side巧
「わかりにくかった?なら言い方を変える。篠ノ之束相手に、こんな無茶で対抗出来るの?」
そう言って、俺の顔を指差す。
「目の下の隈、ボサボサの髪。あなたが立場上身なりに気を使うべきことすら理解していないとは思えない。なら、その惨状は身なりに気を使うことが出来ていない、
いつもの口調、いつもの声色、しかし気配が違う。なんだ、何が違う?
場違いな困惑をする俺に突きつけられたのは、俺のメモ帳。
「先に謝っておく。勝手に中身を見てごめんなさい。その上で聞くけど、これは何?」
何って……
「こう、後ろからサブアームを伸ばしてシールドを構えさせて…」
「違う」
困惑しながら説明を始めた途端、遮られる。
「そのくらいはわかる。そうじゃなくて、ここ。これは、何?」
「ここ、って……」
指し示す場所を見、ようやく気づく。
「……なるほど。確かにおかしい…が、それはただの計算ミスだ。たまにあるだろ?」
「そう。ならこれは?」
「これ……は書き間違いだな。珍しくはあるが、まあ概論図だしな、そういうこともある」
「そう?なら、これは?これは?これと、これと、これもおかしい。あなたらしくもない、些細なミスの多発」
「修整前提の図面にそう言われても…」
たじろぐ俺に、眼鏡っ娘は更に畳み掛ける。
「おかしい、さっきは設計図と言っていたはず」
そう言えばそうだったか。多少曖昧になっていたらしい。
「あなた、戦場でも、同じことをするつもり?」
……確かに、そう言われると返答に詰まる。
「だけど」
「だけど、じゃない。効率を優先するにしても、周りを守りたいのだとしても、いや、それならより一層、きちんと休息をとって」
こうまで言われてしまえば、もはや俺に言い返す余地は無い。
「……わかった。必要な休息は取ることにする」
俺に出来る事はと言えば、そう言って起こしていた上体をベッドに横たえ、布団に潜り込むことだけだった。
目を閉じ、布団の温もりに包まれる。眠気は来ないが、どうせ眠ってもゴーレムの群れに襲われるだろうことを考えれば、それもまた幸せと言えた。
「……」
「……」
言いようのない、安心感に包まれた沈黙が場を支配する。
先程まで身を焼いていた焦燥も、効率よく働くなら尚の事休息が必要だ、ということで今は鳴りを潜めている。
「それで…」
「…なに?」
高校の医務室にしてはフカフカのベッドを堪能すること十数分、眼鏡っ娘がまた話しかけてきた。
「今後の対策だけど、私にも参加させて」
恐竜の時代を終わらせたユカタン半島沖の隕石に匹敵するほどの衝撃が俺の頭を打つ。
何のために。何故。どうやって。何が狙いだ。自分の言ったことを忘れたのか。危険だぞ。…そういった言葉が次々と脳裏に浮かんで、
「……」
声を成す前に、俺の頭の冷静な部分によって止められる。
いいか、よく考えろ。これはチャンスだ。こいつの有能さを思い出せ、大森で囲いこめば機動兵器としてではない、パワードスーツとしてのISについての理解で大きな進展が見込める。それは、確実に対篠ノ之束に於いて役に立つ。
だから、否定するのではなく、動機を聞き出す。
「それは…ありがたいけど…どうして?」
「それは…それは、さっき言った私の家庭の話」
そこで一度区切り、深呼吸した眼鏡っ娘は、何かを覚悟したような顔で言った。
「私の名前は、
気の合う友人の姉は、第2種警戒対象だった。篠ノ之姉妹といい、織斑姉弟といい、俺の周りこんなのばっかりかよ!
ああ、もちろん織斑先生…織斑千冬も警戒対象だ。篠ノ之箒と織斑一夏が幼馴染、篠ノ之束は箒の姉、織斑千冬は一夏の姉、そして箒は一夏の、束は千冬の同級生…当然警戒するべき対象だ。が、この話は今はおいておく。まずは目の前の問題に取り掛かるべきだ。
「……続けてくれ」
「……そっか、そこまでは知らないんだね。私達…お姉ちゃん達更識家は、昔から日本の暗部…特に防諜関連を担当してきた家なの。言うなれば、『対暗部用暗部』かな」
「つまり…あれか。『篠ノ之束と思しき勢力が
頭の中の何かが急速に冷えていくのを感じながら、応える。
「……私は、更識として最低限のことしか学んでないし、お姉ちゃん程優秀でもない。更に言えば、それほど国防に熱心なわけでもない。だけど、力があるのに黙って見過ごすのは…やっぱり嫌」
…んん?話が妙なことになってきたな?
「ええと、つまり…義憤…?」
「義憤って言うか、なんて言えば良いのかな…端くれでも更識で、しかも日本の代表候補生の私が動けば、問題が悪化するのを少しでも防げるかも知れないって、そう思ったら、何もしないなんてそんなことは…出来ないから」
サラッと代表候補生だってトンデモ情報が出てきたのだが…というか眼鏡っ娘…じゃなくて簪さん、意外と激情家?
いや、だがしかし、言ってることはそこまで間違ってもいない。更識というのは置いておいても、ロシアの国家代表の妹にして日本の国家代表候補生、これは確かにそこそこ大きなカードだ。
ここで、大きな疑問が生まれる。
「ちょっと待て、日本の代表候補生って…」
代表候補生というのは、普通大々的に発表するものだ。それが例え、専用機を持たないのだとしても。
俺はIS学園への入学にあたって、在学している/する可能性のある年齢の代表候補生を全て暗記してきた。その中に、更識簪の名前は無かったはずだ。
……いや、1つだけ、可能性がある。
「そう。私は、私の乗る
こいつは、少しばかり一夏を目の敵に…とまでは行かずとも、少なからず悪感情を抱いているようだった。
「『
ーーーーー
1つ、思い出した話がある。
俺がISに乗れることが発覚する2、3週間程前、IS開発部門…当時はまだIS『関連装備』開発部門だった…に遊びに行った時のことだ。
「はぁ…」
「どうしたんです?そんなつまらな気な顔して」
顔馴染みの兵器開発者が少しいじけた顔をして10秒メシを啜っていたので声をかけてみた。
「いや、ね?倉持が急に依頼をキャンセルしやがってさ。そのせいでプロジェクトが潰れたのさ…ちくしょー、俺の数カ月がパーだ。せっかく多目標同時ロックオン用モードの基礎まで書き終わったのに…」
「何を開発してたんです?多連装砲かなにかで?」
「惜しい、多連装ミサイルだ。打鉄の後継機に積む予定って話でな、利益が見込めるからって予算注ぎ込んでもらえてたんだけど、その話が何故か急にキャンセルになったからね…」
「…大体がIS相手にミサイルは不利ですしね……小回り効かないし、スペース取られるし、初速小さいし、威力当たりの単価も高いですし…」
「ズルいよISは…俺みたいなミサイル一本の奴はおまんま食い上げしちまう。
ーーーーー
っと、途中から関係ない話まで回想が進んでしまったな。
まあ何が言いたいかというと、この話、簪さんの話、そして一夏のことを考えると…
・簪さんが日本代表候補生として決定、専用機の支給が確定していたので完成を待って発表することになった。
・何らかの理由で、倉持が白式開発に専念することが決定(実は一夏のIS適性がより早くに見つかった、零落白夜の手がかりを掴んだ、篠ノ之束とコンタクトをとった……どれが正解かはわからない、今はおいておく)、打鉄弐式が計画中断
・専用機が完成しないので代表候補生として発表出来ない(公表すると専用機関連のグダグダっぷりまで明らかになりかねない)。
・一夏が発見され、白式の優先度が『専念』→『総力を挙げる』に変更される。打鉄弐式は完全に計画凍結。
…とまあ、多分こういった経緯なんじゃないか、と。俺はそう考えたわけだ。
「白式の優先度が『専念』になった段階では『機密』の一点張りで倉持の内情はわからなかったけど、大体それで正解」
おお、俺の憶測も案外捨てたものじゃ無かったらしい。
「ってことは、打鉄ベースで設計してたあの機体は…」
「そう、打鉄弐式。あっちが計画を放棄したのだから、私が拾って完成させても、何も問題は無い」
権利的にはそうだろうけど…まぁ、そこはツッコムべき所ではないだろう。
「まぁ、何であれ優秀な簪さんが協力してくれるなら助かる。それなら、1つ頼まれてくれるかな?」
必要なのは戦力増強、ちょうどそのためのプランを用意したところだし、その実現に協力してもらおう。
ーーーーー
side巧
とまぁ、そんなことがあった週の土曜日のこと。
IS学園からヘリで向かった近場の演習場、さらにそこから輸送機の定期便に乗って向かった山間部。そこにあるのはOGHの開発拠点、前身になった大森財閥が旧軍の兵器を開発していた時代から使い続けている場所であり、俺にとっては小さい頃からよく連れられて来た馴染みの遊び場でもある。
『新型特装砲、試験ナンバー3-8、試射1分前』
俺は今、その"遊び場"の地下深くに存在する『
『退避完了!』
灰影のシールドバリアで守ることのできない、俺以外の人間が全員、中規模核融合炉丸ごと1つ分の電力を食う高出力エネルギーシールド(まあ高出力といってもISの通常時のシールドバリアの8割程度でしかないが)で守られた観測室に退避した事を確認して、手元の試作品の安全装置、その最後の1つを外す。
『発射用意…構え!』
この実験の責任者をしているIS開発部門第2班班長が、先の観測室から指示を出す。
俺はその声に従って構え、先程の物と同一出力のエネルギーシールドを纏った3km先の高硬度標的に狙いを定めて、灰影の腕部関節を新たに設定した反動制御モードでロックする。やらずに試射した結果反動を制御しきれず跳ね上がった銃身が頭部装甲の顔面を直撃した試験ナンバー1-5の教訓から学んだのだ。
幸いその時は、灰影が本気の絶対防御を働かせてくれたこともあってかシールドエネルギーが6割5分ほど消えるだけで済んだのだが、毎回毎回そんな幸運に頼り切るわけにも行かない。
『発射5秒前!』
4、深く息を吸い。
3、2、ゆっくりと吐き。
1、少し残して止めて。
0……引き金を、引く。
ーーーーー
実験の全行程を終え、灰影を降りて伸びをしながらエレベーターで地上に戻り、IS開発部門第2班…つまり、ISの装備…特に火器や盾、その他戦闘に用いるものの研究・開発を行う班、その長の部屋である班長室に向かう。
ノック、名前を言って入室許可を求める。いつものことだが、立場上やらないわけには行かない儀式のようなものか。
「失礼します」
許可を得たので、中に入る。
「試射お疲れ様。バイト代はいつもの口座に振り込んどくから。はい、これ明細ね」
テストシューターとしての単発バイトの給与明細を班長から受け取る。一、十、百、千、万…これ以上は秘密。
「酷い目に遭った…特装砲の8番弾薬はお蔵入りにしたほうが良くないです?班長」
明細に書かれた金額に頬が緩むのは抑えきれないし、私生活ではお互い肩肘張るわけがない関係なのだが、それでも今ここでの立場は上司と部下…厳密に言うと班が違うのだがそこはともかく…言葉遣いだけでも体裁は整えなくてはね。
「そうね…流石にあのじゃじゃ馬は…でもあの威力は捨てがたいし…」
「じゃじゃ馬どころじゃ無かったですよねアレ。3号試作銃と組み合わせた3-8のとき、機関部からバックファイア噴いてたんですが。破損は無かったのでもう構造的限界では?そもそもガス漏れしたらせっかくのAS薬も意味ないのでは?」
「うーん、でも…」
まだも愚図る誰2班班長。頭掻きむしるのは別に良いですけど2週間風呂入ってないその髪触ったら手が脂でベトベトになりますよー?
「…一人のドライバーとしては、試験ナンバー2-6辺りが丁度良いと考えます」
「うーん…とりあえず参考にする………巧〜〜」
うわっと、今日はもう仕事終わりのつもりらしい。
「ちょっとちょっと、まだ終わってない仕事とかあるんじゃないの?
抱きついてきた班長…じゃなくて母さんを抱き止め、頭を撫でる。こうすると落ち着くらしい。うわっ、髪の毛ベトベトだ。
あ、こちら大森重工IS開発部門第2班班長こと、俺の母さんです。ちなみに父さんはフレームや推進システムその他機体そのものに関わる分野での開発・研究をする3班の班員と部門全体の副チーフを兼任してたりする。
それはそうと、抱きつくのも頭撫でてもらうのも俺じゃなく父さんにやってもらえ!と思ったのも2度や3度ではないのだが、母さん曰く別腹なんだとか。なんじゃそりゃ?
「大丈夫、上司だっていっつもいっつも休め休め煩いからちょっとくらい目を瞑ってくれるよ」
うん、杞憂だったわ。そう言えばむしろ普段から休めって言われてる側だったわこの2、3班全員。俺とは大違いだ。
まあ、このワーカホリック狂人集団の話は置いておいて夕食だ夕食。
「それより母さん、今日は夕食何が良い?」
「10秒チャ…」
「駄目です。今日はちゃんと文化的で健康的な、きちんとした食事を取ってもらいます」
ーーーーー
「社員食堂、意外と使う人もいるんだね」
「そりゃまあ、PMC向けの装備開発班とか自衛隊向けの装備開発班とか、IS研究開発部門でも第6以降の連中は世間一般で言う『常識』のある奴らだからな」
俺は今社員食堂に来ていて、軽食と称してハンバーガーをパクついている。同じテーブルには両親がいて、なにやら楽しそうにこちらを見ている。そんなに見てもハンバーガーはあげないぞ。二人は10秒メシを食べ終わってしまったが、一応は数週間ぶりの家族揃っての食事だった。
「というわけで、今晩の夕食は出前のお寿司です」
スマホを取り出し、予め注文しておいたデリバリー専門の寿司屋のHPを見せる。
「お寿司かぁ……」
「高かったでしょ?もうちょっと手軽につまめるもので良かったのに」
親二人がブー垂れるが知らん。このくらいはさせてもらう。
それにしてももっと手軽につまめるものって……お寿司は充分につまみやすい食べ物だと思うけど?二人とも乾燥ブロック食品(例:某カロリーの友)や10秒メシで感覚壊れてません?
……なんてのは軽くブーメランな気がしないでもないのでおいておく。
「別にそれほど高くもないよ。松竹梅の竹だし、寮にクーポン届いてたし、なにより大卒新社会人の平均を上回る基本給とかもらっても寮生活してる高校生だからほとんど貯金するしか無いし」
「いやいや、あれは適正な金額だよ。……基本給はね」
「常にテストパイロット手当が支給されてるだけで、基本給は適正金額だよ。……食費とか光熱費とかが経費で落ちたりしてるけどね」
……まあ良いか。どうせ他勢力に脱走しないように繋ぎ止めるための好待遇だ。せっかくだし存分に甘い汁吸わせてもらいますか。
「だいたい『初任給で両親にプレゼント』ってのは夢だったのに二人とも受け取ってくれなかったし、このくらいはさせてよ」
「それなら前にも言っただろう?別にこっちが生活苦なわけでもないんだ、高校1年生はまだ自分のためにお金使いなさい。使わないなら貯めなさいって」
「まったく…お父さんったら相変わらずね。巧は…まあ絶対評価で言えばアホだけど、少なくとも働き始めた頃のあなたよりはアホじゃないわ。っていうか強制されたわけでもないのに初任給全部を親孝行に使ったせいでその後1ヶ月ジリ貧生活になるなんて、日本広しと言ってもあなた位なものじゃない?」
マジか、父さんそんなことやってたのか…ってかアホって言うな!……まあアホなのは事実なんだよな…じゃなきゃIS学園にも来る必要はなかったし……
「いや、これで良いのか」
「ん?どうした巧、自分のアホを肯定すると治らなくなるぞ」
「なんでもないよ、ただちょっと、あの時ISコアに触って良かったなって思っただけ」
それを聞いて目を丸くする二人。なんだよ、これでも自在に空を飛べて嬉しいんですよ?
あとまぁ、メカニック志望のコースも2年以降はあるらしいし、そっちのコースに行ければ万々歳…ってところか
「…そう言えば」
「どうしたの?」
母さんがふと、不思議そうな顔で首を傾げる。
「最近第3班が妙に忙しいけど、何やってるの?」
ああ、母さんは"アレ"について、まだ知らなかったのか。
「ちょっと、第3班ならではの装備開発を…ね」
「なになに、脚部ブースターパックか何かでも作ってるの?」
「ブースターパック…まぁ、ブースターパックとしても使えないわけではないけど…」
「それが本質ってわけじゃない。な、巧」
仕事中ならともかく、家族の会話で出た話題だ、すぐにバラすのは面白くない。
…っと、そろそろ帰らないと
「さて、そろそろ行こうか。アレの話なら帰ってからでも出来るからさ。それよりも、寿司が届く前に家に着きたいし、ある程度飲み物も買っていこう」
帰ろう、我が家に。寿司を食べるために。
ーーーーー
なーんてことがあったのが一昨日の事、今日は月曜日、時刻は午前5時。正直めっちゃ眠い。
目が覚めて最初に考えたことは、『寮に戻らず実家から登校するべきだった…』だ。
いや、寝苦しかったとか悪夢を見たとかゴーレム軍団に睡眠妨害されたとかそういうわけではない。問題は、今俺の隣にいる人物だ。
「昨晩は…お楽しみでしたね♪」
「何故ここにいる」
ベッドの上から蹴り落とそうとしたが、当たる前に飛び降りて回避される。
寝ぼけ眼だったからいまいち確信が持てていなかったが、この動き、この声、間違いない。
「俺に何か用ですか。納得のいく理由が無ければ先生に突き出しますよ、更識生徒会長」
幸い、と言っていいのかわからんが今回は寝間着姿でご登場の更式楯無さん、どうやって入りやがった。
「あらあら、そんなに邪険にしなくても。取って食べたりしないわよ?」
「邪険にされたくなければ、制服姿…とまでは指定しませんがTPOに合った格好で、不法侵入せずに会って下さい」
とりあえず、不法侵入への抗議として投げるため、先程から待機状態の灰影を操作して格納領域内のスタングレネードのピンと安全レバーを外そうとしている。…のだが、これがなかなか難しい。終わるまで会話で時間稼ぎだ。
「で、何しに来たんですか?」
「もう、快復祝いに決まってるでしょ?」
そう言いつつ広げた扇子は、何故かすごい達筆で『祝福の時来たれり』と書かれていた。俺は最高最善最大最強の魔王じゃないぞ。
「そうですか。ならまともな格好で和菓子でも持ってきて下さいよ会長。連絡してくれれば急須でお茶でも淹れておきますから」
接待用の
「あらあら、お茶会のお誘い?そうねぇ、羊羹ならすぐに作れるかしら」
お茶に合う和菓子を用意するという段で自作という、発想が出てくる辺り、流石は女子校の生徒会長……なのか?よくわからん。ともかく、会長は斜め上に顔を向けつつ目を瞑っている。
よし、視線が外れた。スタングレネード投擲!
「タイミング良し、発想も悪くない。でも後ろ手で
刹那、虚空から現れた水球にグレネードが飲み込まれる。
やられた。『
「失点その2。一ノ太刀が駄目ならニノ太刀、三ノ太刀と続けなさい。でなきゃこうなるわ」
瞬き1つ分の間があったかどうか。気づけば首元にIS用のランス…確か蒼流旋だとかいうやつだ…を突きつけられていた。
などと考えていると、ここまでずっと柔らかな笑みを崩さなかった会長が、その笑みを深くしつつ槍を格納する。
「まぁ精進しなさい。貴方も一応は『こっち側』に足を踏み入れたワケだし、鍛えてあげるから不意打ちくらいは出来るようになっときなさいな」
ほんと、敵う日が来るのかすら怪しいや。かと言って、諦めることも出来ないけどさ。
「じゃ、また…ね?」
にっこりと笑って俺の部屋から出ていくのを見送り、1秒、2秒、3秒……そっと息を吐く。
「……二度と来るな。緊張させやがって」
心臓がbpm95の高レートで拍動し、背中を流れる冷や汗が体感38.0℃の体温を冷やす。そのくせ肝臓の辺りはまるで血が止まったかのように冷たく、率直に言って吐き気を催す。
なんだよそれ。追い出すつもりで投げたのに、何故か稽古をつけてもらう展開になるって。訳がわからん。
「緊張のしすぎで吐くって、ありえるんだな」
いや、今回は吐いてないけど。
ーーーーー
side:会長
「じゃ、また…ね?」
にっこり笑って彼の部屋から出て、そのまま生徒会長としての笑顔を貼り付けたまま私室に戻る。
「やっぱり、怪しいわね」
出自と生徒会長権限で確保した一人部屋なのをいいことに、生徒会長としての笑顔を寝間着ごと脱ぎ捨て、独り言を呟きながら思考をまとめる。
「あの機体が無人機だと知っても驚かなかった、とか。もうそう言う段階じゃないのよね…」
あのあと回収した無人機に使われていたハードポイントの規格、強度を追求した肘・肩関節や上腕フレームの構造、そのどれもがこれまでのISには使われていなかった……坂上巧の灰影を除いては。
「大体からして、コアが怪しいのよねぇ」
米国の軍需企業(かつては軍用航空機をメインに作っていた)が試作機開発に使っていたコアを裏ルートで購入、半年程前にそれが国際IS委員会にバレたけど『第二の男性IS搭乗者』騒ぎを利用して日本政府が有耶無耶にした。
割と後ろ暗い経緯だけれども、今どき意外とそういったルートで本来の持ち主の手元を離れたコアは少なくない。というか曲がりなりにも身元のしっかりした企業同士でのやり取りな分まだマシだ。少なくとも、『
欧州の書類上のコア配備数と実際の所有数がどのくらい離れているか。一件がバレたら管理能力ナシとして残りを全部他所に山分けされるから、盗まれても公表出来ない、しない。最悪なことに、コアのステルス機能のせいでどのコアがどこにあるのか、完全には把握できないのも問題だ。立ち入り調査をしようにも、国ぐるみで、しかも脛に同じ傷を持つもの同士が協力して隠蔽するから、所詮は国連の下部組織でしかないIS委員会には何もできない。
……というのが、表向きの筋書き。だけど多分、本当は違う。
坂上巧のIS適性が発覚したのは、織斑一夏の後、ということになっている。けれどそれでは、本物には劣るとしても国家代表候補生やそれと同格の企業所属パイロットに迫る…少なくとも、一般的な同年代男子を上回るあの反応は身につかない。
「状況証拠からみても、物的証拠からみても、彼らがあのゴーレムの製造元…おそらくは篠ノ之束から製造を委託されて、その報酬にコアをレンドリースされている……だけど」
断定するには足りない。直接ないし間接的なやり取りを示す証拠。これが無い以上、問い詰めたところではぐらかされるのが関の山。
「…まぁ、まずはあの警戒を解かないとね」
正直、初対面であそこまで警戒されたのは痛かった…
「さて、この件だけに関わっていられないのも、辛いところよね…」
今日やって来る二人の転入生。一人はドイツの軍人。眼に後天的強化措置を施されたとはいえ、ハイパーセンサーがあればその差は縮まる。パワードスーツであるISの特性上、多少の身体能力差はあまり意味をなさない。つまり、一兵士としてはともかくISのパイロットとしては、そう特別なわけでもない。
問題はもう一人の方。デュノア社の専属パイロット、シャルル・デュノア。まだその名前も存在も業界の一部にしか知られていないけれど、その存在自体が特級の爆弾。なにせ、『
1巻編(というか1巻と2巻の間編)、これにて終了です。
…なのですが、このあとしばらく更新停止します。11、12話があまりに難産過ぎて、2019/11/16現在まだ2巻分を書き始められていません。
2巻分が完結し次第、投稿を再開します。