凪の部隊は作戦を開始した。
連日雨という天気予報を聞くことが増えてきた。今日も予報通りに雨が降っていたが、日が沈むと共に止み綺麗な星空を見せてくれる。
「おお、流石に山に入るとよく見えるなぁ!」
「都会より綺麗だよね。新月だから月がないのが惜しいかな」
日本の各島には中心部にまるで背骨のように山脈が形成されている。四国山地は最大で2000m近くの山もあり、その途中からでも見上げる夜空は都会では中々拝めることのないものだ。
『仲良く空見るのも良いけどさぁ〜、2人とも準備できてる?』
耳に付けられた極小の無線機から孔雀の声が聞こえる。愛染と不動が呑気な事を呟いていたからだろう。
「大丈夫だって。アタシ様はいつでも突撃準備OKだぜ!」
『なら構わん。こちら軍荼利、愛染に合わせて突入可能じゃ』
「こちら不動、特攻組のサポート準備は完了してます。ターゲットの動きはどうですか?」
中腹地点にある1階建ての山小屋の周りを機械人形が数機で囲み外を見張る。情報の通りなら今頃は小屋の中では違法な輸入物の商談が行われている。
すでに山小屋は愛染と不動、軍荼利が二面での監視、更にはその奥から孔雀による無線傍受と彼女の動物達による監視の下にある。
「今のところ動きはなし。中の戦力は20程度、外に警護している人形が6つ。二面からの突入で何とかなるだろ」
『動物達によると、山の中に入ってきた人はいないってさ。まぁ雨降ってたし夜の山に好き好んで入る人はいないでしょ』
『傍受した通信でも増援の気配なし、か。このまま突入じゃな』
肉眼での確認を終えた。これ以上時間をかけるよりも一気に片付ける方が良いだろうという軍荼利の判断に全員が賛成する。
『じゃあ作戦開始。愛染、軍荼利、後から不動が行くからとりあえず突っ込んで〜』
「っしゃあ!愛染!進発するぜ!」
孔雀の合図で愛染飛び出した。泥濘んだ地面に敢えてバシャバシャと足音を立てて高速で接近する。その音に気付き人形のライトが照らされるとそこにはスーツを着て日本刀を二振り構えた女の姿があった。
「おるるぁ!」
まずはライトを向けた人形の両腕を切断、ついで搭乗者を確保。しかしその隠密とは言い難い様子を察知した他の人形兵が駆けつける。
『西方面から敵襲!至急迎撃と退避の準備を』
「十分に引き付けたな。軍荼利、進発じゃ!」
傍受した無線を聞いて軍荼利も飛び出す。愛染の方に向かおうとした人形兵の不意を突き、機体の側面を叩く。
「ぐおお!」
厚い鉄板の音と共にうめき声を上げて人形は機能を停止した。そしてすぐに近くにいたもう一つの人形にも攻撃する。
「こっちにも敵が」
「チェストぉ!」
2m半はある人形がそれよりも1mも小さい少女による正拳で容易く粉砕される。引きずり出された搭乗者の2人はすぐに気絶させられた。二方面からの襲撃、1分も経たぬ内に6体あった人形が既に半分潰された。
「では、邪魔するぞ!」
そして山小屋の壁になっている木材に拳を打ちつける。するといとも簡単に壁だった物は瓦礫に変わり吹き飛ぶ。そのまま軍荼利は内部に侵入した。
「撃て撃て!敵は1人だ!」
愛染に引き付けられた人形3体は、横並びになってライトで照らしながら捉えた人影を相手に搭載された機関銃を乱射する。
「へっへっへ、弾幕薄いぜ!」
その銃弾の中を歪な軌跡を描いて愛染は突撃する。確かに被弾しているのだが、それを意に介さず前進する。
「その銃はもう使えないよ」
そんな異様な光景に気を取られていた事もあり、すぐ近くまで伸びていた不動の鉄線に気付かなかった。理解させる間を与えず端の一体の腕が機関銃ごとバラバラになり攻撃能力を失い、その隙を的確に愛染が狙う。
「何!?もう1人」
「ハッハー!2つぅ!」
一体の損壊に狼狽えている間にもう片端の人形を破壊する。そして残った真ん中の人形は挟まれる身動きが取れなくなっていた。
「何だこれは!?なんなんだこいつら!?」
「最後ぉ!」
最後の人形も破壊される。搭乗者全員を拘束するとほぼ同時に外の騒ぎを聞きつけた兵士が山小屋から飛び出してくる。
「おっしゃ!こっちは正面突破だ!!」
「了解!」
10数人以上を相手にして愛染は尚も前進する。もちろん敵も武器を持っている。刀や電撃棒を持った敵が前に出て接近戦を狙うと同時に銃を持った敵は距離を開けての射撃を狙う。
「狙わせないよ!ゴー!」
そこに孔雀が現場から駆けつけて合図をする。
「何だこいつら!いきなり」
しかし後ろで構えていた銃兵の元に何かが飛んできた。後から駆けつけた孔雀の指示で飛びかかったのは、先程まで屋根の上にいたフクロウ達だ。夜行性なためこの時間はかなり機敏に動き、猛禽類の鋭い爪が敵を襲う。
「配置完了!そおぉれ!!」
フクロウが注意を逸らしている間に鉄線で周辺を囲み一気に引っ張る。するとあっという間に銃兵は拘束された。
「ナイス一本釣り!」
接近戦を仕掛けていた敵はあえなく愛染に倒された。愛染も顔や体にいくつか攻撃を受けているが、本人はケロっとしている。
これで外で監視していた人形と出てきた者は全員確保。残ったのは内部で護衛をしている者と交渉をしている者達だが
『こちら軍荼利、内部制圧完了』
既に内部に突入していた軍荼利によって確保された。
「早!さっすが隊長!」
『お前達の方が大仕事じゃろう。こちらは5人の巨漢護衛と交渉していた2人、あと壁を壊したくらいじゃ』
「しぶきち〜、そういうの事後処理大変なんだけど。まぁとりあえず警察に連絡しとくね」
彼女達の争った痕跡は極力残したくないのだが、隊長である軍荼利は時折力任せに物事を解決することもある。今回の場合はそれが良かったのだが。
「まぁいいんじゃねえの?熊が壊したとか言っとけばさ。しぶきちなんて熊みたいなもんだろ」
『誰が熊じゃ!』
軍荼利が開けた穴の大きさから考えれば痕跡を消すことは不可能。一度山小屋を建て直すか、あるいは修繕してそう言った嘘の釈明をするしかない。
「ゆらちゃん!そんなこと言ったら失礼だよ」
「熊にだろ?」
「隊長にだよ!」
『ふふーん……流石は飛粋じゃ。乙女心が分かっておるのぉ』
「熊程度じゃあんな壊し方できないし、隊長の怪力は熊よりももっと凄いんだもん!」
「飛粋ちゃん、多分それアウトよ」
不動は九州の山中で育ったこともあり野生の熊もその目で見ている。それだけに説得力は強く、意図せず軍荼利の心を逆なでした。
「貴様らぁ!」
怒りに任せて小屋から軍荼利が飛び出す。熊よりも遥かに速く力強く2人に襲いかかったのだった。
その後、葉栖美が呼んだ警察が来る頃にはゆらと飛粋が頭に大きなたんこぶを付けていた。現地警察と身柄の引き渡しを行った後はさっさと退却する。
「いったたた。しぶきちの奴、手加減したのは分かるけどめっちゃ痛いぞ」
そして任務を終えた飛粋とゆらは帰りのヘリコプターの中で傷の手当てをしていた。もっとも飛粋の怪我はしぶきの拳骨を食らった時のもので、その殆どはゆらに費やされていた。
「銃撃の傷だけじゃなくて切り傷や痣もあるんだけど」
「ああ、流石にあんだけ囲まれるといくつか貰っちまうぜ。大した傷にはなんねえけどな!」
そう言って傷薬を塗られるとそこに絆創膏を貼られる。傷に対して明らかにミスマッチな代物だが、超人的な回復力を持つゆらにはこれで十分なのだ。
「それにほらアレだ。敵の攻撃を受けきってからカウンターで倒すんだよ!後の先ってやつ!」
「あはは、全部受けきってから倒してるならプロレスじゃん」
ゆらが言ってる理論は後の先とは全く異なる。敢えて言うなら先も後も過ぎた後に攻撃をしているようなものだ。
「でも痛いんだよね?ゆらちゃん大丈夫?」
「痛いな、まぁこんなのは慣れだいでででで!」
飛粋の心配する言葉をクールぶっていたが、腕の切り傷に消毒用の綿で触れられて悲鳴をあげる。
「でもまぁこれがアタシ様のやり方だからな!飛粋は真似すんなよ」
「これはゆらにしかできん方法じゃ。ゆらが1番に突っ込むからそれを陽動に使える。今回のように二面作戦に置いて、そのまま突っ込ませて突破することも、敵を誘い出して殲滅するのも可能。自由自在じゃ」
本部との報告を終えたしぶきがゆらの様子を伺う。彼女が言うようにゆらが1番に突っ込むことによって多角的な作戦を展開できる。
「ゆらちゃんもそのやり方の方が乗ってるしね」
「アタシ様がこんな事で死なないってのはやり合ったみんなが1番知ってるだろ?」
「それは信頼してるけど、痛いの我慢しすぎないでね」
分かってはいるのだが、それでも心配で仕方がない。ゆらはそれだけ飛粋にとって大切な人なのだ。
「飛粋は優しい子じゃな、よしよし」
「いたた、隊長そこは」
「あ、すまぬ」
しぶきが年上としてまだ垢抜けない飛粋の頭を撫でるが、そこにはちょうど今撫でているしぶきの手によって作られたたんこぶがあった。
「はっはっは!いや本当に面白いな!ここは」
その光景を見て痛みも一緒に飛ばすようにゆらは高らかに笑っていた。
「やはりシラサギと交渉していたのはリグですか。末端では出どころを漁るのは難しいかと」
そんな豪快な笑い声が届かぬ所、通信により任務を受けるスパイがいた。
「ええ。ただシラサギの揺れは大きいのは間違いないです。僅かに空いた隙間から入り込むことも……では作戦に当たらせていただきます。目標はシラサギ内の情報、今回の交渉の裏、黒幕、クライアント、甘い蜜の出どころを」
凪の部隊とは別に警視庁上層部で一つの影が動き出していた。
リリフレの凪の部隊は少数精鋭というわけで戦闘はこんな感じになるんじゃないかなと模索しながら書いてます。基本的には飛粋が主役って感じで動いていく方針です
時系列はツキカゲとの接触前の初夏になります。次回からはオリジナルキャラが出ます。