私が凪であること   作:キルメド

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凪の部隊への報告から一夜明き、武装を溜め込んだビルへの潜入が始まる。今回は遠巻きに山風部隊のバックアップがあるがやることは変わらない。
四人の戦いが始まった


第四話:DNMIC、潜入開始

いよいよ潜入作戦が開始される。僅かに満ち始めていた月が見下ろす夜、スーツ姿の凪の部隊の4人がアジトに潜入する。そして山風部隊が遠巻きにスタンバイする。

「間も無く作戦開始じゃ」

「はい質問であります!しぶきち隊長!」

「潜入はしておらんが作戦前じゃ、軍荼利と呼べ……で質問とは?」

ゆらが改まって移動中の車内で手を上げて声を出した。ゆららしい緊張感のない行動だ。

「具体的な作戦はどうすんだ?なんか大まかに設計図見せられたけど、もしかしてアタシ様が居眠りしてる間に作戦会議終わってた?」

「それは内部に入ってから説明する。それと居眠りなら起こしたはずじゃが」

「マジ?記憶にねえぞ!」

「それは単純に隊長に殴られたショックかもね」

しかしゆらが疑問に思うのも当然だ。今までは潜入作戦を行う前には必ず具体的な作戦を教えられ、それを実行に移すという流れだった。今回は少々異なる。

「とにかく我々は我々の、山風は山風の作戦で動く。今はそれさえ頭にあればいいんじゃ」

しぶきは頑なに説明を拒んだ。或いは遠ざけたと表現するべきか。

「山風の人とはもう挨拶済ませたし、いよいよ潜入だよね」

「まぁごちゃごちゃ考えるのもめんどくせえし、バーっと暴れてやるか!」

「暴れちゃダメだよゆらちゃん!見つからないようにしなきゃ」

ゆらが疑問を捨てると空気はいつもの任務前の状態に戻った。慣れ親しんだ緩さと緊張のせめぎ合い、4人は少しずつ切り替えていった。

「こちら凪の部隊、軍荼利。これより任務を開始する」

『こちら山風部隊、金眼。了解した。幸運を祈る』

この通信を機に完全にスイッチが入った。今そこにいるのは薩摩しぶき、轟葉栖美、乱獅子ゆら、宗近飛粋という4人の女子高生ではない。軍荼利、孔雀、愛染、不動のコードネームを持った4人のスパイなのだ。

「ビルの二階の西の大部屋、比較的警備が手薄なそこから入るぞ」

「っしゃあ!アタシ様一番乗りな」

言うが早いか愛染がワイヤーフックガンを撃ち窓の上にあるひさしに引っ掛けた。慣れた手つきで登り窓を解錠する。

「索敵完了。誰もいねえぜ。カメラも言われた通りの場所だ」

「了解。全員迅速にじゃ」

3人がワイヤーを手に取りよじ登り、上からはゆらが引っ張る。ほんの数分で4人は建物の中に侵入した。そして内部で動き設置された監視カメラを無力化する。

「ほおお〜?すごい。あんなに速く入ってった。私よりも若い子なのに」

双眼鏡でその様子を見ていた詩宮が声をあげる。同じ女として感心している。

「私もあんな風にできるかな〜?」

「詩宮ちゃんには無理だよ。だからうちにいるんだって」

山風部隊もまた凪の部隊と同じく警視庁下の他のチームから集められた精鋭でもある。しかし彼女達とは動く分野が違う。おそらくは不可能だろう。

『無駄口叩くな。いつでも出れるようにしておくんだ』

通信機越しに金眼が突っ込みを入れるが実戦にしては少々空気が緩かった。

「はーい。あれ?」

『どうした?』

先ほど中に入っていった4人の反応が消失した。同時に通信を行おうとしたが入ってくるのはノイズばかり。

「ジャミングですよこれ」

『おそらく中でそういうセキュリティ機能があるんだ。向こうが解除するまで待つか』

「外から見える異変があれば即報告、ですね。了解」

双眼鏡から目を離すことなく詩宮は見張りを再開した。少しでも中で発生する異変を見逃さないように。

 

「こちら凪の部隊……やられたか」

「んあ?おい隊長、どした?」

潜入し状況報告を行おうとした軍荼利だったが、一手遅かった。通信が遮断されている。

「ジャミングされた?通信が届かなくなったみたいだけど」

「私達の間では通信は繋がってますよ」

実際通信機そのものが壊れたわけではなく、建物の外との通信が取れなくなったようだ。そんな状況でも軍荼利は狼狽えることなく指示を出す。

「構わん。潜入しセキュリティが解除されれば通信も繋がるじゃろう。まずは作戦の説明に移る」

4人の前にこのビルの見取り図を取り出した。小さくまとまったそれを見ると事細かに内部が描かれている。

「セキュリティは基本的にビル全体に及ぶはずじゃが、見ての通り最上階の5階だけ完全に独立しておる。そこでこの2階から降りる者とこの2階から上へと潜入する者、そしてこの通風孔を使い最上階に潜入する者の3つに分けたい。降りた者は1階での捜索を終えた後は上の階の者と合流、最上階の者は上から降りてくるか、通信が取れるなら見張りながら待機もありじゃな」

フジタから回された設計図では最上階のみ別設計となっている。セキュリティ施設がその階だけ異なる。

「1階はこの軍荼利に任せろ。問題は最上階に誰が行くかじゃが」

「アタシ様が行くわ。敵の懐なら相手の心理が分かるアタシ様の方がいいだろ。見つかったって時も戦えるし、やばかったら離脱できるしな。最悪ドンパチやりゃいいだろ」

「上の階で何か起きたら山風部隊が気付くだろうしね」

山風部隊は遠巻きに監視の目を光らせている。もしも最上階で何かが光ったり爆発したとすれば、すぐに突入するだろう。

作戦の分担がトントン拍子に進む。それに悪いことはない。こういった時間が短くなればそれだけ実行に移せる時間に余裕が生まれる。

「私は反対です」

愛染が率先して志願していたが、それを不動が遮った。その場の空気を切り裂くような発言に全員が彼女の方を見る。

「愛染だったら見つかっても逃げられるから大丈夫って理論はちょっと違うかなと。私なら鉄線である程度遠距離は対処できるし、最上階に仕掛けを作っておいて後からみんなと合流して突入ってこともできるし」

不動の鉄線は簡単なメカニズムで罠にも拘束具にもできる。その上周りにある物も利用でき手段は豊富だ。

ただそれを愛染が簡単に譲るわけもなくすかさず反論する。

「別に見つかって無くてもアタシ様ならすぐに寝首をかけるぜ!だいたい、仕掛けとかそんなのしなくても敵の殲滅とかセキュリティの解除くらいできるだろ!いざ周り囲まれてっての考えたらアタシ様の方が上だろ」

「そんなことないよ!私だって凪の一員なんだもん!そもそも無事に逃げられるって言ったってどうせ自爆でしょ!無駄に大怪我する必要なんてないよ!」

不動もそれに反論した。珍しい2人の衝突にどちらの意見を取ればいいのかを迫られる。

「まぁまぁ2人とも言い合っても仕方ないよ。それで、隊長さんはどっちを選ぶ?」

「…………愛染、お主は孔雀と共に2〜4階のセキュリティ解除と調査をしろ。そして最上階は不動に任せた。後から順に合流じゃ」

隊長として軍荼利は決断を下した。一瞬不服そうな顔を見せた愛染だったが、隊長の命令であれば仕方ないと飲み込む。不動は少し笑みを見せて頷いた。

「へいへい、了解」

「では……凪の部隊、作戦開始」

三方に分かれる凪の部隊の作戦が始まった。

最新の注意を払い孔雀と愛染が部屋を出る。不動は通風孔を開けて中に入り上の階へと向かい、軍荼利は一度窓から下の階へとロープを伸ばす。2階でそうしたように窓の鍵を開けて中に入った。

 

2階から上を捜索する孔雀と愛染。しかし真っ暗な建物の中には外から見ても人の気配がなかった。それと同じで中に入っても人の気配は感じられない。セキュリティも監視カメラや赤外線などのセンサーこそあれど、見張りは一人としていなかった。

「妙だな。本当にここが軍事拠点なのか?監視が手薄すぎだぜ」

「こっそり隠れててくれると逆にありがたいよね。とりあえずセキュリティは少しずつ無力化して室内の調査だよ」

凪の部隊の目的は索敵と無力化、セキュリティシステムもそうだが山風の突入を考えれば武装や敵の頭数を減らしておくのも必要な行為だ。

「この中、どうだろう?」

セキュリティロックのかかった分厚い自動ドアを見つけた。即座に孔雀が解除にかかり愛染がその背後に立つ。ロックが解除されて開くまでほんの数秒。日々の鍛錬の成果である。

「アタシ様が中に入って様子見るわ」

「オッケー、深入りしないでね」

ドアが開くと共に愛染がスピードを上げて突入する。しかし部屋の中には人の気配がなかった。外から物音を聞いていた孔雀はまたしても外れかと思った。

『みんな、この部屋当たりだ。人形がめちゃくちゃ置いてある』

耳に届いた愛染の言葉に思わず全員が反応した。孔雀が中を覗くと、照明を点けていてない暗闇の向こうに僅かながらに見慣れた機械を確認する。

「ホントだ。これシラサギとリグの交渉現場で護衛してたのとおんなじ人形だわ」

「妙だぜこの部屋、つーか建物。罠らしい罠は殆どないし見張りも見当たらねえ」

『だが兵器はそこにある……確かに妙じゃな。一階もあるのは監視カメラと部屋のセキュリティロック程度じゃ』

軍荼利は一階での調査をあらかた終えたらしい。時期に二階に上がってくるだろう。問題は不動が行なっている最上階への潜入。

『こちら不動。間も無く最上階に……これよ……す』

突然不動からの通信にノイズが入る。そして完全に通信が途絶した。それはこのビルに入った時と同じ現象だ。

「あちゃー、最上階でもジャミングか。あたしなら返事無いと引き返すけど、戻ってくるかな?」

「いや、戻らねえよ。今日のあいつなんかおかしいし。アタシ様も最上階行っていいか?」

『ならん!不動はあくまで単独での潜入じゃ。今回自ら潜入すると手を挙げたのだから、まずは一人でやらせることじゃ』

あえて一人にさせることが彼女にとっての信頼になる。そもそも最上階にはより隠密な潜入を求められるのだから人数を増やすわけにはいかない。愛染達はあくまで下からの調査を進めることになった。

(なんか変だ。何もかも変だ。この建物の見取り図もなんか違和感あるし飛粋も妙にアタシ様に突っかかってくるし)

思考が靄で覆われたような感覚だった。振り払うように頭を振る。そんな揺れる視界に映るのは人気のない部屋ばかり。三階に上がってからも度々兵器の類が貯蔵されている部屋は見つかるが人っ子ひとりいない。

「なぁ、隊長上がってくるの遅くね?」

「そうかも。あたしらがサクサク進んでるから?」

ほんの一瞬脳裏をよぎった不安から、軍荼利に通信を図る。しかし応答がない。

「ったく隊長!おい隊長!軍荼利隊長様よぉ!応答しろ!」

『……うるさい。今ちょうど別の通信をしておったところじゃ。どうやら階層ごとにも僅かながら電波に対策がしてあるのかもしれんな。いま上の階に向かっている。状況の説明を頼む』

「お、おう」

軍荼利の返事に圧倒された愛染はそのままこの潜入で見てきたことを通信越しに伝える。そしてその時に覚えた違和感も二人に伝えた。

『たしかに警備の者や貯蔵された兵器を動かす者が一人もいないのは違和感じゃな』

「でも罠ってことはないでしょ。貯蔵されてる軍事品は間違いなく本物。このビル完全に武器庫だよ」

『とにかく細心の注意を払え。不動の事も気になるじゃろうが、今は目の前のことに当たれ』

軍荼利の冷静な指示に従う。それ以外に選択肢がないように感じた。

 

一方、最上階への潜入を試みる不動は通風口から入り確実に上へと向かっていた。見取り図によるとセキュリティシステムや内装は全て最上階だけ別物、このエアダクトとエレベーターのみが最上階に繋がるものだ。

(もう少しで出れるポイントに着くはず。周りの様子を見ながらセキュリティを解除しないと)

別行動をしている仲間とは通信が途絶えた。この最上階はジャミングされている可能性が高い。ならばセキュリティシステムを落とせば通信が繋がることも考えられる。

(ここから出られる。たしかここがセキュリティ室)

出口となる鉄柵の向こうからは僅かな光が見えた。少しだけ様子を見て気配を感じなかったこともあり一気に飛び出す。音もなく着地し周囲の様子を伺う。

「よし!誰もいない!」

影も形もないとはまさにこの事。人らしきものが見えもせず潜んでいる気配はなかった。

「いいや、いるとも」

「!?」

セキュリティ室の奥から声が響いた。見取り図にあった出入り口は一つしかなく、それは今背後にある。そして声は前方左手側から聞こえた。

(気配はなかった。隠れる場所なんてどこにも……いや、あそこにドアがある)

声の主は余裕の笑みを見せながらゆっくり近づき、その奥の壁には僅かながら色合いに違和感がある。おそらく隠し扉だろう。

「あなたが、予里水可ですか」

「ああそうだよ、綺麗な女スパイさん。思っていたよりも顔つきが幼いなぁ」

不動が戦闘態勢を取ったのに対して予里は何もないかのように近づいた。




飛粋達の今回の目標はセキュリティ解除とターゲットの拘束にあります。敵兵力の無力化は最悪山風部隊の突入によってある程度はなんとかなるといった構図です。

最上階に現れた男は間違いなく予里水可。もぬけの殻となっているビル内、そして余裕を含む笑顔。不穏な空気が充満している中でターゲットは何をするのか……
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