sideセシリア
信じられない/ひどく腑に落ちる。
(今日の試合……ルール上では1勝1敗ですが、ほぼ2敗のようなもの、ですわね)
織斑一夏。世界初の男性IS搭乗者。あのブリュンヒルデこと『織斑千冬』の弟。
坂上巧。第2の男性IS搭乗者。日本の財閥系企業、大森重工の専属搭乗者。
二人の第一印象は最悪の一言でした。自己紹介はやる気無し、一夏さんは会話から知性を感じられず、今の段階で既に授業を全く理解出来ない。巧さんはわたくしが一夏さんに話しかけているというのに一夏さんの意識を逸らす、会話を中断させる、おまけに減らず口を叩いてわたくしを苛立たせる……と、あの時のわたくしは、二人の事情や気持ちも理解しようとせずに一方的に悪感情を抱いていたのです。
だから、というわけではないのですが、冷静に考えれば明らかに無礼な物言いをしてしまったわたくしに対し、彼らは決闘を申し入れたのです。その時は、私を侮っているのだと考えました。
もっとも、実際のところ侮っていたのはわたくしの方だったのですが。
巧さんの最後の殴打、あの異常なまでの容赦の無さと、普段のともすれば軽い、という印象すら受ける態度。この2つの差が恐怖にも似た興味を呼ぶのです。
一夏さんのあの強い意志の宿った視線、他に媚びること一切を拒絶するあの瞳に射竦められたあの感覚。それが切ないような熱をもって疼くのです。
名家に婿入りし、母の顔色を常に伺っていた父。
両親が事故で他界したのを良いことに、私に残された遺産を掠め取ろうとする金の亡者。
ISに乗れない事を理由に、常に何かを諦めたような顔をしている世の男性。
二人は、その何れとも違う。この二人同士ですら、全く違う。
考えるほどに分からなく、怖く、興味を惹かれる、坂上巧。
思い出すと途端に胸がいっぱいになる、理想の強い瞳の織斑一夏。
……出会ってしまった。こんなにも、知りたいと思ってしまうひとに。
ーーーーー
side巧
試合翌日。まあ当然の事が発表された。
「昨日の模擬戦の結果、一年一組の代表は織斑一夏くんに決定です!あ、
嬉々として話す山田先生。同様に喜ぶほぼ全てのクラスメイト。同様に喜んではいないのはセシリアと一夏の二人だけ、しかもセシリアも『まあそうなりますわね』とでも言いたげなようなそれでいて少し喜んでいるような表情をしているので、納得していないのは当の一夏本人のみ、というわけだ。
「先生、質問です!」
挙手して声を上げる一夏。うん、挙手するのはいいことだ。次からは音量気をつけてくれ。耳がキーンってなるからな。
「はい、織斑くん」
「昨日の模擬戦、俺たち全員が1勝1敗だったんですが、何で俺がクラス代表なんてすか?」
「それは…」
「それはわたくしが辞退したからですわ、"一夏さん"!」
がたんと音を立てて立ち上がり(前回から思ってたのだが、それは貴族として行儀の悪い振る舞いなのでは?)、腰に手を当てるお馴染みのポーズ。指を差していないので今回は威嚇ポーズではないようだ。なんだか上機嫌な顔をしているし。あとしれっと一夏を名前で読んだな。あれか、昨日の試合で思うところでもあったか。
「……と言いたいところですが、それだとクラス代表は巧さん、貴方がクラス代表になるはずですわね。貴方も辞退しましたの?」
あー、そこでこっちに話を振るか。いやまあ別に良いんだけど、授業しようぜ?
「別に、ただ山田先生に一夏を代表にするメリットと俺を代表にするデメリットをメールで送っただけだよ」
例えば単位飛行時間辺りの戦闘能力の差、零落白夜の有用性、ブリュンヒルデの弟たる一夏のブランド力と俺のセシリア戦での印象の悪さによるクラスの評判の変化、その辺を強調したメールをクラス代表とかめんどくせーとか思いながら3分ででっち上げて送った。一番効いたのはこんなふざけたメール送るやつをクラス代表に出来るかって部分かもしれないが、そこはまあ良い。というかセシリアさん俺も名前呼びですか。最後の残虐ファイトは水に流してくれるのかな?
「大体、お前はほぼ完全な素人の癖にイギリス代表候補生に勝った期待の新星なんだぞ?お前が行かなくてどうする」
「お前はその『期待の新星』とやらに勝っただろ」
「飛行時間50時間前後の奴がほぼ完全な素人に勝ってもなんにも誇れないっての」
五十歩百歩?その通り。だがそこには五十歩の差がちゃんとある!なんてことを表情に出してみるテスト。
「ぬぅ……」
「それに、やはりIS操縦には模擬戦が何よりの糧、クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんもの」
「そういうわけだ、俺達の代わりに面倒な仕事とか頼むわ」
「なっ、まさかお前それが理由か!?」
「ばーか、それ以外にあるかよ」
やっと俺の魂胆に気づいたか。だがもう遅い、お前にはこの一年一組のクラス代表になってもらう!
やいのやいのと一気に騒がしくなる教室。
「そ、それでですわね…」
コホン、と咳払いするセシリア。そのポーズの意味は何なんだ?
「わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間がIS操縦を教えて差し上げれば、それはもうみるみるうちに成長を遂げ……」
などと上機嫌で語っているセシリアの発言を遮って響く、机を叩く大きな音。ざっと75dBくらいかな?
「あいにくだが、一夏の教官は決まっている。私が直接頼まれたからな」
おお、怖い怖い。箒さんからなにやら嫌な雰囲気が漂っている。まあ正直俺にはあまり関係ない事だ。まあ、友人として常識的な範囲で一夏を助けようとは思うけどね。疲れてたら10秒メシ奢ったり。
「そこ、関係ないような顔をしても無駄だぞ。一応言っておくが、貴様を叩き直して更生させる約束、忘れていないからな」
…おお、怖い怖い……マジで怖い。というかなんか寒くないですかねこの教室。
「いいえ、一夏さんにISを教えるべきは専用機が無くIS適性ランクCのあなたではなく、当然専用機を持ちIS適性ランクAのこのわたくし。巧さんにISを教えるべきなのも、近接格闘型の戦闘スタイルで特に彼と関わりのないあなたではなく、当然同じ射撃型の戦闘スタイルでライバルのこのわたくしですわ!」
おお、ライバルと来たか。いや、これは正直なかなか光栄というかなんと言うか。つーか喉パンチはイギリス的にありなのか?
「ということで箒さん、悪いが俺は射撃型の戦闘スタイルだし、」
「そうはいかん。ちふ、…織斑先生と約束したのでな。それとも適性ランクCの指導は受けられないとでも言うつもりか!」
「そんなこと俺は一言も…」
「座れ、馬鹿共」
とまあ、そんなこんなで全てをリセットする
ちなみに、俺のIS適性ランクはなんとD、マイナス方向に規格外であると言うことをここに付しておく。っていうかS~Cに+-合わせた12通りしかないところになんでDなんて評価されてるんですかね俺は。まぁ、だから別に箒さんのランクに不満があるわけじゃないんですよ?
ーーーーー
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……死ぬかと思った」
放課後…正確には授業終了後から2時間と少し経ってからのこと。
俺は篠ノ之箒にボッコボコにされた。いや、一応槍の鍛錬ではあった……のだと思う。思いたい。
「腕立て伏せ10回なんて初めてやった…腹筋20回なんか無理だ…つーか背筋ってなんだよ………」
汗を流しにシャワー室へ行こうにもISスーツを脱ぐのが面倒だし、汗を吸ってすぐ乾く性質のおかげで全然気持ち悪くならないし。、とりあえず全身に消臭スプレーをかけて髪についた汗を拭って終わり。
そうしてフラフラと覚束ない足取りで整備室に向かい、懐から取り出した十徳ナイフ…待機状態の灰影を整備ハンガーに放り投げて、展開する。レポートを読んだ上での返信とともに送られてきた17式40mm機関砲の装備位置(これだけ大きく重いと、持たずにハードポイントに接続することも視野に入ってくる)と運用データを元に開発班が作成してくれた主翼の設計変更用設計図を確認する。おや、いくつかお土産と称した人対人用の護身装備もあるのか。これ渡されても俺には使えないと思うのだが…練習しろってか?
「……遅かったね…!?…………だ、大丈夫!?」
いつもの眼鏡っ娘が、俺を見るなりフリーズ、再起動した。
「最悪だ、殺されるかと思った。一番やばいのは足滑らせた方だがな……まあ、大事には至ってないらしい。なんて若干血が滲んだ包帯を頭に巻いた人間に言われても信じられんだろうが、保健室の先生の言うことだから多分間違いない。これは擦り傷なんだってさ」
とはいえ、腕やら脚やら頭やらに包帯巻いて、一部から血が滲んでるって絵面のインパクトはなかなかヒドいものがあるよね。うん。
「そんなに酷いことになるなんて……やっぱり、一組のクラス代表って大変なんだね。織斑先生の要求レベル高いらしいし」
そう言って整備している打鉄に向き直った。というかかなり高度な修理?してますねあなた。外装全部外してフレームだけじゃないですかもう。
「いや、俺クラス代表では無いんですよそれが」
「……え?」
作業を一瞬でやめてこっち見る眼鏡っ娘。そんなに驚くことかよ。俺はセシリアに負けたし。
「じゃあ、代表はセシリアさん?」
「いや、奴さん辞退したよ。こんな風にな……じゃなくて、高飛車な態度とかを反省したみたいなことは言ってた。あとは一夏の才能に可能性でも感じたのかね?そんな訳でクラス代表は一夏だよ」
「……」
何もそんな地獄を見るような顔で驚かなくとも。そんなに不思議な事でも無いだろうに。
「よく考えてみろよ、織斑一夏は顔が良い、スタイルが良い、筋肉がある、機体が純白で映える、戦い方が高速接近切り捨て御免一撃離脱でとても絵になる。対して俺は顔は普通、筋肉無い、機体は灰色でセシリア曰く醜い、戦い方は急接近してのルール無用喉潰しか遠くからの牽制射撃で何もさせずに削るだけの冷え冷え試合。っとまぁ、これが一夏が選ばれた理由かは知らんがな。つかどうでも良いし」
「どうでも…良い…?」
「別にクラス代表なりたかった訳でもないし。ただでさえ『お前は性根が腐ってるので叩き直す』なんて言われて扱かれてるのにクラス代表なんかやったらもうね、IS弄る時間なくなるっての」
「確かに、その傷で模擬戦はちょっとね……て言うかそれ、凄い事になってるけど何があった、っていうか何されたの?」
あー、それを聞いちゃいますか……
「聞かないほうが良いかもしれないぞ?」
「……聞く」
「よし、では教えよう。ある生徒が俺に稽古つけてやるって言い出してな、しかも先生のお墨付きだから逃げられねーでやんの。まず、いきなりグラウンド2周、そしてヘロヘロになった身体でラジオ体操。この時点で非人道的だ。そして棒切れ持たされて3分間ずっと『中段の構え』ってのを維持しろって言うんだがそんなのできるわけなくて、落としたら『良くわかった。構え以前の問題だ!腕立て伏せ!』って言われて腕立て伏せやったんだが恐ろしい事に潰れたら最初からだ。5分かけてなんとか10回まで出来たんだけど、遅すぎるって怒鳴られて。んで腹筋やれって言われて20回なんて無理だけど無理やりやらされて。んでなんとか生き延びてフラフラになって医務室行くために階段登ってる途中に足滑らせて踊り場まで落ちて、もっかい登って滑らせてこのザマですよ」
俺が頑丈なのか、運がいいのか、それとも先生が適当ぶっこいてて本当はやべー状態なのか。一応、このIS学園の医務室の先生が適当だとは考えにくいので、多分最後のは無い…と信じたい。うん。あー痛ぇ……
「……うん、その人の言い方には問題があるね。けど、それはそれとして何故あなたがそんなにボロボロなのか。何故遅すぎるって言われたのか。何故今筋肉が痛むのか。…その答えはただ1つ。あなたが流石に運動不足過ぎだから」
「俺が……運動不足……?嘘だ……俺を騙そうとしている…」
「ふふ、あなたならそう言ってくれると思った。……でも、運動不足は本当。……っていうか、本当に大丈夫?」
「医務室の先生も『なんでこれで済んでるのかわからないけど、とりあえず打撲と擦り傷の処置しときますね』って消毒して包帯巻いて終わり」
「なんていうか、色々凄いね」
「全くだ、実は踊り場が柔らかいのかね?」
「あー、なるほど。そういえばその鍛錬とあんまり関係ないところで階段から2回落ちてるんだね」
「実はそうなんですよ。これには俺もびっくりだ」
信じられないほど会話が長続きした。というか、そもそも声をかける前に向こうがこちらを見たというのが驚きだ。
まあ、とりあえず『特に必要でも無いがそこに無いと落ち着かない置物』程度の重要度はあるのかな?
ーーーーー
で、作業を終えて部屋の前まで戻ったのだが。
「チッ、しまった。アレ忘れた」
と、忘れ物を取りに行くふりをしてその場を離れる。中の人間?が足音を察知したり出来る場合、俺が異変に気づいたことを気づかれないようにしておく必要がある。
「もしもし、母さん。
事前に相談したマニュアル通りに、母さんに電話するふりをして、専門のセキュリティチームに電話、危険の可能性有りと伝える。
「全く、あいつは素人なんだぞ?教えてやれと言ったのは私だが、もう少し抑えてやれ」
「で、ですが先生、あいつは腕立て伏せを10回連続でこなすまで5分かかっているんですよ?」
「5分?……まあ、まずは基礎体力をつけてやれ」
ふむ、織斑先生は寮の別の場所で篠ノ之さんと話しているのを見つけた。というか先生は一応まだ分別ある方なのかな?
「まだあの場所にあって良かった…」
さて、中にいるのが抜き打ち検査している織斑先生ではないことがわかったので戻ってきた。
もちろん、忘れ物を取りに行って戻ってきた風に独り言をする。設定遵守は大切です。
ともあれ、とりあえず、シールドバリアと頭部装甲(ハイパーセンサーも1つ搭載している)を顔面を覆う形で限定展開して催涙ガスやフラッシュバン、スモークに備え、いつでも灰影の残り部位を展開出来るように身構えながら、扉を開ける。
「おかえりなさい♪ わたしにします?わたしにします?それともわ・た・し?」
冷静に、冷静に……冷静に、部屋の明かりを消し、17式40mm機関砲…のオマケで付いてきた対人スモークグレネード(パソコン他電子機器にも人体にも特に悪影響出ないやつ。視界を奪うだけ、と書いてある)を展開。しっかり握って、そのピンを抜いた。あとは投げて安全レバーが外れれば良し。…だったのだが、
「ちょ、ちょっと待って待って!!」
ものすごい勢いで接近してきた妖怪裸エプロン女(暫定)がグレネードを持つ俺の右手を握って手放せないようにし、そのまま抵抗どころか灰影を展開する間もなくバランスを崩されて左腕を極められ、思わず左手を開く。めっちゃ痛い。
「ふう、これでよし…って、なんだスモークグレネードか……」
瞬き1つをする間もなく俺の左手からピンをもぎ取った妖怪裸エプロン女もとい妖怪水着エプロン女(ちらっと紐が見えた。素材的に水着で間違いあるまい)がグレネードにピンを差し込み安全レバーを固定し直してしまった。
困った俺は灰影を上半身だけ展開(もちろん嵩張る主翼は出してない)して無理やり引き剥がし距離を取る。
「で、お前の目的はなんだ。殺害か、誘拐か、社会的殺害か、或いはハニトラやDNAサンプル採取って線もあるな。ま、どれにせよあときっかり1時間で突入部隊が来る。残念だったな」
ちなみに本当の残り時間は後30分弱だ。本来の時間制限が30分のところを1時間あると勘違いしていれば、大抵の場合時間配分を誤るだろう。
「そこまでガチな対応されるとちょっと引くわね……安心しなさい、私はこのIS学園の生徒会長、更識楯無よ。あなたに危害を加える気はないわ」
「ほう、IS学園の生徒会長の職務には半裸で生徒の自室を奇襲するってのがあるのか。そんなアホな嘘で騙されるかよ、適当抜かすようなら現在ハイパーセンサーで録画中のこの映像を副担の先生に送りつけて対処してもらうぞ」
ますます怪しい。残念ながら灰影には対人火器が存在しないので、とりあえずは徒手空拳を覚悟するべきか。
「あーもう!そんなに言うなら証拠を見せてあげるわよ!ほらこれ、学生証!」
「ふむ…良くできた偽物だな。というか仮にアンタが本物だったとして、そんな初手
「あー……あなたやりにくいわね……なまじ言ってることが全部正論だから始末に負えない……」
少なくとも無断侵入者の台詞ではない。何様だこいつ。
「そういえば、なんで副担の先生に送るの?担当の先生じゃなくて」
「それはそうと、」
「…無視はひどくないかしら」
まあ、時間稼ぎは済んだしね。目の前の驚異に警戒しつつ喋りつつメール打つのって、結構大変なんだな。当たり前と言われればその通りだが。
「無事か、坂上!」
いつの間にか閉まっていた扉(灰影なら突き破れるから一応は問題ないと考えて開放せず放置していた)が、勢いよく開き、我らが担任、織斑先生がバカでかい刀(灰影の記録がヒットした。打鉄の使ってる刀……
「と言うわけでさっきの質問への答えだがな、担任の先生にはメールを打ったからな。録画はブラフだ、ハイパーセンサーの映像なんかメールで送れるかっつーの。容量大きすぎて送れないに決まってるだろこの妖怪水着エプロン女」
「変なところで律儀ねあなた……あー、織斑先生…お疲れ様でーす……」
「……説明しろ。3行で!」
まあ、『しんにゅうしゃありすぐきて』(原文ママ)だけのメールを俺から送られて、いざ来たら俺の部屋の大体真ん中に妖怪裸エプロン女(暫定)がいて、俺は灰影を展開してそいつを警戒している、と。うん、ちょっと脳が理解を拒むよね。
「一人暮らしの男子生徒がいると聞いてちょっかい出しに来ました。
ここ7日間全部空振りでした。
やっと遭遇できたと思ったらめっちゃマジの警戒されてます」
「整備室から帰ってきたら自室に妖怪裸エプロン女(当時の判断)がいました。
これは危険だと判断して援軍を要請しました。
ちなみにあと25分で突入部隊が来ます」
ーーーーー
いやー、マジで怒られてやんのこの妖怪水着エプロン女改め更識楯無生徒会長。まあ、如何に生徒会長と言えど勝手に生徒のプライバシー侵害したらだめだよね。当たり前過ぎるわ。
あ、突入部隊の要請はキャンセルしたよ。流石に本物生徒会長だってわかった上に織斑先生が絞っておいてくれるなら、突入部隊を要請する必要も無い。というかそもそもこの生徒会長さんはロシアの国家代表(そう、候補生止まりではない正真正銘の代表サマだ。入学前講習で習った。顔はどうにでもなるから偽物だとと思って警戒し続けたけど)だから下手に荒立てると大問題になる。如何にIS学園が法的に隔離されていると言えど、大国が適当なお題目で企業に制裁するのを止めてくれる訳でも無いしな。
というか生徒会長がこんなことしてるって、生徒会って意外と暇なのかね?それとも部下が優秀なのか?或いは本当にこれも仕事のうちってのもあり得るな。
いや、これは本当にありうる話だ。いくつかパターンが考えられるが、有力なのは学園側がハニトラを仕掛けてきた、この状況への対応力を見極めようとしている、あるいは生徒会長ではなくロシア国家代表としての仕事の1つ、といったところか。まあ、いずれにせよご苦労さんとしか言いようがない。今のところ、俺は彼女とか完全に諦めてるからな。
それにしても水着エプロンで正座して先生に怒られる生徒会長の図。めちゃめちゃ面白いな。後で常識的な容量のjpegに変換して開発班にでも送っておこう。デスマーチ中のちょっとした癒やしにはなるだろう……まあ、この画像を欲しがるのは渉外部門かもしれないし、開発班は大体がセルフデスマーチする変態だからいらないかもしれないけど。
「それはそれとしてだ、坂上」
ん?どうかしたんですかね。なんか俺マズいことしましたか?
「突入部隊の要請だがな、二度とするな」
「えーっと、侵入者対策ででもですか?」
「もちろんだ。このIS学園は現在…というか設立当初から常に、危うい政治的バランスの中にある。どんな事情であれ、外部からの介入を許すわけにはいかない。良いな?」
「なるほど、わかりました。でしたら自衛の為に何らかの凶器を携帯することを許可していただけますか?」
「断る。必要ならシールドバリアだけ展開しろ。護身だけならそれで十分だ」
「…わかりました」
って言っても、いわゆるスタングレネードなんかは視聴覚への攻撃だからシールドバリアでは破れないから、結局上半身全展開しか選択肢ない……というのは黙っておこう。
「なんだその顔は。不服か」
「いえ、ちっとも」
「そうか、ならいい」
「おやすみなさい、織斑先生。さて、私は荷物取ってくるから待っててね巧くん♡」
「お前は話がある。来い、更識」
「えっ、ちょっと待ってせめて着替えを!」
会長ばいばーい。二度とするな。
さて、会長と先生は帰ったことだし、鍵閉めて着替えて寝よう。
「あ、夕食食ってねえ……10秒メシで良いか」
なんか着替えるのも面倒くせえ。いや流石に着替えるけど。俺は母さんとは違ってきれい好きなんだ。服は毎日着替える。シャワーは毎日浴びる。これ日常生活の鉄則。
ーーーーー
side更識楯無
「で、お前はあいつをどう見る?」
先生に連れられて来たのは寮監室。まあ流石に途中のトイレで着替えはさせてもらえたけど、ちょっと恥ずかしかったわね…
「どう見る、と言われましても。ちょっと枯れてるくらいで普通の男の子に見えましたけど?」
「……私は腹芸も茶番も嫌いだ」
「はいはい、せっかちなんですから……そうですね、はっきり言って少々異常ですね。入ってきた時には既にバイザーで目を保護していた、って辺りはまだあらかじめマニュアルを用意していたのだとすれば自然ですが、私の格好に動揺するどころか初手でスモークグレネードを用いての逃走を選択してますからね。一応あの格好には自信あったのに…」
大人や専用機持ちの女子ならまだしも、一夏君より準備期間が少ないはずの彼が、私のあの格好に対して少しの動揺もせずに淡々と本気の対応をしてみせた辺り、なんというか15歳の男子として少し異常なものを感じたわね。
そもそも、部屋に入ってきた時点でバイザーを展開していたけれど、中にいるのが織斑先生だったらどうするつもりだったのかしらね。
「それだけじゃない、突入部隊の到着予定時刻が早すぎる。部屋に入る前から要請をしていたのだろう」
あー、そういえば鍵締め忘れてたわね……それで気づいたのねきっと。忘れ物も嘘かしら。
「それにしたって、私が聞いたときはあと1時間って答えてたんですよ?」
「そうか。……一応、より詳細に背後を洗わせておくか」
「私も、『更識』の人間としてちょっと動いておきます」
今回の件以外でも、ちょっと気になることがあるしね。