あり得ない特典でぼっち旅 作:裏界の鈴風
長々と変な爺の話をまとめると、
『人間と魔族が争っていてヤバイから神様があんたらを呼んだよ、だから戦ってね、あ、帰れるかどうかは神様しだいなんでよろ☆』である。
ハハッ、まじふざけんな。
うちの愛され系教師の愛子先生も反対姿勢だったけど、なんか一部のアホのせいで戦うことになりそう、まじツラタン。
それでさっき配られたのがこのステータスプレートなるのも。何でも持ち主の天職やステータス、更に技能などを表示してくれるらしい。
ちなみにさっきのアホのステータスはこちら。
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天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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平均がステが10、技能も二つ三つくらいらしいが勇者に恥じない頭おかしいステータスになっている。そこまでして戦いたいのか貴様。
まあ、それはいい。あいつはあいつで激戦区辺りに放り込まれて修羅ってればいい。
さっきのことを踏まえて見てもらいたい私のステータスがこちら。
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黒海みく 17歳 レベル1
天職:???
筋力:3
体力:9
耐性:3
敏捷:9
魔力:9
魔耐:3
技能:言語理解・『稼働率_0%』
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な ん だ こ れ。
まず天職が不明だわ、ステータスが平均以下だわ、技能もないわとないない尽くしである。
ねーねー、騎士のメルドさーん、これどーゆーこと?
……あ、いやすいません、そんなに真剣に悩まないでください冗談ですはい。多分不具合か何かですよね。え?稼働率についても心当たりなし?それはまあしょうがないですね。貴方は悪くないのでそんな哀れむような視線をこちらに向けないで下さい。
ねーねーそこの男子ー、たった今その南雲より最弱兼最役立たずが更新されたよー、ほら笑えよ、さっきみたいによー(やけくそ)。
……けっ、ノリの悪い奴らめ、そそくさと逃げ出しやがった。いっそ笑ってくれた方が楽だって言うのによー。
何? 助けてくれてありがとう? 別にあんたのためじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!(ツンデレ風)
まあ、弱者同士これから仲良くしようね。クラスで話した覚えそこまでないけど。
大体二週間くらい経過したかな。
最初は戸惑っていた皆もここの生活に順応し始めてる。
南雲は南雲で訓練の成果が出ないから今は知識方面の訓練に変更されている、哀れ。
たまにクラスのゴミどもが虐めたりするがそれは賢いこの私が直ぐに南雲に惚れてる白崎やクラスの良心八重樫を連れてきたりしてる。
……天之河? あいつ連れてくるくらいなら私が捨て身特攻する。あの頭お花畑は話すだけ無駄。
南雲はこの二週間でレベルが2に、ステータスがオール12になったらしい。泣けるぜ、何がとは言わないけど。
ちなみに私はこんな感じ。
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黒海みく 17歳 レベル2
天職:???
筋力:6
体力:10
耐性:8
敏捷:14
魔力:13
魔耐:6
技能:歌唱・武芸百般・??操作・言語理解・『稼働率_4%』
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相変わらず虚しいステータスだけど、いくつか技能が追加され、稼働率も上がった。
歌唱は文字通り歌を上手く歌える技能、実験した結果歌の内容によって効果が異なるみたい。戦いの歌なら戦闘系のバフ、癒しの歌なら回復系のバフみたいな。……どこぞのガングニールかな。
武技百般はそのまま様々な戦いができる技能。試しに槍やら剣やら使ってみたけどまるで手足のように自在に扱うことができた。
??のこれは……なんだろう説明が難しい。意識すると周りがゆっくりになったり逆に遅くしたりできるから多分加減速系の何かだと思う。クロックアップみたいな。
これは多分稼働率が上がれば技能が追加される感じっぽい? 稼働率を上げていけば後々いろいろと有利なことになりそう。 ……このことだれにも話していないけど。
南雲には悪いけど、私は今誰も信用していない。
狂信じみたあの爺やそれを疑わないこの国、更には今から何をしようとしているのか理解しないクラスのアホども。ぶっちゃけ信用できる要素が何もない。
だからこそ、これは誰にも話さない。何に利用されるか分かったもんじゃないし、あいつらの力になんかなりなくない。
しかし、運命とは私の思惑通りに進む訳がなく。
明日、この国のダンジョンとも言える【オルクス大迷宮】への遠征が決定されてしまったのだった。
ーー南雲ハジメ視点ーー
「なんだこれ子供並みじゃねえか!」
「役立たずにもほどがあんだろ!」
「こいつすぐ死ぬぜ! 肉盾にもならんとかww」
最弱、役立たず。それがたった今僕に貼られたレッテルだ。
それも当然かもしれない。ステータスも平均、天職すらもありふれたもの、国を救うために呼ばれた集団の中でただ一人だけ一般人。
目の前にいるこいつらすら僕の何倍もステータスや技能がある。
ああ、これが僕にあたれられた役割なのかな。と諦めかけた時だった。
「ねーねーそこの男子ー、たった今その南雲より最弱兼最役立たずが更新されたよー」
そう言いながら彼女はやって来た。
黒髪にツインテールで前髪で片眼を隠した少女、黒海みく、クラスでは目立たないほうだけどボッチという訳じゃなく、話せば気さくな性格でその気さえあれば白崎に負けないくらいの人気者になれそうな人だ。
そんな彼女が見せてきたステータスプレートは……、僕のがまだましに見えるくらい弱くて、天職すらも不明という有り様だった。
「ほら笑えよ、さっきみたいによー」
けらけらと笑うその様に気圧されたのか、それとも僕を虐める理由がなくなったからか、あいつらは直ぐ様に逃げていった。
「けっ、ノリの悪い奴らめ」
「あ、あの」
そう言いながら立ち去ろうとする彼女を引き留める。
「ごめん、助けてくれてありがとう」
お礼を言うと彼女は少し考えてから。
「べ、別にあんたのためじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
と軽いツンデレのような返しをしてきた。
一瞬呆気にとられたが、直ぐに彼女が舌をだして笑ったことで、これも1つの冗談だと言うことに気がついた。
「キヒヒヒ、まあ弱者同士これからよろしくね」
そう言う彼女はどこか儚げで、目を離したら居なくなってしまいそうな危機感を覚えたことは、とても印象に残った。
二週間が経ち、僕たちは自然と共に過ごすことが多くなった。
ステータスを挙げる訓練は思ったような成果が出ず、黒海さんも同じだったようでもっぱら僕は錬金術の本を、彼女は地理や歴史の本を読んでいることが多い。
本来なら彼女にあった訓練をすべきなのだが、天職もわからない以上どうすることもできないとメルド団長も悩んでいた。
だからと言って肉体面の訓練をしないと言うわけでもなく、毎回ちゃんと参加している。
彼女もそれに付き合ってくれているおかげであの小悪党四人組に絡まれることも少なくなった。一人になった所を狙われることもあったが、そその時はなぜかよく白崎さんや八重樫さんが駆けつけてくれる。男としては情けない限りだけど、これは本当に助かっている。……小悪党四人組の嫌な視線が更に強くなるのを除けば。
【オルクス大迷宮】への遠征、それは正しく僕の運命の分岐点だったと言える。
最弱の僕らでも行ける浅い階層での訓練、足手まといとわかりつつも、僕らはついていくしかなかった。
どこか浮わついたクラスメイト、迂闊に大技を繰り出す天之河、話を聞かない小悪党四人組。だからあの悲劇が起きたのは当然だったと今でも思う。
「ベヒモス……だと……」
それはあの時の僕らで太刀打ちできるレベルを遥かに越えた猛獣。そいつが召喚してくるトラウムソルジャーですら三十八階クラスの強敵で、たちまち僕らは混乱状態に陥った。
そもそもの元凶は話を聞かずに罠に触れた檜山、小悪党のリーダー格、だったがそれはもうどうでもいい。あの時の僕らは生き残るのに必死だったから。
「黒海さんは!?」
僕よりもステータスが低く、戦いに向かない彼女があれらに襲われればひとたまりもない。
急いで彼女を探すと……、なぜか最前線にいた。
そして、同時に信じられないものを見た。
「♪~」
彼女は鼻歌を歌いながら幾つも迫り来るトラウムソルジャーの攻撃を避け、的確にクラスメイトを助け出していた。
あえて自身からは攻撃せず、避けて受け流して、更には同士討ちさせて、彼女は戦っていた。
戦闘系の技能もなく、ステータスも低いのに誰よりも勇ましいその様に僕も勇気づけられた。
天之河君を説得し、メルド団長の許可を得て、僕はたった一人でベヒモスの足止めをした。
迷宮の一部を練成するという錬金術師らしいやり方で僕は必死にベヒモスに集中していた。
だからこそ、僕は味方からの悪意に気づくことが出来なかった。
クラスメイトたちの撤退の準備が済み、僕の魔力が尽き掛けたころ、僕は最後の練成をするとすぐさま駆け出した。
数秒後、ベヒモスは拘束を砕き、怒りに染まった瞳を僕に向ける。
それに恐怖を覚えつつ、クラスメイトたちがいる橋の向こう側へ急ぐ。
クラスメイトたちの様々な光を放つ魔法が流星のように僕のすぐ傍を走り抜ける。
数々の魔法がダメージを与えられずともベヒモスを足止めし、僕はその間に逃げるはずだった。
一つの魔法、一つの火球が僕に狙いを定めるまでは。
(なんで!?)
理解が出来なかった。信じられなかった。
これはミスではなく明らかに僕を狙ったものだと理解できていたし、同時にそんな人間がいたということを信じたくなかった。
視界が灰色に染まる。火球がゆっくりと僕に近づいてくる。
まるで交通事故に遭った被害者が経験するような遅延した時間の中に僕はいた。
けど、いくら感覚が鋭くなったって僕がその分早く動けるわけではない。
所詮は先延ばし、精々が覚悟を決めるくらいにしかできない……と思っていた。
「まったく、仕方ないなぁ南雲君は」
あり得ない声が聞こえた、そして誰かに突き飛ばされた。
情けなく地面に転がり、直ぐにそちらを見てみれば……僕の代わりに火球に身を焼かれる黒海さんの姿があった。
火球に焼かれ、力なく地面に転がる彼女。
僕よりもステータスが弱い彼女がそれを受けたらどうなるか、考えるまでもなかった。
「黒海さん!!」
直ぐに彼女の元へ駆け寄る。
抱き上げると呼吸は弱いものの生きているのがわかった。
「グルァァァァァアアアアア」
しかし、安心はできない。
後ろからはあの怪物が迫っているのだから。
「くそっ!」
彼女を抱いてその場から飛び退く。
少し遅れてさっきまで僕らがいた場所にベヒモスの体当たりが突き刺さる。
物凄い衝撃に危うくバランスを崩しそうになるが、本当の危険は直ぐにやって来た。
メキメキと嫌な音たてて、橋が崩壊し始めたのだ。
慌ててクラスメイトたちの方を見て、理解した。
例え、有り得ないが、黒海さんを見捨て僕一人で走った処で到底間に合わないのだと。どう足掻いても僕らはこの橋と運命を共にするのだと。
そして、ベヒモスを中心に橋が砕け始め、白崎さんやクラスメイトたちの悲鳴を聞きながら、僕らは谷底へ落ちていった。
ーー???ーー
ーー
ーー周囲に医療施設、なし。
ーー危険生物、多数。
ーー危機的状況と判断、稼働率の急速上昇の開始。
ーー40 ーー65 ーー80 ーー99、100。
ーー稼働率100%に到達。適正化を開始します。
ーー3、2、1。 適正化完了。問題は検出されず。
ーー現時点を持って、当プログラムをアンインストールします。
ーーそれでは黒海みく様、貴女の人生に幸があらんことを。