早速セカンドさんが出てきますよ〜
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本日の更新は3話分あります。これは3話中3話目で、本編の話、つまりいわゆる第7話です。
本日の更新は、
・人物設定(通し番号9)
・IS機体解説(通し番号10)
・第7話(通し番号11)←今ここ
の3本です。ご注意ください。
side巧
「おはよっ!巧くん!」
「ねえねえ、聞いた?」
…何をだよ。まだ初対面から2週間と少しが経った辺りなんだから会話には目的語くらいは入れておいてくれると有り難いんだがな。
「なんと、隣のクラスに転入生が来るんだって!」
「その転入生ってのがまたすごくて、なんと中国の代表候補生なんだって!」
「しかも専用機持ち!」
……なるほど。それにしてもなんで今?なるべく早い時期にというのは理解出来るが、ならなんで入学式のタイミングで入れなかった?本人が未熟だったから入学式時点では見合わせていた……無いな。あの人口お化けの中国だ、候補生が間に合わないなら別の候補生を使う。それが出来ないということは、だ。逆にあとから転入させても運用データでお釣りが来るぐらい優秀な人間が生えてきたって事だろう。その上で、本来は次の学期の初めに転入させるつもりが何らかの事情でこんな時期に来た、といったところか。
「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの入学かしら?」
「そうか、それがあったな。今のところ俺たち男性ISドライバーと繋がりがあるのは、イギリスの代表候補生だけだものな」
だとすると、このクラスに来なかったのは織斑千冬大明神の加護ということになるのだろうか。お賽銭は5円で良いのかな?
「何を騒いでいるかと思えば、隣のクラスの話か。このクラスに転入してくる訳でもなし、騒ぐほどのことでもあるまい」
非常に割り切った考えなのは篠ノ之箒さん。なんというか、もう少し警戒するとかないんですかあなたは。別に良いけどさ。
「まあでも実際、箒さんの言うことにも一理あるよ。クラス対抗戦は来月の上旬だろ?隣のクラスの転入生より、まずは一夏の強化スケジュールを組もう。もうあんまり時間無いだろ?」
「え、今の練習メニューじゃ駄目か?」
「代表が一夏に決まってからもう1週間経っただろ?そろそろ一夏は集中特訓をしてもいいんじゃないかと思ってさ」
正直なところ、もう遅すぎるくらいではある。まあ、そもそも俺と一夏が揃いも揃って基礎の基礎しか出来ていなかったからなのだからそこに文句はないのだが。
「一夏は、って言ったがお前はどうするつもりだ?」
と割り込んできたのは箒さん。そうだ、そこが問題だ。
「俺としても、出来れば飛行時間ダントツのセシリアに教えてもらいたいところだが……そっちはどうだ?」
「うーん…正直なところ、一夏さんに付きっきりになりそうな気がするのですが……」
「あと2週間ないからな……わかった、俺は仮想エネミータイプの特訓やってるわ」
正直なところIS機動の基礎しかわかってないところに1人で特訓やるのはどうなんだ?という気もしないではないが、とりあえずそれは置いておく。
「その後剣道の鍛錬をするのは確定で良いとして、どれだけやる?」
「剣道…?ISを使わない訓練…ですの?そんなことに時間を使うくらいでしたら、もっと機動を磨くべきではなくて?」
セシリアがなにやら不思議そうな顔をしている。まあ、普通はそう思うだろう。特に射撃型はISでの立ち回りと生身での立ち回りが結構違うからな。
「むっ、剣の道はすなわち
「あら、わたくしだって格闘機動を教えるくらいは出来ましてよ?そもそも全ての基本というのなら、零落白夜の仕様上相手の攻撃を避ける為の機動を身につけることが先決ではなくて?」
うーん、一夏の並外れた観察力を活かすべきというのは間違いないが、かと言って見えても避けられないようではシールドエネルギーを消費する零落白夜を振るえる回数が減ってしまう。どちらにも一理あるのが悩ましい。とはいえ、一夏にはどちらも必要だ、どちらもやるしかない。
「まぁまぁ二人とも、そんなに睨み合わないの。実際問題、一夏は俺とセシリアの模擬戦だけでビットと本体が同時には動けないと見抜いたし、白式は近接格闘機だ。俺はともかく、一夏には剣道は効果がある」
「だから言っただろう一夏、剣道を重点にするべきだと。巧すらそう言っているぞ」
「とはいえ、最終的にそれを実行するのはISに乗ってだ。だからISと生身との違いを感覚として把握して違和感なく動けるようになる為に、セシリアとの訓練も必要だろう」
「ええ、ええ、もっと言うべきですわ巧さん。一夏さんには剣道よりもわたくしの指導の方が必要だとはっきりと」
なんだこの二人……あれか、やる気と才能のある弟子を見つけて喜ぶ師匠かなんかか?
「まあ、そういうわけで放課後2時間セシリアが一夏とISの稽古をつけて、その後は箒さんが1時間くらい一夏に1対1で剣道の稽古をつける。その後夕食であとは自由時間。これでどうだ一夏」
「なんでお前が仕切ってるんだ、って疑問はあるけどそれ以外は特に異論無し」
「なんでと言われても、素人とはいえ客観的に判断出来る唯一の共通の友達だろ俺」
「まぁ、それもそうか」
などと誤魔化しては見たけど、そもそも本来はお前が仕切るべきだろうが、というのは言っていいのだろうか?
なーんて考えていたところ、
「まて坂上、お前の鍛錬はどうした」
…忘れてくれていれば良かったのに。
「残念、まだ基礎体力を鍛えてます」
「……まあ、良いだろう。だが忘れるな、私は必ずお前の性根を叩き直す」
余計なお世話だこのやろう。
「納得してくれて何より。まあ実際、一夏の有り余る近接格闘のセンスと白式の高速戦闘能力があれば、あとは技量を磨くのと零落白夜を適切に運用出来れば、大抵の相手には勝ちが見えてくる。そういうわけだから、頑張れよ一夏。……主に俺たちのスイーツ半年フリーパスの為にな!」
とまあ、真面目なのはここまでにしておこう。どうせあと少しで授業だし、ふざけるのも悪くない。
「って、結局それかよ!」
「それ以外に何がある。何かあると思う人手上げて〜」
「「なーい!」」
ほらクラスメイトも無いって言ってる。おや、セシリアと箒さんがなんか呆れたような顔をしてるな。なんだろうか。
なんてね。突然ふざけたので呆れてるんだろうが、まあ諦めろ。俺は興味ないことにそこまで真剣さを保ってられない質なのでな。
「しかし、中国の専用機か……なんだっけ、確か『斥力波の波動的振る舞いとそれによる空間の歪みに着目した機体』と聞いたことがあるが…」
「まあ、なんにせよクラス代表は既に決定しているのです。一夏さんの対戦相手は量産機を使うはずです。代表候補生たるもの、まさか既に決定したクラス代表の座を奪うだなんて、そんな野蛮なことはしないでしょうし」
まあ確かに、ソレが野蛮かどうかはさておき、普通は教師の側がそんな横紙破りを許さないだろう。
そう、それこそ……
「だ〜れが野蛮ですって……?」
教室の外から聞こえてくるこの声みたいにやる気と殺る気の入り混じった熱意を持った生徒でもなければ…ね。
「その言葉、私への個人的な宣戦布告ととって良いのかしら?」
「あら、わたくしは『万が一にも』そのような行為をする方はいらっしゃらないでしょう、という前提で話していましてよ?代表候補生の
目を閉じ腕を組んで教室の壁にもたれかかっているのは、長い髪をツインテールに結んだモンゴロイド系と思われる女子。会話の内容から察するに、話題の中国代表候補生で間違いは無いだろう。名前は鈴音というのか
「知ってるのかセシリア」
「あら、他国の代表とその候補生について知っておくことは、代表候補生の基礎の基の字の第一画目の横棒みたいなものでしてよ」
なんだか妙に日本語慣れしてるようだが、まあ日本で暮らすならその方がいいに決まっている。
なーんて俺は考えていたのだが、どうやら一夏は違ったようで。
「えっと、鈴……だよな?どうしたんだ?そんなに格好つけて。っていうか似合ってないし」
「んなっ!?な、なんてこと言うのよ、アンタは!」
ほー、お知り合いでしたか。と言うことは箒さんとも知り合いで?
……ああうん、絶対違うわ。少なくとも友好的な関係では無かったのは間違いない。じゃなきゃそんな鬼みたいな顔しないだろうし。
……ん?あー、知らねーぞ俺は。
「おい、」
「なによ、今私は話しちゅ……ひぃっ!?」
やっちまったな鈴音さんとやら。見えてなかったとはいえ、その人にそんな口の利き方するべきではない。
ペシン!!
「あうっ!?」
平らな面で叩く出席簿スラップでまだ良かったな、次は気をつけろ。さもなきゃその人……織斑先生からありがた〜い出席簿チョップを食らうことになる。
一夏の知り合いというところから織斑先生とも知り合いだろうと思っていたが、直接尋ねる手間が省けたな。鈴音さんとやらめっちゃビビってる。
さて、授業だ授業。
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と、授業も終わって俺が来たのはIS学園の特訓用ブース。
ここはアリーナに比べれば小さな(と言ってもISが動き回るだけのスペースはある)施設で、概ね立方体の空間の中に遮蔽物と様々なタイプのセントリーガン(無人で作動する火器で、自動で目標を狙うものだ)が設置されている。普通は地面に設置するものだが、そこはIS学園、むしろ壁面や天井に数多く設置されており、きちんと対ISを想定したメニューとなっている。
ちなみに、これは機動練習なのでこちらからはミサイルの迎撃など一部を除いて反撃は禁止。ただし撃たずに構えるのはタイミングを計る意味でも推奨されているので存分にやらせてもらう。
「じゃ、始めますか!」
『回避機動訓練・初級_開始します』
アナウンスと同時に視界の端に表示されたパネルが赤、橙、黄、そして青と点灯。訓練スタートだ。
まずPICだけで前進しつつ空気を取り込みジェットエンジン始動、右に曲がりつつ横転降下して機銃を回避。
避けた先で15式を構えて狙い、撃たない。左主翼フラップを展開しシールドバリアで経路を作って左ジェット流を前に回して左半身を減速、かつ右エンジンの出力を上げて無理矢理前後を入れ替えて軌道を大きく変更、本来の未来位置に放たれたレーザーを避ける。
そのままフラップと気流偏向に使ったシールドバリアを元に戻しながら脚を振り上げ
やや仰向けの体勢になり、エンジン出力を左右同様に高くして急上昇、逆上がりの要領で宙返りして後ろから迫るミサイルを避け、背面飛行(ISなので逆立ち飛行と言ったほうがいいか?)からロールで正位置に戻るまでの間にシークレットサービスで破壊。
今度は進行方向直上にミサイルランチャーの起動を確認。エンジンへの燃料供給をカット、両翼ごと格納して上方投影面積を減らしつつ後方への空気抵抗を減らして慣性飛行。十分に引きつけたら、ISらしくバックステップで回避。
「っと、バックステップだとタイミングが読めないな……」
うっかり被弾してしまった。幸い、今回の弾頭は模擬用の空洞入りプラスチックなので、間違いが無ければ怪我はしないのだが。
とまあこんな具合で、一夏がセシリアと練習している間、俺は戦闘機とISの教科書を参考に色々と回避機動を練習していた。
設計図を見て確信したのだが、やはり灰影はISとしては異質であり、その航空力学的特性はむしろ固定翼機のように右折左折上昇下降に関わらず、常に前進し続けることを前提としたもののようだ。
このせいで、例えば前進せずに行う横滑りは実質的に不可能だし、バックステップも主翼を格納しなければ主翼の根本に異常な負荷がかかり最悪周りのフレームを巻き込んで空中分解する。
このようにISの既存戦術の一部が使えない辺り灰影はある種難儀な機体なのだが、むしろそこを模索するのが楽しくもあり、なかなかどうして充実した時間だった。
さて、今日の機動データを纏めて整備室で反省会だ!
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「……なかなか来ないわね、彼」
「す、すみません!で、で、でも私たちの調査では普段ならこの時間には整備室のあの辺りで楽しそうな顔でお喋りをしながら機体を点検しているはずなんです……」
「大丈夫、落ち着いて。別に貴女を疑ってはいないし、なんなら私の調査でもそうなっていたから」
最悪だ。いつぞやの妖怪生徒会長と新聞部の副部長(一夏の代表就任パーティーで見かけた)が整備室の反対側…これまで俺たちがよく練習で使っていた第3アリーナから入ってくる為の入口の近くでなにやら喋っているのを見つけて、念の為ハイパーセンサーで会話の内容を拾ってみたらこの有様だ。というかよく見たらいつもの眼鏡っ娘も居ないし。
いや、これは相当なことだ。なにせあいつがやっているのは打鉄の大規模改善案の作成、その難度は並大抵ではなく、故にいつもこの部屋に入り浸っているのだろう。その彼女がここに居ないというのは、いくつかのパターンが考えられる。
1:順調なので一旦休憩
これであれば何も問題は無い。というか知る限り入学式当日からずっと整備室で1人で作業していたのだ。どうかこれであってくれ。
2:シミュレータ上で組み上げて実験中
これも問題無い。しばらくすれば戻ってくるだろうし、そうでなくてもとりあえず無事であることに違いはない。せっかくの友人なのだ、手伝いなり何なり、何か出来ることがあればいいのだが。
3:会長と新聞部のどちらか、またはその両方が苦手
うーん、一応挙げては見たがこれは無いな。次。
4:体調が悪い
あり得る中で一番悪いのがこれだ。そもそもこれ程長期間根を詰めては体に悪い。それで無くとも整備室はISの部品や重機、工作機械など危険物が沢山あるのだ、怪我か病気かはともかく、体は大切にしなければならない。…とりあえず、10秒メシでも届けておくか。それとも青汁が良いか?
などと考えていて気づいたのだが、俺は彼女のクラスも名前も部屋も知らない。これでは見舞いの品を届けるどころではない。
いや、そもそも本当に見舞いが必要かどうかもわからないのだが、それにしたって友人の名前もクラスも知らないのは問題だ。次あったら聞いておこう。……俺がそのことを覚えていたら、だが。
……さて、長い現実逃避で冷静になれたことだし、どう切り抜けるか。
会長と新聞部は未だ(と言っても時間にして15秒前後のことなのだが)動かず、さりとて諦める様子はないようだ。
「…最悪だ」
再び呟く。後ろは各種練習用ブースが並ぶ練習エリアへの通路、整備室の校舎側出入り口の前には
最後の1つ、寮方向に出られる出入り口は、あの二人が見張っている。というか二人がそちらを見張っているおかげで練習エリアからの通路の扉の開閉をしても気づかれなかったという面もある。
とりあえず今は男子としては長い髪をペーパークリップで無理矢理留め、度の小さい眼鏡(度無しだとフェイクだとバレやすい)をかけ、マスクをかけて、いざというときの為に(両親が勝手に)用意していた女子制服に着替えた。専用機持ちの特権、量子格納・展開による瞬間着替えが役に立った。ほんの少しとはいえエネルギーを使うから戦闘直前はしない方がいいんだけど、今はそういう訳でもないし別にいい。
問題は、整備室で無駄にウロウロしていたら怪しまれる、という点だ。
変装しているから見張られている扉から出ても良い、と考えるのは甘い。新聞部はともかく、この生徒会長はとかく黒い噂が絶えない存在だし、入学前ブリーフィングでは名家の出身だとあったのにその名家の人間がロシアの代表をやっている辺りはかなりきな臭いものがある。そもそも先日鍵を開けて勝手に入室出来た時点で只者ではない。となれば注視された場合歩き方や骨格が女性のそれでは無いと看破されかねず、先日の私室奇襲事件の動機も把握できてない以上、特に男性ドライバーの俺が決して隙を見せてはいけない存在のはずだ。
しかし、一方で素直に素知らぬ顔で整備を始めるのも難しい。
まず灰影は論外だ。正体をバラすようなものだ。
ならばと他の機体の整備に参加するのも難しい。迂闊に声を出せば男だとバレるし、そうでなくとも初対面の無口な人間を信用して整備に参加させられる人間は居ない。とりあえず俺は無理だ。
「うーん……困った…… 」
が、今回に限って言えば俺は運がいい。
「……どうしました?ええと、布仏さん」
無理のない程度に高めの声でぼそぼそと話しかけ、終わったあたりで少しばかり咳をする。
「うみゅ…?……なぁに?」
何やら困っている様子ののほほんさんを、あの2年生二人の視界の端側で見つけた。のほほんさんはスローペースというか自由というか、まあ言ってしまえば少しばかり鈍臭いところが見受けられる。確かにIS関連の工学や物理等でこそ非凡な受け答えをするものの、それ以外ではあまりにのんびりのほほんとした様子が目立つので、少なくとも俺の正体について考えようとはしないだろう。
「…いえ、何やら悩んでいた様子でしたので」
「えっとねー、友達のIS用の武器を考えてたんだけどね?なんか行き詰まっちゃって……」
「……そうなんだ。あのさ、一緒に考えない?」
「いいの?…ありがとね。えっと、まずこのミサイルの誘導方法なんだけど…」
と、このようにあーでもないこーでもないとミサイルについてゆっくりとした議論を続けること1時間、あの2年生二人組が整備室から出ていった。恐らく、今日のところは諦めたのだろう。
「うん、とりあえずはこれで行けそう。今日はありがとね、
「………………いえいえ、こちらこそこのように楽しい時間を過ごせて幸せでした…………いつからです?」
声色を変えずに、できる限り震えを抑えた声で問う。
「んふー、最初から…だよ。でも女装趣味のこと、かんちゃんとたっちゃんさんにはナイショにしてあげるね。だってたっくーは仲良しさんだからねー」
誰と、とは聞けなかった。あまりにも普段通りののほほんさんが、あまりにも恐ろしく感じられる。
「よしよし、怖くないよたっくー。たっちゃんさんもたっくーには気づいてなかったし、新聞屋さんも気づけないよ多分。…さて、そろそろ二人とも十分に離れたから、イッテイーヨだよー」
いきなりブチこまれたネタに困惑して転びそうになるが、それは別に脚の震えから来るものではない。来るものではない!
なんとか両脚に言うことを聞かせてゆっくりと整備室の外に歩み出て、壁を伝いながら進む。周りに誰もいないことを確認して男子更衣室に入り、瞬間着替えで元の恰好に戻り、更衣室を出て、私室に戻った。
ドアを開けたとき、自分が警戒を怠っていた事に気づいたが、幸い室内には妖怪裸エプロン女も居なかったし、織斑先生も居なかった。監視カメラにもなにも写っていない。
良かった。流石にそこまではなかったか。
「……まずったなぁ………のほほんさんに弱み握られた…寝よ」
……と、そうして一度眠りについたのが20:25頃のこと。
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「……すまん。もう一度頭から、俺みたいな男女その他の機微を理解できない人間が寝起きの頭でも理解出来るように、説明しろ」
「だから、昔鈴…凰鈴音のことな、その鈴が『私の料理が上手くなったら酢豚を毎日奢ってあげる』って約束してくれたんだが、鈴が今日俺の部屋、っていうか俺と箒の部屋にいきなり来て箒に部屋を代われって言ってきて、んでさっきの約束のことを覚えてるかって言われたから約束の内容を言ったら頬をビンタされて箒も馬に蹴られろだの言ってきて、相談できる相手がお前しか思いつかなかった」
……うん、わからん。というか眠い
時刻は21時を少し回ったところ。
今日はまったく散々な日だ。セシリアの指導は受けられないわ、整備室で2年生コンビに見つかりかけるわ、挙げ句ちょっと鈍そうだな等と甘く見ていたのほほんさんに弱み握られるわ……その俺にまだ寝るなと言わんばかりの一夏来襲(迂闊にも鍵を開けっ放しだったらしい。クソが)…
「一夏、大した内容じゃなかったら殴るぞ……眠い」
その後も眠いながらになんとか聞き取りを続けてわかったところを纏めると、つまりはこういうことらしい。
曰く、今日の練習に箒さんが乱入、練習後凰さんがピットに入ってきて、箒さんと一夏が未だに同室(どうでもいいが、俺の部屋に引っ越してくる話はどうなった?)な事を知り『幼なじみなら良いのね!』と言って引っ込んだ。
その後凰さんが一夏の部屋に来て箒さんに部屋を代わるよう要求し、箒さんが竹刀で凰さんをぶっ叩こうとしたらISの部分展開で防がれた。そのタイミングで(何故そのタイミングなのだ)小学校時代に交わした『凰さんの料理が上達したら毎日一夏に酢豚をおごる』という約束を思い出したが『半端にしか覚えてないじゃない!』と半泣きで怒られ、ビンタされた。
…うん。わからん。
「まあ、なんだか大変なことになってるってのは分かった。理解出来なかった以上解決策の提示は出来ないが、気晴らしの手段の提供なら出来る……そういうわけだ、ゲームに付き合え」
「……ゲーム?なんか変なことやらせる気か?」
……相当過酷な状況だったのか、かなりの疑心暗鬼になってるな。
「ただのゲームだ。テレビゲームかビデオゲームと言えば分かるか?」
「ああ、ゲームか。何がある?」
「横1列に揃えて消すパズルと同色4つを隣接させて消すパズル。どっちがいい?」
「パズルゲーかよ……じゃあ横1列で」
と、パズルゲームを始めた時、消灯時間24時まではあと2時間と40分。
「お前ら。今何時だと思っている」
「「ヒイッ!すぐ寝ますすみませんでした!」」
寮監の先生、織斑先生がやってきたのは4時間後の01:20。
「……あ、寝坊した」
俺が起きたのが、朝8:15頃。そこからISスーツと制服を着て、教室に滑り込んだのが8:25丁度。
つまり何が言いたいかというと、俺はこの時点ではまったく知らなかったのである。
5月上旬に行われるクラス対抗戦、その一戦目が1組対2組であることも、4組の代表がなんという名前かも、ましてやそれが誰のことを示しているのかなんて。
まったくもって知る由もなかったのである。