キングダム 〜俺は俺の為だけに生きるぉ!〜   作:丸の内 幹太郎

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新作
『転生したら「ヘキショウグン!ヘキショウグン」』お楽しみに




15話 水攻め

 

 

 

 

 

 

 貴皇らが立つここ『馬場(ばじょう)』は、中華でも他にはない特殊な地形をしている。秦軍側から左は趙と秦軍との陣間に黄河に繋がる横に広く浅く、上流から丁度流れ出ている運河が存在している荒野がある。

 

 そして小山を超えて、副官兼中央軍大将・尚角と雁翔が率いる中央は、小さな森点々と存在し、大軍での動きを封じる樹海が広がっていた。

 尚深率いる右翼側は、荒野に崖と言える小山がいくつも散らばっており、大隊を動かせる程度の幅しかなかった。

 

「物見の報告では予備軍が全て右翼に動いています」

 

「ほほほ、明日は数十万単位でぶつかるぞい。他の戦場は後回しかい」

 

「うむ、だが兵を動かすには急斜面を流れる川を渡るしかない。今から動かしても全ては間に合わないはずじゃが…………」

 

 

 天幕の中、五人の猛将が集まっていた。趙軍総大将・廉頗とその側近達・廉頗四天王が戦場全体の地図に視線を落としていた。

 

「……決戦は、右翼ですか」

 

「ただの挑発じゃな、どうするのじゃ?」

 

「…………ふん、おもしろい。姜燕、中央の指揮は頼んだぞ」

 

「はっ」

 

「玄峰、左翼の兵を借りるぞ」

 

「お主も出るのか?」

 

「一度顔を見ておきたい……っ、同じ釜の飯を食った三大天を葬った男に自らの矛を喰らわせてやるわ!」

「輪虎と介子坊は前線の指揮を任せるぞ」

 

「「はっ」」

 

 

 翌日、朝日が上がり始めた頃に趙側は隊列を整え、秦軍側の配置を待った。

 

 

「輪虎様、配置完了しました」

 

「うん」

 

 ──昨日の殿の話では、布陣に時間が遅くなるはずだが……間に合っている。それに兵を物見の報告通りの数だ……何かおかしい。

 

 

 

 昨日までとは違う兵の量に、自分達自身で士気が上がる。兵士達も今日が決戦の日だよ肌で感じていた。戦闘に配置された一人の兵がとあることに、気がついた。

 

「なー」

 

「どうした」

 

「…………」

 

 

 ──あの運河……あんなに川幅狭かったか? 

 

 

 秦軍

 

「張唐様、配置整いました」

 

「これからの大将は、貴皇殿だ」

 

 天幕から現れた貴皇は、張唐の横に立った。

 

「すみません」

 

「何がだ?」

 

()()()いざこざに巻き込んでしまって……」

 

 

 ──! 

 

 

 我々とは、貴皇と──『朝廷』……の仲の関係がこの戦場に混じっている。この若さにして爵位"『大上造(大将軍)』"にして"東部長官"の位置に存在し、ここ数年で国内国外の大商人、王侯貴族、後宮にまでその勢力を広げている。

 それを黙って腐り散らしている朝廷が見ている訳がなく、命の危険に晒すような嫌がらせを幾度も行っていると一部の軍関係者、それに近い人間には噂されていた。

 

 

 ──此度の戦に負ければ総大将である貴皇にその責任を、と。それでワシが呼ばれたわけか……もしもの時にと

 

 

 歴戦の猛者・張唐が参戦したのは王騎から助けになって欲しいと頭を下げられた理由をハッキリと知った。

 

「どうするのですかな?」

 

「私も前々から一線を引きたく思っていました。ですが……あの豚どもに黙って従うのは嫌なのですみませんが……巻き込みます」

 

「気にすることはない、始めてくれ」

 

 

 開戦の銅鑼を鳴らすと前線の指揮官が軍を動かした。向こうをそれに合わせ軍を動かし、秦軍が運河を跨いだ所で激突した。

 

 

「広野隊を横から動かせ、騎兵を五十連れて左に応援にいけ!」

 

「殺せぇ!」

 

「クォおお」

 

 太陽が頭の上に上がっても一進一退の均衡が保たれていた。だがそれだけで、ただ兵を失っているだけであった。いや徐々に押されてると言ってもいい状態である。

 どこかで打開策を考えなくてはいけない中、秦側の本陣は静まり返っていた。

 

「この何日かでお主の力量は知っているが、どうするのだ?」

 

「そうだな左に五千、右は()()後方の二千を4回に分けて送れ」

 

「……は……はっ」

 

「待て」

 

「?」

 

「左の五千の中に──……」

 

 

 ──桜花隊二千と隊長の尚相を組み込む。

 

 

 精鋭桜花隊二千と+三千率いて将軍"尚相"出陣。 

 

「やっと出陣ですな、将軍」

 

「気を引き締めろ。期待しているぞ"『五桜』"」

 

「「はっ!」」

 

 精鋭の中の精鋭"『五桜(ござくら)』"の五人も組み込まれ敵陣に突入した。

 

 

 ドドド────ー

 

 

 敵陣丘から五千のが降りて来た所を確認した。

 

 

「ここに来て動いて来たか? だがそこは──……」

 

 ──輪虎がおるぞ? 

 

 両大将軍から放たれた鋭い刃は剣先が触れ合う位置にいた。

 

「君があの"『貴家三頭竜』"の一人だよね?」

 

「貴様が"『四天王』"の一人、輪虎だな……それと輪虎隊」

 

「君のも精鋭桜花隊」

 

「──いくぞ」

 

 

 ドン、と衝突したことを上から貴皇も確認した。

 

 

「送った五千が敵とぶつかったぞ、左はいいが右はどうだ、未だ援軍に送るはずの後方は動いておらぬぞ? あのままでは……」

 

「右は……本陣から持ってきた()()がなんとかする。それにこの戦はどのような策を練ろうが、攻めろうが我々が勝つ。これは絶対だ」

 

「どういうことだ?」

 

「聞きたいですか?」

 

「──……ああ」

 

 貴皇は口を開き、自分の作戦を伝えると張唐は汗を流した。

 

 

「今なんと──……」

 

 

 秦軍側から右側

 

「くぉおお!」

 

「お互いを意識しろ! できるだけ死ぬな!」

 

「無茶な注文だッ」

 

「ガァア‼︎」

 

「蒙武ですぎだ!」

 

「昌平君、昨日あの総大将が言ってたことはどうやら本当らしいな! ガァア」

 

 

 昨日の夜──……

 

 

「お前達には右側を任せる、将となってまとめろ。お前達はただ耐えてればいい」

 

「!」

 

「援軍は一切送らないから死ぬ気で守れよ、蒙武」

 

「貴様……」

 

 脳裏に宿った貴皇の笑う顔に血管が浮かぶ。

 

「っ……ッガァア!」

 

「皆、蒙武に負けるな‼︎」

 

「「うおおお」」

 

 だがその乗った勢いはすぐに止められる。蒙武の目の前に蒙武並みの体格の隊が出てきた。

 

「ふん、貴様……中々やりおるな名はなんという?」

 

「……蒙武。武を極めるとする者だ。貴様は介子坊だな」

 

「雑魚には飽きてた所だ、相手をしてはくれぬか? まぁ直ぐに終わるがな」

 

「あぁ、お前を黙らせてやる、ここは俺がやる!」

 

「ヌゥンン‼︎」

 

「ガァアア‼︎」

 

「蒙武の周りを固めろぉ!」

 

「「オオ‼︎」」

 

 両隅が激しい衝突音と砂埃を上げる。

 

「「端がよく戦っている」」

 

 貴皇と同じく趙左翼の本陣で髭を触りながら戦況を見ていた廉頗がいた。

 

 ──なんだ何かが引っかかりおる……どこもかしこも力を感じぬ。

 

 不穏な何かを感じとる廉頗、歴戦での感覚が危険を感じていた。一度だけ同じ感覚を知っていた廉頗は慎重になり、大きな策を生み出さずにいた。あの"『白起』"との激闘以来である。

 そこに馬の足音が聞こえる。

 

「おお、無理を言ってた悪かった若将軍・李牧よ」

 

「ハハハ、相変わらずで……それで今はどうなっていますか?」

 

「まだまだ始まったばかりじゃ! これからよ……と言いたい所だが何か違和感を感じぬか?」

 

「ハ……戦い方でしょうか? やはり指揮官が変わったので戦い方も変わるかと、思います、が……」

 

「……ワシの勘違いかの」

 

 ──いや、そんな筈はない。この戦場を読めないのは久しぶりじゃ、あやつめ、まさか白起並みの軍略の才があるというのか! 

 

「他の戦場はどうなっておる!」

 

「ハ、左翼は複数の大隊程度が林道でぶつかり合い均衡、中央は乱戦状態になっております」

 

 ──どこの立地も、あ奴らがが得意とする地形……苦戦しているだと? 

 

「物見からは?」

 

「は? ……はっ、大した報告はありませんが……秦軍側の山脈に散った小隊程度が()()()()になりました」

 

「何?」

 

「……普通なのでは?」

 

「いや──……」

 

 

 ドドド──ー

 

 

「!」

 

「!?」

 

 左側で秦軍側の後ろに陣取っていた中隊程度が、昌平君、蒙武、介子坊の戦場に突入する光景があった。

 しかも間隔を上げ、四中隊に分かれての攻撃であった。

 

「あれは……"『波状攻撃』"……」

 

『波状攻撃』、破壊力もあるが、一番の攻撃は"『精神攻撃』"である。廉頗達は上から援軍の数が少数と分かりきっているが、現場で戦う兵達には大軍だと勘違いし士気に大きな変化を表す。そしてそれは現場の指揮官にとっても焦りとなる。

 

「介子坊様!!」

 

「──ッ」

 

 介子坊が戦う横を第二波の波状攻撃が炸裂する様を見た。

 

 ──あれは、不味い……私が行きたい所だが、この男っ

 

 目の前には自分の血で赤くなる満身創痍の蒙武がいた。介子坊も侮れない敵に手を離さずにいた。

 

「墓参、兵を率いて左から第三波の横腹を刺せ!」

 

「はっ!」

 

 三千の騎馬が横に飛び出す。横腹を突こうとするが、その騎馬の横を捕らえた騎馬隊があった。

 

「て、敵手──」

 

「なんだ此奴らは!? ぐぁぁ」

 

「前方が捕まったぞ!」

 

 襲い掛かったのは秦軍と疑う格好だった。鎧も個人の特徴がある一律生がない騎馬隊、"野盗"と間違える見た目である──……"『桓騎隊』"であった。

 

「ッハハ、目ん玉ほじくり返せ」

 

「相手はたかが百騎程度だ! 数で押し切れ!」

 

「た、隊長‼︎」

 

 中間で指揮をしていた隊長の目の前既に桓騎が飛び出してきていた。抵抗する隙間なく首が飛ぶ。

 

「お頭ここからどうします」

 

「このまま逃げてェーが大将が許さねーよ。このまま敵を殺しまくる」

 

 桓騎隊は逆に介子坊軍の横腹に噛み付いた。乱戦状態に近い介子坊は横を蹂躙して回る桓騎に打てる手はなかった。

 流石の廉頗も後方予備を前に出した。

 

「あの予備隊は私が率います」

 

「頼んだぞ李牧」

 

 その間間隔を他の後方予備隊を動かし、埋めるとそれに合わせるように秦軍中央本陣から二千の騎馬が前に出た。

 

「「!?」」

 

「本陣から!?」

 

「貴皇か!?」

 

「──……いや」

 

「!」

 

「開戦時からここを張っていた大将じゃ」

 

 ──あれはまずいの。

 

「将軍、今すぐ予備隊を」

 

「……察しがいい李牧が動く」

 

 二千を率いるは張唐。本陣から飛び出した騎馬隊はそのまも直進した。

 

「く、来るぞ」

 

「盾構えェェ!」

 

「先頭の馬だ!」

 

 そのまま真正面から衝突した。吹き込んだのは圧倒的優位にいた趙兵であった。

 

「切り崩せ‼︎」

 

「「オオオオ‼︎」」

 

「ヌゥン!」

 

 

 ──今なんと

 

 

 ──もう数刻で戦は終わる。一瞬で数万の命が帰るがな

 

 ──貴様の側近は前線におるのだぞ? 

 

 

 ──尚相には伝えてある。ある男が出てきたらある合図を送る。

 

 ──合図? 

 

 

 ──あぁ

 

 

「張唐様、右翼に向かった援軍がこちらに来ます!」

 

「!」

 

 ──あの旗は

 

「前を四十に固めて防御陣! 参謀のその側近達は私と後方まで下がる」

 

「!」

 

「ハ……ハッ」

 

 

 ──音を発する──……

 

 

 ピ────────────────ー

 

「「!?」」

 

「なんの音だ?」

 

 この音の意味を知るのは僅かな人間だけであった。左翼の尚相、中央の張唐、右翼の蒙武と昌平君の四人とその側近達。だが右翼の二人には会話の中で軽く触れた程度であった。

 

「昌平君この音じゃないのか!?」

 

「……何か嫌な予感がする、蒙武下がるぞ!」

 

「介子坊様、敵が逃げますぞ! このまま背を追いましょう!」

 

 

「…………待て! 我々も下がるぞ」

 

「「!?」」

 

 介子坊の動きは流石であった。

 

「尚相様!」

 

「歩兵! 尚相様の前に!」

 

「「オオオオ!」」

 

「こっちも割って入るぞ! 輪子様を守れ」

 

「「オオオ!」」

 

 急に一騎討ちを止めた尚相の動きに輪虎には読み取れなかった。この戦場に響くこの音に何かがあることは確かだと、輪虎、介子坊、そして廉頗は確信した。

 

「あ、介子坊軍が下がり始めたぞ!?」

 

「いやそれでよい! 輪虎も下がらせよ」

 

「中央の李牧は押し込んでいます」

 

 

「後方まで下がるぞ"五桜"! 馬を走らせろ!」

 

「前だけ見て進め!」

 

 

「蒙武もっと走らせろ」

 

「馬が震えてやがる」

 

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 

 地の底から聞こえる太い音。徐々に音が大きくなると地面が震え始める

 

 

「急げ! ()()()‼︎」

 

 

「なんの音だ?」

 

「お、おい‼︎」

 

 最初に気付いたのは前線で戦っていた趙側からの左翼の趙兵であった。

 趙兵を巨大な影が覆う。目の前には三人分の高さにもなる逃げ場のない濁り濁流と化した水が襲い掛かったのである。

 

「介子坊様──あ」

 

「クッ!」

 

 引き揚げていた介子坊の真後ろまで迫っていた。

 

「このままではっ」

 

「ぜ、前線の軍が」

 

「ただ馬だけ走らせろ‼︎傾斜が激しくなる所まで走れ!」

 

 

 中央──……

 

 

「り、李牧様あれは!」

 

「……なんですかあれは」

 

 

 左翼──……

 

 

「輪虎様お急ぎを!」

 

「わかってるっ」

 

 

 輪虎が振り返ると既に左翼の全てが飲み込まれ、中央に届こうとしていた。

 

「急いで本陣に向かうよ、廉頗将軍を逃す!」

 

「まだ負けてはいません!」

 

「いや負けだよ……あの水の勢いは今だけの筈、多少水は残るがそこを本陣で超えてくる」

 

 

 ──そうしたら一撃で粉砕する

 

 

「クッ」

 

「……廉頗将軍を逃す!」

 

「ハッ!」

 

 

 ──戦況は決した。

 

 

 秦軍本陣の将校はその光景に息をするのも忘れていた。だが一人笑った男がいた。中央の"李"の旗が倒れたタイミングに合うように……

 

 

 ──最初から勝負はついていたんだよ、廉頗。山の水路を堰き止めそれを決壊すれば龍のように激しくなり襲いかかる

 

 

「フッハハハハハハ、潰れろ蟻の如く!」

 

 

 戦場の全てに水が達し、前線の兵士10万は抵抗することも出来ず貴皇の策に沈み、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 





新作
『転生したら「ウハァ、ウハァ、禍燐様ウハァ」でした』お楽しみに

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