あり得ない特典でぼっち旅 作:裏界の鈴風
ライセン大峡谷、それはこの大陸を北南にわけるほど巨大な峡谷。
またその中では魔法が使えず、更には強力な魔物たちが蔓延っており、まともな人間ならば近づこうとしない危険地帯である。
そんな大峡谷の岸壁、そこにある僅かな隙間を覗き込む不審者が一人、というか私である。
なんでそんなことをしているのかというと、そこにこんな文字の看板が書かれていたからである。
『おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪』
「……」
はて、これをどうとるべきだろう?
罠、では無いと思う。こんな場所に罠を仕掛ける理由もないし、そもそも大迷宮のこと自体知られてないはずだから。
となればやはりこれは本物で、この先に大迷宮があると考えるのが道理。
なら行くしかないか。
覚悟を決めて奥の壁を調べてみると。
ガコンッ! ガッ!
奥の壁が忍者屋敷の隠し扉のごとく回転し、後頭部に直撃する。
おぉぉぅ……、痛くはないけど思わず頭を押さえる。
何だ何だと思い中に入って見ようとすると、無数の矢が飛んできた。
「ム」
思わずツインネッギで切り伏せる。
成る程入ったと油断させたところで殺る、中々に殺意高めの罠かな。
次に飛んでこないことを確認すると、ゆっくり中に進む。
そしてすぐ目の前に設置されていた石盤の文字を読むと、こう書いてあった。
『ビビった? ねぇ、ビビっちゃた? チビってたりして、ニヤニヤ』
『それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ』
…………中々にこの迷宮の主は愉快な性格をしている。あれかな、この迷宮のコンセプトは《どんな時でも失われることのない冷静さ》なのか疑いたくなる。
気を取り直してこの迷宮の攻略を始めた私だったが、これがもう酷かった。
至る所罠罠罠に同じくらい罠に掛かった人を煽る文書が刻まれていた。
なぜかトリモチが落ちてくる部屋なり、サソリまみれの部屋なり、挙げ句の果てに鉄球が追いかけてくる部屋もあった、しかも鉄球を壊すと酸入り鉄球になるおまけつき。
一番心に来たのはアレ、スタート地点に戻されたやつ。
その時の文がこれ。
『ねぇ、今、どんな気持ち?』
『苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?』
『ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ』
『あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します』
『いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです』
『嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!』
『ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です』
『ひょっとして作ちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー』
マッピングというのは考えてなかったが無理ならやめておいた方がいいかな。実際に初めに来たときと部屋の感じが変化しているし、やっぱ変わってるんだろうなぁ。あと、個人的には再構成よりも魔物がほしかったな。
ん~、幾つか方法がないこともないけど、あまり時間を使いたくないのだよね。
…………まぁ何度もスタート地点に戻されるよりかはましかな。
「起動、探索開始」
オルクス大迷宮でも活躍したニンフのレーダーである。
正直チートしているようであまりいい気分じゃないけど、そっちがその気ならこっちも手段を選んでられない。
ゴールと思われる広間を発見、そこまでの最短ルートを検索し、全力で飛んだ。
どんな罠でも当たる前に避けてしまえば意味がない。
タライも鉄球も謎の鉄鎧騎士たちも私の早さに追い付けず、前から後ろへと消えて行く。
そうして鉄鎧の騎士が追いかけてきた部屋を駆け抜けると、この迷宮で恐らくは一番広い空間へたどり着いた。
重力に逆らい空に浮く石畳、まるでマ○オの空中ブロックか○ックマンの落ちる足場を連想させる。
そのブロックを渡り不可思議な空間を調べるが、出口が見当たらない。
その時は上方に巨大な反応を探知したので見上げてみると。
「?」
何かがすごい速度で近づいてくるのが見えた。多分、銃弾位は速い。
いや、それだけならまだいい。問題はその大きさ。
私の身長より何倍も大きいそれ、超巨大サイズの鎧騎士が私めがけて迫って来ているということ。
まともにくらえば私でも大ダメージ入りそう。……訂正、普通に死にそうだわあれ。
ちょっと距離を取り、避けることにする。
直後、ギリ目で追える速さで私がいた足場を彗星のように破壊し、通り過ぎる巨大騎士。
さて、次はどう来る? 警戒しつつも好奇心からワクワクとした気持ちが抑えられない。
左手に★Rock Cannon、右手にカイサツソードで待ち構える。
さぁ! どっからでもかかってこーい!
私の心中を察したのかは解らないけど、下方に落ちた巨大騎士が急激に上昇し、私の目の前で停止する。
まるでこの石畳のように重力を無視して浮かぶそれ。
右手は熱を持っているのか赤色に変色し、左手にはまるでガン○ムハンマーのようなモーニングスターを装備している。
どちらも常人がくらえば即死級の代物。しかし私は狼狽えない恐れない退かない。
さぁさぁさぁ、ここに来て私のテンションはマックスボルテージ! いざ尋常に、勝負しよう!
…………と思っていた私の心に冷水をぶっかけるような出来事が起きた。
「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」
目の前の巨大騎士が喋ったのだ。それも可愛らしい女の声で。
まるで水平線のように静まる私の心。アレだけ高かったテンションもまるで学校で授業を受ける五秒前くらいに駄々下がりである。
えー、ナイワー。
「ナイワー」
「ちょっとそれ酷くない!? 速すぎてやっと捉えたと思えばダメ出しって! 君のせいで途中のゴーレムたちなんて全員おいてけぼりで追い付かせるに苦労したんだからね!!」
そう言えばそんなのいたな、と思うと周囲に浮かぶ鎧騎士に気がつく。
総勢約五十、それだけの数を操作しているというのなら確かには大変だったのかもしれない。お疲れさま、私は謝らないけど。
「それで、私は名乗ったんだから何か返そうよ~、挨拶は最低限の礼儀だよ? 顔は見えないけど人間なら常識的に考えてよね全く」
(´~`)、という顔文字が浮かびそうな台詞。そして両手を上げてやれやれといったポーズ。もしくはゴリアピ。
仕方ないので相手をすることにした。
『それは失礼失礼、わたくし黒海みくと申します』
『ミレディ様におかれましては本日はお日柄もよく、正々堂々勝負したいと思います』
『ああ顔を明かさない事に関してはノータッチでお願いします、正直魔物すら逃げ出す怪物級の恐ろしさですのであまり追及なさらない方がよろしいかと』
『あと迷宮を駆け抜けたことについては謝るつもりは「長い長い! ちょっと待ってどれだけ書くつもりなの!? 長くて小さくて読みづらいにもほどがあるよ!」……ちっ』
「今舌打ちした!? しかもわざわざ看板で舌打ちしたよね!? なにこの子怖いんですけど!」
ついつい楽しくなってイタズラしてしまった。
あれだね、ここ最近誰とも話してないからつい弄んでしまった。
「ていうかさっき普通に話してたよね、何? キャラ付け? 痛いから止めた方がいいよ?」
『単語や短文程度なら話せるんだけどねー、長文会話文になるとこっちの方が楽なの』
「はぁー大変なんだね~、まあ私には関係ないけど! で、君はどうしてここに来たのかな?」
『迷宮攻略がしたくて、ついでに神さまをぶっ殺そうかなぁって』
「……へぇ」
私がそのプラカードを出した途端、彼女の雰囲気が変わった。
「どうしてそう思ったのかな? いや、もしかしてもう何処かの迷宮を攻略した後だったり?」
『オルクス大迷宮でオスカーの遺言を聞いたから』
「あー、そっかぁオーちゃんの所かぁ……」
懐かしそうに呟く彼女。
それもそうか、彼女からすればすごい前に死に別れた仲間なのだから思うところもあるのかもしれない。
ミレディ、その名前はオスカーの手記に記されていた。活発でよく人を煽ったり笑っていた少女として書かれていたが、今はもう見る影がないどころか巨大騎士である。どこの悪の組織に改造されればこうなるのか実に興味深い。
……私も似たようなものか。
「ま、私としてはあのクソ野郎どもを滅殺してくれればそれでいいんだけど、弱い奴に神代魔法はあげらんないよぅ~」
『大丈夫、殺してでも奪い取るから❤』
怖っ、とふざけながらも戦闘体勢になるミレディ。結構私たち気が合うのかもしれない。
「私って結構強いけどぉ、死なないようにがんばってねぇ~」
こうして、ライセン大迷宮最後の試練。ミレディ・ライセンとの戦いが始まった。
ミレディの会話文すごい大変。
そして気づく、会話がないと話がやばいほど早く進む。