ISの巧〜貧弱航空オタ奮闘記〜   作:ゆすくうけに@Aki

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本日の更新は3話分あります。これは3話中3話目で、本編の話、つまりいわゆる第2話です。
本日の更新は、
・人物設定(通し番号1)
・IS機体解説(通し番号2)
(ここに本編第1話が入る。通し番号3)
・第2話(通し番号4)
の3本です。ご注意ください。
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2019/11/09 一部表現が誤解しやすいとのことで修整


第2話「で、決闘?」

side巧

「ふわ〜あぁ、ねむ……」

 坂上巧(さかがみたくみ)、IS学園へ帰還せり。帰還?いや出陣か?まあいいや。

 時刻は現在08:10、場所は屋上ヘリポート。

 朝のホームルームは08:30から、屋上ヘリポートからの道のりおよそ800m。

……はい。競歩しましょうね坂上君。

 

ーーーーー

「脚が疲れた……」

「おはよ。遅かったな巧」

「ついさっきIS学園についた。廊下は走っちゃだめなので競歩してた。辛い。眠い。おやすみ…」

「寝るな!そろそろ朝のホームルームだぞ!千冬姉に怒られるぞ!」

「それは嫌だ。おはようございますだな一夏」

 一瞬で目が覚めた。昨日の電話帳事件で一夏を叱ったあの恐ろしさは、早くも俺の体に刻まれたようだ。

 

「昨日どうしたんだ?放課後さっさと居なくなるし、寮には戻ってこないしさ」

「あー、専用機の受領に演習場行って、それからずっと乗ってた。一睡もしてない」

「…朝メシは?」

「機内…ああ、オスプレイで食べた。カップ焼きそば」

「そうか…眠そうだな、大丈夫か?」

「大丈夫、というか話しかけ続けてくれ。眠気が紛れる」

 話し続けないとマジで眠りそうだ。やばい。

 

…ふと気づくと、周りが何やら騒がしい。

 

「せ、専用機!?1年の、しかもこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで…」

「ああ〜。いいなあ……私も専用機欲しいなぁ」

 あー、専用機。確かにそう()()()するよな。違うんだなこれが。支援は十割大森(O)グローバル(G)ホールディングス(H)関連からですよ。それにこいつは本来存在しない、世界で468機目のISだ。政府の支援で貰えるような綺麗な機体じゃない。むしろちょっと後ろ暗い経緯のある機体なんだが…と、そんなことを言うわけにもいかず、曖昧に微笑むだけにしておく。面倒ごとはまだ早い。

 

ーーーーー

「やばい。全然わからねえ」

 机に突っ伏してつぶやくお隣さんの一夏君。今は3時間目が終わった休み時間だ。しかし前々から思ってたんだが、心拍数やら呼吸量やら脳内エンドルフィンやら弄るIS絶対やばいだろ。ブラジャーみたいなものってそれどんなブラジャーだよおかしいだろ。まあ、灰影の場合はIS機体研究部門が俺の機体の設定全部弄り直してたし多分大丈夫‥かな?研究部門は少しマッドだしちょっと不安だ。

 

「あ、そうだこれ返しとく。昨日忘れてっただろ?」

 唐突にそう言って一夏が取り出したのは、例の必読参考書、通称『電話帳』だ。昨日の一夏の発言で通称が確定した。それはともかく…

 

「別にいいのに。再発行まだなんだろ?俺は大丈夫だからさ」

「大丈夫って、この厚さだぞ?お前も予習とかに使うんじゃ…」

「まさか。この程度の量だ、大体暗記した。基礎理論が分かればすんなり入る。後はIS固有の単語だけだが、こっちは興味あったしなんとかなった」

「…すげえ」

「体育はボロボロだけどな。シャトルラン52回って多分このクラス俺だけだぞ?」

「52…?まあいいや、お前ISに詳しいだろ?俺に教えてくれな…」

 

バンッ!!!

 

 うわっびっくりした。誰かと思えば篠ノ之箒さんか。一夏君お知り合いで?

 

「悪いな、坂上。こいつとは私が教える約束になっている」

「…え?あ、ちょ箒!?」

 約束があるなら俺に聞かないと思うが…まあいいか。あー、そのまま連れてかれてやんの。

 

 ぶっちゃけ俺も実技はまっっっったくわからん。なので山田先生に教わろうと思ってたんでな、一夏に教える時間は捻出出来そうに無かった。礼を言おう篠ノ之箒さん。

 織斑先生に教わる?馬鹿言うな、あの人は近接特化だ。俺とは戦術思想の段階で分野が違う。いやまあ確かにあの人は世界トップレベルの実力者なんだけど、射撃戦の専門じゃない。ちなみに山田先生はその専門だ。

 

「ねえねえ、坂上君さあ!」

「はいはーい!質問しつもーん!」

「今日のお昼ヒマ?放課後ヒマ?夜ヒマ?」

 と、一夏が教室から連れ出された瞬間周りで様子見していた女子が一気に群がる。あっちでは整理券配布してる。有料で。良いけど後で利益半分請求してやろう。

 

「出身どこ?」

「誕生日いつ?」

「血液型は?」

「趣味は?」

「出身中学どこ?」

「カラオケ十八番は何?」

「なんで専用機もらえたの?」

「漫画とか読んでる?」

「好きなテレビ番組は?」

「はい一旦ストップ!みんな一緒に言うな!俺が聞き取れない」

 なんだこいつら。俺の知る女子とは明らかに違う。女子ってもっとこう、静かな存在なのでは?いやまあ周囲の女子がたまたまそういうタイプだっただけなのかもだが…

 

「ええと、今日からしばらくはISの練習と勉強するのでヒマは無い。生まれたのは北海道だけど住民票登録は東京。誕生日は秘密だ。お前らなんか変なもの送りつける気だろ。血液型も秘密、知りたきゃ会社にアポ取ってくれ。趣味?航空機関連なら何でも。あとはせいぜい特撮かな?出身中学は秘密だ、そういう約束なの!カラオケ十八番…そもそもカラオケ行かねえ!専用機…まあ企業所属だしな。漫画はあれだ、風都探偵第6巻絶賛発売中、よろしく!好きなテレビ番組はピタゴラスイッチと仮面ライダー!…ふう、質問はこれで合ってる?あとそこで整理券売ってる君、良いけど俺にも分け前よこせ。俺で儲けるのにこっちに一銭も入らないのはなんか癪だ」

 

パンッ!パンッ!

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 おお怖い。というかもうそんな時間か。気づけば一夏も箒さんも戻ってきていた。

 後で聞いた話だが、俺と一夏が話しているときに来なかったのは、箒さんが視線で牽制していたからなんだとか。強いな剣道日本一。

 

「ところで織斑、お前のISだが準備までしばらくかかる」

「へ?」

 しかしまあ、そんなことを考えている場合ではないようで…

 

 

「政府に予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意する」

 

 

 はえー、専用機。まあ2/72億の男性ドライバーだ、そういうこともあるだろう…と思ったのが俺だけかはともかく、少なくとも多くのクラスメイトは違ったらしい。

「せ、専用機!?坂上君だけじゃなくて織斑君も!?」

「え、じゃあ織斑君も企業勢…?」

「いやいや、多分織斑君は政府の支援でしょ」

「いいなあ、なんで男子ばっかり……」

 

「まだわかってないようだな。教科書6ページ、音読しろ」

 えーと、教科書6ページね。

「お前じゃない坂上。織斑、お前だ」

「え、えーと…『現在、幅広く……(以下略)』」

 俺じゃないのか。まあいいや。要約すると、

 

1:ISは世界に467機しか存在しない

2:ISコアは篠ノ之束博士しか作れない

3:ただし本人はこれ以上作る気はない

4:一夏は国家所属でも企業所属でもない。しかしデータ採取のため例外的に専用機を与えられる

 

以上となる。ところで篠ノ之って苗字…いやまあ偶然かもしれんが…まあいいや

 

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

 真正のアホだこの女子生徒。どっちに転んでも火種じゃん。

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 真正のアホ2号発見。この人教師というか教育機関の人間としてどうなの?

 

 その後はまあ、ご想像通り。IS学園の女子はミーハーなのかね?箒さんにワラワラと群がってやれ篠ノ之博士は天才だったかだの箒さんも天才なのかだの聞いて、箒さんがキレて、織斑先生が強制終了からの授業開始。

 女子校って、男子が行くべき場所じゃねえな。まあ男子校に女子が来ても大変だろうけど。

 

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 さて、昼休みだ。またセシリアが一夏に絡んでたが、なんかもう眠気と疲れと空腹で助けに入る気が起きなかった。すまん一夏。

 一夏の空気の読めなさと人類14億人抹殺事件(一夏が人類が今60億人超だと言いやがった)まで聞こえたあたりで、俺は自分が教室の外に出ていた事に気づいた。まあいいか。

…というわけで、俺はこのあと教室で起こった事件を知らない。知ってる人がいたら教えてくれ、牛乳かオレンジジュースの200mlパック1つならおごるぞ?

 

 さて、飯にするか…!

 

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 さっさと味噌汁とライス大、沢庵、肉入り野菜炒めを掻き込んだ俺は職員室へ向かった。

 

「失礼しまーす、山田先生いますか?」

 俺が問うてすぐに、はーいとなにやら可愛らしい声が聞こえてきた。遠くの島の机なのかな?

 

 あ、入っていいですよ?、と山田先生の声。高校の職員室って基本出入り自由なんです?

 

「ごめんなさい、さっきまで昼食食べてたから机片付いてないんだけど…」

 あー、しまった。何も今来なくてもよかったじゃないか。何なら放課後すぐにでも…とはいえ、来てしまったものは仕方ない。

 

「先生、ISの実技の指導、していただけませんか?」

「え?あー、えっと…実技演習なら今月の中旬から始まりますけ…あ!セシリアさんたちとの模擬戦はその前ですね。なるほど…放課後1時間だけで良ければ今日からでも出来ますが…その、私でいいんですか?」

「いいも何も私には山田先生以外の選択肢は無いも同然なのですが…いい、とはどういうことですか?」

 実際、同級生はほとんどが俺に毛が生えた程度の実力だろうし上級生は知り合い0人、担任・副担任の先生二人なら射撃機で国家代表になった山田先生の方が一番だろう。

 

「ええと、坂上君は大森重工の所属ですよね?大森製装備のテストシューターは倉持技研のISドライバーがしていたので、その方に教えてもらったほうが良いと思うのですが…?」

 流石元日本代表、よくご存知で。にしても倉持かぁ……セシリアに教えてもらう方が難易度低い気がしますよ正直、とは言えない。淑女協定で2社の抗争は水面下に留めているのだ…今のところ。

 

「あー、その方ちょっと体調不良らしく…」

 言った瞬間気がついた。バカ、何言ってんだ俺。相手は日本の元国家代表、日本のISドライバー全員に顔が利く。見舞いの連絡をするとか言い出しかねない。

 

「そうですか…心配ですね…そういうことならわかりました。今日から6日間、よろしくお願いしますね?」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 よし、とりあえずこれで少しはマシになるかな。

 

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side山田先生

 なんというか、周りに興味の無い爬虫類みたいな子かな、と思っていましたが、そうでもない…のかな?でも坂上君が頼めばクラスメイトや上級生のみんなは喜んで協力してくれるはず、なのに私に直接頼みに来たってことは…まだここに馴染めてないのかな…そうですよね、女子校にたった二人の男子、しかもお互いほとんど初対面。不安になりますよね…

 そんな状況で頼りにされたんだもの、しっかりしなきゃ!

……あれ、何か忘れているような?

 

 あ、寮の部屋割言ってない!

 

ガラッ!

「さ、坂上君!寮の部屋なんだけど…」

「へ?あー、寮…でもここって二人部屋が基本…あれ、そういえば一夏はどうしてるんです?」

「あ、えっとその…一夏君は篠ノ之箒さんと相部屋になりました…あ、も、もちろん暫定的処置ですよ!?」

「あはは、そりゃそうですよね」

「では、これが部屋の鍵です。織斑君には篠ノ之さんから伝えてもらえるようにしておきますから、すぐ来ると思いますよ」

 

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side坂上巧

 そんなわけで山田先生による1時間集中特訓と、後は整備室で灰影の調整をして寮の自室に戻って勉強する日々が始まった。

 放課後の演習の後でこの部屋に案内されたのだが、一人部屋というのは存外味気ないものである。

「まあ、流石に毎日オスプレイ通学は出来ないし、一夏もすぐこっちの部屋に来るだろうし。別にいいか。荷物は何故か昼には届いてたし。あれか、親には昨日の時点で伝わってたとかいうパターンか」

 

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 なーんて思ってたのも最初の3日ほどのこと。

 

「一夏は来ねえし、女子は続々来やがるし……」

 言いながら、今日の演習の際に採取した同時刻同じアリーナを使っていた全ISのモーションデータをグループ毎に分断、3Dソフトで俯瞰してIS戦術や機動の教科書と照らし合わせて感覚を擦り合わせていく。

 

 それを他者の入室を許可する20:00(個人的に設定した時間だ。ぼっちになるのは嫌だしな)まで続け、部屋に来た女子に紅茶を淹れて洋菓子を振る舞う。その時の他愛ない話にも部活、国を基盤とした派閥やIS装備の趣味嗜好、学年毎の流行りの技術戦術などなど興味深い情報が表れたりするから面白い。

 ちなみにここで得た情報はちょっとした小遣いと上質な茶葉や洋菓子( 実弾 )に化ける。うむ、気分は敏腕外交官だ。なんか楽しいぞこれ。

 彼女たちに合わせてカスタマイズされた、重工に限らない大森系列グループ企業の全力のパンフレットが届くのも時間の問題だろう。

 

 その後は勉強再開だ。とはいえ、消灯時間を1週間も振り切り続けるのはあまり良くない。なのでとりあえずセシリア達との決闘まではちゃんと24:00から06:00の睡眠時間を確保する。

 何はともあれ、初めてのISでの模擬戦だ。灰影で戦えるってだけで楽しいんだ。後はせいぜい得るもの得て宣伝でもしますかね。

 

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side一夏

 さて、今日はセシリアとの決闘の日だ。決闘が決まった日から今日まで、箒と互角以上に戦えるまでに鍛えてくれた箒には感謝の念しかない。

 

「なぁ、箒」

「なんだ?一夏」

 緊急措置ということで箒と同居生活を送ることになったわけだが、6年前に束さん関連で篠ノ之家が散り散りになったとき以来会えていなかったという断絶は、すっかり修復できたように感じる。

 それこそ昔のように、お互い名前で呼び合う仲に戻れたのだ。実に喜ばしい事だ。

 

「気のせいかもしれないんだが、」

「そうか。なら気のせいだろう」

 

 

……本当に喜ばしい事だ。それは間違いない。だが、1つだけ、解決していない問題がある。

 

 

「なあ箒、I()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「………」

「目 を そ  ら す な」

 

 確かに、箒はあれから1週間、俺にそれはもうみっちりと、稽古をつけてくれた。

 

 そう、『剣道の』稽古をつけてくれたのである。

 

「だ、だって仕方ないだろう!お前があの日、私にあそこまで無様な負け方をするから!」

 

 あの日、つまり俺に専用機が用意されると伝えられた日の放課後、まず剣道の腕が鈍っていないか確かめる、との理由で剣道場で手合わせをした。十分後、俺は箒に一本負けした。

 

『鍛え直す!IS以前の問題だ!これから毎日、放課後3…いや4時間、私が稽古をつけてやる!』

 

 そりゃまあ、中学3年間帰宅部皆勤賞だった俺の剣の腕が鈍るのは当たり前だ。けどそれだって家計の足しにしようとバイトしたり、公私ともに厳しいように見えて実は家ではズボラな千冬姉や俺たちを捨てて出ていった(のだと思う。少なくともろくな面識は無い)両親の代わりに家事をしてたってのが大きな理由だし、千冬姉だってIS学園に入学決定する前は俺がISについての知識を仕入れるのすら嫌がってたし。

 

「だ、大体お前の専用機はまだ届いていないではないか!現物がないのに教えることはいくら私でも出来んぞ!」

「だとしても、学園の練習機使えば良いだろ!その為の練習機だし、そもそも専用機ないのはお前もだろ!」

 ああ、その通り。俺専用のISとやらは、何やらごたついているらしく、まだ届いていない。そう、今、()()()()()()()()になっても、だ。

 

 と、そんな風に俺と箒が沈黙していると、俺たちがいる第3アリーナのAピットの外側の入口が開く音がした。

 

「そもそもなんで二人とも来たのさ。授業参観はまだ先だよ?…いやここに授業参観があるかとか知らないけど」

「そりゃあもちろん、自慢の息子の晴れ舞台だ、是非とも目と磁気テープとBlu-rayディスクに焼き付けなきゃ」

「それに、立場的にも機体開発の責任者だし私達。ここに居てもまっっったく問題無いから」

 バズーカみたいなカメラ2つを担ぎ、ヨレヨレの白衣でボロボロの私服と履き潰したサンダルを隠そうとして隠し切れてない髪ボサボサの男性と、ノートパソコンが入っているであろうショルダーバッグをたすきがけし、この距離で機械油のキツい臭いが漂う白衣を前で留めて左右で違う安物の靴を履いたすっぴんで目の下の隈の濃い女性、そして彼らと親しげに話す巧が入ってきた。

 

「親バカなんだから…お?一夏に箒?なんでここに?」

「なんでって、セシリアとの決闘だぞ?」

 そう答えると数秒ほど怪訝な顔をした後今度は得心したような顔をして巧はこう言った。

「あー、さては織斑先生伝えて無かったな?対戦カードは俺とセシリア、お前とセシリア、お前と俺の順番だ」

「え?なんで俺とお前が決闘するんだ?」

 『セシリアと決闘する』という方向で頭が固まっていた俺の疑問に答えたのは箒。

「そもそもこの模擬戦はクラス代表を決めるものだ。候補者3人ならそれぞれで一戦ずつして決めるのが道理ではないか」

「あ、そっか」

 そうか。そもそもの発端が俺とセシリア、巧とセシリアの決闘とはいえ、一応これはクラス代表決定戦。さっきの対戦カードだと仮にセシリアが2連勝でもしない限り俺と巧の決戦が必要になるのか。

 

「っと、父さん母さん、そろそろ時間だ」

「おっと、もうそんな時間か。いいか、勝ち負けはどうでもいい。後でレポートを提出してくれ」

「全くお父さんったら…お父さんはね、『負けても気に病むな、この一戦で何かを掴めればそれだけで儲けもの』っていってるの。わかる?」

「わかるよ。お父さんが分かり辛いのはいつものことだし。じゃ、行ってくる」

 一家団欒そのものの空気に言い知れない感覚を覚えたのも一瞬、直ぐに血の気が引いた。

 

「なっ!?!?」

 なんと巧が出撃ゲートから飛び降りた。……()()()

 

 IS用の出撃ゲートは飛行できるISが利用することが前提だから、大体地面まで50mくらいの高さがある。もちろんそんな高さから落ちればひとたまりもない。

 思わず出撃ゲートから下を覗きこむために駆け寄ろうとして……

 「ん?どうした一夏」

 

 出撃ゲートのすぐ外に、灰色の塊が浮き上がってきた。

 

「な、お、おま、お、お…脅かすな!!」

 灰色の塊は巧のISだったらしい。それにしてもどうやって装着したのか。あらかじめ下で待機させてあったのだろうか?

 

「はぁ…何を驚いている、織斑。必読参考書にも書いてあっただろう?ISには待機形態というものがある。大方待機させていたISを落下中に展開しただけだ」

 いつの間に入ってきたのか、後ろで腕を組んでいる千冬姉が説明してくれた。

 

「正解です、織斑先生」

「やかましい。危険で趣味も悪いのは確かだ。少し誤っていれば死んでいたのだぞ?二度とやるな」

「…わかりましたよ。じゃ、審判お願いします」

 言うなりアリーナ中心に向かって飛んでいく。どうやらセシリアの機体も既に準備を終えて、アリーナに出たようだ。

 

どたどたどたっ!

「お、織斑君っ!」

 転びそうな足音とともにこのピットAに入ってきたのは山田先生。なにか御用で?

 

「山田先生、落ち着いて下さい。はい深呼吸。吸って〜」

「すぅ〜」

「はい吐いて〜」

「はぁ〜」

「落ち着きました?」

「は、はい…」

 なんだか可愛らしかったのでついついからかいたくなったけど、なんとなく千冬姉の視線が気になってやめた。

 

 うわー、目上の人間には敬意を払えってめっちゃ顔に書いてある。美人の割に彼氏がいないのはきっとこの怖い部分を隠そうともしない性格のせいなんじゃないだろうか。

 

 なになに?『馬鹿な弟にかける手間暇が無くなれば、見合いでも結婚でもすぐに出来るさ』…はい、そうですか。千冬姉の読心術すごいね。目線と表情とあとオーラ的な雰囲気で自分の意思を伝えるその表現力も。

 

「あ、と、それでですね!来ました!織斑君の専用IS!」

……え?

 

「丁度良い、まずはそれに乗って試合を観戦しろ」

……はい?

 

「この1週間私が鍛え上げたんだ。無様に負けることは許さんぞ」

……まじで?っていうか俺の試合はまだなんですケド…

 

…ごごんっ、と鈍い音がして、ピット搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの耐爆扉が重い駆動音を響かせながらゆっくり開いたその向こう側に、『それ』は居た。

 

『白』。第一印象は、あらゆる意味でそれだけだった。

 

 白。真っ白。飾り気のない、無を体現した色。1mm四方の穢れもない純白の機体が、そこに居た。

 

「これが……!」

「はい、織斑君の専用IS『白式(びゃくしき)』です!」

 真っ白のそれ。無機質なそれは、なのに何故か、俺を待っている様な気がする。

 

「身体を動かせ、すぐに装着しろ。幸い時間は多少ある。フォーマットとフィッティングはオルコットと坂上の試合中に済ませろ。やりながらでいい、ハイパーセンサーで2人の試合を見て、IS戦闘がどういうものなのか、理解しろ。わかったな」

 急かされて、俺は純白のISに触る。

 触れた瞬間、装着の仕方が分かった。いや、頭に流れ込んできた、と言うのが正しいか。

 ハイパーセンサーとはなにか。シールドバリアとはなにか。PICとはなにか。量子格納・展開とはなにか。……ISとはなにか。

 

 とはいえ、残念ながら全部は受け止めきれ無かった。だからこそ勉強が必要なのだと、授業を受けて『思い出す』作業が必要なのだと、なんとなく分かった。

 もっとも、とりあえず動かす程度には問題無い。それほどまでに自然に、融け合う様に、俺の為だけにあつらえたように、生まれたときからあったように、白式と、『繋がる』。

 

 ハイパーセンサーの視界の素晴らしさは表現が難しい。全天周囲が一気に矛盾なく見渡せる、なんて教科書の1文を引用しても伝わらない。それでもあえて無理矢理表現するなら、生まれつき目が見えなかった人間が手術で視界を得るような、しかもその手術で得た視界を無理なく脳が受け止めるようなものだ。

 

 自然で邪魔にならないように、けれども決して見落とさないような位置と大きさに表示されるデータも、まるで普段から見ているかのように理解出来る。

 

「ハイパーセンサーは問題なく機能しているようだな。一夏、気分は悪くないか?」

 いつもと変わらない調子…のようでいて、ちょっと聞き逃しそうな千冬姉の声の震えもよくわかる。まあ、俺のこと名前で呼んでたし、生身でもわかるか。

 

「はえー、これが織斑一夏の専用機。あー、こりゃ初心者には荷が重いぞ?」

「スラスター配置や装甲の分割位置、機体姿勢、バランスから見て、高速格闘機ね、しかも軽装甲タイプの。確かに玄人向けの機体だわ」

 あとそこのお二人、不安になること言わないでもらえます?

 

 そうこうしてる内に巧とセシリアの試合が始まった。……のだが。

 

「えーっと千冬姉、あれはルール的にアリなの?」

「……一応ナシでは無いが…あまり褒められたものでは無いな」

 俺が千冬姉と呼んだことにも気づかないほど困惑する千冬姉。

「「いっけー巧!」」

 運動会に来た親状態の坂上家両親。

「男児でありながら、このような戦いをするとは…羞恥心が無いのか!?」

 苦虫を噛み潰したような顔の箒。

 

 試合開始30分後、第3アリーナAピットには、なんとも言えない空気が漂っていた。

 

ーーーーー

side巧(試合開始前)

 アリーナ内部には既にセシリア・オルコットの機体、『ブルー・ティアーズ』が浮遊し、俺と灰影を待ち構えていた。

「ラファール・リヴァイヴの改造機、それも醜い灰色。織斑一夏よりは多少知性があるように見られましたが、所詮は男性ですのね」

 ははは、面と向かった瞬間にひでえこと言いやがる。

 

「男馬鹿にするのは別にいいが、1つ訂正してもらおうか」

「あら、なんですの?」

「俺の乗機は『灰影』だ。断じてラファールの改造機じゃねぇ、覚えておけ。あとついでに言えば、灰影に『()()()()』は褒め言葉だな」

「……やはり男性というのは往々にしてズボラかつ過敏、どうでもいい所に拘る癖に大切な所で大雑把なのですね。そのISがラファールであろうがなかろうがわたくしとブルーティアーズの前ではどちらでも同じ事でしょうし、醜さを誇るというのは理解し難い感覚ですわ」

「処置なし。貴族の審美眼なら分かると思ったが、期待外れか。ま、美術品じゃないし軍人に分かればそれで良い」

 どうやら本格的にわからない、というか理解を放棄した顔をしている。わからんか……醜い、ではなく見にくい…つまり視認性が低い機体なら目視戦闘がやりにくいだろう、というシャレ混じりの反論だったわけだが…まあ良い。

 

 というか別にどうでもいいのだが、瞬き以外でアリーナで目を瞑るその胆力は見習いたいものだ…いや、そこまで行ったら慢心になりそうだ。その自信は何処から?青い機体だし熱に浮かれて(あなたの自信に狙いを決めて)?いやいや、発熱と寒気に効く第2類医薬品の風邪薬じゃあるまいし、まさかね。間違いなく飛行時間300h超え、入試主席、イギリス代表候補生、あと貴族として昔から射撃の腕を鍛えてきた(平和ボケして銃を知らない日本の平民なんぞとは違う、というその辺も関わってくるのかもしれん)…なーんて辺りから来るのだろう。

 あとは代表候補生の中でも貴重な専用機を支給された(勝ち取った)ことか?機体数が限られる以上国内の代表候補生同士の競争もあるだろうし、確かに自信の源としては有力だ。それと、一夏の存在も大きいか。公式で『世界初の男性ISドライバー』である一夏のISでの飛行時間が少ない以上、普通に考えたら後発男性ドライバーの俺はもっと少ないと見ていいと判断出来る。

……だまし討ちだよなこれ。備品の打鉄である程度練習してたし、専用機受領の日は夕食食わずに乗り回してたし、今週ずっと山田先生と演習してたし。大体飛行時間は50hを少し超える辺り…って、やっぱり少ないな。

 

 あー、うん。そりゃそうだ。道理でセシリアさん自信満々な訳だよ。とはいえげんなりした気持ちは見せない。あっちがもっと自信持っちゃうからね。

 

「さて、アリーナの観戦準備も整ったらしいし、そろそろ始めるか?」

「その前に、最後のチャンスをあげますわ」

 腰にライフル『スターライトMarkⅡ』を持つ左手を当て、こちらに右人差しを向ける。一夏に絡むときも大体そのポーズだよな。イギリスで流行りの(或いは伝統的な)威嚇姿勢なのだろうか。それにしてはあまり怖くないのだが。まあもしもコッチにライフル向けてたとしたら怖すぎるからやめてほしいけど。

 

「チャンス?」

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」

 んなこったろうとは思ったよ…脅しのつもりかロックオンしてるようだ。知るかよ。

 

「確かにある種のチャンスだが…やっぱり勝ちたいしな」

「そう?残念ですわ……それなら、」

 

 ブルー・ティアーズがライフルを握る左腕を動かす。灰影のシステムが動きから狙いを左腕と判断。

 灰影PIC、斥力姿勢制御スラスター、背部メイン、両翼大型スラスタースタンバイ。両主翼フラップ格納。

 

「お別れですわね!」

 姿勢制御スラスターで機体左後ろの空間を蹴り飛ばすように回避。

 両手に9mmマシンピストル『シークレットサービス』を展開、ブルー・ティアーズに対しほとんど左半身だけを見せる体勢で両手で弾幕を張る。

 二発目の光弾は避けれない位置なので左手のシークレットサービスを弾道上に投げて威力を軽減。残り7丁。

 

『バリア貫通、ダメージ40。シールドエネルギー残量、560。左肩部装甲大破』

 左肩部装甲をパージ。左肩の姿勢制御翼小破、粉塵対策で経路を一部封鎖、姿勢制御翼のスラスター性能20%ダウン。痛みは強引に無視する。

 姿勢制御を兼ねて両主翼ジェットエンジンに点火、加速。

 

 ブルーティアーズビット(イギリス代表候補生セシリア・オルコットの専用機ブルー・ティアーズの小型端末兵器。本体のライフル同様の光弾を放つ)を警戒して再度取り出したシークレットサービスで牽制射撃、左シークレットサービスを12.7mmマシンガン『15式機銃』に持ち替えブルー・ティアーズに射撃、回避される。

 

「さあ、踊りなさい。わたくしセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 口論?面倒だが冷静さを奪えるならそれもよし、試してみよう。

 

「悪いが輪になって踊る踊りなんぞ盆踊りしか知らんのでな、手本を見せてくれよ!」

 敵機から見て右上、太陽の方向へ加速、乱数生成プログラムで加減速しながらフラップ位置を調整してPICに依らない軌道変更、宙返りしながら攻撃を肩部左右姿勢制御翼で全て庇い、敵機へ向けて射出(パージ)

 シールドエネルギー節約の為にバリアを解除していた肩部翼はそのまま爆発し、煙幕になる。

 煙幕へのビット4基の集中砲火をPICの低速無音浮遊で位置を調節し15式で受け止めて耐え、突撃銃槍に点火、投げる。15式残り2丁。

 

 敵機本体が回避したところを狙って真っ直ぐに接近、ライフルとビットに両手に展開した15式機銃で弾倉1つ分連射。

 

「ああっ、ビットが!」

 ビット一基を撃墜、ライフルのスコープ型センサーに損傷を確認。

 しかしライフルの光弾に胴体被弾、突撃銃槍も残存燃料ゼロ。総合的にはこちらが不利。いわゆる『ジリ貧』というやつか。

 だが、まだまだ手はある。敵機の射撃精度も密度も多少なりとも減っている。最善手を打ち続けるのみだ。落下してきた突撃銃槍を回収、格納。

 

ーーーーー

 試合開始から27分経過。この27分間、ブルー・ティアーズと灰影は次々と高度を変え距離を変え射撃戦を続けた。

 残存シールドエネルギー:70。装甲ダメージ:中。

 シークレットサービス:4丁。15式機銃:1丁。突撃銃槍:燃料補給80%完了。

…要するに、被害は甚大だ、

 

 だがブルー・ティアーズもビットを一基落とす事で空間辺りの射撃密度が下がり、スコープ型センサーを損傷させることで射撃制度が下がっているはずだ。

 敵機のドライバーは優秀に違いない。その後も変化なく冷静に灰影を追い込んだのだから。

 

 奇しくも、或いは当然、相対距離は試合開始時と等しい27m。ブルー・ティアーズはビットを格納している。故障には見えない、エネルギー補給だろう。今のうちに攻め立てるべきだ。

 

「27分。それなりに持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」

 返答する意味を感じられない。攻撃を続行。

 

「……ちょっと、聞こえていまして?レディの言葉を無視するのは大罪ですわよ?」

 非固定部位にクリーンヒット。いかに代表候補生といえどやはり人間に本来存在しないパーツへの反応は遅れるか。これはレポートのネタになる。

 

「……まあいいですわ。このブルー・ティアーズを前にして、所見でここまで耐えたのは貴方が初めてですわ。そればかりか一基撃墜すら成し遂げるとは、いい機体に恵まれましたわね。では、閉幕(フィナーレ)と参りましょう」

 最後の言葉と同時に、ビットが再射出される。リチャージが完了したか。

 

 距離が遠くてシークレットサービスは届かない。適正距離だが腕前の関係で15式はなかなか当たらない。まして超ロングバレルで取り回しの悪い『切り札』などもってのほか。だとしてもこうしてビットとライフルを避け続けていても埒が開かない。

 そういえば事前の調べによるとブルー・ティアーズはBT試験機としての性質が強く、実戦をあまり想定していないとのこと。

……別に命取られる訳でもなし。やるか。

 

「左脚、頂きますわ」

 勝手に持っていけ。

 左脚装甲を一部パージ、シールドバリアの展開範囲を再定義。回避せず加速。光弾は脱落した装甲に阻まれ、シールドバリアには届かない。

 突撃銃槍の燃料補給は完了、推進器をスタンバイ。

 

 整備室で出会った友人が山田先生直伝の回避接近機動を灰影用にアレンジし、関数化したプリセットモーションで距離10mまで接近、突撃銃槍の推進器と背部メインスラスターで一気に加速、両主翼のフラップをランダム開閉、狙いをつけにくくし、5mで槍を手放し背面ロール、からの左捻り込み、フラップだけで減速してビットのオーバーシュートを誘い、ブルー・ティアーズが手投げロケット槍を避けてこちらを向いた瞬間抱きつく。この間僅か2.5秒。

 

「え?あ、きゃああああ!?!?!?」

 

 そのまま両腕で胴体上部を、両脚で腰骨の上辺りをホールド。ドライバーが混乱から抜け出す前に地面に向けて急加速、ブルー・ティアーズをクッションに着地した後転がって灰影が下になる。この時主翼と背部メインスラスターを格納して脚部ハードポイントに再展開、敵機の胴体を灰影ごと地面に押し付けるように噴射し続けるのがポイントだ。

 

 ブルー・ティアーズ自慢のライフルもこの距離では使えず、ビットもブルー・ティアーズが盾になって灰影を狙えない。BT試験機ブルー・ティアーズには他の武装があるとは考えにくく、とりあえずは無力化出来ただろう。

 とはいえ、対する灰影もまた手頃な兵器がない。シークレットサービス(マシンピストル)は牽制用で大した火力は出ない。ロケット槍はさっき何処かに飛んでって、15式はブルーティアーズのライフルと同じ理由で使えない。切り札は論外。

 

 

 両者共に手が尽きた?いや、()は正にここある。

 

 

 右手でブルー・ティアーズの後頭部を掴み引き寄せる。

 この後の展開を察したらしいドライバーが目を瞑りイヤイヤをする。抵抗のつもりか?

 まあ、何にせよもはやその命運は右手の中。思いっきり力を込めて……

 

 

 握りしめた左拳を露出した喉に叩き込む。露出した急所なら絶対防御でシールドエネルギーを大きく消耗するはずだ。俺程度の虚弱腕力素人パンチでもISの膂力を足せるなら問題無い。

 シールドバリアもある、絶対防御とやらもある。遠慮なんかしない、コアに計算させた威力と連発速度の曲線が交差する力加減で躊躇なく2発目以降を叩き込み続ける。

 

 ビットが地面とブルー・ティアーズの合間を縫って俺を貫くよりブルー・ティアーズも早くシールドエネルギーを削りきれば勝ち。そうでなければ負け。単純なレースだ。

 

 衝撃に耐えきれず灰影の左拳が砕ける…問題無い。ドライバーの腕は無事であり、事ここに至れば武器を握る必要もない。それに、ほら。砕けた断面がこんなにも鋭い。

 

 とはいえ流石は代表候補生。流石に順応してビット射撃をスタートしたか…いや、順応というより意地か?自機への誤射を防ぐセーフティを切っているらしく灰影だけでなくブルー・ティアーズにも光弾の真新しい焦げ跡が見られる。

 

 

 

 強敵に対してなんとかこの戦術が通用したことによる安堵。あと少しで仕留められるという慢心。全力を出し切った故の疲れ。そういったものが、この時の俺には間違いなく存在していた。

 

 

「お生憎様、ですわ!」

 何かが煌めいた。そう思った瞬間には、全てが決していた。

 

 

『そこまで!勝者、セシリア・オルコット』

 無慈悲に俺の負けを告げる織斑先生と、試合終了のブザー。

 

 やられた。まんまと騙された。射撃機がなんでコンバットナイフなんぞ持ってるんだよ。

「殿方に襲われた時に備えて短刀を忍ばせるのもまた、淑女の嗜みでしてよ?」

 そう言い俺の口許にセシリアが突きつけているのは…いや、シールドバリアを削りきり、そのまま口許を守る絶対防御に突き刺さっているのは、ISサイズの青いコンバットナイフ。

 

「インターセプター、それがこの刃の銘ですわ……ところで、いつまでわたくしをホールドし続けるつもりですの?」

「おっと、こりゃ失敬。機体エネルギーが絶対防御の維持に回ってて指一本動かない。ナイフ抜いてくれるか?」

「あら、失礼」

 

 Bピットに戻るブルー・ティアーズとセシリア・オルコットの姿には堂々たるものがあった。流石はイギリス代表候補生。こういう所も、もう少し勉強すべきか?

 

「あー、織斑先生。機体にエネルギーが残ってません。俺の素の筋力じゃ3tの金属塊は動かせないんで、牽引の手配をお願い出来ます?」

ーーーーー

 

 この日からしばらく、周囲の俺への評価は大きく二分されることとなる。

一方は、『卑怯な手を使って試合を穢し、しかも勝てなかった。所詮は男』

もう一方は、『素人でありながら、負けたとはいえ代表候補生に食い下がり、シールドエネルギー残り50まで追い込んだ。侮れないISドライバー』




今回も読んでいただき、ありがとうございます。次回更新は9/20です。ちゃんと予約済なので安心してくださいね。
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