私が凪であること   作:キルメド

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DNMICビル潜入作戦から日にちを置いて山風部隊、凪の部隊は再び動き出す。日本の平和を守るという信念を胸に。


終章:素敵な日常

DNMICビル潜入任務から三日経った。

「機動隊からの補充要員〜?いたんすねそんな奴」

「当然だ。もちろん俺達と同様に試験を通過した者でそれなりに優秀な問題児だ」

山風部隊には呉田が抜けた穴を埋める人間が選出されて今日配属されることが通達された。

「急な話ねぇ……ってことはもうすぐ来るわけかぁ」

「よし!氷村さん!クラッカーないから紐テープ準備!」

「いやそんなのないから」

任務の一件があったが、詩宮は元気を取り戻していた。結局下を向いていても何も進まないことを感じていた。だから立ち直るしかないとひたすら言い聞かせていた。

「早速次の任務に参加させるんですか?」

「当然だ。とりあえずは前線に立たせる」

山風部隊の任務復帰はしばらく後になる。部隊の統括そのものが今は機能停止になっている。それでも自分達はまた動かねばならないという確信のもと、誰にも言われずとも彼ら彼女らは再結集している。

「それで名前は鏡の城でミシロくんかぁ。年齢は20歳!!私より若い!最年少返上だー!」

「いや秋生まれだから同い年、詩宮とは最年少タイだな」

「ブーブー!月単位なら私の方がお姉さん!テルミちゃんのイジワル!」

最近の詩宮に変わったことがあるかと言えば、照見との絡みが増えたことだろうか。元から唯一の女性隊員同士で仲が良かったが、任務以降さらに繋がりが深くなったように見える。実際に何があったのか知る人間は少ないだろう。

「それじゃあ新入隊員出迎え用に作った特別トレーニングメニューを使うか。もちろん別途追加メニューのくじ引き付き」

「……ハードだなぁ」

仁木の乾いた声以外聞こえなくなる。先ほどまで盛り上がっていた隊員達沈んでいる。金眼の作るメニューとくじ引きによる追加メニュー、いずれにしてもハードなことは数少ない経験からでも十分に身に染みている。

「そうやる気をなくすな。凪の部隊にあんなところ見せられたんだ。俺達も負けてられん」

「それもそうですね!!よし!みんな頑張りましょう!」

ただ一人詩宮だけはやる気を見せている。それに氷村も便乗する。

「おー、詩宮ちゃんやる気あるなぁ。俺も詩宮ちゃんと一緒にガンボォ!」

即刻照見にしばかれた。おそらく氷村の動機が不純と判断したのだろう。

「あーあー。氷村はいざとなったら俺が抑えとくわ」

「頼むわよ」

詩宮が変われば照見も変わる。一段と詩宮に対して過保護になった気がした。詩宮を立ち直らせるために彼女の弱い部分を見ていたのかもしれない。

空いた穴は大きく深い。それでも自分達なりにすぐに動き出す。その精神も山風部隊に選ばれた故なのだろう。共同戦線で自分達と同じ少数精鋭部隊、凪の部隊への対抗意識も生まれた。

「それじゃあ新人を迎え次第、山風部隊再始動と行くか!」

自分達の役割を理解している。彼らが正式に動き出す日も近いだろう。新たな戦力と共に山風部隊が前線に立つ日も近いだろう。

 

 

 

同じ日の夜。ヨモギの尽力もあって謹慎中の飛粋の処遇は凪の部隊のノルマを上げることに止まった。

そして凪の部隊にとある任務が与えられ四人は空を飛んでいた。

「今回の任務はキリのアジトへの潜入及び無力化じゃ。宍戸を始めとした構成員が捕縛されキリは追い詰められている。奴らを成敗する時が来たというわけじゃ」

ハッチが開くと下には富士の樹海が広がっている。キリは富士山の麓にアジトへの入り口を作っていることが構成員達への尋問で発覚した。凪の部隊に与えられた任務はその出入口のポイントを見つけ出し、内部へと潜入して無力化すること。

「まずは二つの出入口に向かうんだったな。おっ、そろそろ降下ポイントか。行くぜ不動!」

「うん!準備オッケーだよ愛染!」

既にハッチから降りる準備はできている。不動も前の任務での謹慎が解かれサッパリとした表情を見せている。

「よーし!それじゃあ、行ってらっしゃい!」

「っしゃあ!愛染、進発するぜ!」

「不動、進発します!」

高らかに叫び二人は飛び降りた。その背中に不安は全くない。体はむしろちょうどいい高揚状態と言えるほど絶好調だ。

「開けパラ!」

通信機に暗号を送りパラシュートが開く。樹海の木に引っ掛けながら着地した。もちろん証拠を残しておくつもりはない。

「閉じろパラ!」

もう一度通信機に暗号を送るとパラシュートが収納される。ベルトの中に収まったそれを二人はとても不思議がっていた。

「ほんっとこれ便利だなぁ。警察技術開発部の力ってすげー!」

「行くよ愛染。私達は囮なんだから」

富士の樹海に唐突にパラシュートを使って降下する。窮地に追い詰められ緊張したキリからすれば、すぐに兵を送り出し排除せねばいけない事態だった。

「おっと、手際が良いな。囲まれてるぜ」

「作戦の第一段階は成功だね。あとはこいつらを倒して」

「アタシ様達も突入するってわけだな!」

愛染が抜刀して不動が鉄線を伸ばす。周囲は木々で囲まれて月明かりさえも殆ど届かない樹海の中。そんな中でも二人は笑みを崩さなかった。

「行くぜ!」

「うん!」

不動と愛染の戦闘が始まったことが通信機に伝わり、軍荼利と孔雀も降下する。二人を感知することができたとしても、それらに割けるほどの余力をキリは持ち合わせていない。

「軍荼利、進発じゃ!」

「孔雀、進発するよ!」

すぐに入り口を発見して地下へと潜入した。当然内部にも構成員や傭兵がいるが、やはり数が少ない。おまけに相手は軍荼利と孔雀。内部の制圧にそう時間はかからないだろう。

「ヒャッホーゥ!今日は調子いいぜ!」

アジトの外では愛染が木々の間を駆け回りながら敵を次々に斬ってゆく。障害物が多い中での得物の不利を感じさせぬほど、自由自在の型で次々と敵を倒してゆく。

「残念。私はこっちだよ!」

不動も木々の間を飛び回りながら次々と鉄線に絡めとっていた。もちろん木々の間に罠を張り巡らせてもいる。敵の移動ポイントを奪い、確実に追い詰めてゆく戦法を取った。

「いいなぁ富士の樹海!アタシ様ここで鬼ごっこしてえ!」

「素敵!これ終わったら富士の樹海横断競争とかしようよ!」

敵よりも地の利を得ている。凪の部隊以前に二人とも山や樹海での立ち回りに慣れているためだろう。卓越した運動神経で圧倒する。

「これで最後!!」

気がつけば周りを取り囲んでいたキリとその傭兵部隊は全滅。死なない程度に倒されて拘束された。不思議と二人の中に疲労感はなかった。

「あっという間に終わったなぁ。どうするこれ」

「ヘリコプターだと何往復分だろう?いっぱいいたよね」

その分基地に潜入する二人が楽になるということだろう。その証拠に軍荼利と孔雀から通信が入った。

『こちら軍荼利、内部制圧完了。キリの首領も拘束した』

『こちら孔雀〜。セキュリティの確保も完了。基地の無力化成功だよ』

「ってことは作戦終了か。こちら愛染、とりあえず周りにいる奴らは全員ぶっ倒したぞ」

「今のところ他に人の気配はないです」

キリ自体が殆ど追い詰められていたこともあってあっさりと任務は完了した。前回の任務が異例すぎた事もある。

『そうか、二人ともよくやった。そのうち迎えが来るから待機していろ。決して鬼ごっこや自分の足で樹海を出るなど考えるのではないぞ』

「ゲッ、分かったよ。大人しくしてるよ」

しぶきに釘を刺され二人は大人しくその場に待機する。前とは違い空を見上げても月も星も殆ど見えなかった。

「あぁ、少し味気ねえなぁ。こんなとこに待機してても面白いこと何もないし」

「そうかな?私はゆらと一緒にいるの、幸せだよ」

「そっか。そういうもんなのか」

自然と身を寄せ合っていた。二人はただじっと待っているだけなのだが、何故か退屈感は消え失せていた。その理由に気付くのはもう少し後かもしれない。

 

任務から帰投し逆さ塔に戻った四人。休む間も無く次の任務がヨモギから言い渡された。出動は明日の夜だ。

「これからしばらくは連日任務が続くことになる。キツくなると思うが凪の部隊の信頼回復のためだ。耐えてくれ」

珍しくヨモギからそんな言葉が聞けた。しかしゆらは全く気にしていないようだった。

「ま、これくらいなら毎日来ても楽勝だぜ!今日のだってちょっと物足りねえかなぁって思ってたとこだ」

「そうか。なら疲れたあまり作戦会議中に居眠りする事も朝寝坊で遅刻する事もないわけだな」

「アタシ様は疲れてなくても寝るときは寝るぜ!」

ヨモギが痛いところを指摘するがそれでも動じないのがゆらだ。そして隣に座ったしぶきから強烈な一撃を貰うまでがセットになる。

「開き直るな!」

「うごごごごご」

そんな様子を見ていると自分がこの中にいる事を実感できる。この空気を暖かなものと感じることができた。

(私、ちゃんとみんなと一緒にいれるんだ)

飛粋はようやく一つの安心を手に入れた。ほんの短い謹慎期間と裏切り時間、それが過ぎ去って傷ついた心を皆が癒してくれる。

「どしたの飛粋ちゃん?急に泣き出しちゃって」

「え?あ、あれ?」

孔雀に言われるまで気が付かなかった。自然と大粒の涙が零れる。拭っても拭っても次から次に溢れてくる。思わず目の周りを手で覆ってしまった。

「飛粋!?安心しろ!これくらいすぐに寝て元気になるから!しぶきちのパンチなんて全然効かねえしオゴァ!!」

「安心しろ飛粋。加減はしている。見ておれ、ゆらはすぐに元気になるぞぉ」

「でんめぇ……あ、アタシ様ふっかーつ!どうだ飛粋!」

ほんの数秒間に二転三転する二人のやり取り。それを見て飛粋は大きく笑った。

「あっははは。やっぱり私ここにいていいんだ」

「何を今更言ってんのよ。飛粋ちゃんは凪の部隊の仲間、家族みたいなもんだよ」

涙を流しながら笑う飛粋のことを葉栖美がそっと抱き寄せる。家族という言葉に納得がいった。凪の部隊で感じる温もりは家族のそれと一緒だった。

「家族かぁ……差し詰め葉栖美が母親、しぶきが父親、飛粋とゆらが娘ってところだな」

「ん?じゃあばあさんはばあさんか?」

「オレはアレさ。お前達の事を見守る誰かってところだな」

「ハッハッハ、なんじゃそりゃ」

和気藹々とした空間の温もり、そして任務の緊張感。やっと二つが揃った。自分の人生にとってかけがえの無いものが、飛粋と不動が凪であることの証拠がようやく戻ってきた。

(ほんとに素敵な人達、私は今とっても幸せなんだ)

最後に残った澱みが涙ともに流れ落ちるように消えた。全ての歯車が誤作動なく動き始める。

「私、これからも頑張ります!この日本を守るために!」

凪の部隊の信頼回復にはあと少し時間がかかる。彼女達が空崎に向かうのはもう少し先の話であった。




これにて完結となります。凪の部隊にこんな話があったらいいなぁといった話を盛り込んでみました。心残りがあるとすれば飛粋のコピー能力を話の中に入れたかったなぁぐらいです。
最後まで閲覧ありがとうございました
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