして、マリアに向かって『任務』と、そう言った。
「アイドルの監視程ではないわ」
「監視ではなく警護です」
「それならシンだけで十分なのに」
「彼にはマネージャーとしての仕事もあります。それに、世界を救った英雄を狙う輩も、少なくはないので」
その言葉に、マリアはそれ以上は答えず、その二人を伴ったまま、歩き出す。
「月の落下とフロンティア浮上に関する事件を収束させる為に、マリアは生贄にされてしまった」
「シンも、そんなマリアを守るために、一緒に世界を駆けまわってるデス」
そう、アメリカ政府からの要請で、マリアは文字通りの『
その状況に、三人は溜息を吐く。
しかし、
「そうじゃないよ」
未来が、それを否定してみせる。
「マリアさんが守っているのはきっと、誰もが笑っていられる、日常なんだと思う」
その言葉に、彼らに自然と笑みがこぼれる。
「そうデスよね」
「だからこそ、私たちがマリアたちを応援しないと」
「心配させない為にもな」
その様子に戦兎は微笑み、机の上に置いたビルドドライバーを手に取る。
誰かの明日を守る―――
かつて、世界を滅ぼそうとした地球外生命体―――その四体の内の一体に言い放った言葉。
その言葉に、嘘はない。
だから―――
(これを使うはめにならなきゃいいんだけどな・・・)
緊急時の備えの為に、設計した、とあるアイテム――――その設計図が映し出されている、パソコンの画面を見つめる―――その直後、
戦兎のビルドフォン、龍我、響、クリス、慧介の携帯端末に、二課からの連絡が入った。
「戦兎だ」
『翼のライブを楽しんでいる所すまないが、第七区域にて、火災事故が発生、消防活動が困難な為、応援要請だ』
「はい!すぐに向かいます!」
「ったく、なんでこんな時に」
すぐに立ち上がって、そう答える響と愚痴る龍我。
「響・・・」
「大丈夫!人助けだから」
そこへ、調と切歌が立ち上がって、申し出をする。
「私たちも!」
「手伝うデス!」
「だめですよ」
しかし、それはセレナに止められる。
「ギアを持たない私はともかく、LiNKERを使わなければ体に大きな負荷をかける第二種適合者である貴方たちの出動なんて認められる訳がないでしょう」
「ま、そういうこった。だからそこで大人しくしとけ!」
クリスがセレナの言葉にそう続け、すぐさま響と龍我、クリスは行ってしまう。
「「むぅ~・・・」」
それにすぐに顔をむくれさせる調と切歌だが、そんな二人の肩に手を置く慧介。
「大丈夫、すぐに終わらせて来るからさ!」
「慧介・・・」
「そんじゃ、行ってくる!」
「あ!慧くん!」
響たちの後を追おうとする慧介を呼び止める調。
「ん?」
「その・・・気を付けて」
「!・・・おう!」
調の言葉に、慧介は笑顔で答える。
「いくぞ、慧介」
「あ、はい!」
その一方パソコンにロックを掛けていた戦兎が慧介に声をかけ、その声に応えて、慧介も走り出す。
その様子を、調と切歌は、黙って見送るのだった。
「―――レイアが動いたか」
夜闇の中、眼下に広がるのは、赤い炎で一つの大きな建物を燃やし尽くす惨状。
「はい。この様子なら、S.O.N.Gも動くかと」
「という事は、仮面ライダーも出るという事だな。よし、では計画を始めようか―――」
高い建物から惨状を見下ろす二人。その眼は、これから起こる何かに、期待を込めているかのような眼差しだった。
「手始めに、桐生戦兎と万丈龍我を『抹殺』する―――」
「―――?」
その一方、何か、不穏な気配を感じ取ったシン・トルスタヤは、その場で立ち止まり、振り向く。
「・・・マリア」
そして、静かに、マリアの名を呟いた―――
そして、その不穏な予感は――的中していた。
様々な衣装がマネキンと共に飾られている細長い廊下のような部屋を歩くマリアと、その後ろに追随するボディーガードの二人。
その、ある意味気味の悪い空間の中で、彼女たちを見つめる者がいた。
それに気付かず、その部屋を歩くマリアたちに、扉のない筈の部屋での『風』を感じ取る。
「風・・・?誰かいるの!?」
その声に、マリアはすぐさま構えだし、他二人も思わず構えだす。
「―――司法取引と情報操作によって仕立て上げられた『フロンティア事変』の汚れた英雄、マリア・カデンツァヴナ・イヴ」
そのマリアの問いかけに、答える声が一つ―――
「何者だ!?」
その声に、マリアは怒鳴り気味に正体を尋ねる。
その問いかけに、その声の主は―――行動で答えた。
ボディガードの一人、正面から見てマリアの左側にいる男から、一つ上の段。たった一つだけ、異色を放つマネキンが一つ―――否、それは―――緑の衣装に身を包んだ、一人の女性。
その女性の手が、ボディーガードの後頭部を掴み、そのままぐいっ、と自分の方へと引き寄せる。
そして、サングラスを押し上げて、無理矢理その唇を重ねる―――
「んぐ!?」
まるで情熱的なキス。だが、その情熱的な口付けをされた男は、自分の体から何かが吸い出されている事を自覚し、抵抗しようとするが、片腕は掴まれ、後頭部を女性とは思えない程の力で固定され、さらには足、肩などで体を持ち上げられている為、逃げる事が出来ない。
「離れろ!」
すかさずボディーガードの一人が脇のホルスターから拳銃を抜き、向けるも、女性は構わず口付けを続ける。
するとどうだ。男の髪から、肌から、体からみるみる色素が抜けていき、最後には真っ白と言った、まさに死体のような状態に変化していく。
そして、吸血鬼の如く絞り終えたのか、その無理な態勢なまま、ボディーガードを捨て、妖しく笑う。
「ふふっ」
瞬間、
それを、フラメンコを彷彿とさせる動きでスカートと同時に片腕を薙ぐ。
すると彼女の周りで風が吹き荒れ、銃弾がその風にのって機動を変え旋回、撃ち返され右肩、左胸、眉間と突き刺さり、一瞬にして絶命する。
その直後に、カカッ、と靴底を鳴らすステップを刻み、華麗にポーズを決める。
その異常な強さに、マリアは戦慄し、
「纏うべきシンフォギアを持たぬお前に用はない」
その女性は、マリアに向かって、そう告げた。
燃え盛る建物を背後に、逃げる一人の子供。
そんな子供を追い立てるのは、一人の女性。
「踊れ。踊らされるがままに―――」
黄色の男性用の衣装を纏い、その指に挟むは四つのコイン。
それを、恐ろしい速度で投擲、ローブを纏い、その腕に一つの箱を抱える子供を攻撃する。
その威力は、弾丸もかくやと言うべき威力を誇り、幸い直撃はなくとも近くの車に直撃、ガソリンに引火、さらなる爆発を引き起こす。
「うわ!?」
その衝撃を受けた子供は吹き飛び、アスファルトに叩きつけられ、倒れるも、しかし立ち上がり走り続ける。
その様子の子供に、しかし一人の少女が、ゲートの上に立って、燃え盛るマンションを見つめていた。
その眼は、まるで、遠い日の思い出を懐かしむかのような―――あるいは、何かに対する復讐心を映し出しているかのような。そんな目だった。
その火災現場に向かうは一機のヘリ。
『付近一帯の避難はほぼ完了。だが、このマンションに多数の生体反応を検出している』
その中で、弦十郎から被害状況を聞く響、クリス、戦兎、龍我、慧介の五人。
「まさか人が・・・!」
『防火壁の向こう側に閉じ込められているようだ。さらに気になるのは、被害状況が以前、四時の方向に拡大しているという事だ』
「四時?そりゃまたなんで?」
「赤猫が暴れていやがるのか?」
なぜ、四時の方向に被害が拡大しているのか。何かの抗争か、あるいは、もっと別の何かか。
『響君、戦兎君、慧介君は救助活動に、クリス君と龍我君は被害状況の確認にあたってもらう』
「了解です」
「任せろ」
弦十郎の指示に、彼らは頷く―――
女性の振るう剣を巧みに躱すマリア。しかし、女性の剣もさることながら、鋭く速い。
その最中で振り下ろされる刃、それを横に抜けるように躱し、すれ違い様に鋭い延髄蹴りを叩き込む。
すると、その女性の眼玉が一回
延髄に蹴りを叩き込まれた。それだけでも相当なダメージな筈なのに、女性は何事もなかったかのように首だけの力でマリアを上空へ弾き飛ばす。
「―――しまったッ!?」
そして、踏みしめられる地面と、掲げられる剣―――このまま落下すれば、マリアはその刃に貫かれ、死に至るだろう―――
ヘリの扉が開く。
「任せたぞ」
クリスが、並び立った三人にそう言う。
「任された!」
「万丈、ちゃんと彼女守ってやれよ」
「うるせえ分かってるよそんな事!」
戦兎の揶揄いに怒鳴り返す龍我。
しかし、すぐに彼らは、その身を空へと投げ出す。
その眼下に広がるのは、燃え盛る炎と真っ黒な煙を吹き出すマンション―――
『スクラァッシュドライバァーッ!!』
落下の最中で、戦兎と慧介は、その腰に、ビルドドライバーとスクラッシュドライバーを装着する。
そして、戦兎はハリネズミフルボトルと消防車フルボトルを取り出し、それを振り、シールディングキャップを正面に固定する。
慧介は、左手でタイガースクラッシュゼリーを持ち、右手でシールディングキャップを正面に固定する。
そして、それを、それぞれのドライバーに装填する―――
『ハリネズミ!』『消防車!』『ベストマッチ!』
『タイガァージュエリィーッ!!』
そして、落下する最中で、戦兎はボルテックレバーを回し、慧介は左拳を右肩あたりにもっていくという変身ポーズをとる。
そして――――
『Are You Ready?』
覚悟の問いかけが、彼らに投げかけられる。
その問いかけに、戦兎と慧介は、躊躇いなく叫び、響は、聖詠を唄う――――
「「変身!!」」
「―――
『『レスキュー剣山!ファイヤーヘッジホッグ!イェイ・・・!』
『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』
『タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』
『ブルァァァァア!!!』
展開されたスナップライドビルダーが戦兎を挟み込み、ケミカライドビルダーに溜め込まれたヴァリアブルゼリーが慧介に纏われ、二人を戦士『仮面ライダー』へと変身させる。
そして、響の歌によって起動した、右手のペンダントが光り輝き、その内部にある聖遺物が起動、エネルギーへと変化し、それが鎧として纏われる――――
それこそが、戦兎が変身する仮面ライダービルド・ファイヤーヘッジホッグフォーム。
慧介が変身する仮面ライダータスク。
そして、響が纏うシンフォギア『ガングニール』の起動である。
それぞれ、誰かを救うための戦士の姿へと変身した三人はそのまま落下。響の歌が鳴り響き、そのまま響が蹴りでマンションの屋上の床を粉砕。その穴に、響に続くようにビルドとタスクが突入する。
「―――一点突破の決意の右手!!」
貫いた先は火炎燃え盛る地獄絵図。
『反応座標までの誘導、開始します!』
「俺は消火活動しながら向かう。お前ら二人は先に行ってこい!」
「分かりました!」
響とタスクが走り出す。
それを見送ると、戦兎は響達がさった方向とは別の方向を向いて、左腕に取り付けられたマルチデリュージガンを放水モードにして消火活動を始める。
防火壁の向こう、炎から発生する二酸化炭素の塊である黒煙を、ハンカチなどで吸い込むのを防ぎながら、低酸素の中、耐える逃げ遅れた住民たち。
そんな彼らの耳に、何かが聞こえる。
「・・・何か、聞こえないか・・・?」
一人の住民が呟いた言葉に、他の者たちも反応する。
「これは・・・歌?」
それは、響が唄う、誰かを救うための歌―――
「くっ!?」
成す術なく落下するマリア。そのマリアに、女性の掲げる剣の切っ先が迫る。
そのまま貫かれる―――かに思われたその直前、どこからともなく青い一閃が迸る。
それは、青き戦装束に身を包んだ、刀を片手に持つ―――翼。
「翼!?」
翼はマリアを抱えると同時に刀を防ぎ、そのまま掻っ攫う勢いのまま女性と距離を取る。
「友の危難を前にして、鞘走らずにいられようか!」
そのまま刀を構えた直後、突如として女性の立つ場所の天井が切り抜かれる。
「「ッ!?」」
切り抜かれた天井から現れたのは―――
「シン!」
鋼鉄の床を斬り、人工完全聖遺物『雷切』を手に、黒いスーツ姿のシンがその姿を現す。
そのまま真下にいる女性を、足場にして落ちている天井ごと斬ろうと刀を掲げる。
「―――ッ」
しかし、女性が剣を掲げるのを感じ取ると、何故か攻撃を中断。代わりに足場にしていた鉄板を蹴り飛ばし、女性にぶつけようとするも逆に切り裂かれる。
そのまま翼と並び立ち、マリアを守る様に刀を刀を構える。
「よもや、そんな身なりでマリアの暗殺を企てようとするとはな・・・何者だ?」
「ふふ、男の方はともかく、貴方は待ち焦がれていましたわ」
「貴様は何者だ!?」
シンの問いかけに、女性は不敵に笑い、続く翼の問いかけになんとも大仰な格好で剣を掲げて見せる。
「―――
なんとも、聞き慣れない言葉。
「オートスコアラー?」
「貴方の歌を聴きに来ましたわ」
その切っ先を翼へと向け、オートスコアラーと名乗った女性は、再び襲い掛かる。
タスクの拳が、次々と床と天井をぶち抜いて階段をショートカットしていく。
「よし!次は!?」
『左手九十度の壁を撃ち抜いて、迂回路を作って!』
「了解!」
『ツゥインブゥレイカァー!!』
左手にツインブレイカーを装着し、左手、真横の壁を殴り飛ばす。
そのまま友里の指示の元、壁をどんどん殴り砕き、ついに防護壁の場所へと辿り着く。
中に被害が出ないように、二度に分けて壁を叩き、瓦礫が飛ばないように壁を撃ち抜く。
中を見てみれば、多くの逃げ遅れた住民たちがそこにいた。
「避難経路はこっちです!急いで!」
その住民たちがタスクが来たとこで安堵する様子に微笑みつつも、本来の目的を忘れずに避難誘導を開始する。
翼の振るう刃を、翼の日本剣術とは違う西洋剣術でいなし、激しくぶつかり合う。
その様子を、シンはマリアを守る為の立ち位置にて注視していた。
パワーでは押しきれないと悟った翼がもう一本の刀を取り出し、手数で押し切ろうとするもそれすらも女性は華麗に凌いで見せる。
そして、その様子を見て、シンは思考する。
(本気を出していないにせよ、翼が手加減している様子は見られない・・・なのにあの女はそんな翼と互角に渡り合っている・・・やはり、あの女は―――)
『響さん!これで最後の生体反応です!』
セレナの指示を聞き、響はその足をさらに速める。
燃え盛る炎の中を突っ切って進むは階段。
そこに、一人の少年が取り残されている。
「ごほっ、けほっ・・・」
炎の間近、酸素が一気になくなっていく空間で、黒煙の巻かれながら少年は息苦しさに絶望を感じる。
逃げる最中で母親とはぐれてしまい、その心は、今にも折れそうだった。
「ママ・・・」
さらに、酸欠によって意識が遠のく始末。このままでは、炎で焼け死ぬより先に、酸欠によって死んでしまう。
とうとう耐え切れずにその場に倒れ込んでしまう少年。
そこへ、響が拳で瓦礫を殴り砕いて突入。そしてすぐさま倒れている少年を見つけ、抱き抱えて安否を確認する。
まだ息はある―――そう安堵するのも束の間、突如として天井が崩れ、響たちに向かって一気に落ちてくる。
だが、そんなもの、ありとあらゆるものを貫き通す無双の一振り『ガングニール』を纏う響にとっては、水面に張った薄氷も同然。
飛び上がると同時に片足を真上に向け、その勢いのまま天井を蹴り下し、一気に外へと飛び出す。
たった一撃、それだけで、響は少年を見事に救い出したのだ。
両の剣の柄頭を連結、足のスラスターをもって床を滑空する翼は、その双刃刀の刃から烈火の如き炎を滾らせて掲げ、頭上にて高速回転。
「風鳴る刃は、輪を結び―――」
そのまま一気に女性に接近。片手のみで双刃刀を振り回す。
「火翼をもって斬り伏そぶ―――!!」
回転によって威力の増した刃は青い炎を燃え上がらせ、その勢いのまま、一気に女性にその刃を叩きつける。
「月よ、
その名も―――
『風輪火斬・月煌』
斬撃を叩きつけられた女性は吹っ飛び、そのままボックスが積み上げられた場所へ突っ込み、崩れたボックスの下敷きとなる―――
「よし、次!」
ほぼほぼ消火が完了したマンションの中で、ビルドは他に火種がないかを探し、焼け焦げた廊下を走る。
その時だった。
「仮面ライダービルド・・・桐生戦兎ですね」
「ん?」
T字路で、ビルドは立ち止まり、その声がした方向を見る。
そこに立つのは、一人の女性―――金髪の髪をポニーテールに纏め、グラマラスながらもスレンダーな体系で、黒のパンツスーツを纏い、バイザー型のサングラスをかけるその女性に、ビルドは警戒の色を露わにする。
「・・・なんで俺の事を知っている?」
仮面ライダーの事については公表されている。だが、マリアのようにその正体は明かされていない筈なのだ。
なのに何故、知っているのか。
「いえ、我々の計画に、貴方の存在が邪魔だった為、情報を搔き集めさせてもらったまでです」
「邪魔?」
「もうここまで言えばおわかりでしょう」
淡々と語る女性に、ビルドは嫌な予感を走らせる。
そして、火が消えた暗闇の中、窓から差し込む月光に、何かが反射するのをビルドは見逃さなかった。
「ッ!?」
体を後ろへ投げ出し、その、凄まじい勢いで突っ込んできた何かはビルドの目の前を通り過ぎ、すぐさま旋回して再びビルドを襲う。
しかしビルドはそれを紙一重で躱し続け、どうにか態勢を立て直した所で右手のBLDスパインナックルで殴り飛ばす。
するとそれはすぐさま女性の元へ戻り、そのすぐ傍を浮遊する。
「光の神ルーの持つ武具が一つ『フラガラッハ』。その能力は、持ち主の意志に呼応して持たずとも敵を斬り裂く神の刃」
柄の部分に球体、何かに繋がれてもいない輪の鍔、そして、短剣程の長さしかない刀身。
しかし、何も触れずに浮遊している事、先ほど殴った感触、そして、女性の説明で確信した。
あれは―――聖遺物だ、と。
「抵抗しなければ、なるべく楽に殺してさしあげます」
女性は、なんとも優しそうな、しかし狂気を感じる笑みで微笑んでくる。
「そうかよ・・・だけど、それは聞けない話だ」
『ライオン!』『コミック!』
ボルテックレバーを回し、ビルダーを展開する。
「そうですか、残念です。では、なるべく絶望させながら殺してあげましょう」
「そうはいかねえよ。まだまだやることがたくさんあるんだ・・・ビルドアップ!」
スナップライドビルダーがビルドを挟み込む。
そうして現れるはベストマッチフォームではない。
どちらも黄色。
しかし、その性能は強力――――強大なパワーと防御力、そして精密な動きが可能なトライアルフォーム『ライオンコミックフォーム』の誕生である。
「悪いですが、それは今宵で最後となりますでしょう」
「言ってろ!」
ビルドと女性が、焼け焦げたマンション内で激突する―――
その一方で、火災現場の外、救急車が密集している場所にて、
「うちの子が見つからないんです!まだ救助されていないんじゃ・・・」
そこに、一人の女性が涙ながらに救急隊員に話しかけていた。
彼女は、避難の際に自分の子供とはぐれてしまった母親だ。その子供が、避難場所のどこを探しても見つからなかったために、このように、子供の安否を尋ねているのだ。
そこへ、少年を抱えた響がやってくる。
「お願いします!」
「! こうちゃん!」
その姿を見た母親は、響の腕に抱えられている子どもを見て、歓喜と嗚咽交じりに声を荒げる。
響の抱えるその子供こそが、その母親の子供なのだ。
「煙をたくさん吸い込んでます。早く病院へ!」
「ご協力感謝します」
意識のない子供を響から受け取り、必死に呼びかける母親。
救急隊員の一人が響のお礼をし、すぐさま救急車に母親とともにその子供を乗せる。
その様子を見届けてから、響はふっと微笑み、すぐに戻ろうとしたところ、ふと視界上方に、誰かがいることに気付く。
それは、一人の少女――――
その業火から呼び起こされるのは、過ぎたりし、遥か彼方の忌々しい記憶。
『それが神の奇跡でないのなら、人の身に過ぎた悪魔の知恵だ!』
十字架に括り付けられ、その足元から焼かれる―――父親。
『裁きを!浄罪の炎で、イザークの穢れを清めよ!』
くそったれの民衆、手を伸ばしても届かない自分の手。
成す術もなく、父は焼かれていく。
必死に呼びかけても、その炎が止まるわけではない。炎は徐々に、しかし確実に父の体を焼いていく。
そんな父が、死の間際に放った言葉があった。
『―――キャロル』
その言葉を、少女―――キャロルは忘れることはないだろう。
『もっと生きて、世界を知るんだ。―――それがキャロルの―――』
世界を―――奇跡を殺すまでは。
「パパ―――」
キャロルは、ふと父の名を呼んだ。
消えてしまえばいい思い出―――
「―――そんなところにいたら危ないよ!」
「ッ!?」
突如として、聞こえた声。
慌ててそちらに視線を向ければ、そこにいるのは―――一人の少女。
「パパとママとはぐれちゃったのかな?そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで―――」
「―――黙れ」
そんな少女―――響の言葉を遮るが如く、突如として空中に円を描いたかと思えば何かの陣が形成され、次の瞬間、その陣から突風が巻き起こる。
「うわぁぁあ!?」
それに驚いた響は思わず飛びのき、それを躱す。そして彼女が先ほどまでいた場所には、大きく穴が穿たれていた。
「ええ!?」
『敵だ!敵の襲撃だ!そっちはどうなってる!?』
その訳の分からない状況に驚く暇もなく、クリスから無線が入る。
「敵・・・?」
響は、少女を―――キャロルを見上げる。
その手には、先ほどの陣に描かれていた文字と同じ、ホログラムのような文字が掲げられていた―――
激しくほこりが舞い散る中で、あまりにも容赦のない翼の攻撃を、マリアは思わず咎める。
「やりすぎだ!人を相手に―――」
「こいつが人であったらどれほど良かっただろうな」
「え?」
シンの言葉に、マリアは思わず首をかしげる。
「余所見するなよ。こいつは―――」
「ああ、こいつはどうしようもなく―――化け物だ」
次の瞬間、かなりの重さはあろう瓦礫をいとも容易く、それも無傷で吹き飛ばして見せる女性の姿があった。
「聞いてたよりずっとしょぼい歌ね。確かにこんなんじゃ、やられてあげる訳にはいきませんわ」
生身―――のはずの体で、翼の一撃を受けてあの様子。
間違いなく、この女性は―――化け物。
陣が列を成し、四重の砲門となって展開される。
「―――『キャロル・マールス・ディーンハイム』の錬金術は、世界を壊し、万象黙示録を完成させる・・・!」
展開された陣を向けられる響。しかし、響が気にしているのは、その砲門を向けられている事ではなかった。
「世界を、壊す・・・!?」
「オレが奇跡を殺すと言っている」
響の言葉に、返答になってない返答を返し、一つの力ある文字を書き込む。
すると、重なる他三つの陣にも同じ文字が書き込まれ、それらが重なり合い、さらなる陣を形成、次の瞬間、何本もの風の槍が響に殺到していく―――――
愛和創造シンフォギア・ビルド『GX・奇跡の殺戮者編』―――開始。
次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?
突如として正体不明の敵の襲撃を受ける装者、仮面ライダーたち。
「こちらの準備は出来ている」
激突する装者たち。
「引くわよ!翼!」
撤退を選択するマリアたち。
「ああ見えて、底抜けにお人好しぞろいデスからね」
待機命じられた調と切歌。
「人助けの力で、戦うのは嫌だよ・・・」
戦いを拒む響。
その最中で、彼らの前に現れたのは――――
次回『逃亡のアルケミスト』
「ボクの名前は『エルフナイン』」