ISの巧〜貧弱航空オタ奮闘記〜   作:ゆすくうけに@Aki

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第10話「台風一過の後始末」

side巧

「は、ははは、はははははははははははははははははは!!…………」

 私室に戻ったことで枷が外れ、ついに溢れた感情は、()()()

 あってはならないことに、俺はあの戦いを見て、何よりも創作意欲に駆られた。

 早く作りたい。早く造りたい。早く創りたい……あのゴーレムを倒せる装備を。

 ああ、苦しくて(楽しくて)たまらない。胸が締め付けられるほどにつらい(興奮する)。頭が後悔で割れそうになる(アイディアで破裂しそうになる)

 

 

 

「ノックノック、失礼しまーす……一夏、起きてるか?」

 一夏が運ばれ、我に返った後すぐ、震える足を叱咤し笑う膝を叩いて壁を伝い手摺に寄りかかり、なんとか一夏の寝ているベッドの前にたどり着いた時には、既に12時半すら超えていた。

 

「…………」

 絶句、とはまさに今の俺を言うのだろう。腕や脚、あちこちに包帯を巻いて血の気の薄い頬に絆創膏を貼った、痛々しい今の一夏の姿にかける言葉など、これまで15年と少し生きてきた程度の若造な俺の、薄っぺらい辞書にはあるはずもなかった。

 

「おい、一夏。起きろよ。なんで寝てるんだよ。なんでお前が、あんなに事件解決に尽力したお前が!ここで、こんな風にベッドに横たわらなきゃいけないんだよ……そこに寝るべきなのは俺じゃないのかよ。事件解決にあまり寄与出来なかった俺じゃないのかよ。なんで働かなかった奴が無事で、功労者がこんなに傷つかなきゃいけないんだよ……」

 ようやく絞り出した言葉に、応えるものは誰もなく、届いた者すら、いるのかどうか。

 

「こんな時でも、腹は減るのか……」

 本来なら昼休み開始に相当するであろうタイミングのチャイムが、事件により急遽休みとなった学園に響く。食欲の無い頭とは裏腹に、腹の虫が餌を要求するのを聞いた俺は、思わず呟いて、保健室を出る。

 誰もいない廊下、常に携帯している10秒メシを体内に放り込み、抑えていた感情が溢れる兆候を感じた俺は急いで私室へ戻る。

 

 

 

 頭の中のメモ帳には、精緻な設計図と精巧なアルゴリズム表。空想上のペンを取る俺は、恐ろしいほどに笑顔だった。

 

 悲しい(楽しい)苦しい(楽しい)腹立たしい(楽しい)……誰か、この苦しみを無くしてくれ(この楽しみを共有しよう)

 

 学園がゴーレムに襲われて、機材に幾らかの被害が出た。生徒も数名が避難のときに怪我をした。一夏に至っては全身打撲や多少痕の残る火傷に一度意識不明になるなど大きなダメージを負った。

 

「それなのに…それ、なのに!」

 声が震える理由は、怒りからか、楽しいからか。

 ああ、最悪(最高)だ、最悪(最高)だ、最悪(最高)だ。

 

 今もあの戦いが脳内でリフレインし続けている。あの時何があればもっと速く倒せたか。何があれば一夏に庇わせるまでもなく倒せたか。何があればもっと役に立てたか。

 

 考える事は同じなのに、湧き上がる感情が狂っている(狂っている)

 こんなにも被害が出た(興味深い)のに、こんなにも悲しい事件(楽しい思索)なのに、どうして俺は、こんなにも笑っていられる(悲しんでいる)のか。

 

 捻れた感情を他所に、冷静な理性は思索を続ける。

・ISはおろか、あの穴は人間の身体すら通れない。

・だが、穴の先に腕を伸ばせば、そこを基点に武装を展開することはできる。

・だからどうした?銃を展開するなら銃身だけ突き入れればいい。

・……BTビット?

・それ以前に、あの程度の穴しか開かなかったのは何故か。

・火力が足りないからだな

・火力…か……

・零落白夜はどうだ?遮蔽シールドごと壊せば良い。

・ミサイルだ、ミサイルはいいぞ。

 

 何をこんなに…なんで理性は冷静でいられるのか。そんな薄情さでお前()は一夏の友人を自称できるのか?

 

 

「俺は…人でなしだ…」

 せめてこの涙の理由くらいは、どうか悲しみでありますように。

 

ーーーーー

side一夏

「う………!?痛っ、痛たたた……」

 全身の痛みで目が覚める…目が覚める?いやちょっと待て、ここはどこだ?何があった?

「……思い…出した」

 確か、鈴と試合をして、黒いISが乱入してきて、それで……

 

「気がついたか」

 シャッ!カーテンが引かれる。確認する前に行動、間違いなく千冬姉だ。

 

「放課後まで寝こけるとは、相当な寝坊助だな……全身に軽い打撲と多少の火傷だ。多少痕は残るだろうが、大きな怪我は無い、安心しろ」

 まだ頭がボーっとする。放課後なのは窓から差し込む夕日でわかるけど……全身打撲ってどういうことだ?

 

「ISの絶対防御すらカットして零落白夜に回した挙げ句、白式の全エネルギーを使い果たして展開すら維持出来なくなってそのまま奴の残骸に激突だ。もう少しエネルギー残量に気をつけろ、馬鹿者」

 そうか、絶対防御が切れたなら全身打撲もあり得るか……いやちょっと待った、絶対防御って、確か解除出来ないようになってるって、この間習った気がするんだけど……

 

「まあ何にせよ……無事で良かった」

 そう言って微笑む千冬姉の顔は、いつもよりずっと柔らかくて……

 

「千冬姉、心配かけてごめん」

 そう口に出して謝らないと気がすまないほど、胸が罪悪感で押しつぶされそうだった。

 

「…し、心配などしてはいないさ。この私の弟だ、あの程度で死にはしないと分かっているからな」

 変な信頼のされ方、だけどそれも千冬姉なりの照れ隠しだと思えば嫌な気はしない。むしろ罪悪感の方が大きくなるくらいだ。

 

「…私は片付けが残っているのでな、そろそろ出る。お前も、動けるようになったら部屋に戻っても良いからな。そうだ、言い忘れていたがあの試合は無効試合だ、次はいつになるかまだ決まってないが、そのつもりで練習に励め。いいな?」

 何分そのまま沈黙していただろうか、耐えられなくなったように立ち上がった千冬姉が、ぶっきらぼうな口調で言い残して出ていった。

 戻っても良い、と言われてもな……まだちょっと痛むし、悪いけどもう少し休ませてもらおう。

 

ジャッ!千冬姉の開き方の方ががまだ優しかったと思えるくらい乱暴にカーテンが開かれる。というか千冬姉は別に閉めてなかったのだし、あれ以上開ける必要も無かったのに。

 

「よう、鈴」

「…元気そうね、一夏」

 やって来たのはセカンド幼馴染の鈴だった。こいつこそ元気そうで何よりだ。

 

「そう言えば試合、無効なんだってな」

「まぁ、そうでしょうね…」

「その、試合の決着ってどうする?次の試合も決まってないけど」

 正直もう、何が何でも決着をつけるという気は無い。無いが、それはあくまで俺の事情、鈴の意見を優先するべきだ。と、思ったのだが。

 

「そのことは…もう、別にいいわよ」

「…え?」

「わ、あたしがいいって言ってるんだからいいのよ!」

「そ、そうか……」

 いいと言うならそれで構わないが、それはそれとして。

 

「鈴」

「なによ」

「その…ごめん、色々と」

 これは俺のケジメだ。悪いと思ったら素直に謝る。悪かったと自覚があるのなら、謝らずに済ますわけにはいかない。

 

「……もう、いいって言ってるんだから別にいいのに……ムキになってたあたしがバカみたいじゃない」

「…え?」

「…なんでも、ないわよ」

 そういってそっぽ向く鈴。参ったな、また何かやっちゃったんだろうか、俺。

 

「あ、思い出した」

「…あによ」

 そう言えば、あの時もこんな風に、鈴は言い終わったあとそっぽを向いていたっけか。

 

「前に言ってた約束、正確には『料理が上達したら、毎日あたしの酢豚食べてくれる?』だったなぁって。で、どう?自分で満足行くぐらい上達した?」

「え、あ…う……」

 心なしか赤い顔でしどろもどろになる鈴。その様子に、ふと昔考えたありえない想像がよみがえり、俺も顔が熱くなる。

 

「な、なぁ、その約束って、まさかとは思うけど、『毎日味噌汁を〜』とかの話……じゃあ、ないよな?」

「なっ!?ばっ………ばっ………ばっ………ばっかじゃないの!?!?!?!?」

「だ、だよな……流石に俺の深読みしすぎだよな……は、ははは…」

「そ、そそそうよ!そんなわけ、なななないじゃない。あ、あは、あはははは、はは……」

 恥ずかしい。なんで俺はこんな事を口走ったのか、自分で自分が理解出来ない。あれ、なんか顔が熱くなって、なんだかぼーっとしてきた……

 

「え、あちょっと一夏大丈夫!?一夏!?……え、えっと…一応脈はあるけど…めっちゃ速い……え、これホントに大丈夫?先生、先生!?」

 鈴の声がだんだん遠く、不明瞭になるのを感じながら、俺はゆっくりと、眠りに落ちていった。

 

ーーーーー

side葛城さん

 誰かの家や何らかの施設を訪問するとき、そこには守るべき多様なマナーが存在する。例えば、あまり服装が華美にならないように気をつけること、きちんと先方にアポイントを取ること、到着しても勝手にドアを開けず、インターホンを押して待つこと…そうそう、遅刻をしないことは当然なのだが、先方の準備の手間も考えて約束の時間に1分だけ遅れる、というマナーも地方や世代、職種によってはあるのだとか(まあ、個人的には眉唾ものなのだが)。

 

 さて、そんなマナーの中には『手土産を持っていく』なんてものもある。適当に済ませようとしてチンケな物を買うなんてのは厳禁だが、準備出来ずに先方の近場で買ったり、あるいは先方に気を使わせてしまう程高価な物を選ぶのもまた、同様にマナー違反だ。

 

 昨日、IS学園に"招かれざる"客の訪問があった。この客は、華美では無くとも物騒な服装で、アポイントも取らず、挙げ句インターホンを押すどころか天井を破壊して突入してくるという、もはやマナー以前の問題だった。

 ところがこの客は、手土産だけは律儀に持ってきた。それも、こちらが恐縮どころか疑念すら抱くほどに高価な代物……無人ISそのものだった。

 

「ただまぁ、それだけでその悪行が帳消しになるかって言うと……『ならねーよバーカ』としか言いようがないんだよね」

 1人、恨み節を呟いてみた所で、送られてきたデータが消えるはずもなく(もちろん消えてもらっても困るわけだが)…それでもこう言いたくはなる。

 "うちの子に変なことを吹き込むな"と。

 

「全く、巧君が笑い泣きで電話してきたときは何事かと思ったよ」

「そうだな…でも、かえって安心した」

「おわっ!?……坂上副チーフ、どうかしました?息子さんは元気みたいですよ。まあ、自分の倫理感の無さに絶望してるみたいですけど」

 ここで巧君の父親が登場、巧君に似て(まあ順番的には逆なのだが)そこそこ整った顔に、そこそこ恵まれた低めの声、そしてそれらを台無しにする伸び放題の髪と無精髭。普段通りのIS開発部門副チーフだ。などと考えた所でようやく、自分がだいぶ外界の常識に毒されたことに気づいて苦笑する。もっとも、これも広告塔の整備役(巧君のカウンセラー)として自分に要求される性能の1つなのだし、直すつもりは毛頭ないが。

 

「倫理感ね。そうやって悩めるなら十分すぎるぐらい十分だ、安心した」

「安心した、って……」

「人体実験の強要でもしなけれりゃ、十分に倫理的だろ」

 これだよ。うちの開発チームはどうにも開発以外を軽視する人が多い…いや、そういう人たちだからこそ、うちの開発チームに来たとも言えるのだけれども。

 

「まぁ無事ならいいんだ。一応無事だけど『神社生まれのTさん』のゴーレムに襲われたって聞いて心配になって仕事に手が付けられなくなってたからね」

「ええ、流石に『Tさん』関連は危険ですからね…」

「まあ、ここより学園の方が安全だし、現地で俺にできる事は何もないから、仕事するしかないんだけどさ」

 とはいえこれでちゃんと親としての愛情があるのだからよくわからない。いや、仕事一筋が過ぎて家庭をまったく顧みないとかそういう性の悪さはないから、別にいいのだけども。

 

「ところで副チーフ」

「なんだい?」

「襲撃があったの、昨日ですよ?」

「……は?」

「さてはチーフ、教えたら副チーフが仕事出来なくなるからって情報止めてましたね」

「あんにゃろ、今度の飲み会であいつの炙りエイヒレ全部食ってやる」

 などと笑っていられるのも、無事にゴーレムを撃墜出来たからこそで。そういう意味では、こちらも織斑一夏には感謝していたりする。

 

「じゃあ、デュノアからのいちゃもん対策会議が終わったら電話しよう。……それにしても、技術盗んだわけでもなし、デザインが似てるだけだろうに…なんでこんなに怒るんだ?あのおフランスの会社は」

「デュノアですね。どうもあそこ、転入生送り込んでくるらしいですよ」

「げ、勘弁してくれよ……待てよ、いっそ拉致して人質に…」

「したら国家問題ですからね?」

「ったく、分かってるよそのくらいは!……はぁ、どうしたもんかな」

 目がマジですから。副チーフ、やめてくださいよ?そういうの、本当にシャレじゃ済まされないんで。

 ともあれ、転入生注意報は、この先も解除されないってわけですかいな。どこぞの本名不明主人公じゃないけど、このくらいは言わせてもらおうか。

 

「まったく……やれやれ、ですね」

「はぁ?」

「副チーフに言ったわけじゃないですよ」

「そうかよ…」

 しかしまぁ、我々大人でさえ面倒になるのに。未成年には荷が重すぎる、なんでIS学園を未成年限定の学校にしたのやら。

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