sideセシリア
恐ろしい相手。それが先程戦ったIS『灰影』専属ドライバーの…いえ、巧さんの印象です。
動きは稚拙、腕前は凡庸、まさに素人……それ故に、IS戦闘の常識をかなぐり捨てた…見方に依っては野蛮とも受け取られかねない異常な戦術と容赦ない攻撃。
(だからこそ、称賛に値しますわね)
先程シールドエネルギーを大きく削られたあの殴打までの一連の流れ。言ってみればあれも『これまでのISの常識に無い動きをした結果対処法が分からず後手に回った』だけに過ぎないし、実際次戦えば余裕をもって対処出来るはず。
…けれども、それに至るまでの動きには形容し難い別種の理性が感じられて。
(そう、例えば左脚の装甲をパージして一瞬当たったように見せかけるあの動き。本能だけで戦っていては決して思いつきすらしないでしょう)
だから少なくとも、日本のISをサーカスと揶揄したこと、日本を文化的に後進で野蛮な島国と呼んだことについては、反省しようと。そう思った。
『オルコット。準備はいいか?』
織斑先生がインターバル20分の終了を告げる。当然、セシリア・オルコットの答えは決まっている。
「ええ、いつでも行けますわ」
応急処置用具は既に仕舞った。絶対防御により喉も元から対して痛くない。ブルー・ティアーズも大きな損傷は無く、撃墜されたビットも専用機持ち各々に用意されたガレージから予備を取り寄せた。シールドエネルギーも、いわゆる『満タン』まで回復した。
「セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ。出撃致しますわ」
イギリスの名門貴族オルコットの人間が出遅れることなど、決してあり得ない。
ーーーーー
side巧(一夏VSセシリア戦前のインターバル)
「……疲れた」
暫くはやりたくないな、あんなの。
「その、なんて言うか…お疲れ様です、坂上君」
「ああ山田先生。先程は牽引、というかこの1週間の集中実技演習もですが、ありがとうございました」
「え!?あ、ええと…ど、どういたしまして…」
どうしたのだろう。いつにも増して山田先生の態度がよそよそしい……箒さんはなんか睨んでくるし、一夏は信じられないようなものを見る目で見てくるし、織斑先生はめっちゃデカい溜息吐いてるし……俺、何かやっちまいました?
なんて考えてみても理由は分かり切っている。アレだろう。喉への連続パンチ。
いや、マジでなんであんなことしたのさ俺。絶対セシリアさんとの関係修復とか無理でしよこれ……野蛮な男呼ばわりされても一切否定出来ねえ!また俺の『アホ発作』が出てきやがったわけだ…最悪だ。あの時の俺にできる最善ではあったにせよ……なぁ。
「いや〜良かったぞ巧。父さんは戦闘機原理主義だがISってのも中々悪くないな。拳で急所を狙うなんて、流石は父さんの子だな!」
「5G環境下で三角関数を含む難問を解いてお互いの位置を確認しながら戦う戦闘機のドッグファイトの好きだけど、計算抜きに物理的に殴れるISの格闘戦も眼の保養になったわ〜。お母さんホクホクよ」
「たっぷりデータも取れたしな!」
「ね!」
この場の人間で唯一俺の両親だけは楽しそうだな…というか語り合ってそのまま議論始めてるし…夫婦揃って楽しそうで何よりとは思うけどちょっと抑えてくれないかな……でも邪魔だけは出来ねえ。俺のポリシー的に議論中の研究者の邪魔だけは出来ねえ……
「おい」
「なんですか箒さん…今ちょっと反省中です…」
結構不機嫌な声色で話しかけてきた箒さん。いったいどうしたと言うのか。
「貴様、どういうつもりであんな真似をした」
ああ、そのことか。その答えは決まっている。
「当然、あれが最善策だったからですよ」
「なっ!?」
何をそんな驚いた顔をしているのやら……そりゃ俺だって、さっきからずっと脳内反省会で『もっと良い方法は無かったのか』考えてますよ。でもね?仕方ないじゃないですか。俺にはより良い手段が無かったんですから。
「灰影の性能でまともに近接戦闘しようとしたらまずブルー・ティアーズビットに殺されるし、あのまま射撃戦続けてもジリ貧だし、一発こっきりの切り札切っても絶対避けられるし。今の俺と灰影には、あれ以上の方策は無かった。だから今、
「……す」
ん?
「叩き直す。捻れきったその性根、今この場で叩き直す!」
「断る」
「……は?」
は?じゃねーよ。これから一夏とセシリアの試合だろうが。こんな押し問答さっさと終わらせて移動しなきゃだ。
「ともかく、一夏の鍛錬は一段落したのだ。次は貴様だ。安心しろ、貴様でも2週間でまともに刀剣を振るえるようにしてやる。ついでに一夏も鍛え続けてやる」
「性根についてはさておき、貴様のあの戦い方は目に余る。この際だから篠ノ之に鍛えてもらえ」
なんで織斑先生まで来るんですか。先生絡んだら決定事項だろ。どうしてこうなる…
「……やるなら槍が良い。それか薙刀か、せめてポールウェポンにさせてくれ」
専門外を要求すれば諦めてくれるか?射撃機のドライバーは格闘を要求される時点で負けみたいなもんなんだって事を理解してもらえるとは思えないし。って、射撃機そのものなブルー・ティアーズを組み付きで追い込んだ俺が言っても説得力皆無か。……あ、自分の装甲に貼り付ける防御用指向性破片手榴弾みたいなのがあれば殴らなくてもよかったかもしれないな。関係修復がもっと面倒になるかも知れんが。あと必要なのはシークレットサービスのレートリデューサーを弄って強装弾を装填したマガジンを用意してそれ用の機関部に取り替えて…ってなると俺の手には負えんな。素直にスポンサーに頼もう。
「良いだろう」
「え?」
なんだっけ。話の流れを忘れた。えーと…
「槍を教えてやると言った。篠ノ之流には槍もあるからな。そうと決まれば、明日から放課後2時間、一夏と合わせてみっちり扱いてやる」
ああ、思い出した。いやなんでだよ。なんであるんだよ槍術。とはいえ自分から槍が良いと言った以上、これは断れないな。仕方ない、イメージ改善のためと割り切ってやるか。
「わかった。これからよろしく」
ぼっちにならないためと考えれば多少は我慢出来るか…?あまりやりたくはないな…
「チャンスを差し上げますわ、とは、もう言いませんわ。それに、日本や男性を侮辱したことも謝ります。けれども勝つのはこのわたくし。クラス代表はこのセシリア・オルコットが務めさせて頂きますわ。そう、わたくし自身の誇りにかけて!」
「なんで巧のあの戦いでそっちに心境が変化したかは知らないけど、やってやるぜ!」
あ、もう一夏対セシリア始まっちまった。ピット移動しよう。
「あ、おい待て、どこに行く!?」
「Bピット。次は一夏との試合なんでね」
ーーーーー
Bピット到着。…おや?
「正直さ、坂上君って[聞き取り不能]」
「いやいやいや、あの時は[聞き取り不能]」
「[聞き取り不能]のは[聞き取り不能]だし」
「え、[聞き取り不能]は[聞き取り不能]の肩もつの?」
うん、これは……なんだ?かろうじて聞き取れる範囲から推察するとアレか、俺とセシリアの試合について話してるのか?おーい、もう一夏とセシリアの試合、始まってますけど?
「あれ、たっくーじゃん。なんでこっちに来たの?」
なにやら果てしなくのんびりとした話し方をする女子生徒が俺に声をかけた瞬間、一気に場が静かになり、旧約聖書のモーセの海割りの如く女子生徒の海が割れた。いやモーセの海割り見たことないけど、イメージだイメージ。
「えーっと、
「もー、のほほんさんって呼んでよー。というかせっしーの応援に来たわけではありません。たっくーの様子を見に来たのです」
「こんなフツメン見て何が面白いのやら。見るなら一夏にしなさいよ。試合中だし」
さて、そんなことより試合だ試合。ハイパーセンサーを部分展開して観察したところ、内容は一夏が劣勢だ。まあ仕方ない、さっき乗ったばかりの機体だから機体特性もろくに把握出来ていないだろう。唯一の救いは完全な専用機だから一夏に完全に合わせて作られていること、つまり、実質的には既に
ちなみに、俺の灰影は山田先生との特訓で一次移行したが、徹底的に俺専用に調整されていたからか特に仕様変更は無かった。少しくらい性能が上がってくれてもバチは当たらないんだけどなぁ。
「ぜああああーーーっ!!!」
一夏が動く。恐ろしい勢いで加速する白式が、その手に握る刀でライフルの銃身を跳ね除け、斬りかかる。
「無茶苦茶しますわね、けれども!」
セシリアが防ぐ。左腕に急遽展開したインターセプターで刀身を弾いてずらし、白式そのものを受け流す。
「今です!」
セシリアが放つ。インターセプターを軍配のように振り、白式を指し示す。その動きと全く同時に、待機していたビット3機が白式を半包囲し、レーザーを放つ。
「…やっばりだ」
一夏が、その包囲の網の隙間をくぐり抜ける。そのままの勢いでビットを攻撃する素振りを見せた瞬間、セシリアが、僅かにビットをずらす。
それが、命運を分けた。
「きゃあああ!?!?」
ビットには目もくれず、一夏が掟破りの鋭角機動で本体であるブルー・ティアーズに迫り、セシリアのライフルを両断する。
刹那、青い稲妻がライフルの表面を駆け巡り、爆ぜた。
「あの武器はお前の指示通りに動く…いや、
マジか…俺そんなこと気づく余裕なかったぞ…いや、外から余裕をもって観察出来ればわかったかもしれないが…それに気づいたところでビット4基の包囲網を避けられる腕前は…やっぱり一夏やべえよ。ほら、一夏の台詞の『さらに』から『止まる』までの間でビット1つ落としてるし。何あいつ。後ろに目でもついてるの?後で理屈を聞いておこう。
……槍教えてもらうのは案外正解かも知れないな。
反応が一番遠いはずの死角に配置されたビットがまた1つ落とされ、残り2基。
「獲った!」
ブルー・ティアーズに、一夏の白式が迫る。満身創痍、左脚など装甲が完全に剥離して中のISスーツ(IS装着・搭乗時に着るパイロットスーツのようなものだ)が露出している白式だが、その気迫は凄まじい。
対するセシリアのブルー・ティアーズはというと、装甲の損傷こそあまりないものの、盾に出来るライフルは無く、もはや兵装はインターセプターとビット2基のみ。セシリアは絶体絶命……
「…かかりましたわ」
……かに見えたが。
ハイパーセンサーでのみ捉えられるほど小さな声。
ブルー・ティアーズのスカート背部の突起が分離、スラスターが開き、白式を挟み込むように移動、
一夏も咄嗟に回避するが、ミサイルだったらしく避けきれない。白式が爆炎に包まれる。
しかし、試合終了の宣言は下されない。ブザーも鳴らないことから審判ミスではいことがわかる。ではアレか、まだシールドエネルギーが残ってるのか。一夏やべえな。
セシリアも油断なくビットを片方ずつ呼び寄せ機体にドッキングさせ、ミサイルを補給する。
その作業が終わるか終わらないかのうちに、滞留していた煙が内側から切り裂かれる。
そこから現れたのは、
「え、もう
機体各部の量産品然としたブロック装甲が滑らかな3次元曲面に変化、腰部メインスラスターは廃され、代わりに肩部非固定部位のスラスターがかなり大型化し、より自由度の高い鳥翼状スラスター(いわゆるウイングスラスターというやつである)に変化。
そして何より、先程まで振るっていたブレードの代わりに、刀身の側面…鎬と呼ばれる部分か?…に刃と平行なスリットが見て取れる新たなブレードを……資料映像で見た、織斑千冬の用いたブレード『雪片』に酷似したブレードを、その右手に持っていた。
これだけの変化をしたんだ、実質的には二次移行と考えても良いのだろう。多分。もし、仮に、万が一これでさっきまでのが個人に合わせられていない初期設定で今のが一次移行を済ませた姿なのだとしたら、本格的に俺と灰影とついでに大森重工の立つ瀬がない。
だからセシリアさん、『ま、まさか…
ともあれ、セシリアがミサイルビットとレーザービットを駆使して包囲網を形成し、
「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」
一夏のブレードが必要最低限の穴を穿って切り抜ける。
後ろからミサイルとレーザーだけが追いすがるが、
「俺も、俺の家族を守る」
ブレードのスリットが開いてビームサーベルのようなものが展開、非固定部位の向きはそのままに、機体本体のみが一回転、ミサイルとレーザーは一掃される。
セシリアは一夏の進行方向と垂直方向へ逃れようとするが、
「とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ!」
白式のウイングスラスターが瞬間的に角度を変え、減速ゼロで追いつく。
「うおおおおっ!」
ブレードから展開されるビームサーベルらしきものが伸長し、ブルー・ティアーズの装甲を切り裂く!
『試合終了。勝者…織斑一夏』
時間にして10分足らず。たったそれだけで、この織斑一夏という名のバケモノは、軽装甲近接格闘機というバカみたいなコンセプトの機体で、イギリスの代表候補生かつ入試主席の駆る、それも高機動射撃機を、撃墜せしめたわけだ。
はは、これはもうあれだな、切り札使える舞台整えられなきゃ負けるな。
「一夏って…ヤバいな」
「おりむーすごいねぇ〜」
ところでこの布仏さんって…何者?