愛和創造シンフォギア・ビルド   作:幻在

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調「しばらく胃潰瘍やらピロリ菌の検査やらでまともに夜も眠れなかった作者ですが、今はどうにか薬で凌いでます」
ク「んなことどうでもいいからあらすじ紹介するぞ。パンドラボックスによるスカイウォールの惨劇から十年と一年、桐生戦兎ら仮面ライダーが創造した新世界にて、仮面ライダーおよび、シンフォギア装者らは、その力をもって救助活動を行うタスクフォース『S.O.N.G.』の戦闘員として、そして普段通りの日常を過ごしていた」
翼「そこで現れる錬金術師の登場、世界をやり直すことで浄化することを目論むデイブレイク社が現れ、しばし防戦に回ってしまう」
未「そして今、ガングニール装者である立花響は、自身の心の迷いによって、戦う力を失っていた」
一「戦う以上は覚悟決めろってんだ」
セ「まあまあそう言わずに」
切「とうとうエンプラさんの好感度が90を突破したのデス・・・!」
調「切ちゃん・・・今はそれ後にしようよ・・・」
切「およ?ならそうするデス」ぽい
作「アーッ!まだ買ったばかりのスマホがぁぁあ!!」ヘッドスライディング
一同「・・・」
未「・・・ま、まあなにはともあれ、クリーブランドが出ない事に難儀しつつ、本編GX編第七話をどうぞ!」


一点突破のライトフィスト

ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ。

 

シンの義理の母にして、マリアたちレセプターチルドレンにとって、母親のような存在であった女性―――

 

フロンティア事変にてその命を燃やし尽くし、そして息絶えた彼女の墓が、今、マリア、調、切歌の三人の前にあった。

街の近郊にある墓場に、彼女の墓はあるのだ。

「ごめんねマム、遅くなっちゃった」

マリアが、花束を添える。

「マムの大好きな日本の味デス!」

「私は反対したんだけど、常識人の切ちゃんがどうしてもって・・・」

そう言って切歌が置いたのは、何故かボトルの醤油。何故醤油。

「慧くんはクラス委員のお仕事でこれなくて、セレナは病院で怪我の具合を確かめる為に、今日はこれないの」

成り行きという感じで受けてしまったクラス委員長である慧介、先日の戦闘の怪我で通院しているセレナは、今は来ていない。

「宇宙に散らばっていたフロンティアの一部や、月遺跡に関するデータは、各国機関が調査している最中だって」

「みんなで一緒に研究して、皆の為に役立てようとしてるデス!」

「ゆっくりだけど、ちょっとずつ世界は変わろうとしているみたい」

互いに牽制しあい、異端技術に関して、しばしば小競り合いをし続けてきた世界が、互いに協力して、それを何かの為に役立てようとする。

そんな世界が、広がってきている。だが―――

(変わろうとしてきてるのは、世界だけじゃない・・・)

戦いの在り方も、変わってきている。

錬金術師や、アルカノイズの出現。

全く未知なる存在が、敵として立ちはだかっている。

(だけど、私だけは・・・)

ネフィリム・ノヴァ・リベンジの時のアガートラームも、セレナを守る為に使ったブリザードナックルも、どれも借り物の力。窮地を切り抜ける力はいつだって、本来であれば自分の力ではない力。

後者に至っては勝手に使った結果、この包帯だらけの右手である。

さらには、戦兎から凄まじい説教を受ける始末。

(正直、マムの説教より怖かったわ・・・)

そして、その分だけの優しさも感じた。無理矢理使う事による危険性を無視した自分の身を案じてくれる、彼の優しさを。

でも、だからこそ、マリアは、

「私も変わりたい。本当の意味で強くなりたい」

もう二度と、何者にも振り回されないような。そんな力を。

「それはマリアだけじゃないよ」

「アタシたちだって同じデス」

そのマリアの言葉に、調と切歌はそう答える。

そんな中で、唐突に雨が降り始める。

「・・・昔のように、叱ってくれないのね」

もう、二度と、そんなことはない。

だけど、それでも彼女たちは、前に進まなければならない。

「大丈夫よマム。答えは自分で探すわ」

「ここはマムが残してくれた世界デス」

「答えは全部あるはずだもの」

雨粒が葉の上を滴る。降り始めた雨の中、三人は、そう母親の墓に向かって呟くのだった。

 

 

 

と、そんな中で。

 

「そういえば、シンはなんでこなかったんデスか?」

と、切歌が唐突にマリアに質問する。

「シンがマムのお墓参りに来ない筈がない。一体何があったの?」

「ああ、それは・・・」

と、答えようとしたマリアの脳裏に過るのは、シンのあの言葉。

 

『すまない。エリザに今日会えないかと言われたから、そちらを優先させてもらう』

 

「・・・・」

それを思い出した途端、マリアの中で、黒い感情が渦巻き、下唇を噛み、なおかつ拳を握り締めて肩を震わせて、胸の奥から湧き上がる嫉妬と憎悪をまとめて込めた一言をつぶやく。

「・・・あンの女狐ェ」

「「ひぃぃい!?」」

それを聞いた調と切歌は互いに抱き着いて恐怖にもだえる。

「な、なんだか様子がおかしいのデス!?」

「し、刺激しないようにしよう。うん、それが良い・・・!」

ぎりぎりと歯ぎしりをするマリアを前に、二人は震え上がる他なかった。

 

 

 

 

 

 

その一方で、

「へっぷし」

とある喫茶店でシンが小さくくしゃみをする。

「あら?貴方が風邪なんて珍しいわね」

そんなシンの様子に、向かいに座るエリザはカフェオレを飲みながらくすりと笑って見せる。

「そんな筈はないのだが・・・」

「体調管理はしっかりしなさいよ。ここがあの戦場なら死んでるわよ?」

「善処する」

エリザの言葉に、シンは頷く。

そして、そんな二人を、離れた席で見ているのは・・・

(誰だ、あの女の人・・・)

(誰だろう、あの女の人・・・)

何故かサングラスをかけたセレナと新聞に開けた穴を覗いている慧介だった。

 

 

 

 

 

 

雨の降る中、リディアンの食堂にて。

響を覗いた、未来、安藤、寺島、板場の四人が、一つの席を囲んで、昼食を食べようとしていた。

「立花さんは食べないのでしょうか?」

「うん、課題やらなきゃって」

「お昼より課題を優先するなんて、こりゃ相当な重症だわ」

何事もするよりも食べることを優先する響が、課題を優先する。

そういう事は、普段の響からは考えられない事だ。

それは、まさしく重症と言わざるを得ない。精神面で相当なダメージになっている事が伺える。

「歌えないビッキーかぁ・・・」

安藤が、そう呟く。

「私たちが励ましても、立花さん、余計に気を使いそうですし・・・」

「普段は単純なくせに、こういう時ばっかりややこしいんだよね」

寺島がつぶやき、板場は苦笑する。

端的にいって龍我と同じタイプである。

普段は能天気なくせして、いざという時は色々と抱える。そんなタイプ。

「うーん・・・ビッキーが歌を唄えないのって、もしかしたら唄う理由を忘れたからじゃないかな?」

「響が、歌う理由・・・」

安藤の言葉に、未来は咀嚼するようにその言葉を繰り返す。

「うん。それを思い出せたら、きっと・・・」

言いえて、的を射ている。だからこそ、

「響はまた歌える・・・」

その確信を、未来は抱く―――

 

 

 

 

二課本部の潜水艦にて、三つのモニターに移された、三人のオートスコアラーの映像を見ながら、エルフナインは話し出す。

「先日響さんを強襲したガリィと、クリスさんと龍我さんと対決したレイア。これに、翼さんがロンドンでまみえたファラと、いまだ姿を見せないミカの四体が、キャロルの率いるオートスコアラーになります」

「人形遊びに付き合わされてこの体たらくかよ・・・」

「それに加えて・・・」

さらなるモニターが映し出される。

「世界の滅亡を目論む異端秘密結社『デイブレイク』、か・・・」

「確認できているだけでも龍我と戦ったローブ野郎とシンを圧倒したジャードとかいうやつと、謎の金髪女・・・」

「そのうち、先日戦兎君を襲った三人を口封じするために姿を見せたリカルドという男か」

「ろくな奴がいねえな・・・」

今この場にいるのは、エルフナインを筆頭に、戦兎、龍我、一海、翼、クリス、緒川、弦十郎と何人かの職員。

「スペックを始めとする詳細な情報は、ボクに記録されていません」

「その上、デイブレイク社の方の戦力は未だ不明。ただわかることは、奴らがシンフォギア、ライダーシステムと同等、あるいはそれを超える力を有しているという事だろうな」

戦兎が、そう呟く。

「超常脅威への対応こそ、俺たちの使命。この状況を打開するため、エルフナイン君と戦兎君から、計画の立案があった」

その弦十郎の言葉に、その場にいる者たちが一斉に二人を見る。

そうして、二人の背後に映し出されたモニターには、こう書かれていた。

 

『PROJECT IGNITE』

 

『PROJECT LINK ANIMAL』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨、か」

窓の外の景色を見て、エリザはそう呟く。

「雨の日って、あまりいい思い出はなかったわね」

「地面はぬかるみ、歩くのは辛く。あの体格の俺たちでは、大人たちについていくのに精一杯だったな」

「懐かしいわね。アイリーンが足を滑らせて顔面からいって、泥まみれになってたっけ」

「ロバートの奴も、足を滑らせて崖の下に落ちていったな。あれで生きていたのが奇跡なぐらいだ」

「ああ、あれは本当に驚いたわね」

他愛もない話だ。

そう、他愛もない、彼ら『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』だけの思い出話。

そんな二人の会話が、唐突に途切れる。

「・・・ジャック」

エリザが、シンに尋ねる。

「この間の話の続きをしましょうか?」

「・・・」

その問いかけに、シンは黙り込む。

しかし、エリザは構わず続ける。

「別に今日答えを出してほしいわけじゃないわ。時間はいくらでもある。ただ、本来の貴方を見つめなおしてほしいと思ってるだけよ。その上で、S.O.N.Gに残り続けるか、こちらに来るかを決めてほしいの」

その言葉に、シンはその表情に迷いの色を見せる。

「・・・人の本性は、決して変わらないわ」

エリザは、神妙な面立ちでシンをたしなめるように話す。

「貴方の剣は、誰かを守る剣なんかじゃない。貴方の剣は斬る剣。誰かを殺す剣よ。貴方は、心のどこかで、殺しを求めてる。人を斬ることに渇望を抱いている。違う?」

エリザの問いかけに、シンは、首を振る。

「俺の剣は・・・マリアたちを守る剣だ」

「・・・この際、あの女狐の事は無視してあげるけど、貴方自身がそう思っていても、実際は違うんじゃないかしら?そう、それを口実にしてただ人を斬りたいだけなんじゃないの?」

その言葉に、シンは、心臓を鷲掴みにされるかのような感覚を覚える。

冷や汗が、背筋を伝う。

そのシンの様子に、エリザはため息を再び吐く。

「・・・これぐらいしましょう。でも覚えておいて。貴方は、どこまでいっても人斬り。その本性は、いつまでも隠せるものではないわ」

そう告げて、彼女は立ち上がる。

「支払いはしてあげるわ。それじゃあね」

それだけを言い残して、彼女は支払いを済ませて店を出ていく。

そして残されたのは、エリザにその心の内を暴露されたかのような心境に陥っているシンだけだった。

その様子を慧介とセレナの二人は、神妙な面立ちで見ていた。

「・・・どう思う?セレナ」

「そう、ですね・・・」

セレナ自作の集音機で会話を盗み聞きしていた為に、会話はダイレクトに聞こえていた。(壁越しでもしっかり音をとれる優れもの)

(正直、そんな気はしていた・・・)

慧介は、あの日、米国からの襲撃を受けた時のシンの事を思い出していた。

あの状況、怪我をさせるだけでいいはずの状況において、シンは米国の部隊を全員斬り殺した。

そう、皆殺しだ。

一切の躊躇いなく、その身を返り血に塗れさせて、シンは剣を振るっていた。

(マリアが気付いてたかどうかは分からないけど、あの時のシンの目には、確かに狂気が宿ってた・・・)

表情は、決して殺人に対する残虐性を意味するかのような笑顔などは一切浮かべていなかった。

だが、目は、何か、喜びを感じているかのような恐怖を感じた。

あの瞬間、人を殺す瞬間、シンは、『人斬り』を楽しんでいるのではないかと、そう勘繰ることはなかったが、よくよく思い出してみると、本当はそうではないかと思ってしまう。

人斬りを楽しむ、殺人鬼―――それが、シンの本性たる『斬り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』ではないか。

そう、思ってしまうのだ。

(一体、どっちが本物のシンなんだ・・・)

そう、慧介が思った時だった。慧介の端末に何か通信が入る。

それは、シンも同じく、通信機を取り出し、そして耳に当てる。

「はいもしもし慧介です」

「どうした?」

ほぼ同時に連絡を受けた二人は、告げられた情報に思わず椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった。

「敵の襲撃!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が体を叩く。

しかし、そんなことを気にする暇はないとでもいうかのように、戦兎はマシンビルダーを加速させる。

「頼む、間に合ってくれ・・・!」

そう、願うように、戦兎は道路交通法をガン無視して現場に急行していた。

 

 

「敵の襲撃!?」

そして、それはマリアたちの方でも。

「でもここからでは・・・」

「間に合わないデス!」

 

 

 

 

 

 

それは、突然の事。

下校していた響たちの目の前に、赤髪のロールの髪型の少女が現れたかと思えば、その少女がアルカノイズを出現させたのだ。

今の響では戦う事は出来ない為、逃げる以外の選択肢はなかった。

だから必死に逃げ、一年前のルナアタックによって未だ復興されていない地帯に逃げ込み、その中にある廃ビルに逃げ込んだのだが、正直言って追い詰められている気しかしない。

そして、階段を上って上に逃げようとする彼女たちに、アルカノイズの解剖器官が襲い、未来が上り終えた鉄製の階段が分解され、響が落下。

「うわぁあ!?」

「響っ!?」

そのままフェンスを突き破って一気に最下階に落ちる。

「ぐあっ」

その衝撃で肺の中の空気が吐き出される。

「っ・・・みく・・・!」

そんな、全身に激痛が走る中で、響はかすむ視界で未来のいるうえを見上げる。

そんな彼女の視界に赤髪のオートスコアラー『ミカ・ジャウカーン』が入る込む。

「いい加減戦ってくれないと、君の大切なもの解剖しちゃうゾ」

立ち上がろうとする響に、ミカは残虐な脅しを告げる。

「友達バラバラでも戦わなければ、この町の人間を、犬も猫もみーんな解剖だゾー!」

その人間にしてはあまりにも恐ろしく、そして巨大な手をうじゃうじゃと動かし、ミカは恐怖を強調して見せる。

それに、響は鞄を投げ捨て、首に下げているペンダントを取り出し、聖詠を唄おうとする。

だが、やはり唄えない。

どれほどあがいても、喉から声を出そうとしても、その声が出ることはない。

その様子に、ミカは呆れ果てた表情になる。

「本気にしてもらえないなら・・・」

そう呟くと、残虐味のある表情で、ミカは未来の方を見ると、その周りに集まっているノイズたちに指示を出す。

今にも、飛びかかりそうなアルカノイズ。

このままでは、未来はアルカノイズに殺されてしまうだろう。

そうなれば、響は―――

「あのね、響!」

そんな中で、未来の叫びが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「距離としては俺たちの方が近い!」

「でも大丈夫か!?まだ回収も済んでいないのに」

「解剖器官に当たらなければ大丈夫だろう!」

雨の中を突っ切って、走るシン、慧介、セレナの三人。

「確かにそうですけど、向こうにはオートスコアラーが一体いるんですよ?勝てる保証はあるんですか!?」

「やってみなければ分からないだろう・・・!」

シンらしからぬ返答に、二人は顔を見合わせる。

(まださっきの話を引きずってるのか・・・!)

正直、今のシンは危なっかしい。最悪な事態にならなければいいのだが。

と、思った直後だった。

「ッ!?」

唐突にシンが立ち止まる。

「え!?」

「シンさん、どうしたんですか!?」

「・・・・人がいない」

シンの言葉に、二人は初めて気付く。

そう、周囲に誰もいないのだ。

それも、車すらも一台も通っていないほどの、無人。

S.O.N.Gの避難誘導のせいか。否、そうであれば、S.O.N.Gの職員と合流する筈だ。

その上、ここはまだ、アルカノイズの出現場所より、結構離れている。

それがここまでの無人というのは、何かおかしい。

 

 

その時、彼らの近くの建物の屋上から、何かが飛び降りる。

 

 

「――ッ!?避けろ!」

それにいち早く気付いたシンが叫び、背中合わせに警戒していた三人は、一斉に三方向に躱す。

そして、躱してすぐに聞こえたのは―――何かの駆動音。

三人が先ほどまでいた場所のアスファルトに大きな亀裂が入り、砕け散る。

「何者だ!?」

シンが背中のケースにある雷切の鞘を握りつつ、ひび割れても何もない場所に向かってそう叫ぶ。

しかし、その問いかけに応えるかのように、その場の空間が歪みだし、色が付き、何もない空間から、一体のロボットが姿を現す。

「光学迷彩・・・!?」

四足の鋭利なブレードの爪のついた足、合金で出来た人工筋肉、尾部分に取り付けられた太いコードのようなマニピュレーター、そして、機械的なLEDライトを中心とした頭部。

そして大きく目立つのは、背中のチェーンソー。

見た目は狼か犬。だがしかし、その見た目は明らかに人工物のそれ。

そしてわかるのは、このロボットは―――敵だ。

 

「―――『LQ-84e』。対話IF(インターフェイス)搭載型無人機だ」

 

そしてその敵は名乗った。

「うお!?しゃべった!?」

「対話IF?」

「自立型の無人機には高度な人工知能(AI)が搭載されている。学習と対話IFにより、人との会話も可能になった」

「つまりすごい科学技術の結晶体ってこと?すごい!隅々まで調べたい!」

「こんなところで科学者魂滾らせるなよセレナ!?」

「思考形態は異なるが、俺にも知性がある」

セレナと慧介の茶番を無視して、そのLQ-84eは話を続ける。

そんな中で、シンは腰にビルドドライバーを装着し立ち上がる。

「知性だと?それじゃあ聞くが、お前は何のためにここにいる?」

そう尋ねた瞬間、LQ-84eから何かが投げられる。

それをシンはすぐさま背中の雷切を抜刀、全て弾き返し、最後の何かを掴み取る。

「シン!?」

「シンさん!?」

その掴み取った何かとは―――刃の部分が赤熱したナイフだった。

弾いたナイフも見れば、壁に突き刺さったものはその突き刺さった部分のコンクリートを溶岩の如く溶かしていた。しかし、その色は次第に薄くなっていき、やがて消え、コンクリートが溶けるのも止まる。

「なんだありゃ!?」

「あの形状から見て、ナイフ自体に発熱機能はない・・・たぶん鞘に高周波電磁誘導装置があって、それでナイフを赤熱させたんだと思う」

「何言ってんのか全然わかんないけど、とにかくやばいって事だな!」

すぐさま慧介はスクラッシュドライバーを腰につけるべく懐に手を入れる。

それと同時にセレナも加勢するため、首に手を伸ばす。

が、そこで二人は、目的のものがないことに気付く。

「「・・・」」

何かの間違いかと思い、自分の体を隅々まで調べてみたがなく、そして、大量の冷や汗をかいて、自分たちの変身アイテムがない理由を思い出す。

「しまった!?アガートラームはこの間の戦闘で壊れてたんだった!?」

「スクラッシュドライバーを調べるために戦兎先生に返してたんだったぁぁああ!!」

うおぁぁああ、と絶叫を挙げながら自らの失敗を恥じる二人。

だがしかし、そんな二人を気にしたら負けという謎の雰囲気に包まれている二人は会話を続ける。

「・・・お前を殺す為だ」

先ほどのナイフは挨拶代わりか仕留める気だったのか。

「ご立派な知性だ。命令に疑問も抱かないのか?」

「何を思おうと俺に命令を拒む権利はない。逆らえば俺の意識は消去される。不本意だが、選択の余地はない」

「選択の余地がないって・・・」

LQの言葉に、セレナは胸の内にふつふつとした感情を感じた。

「逆らう為に知性を使え」

一方のシンは、頭のこめかみを指先で叩きながらそう言う。

「ならばお前が手本を見せてみな。人間!」

LQが飛び上がり、高台に乗る。

その一方でシンはビルドドライバーを腰に巻き付け、クライムウルフのボトルスロットにウルフフルボトルを装填する。

 

Start Up』

 

そしてすぐさまビルドドライバーに装填する。

 

CRIME WOLF

 

ボルテックレバーを回してスナップライドビルダーを展開し、シンは叫ぶ。

 

『Are You Ready?』

 

「変身」

 

『Start Up Lightning!Let's CRIME WOLF!Yeah!』

 

ビルダーがシンを挟み込み、その姿を全身鎧の戦士へと変身させる。

それが、仮面ライダークライムへの変身だ。

背中のチェーンソーをマニピュレーターで持ち上げ、LQは雄叫びを挙げた。

そしてクライムは、雷切を構え、LQを迎え撃つのだった―――

 

 

 

 

 

未来の声が、響に届く。

「響の歌は、誰かを傷つける歌じゃないよ!」

その声に、響は戸惑いを見せる。

「伸ばしたその手も、誰かを傷つける手じゃないって知ってる!私だから知ってる!だって私は、響と戦って、救われたんだよ!」

忘れもしない、あの戦い。

自分が神獣鏡のギアを纏い、響がその命を削って戦った、あの海上決戦の戦いを。

その時、未来は確かに、響のその真っ直ぐな想いに救われたのだ。

「私だけじゃない。響の歌に救われて、響の手で今日に繋がってる人、沢山いるよ!」

翼も、クリスも、調も、切歌も、マリアも、慧介も、シンも、龍我も、そして戦兎も、多くの仲間たちや、沢山の人々の明日を、響の歌によって繋がれたのだ。

だから―――だから―――

 

「だから怖がらないで!」

 

「バァイナラー!」

次の瞬間、ノイズが未来に襲い掛かり、未来の足元のコンクリートを砕く。

そして未来は、宙に投げ出され――――

「―――うわぁぁああぁぁぁああぁぁぁあぁあああ!!!」

響の絶叫が迸り――――

 

「―――――ッ!!」

 

 

(私の、大好きな響の歌を―――みんなのために、歌って―――)

落下する中で、未来は、響にそう告げて――――

 

空中で抱き抱えられた。

 

「ッ!?」

目を見開けばそこには、黄色の戦装束を纏う、響が自分を抱えている姿があった。

そのまま一気に地面に落下、その両足で大地を踏みしめ、見事に着地する。

天井が砕け、その上にあった雨水が、一斉にその背後に降り注ぐ。

「ごめん。私、この力と責任から逃げ出してた」

そして、響は謝罪の後に、確固たる決意を、最愛の親友に告げる。

「だけどもう迷わない。だから聞いて、私の歌を!」

 

それは何物をも貫き通す、無双の一振り。

 

それは決して折れず、曲がらない武器。

 

それは彼女の心にして、決して砕けぬ拳。

 

最短で、最速で、真っ直ぐに、一直線に、曲がることを知らない、まさしく一点突破の、彼女だけの矛。

 

そう、それこそは『槍』。決して曲がらぬ『突撃槍(ランス)』。

 

 

今ここに、立花響の『ガングニール』は復活した。

 

 

 

未来を下ろし、響は行く。

「行ってくる」

「待っている」

そんなやり取りをし、響は、ミカに向かって突撃する。

 

 

 

 

 

LQのチェーンソーが襲い掛かる。

その一撃を、クライムは雷切で受け止め、後ろに弾かれたように下がった瞬間、その体を回転させて前に踏み込み、反撃の一刀を入れる。それを下がられて躱され、反撃にナイフを投げられるも叩き落して見せる。

しかし、すかさずLQがチェーンソーをもってクライムに斬りかかる。

そのチェーンソーの連撃をクライムは凌ぎ切り、なおかつ手放した刀を右足で掴み取り蹴り飛ばすように振り抜く。

 

 

 

 

 

ミカが出現させたアルカノイズ。それを、止まるでもなく避けるでもなく、正面突破でなぎ倒していく響。

バンカーセットした右のアームドギアを思いっきり引き絞り、地面に叩きつければたちまちノイズは消し飛ばされる。

そのまま一気にミカへと接近。

ミカはその巨大な掌から極太のカーボンロッドを生成し、響の振るう拳を真正面から受け止める。

しかし、ブースターによってどんどん押し込まれていく。

「こいつ、へし折りがいがあるゾー!」

 

 

 

 

「賢い戦い方を見せてやる―――誰か来てくれ!」

LQが距離を取り、鳴く、するとどこからともなくLQと似た犬型の機械兵器が現れ、クライムを襲う。

「鉄屑風情が―――」

しかし、知能はLQよりは劣るのか、その行動パターンは読みやすく、結果、一斉に斬り裂かれる。

しかし、その合間を縫ってLQがクライムの懐に飛び込み、チェーンソーを一気に突き刺す。

その一撃を、クライムは見事に躱して見せる。

「何っ!?」

そして次の瞬間、その顎を蹴り飛ばされる。

 

 

 

ミカが響を弾き飛ばす。

だが、それで止まるほど響は甘くはない。弾き返されたと思いきや足のアンカージャッキを叩き起こし、それで地面を叩き、再びミカに接近、そのまま腕のアームドギアのブースターを点火、回転を加えた渾身の肘鉄を叩きつける。

それを諸に喰らったミカは一気に吹っ飛ぶ。

 

 

 

顎を蹴り飛ばされたLQは思わず混乱。一体何が起きたのかと模索するも、その前にその首をクライムに掴まれる。

「や、やめろ―――」

次の瞬間、その体を刀が刺し貫き、投げ飛ばされ、そして落ちてきた所をけられてその体を回転させられてしまい―――

「終わりだ」

自由斬撃モードによる斬撃によって、LQはバラバラに斬り裂かれる。

そして、地面に残骸が落ち、

「戦闘継続・・・不可能・・・」

そして、沈黙した。

 

 

 

 

追撃、吹き飛ばされてもなお、響は拳をお見舞いするべく、ミカに向かって飛び込む。

そして、その拳を引き絞り、そのままミカに叩きつけた―――次の瞬間、

 

ミカの体が水となって弾け飛んだ。

 

一瞬、響の思考が停止する。

何が起きた。

それだけが、響の脳内を占めていた。

何故、いきなり形あったものが、形なき水に変化するのか。

その理由は、響の視界の先、柱の陰に身を潜めていた、もう一人のオートスコアラー。

「ざぁんねん、それは水に映った幻影(まぼろし)―――」

青きオートスコアラー、ガリィ・トゥマーンが、響を嘲笑うかのように笑っていた。

そして、響は、自らの視界の下に、ミカの姿を見た。

その態勢は―――完全な攻撃態勢。

その、天真爛漫な笑顔から放たれる、狂気の一撃は―――寸分たがわず響の胸の穿つ。

「―――ぐあぁぁああぁぁああぁあああああぁぁああ!?!?」

その一撃が響を天高く打ち上げ、その身の戦装束をバラバラに砕けさせる。

「響!」

未来が、響の名を叫ぶ。

「か・・ぁ・・・」

とうの響にすでに意識はなく。

「うおぁぁぁあぁあぁあああ!!!」

すかさずラビットラビットフォームのビルドの絶叫が迸り、落下する響を空中で受け止める。

そのまま落下し、ビルドはどうにか着地する。

「―――おい!おい響!しっかりしろ!」

ギアインナーが消滅していく。しかし、そんなこともお構いなしに、ビルドは響の安否を案じる。

だが、響の状態、そして状況は火を見るよりも明らか。

「いや、響!」

未来も駆けつけ、必死にビルドの腕の中にいる響の呼びかける。

そう、これはまさしく――――

 

 

立花響の、敗北だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に、無線が入る。

「ん?」

それはセレナと慧介の端末も同じで、クライムはその通信を繋げる。

雑音だらけの通信。しかし、言葉はしっかり読み取れる。

『―――奴らは・・・この世界を束縛から解放するために戦うと・・・人類の自由の為に・・・戦うと・・・』

それは、紛れもなく、残骸と化したLQからの通信だった。

『だが・・・俺に自由は なかった・・・』

それは、AIにしては、あまりにも切実な言葉だった。

『自由とは・・・なんだ・・・?』

それを最後に、LQからの通信は途絶える。おそらく、完全に沈黙したのだろう。

「・・・AIまで自由を要求するのか?」

シンは、その言葉にそう呟いた。

「・・・」

そして、それを聞いていたセレナと慧介は、どうにも複雑な気分になる。

「・・・襲ってきたってことは、デイブレイクとかいう奴らの手先なんだよな・・・」

「ですが、あの子の戦いには、どこか躊躇いがありました」

そう呟いて、セレナは、LQの残骸の前に腰を下ろす。

「修理する気か?」

「できれば・・・ですけどね」

シンの言葉に、セレナは寂しく笑って答える。

「え!?響さんが!?」

しかし、すぐさま慧介がそう声を挙げる。

「どうした?」

「・・・響さんが、負けた」

シンが尋ねれば、慧介は、そう信じられないとでもいうように、そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降り注ぐ中、オートスコアラーは撤退していく。

響に自らのコートを纏わせて、体が冷えないように屋根のある場所に身を潜める戦兎と未来。

しばらくすれば、二課の職員がやってきて、響をメディカルルームに担ぎ込むだろう。

それまでは、響の命が途切れないよう、応急処置をする。

「・・・戦兎先生」

そんな中で、未来は、戦兎に声をかける。

「未来・・・」

そんな未来の言葉に、戦兎は戸惑う。

「私・・・()()()()

その言葉に、戦兎は諦めるようにため息を吐く。

「いいんだな?」

「はい。もうこれ以上―――傍観者でいたくありません」

その未来の言葉には、確かな覚悟が宿っていた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

ついに始動する二つの『PROJECT』。

「―――頃合いだ」

「仕上げるぞ」

そこへ襲撃してくる、キャロルの刺客、そしてデイブレイク社の襲撃。

「そんなに叫ばんでも聞こえてるわ卵頭」

「安心しろ。死にに行くわけではない」

それに対抗するため、立ち上がるライダーたち。

「反撃だぁぁぁあぁあああ!!」

しかし、本部防衛にあたっていたクローズとタスクに、敵の牙が向く時、―――傍観者であった少女が立ちあがる。

次回『覚悟のM/鏡に映る、光も闇も何もかも』

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」








リディアンこそこそ噂話

慧介がセレナと共にいたのはとある部活の買い出しを請け負ってしまい、その途中でセレナと合流したからである。

慧「なんでもすごい勢いで筆がなくなるみたいでさ」
セ「どんな部活なんですか・・・」

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