万「おい!連行って言うな!」
響「私まだ成人もしてないのにー!」
翼「落ち着いて。実際に警察に突き出したわけじゃないから」
戦「いくら警察に捕まったっていうトラウマがあるからって騒ぐ程の事じゃないでしょ?」
響「え?龍我さん掴まった事があったんですか・・・?」
万「冤罪だ!冤罪で捕ったんだ!」
戦「そして優しい俺が万丈の冤罪を晴らしてあげたのでした。はいめでたしめでたし・・・」
翼「勝手に終わらせるな!?」
響「冤罪だったんですね。良かったぁ・・・」
万「ああ・・・だーもう話は終わりだ!どうなる第六話!」
「―――それが、翼ちゃんが響ちゃんの纏うアンチノイズプロテクター『シンフォギア』なの」
「なるほど。分からん」
「キュル!」
万丈の一言で戦兎以外のその場にいるものがズッコケる。ちなみに、響の頭の上に乗っかっているクローズドラゴンも同意するように鳴いた。
「だろうね」
「だろうとも」
「いや、こいつの場合は一から十まで理解してないから」
「あのー」
「はい何かしら?」
「私も分かりません」
「いやお前は分かれよ」
ここは、二課にある部屋の一つ。
昨日、シンフォギア奏者として目覚めた立花響と仮面ライダークローズこと、万丈龍我にシンフォギアの事を説明しているのだ。
だが、当然のように万丈にそれは理解出来ず、それに納得しているオペレーターの二人『藤尭朔也』と『友里あおい』は納得している様子だが、万丈の馬鹿さを知っている戦兎はとりあえずフォローになってないフォローを入れるのだった。
「いきなりは難しすぎちゃいましたねー」
「いや、万丈に限ってはたとえどんなに説明したとしても分からないから」
「おい!」
「え?龍我さんってそんなに頭悪いんですか?」
「最強、無敵ぐらいの漢字しか分からないぞ」
「ええ・・・」
「おい!いくらなんでもそれは言いすぎだろ!俺だって足し算ぐらい出来るわ!」
「その年で足し算しか出来ない時点はお前は馬鹿確定なんだよ!」
「馬鹿ってなんだ!せめて筋肉をつけろ!」
「論点違うと思うんだが・・・」
「キュウ・・・」
弦十郎が二人の言い争いの呆れる傍らで、了子が口を挟む。
「だとしたら、聖遺物からシンフォギアを創れる唯一の技術『櫻井理論』の提唱者が、この
「はあ・・・」
「結局どういう事だよ?」
「ようするに、あの化け物を倒せる装備を作ったのがこの人って事」
「マジかよ!すげえな!」
ようやく理解出来たのか興奮気味の万丈。
「でも、私はその聖遺物?なんてもの持ってません。なのに何故・・・・」
すると、その疑問に答えるかの如く、部屋のスクリーンに新たな画像が映し出される。
それは、響のX線写真、レントゲンだ。
その心臓部分にあたる部分に、何か、欠片のようなものが散りばめられていた。
「これがなんなのか、君には分かる筈だ」
「はい。二年前の怪我です。あそこに私もいたんです」
そう答える響。
「二年前ってどういう事だ?」
「二年前、ライブ会場の惨劇っていう事件があってな。そん時にコイツも現場にいたんだよ」
「それってスカイウォールの惨劇と似たようなもんか?」
「んな訳ないでしょ。あれに比べたら安いものだが・・・まあ、大量のノイズが襲ってきて、その現場にコイツもいたってことだ」
「マジかよ・・・」
そして、戦兎は推察する。
(二年前・・・天羽奏の死と、今コイツが使っているシンフォギアの事から考えて、これは・・・)
その間にも、了子がその破片について話し出す。
「心臓付近に複雑に食い込んでいるため、手術でも摘出不可能な無数の破片。調査の結果、この破片はかつて奏ちゃんが身に纏っていた第三号聖遺物『ガングニール』の砕けた破片であることが、判明しました」
その事実に、翼は衝撃に打ちのめされる。
「ん?翼?」
その異変に気付く戦兎。
「奏ちゃんの置き土産ね」
即ち、響の纏うガングニールは、奏のガングニールそのもの。
あの日、消滅した筈のガングニールは、響の中で、ずっと残り続けていたのだ。
その事実に、翼はふらつき、思わず近くの台に手を付く。
相当、衝撃が大きかったのだろう。
何せ、奏が持っていたものと同じなのだから。
翼はおぼつかない足取りで部屋を出ていく。
「大丈夫かアイツ?」
「・・・・」
その後ろ姿を見て、戦兎は万丈に言う。
「悪い万丈、ちょいと行ってくる」
「お?おう」
万丈は始めは戸惑ったが、やがて意図を汲んでくれたのか、止める事はしない。それに少し安心して、翼を追いかけるように部屋を出ていく戦兎。
そして部屋には、弦十郎、了子、万丈、友里、藤尭、響しかいなくなった。
「・・・あの」
ふと、響が声を挙げる。
「どうした?」
「この力のこと、やっぱり誰かに話しちゃいけない事なのでしょうか?」
立ち上がって、そう言う響に、弦十郎は静かに答える。
「君がシンフォギアの力を持っている事を何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に危害が及びかねない。『命』に関わる危険すらある」
「命に・・・関わる・・・?」
その時、響の脳裏に、未来の顔が浮かぶ。
もし、未来に危ない目にあったら、自分は―――
「・・・」
それを思うと、響は思わず俯いてしまう。
「俺たちが守りたいのは機密などではない。人の命だ。その為にも、この力の事を、隠し通してもらえないだろうか?」
「貴方の秘められた力は、それほど大きなものだという事を、分かってほしいの」
いきなり、実感が湧いてきたのか、響は言葉を失う。
そんな、大きなものだという事を、一般人である響には、あまり理解出来なかったのだ。
「・・・まあ、あれだ。シンフォギアは兵器じゃないって事だな」
そこで、万丈が口を挟んだ。
「ノイズを倒せるたった一つの方法で、とんでもねえ力がある。それをどっかの馬鹿が軍事利用しないように、黙ってろって事だろ」
「軍事利用・・・」
万丈は、ポケットからドラゴンフルボトルを取り出す。
「でも、それは使う奴によって変わってくるみたいだ」
「使う奴によって・・・?」
「シンフォギアも仮面ライダーも結局の所は何も変わらねえ。使い方次第で兵器にもなるし、誰かを守るための力になる。俺は、この力を愛と平和の為に使う。それが、俺の信じた仮面ライダーだからな」
「キュル!」
万丈は、響にその言葉を送り、そして尋ねる。
「お前はどうしたい?」
「・・・」
その問いかけに、響は、
「あの、私の力で、誰かを助けられるんですよね?」
その言葉に、弦十郎と了子は頷く。
「分かりました!」
それが、響の答えだった。
一方、部屋で出ていった翼の方では。
「・・・」
未だ、信じられないとでも言うように、その場に立ち尽くし、考える翼。
(奏の置き土産・・・それがアイツだとでも言うのか。信じられない・・・だが、もしそうだとしたら、私はどうすればいい?奴を受け入れる事が出来るのか?この私に。一体、どうやって」
「おい桐生・・・勝手に私の心境をナレーションするな!」
「ありゃ」
翼からの怒りのツッコミを受けつつ、戦兎は笑みを浮かべて歩み寄る。
「悪いな。お前結構からかいがいあるし」
「お前にからかわれるほど、私は間抜けではない」
「いや実際にからかわれてただろ?」
ぬぐっ、と口ごもる翼。
(真面目ちゃんめ)
「それで、一体何の用だ」
誤魔化すように戦兎にここに来た理由を尋ねる翼。
「まあ、アイツは確かに戦いに関しては素人だし、あんたの大切な人が使っていたシンフォギアを使っていて、気に食わないのは分かる。でも、遅かれ早かれ結局はお前と同じ戦場で戦う事になるんだ。信頼はしなくても信用はしてもいいんじゃないのか?」
翼を諭すように言う戦兎。
しかし翼は、納得できないとでもいうように反論する。
「私は、この身を剣として戦い生きてきた・・・奴は、ただの一般人。そんな人間が
「まあ、俺も一般人が戦うのには反対だけど・・・なんというか、アイツには、底知れない危険があるような気がするんだよな」
「底知れない危険?」
「ああ・・・なんというか・・・自殺願望というか・・・」
自殺願望?あのどこにでもいそうな少女に?
その言葉に疑問を抱く翼だが、すぐさま言葉を紡いだ。
「なら猶更戦わせるべきではない。そんな人間は早死にするだけだ」
「もちろんそうはさせないさ。だけど、アイツは必ず戦場に立つ。だから俺たちが死なせないようにしなくちゃいけないんだ」
「死なせない・・・?」
その言葉に、翼は首を傾げる。
「ああ、アイツが戦場に出るっていうなら、俺はアイツが死なないように戦う。ああいうタイプはどんだけ言っても止まらねえと思うからな」
その言葉には、何か、強い意志を感じられた。
「もう二度と、何も失いたくないから」
「・・・ッ!?」
その顔には、これまでにないほど覚悟がこもっていた。
「お前が、あいつにどんな思いを抱いているのか、本当の所わからないけど、少なくともアイツがまともに戦えるようになるまで守ってやることぐらいはやってくれ。少なくとも、これは俺からの願いだ」
「・・・・」
戦兎の頼み事に、翼は、すぐに返事を返せなかった。
(桐生は・・・何も失っていない訳じゃないのか・・・?)
相棒が生きていた。それでも、彼にとっては、まだ多くのものを失っていることに変わりないというのか。
多くのものを失って、それで残ったのが、戦うための力と、たった一人の相棒だとでもいうのか。
そんな男に、自分はどんな返事を返せばいいのか。
(奏・・・私は・・・)
そこで、電動スライド式の扉が開く音が聞こえ、振り返ってみれば、そこから響が駆け出て、その後ろを万丈がついてきていた。
そんな響は、翼の前に立つ。
「私、戦います!」
そしていきなりそう言いだした。
「慣れない身ではありますが、頑張ります!一緒に戦えればと思います」
そう言って、響は翼に手を差し出す。
「万丈」
「ま、そういうこった」
「キュィールルルル!」
戦兎の予感は的中していた。
「やっぱり・・・」
「・・・・」
一方の翼は、その手をしばし見つめた後、やがて、納得いかないとでもいうように目をそらした。
「・・・あの・・・一緒に戦えれば・・・と・・・」
その時、二課の施設内にけたたましく警報が鳴り響く。
「なんだぁ!?」
「ノイズだ!行くぞ!」
「ノイズの出現確認!」
「本件は我々二課で預かることを一課に通達!」
作戦本部にて、弦十郎が職員たちに指示を飛ばしていた。
「出現地特定!座標でます!」
そうして映し出された場所は、リディアンのすぐ側だった。
「リディアンより距離二百!」
「近いな・・・」
「迎え撃ちます!」
翼がすぐさま駆け出す。
「俺たちも行くぞ万丈!」
「おう!」
「・・・!」
戦兎と万丈も追いかけ、その後を響もついていこうとする。
「! 待て!君はまだ・・・」
そこを弦十郎に止められる。
「私の力が誰かの助けになるんですよね?シンフォギアの力でないと、ノイズと戦うことは出来ないんですよね?だったら行きます!」
響は、そのまま翼のあとを追う。
「・・・」
「安心しろ風鳴」
そこで、立ち止まっていた戦兎が弦十郎に言う。
「しばらくは俺がアイツを守るから」
「・・・頼んだぞ」
弦十郎の言葉に戦兎はうなずき、そして走り出す。
「危険を承知を誰かの為だなんて、あの子、良い子ですね」
「・・・果たして本当にそうだろうか?」
「え?」
弦十郎は、静かに言う。
「翼のように、幼いころから鍛錬を積んできた訳ではない。ついこの間まで、日常の中に身を置いていた少女が、誰かの助けになるというだけで、命を懸けた戦いに赴けるというのは、それは、歪な事ではないだろうか?」
「つまりあの子もまた私たちと同じ、こちら側ということね・・・」
四人が去った指令室には、重い空気が漂っていた。
『日本政府『特異災害対策機動部』よりお知らせします。先ほど、特別避難報が発令されました。速やかに最寄りのシェルター、待避所へと避難してください』
そのような放送が街中に響き渡る中で、風鳴翼と万丈龍我は、何十体ものノイズの前に立っていた。
「戦兎の奴おっせぇな・・・」
「キュルル」
「無駄口は叩くな」
「へーい・・・」
「キュウ・・・」
そんな中で、ノイズがいきなり溶けだしたかと思うと、一気に集まっていき、やがて、巨大なノイズへと変貌する。
「マジかよ・・・」
その事を知らない万丈にとっては、それはまさしく異常な事であり、その変貌ぶりに愕然とする。
だが、すでに慣れた翼は、静かに聖遺物の起動聖唱を行う。
「――――Imyuteus amenohabakiri tron――」
次の瞬間、胸のペンダントが輝き出し、翼に蒼銀の装甲を纏わせる。
「やるっきゃねえか」
『Wake UP』
一方の万丈もクローズドラゴンにドラゴンフルボトルをセットし、ボタンを押してビルドドライバーにセットする。
『CROSS-Z DRAGON!』
そしてボルテックレバーを回して、スナップライドビルダーを展開する。
『Are You Ready?』
「変身!」
『Wake UP Burning!』
『Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』
「しゃあ!」
変身したクローズはそうガッツポーズをとってそう気合を入れる。が、その横ですぐさま駆け出す翼。その口は、歌を歌っていた。
「あ!?おい!」
その翼を迎撃するようにノイズが体についていた羽を全て飛ばす。
しかし、翼はそれをアクロバティックに躱す。しかし躱した筈の羽はブーメランの如く巻き戻っていき、されど翼は足のブレードを展開して一瞬にして全て叩き切る。
「すっげぇ・・・」
その華麗さにクローズはその場で呆ける。
そのまま翼はノイズの背後を取り、その手に持つ刀を巨大な大刀に変形させ、振り返ったノイズに向かって振るおうとする。
「このまま片足を真っ直ぐ突き出して片足の膝は胸につけるつもりで引き絞ってあとはこのまま鉄の棒の如く動かない!」
「はい!」
「ッ!?」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思いきや、ノイズの側面から変身した響とラビットタンクフォーム・ビルドが同時に飛び蹴りをノイズに叩き込んでいた。
それを喰らったノイズは態勢を崩す。
「翼さん!」
「余計のお世話かもしんねえけど後頼んだ!」
「くっ・・・!」
絶好の機会、それを作った響とビルドに、翼はなぜか歯噛みしつつ飛び上がり、その巨大化した刃をノイズに叩きつけた。
『蒼ノ一閃』
ズバンッ!という擬音が聞こえそうな程綺麗に入ったその一撃は、一瞬にしてノイズを炭化させ、消滅させる。
「・・・あれ?俺出番なくね!?」
「そうだな。まあどんまい」
「どんまいじゃねえよ!これじゃあ変身シーン見せた意味が無ぇじゃねえかよ!?」
「無駄に変身シーン使ってんじゃないよ。ていうかうるさいな。少しは黙ってろ」
「黙ってろってなんだ!?俺の出番返せよゴラァ!」
「だーもううるさいって!」
何やら言い争いをするビルドとクローズを他所に、響は翼に駆け寄っていた。
「翼さーん!」
「・・・」
「私、今は足手纏いかもしれないけど、一生懸命頑張ります!だから、私と一緒に戦ってください!」
しばしの、沈黙。否、先ほどからビルドとクローズがうるさいが、この際無視するとしよう。
「・・・・そうね」
ふと、返ってきた翼の言葉に、響はさらに嬉しさを込み上げさせる。だが―――
「貴方と私、戦いましょうか」
「え・・・」
次の言葉で、それは困惑へと変わった。
今、翼はなんといったのか。
戦いましょうか、と言ったのか。
その言葉を、響が理解する前に、翼は、その手の刀を響に突き付ける。
「は?」
「ん?」
その異変に、取っ組み合っていたビルドとクローズも気付く。
「え、あの、そういう意味じゃありません。私は、翼さんと力を合わせようと・・・」
「分かっているわそんなの事」
「だ、だったらどうして・・・」
「私が貴方と戦いたいからよ」
「え・・・」
翼の言葉に、響は増々困惑する。
「なあ・・・なんかやばい事になってきてないか?」
「ああ・・・」
戦兎は、ドリルクラッシャーとゴリラフルボトルを取り出しつつ、そう答える。
その行為に、クローズもいつでもボルテックレバーを回せるように用意する。
「私は貴方を受け入れられない。力を合わせ、貴方と共に戦う事など、風鳴翼が許せるはずがない」
(そう、許せるはずがない・・・)
彼女が使っているのは奏のシンフォギア。されどそのシンフォギアを使っているのは戦いを知らない、何も知らないド素人。
そんな相手と共に、戦う事なんて出来やしない。
それが、ただの意地だとしても。
「貴方もアームドギアを構えなさい」
アームドギア・・・それは、シンフォギアに存在する固有武装。
ガングニールの別名はグングニルであり、その名が意味する事は、北欧神話における主神オーディンが使っていた神槍。それを、かつては奏も使っていた。
それに対して翼は刀。天羽々斬は、十束剣と呼ばれる刀剣の一種であり、かつてスサノオが八岐大蛇退治に使ったとされる神剣である。
しかし、目の前の少女、立花響はそのアームドギアを展開していない。
彼女はここに来るまで、完全に徒手空拳―――否、ただ殴って蹴っていただけだった。
「それは、常在戦場の意思の体現。貴方が、何をもおも貫き通す無双の一振り、ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば、胸の覚悟を構えて御覧なさい!」
そう言い放つ翼。シンフォギアを纏うのであれば、それはまさしく戦う意思の象徴だ。
それを展開していない、響はというと。
「か、覚悟とかそんな・・・私、アームドギアなんて分かりません・・・分かってないのに構えろなんて、それこそ全然分かりません!」
まだシンフォギアについて理解出来ていない響にとって、それは未知なるもの。
そんなものをいきなり理解し、使えなどとは、戦兎でもなければ無理な話だ。
その言葉に、翼は刃を降ろし、そして背中を向けて歩き出す。
だが、まだ油断は出来なかった。
響は響で、不安そうに翼の背中を見つめている。
「覚悟を持たずに、のこのこと
ある程度の距離が開いた。そこで、翼は響に言い放つ。
「―――奏の何を受け継いでいるというの!?」
「―――ッ!?」
その言葉が、響に衝撃を与える。
そして次の瞬間、翼は飛び上がり、刀を響に向かって投げる。
それが、一気に巨大化し、見るも巨大な大剣けと変化する。
その柄頭を、ブレード部分のブースターで加速した翼は蹴り込み、一気に響に叩きつけようとする。
『天ノ逆鱗』
「「ッ!」」
それを見たビルドとクローズがすぐさま動く。
ビルドは手に持ったドリルクラッシャーのソケットにゴリラフルボトルを装填し、クローズはボルテックレバーを一気に回す。
『ボルテックブレイク!』
『ドラゴニックフィニッシュ!』
巨大な腕型のエネルギーを纏わせたドリルクラッシャーとクローズドラゴン・ブレイズを拳に纏わせて翼の『天の逆鱗』の迎撃を図ろうとするビルドとクローズ。
しかし、その二人の間を、何かが物凄い勢いで通り過ぎたかと思うと―――
「コラァ!」
見た事のあるワインレッドのシャツをなびかせ、拳で『天ノ逆鱗』を真正面から打ち返した。
その人物は―――弦十郎だ。
「「えぇぇええぇぇええぇええぇええ!?」」
明らかに人が受け止めるべきものではない翼の一撃を、あの巨漢は、拳一発で受け止めていた。
しかもよく見れば拳は剣の切っ先に当たっていない。僅かに空間が出来、その間で止められていた。
否―――そのままその巨大な大剣を消滅させてしまったのだ。
「「えぇぇえええぇぇえええぇぇえぇぇえええぇええ!?」」
「おじさま・・・!?」
さらにそれだけに留まらず、
「おぉぉぉお――――たぁっ!!」
弦十郎が声を発すると共に、足元の道路が一気に崩れ吹き飛ぶ。
「嘘だろぉぉぉぉおおおぉぉおおおぉお!?」
「何ぃぃぃいいぃぃぃいいぃいいぃいい!?」
その威力は、本当に人間が放っていいものではなかった。
たかだが震脚で道路を吹き飛ばすなど、間違いなく人間技ではない。
「なあ、あの人ってエボルトの親戚か何かじゃねえの!?」
「知らないよ!まさかあんな化け物が存在するなんて俺も思わなかったよ・・・って翼!」
どうにか発動してしまった必殺技を叩きつける事で吹き飛ばされる事は防いだが、ビルドとクローズは弦十郎の規格外さに驚いたままだ。
だが、ビルドの視界に落下してくる翼が見えた時、ビルドは思わず走り出していた。
「うおっと!」
間一髪で受け止める事に成功するビルド。
そして、下水道管をやったのか、割れたアスファルトの隙間から水道水が噴水の如く溢れ出す。
それと同時に、響と翼の変身は解除される。
「大丈夫か?」
「・・・!は、離せ!」
「うお!?」
翼はビルドの腕から逃れ、その場にへたり込む。
「あーあーこんなにしちまって。何をやってんだお前たちは。この靴、高かったんだぞ?」
「いやそこかよ」
「ご、ごめんなさい・・・」
「一体何本の映画が借りられると思ってんだよ」
見れば、弦十郎の靴は見るに堪えない程無残、というか原型も残さないような有様だった。
(というか何故に映画?)
その事に疑問を抱いてしまう戦兎だが、とりあえずビルドドライバーからフルボトルを抜いて変身を解除する。
クローズも同様に、クローズドラゴンを抜いて変身を解除する。
「キュルル・・・」
ベルトから抜かれたクローズドラゴンは、そう小さく鳴いて、万丈のすぐ傍で飛び留まる。
「らしくないな、翼。ろくに狙いもつけずにぶっ放したのか、それとも・・・」
そこで、弦十郎はある事に気付いた。
「お前、泣いて・・・」
「泣いてなんかいません!」
その言葉を、翼は否定する。
「涙なんて、流していません・・・」
念を押すように、悟られぬように、翼は否定する。
「風鳴翼は、その身を、剣と鍛えた戦士です。だから・・・」
「・・・」
その言葉は、まるで、自分を守るために作った殻のようなものだった。
その言葉に、弦十郎はそれ以上追及はせず、そっと翼を立ち上がらせる。
「翼さん・・・」
「・・・」
その様子に、響は心配そうに呟き、事情を知らない万丈だが、何かしら重大な事があるのだろうと思い、何も言わない。
「私、自分がダメダメなのは分かっています」
それでも、響は何か言いたかった。
「だから、これから一生懸命頑張って」
それは、響にとっては慰めのつもりだったのだろうか。
「
その言葉が、風鳴翼の地雷だと知らずに。
次の瞬間、乾いた破裂音がその場に響き――――風鳴翼は泣いていた。
次回の愛和創造シンフォギア・ビルドは!
「このままじゃまともに戦えないぞ」
未だぎくしゃくした翼と響。
「ん、いっぱいですね」
この街のノイズの発生。
「まさかこの件、米国政府が糸を引いているなんて事は・・・」
ノイズ以外の脅威と、地下に隠された、デュランダルの存在。
「全て、私の弱さが招いた事だ・・・」
自らの至らなさを悔いる翼。
「俺が人であるように、お前も人なんだからさ」
そして、戦兎はその言葉を否定し、
「私にだって、守りたいものがあるんです!」
運命が、彼女の前に立ちはだかる。
次回『約束のシューティングスター』
「・・・ネフシュタンの鎧・・・」