了「天才物理学者にして仮面ライダービルドこと桐生戦兎、同じく仮面ライダーであり『プロテインの貴公子』万丈龍我らは、天羽々斬のシンフォギア装者の風鳴翼と同じくガングニールの装者である立花響のぎくしゃくした関係に呆れていたのでした」
友「一ヶ月たっても噛み合いませんでしたよね・・・」
藤「ですが、戦兎さんが二課に入ってからは、翼さん少し丸くなったように感じるんですよね」
弦「それは俺も思った。いやー、剣剣と言っていたアイツが、まさか兎一匹に変えられるとはな」
了「今後が楽しみねー」
藤友「ですね」
弦「では、何やら不穏な空気漂うネフシュタンとの戦いが繰り広げられる第八話をどうぞ!」
一方戦場にて
戦「なんか、どっかで俺と翼の事に関するよからぬ噂をされたような気がする・・・」
翼「私もだ・・・」
万「気のせいじゃねえの?」
響「えーっと、ごめんねこっちで色々話し進めちゃって」
ク「別に寂しくなんてねーしバーカ!」
―――もし、偶然や、奇跡というものが存在するというのなら、彼女は、その偶然を否定し、必然という結果を勝ち取った者であるだろう。
偶然、シンフォギアに選ばれた翼と違い、奏は自らの力でシンフォギアの力を勝ち取った。
その動機は、復讐。
長野県水上山聖遺物発掘所の発掘現場に、休日であるという事で父親に連れてこられた奏は、そこを狙われてノイズに襲われた。
そして、家族全員をノイズによって奪われた。
二課が存在する事を知り、そしてノイズを倒せる―――殺せる力を持っている事を知り、奏はその力を求めた。
文字通り、血反吐を吐くような訓練と薬物投与をやり、まだ十四歳の体を限界にまでズタボロにした末に、ついにシンフォギアを手にすることに成功した。
それが、今、響が使っているシンフォギアであり、第三聖遺物『ガングニール』であった。
ただ復讐の為だけに歌い戦う少女。
だが、そんな彼女が戦い、そして、人々から感謝される事で、心に変化が起きた。
それは、『自分達の歌が誰かを勇気付け、救う事が出来る』という事を悟ったからだ。
そして、彼女は復讐の為だけでなく、誰かを守る為にも歌う事を決意し、そして―――
翼と『ツヴァイウィング』を結成した。
出会いから、五年―――あの日から、二年―――
少女は、運命と邂逅する。
「ネフシュタンの・・・鎧・・・」
翼が、その鎧の名を呼んだ。
「ネフシュタン・・・青銅の蛇・・・?」
カイゾクレッシャーフォームのビルドが、そう呟く。
「お、おい、なんだよあれ・・・?」
『ネフシュタンの鎧、二年前、ライブ会場の惨劇の日に奪われた完全聖遺物の一つよ』
クローズの言葉に、了子が答える。
「二年前・・・そうか、その日のライブは、相応のシンフォニックゲインを獲得するためのものだったのか」
ビルドの推察は的中しており、そして、ネフシュタンの鎧を纏う少女も答える。
「へえ、って事はあんた。この鎧の出自を知ってんだ?」
顔はバイザーで分からない。だが、先ほど了子が言った言葉で、ビルドはある程度警戒する。
おそらく、あの鎧は危ないものだ。
「二年前・・・私の不始末で奪われた物を忘れるものか。何より、私の不手際で失われた命を忘れるものか!」
大剣を構えて、翼はその切っ先を少女に向ける。
ビルドもカイゾクハッシャーを構える。
それに対して、少女も鎧から出る刃の鞭と謎の杖を取り出す。
奏を失う事になった事件の原因、そして、奏が残したガングニールの破片。
(その二つが同時に揃うなんて、一体どういう巡り合わせだよ)
そして、その巡り合わせの中に、翼がいる。
どんな偶然が起きればこんな事になるのか。
(とにかく今はコイツをどうにかして・・・・)
「やめてください!」
「ぬぐあ!?」
が、突如として響に後ろから抱き着かれる。
「な!?響!?」
「相手は人です!同じ人間です!」
「え!?いや、まあ、そうなんだけど・・・」
「「戦場で何を馬鹿な事を!」」
(見事に被ったな)
少女と翼の言葉が見事に被った事を頭の片隅に追いやる。
「むしろ、貴方と気が合いそうね」
「だったら仲良くじゃれ合うかい!?」
少女が刃の鞭を振るう。
「あーもう!」
「え!?きゃ!」
ビルドは響を抱き抱えて距離を取り、一方の翼は空に飛ぶ。
「万丈!頼んだ!」
「おう!?」
「ふんぎゃ!?」
そして響を万丈に向かって投げつつ、ビルドアロー号を引く。
『各駅電車!急行電車!快速電車!海賊電車!』
『発射!』
それと同時に、上空の翼から蒼の一閃が放たれる。
打ち放たれたエネルギー弾とエネルギーの刃。
双方から襲い掛かる高威力の一撃を、少女はその手に持つ刃の鞭で二つとも弾き飛ばす。
「なっ!?」
「最大まで溜め込んだ一撃を弾いた!?」
しかし、翼はすぐさま上空から少女に斬りかかる。
だが、最初の振り下ろしは躱され、続く数撃すらも最小限の動きで躱し、大きく踏み込んだ薙ぎ払いを刃の鞭で受け止める。
そして、その大剣を弾かれ、追撃の鞭の薙ぎ払いを躱したと思い気や、その腹に深い蹴りを貰う。
(あの翼が・・・!?)
蹴り飛ばされて、地面に倒れる翼。
「これが完全聖遺物か・・・!」
「ネフシュタンの力だと思わないでくれよな」
ビルドは、新たに二本のボトルを取り出す。
「まずは弱点を見つける・・・!」
『忍者!』『コミック!』
『ベストマッチ!』
『Are You Ready?』
「ビルドアップ!」
『忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!イェイ・・・!』
機動性に優れたフォーム、ニンニンコミックフォームへとチェンジしたビルド。
そしてすぐさま少女の鎧の解析を始める。
だが、そのまま黙っている少女ではなく、刃の鞭をビルドに叩きつける。
しかしその機動性をもって躱し、忍者らしい機動性で一気に少女に肉薄する。
『四コマ忍法刀!』
ニンニンコミックにおける専用武器『四コマ忍法刀』を取り出しその刃をもって少女に斬りかかる。
ニンニンコミックの機動性と柔軟性をもってして、反撃してくる少女の攻撃をかわしつつ、ビルドは忍法刀を振るう。
だが、戦闘力は少女の方が上らしく、鞭の一撃を受けてしまう。
「ぐぅ!?」
距離を取らされる。
「はっ!どうした?その程度かよ!」
挑発する少女に対して、ビルドは右腕をしならせ、何かを投げる。
「ッ!?」
暗い中、微かに見えたそれは―――手裏剣。
「チィ!」
それを少女が叩き落している間に、ビルドは忍法刀のトリガーを引く。
『風遁の術・・・・竜巻斬り!』
刃から竜巻が発生し、それをビルドは少女に叩きつける。
「ちょせぇ!」
だが、少女はあろうことか真正面からその竜巻を刃の鞭によってねじ伏せる。
「嘘だろ・・・!?」
「ほらほら行くぜぇ!」
伸びた刃の鞭を、ビルドに叩きつけようとする。
それをビルドは巧みに躱していく。
さらに、少女はもう一つの鞭を使って翼をも攻撃する。
「くっ!」
「翼さん!戦兎先生!」
「戦兎ぉ!」
響と万丈が声をあげる。
「お呼びじゃないんだよ。こいつらとでも遊んでな」
そこで少女は杖を取り出して、中心の宝石部分から光の弾丸を放出する。
その光が地面に着弾すると、そこからいきなりノイズが現れる。
「な!?」
「ノイズが・・・操られている・・・」
まるでダチョウのようなノイズ。
そのノイズの視線が、響たちに向く。
「やろぉ!」
クローズはそのノイズ共に向かって行く。
「あ、万丈さん!」
ノイズがくちばしから何かを吐き出す。それをクローズは躱して、その胴体に拳の一撃を叩き込む。すると一瞬にして炭化して吹き飛ぶ。
「まだまだぁ!」
そのまま次々とノイズを殴り飛ばしていくクローズだったが。
「うわあ!?」
「!?」
背後から声が聞こえたかと思いきや、振り返ればそこにはノイズの吐き出した液体に掴まっている響がいた。
「響!?」
「そんなぁ・・・うそぉ・・・」
それは粘着性のある液体。いわゆるトリモチだ。
「上手い事言ってる場合か!?うお!?」
「龍我さん!?」
「へぶ!?」
すぐさま助けようと駆け出すクローズだが、先ほど避けたトリモチに引っかかって無様に転ぶクローズ。顔面から落下したので仮面がなければ相当痛かっただろう。
「ぐぉぉお・・・」
「大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫・・・」
『ビートクローザー』
そしてビートクローザーを取り出すなり、それのスロットにロックフルボトルを装填する。
『Special Tune!』
そして、柄の『グリップエンド』を二回引っ張る。
『ヒッパレー!ヒッパレー!』
「喰らいやがれ!」
そしてすぐ近くにいるノイズに向かってビートクローザーを振るう。
『ミリオンスラッシュ!』
その刀身から蒼い炎の火炎弾を飛ばし、二体のノイズを狙い撃つ。
だが、それでは粘着質のあるトリモチは消えない。
「くそ!別腹かよ!」
「あぅ、もう!」
必至に拘束から逃れようともがく響だが、相当粘着性が強いのか、シンフォギアの強化された身体能力をもってしても逃げる事が出来ない。
その一方で、翼が再度少女に斬りかかる。
「その子たちにかまけて、私を忘れたか!」
着地すると見せかけて片足で少女の片足を払い、態勢を崩した所で足のブレードで斬りかかる。
だが、一回目を躱され、追撃の二回目を防がれる。
「お高くとまるな!」
「ッ!?」
そのまま足を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる。
「ぐあぁぁああ!?」
地面を抉りながら転がる翼。その翼に追いついてその頭を踏みつける。
「のぼせ上がるな人気者、誰もかれもが構ってくれるなんて思うんじゃねえ!」
『火遁の術―――』
「ッ!?」
『―――火炎斬り!』
「ハア!」
そこへビルドの火炎斬りが炸裂。しかし躱され、距離を取られる。
「大丈夫か?」
「ああ・・・」
「ハッ!他人の心配している暇があるのかよ!」
刃の鞭がビルドを襲う。
ビルドは、翼を抱えると四コマ忍法刀のトリガーを引く。
『分身の術』
次の瞬間、ビルドの前に三人のビルドが出現、連続して襲い掛かってくる鞭を叩き落す。
「な!?」
「分身の術・・・!?どうして・・・」
「俺の発明品のお陰さ!」
分身ビルド三人が少女に向かう。
「チッ!三人に増えた所で、何も変わんねえんだよ!」
三対一。そんな不利な状況でも少女は油断せず、三人のビルドを相手取る。
「今の内だ。下がって・・・」
「まだ戦える・・・!」
「だけど・・・!?」
分身が全て倒される。
「なるほど、流石完全聖遺物・・・」
「小手先の技が通じるかよ!」
「だったらこれはどうだ!」
『オクトパス!ライト!』
『ベストマッチ!』
『Are You Ready?』
「ビルドアップ!」
『稲妻テクニシャン!オクトパスライト!イエイ!』
新たなフォーム、オクトパスライトとなって、ビルドは少女と対峙する。
「今度はタコと電球?なんの組み合わせだよそりゃあ」
(それは思った)
少女の言葉に頷く翼。
「目を閉じてろ」
「え?何をいって・・・・」
次の瞬間、網膜が焼かれる程の光がビルドから発せられる。
「ッ!?なんだ!?」
「ハア!」
次の瞬間、ビルドが少女を殴り飛ばした。
「ぐあ!?」
吹き飛んで態勢を崩した所で、ビルドは今度は右肩のタコ足『フューリーオクトパス』を操り、少女を縛り上げて地面に叩きつける。
「ぐあぁあ!?」
「捉えたぞ・・・!」
そのまま縛り上げて拘束するビルド。
「くっそ・・・この程度で勝ったと思ってんじゃねえよ!」
「なに!?」
しかし、とてつもない力で拘束を逃れられ、次の瞬間、鞭の先にエネルギー球が出現。
「やばっ・・・!?」
「喰らいなぁ!」
『NIRVANA GEDON』
投擲されるエネルギー弾。
「戦兎先生!」
「戦兎ぉ!」
「桐生!」
「くっ!」
砲弾が、ビルドに直撃する。
凄まじい爆発が巻き起こり、閃光があたりを一瞬だけでも照らす。
巻き起こる黒煙の中、そこから何かが飛び出す。
それは、赤と青の装甲を纏った者だった。
『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!』
ビルドの初期フォーム、ラビットタンク。
ラビットの跳躍力を使ってどうにか逃れたのだ。
だが、
「ぐっ・・・」
「はっ、爆発の衝撃までは逃れなかったか」
その場に膝をつくビルド。爆発そのものは避けられても、衝撃までは逃れられなかったのだ。
「丁度いい。おい、お前の持ってるボトルって奴全部寄越しな」
「何・・・・!?」
「アタシの狙いは
「なっ!?」
つまり、彼女がこちらを狙ったのは、響を攫う事と戦兎と万丈の持つボトルを全て奪う事か。
「なんでボトルの事を・・・」
「誰が教えるかよバーカ!さあ、さっさと渡して―――ッ!?」
だがその時、空から無数の刃が雨の如く降ってくる。
翼の『千ノ落涙』だ。
「チィッ!」
「繰り返すものかと・・・私は誓った・・・!」
翼が、立ち上がる。
「だから!ここでお前を仕留める!」
「ハッ!やってみろ!」
「おぉぉぉおおお!!」
翼と少女がぶつかる。
いくつもの金属音と激しい爆発が巻き起こる。
その様子を、響はただ見ている事しかできない。
「くっそ!どうやったら取れるんだよこれ!」
クローズはクローズで焼くなり斬るなり、足に引っ付いたトリモチを取ろうと躍起になっている。
「はやく・・・いかねえと・・・」
ビルドは、ダメージが深いのか、無理して立ち上がろうとしている。
今、翼を手助けに行けるものは誰もいない。
「・・・そうだ、アームドギア・・・!」
そこで、響は自分に残された唯一の可能性『アームドギア』の展開を試みる。
(奏さんの代わりになるには、私にもアームドギアが必要なんだ・・・それさえあれば・・・!)
響は、必死にもがいて、アームドギアをその手に呼び出そうとする。
だが、出ない。
「来い!出て来い!アームドギア!」
だけど、出ない。響の手に、彼女の戦いの意思そのものであるアームドギアが現れない。
「なんでだよ・・・どうすればいいのか分かんないよぉ・・・!」
今すぐにでも翼を助けに行きたい。だけど、どうにも出来ない。
これほどまでに、自分の無力さに打ちのめされた事が、他にあっただろうか。
少なくとも、彼女の人生において、一切無い。
その間にも、戦いは激化していく。
剣と鞭の鍔迫り合いの中、翼は改めて実感する。
「鎧に振り回されている訳ではない・・・この強さは本物・・・!?」
「ここでふんわり考え事たあ、ちょせぇ!」
「くっ!」
弾かれ蹴りをバク転で躱す。しかし追撃なのかノイズを召喚され、そのノイズに襲い掛かられる。
「くぅ!」
『逆羅刹』『千ノ落涙』『蒼ノ一閃』自らの持つ技全てをもってノイズを殲滅しようとする。
その最中で放った『蒼ノ一閃』それが複数のノイズを斬り裂いて少女に向かって一直線に飛んでいく。
しかし、躱され、反撃に放たれた鞭の一撃を放ち、また激しく打ち合う。
斬撃を振り下ろし、蹴りを繰り出し、拳を薙いで、互いに攻撃を叩きつけ合う。
その最中、翼は短剣を何本か投げる。
「ちょせぇ!」
しかしそれを全て弾かれた上に、先ほどビルドに放たれたあの黒い砲弾を作り出す。
「らあ!」
『NIRVANA GEDON』
それを避ける事が出来ず、翼は、それを諸に喰らってしまう。
「翼さん!」
「翼ぁ!」
大剣で受け止めるも、抑えきれず、爆発に吹き飛ばされる。
なんども地面を激しく跳ね、地面に倒れ伏す翼。
「ふん、まるで出来損ない」
そんな翼を、少女は嘲笑する。
「・・・確かに、私は出来損ないだ・・・」
「ああ?」
「この身を一振りの剣と鍛えてきた筈なのに、あの日、無様に生き残ってしまった・・・!」
忘れもしない、あの日の屈辱と後悔。
「出来損ないの剣として・・・恥を晒してきた・・・!」
その日から、風鳴翼の人生は変わった。奏を失い、それでもなお戦い続けた。
歌を戦う事に使い、毎日の鍛錬も欠かさず、ただただノイズを屠る事だけを考えて戦ってきた。
だからこそ、今、ここで―――
「だが、それも今日までの事・・・!奪われたネフシュタンを取り戻す事で、この身の汚名を雪がせてもらう・・・!」
刀を杖にして、翼は立ち上がる。
「そうかい、脱がせるものなら脱がして・・・っ!?何!?」
少女は、ふらふらの翼に攻撃を加えようとした所で止まる。
何故か、体が動かないのだ。
振り返ってみれば、そこには――――ただ短剣が突き刺さっていただけ。
しかもそれは、先ほど翼が投げた短剣の一本。これがどうして、少女の動きを止められようか。
その理由は、影。
少女の影に、短剣が突き刺さっているのだ。
『影縫い』
影を刀剣の類で縫い付ける事で、敵の動きを封じる技だ。
「チッ!こんなもので、アタシの動きを―――」
そこで、少女は気付く。
「まさか・・・お前・・・」
それを悟った少女の顔は、一気に青ざめ強張る。
「―――月が覗いている内に、決着をつけましょう」
月を見上げる翼の顔は、どこか、覚悟を決めたかのように清々しかった。
「―――まさか」
そして、ビルドは気付く。
「詠うのか―――『絶唱』を」
それは、自らの全てを燃やし尽くして歌う、シンフォギアの奥の手にして、諸刃の剣、そして、最終手段にして、下手をすれば心中技と言わしめる、自爆技。
「翼さん!」
その翼に、響は叫ぶ。
「防人の生き様!覚悟を見せてあげる!」
翼は、響に叫び告げる。
「貴方の胸に、焼き付けなさい!」
「やめろ翼ァ!」
ビルドが叫ぶ。だが、それで止まる程、翼の覚悟は生半可なものではない。
「くそ!やらせるかよぉ!好きに、勝手にぃ・・・!?」
どうにか逃れようともがく少女。しかし、翼は月に向かって、その刀を掲げた。
その姿は、ある意味、幻想的だった。
「―――Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl―――」
それは、静かな歌だった。
何の騒音も無い、メロディも無い、テンポだってありゃしない。ただただ告げるだけの歌。
その歌の最中で、翼は、少女に歩み寄る。
少女は、なおも抗おうと、腰の杖を手に取り、新たなノイズを出現させるが、すでに、翼は少女の目の前にまで来ていた。
「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」
その翼の行動に、誰もが動けなかった。その覚悟は、あまりにも本気であり、そして、止める事が出来ない状況に立たされているからだ。
―――ただ一人を除いて。
「―――――っふっざけんなぁぁああぁぁああぁぁあああ!!!!」
ビルドが―――桐生戦兎がダメージの残る体を酷使して、全身に迸る痛みを無視して、翼の方へ全力疾走を開始していた。
「やらせねえ!絶対にやらせねえ!そんな事、この俺が許せると思うなぁぁああ!!!」
雄叫び上げ、戦兎は、足のホップスプリンガーを限界にまで縮め、そして一気にその反動で飛ぶ。
既に絶唱はその歌詞の四分の一まで歌い終わっている。
(間に合え・・・!)
翼の元まであと数秒。しかし翼が歌い終わるまでには―――間に合わない。
「―――Emustolronzen fine el zizzl―――」
―――詠唱が、終わった。
それでも、戦兎は手を伸ばす。
「翼ぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁああぁぁぁああぁあ!!!!」
その時、翼が戦兎の方を向いた。
その口端からは既に一筋の血を流れていた。
(頼む、間に合ってくれ・・・・!)
もう間に合わないと分かっていても、戦兎は、翼へ手を伸ばす事をやめない。
その手を引っ込めてしまえば、もう二度と、『ヒーロー』を名乗れない気がしたから。
そんな中で、走馬灯を見るが如く、思考が加速し、全てがスローに見えてくる。
それによって、翼の変化が、目に見えてわかる。
やがて、口からでなく、目からも血を流し始める翼。
(翼・・・!)
そんな翼に、戦兎はなおも手を伸ばす。
その時、戦兎は、翼の口が動いたのを見た。
その動きから、紡がれた言葉は――――
―――ばか
まるで、仕方がないとでも言うように、その表情は、笑っていた。
その顔に、一瞬、思考がフリーズしてしまった瞬間――――
全てが吹き飛んだ。
「・・・ぐ・・・あ・・・」
その爆心地から数メートル離れた場所で、戦兎は、変身が解けた状態でそこに倒れていた。
「ぐ・・・く・・・」
タンクフルボトルの強化で無理矢理立ち上がり、ボロボロの体に鞭を打って歩き出す。
「つば・・・さ・・・」
彼女は、どうなった。
絶唱は、確かに強力だが、その分バックファイアが凄まじいと聞く。
かつて絶唱を使った奏は、その体が欠片も残らなかったと聞く。
(急がねえと・・・!)
そうして、クレーターの出来た場所へ辿り着いて、戦兎が目にしたものは―――
「―――ッ!?」
その姿に、戦兎は、絶句する。
「翼さぁん!」
「おい!大丈夫か!?」
そこへ、響と変身解除した万丈がやってくる。
「うわ!?」
「んな!?―――そげぶ!?」
しかし途中で響がこけて、そのこけた響の腕につまずいて顔面から地面に倒れる万丈。今度は仮面は被ってないのでダイレクトだ。
そしてさらに、車に乗った弦十郎と了子までやってくる。
「無事か!?翼!」
車から降りた弦十郎が、背中を見せる翼にそう声をかける。
「・・・私とて・・・人類守護の務めを果たす・・・防人・・・」
掠れた声で、翼は、振り返る。
その姿は、あまりにも酷くて、惨かった。
両目から血を垂れ流し、口からも血を吐き、鼻穴、耳と穴という穴から血を流していた。
その血が滴り、彼女の足元を赤く染めていっていた。
その姿に、響と万丈は言葉を失い、戦兎は、翼の後ろで、その手を握りしめて歯を食いしばっていた。
「こんな所で、折れる剣じゃありません・・・・」
それだけを言い残した途端、翼の体が傾いた。
「ッ!」
それに気付いた戦兎はラビットフルボトルを振って駆け出す。
その時、足が凄まじい痛みを訴えたが、それを歯を食いしばって耐え、倒れ行く翼の元へ向かう。
「翼!」
翼を抱き留めて、ついに限界が来た足が崩れ、その場に座り込む。
「翼さぁぁぁぁぁあああぁぁああああぁぁあぁあん!!」
そして、響の絶叫が迸る。
「おい!しっかりしろ!翼!」
「う・・・き・・・りゅう・・・・」
「しゃべるな!おい!今すぐ救急車を」
「分かっている!」
弦十郎にそう言い、戦兎は戦兎で翼の延命措置をしようとする。
「・・・な・・・ぜ・・・」
「ああ!?」
「な・・・ぜ・・・・きた・・・の・・・」
今持ち合わせているフルボトルで、どうにかしようとポケットを探る戦兎に、翼はそう尋ねる。
その質問に、戦兎は怒鳴り返す。
「だったらお前はなんで絶唱を使った!?お前、こんな重傷になって、悲しまない奴がいないと思ってんのかッ!?」
「それ・・・は・・・・」
「少なくとも、俺は悲しいッ!」
「・・・!」
ハリネズミフルボトルを振り、そしてそれを翼の体に押し当てる。
(針治療の要領だが、とりあえずこれで痛みを緩和、それでライトで心臓マッサージをしつつ、フェニックスで傷そのものを・・・!?)
そこで、戦兎は気付く。
「フェニックスが・・・・!?」
フェニックスフルボトルが、無かった。
「冗談だろ!?なんでこういう時にねえんだよ!」
「どうした!?」
「フェニックスがねえ!それさえあればある程度傷を治す事が出来るのに!」
どこで落とした?一体、どこであれを落とした!?
翼の体は今はボロボロだ。それは、外側からではなく内部の事。
絶唱のバックファイアで、翼は体内をボロボロにしている。
であるならば、外から傷を治すには、治癒力と生命力を強化するフェニックスが一番最適だ。
ハリネズミはただ痛みを和らげるだけ、ライトは心臓を動かして延命するだけだ。
「くそっ!なんでこんな時に!」
肝心な時に、どうしてこうなるのだろうか。
このままでは、翼は死んでしまう。
フェニックスさえあれば、重症を和らげ、救急車が辿り着くまでに命を持たせる事が出来る。
何もできない現実に打ちのめされ、戦兎は俯く。しかし、それでも尚戦兎は、思考をやめてはいなかった。
フェニックスがないのなら、ないなりに、どうにかするしかない。
「・・・ほ・・・と・・・・」
ふと、翼が、何かを呟く。
「・・・・ば・・・か・・・・・」
その言葉が、紡がれ、耳に入った時、
「・・・うるさい。お前にだけは言われたくねえよ!」
顔を上げた戦兎の顔から、僅かな雫が落ちる。
(こうなりゃ、忍者とコミックで応急処置をするかねえ。忍者の精密性ならある程度の医療技術だって問題なく出来るはずだ・・・!)
忍者フルボトルとコミックフルボトルを取り出し、それを振る。
そして、それをビルドドライバーに装填しようとした時、ふと翼の懐が
それを見て、戦兎は、その場所を探る。
そこから出てきたのは――――フェニックスフルボトルだった。
「・・・なんだよ」
戦兎は、すっかり毒気が抜かれたような表情になり、
「お前が持ってたのかよ」
そう呟き、そして、すぐにボトルを振って、それを翼に押し当てた。
その時、翼の体が、ほんの少し光ったように見えた。
次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?
絶唱を使い、反動で昏睡する翼。
「翼さんが自ら望み、歌ったのですから」
自分の不甲斐なさを悔やむ響。
「奏って奴の代わりになる必要はないんじゃないか?」
自室に引きこもる戦兎。
「無理してるんだもの」
そうして響が得た答えとは。
次回『決意のプレリュード』
「たのもー!」