side巧
「…であるから、ここでこの値を移項すると…」
熱線をシールドで受け止めながら全力前進して左腕の17式40mm機関砲を当て続けて…
「…と、このようにこれだけの操作で両辺の形がとても単純になります。このテクニックは覚えておくように」
シールドが壊れる直前で右に旋回、同時に弾切れの特装砲を向けてブラフ牽制、しながら横転降下。
「他にはこう…このような方法もあるにはあります。ただ、詳しくは後期でやるので、今無理に覚える必要はありません」
横転降下で位置エネルギーを捨てて得た、最高速度以上の速度に突撃銃槍の加速を上乗せ…
「……ねぇ、坂上君、聞こえてます?坂上君?」
駄目だ。やられる。距離20mまで近づいた瞬間、唯一装甲で覆われていない顔面である口元に直接飛び込んできた熱線が灰影の絶対防御を削り切る……また勝てない。仕方ない。次だ。来るならさっさと来やがれゴーレム。次こそはぶち殺してやる……!
「坂上君、問題です。あなた、昨日何時間寝ました?」
「え、あ……ええと…?」
瞬間、一気に意識が引き戻される。
そうだった。ここはIS学園の1年1組の教室だ。しかも今日はクラス対抗戦から既に数日経っている。一夏ももう全快して、打撲の内出血も全く残っていない(確認済)。
このところいつもこうだ。最初は寝ている間、次は一人で歩いているとき、やがて食事中、遂には授業中にまで、あの糞ゴーレムは侵略を仕掛けてくる。その度に俺は仮想の灰影で迎撃して、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、撃墜される。
…なんて考えている暇はない。今は数学の授業中、担当はフランシィ先生。まさか聞いていなかったとは言えない、黒板と横目で見た一夏のノートから質問の内容を考えると……
「ええと、この場合は逆に両辺を先に割ってから移項して整理するとこうなるので……」
黒板の前に出て、解説したのだが、どうも教室の空気が異様だ。なんというか、信じられないようなものを見る目で俺を見る。それも全員……一夏もセシリアものほほんさんも、それどころかフランシィ先生すら含めて、全員だ。
「あの、また俺何か間違えました…?」
おかしい、検算の結果はあっている。やり方も、教科書に乗っていた範囲で出来るものだ。何が駄目だった…?
「間違えた箇所が知りたいですか?」
「ええ、そりゃあもちろん」
「はぁ……正解は次の授業で教えてあげます。まずは寝てください。今日はもう部屋に戻って、しっかり休むこと。織斑先生から事情は伺っていますし、特別に出席停止扱いにしますから欠席にはならないので安心してください」
「え、え?」
話の流れがわからない。出席停止?どういうことだ?伝染性の病気にかかってるのか?俺が。ないない、熱もないし喉も痛くない。腹は多少痛いし目が痛いがそれは昨日今日と食事を10秒メシで済ませたのと目の使いすぎだから関係ないし……本当になんでだ?
「本当にわからないという顔ですね。今日、鏡を見ましたか?ひどい顔をしてますよ?」
「ひどい顔…ですか?」
「ええ、まるで2日以上一睡もしていないみたいです。なので、寝てください」
2日寝てない程度で寝ろと言われても……まぁ、仕方ない。とりあえず、放課後まで部屋に引っ込むか。
ーーーーー
side一夏
思えば、数日前からその兆候はあった。例えば、歩いている途中、突然何もないところでふらついたり、話しかけても反応せず、肩を掴んで揺するまでこちらを無視し続けたり。
「ねぇ、ちょっとやばくない?」
「やばいのは前からだったでしょ。セシリアさんに抱きついて殴りかかったり」
「そうじゃなくてさ、それは『良い』やばさだけど最近の巧君はなんていうか…こう、地獄にいるような雰囲気で…」
「地獄って…」
授業中にも関わらず、教室がヒソヒソ声で騒がしくなる。
まあ、気持ちはとてもわかる。だけれども……
「はいはい、気になるのはわかりますが、今は授業に集中してください」
だけれども、今は数学の授業中、わからないなりにでもちゃんと聞いて追いつかないと後々自分が困る。IS学園は座学の中間テストはないけれど、その分期末で全範囲をやるのだから。
……それにしても心配だ、放課後あいつの部屋に行こう。何か体調不良向けの料理を作って持っていこう。
ーーーーー
「でもまさか、あそこまで引きずってたとはな…」
昼休み、日替わりランチを頬張りながら呟く。普段はキャイキャイと騒ぐ周りの女子たちも、今日はなにやら声を抑えて話している様子。
聞こえてくる話題は、やはり大体が巧についてのものらしい。
「ああ、やはり一夏さんは聞いていないのですね?巧さん、あのあと酷く自分を責めていましたのよ。『何も出来なかった、指を咥えて見ていることしか出来なかった』ですって。穴を開けたのが誰なのか忘れたみたいに青い顔をしていましたわ」
「ああ、『なんで役立たずの俺が無傷で、功労者の一夏が意識不明にならなきゃいけなかったんだ』などと言いながらランニングマシンで走っていた。奴も曲がりなりに日本男児だということか。てっきり気に留めず機械弄りを続けるものだと思っていたのだがな…」
「民間出身で急拵えのISドライバーだから、目の前で起きた実戦が軽くトラウマになったのかもね。仕方ないことだけど、勝手に自分の戦果を低く見積もって勝手に落ち込むのは、見ててちょっとムカついたわ」
俺と同じテーブルで食べているセシリア、箒、鈴が順々に説明?してくれた。
そうか……俺はあいつのことを友達だと思っているけれど、それでも肝心なところで何もわかっちゃいなかったってことか…
油断したのは俺だし、痣や痕の残らない程度の打撲だけで済んだし、なによりあいつが穴を開けたからあんなに早くセシリアが援護射撃出来たんだし。むしろ自慢しても良いくらいなのに。
「……馬鹿馬鹿しい。うぬぼれも大概にしろ、坂上…」
まあ、放課後になるまで俺に出来ることはと言えば、せいぜいが箒に同意しつつ何を作って持っていくか考えるくらいなわけだが。
ーーーーー
side巧
「15式は悪くないが、弾が切れやすいのが難点か。意外と100発ドラムマガジンでもキツいんだよな…」
通算500回目の被撃墜を節目に闘争より逃走を選んだ瞬間、意識が現実に戻ってきた。
場所は寮の自室、書き散らかした設計概要図が詰まったパソコンの前に座ったまま呼吸レートがbpm20台前半にまで上がっていた。
そんなことはどうだっていい、重要なのは新装備策定だ。候補は4つまで絞った。
一つ目、多連装の対空ミサイルポッド…可能なら撃ちっぱなしとマニュアル誘導が飛翔中に選択可能なもの。
……『BTビットのような多方向からの攻撃』と『直接射線を通さない壁越し射撃』を行うため。敵味方入り乱れる戦場で、或いは安全な物陰から、確実に支援射撃を行えるように。
二つ目、無反動砲或いはそれに相当する大型携行砲。特に試合としてのルールでは禁止されているナパーム系などを含む各種特殊弾が扱えるもの。
……単純な火力増強のため。あの無人機の後ろには必ず篠ノ之束がいる。実戦を想定するなら取れる択は多いほうが良い。
三つ目、リモコン起爆式粘着グレネード…可能なら投げたあとの着脱を選択可能な高弾性のカバーで覆われたもの。
……『閉所での非正規戦への対応』のため。篠ノ之束が敵なんだ、いつ何時襲われるかわかったもんじゃない。
四つ目、サブアームにより保持される耐熱シールド。
……前回作った手持ちタイプのシールドを使いながら攻撃するには、文字通り手が足りない。ブルー・ティアーズのレーザーも無人機の熱線も、被弾したときの計測データや一夏たちへの聞き取りからするに衝撃そのものはあまり強くない。なら、サブアームの強度はそこまで高くなくて良い。予算と期間はシールド側に重点を置くべきだろう。
高熱重金属粒子ビームやレーザービーム…いわゆるエネルギー兵器はまだまだ研究途上、対人レーザー程度なら可能だが対ハードスキンでは火力が明らかに足りない。
PIC搭載ビット…はエネルギーパックに難あり。かと言って大型にすると的になる。国連の下部組織が開発している疑似ISも、そこでかなり詰まっているらしいな。
零落白夜?構造がわからんので模倣も何もあったもんじゃない。
この辺まで書いて、一度メールを送信した。時刻は15:40、ちょうど放課後になった辺りだ。
「さて、整備室行くか」
ガレージにある予備の腕と耐熱塗料、あと整備室に転がってる装甲板で4番目だけでもでっち上げておこう。
ーーーーー
side一夏
さて、そんなこんなで放課後になったので、俺たちは荷物を引っ掴んで自室に戻り材料を取って調理室に駆け込んだ。
「昼休みに使用予約しておいて良かった」
呟きつつも手際よく、鍋とおたま、米と片栗粉、みりんと作りおきのだし汁…などなど、必要なものを使いやすい場所に配置していく。
今回料理を作るのは俺、箒、鈴の3人。このうち鈴は俺達よりも先に着いて、さっさと作り始めてしまっていたので邪魔するわけにもいかず、俺は箒と二人で少し離れた台所を使っている。
「なんでこうなるのよ!」
鈴が何やら叫んでいる。あいつが料理で失敗するとは珍しいな。
ちなみに、本当はセシリアも料理をしたがったのだが……まぁなんというか、その、分厚いオブラートに包んで言うと、セシリアは『料理がヘタ』なので……どうにかこうにか、滋養に良い紅茶を選んで淹れてもらうことにした。不思議と紅茶だけは絶品なんだよなぁ…
「それでだ、一夏。何を作るつもりだ?」
「とりあえず餡掛けのお粥と具無し味噌汁。あいつ最近食堂で見かけなかっただろ?新聞部の人に聞いたら、ここ最近チューブ入りの栄養ゼリーしか食べてないって教えてくれてさ。本当は肉料理でも持っていこうかと思ったんだけど計画変更だ」
さて、始めるか。
まずは、昼休みの内に水に漬けておいた米1/3合をざる上げ、400mlの水と一緒に火にかける。強火で沸くまで加熱したら、蓋をずらして弱火にする。
「これはどのくらい放って置くんだ?」
「先に水でふやかしたからな、20分でいい。この間に味噌汁と餡を作る」
小鍋に汁椀2杯分の水を入れ、火にかけながら味噌を溶く。このとき鍋に直接ブチ込むのではなく、おたまで中の水を掬い、そこに味噌を溶いてから全体に混ぜるのがポイントだ。
後は沸騰しない程度に弱火で温めて、味付けに多少柚子胡椒を振れば完成。
「味噌汁はもう完成なのか?」
「ああ、後は餡を作るだけ。というわけで箒は片栗粉小さじ2杯強を大さじ1杯で溶いてくれ」
作業させないのも悪いので、とりあえず片栗粉を溶いてもらう。
小さい鍋にだし汁醤油みりん塩を入れ、よく混ざったら沸騰させる。
「溶いたぞ」
「よし、じゃあこれを、おたまで混ぜながら回し入れる……これで餡も完成だ」
ピピピピ!ピピピピ!セットしておいたタイマーが鳴る。
「お、ちょうど炊き終わったか。じゃあ持っていくか」
「ま、待て。確かに私はほとんど作業出来なかったが、せめて持っていくくらいは」
「そりゃもちろん。片付けは俺やっとくからお盆であいつの部屋まで届けてくれる?昼確認したら鍵開いてたから多分中入れるだろうし、もし開いてなかったら俺の部屋に置いておいて」
そうして箒を見送ってから、使ったものを片付けていく、んだけれども。
「あっという間に終わってしまった…」
そう、使った鍋やおたまごと持っていったので、今洗って片付けられる物が極めて少ないのだ。
どうせだし鈴の方を手伝おうと思ったちょうどその時、
「あ、あの一夏さん!」
セシリアが(珍しく息を切らせて)駆け込んできた。
「何、なに、どうしたの」
「その、巧さんが…」
なるほど、先生は巧に寝てろと言ったのだが、寝たのは巧ではなく神様の方だったらしい。
ーーーーー
side巧
「この大馬鹿もの!!!」
閑さや 岩にしみ入る フルボイス
〜坂上巧 心の川柳〜
冗談はさておき、かなりこっぴどく絞られた。いや絞られてる。現在進行形で絞られてる。
場所はIS学園の保健室のベッド、俺のいるベッドを取り囲む様に1年の専用機持ち全員(もちろん俺は除く)と眼鏡っ娘と養護の先生(名前は忘れた)が立っている。
「全くお前は、周りの気持ちも考えずに訳のわからない無茶をして…」
ちらりと一夏の方を見る。どうか篠ノ之さんを止めてはもらえないだろうか。
…そうですか。『お前が全面的に悪い』ですか。
助けてください、眼鏡っ娘…じゃなくて更識簪さん…ダメだ目線が冷たい。具体的には-273℃くらい。うん、絶対零度直前ですな。0.15℃暖かいのは最後の温情か何かだろうか?
さて、10秒メシは取り上げられてしまったので、この餡掛け粥と卵野菜入り麺(凰さん曰く、湯麺という中国の病人食だとか)を食べつつ説教を聞き流しつつ、何が悪かったのか思い返してみようか。
お、この紅茶ラベンダー入りなのか。いい匂いだな。……このスコーン、苦味が強いのだけは難点だな。
ーーーーー
「さて、と。設計そのものは終わってるし、まずは手首の取り外しからやるか」
ガレージから素材を持ち出し、作業台に置く。
強度を担保する為に複数の方法で補強されている手首を外すのはなかなか骨が折れたが、構造は何も見ず書けるくらいには頭に入っているので特にパーツを傷つけることもなく取り外しに成功する。
「何、してるの?」
お、眼鏡っ娘登場。こいつになら話しても良いだろう。もちろん篠ノ之束対策だってことまでは伏せるが。
「新装備開発。この間の無人機襲撃事件の戦訓を活かしたものを開発中だ」
「そうなんだ。確かに、ゴーレムは強かったもんね」
「ああ、あの熱線砲はなかなか強力だったからな」
普通に受け答えてから、しまったと気づく。ゴーレムって名前を知っているのは、普通はアレの関係者くらいなもので、そこからは普通に考えるとテロ首謀者と同じ陣営だという結論を導き出せる。
あの時ゴーレムって名前を漏らした俺のミスだな……
「……ねぇ、あの時のこと、だけど」
「……ああ、襲撃と避難誘導、大変だったよな」
「そうじゃなくて」
「あのあと一夏を見舞いに行ったんだが、俺が行ったときにはまだ寝コケててな、」
「はぐらかさないで!……ねぇ、巧。何か、あの機体と、関係が、あるの?」
一歩ずつ、一言ずつ、こちらに詰め寄る眼鏡っ娘の、その眼鏡の奥の双眸には、その背丈とは裏腹に何やら抗い難い威圧感が備わっていた。
……だが、
「無いとは…まぁ、無いとは言わない。でも、あの機体に関わるのは止めておいた方が良い。もしも!…もしも、五体満足でトラウマを負うことも無く、普通に長生きがしたいなら…な」
こればかりは譲れない。大森の人間として?後ろ暗い経緯で入手したISのドライバーとして?違う、純粋にこいつの友人として、ここは譲れないに決まってる。
「俺だって、あの機体について知ってることはかなり少ない。だけど、それでもわかる事がある。俺たち一般人は、本来決して、あの機体と関わっちゃいけない…言えるのはここまでだ。これはアンタの事を思って言ってるんだからな」
ああそうだ。コア入り無人機なんてやばいブツを使う勢力について調べようなんざ、バカのやる事だ。
「……」
「…………はぁ、とりあえず、今は聞かないでおく」
「…賢明な判断を支持するよ、それが身のためだ」
「でも一つだけ」
「…内容による」
「今回のテロを起こした存在と、あなた達は利益関係にあるの?」
…まったくこの眼鏡っ娘は。そんなに危ない橋渡るのが好きなのか?もう少し安全な橋を探しなさいな…
「誓って言うが、無い。というか、どちらかというと向こうは俺達のこと嫌いだと思う」
「そう?……なら、そういうことにしておく」
その言葉を境に、気温が2度ほど暖かくなったような、そんな感覚を覚えた。
……いや違うな、逆だ。知らぬ間に吹き出していた冷や汗を拭いながら俺はようやく理解する。
この眼鏡っ娘のプレッシャーは、そういった気配に鈍感な…つまり素人の俺にすら体感温度が2度ほど下がったように思わせるほど鋭いものだった、ということだ。
「とりあえず、今はあなたを信じる」
「そうかい、それはなによりだ。他に質問は?」
「……無いよ」
「じゃあ、シールドのデザインについてアドバイスをして欲しい。こう、バックパックから伸ばすサブアームに…」
暗転、急に向きを変える重力、ドサリ、と落下音(何か落としただろうか?)、黒い視界に白い光が瞬間破裂して、消える。
ええと、これはあれか。久々の仮想ゴーレム大量発生のお時間か。
……夢の中くらい、出てこなくても良いのにな。
ーーーーー
……とまあ、そんなこんなでよくわからない空間でゴーレム10機相手に足掻いては奮戦虚しくぶち転がされて、足掻いてはぶち転がされて……
どうにか連続30分生き延びた辺りで、知らない…けれども明らかに学校内であろう天井が目に映る。
背中から伝わるベッド用スプリングの感触…ベッドに寝かされているのか。
清潔な、見覚えのある天井…多分校内。それもおそらくは『IS関連施設』としての区画ではなく、『高等学校』としての区画だろう。
鼻を微かに突く薬品の臭い……化学室に置いてある物というより、消毒用アルコールや湿布薬といった医薬品だろう。
そこまで考えて、ようやく『何らかの理由でブッ倒れたので保健室に搬送された』という結論に辿り着いた。
「さて……紙とペンは……あれ?無い!」
せっかくゴーレム10機相手にデスマッチをしたのだ、特に最後の30分の戦訓を反映したバージョンを書き上げてしまいたかったのだが……
「これが欲しいか」
おん?居たのか篠ノ之さん。何やら笑顔でどうしました?
「篠ノ之さんが持ってたんですねもちろん欲しいです是非下さい」
「そうか、欲しいか……」
俺が食い気味で正直に答えると、上がった口角をピクピクと震わせながら
……あれ?怒ってらっしゃる?何故にWhy?
なんて考えていたら、雷が落ちた。
「この大馬鹿者!!!」
……と。落ち度1つも見つけられずに時系列が今に戻ってきてしまった。どこに落ち度があった?
相変わらず眼鏡っ娘と一夏の目線は冷たいし、保健室の先生は呆れ顔だし、ホントもうなんなんだよ!
「ごちそうさま。後で何使ったか教えてくれ」
食事を終えてなお話が終わらなさそうなので、身体を起こしてベッドから降りようとして、先生に止められる。
「駄目です、寝不足なんだからしっかり休みなさい」
もちろん、俺の返答は決まっている。
「おかげ様でしっかり休めました。もう大丈夫です」
ああ、本当に大丈夫だ。頭もスッキリしている。
そうやって、立ち上がろうとして、
「だめ」
眼鏡っ娘に、止められる。
「なんでだよ、俺はもう大丈夫だぞ?」
「違う。緊急事態だから辛さを感じていないだけ。それに、今ここで消耗しても良いの?」
「へ?……消耗って何だよそれ。ちょっと夜ふかししすぎただけだろ?大袈裟だよ」
急に妙なワードが出てきて思わず素の反応を返してしまうが、軽い調子を作って大したことないように装う。
「はぁ…みんなは、もう戻って良い。後は私が説得する。先生も、ちょっと出ていてもらえます?」
「え、えっと…?なんでか、聞いてもいい?」
「すみませんが、プライベートな問題なので」
「そ、そう……?」
おっと-10℃の目線を先生に向け始めたぞこの人。
「で、でも…」
「これは
「え、ええ……」
何故そこで家庭の問題って強調する眼鏡っ娘。そして何故にそこで引くのだ先生。
「……さて、今ここには私達以外いない。あの扉は防音仕様だから、外の彼らに会話を聞かれることもない。だから、この会話の内容を知ることができるのは私達だけ。いい?」
そんなこんなで全員退出、他のベッドにも人はいないので、正真正銘密室に二人きりだ。それに何故か眼鏡っ娘は俺のベッドの周りのカーテンを閉め切り、2重密室にしたのだが。
「それは、まあそうだろうけど。で、どうするって?」
事情が事情だ、例え血反吐吐いてもこのマラソン大会はやめられない。やめたくも無いが。
「例の無人機、『ゴーレム』だっけ。アレの首謀者って」
「おい、その先は!」
「…わかってる。でもここまで言ったら同じことじゃない?」
「それは、確かにそうかもしれないが。それでも自動盗聴システムが特定ワードに反応して通報する仕組みかも知れない。迂闊な発言は」
「大丈夫、盗聴器は無いよ」
………は?
「無いよ、盗聴器。レーザー盗聴もこうしてカーテンで閉め切ってるからかなり難しいし、聞かれる心配は少ないよ。だから、」
そう区切って、眼鏡っ娘は言った。
「まずは質問。あなた、このまま燃え尽きるなんて贅沢する余裕あるの?」
彼は止まりません。ですが、必ずしも独りだけで走り抜く必要もありません。