Take me to・・・   作:ENDLICHERI

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第8話 ボーダーライン

今日は学校もバイトも休みで、僕はある場所に来ていた。

 

 

 

「葛城さん、こちらになります。」

 

「はい。」

 

 

 

今まで頑張ってきた分が結果として目に見え、手に触れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、暇だな~。」

 

 

 

映司は前々から溜めていたお金を持って、ある場所に行っている。映司が帰ってくるまではお留守番。アタシのお相手は誰1人としていなかった。

 

 

 

\ピンポーン/

 

「・・・!」(誰、こんな時に・・・!?)

 

 

 

最近は家に誰かが来ることなんてなかったから、少し身構えてしまう。恐る恐る扉に近づき、ドアスコープから外を覗く。

 

 

 

(あれ?錘さんだ・・・。)

 

 

 

アタシは見知った顔の人物だったからドアを開けた。

 

 

 

「おぉ、ウィズちゃん。久しぶりだね。」

 

「錘さん、お久しぶりです。今日は何か予定があって?」

 

「いや、たまたま近くを通りかかったので様子を見に来たのだよ。悪いかい?」

 

「いえ、錘さんなら大丈夫ですよ。良かったら上がってください。」

 

「それじゃあ、お邪魔します。」

 

 

 

桐生錘(きりゅうすい)さん。アタシたちが幼い頃、この街に来た時、寝泊まりできる場所を提供してくれた人。・・・・・・寝泊まりできる場所が孤児院だったんだけど。

 

 

 

「映司君は・・・。」

 

「今日はアレを買いに行ってますよ。はい、お茶です。」

 

「おお、ありがとう。・・・・・・そっか、今日だったか。彼は、大丈夫なのかね?」

 

「大丈夫です。アタシは映司を信じているので。」

 

「そっか・・・。2人とも、元気そうで何よりだ。」

 

 

 

そう言って静かにお茶を飲む錘さん。・・・・・・あの事、聞いておかないと。

 

 

 

「錘さん。」

 

「何かね?」

 

「アタシたちの通帳に、お金を振り込んでいますよね?」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

しばし沈黙が続いた。でも、その沈黙を錘さんが破った。

 

 

 

「確かに、君たちの通帳にお金を振り込んでいるのは私だ。」

 

「・・・!何考えてるんですか!?こんなどこの誰かも分からない人間にお金を渡すなんて!!アタシたちはアナタを騙してるのかもしれないんですよ!!」

 

 

 

錘さんの言葉は、アタシの気持ちを爆発させた。

 

 

 

「それに映司も言ってました!『またお金振り込んでる』って、少し悲しそうに!アナタはどれだけアタシたちを苦しめれば気が済むんですか!?これから、アタシたちに何をさせようとしてるんですか!?」

 

「・・・・・・。」

 

「ハァ・・・、ハァ・・・、」

 

 

 

アタシは、他人(だれ)から親切にされるのは、もう嫌なんです。親切にされて、「信じていいよ」と言われて、信じていたら裏切られて信じた代償が心や気持ちだけならまだ可愛かった。でも、その代償が『もの』だった時は凄く辛かった。生活にも、心にも・・・・・・。

 

そんなことを言えるほど息がまだ整ってなく、だからといって続けて言う気力も無かった。

 

 

 

「・・・・・・すまない。」

 

「・・・っ!」

 

「私は君たちのことを理解しているつもりだ。でも、私の想像をはるかに超えているようだね。申し訳ない。」

 

「だったら、アタシたちをこれ以上の親切にしないでください・・・。」

 

「そういうわけにはいかない!」

 

「っ!?」

 

「君たちはもう高校生だ。でも、まだ私からすれば子供も同然。そんな子にずっと大人の力を借りずに生活なんて、私が許さない。」

 

「っ!・・・・・・。」

 

 

 

何も言えなかった。いや、錘さんの気迫のせいで何も言うことが出来なかった。大人として、アタシたちを保護した者としての務めを果たすために。

 

 

 

「・・・・・・すまない。でも、君たちが職に就くまでは私から君たちへお金を振り込ませてもらうよ。」

 

「・・・・・・はい。」

 

「私はね・・・、君たちにはちゃんとした生活をしてほしいんだ。それに、私は君たちがちゃんと職に就いても何も要求しないよ。君たちから来ない限り、私は君たちと関わらない・・・・・・と思う。」

 

 

 

悲しそうな苦笑いをして、アタシたちの家を後にした。

 

 

 

「っ!・・・・・・人が良すぎるよ・・・。」

 

 

 

知らぬ間に机の上に置いてあった、そこそこの金額が入った封筒を手に取り・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は帰り道に自宅近くで錘さんと会った。

 

 

 

「おや、映司くん。久しぶりだね~。」

 

「どうも。・・・・・・家に寄ったんですか?」

 

「・・・・・・あぁ。ウィズちゃんに怒られちゃったよ、『これ以上お金を振り込まないで』って。」

 

「でしょうね。・・・・・・正直、僕もあまり嬉しくないんですよ。」

 

「だろうね・・・。ウィズちゃんに散々言われてしまったからな~・・・。」

 

「・・・・・・でも、僕は錘さんに頼りますよ。・・・・・・今は。」

 

「・・・?」

 

「その後、職に就いたら錘さんに借りた分をきっちり返しますよ。」

 

「・・・!」

 

 

 

僕は錘さんの横を通りすぎ、一言言い忘れていたことを言う。

 

 

 

「それと、ちゃんと自分で買ったんで。」

 

「・・・!そうか・・・。」

 

「結構頑張ったんでね。」

 

「そうかい、それは良かった。」

 

「・・・・・・それでは。」

 

 

 

僕は手で押してきた()()()をマンションの駐輪場に置き、自宅に向かう。

 

僕は、錘さんのことなら信じれる気がする・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。」

 

「おかえり映司!アタシの自転車は?」

 

「買ってきたよ。・・・・・・ほら、これが鍵。」

 

「ワオ!じゃあ、今日は映司の好きなもの食べよ!」

 

「・・・・・・錘さんから貰った金を少し使って寿司食いに行くか。」

 

「え!?なんで分かったの!?」

 

 

 

錘さんが家に来たのと、帰って早々に封筒を隠したんだから分かるよ。




いかがでしたか?今回のタイトルは『2人の心のボーダーライン』って感じで付けました。

2人の心のボーダーラインは少し違うようですね。でも、2人の仲でそのボーダーラインはどうなるのやら・・・?


では、また次回!

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