side巧
そんなこんなで1週間前後の時が流れ、今日はクラス対抗戦。1戦目の会場はいつもの第3アリーナ。対戦カードは、一夏と凰さん(2組の代表で、中国の代表候補生、ついでに専用機「甲龍」を支給されているツワモノだ)。
片や世界で二人しかいない男性ドライバーの片割れ…しかもあの織斑千冬の弟にして入試成績主席のセシリア・オルコットに『真っ向勝負で勝った』期待の超大型新人。
片や中国という(人口的に)アメリカすら超える超大国から選抜された生え抜きの代表候補生、その中でも第3世代の専用機を支給されるという好待遇、負けず劣らずの有望株。
当然、この二人の試合ともなれば国内外からのIS関連の重鎮なんかもやってきてアリーナの観客席を埋め尽くし立ち見客すら現れる程の大盛況間違い無し………だったのだが。
「侵入者よ!」
「逃げるわよ!」
「落ち着いて!避難経路はこっち!」
「キャー!!」
「足が!誰か助けて!」
「違う!そっちは違う!」
ご覧の通り、阿鼻叫喚である。どうしてこうなったのか?
そうだな、どうせなら試合開始時点から見てもらった方がわかりやすいから、そこの回想から見てもらおうか。では、スタート。
ーーーーー
「一夏、今謝るなら少しくらい痛めつけるレベルを下げてあげるわよ」
挑発するのは凰鈴音、纏うISは甲龍。頭の近くになにやら黒い球体に装甲を取り付けたような物体が2つ浮遊し、右手には長めの棒の両端に、更に大きな刃が一つずつついている異形の近接装備を持つ、安定性と燃費に優れ初心者から玄人まで長く使えるハイエンド傑作機、しかも第3世代機。
「雀の涙くらいだろ。そんなのいらねぇよ、全力で来い」
応えるのは織斑一夏、纏うISは白式。お馴染みの高速格闘特化(というかもはやそれしか出来ない)の軽装甲、さらにワンオフアビリティとしてシールドエネルギーを消費してシールド無視攻撃を放つという、ハイエンド欠陥機、しかも初期装備のブレード以外に装備の無い、実質的には第1世代に毛が生えた程度。
しかし、だとしても一夏は負ける気などサラサラなく、結果は売り言葉に買い言葉、覆水盆に帰らず、吐いた言葉は飲み込めない……当てはまる言葉はいくらでもあるが、一番適切なのは……
『それでは両者、試合を開始してください』
戦闘開始、だろう。
「ハッ!」
開始と同時にイグニッションブースト。一瞬でトップスピードまで持っていき、対処される前に零落白夜を一太刀浴びせるのが狙いなのだろう。事実、入ればそれだけで勝てるわけだが、
「甘いのよ!」
「なっ!?」
……が、そこは代表候補生の駆る第3世代機、たかが直線突撃程度、それも
そんなことより、触れることなく白式を吹き飛ばしたあの装備はちょっと気になるな。どれ、ちょっと調べてみるか。
「ハイパーセンサー、空間湾曲検知システム、その他観測器具、邪魔にならない程度に展開」
周りの邪魔にならない範囲で展開出来る全ての観測器具を展開し、アリーナ内部を観測する。このデータが大森の利益になるかも知れないし、ならずとも機動の参考にして俺個人のレベルアップに利用できるかも知れない。
「……なるほど、観測機器のデータからすると『本来推進システムに使われる斥力波を、その波動的振る舞いを利用して空間そのものを歪め、それが元に戻るときに発生する衝撃で攻撃する』…と。歪んだ空間が砲身、元に戻るときの衝撃が砲弾、ということか」
「そう、だから燃費が良くて視認性が著しく低い代わりに中・近距離でしか効果は見込めない。アレの相手は遠距離型の方がしやすい」
「んん?」
独り言のつもりが返事が帰ってきた。誰かと思えばいつも整備室で会う眼鏡っ娘じゃないですか。ここに居るってことはこの子2組なのかな?今度教室で探してみよう。
「隣、いい?」
「どうぞ」
どうも、と言いながらちょこんと座る眼鏡っ娘。やっぱり小柄だよなこいつ。なのに俺よりずっとタフなのは何か釈然としないものがある。
まあそんなことより試合を見よう。
一夏の駆る白式が、視認不可能な砲身故に予測出来ないはずの衝撃砲を避ける。
凰さんの駆る甲龍が、ならばとコースに先回りして謎の近接装備を振るい回避を誘い、その先の空間へ衝撃砲を放って回避不能の一撃を叩き込む。
吹き飛ばされた一夏が甲龍に接近、またも見えないはずの衝撃砲を避ける、避ける、避ける、互いのブレードが届きそうな距離になって初めて躱しきれずに一撃を貰っている。
このところずっとこれの繰り返しだ。形勢は辛うじて甲龍有利、だろうか。
とはいえ一夏はなぜ初撃は回避できている?見えない砲身に見えない砲弾、観測結果から衝撃砲一発の加害範囲が決して狭くないことはわかっている。
にも関わらず一夏は避けて、避けて、避け続け、反撃の機会を伺い続ける。
そうして遂に、白式のブレードが甲龍の装甲を削り、凰さんが防御を選択する……いや、してしまう。
「お、攻め口を掴んだか。やっぱり一旦攻勢に入ったら爆発力あるな白式」
もはや甲龍は反撃の機会を失ったとでも言わんばかりに白式が攻め立てる。防御だけでは勝てないとわかっているからか甲龍が衝撃砲を放つも、防御に精一杯で回避ルートを奪えないため衝撃は装甲を掠りもしない(少なくとも灰影の観測器具はそのような結果を示している)。
「イグニッションブーストからのグリッドターン、絶対速度を保持したままのトップアタック……マッハダイバーの面目躍如、ってところ?」
「んぐっ!…マッハダイバーってウチのクラス以外でも広まってるのか」
「ん。割と有名。チキンレースでオーバーランするタイプなんだっけ」
「なにやら情報が歪んでるな…340m/sで地面に激突しただけだ」
「そう……」
なんか興味なさそうな返答だ。まあそれはともかく、猪の様に突撃するのではなく、ちゃんと隙を伺い回り込み、身体への負担の大きいイグニッションブースト+グリッドターンを絶対速度落とさずにこなすのは、結構レベル高いのでは?とも思う。
しかし相手も代表候補生、謎の近接装備をバトントワリングのように振り回し、全方位から息つく間もなく迫りくる零落白夜を全段弾き続け、白式が速すぎて当たってこそいないものの、衝撃砲による反撃を試みる余裕はある。
一夏が零落白夜によりシールドエネルギーを切らすのが先か凰さんが弾きそこねて一太刀浴びるのが先か……そんな攻防も長くは続かず、直撃コースを捉えたのだろう衝撃砲を、白式がやや大きく避けたその瞬間、
轟音を響かせアリーナのシールドバリア(観客保護用)をブチ抜きついでとばかりに地面に大きなクレーターを形成してようやく止まった『それ』の姿は、土煙に隠れて俺の他は多分試合中だった二人にしかはっきりとは見えないだろう。
土煙の中に佇む黒い塊……しかし、俺はその正体に心当たりがある。
「ゴー……レム……」
アレは、『始まりの一機』と大森重工で称される、おそらくは篠ノ之束製だろう
「だとすれば呆けている時間は無い。避難誘導!!」
イマイチ状況を理解していない周囲を他所に、大声を張り上げ叫ぶ。
「俺はあっちで避難誘導する、えっと…」
はた、と気づく。眼鏡っ娘に指示を出そうとして口が止まる。あれ、こいつの名前なんだっけ?……というかそもそも聞いたこと無いのか。
「…ど、どうしたの?」
「な、何でもない。とにかく、そっちも避難誘導して、冷静な人に手伝って貰って」
いけないいけない、眼鏡っ娘が不安がってしまう。出来るだけ平静を装い指示を出し、避難誘導をしながらアリーナの近い方のピットへと向かう。もちろん観測器具はヘルメット一体型のハイパーセンサー以外は全て格納する。
「あの、さっきあの機体のことゴーレムって…」
「ん?いや、その…気のせいじゃないか?」
くそ、聞かれてたか……いいか、とりあえず知らないってことで押し通す!
「で、でもさっき…」
「あー、こういう言い方はあれだが、今緊急事態でしょ?後でってことで良い?」
「あ………うん……」
…ちょっと心が痛むが、無視して次次!
「侵入者よ!」
「逃げるわよ!」
「落ち着いて!避難経路はこっち!」
「キャー!!」
「足が!誰か助けて!」
「違う!そっちは違う!」
阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことか……いや、そうでもないか。流石はIS学園生徒、冷静な人がほとんどでありがたい限りだ。
「こっち!出たあとは出来るだけアリーナから離れて!!……よし、もう良いか」
全体の6割強がアリーナから出たのを確認して、アリーナのピットへと急ぐ。
『お前はどうするんだよ!』
!?!?い、いきなりどうした一夏……
ピットにもう少しで辿り着くというところで、ISのオープンチャンネルに通信が入った。
『あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!』
『逃げるって…女をおいてそんなこと出来るか!』
……こんの非常事態に何やってんだこいつらは…とりあえず、頭の中に響かれると困るのでオープンチャンネルの信号を骨伝導イヤホンに割り振り、ピットへ向かう。
あの機体が襲撃してきたということは、今回の件は間違いなく篠ノ之束が絡んでいると見ていいだろう。仮に違ったとして、無人ISを運用するような技術力とそいつにIS学園を襲撃させるような行動力を持ち、それでいて遵法意識に欠けるという特級の危険な存在が動いているということに違いはない。そんなやつなら、IS学園の打つ手が『IS担当の教員複数で、競技用リミッターを解除したISを用いて介入する』であることくらいは想像出来るだろうし、何らかの対策も打つだろう。
ならばせめて、俺と灰影という小石を噛ませ、そいつの計画をバグらせるしかない。
そう決めてピットへの扉を開こうとしたその瞬間、
「ちょっと、よろしくて?」
……噛ませる小石は、多いほうが良いだろう。
ーーーーー
話しかけてきたセシリアを伴ってピットに入ると、やはり避難は終わっているのか先生二人がいるだけだった。
「もしもし!?織斑くん聞いてますか!?凰さんも!聞いてます!?」
一夏と凰さんに必死に呼びかける涙目の山田先生と、
「山田先生、本人たちがやると言っているのだから、やらせてみても良いだろう」
何故かコーヒーに『塩』と書かれたポットから掬った白い粉末を入れながら呑気な事を言う織斑先生。
…山田先生はわかるが、織斑先生は何をしているのか。
「お、お織斑先生!何を呑気な言っているんですか!?」
理解が及ばずフリーズした俺達二人を他所に(流石に気づいてないということは無いだろう)山田先生が至極真っ当な疑問を呈するも、織斑先生は
「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」
いや、糖分足りないのはあなたでは?頭回ってます?塩そんなにドバドバ入れてそのコーヒーホントに飲めます?
「……あの、先生それ塩ですけど……」
「と、といいますかそもそも先生方、一夏さんたちの援護をするべきではなくて!?わたくしはすぐに出られます、許可を!」
見かねた山田先生が指摘したあたりで我に返ったセシリアが提案する。
「同感です。もちろん、先生方が出るべきだと言うのはわかります。ですが相手はアリーナのシールドバリア、ISのそれと同等のものを破りうるのです、先生方が出るまでの時間を稼ぐにしても戦力は多いほうが良いでしょう!我々にIS使用許可を!」
「断る。というか、無駄だ」
俺の提案も、すげなく断られる。というか、無駄、というのはどういうことか。
「私としても許可はしてやりたい。ところが…これを見ろ」
どれどれ、アリーナ保護用のシールドバリアが最高強度で稼働、さらに全ての遮蔽扉がロックされている、と。
「あのISにしてやられた。コレでは救援に向かうなど不可能、今も3年生の精鋭が逆システムクラック中、政府にも緊急事態として助勢を要請したいところだが通信設備が全てダウン、クラッキングの元凶のアイツをどうにか出来なければどうにもならんという、金庫の中の鍵状態だ……」
今気づいたのだが、先程から先生の手がプルプル震えている。塩コーヒーは怒りを紛らわす奇行だったのかも知れない。冷静なようでやっぱりお怒りのようだ。
「結局、見ていることしか出来ないのですね…」
セシリアがうなだれるが、俺はそうは思わない。
「……先生。遮蔽扉、
電力供給を断たない限りシールドバリアを破壊するのは非現実的だ。だが、遮蔽扉ならば?ISの通行の関係で遮蔽扉はシールドバリアで覆えない構造になっている。それにこいつは実体があるので耐久度回復なんてふざけた真似は出来ない。なら、壊せばいい。
「……………馬鹿者。良い悪い以前に不可能だ。なんの為の遮蔽扉だと思っている?これはISの攻撃では壊されないように作った物だ、どれほど努力したところで、中の勝負に決着がつく前にISどころか人一人通るほどの穴すら開くものか。ああ、一応言っておくが、ロック部を壊したところで開くことは出来ないぞ?この扉は閉める時に左右から押す構造になっているんだが、システムクラックの影響で今は左右から押され続けているからな」
怪訝な顔の織斑先生の話す内容に、思わず俺も怪訝な顔をする。
「先生、そんな大穴開けたらこっちまで攻撃されちゃうじゃないですか。要は攻撃が通れば良いんでしょう?ここには
「……理解出来ない。つまり、何が言いたい?」
「簡単です。扉に穴を開けて、そこからライフルだけ突き出して撃てば良いんですよ。銃座作るんです」
やっと得心が行ったという表情だが、それでも半信半疑な様子だ。
「で、穴は開くのか?」
「この扉に使ってる装甲板、同じものを大森でも扱ってるんですが、試射ではちゃんと貫通したそうですよ」
「……やってみろ」
ようやくゴーサインが出た。
というわけで灰影を展開。両足を床につけて、PICを全て反動を抑え込むことに使用。こうすることで反動を抑え込んで狙いを安定出来、さらにエネルギーロスが少なくなるので多少だが威力が上がる。
「狙い良し。射線確認…友軍機無し。皆さん離れて、セシリアはIS展開!先生方は遮蔽物の後ろでお好きな対ショック姿勢を!」
対一夏戦での決め手となった、試作型30mm機対機特装砲を取り出し安全装置を解除、前回のように咄嗟の適当な構えではなく、正式な構え方で、扉に垂直になるように狙う。
発砲時はかなりの衝撃が発生するのだが、幸いここに居る人は全員素直に従ってくれた。
「撃ちます!修理費用は学園持ちでお願いします!!」
両目は開けたまま。銃がブレないようトリガーをゆっくりと、撃鉄がトリガーから離れる直前まで引く。
深く息を吸い、吐いて、最後の1ミリを、引いた。
ーーーーー
side一夏
「せりゃああああ!!」
「そこっ!!」
俺が真正面から突撃、斬りかかる。
黒い謎のISがそれを腕装甲で防いだところに、鈴が衝撃砲をぶちかます……
「っ!……ああもう!アンタなんなのよ!」
が、放つ直前で飛んできた熱線に邪魔されて、届かない。
戦闘開始から数分が経って、俺達は未だに苦戦していた。
「零落白夜も使えないしな…」
「全くもう、来るならせめて試合前に来なさいよ!」
目の前の謎の黒いIS。熱線砲を2つずつ備えた太く長い腕、全身を覆う装甲とそこに配置されたたくさんのスラスター……見たことも聞いたこともない、謎のIS。
その最大の特徴は、回避能力だ。
俺の零落白夜はISのエネルギーシールドを無視して攻撃出来るし鈴の衝撃砲は白式相手なら一発でシールドエネルギーを76持っていけるぐらいの火力があるけど、それでも
その回避能力は、はっきり言っておかしい。なんとか近づいて斬りかかっても機械みたいな反応速度と人間じゃあり得ない角度の海老反りで避けてそのまま熱線で反撃してくる。
間違い無い、こいつ、
それだけならただ当てにくいISってだけなんだが、問題は熱線砲だ。
こいつは左右の肩に1つずつ、手甲部分に1つずつ装備されてるんだが、センサーによるとその全てがセシリアのライフルより高火力だ。射程範囲はISの武器としては狭いが、そうは言っても20mはありここにあるISの中では最長、そのせいで手出しが出来ない。
「鈴、あとシールドはどのくらい残ってる?」
なんとか敵と距離を取り、鈴と合流する。なんでかは知らんが丁度向こうも動きが止まっている。もちろん警戒は続けるが。
「180、ってところね。そっちは?」
「60弱」
「衝撃砲で一発じゃない……しかも零落白夜はシールドも使っちゃうんでしょ?……ねぇ、言いたく無いんだけどさ、今の私たちだけでアイツのシールドを突破して
剛ッッッッ!!!!
思わず振り向くと、千冬姉達の居た方のピットの遮蔽扉に、小さな穴(センサーによると直径5cmだとか)が空いていた。
「……」
「……」
…………え?
ちょっと意味がわからない事が唐突に起きて、俺も鈴も、それどころかあの黒いISさえもが、動きを止めていた。
ーーーーー
side巧
「まぁ、直径50mmじゃ駄目だよな。みんなまだ近づかないで、特に後ろは厳禁だ!」
何故かみんな呆けているがとりあえず無視無視、銃身を通せるようにさっさと穴を広げよう。特装砲をピット内の汎用武器ラックに立て掛け突撃銃槍を展開、突撃用プログラム起動、先程の穴をロックオン。
「柄を脇で挟んでから腕部ハードポイントと接続…よし、尾部化学ロケット点火よし、横ジェットエンジン始動よし、機体主翼ジェットエンジン始動よし、背部推進器起動よし」
全身の推進器の出力を上げながら足で踏ん張り、PICも使って出力が目標の値に達するまで耐える。
「よし、目標値到達……貫け!」
瞬く間に距離が縮まり、槍が穴を捉え、ひび割れた装甲を砕きながら進み、止まる。
ISの握り拳2つ分程度は通る穴を開けることに成功…これで今回俺の出番は終わりだな。
「セシリア、選手交代だ。後は頼む」
槍を無理矢理引き抜き、灰影ごと格納する。
「…ハッ!?いやまてまて、さっきのライフルを使えば良いだろう」
放心状態から復帰したようでなによりですが、それはちょっと無理な相談ですな織斑先生。
「残念ながら、特装砲は弾切れです。一発あたりの値段が相当高いので一発しか持たせてもらって無いんですよ。それで無くともクールタイムに1時間必要ですし」
「…なんと言うか、癖の強い銃ですのね……」
「零落白夜よりはまだマシだよ。しっかり構えれば弾道も素直だし」
そもそも熟練者の織斑先生はまだしも初心者の一夏に零落白夜があっても…という気はする。するのだが、それをそれなり程度には使いこなせている辺り一夏の才能のトンデモさも垣間見える。
「とにかく、早いとこあの黒いISを撃墜しなきゃだ。セシリア、あの穴ならビットも通れるだろ?遮蔽扉の後ろに隠れてるから機体の制御以前に敵の攻撃が届かないし、例のBTレーザーライフル…スターライトmkⅢだったか?その穴からそいつだけ突き出して撃ってれば安全間違いナシだ」
「安全って……」
「すまん、安全は言い過ぎたな。でも盾として上等なのは保証する。実際凄いぞこの遮蔽扉」
特装砲だけで十分な穴開くと思ってたんだけどな、思ってたよりずっと頑丈だったわ。
それにしても流石セシリア、油断大敵って事をよく知ってらっしゃる。代表候補生は伊達じゃないってことか。
「そうでは無くて……まあ良いですわ。セシリア・オルコット、狙い撃たせて貰いますわ!」
おうおう、そうしてくれ。
後はもう、観測に専念させてもらおうか。
敵IS…というかゴーレムは穴から出てきたビットや穴の向こうのブルー・ティアーズを警戒して明らかに動きが鈍くなっていた…が、それこそ失策だ。
気を取られたところに凰さんの衝撃砲が放たれ、ゴーレムが避けた先に4筋のBTレーザーがBTビットから伸び、その網の目をくぐり抜けたところへ本命、ライフルからのBTレーザーが突き刺さり、ゴーレムの動きを止める。
硬直したゴーレムに迫るのは一夏の白式、その十八番のブースト特攻からの零落白夜で真っ向唐竹割り。
哀れゴーレムは2枚おろしで墜落。
おや、みんなびっくりしているようだがどしたの一体?……ってそうだよな、それが普通の反応だよな。ゴーレムが無人機だって知らなかったら、真っ二つになったらショック受けるよな……いや一夏はそうでもないのか。さてはあいつ、剣を交えている内に無人機だって気づいたのか。本当になんなんだアイツ。
さて、アリーナでの直接戦闘に参加出来なかったり、破片やら部品やらを回収出来なかったりとちょっと未練はあるものの、まあ外から挙動を見るだけでも得られるデータは膨大だし別に良い。これにて一件落着……
『バーストモード起動。熱線照射』
「は?」
2枚おろしゴーレムのうち頭のついている方が再起動、熱線砲を備えた腕が痙攣でもしたかのように勢いよく持ち上がり、こちらを向く。
「っ!?させるか!」
「ちょっ待てお前シールド無い残り無い避けろ馬鹿!!」
気づいた俺の制止を無視して一夏が飛び込み、俺は一夏へはどうすることもできずせめてピットへの被害を減らす為に灰影を展開シールドバリアに出力を回す。
「ちょっ、待って一夏!」
「があああ!!!」
凰さんのタックルも一夏の白式のトップスピードの前には空を切り、一夏のブレードがゴーレムの腕を切り落としたその勢いで頭を潰し、放たれた熱線を全て受け止め、墜落した。
「嘘だろ…おい」
コアネットワークから白式経由で一夏のバイタル情報にアクセスしようとして失敗、白式がエネルギー切れで展開を維持できなかったらしい。だが、少なくとも目を閉じて倒れたまま起き上がらない様子を見る限り、無事じゃない事は確かだ。
理解が及ばず、手も届かず。思わず膝から崩れ落ちる。何もかにもに手が届かない。油断大敵がどうこう言っておきながらこのザマか俺は。
「っ、呆けている暇はありませんわ!先生、シールドの解除を!」
「っ!そうか、奴が撃破された以上、もうシールドシステムのクラックはなされていない。制御もこっちに戻っているはず!」
そうか、システムクラックはあのゴーレムが起点となって行われていた。だからそのゴーレムが撃破されたから…ってそんなわけあるかよ。それより扉を壊したほうが確実…
「シールドは解除した!」
いやそうはならんだろ。普通クラックしたなら解除機能そのものを削除しておくだろうに。
「いや、今そこを考えても仕方ない。今救援に、」
『シールド解除ありがと!このまま救護室に運ぶわ!』
「…うん、任せた」
俺の言葉を聞いていた人が、いたかどうか。
シールドが解除され、進路上になんの障害もなくなった凰さんの甲龍が、気を失った様子の一夏を救護室へ運んで行く。
山田先生が救護室に連絡、一夏の受け入れ体制を整えた。
織斑先生がやっと回復した通信機能で政府に連絡する。
何も、出来なかった。
いや、もちろん俺が開けた穴が早期解決に繋がったことは理解している。だとしても、友人が気を失ったというのが、それがこちらを狙った攻撃を受け止めてのことだというのが、どうしようもなく俺を動揺させ、激しい無力感を感じさせる。
自然、無力感は怒りに変わっていく。
「……次はないからな」
なんとか立ち上がり、拳を握りながら、薄情なほど冷静さを取り戻した頭が、次に発注するべき兵器の構想を始めていた。
「……楽しい、だなんて、不謹慎なのはわかってるつもりなのにな」
今はただ、それを楽しいと感じてしまう自分が腹立たしかった。
さて、原作1巻編が終了しましたが、2巻編が始まるまで、作中時間であと2週間以上あります(クラス対抗戦が5月上旬、2巻冒頭が6月頭)。
では、その間彼は何をやっていたのでしょうか。無人機による学園襲撃という、最大級の厄ネタを目の当たりにした、彼は。