ISの巧〜貧弱航空オタ奮闘記〜   作:ゆすくうけに@Aki

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第6話「クラス代表はマッハダイバー」

side巧

 クラス代表決定戦から少し経った4月下旬、今日からISの実機講習が始まる。

 

「では、今日からISの実機講習を始める…と言っても、今回は専用機持ちの動きを実際に見て、参考にする程度だ。織斑、オルコット、坂上。まずはISを展開してみせろ」 

「わかりました……変身」

 ポケットの中の十徳ナイフ…待機状態の灰影を意識しながら軽くファイティングポーズを取りつつ呟いて小さくジャンプ。灰影の展開が完了した。もっとも、これはあくまでやりたいからやっているだけであって展開するだけなら無言で1秒で…それこそアリーナのピットから飛び降りて着地する前にやってみせるが。

 

 ほう、一夏のは白いガントレットか。普通ISの待機状態はアクセサリーらしいのだが、やっぱり男性のISの待機状態はアクセサリーじゃないのかな?実例が少なすぎてよくわからん。

 

「よし、全力で加速して、高度1000まで飛べ」

 全力か。見るとセシリアのブルー・ティアーズが上を向きながら垂直に急上昇している。嘘やん…

 

 とりあえず俺もやや仰向けに浮かびながら両主翼のジェットエンジンに空気を送り込みつつ斥力力場を形成、加速する。白式が追い抜いて行くが無視だ。

 

「おい、何をやっている?」

 うるさいなぁ、周囲の安全確認。空気吸入速度安定。ジェットエンジン、点火!

 

「ヒャッホホホ!!」

 歓声を上げて白式を追い抜く。IS技術を応用し新しい燃料を投入してやれば、ジェットエンジンはまだまだ現役だ。燃料を燃やして推進力を得ているので機体エネルギーを節約できるし、比較的安くて換えが効く。まあ、燃料ラインを確保する都合上その辺の設計を整える必要があるのが難点だがな。とはいえこの辺は宇宙に出て化学ロケットを使うときも同じ問題が出るので、燃料供給ラインを使い回せるこっちの方がやはり良いだろう。

 

「おっとっと。空中静止は難しいな」

 フラップを展開し、同時にジェット流をシールドバリアで偏向して前方に噴射して静止、出力を絞る。

 シールドバリア搭載航空機…現状ISだけだが…なら静止中にジェットを対流させて封じ込め、一気に解放する運用ができる。これなら瞬発力もIS主流の流動波干渉や斥力推進より上だ。チャージブーストみたいでロマンもあるしな。

 

「ふう、やっと追いついた。二人とも速いな」

『何をやっている。スペック上の出力では白式が一番上だぞ』

 何もオープン回線で言わなくとも良いのに。

 

「って言われてもな、急上昇急降下のやり方は昨日習ったばっかりでまだよくわからないんだよな…」

「あー、目の前に三角錐を作るってアレか。感覚に頼らずにシールドバリアの形をエディタ使って変えれば楽なんだが、それだと後々咄嗟に出来なくなるしな…」

「まあ、イメージは所詮イメージ。教科書のやり方に囚われるよりも自分なりのやりやすい方法を見つける方が建設的でしてよ」

 一夏が小さく愚痴るが、電話帳は所詮一般的なやり方を記した書物、人によってはやりにくいかもというのは事実だし、何かいい方法はないものか…まあ、それは後でで良いか。

 

「そうなのか……そういえば先生、多少は動き回ってみた方が良いんじゃないですかね?」

『それもそうか。3人とも、ゆっくり8の字で動いてみろ。ゆっくりだぞ?』

「それじゃ、俺はあっちで回るわ」

「おう、じゃあ俺はこっちでセシリアと飛んでるわ。そう言われてもなセシリア、大体空を飛ぶ感覚自体まだあやふやなんだよ…なんで浮いてるんだ?白式の背中には翼みたいなのが2つついてるけど、どう考えても飛行機とは違う理屈だよな。前後左右上下斜め、翼の向きと関係なく動けてるし」

 一夏がすげー初歩的な疑問を抱いている。というかオープン回線だぞそれ?別に良いけど織斑先生聞いてるぞ?

 

 そうそう、白式で思い出したんだが、結局白式は元々別に一夏専用に調整されていた訳じゃなかった…つまり、あの第一次移行はマジで普通の第一次移行だった訳だ。一夏恐ろしいな。というか俺達全員立つ瀬が無い。酷いや。

 

「ええ、旧来の航空機と同じ仕組みで飛行するISは存在しませんわね。ISの飛行する仕組みを説明するのは構いませんけれども、反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの。長…【ジェットエンジンの音で判別不能】」

「イーヤッホー!!」

「……訂正いたしますわ。1機、わたくしの知る限りでは1機だけ、既存の固定翼機と同様の仕組みも利用している機体も、あるにはあるのですけれどね」

 聞いててなんとなくムカついたので、ジェットエンジンを全力でかき鳴らして翼の揚力も使って独特の機動をしてやった。

 

『坂上!!私は先程、「ゆっくり」と言った筈だが?』

「すみません本当にすみません」

 調子に乗って変なことするからだ。全く、俺のアホ……

 

『まったく……まあ良い、織斑、オルコット、坂上。急降下と完全停止をやってみせろ。目標は地表から10cmだ』

「了解です。ではお二人とも、お先に」

 レディファースト、ってやつか…なーんて言ったらまた怒り出しそうな気もする。レディファーストが元々は地雷原を先に歩かせる時の言い訳だったってのはデマらしいが、発想としてはそれに近いものだったとかなんとか。まあ地雷が作られるよりも前にあった言葉だし、とりあえず地雷原説がデマなのは当たり前か。

 そんなことをつらつらと考えているうちにセシリアがその機動を終えて浮遊している。流石は代表候補生、やっぱり凄いな。

 

「じゃ、次は俺か?」

「悪いけど頼むわ巧」

「おっけい。行くぜえ!」

 

 一瞬上昇してアイドリングしながらチャージしていたジェット気流を解放し、エンジンの出力を上げ、ついでにISらしい推進器も動かして、一気に急降下!!

 

「うおっとっと…っと」

 とはいえ、止まる分の余剰ジェット気流を使い果たしてしまったので止まるのが大変。フラップと逆噴射とオマケのPICを全力で使っても無理なので、最終的に前後を入れ替えて無理矢理止まった。

 土埃とか大量に撒き散らしたし、燃料を2割も使ったし、なにより無理な機動で主翼がイカれたし。散々だよ。トホホ……

 

 

 

 ドゴオォォォン!!!!

 

 

 

「うわっ、何だあれ……」

 絶対防御で守られたその身体よりも、クラスメイトの沈黙がさぞかし痛かろう、一夏。

 いや実際問題、クラスメイトの目の前で地面に激突することより辛いものはそうは無いだろう。

 

ーーーーー

side一夏

「というわけで、織斑くんクラス代表就任、おめでと〜!」

「おめでと〜!」

 ぱん、ぱ〜ん!とクラッカーが乱射される。俺の頭に乗ってきた紙吹雪は、その本来の重さよりもなお重く、俺の心にのしかかってきた。

 

「っていうか巧、こっちの『本日の主役』は良いとして、この『マッハダイバー』ってタスキはどう言う意味なんだ?」

「あららこいつすっかり忘れてやがる。今日の実機講習で地面に激突しただろ?計測データによると、あれ丁度340m/s=マッハ1だったらしくてな」

「悪口じゃねーか!」

 

「えーでもマッハダイバーってかっこいいじゃん」

「でもなんか足りないよね。白銀の、ってつけたら良さそう」

「あ、それいいね!」

「そうしよそうしよ!」

 周りで聞いていた女子が好き勝手言いながらタスキに書き足していく。なんかもう止めるのも億劫だ。

 壁の垂れ幕には『織斑一夏クラス代表就任パーティー〜就任おめでとう〜』って書いてある。何もめでたくねえよ……

 

「人気者だな、一夏」

「…本気でそう思ってる?」

「ふん」

 謎にパーティーは始まるし、箒は鼻鳴らしてお茶飲むし、白銀のマッハダイバーなんてカッコ悪い二つ名つけられるし……俺何か悪いことでもした?

 

「はいはーい、新聞部副部長、2年生でーす。まずは話題の男子ふたりにインタビュー、行ってみよー!……ってあれ?もう一人は?」

「あれ?そう言えば巧はどこだ?」

 あいつ時々いなくなるよな。あのクラス代表決定戦の後もそうだし毎日の鍛錬の後もそうだし。

「まあいいわ、あの子結構な頻度で整備室で4組の子と話してるからその時を狙えば良いし」

 ほほう、整備室。などと考えているうちにあっさり逃げ場が無くなる。なんでさ…

 

「ではずばり一夏くん、クラス代表になった感想は?」

 そんなキラキラした目でボイスレコーダーを向けられても……

 

ーーーーー

side巧

 ふう、ここまで来ればしばらくは安全だろう。

 

「お、たっくーじゃん。なになに、パーティーが面倒で逃げてきたの?」

「当たり。そういう布仏さん……じゃなくて、のほほんさんも?」

「んーんー?わたしはねー、友達に差し入れを持ってきたのです。ほら」

 うわ、かなり本格的なお弁当。これはきっと……

 

「かなり高級な冷凍食品とか使ってますな。美味しそうだ」

「ざんねーん、これ、実はぜーんぶ、わたしの手作りなんだよー」

「マジかー。女子って凄いんだな」

 いや本当に凄い。しかしまあ、そういう意味では凄く新鮮な体験だ。全部手作りの弁当をこんなにまじまじと見つめたのは初めてなのでは?俺の両親は料理とか全然出来ない人だったから普段の食事からして冷凍食品とか缶詰とかで、たまに出前取ることもあったな。3週間に1回くらい。

 

「うーん、やっぱりここには居ないみたいだ。わたしは違う場所探してみるけど、見つけたら連絡してねー」

 そう言ってふわふわした足取りののほほんさんは整備室から出ていった。

 うん、それはいいのだが。

 

「俺のほほんさんの連絡先知らねえし。つーかそもそもその探してる友達の名前も特徴も知らねえし……というかあの弁当ここでは食えないから差し入れにはあまり適さないのでは?」

 とまあ1人虚しく虚空にツッコミを入れるなどしつつ、作業の準備を始めて数分後。

 

「ふぅ……疲れた」

 聞き覚えのある声がしたかと思えば、隣に来たのはいつもの眼鏡っ娘。なにやら疲れている模様。

 

「どうした?10秒メシ飲むか?」

 灰影に常備してあるゼリー飲料を取り出しながら問う。

 

「ありがと。……ぷはー、生き返る」

「まだ死ぬな。んで?どうしたんだ?」

 この眼鏡っ娘は見かけによらずタフだ、少なくとも腕立て伏せが20回は出来る程度には。そんなタフなこの眼鏡っ娘が疲れたとなると、これは相当面倒な案件なのでは?

 

「食堂に忘れ物をして、取りに戻ったらあのお祭り騒ぎ」

「あー…織斑一夏クラス代表就任パーティーか。一夏のこと苦手だもんねそういえば」

「それに危うく新聞部に捕まるところだった」

「報道機関に醜聞は付き物だからな……いや、もはや憑依(ひょうい)の憑で憑き物(つきもの)か?そういえば俺の両親もネグレクトだ、って週刊誌に叩かれてたっけ。いやここの本屋の投げ売りコーナーに置いてあった奴しか見たことないけど」

「ネグレクト…だったの?」

「ないない、それこそまさかだ。そりゃまあ、普段から冷凍食品や多めに炊いて冷凍した飯、レトルト、缶詰ばっかりでいわゆる『手料理』なんてのはほとんど食べたこと無いけどさ。それでも仕事でクソほど忙しいのに最低でも毎日朝晩家で一緒に食べてたし、公園で遊んだ思い出は無いけど仕事場によく連れてってもらってたしそこで特撮とか工学とか色々話してたし楽しかった。アレ今考えたら死ぬほど迷惑だった気もするな……よく追い出されなかったな俺……」

「虐待されてないみたいで良かった。私の両親は…うん、とても厳しい人達だったけど、それでも良かった、かな」

 何故過去形なのか…は、聞かないでおこう。別段、聞くべき内容でもない。他者の知られたくないプライバシーに侵入するのは良くない。

 

「あ、さっきまでの話と全く関係ないんだけどさ、」

「なに?」

「多分そこの計算間違えてるわ。その倍率だと多分右膝の皿の装甲だけめちゃくちゃでかい変な機体になるぞ」

「……あ」

 ま、湿っぽい話をしても特にいいことは起きないし、建設的な話をするのが大切だ…って、これは母さんからの受け売りだけどね。

 

「っていうか、それってもしかして打鉄の改造案?フレームの構造がまるっきり打鉄だし、装甲分割も打鉄っぽいし…あ、でもそんなに防御は意識しないでデフォルトで火器を積んでその上で機動重視なのか。打鉄っていうよりむしろ撃鉄(うちがね)って印象だな。まぁ、超長距離射撃パッケージの方とは関係ないけどさ」

「わかるの?……でもごめん、この機体については秘密」

「あー、ごめんね。打鉄は俺も乗ったことのある機体だからさ、ついつい興奮しちゃってね」

 3年かけてブラッシュアップして、卒業と同時に持ち込みで即戦力アピール…ってところか?だとすると一人でやらないといけないし、結構大変だな。

 というか、打鉄なんて近接機を作った倉持技研が果たしてこれを受け入れるのかって疑問はあるにせよ、あっちに持っていかれるのも笏だな……早いうちに大森に興味持ってもらうようになんかパンフレットでも渡すか?

 

ーーーーー

side???

「ふうん、ここがIS学園…ね。総合受付ってどこかしら」

 まったく、もし空港でトラブルが無かったら、もう少し早いうちに着いたのに…

 っていうか、出迎えが無いのはまぁ良いとしても、なんで案内スタッフの一人も用意してくれないのよ政府の連中も。15歳をこんな遠くに放り込むのに、何も思うところは無いわけ?

「はぁ、まあ良いけど。にしても面倒ね……空飛んで探そうかしら」

 まあ、しないけど。あの電話帳並みの厚さの『学園内重要規約書』とやらに『無許可のIS展開は基本的に処罰の対象となる』って書いてあったし。こういうルールは案外融通が効くのがデフォルトだけど、それでもまだ転入手続きをやってない私がそれを破るのは流石に大問題になりそうな気がするし。っていうか、『大問題になるからやめてくれ』ってお偉いさんに頭下げられたし。

 にしても、普段偉そうにしてる連中がみんなあんなに私にペコペコしてたのはちょっとスッキリしたわね。まあ、これ話したら性格悪い奴って思われそうだし、自重するけど。

 

「にしても無理矢理IS学園転入の前倒しを認めさせて正解ね。()()()()()()()()()()も味わえたし」

 懐かしい字体の漢字、懐かしいひらがな、懐かしいカタカナ……!

 

「この緑茶も、向こうのは味が違うのよね」

 さて、気を取り直して、総合受付を探さなきゃね!




いつも御愛読ありがとうございます。これで第1章は終わりです。次回からは第2章「転入生注意報発令中」が始まります。
では、また来週!
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