ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
千冬が立ち去った後、二人は食事を再開したのだが、ふと、思い出したかの様に一夏がポツリと呟いた。
「今日の放課後の特訓、ちょっと遅くなってもいいか?」
「別に構いませんが。なにか用事でも?」
「まあな。昨日お前を送った後部屋で色々考えたんだけどさ、白式にはこれ以上武器は載せられないから近接ブレードでやるって話だっただろ?」
セシリアが頷くのを見て一夏は続ける。
「これでも昔は剣道をやってたから俺にもやりようはあると思ってな。だけど、昔とった杵柄とは言うが今のままじゃ錆びつきまくって何も斬れそうにねえのも事実だ」
「確か、剣道をお辞めになったのは篠ノ之さんが転校された頃でしたか?」
「流石によく調べてあるな……。ま、そうだな。そっから剣なんて握ってねえ」
一夏は自分の事をどれだけ知られているのか、少し怖くなった。
下手したら自分が忘れてしまっているような幼少期の出来事もセシリアは知っているかもしれないと。
そんな考えをおくびにも出さず、一夏は続けた。
「つーわけで生身のところからやり直そうと思ってる」
「それで、放課後に特訓ですか」
「ああ。箒なら剣道部に入るだろうし、あいつに教えてもらおうかと」
箒が中学チャンピオンだという事は知っている。……まあ、教えてもらいたという理由はそれだけではないが。
よく知らない誰かより、箒に教わったほうが気が楽という事もある。
とはいえ、問題もあるわけで、昨日までだったら簡単に頼めそうだったのが、今の雰囲気を察するに難しそうだなと一夏はぼんやりと思っていた。
「教えてくれそうな雰囲気では無さそうですが」
それはセシリアも同じだったようで、一夏が考えていたのと同じことを言ってきた。
一夏は他人事の様な雰囲気のセシリアを半ば睨むような形で見る。
「それが一番の問題なんだよな。まったく、どっかのお嬢様のせいで」
「わたくしのせいだと言いたげですわね」
「お前のせいだとハッキリ言ってんだよ」
ストレートにぶつけてみたものの、セシリアはお淑やかに笑うだけで何の感情も読み取らせない。
一夏がもう一度だけ睨んでおいたが、堪えた様子はなかった。
「とりあえず、誤解を解いて誠心誠意お願いするしかねえな」
「篠ノ之さんの怒りの理由を知らずに、ですか?」
それでは逆効果だと言わんばかりだ。
セシリアの言うことも最もだが、一夏は見当はついているとばかりに自慢げだ。
「初日の昼に『ISの事をしっかり勉強しないと』的な事を箒に言ったからな。そんな事を言っておきながら色恋に手を出したと思って怒ってるんだろ。あいつは真面目な奴だからな」
「怒りの理由がそれだといいですわね」
「他人事みたいに言ってるけどお前も一緒に行くんだよ。二人揃って否定すれば信じてくれるだろ」
☆☆☆
「──で、私のところに来たわけか」
箒に専用機の経緯を話し、剣道を教えてほしい旨を伝えると、妙に難しい顔をした。
「そういう事情なら良いだろう。だが、オルコットはいいのか?」
「わたくしは剣の方は専門外ですし、篠ノ之さんにお願いした方が合理的でしてよ」
「……私が言いたいのはそういう意味ではなくてだな。お前たちは……そ、その、アレだ。つ、付き合っているのだろう? オルコットは不安じゃないのか?」
「んなもん噂だっての。昨日も一昨日も部屋に来てもらったのは確かだが、アレだってISの操縦のコツなんかを教えてもらってただけだし」
「そ、そうなのか?」
「そうだよ。それともアレか。お前は俺が一日二日程度で女に手を出す軽薄野郎だと思ってたのか?」
「いや、そういう訳では無いのだが……」
「大体こいつはだな──」
ハニトラをかけようと近づいてきた奴だと言いかけたところで、やめた。
いちいち箒に言う話題でもないと思ったのだが、突然口を閉ざしたのを訝しむように箒が続けた。
「こいつは?」
「あーっと……あ、そう。俺のタイプじゃないんだ。俺のタイプはお淑やかな大和撫子みたいな娘なんだ」
「そう、なの……ですか。だったら私が一夏、さんに剣道を教えてやろう……じゃなくて教えて差し上げましょう」
「なんでオルコットを少しおかしくした感じの話し方をし始めたんだお前」
「……お前がお淑やかな方が良いと言ったからだろう……」
「あん? なんか言ったか」
そんな二人のやり取りを黙って見ていたセシリアがポツリと呟く。
「やはり、あなたは女性を惹き付ける様ですわね。いやはや、難儀な性格だこと」
「だから、俺はそんな大層な男じゃねえ」
「でも、篠ノ之さんの様子をご覧になれば否定は出来ませんわね」
「んなことはない。こいつはな、たまーにこうやって突発的におかしくなるんだよ。つっても昔の話だから今は治ってるもんだと思っていたが、どうやらまだ治ってなかったようだな」
いやはや難儀な事だ、と一夏は一人でうんうんと納得していたが、箒とセシリアに白い目で見られている事に気付く。
「……なんだよその可哀想な物を見るような目は」
「いえ、これは同情というよりは、侮蔑を込めてのですので誤解なきよう」
「いちいち訂正してくんじゃねえよ畜生」
だんだんとセシリアの自身に対する扱いがひどくなっていることを感じながら、一夏は切り替えるように大きく息を吐いた。
「話を戻すぞ。で、箒の方はどうだ? 俺に剣道を教えるって話」
「私の方は問題ない。今日の放課後からか? ……そもそも体力的には大丈夫なのか? 防具の重さも小学校の頃よりだいぶ重くなってるが」
「そのつもりでいる。体力の方もまあ、大丈夫だろ。こっちに来てからはやれていないが朝晩のランニングは日課だったし」
「なら良い。防具一式はこちらで揃えておこう」
満足そうに一つ頷く。
次いで一夏から「部外者の俺が剣道場は使えるのか?」と聞かれたので「私の方で部長に通しておく」と答える。
それでもまだ何か良いたいようで、端切れの悪そうに口を開く。
「──で、一夏、その……」
「どうしたんだ口ごもって。らしくないぞ」
ほらさっさと言えと促すと、ようやく箒は絞り出す。
「わ、悪かった。変な誤解をしてしまって……」
我ながら、朝の態度はひどいものだったと思っていた。
一夏は何食わぬ顔をしているが、それでも謝らねば箒の気が収まらない。
「んなもん別に俺は気にしてねえよ。客観的に見れば誤解されてもしょうがないし。こいつもこいつで助長させるような事したんだからな」
「あら、ひどいおっしゃり様で」
「でも事実だろうに」
「ま、だとしても朝のあの態度はやめてくれよ? 俺は怒られるのは構わんが、その理由もハッキリぶつけてくれた方が助かる。……不本意だが、中学の奴らにも『お前は鈍感すぎる』と言われてるくらいだしな」
「む……。善処しよう……」
「そこらへん、素直じゃねえのは昔から変わんねえよなあ、お前も」
「よ、余計なお世話だ!」
「そうやって大声でムキになるのも変わっちゃいねえなあ」
「ええいうるさい! わ、私は部長のところに話をしてくる!」
顔を真赤にして教室を飛び出した箒を、一夏とセシリアが見送る。
ややあって、セシリアが箒の出ていった入り口を見つつ口を開く。
「……良かったのですか? 黙って行かせてしまって」
「朝と違ってありゃ照れ隠しだ。……昔からああなんだよな、あいつ」
昔の事を思い出しながらなのか、しみじみと言う一夏を羨ましそうに見ながらセシリアがポツリと呟く。
「いいですわね、そういうの」
「いいわけあるか。アレのせいでガキの頃は大変だったんだぞ。こっちは普通の会話してたと思ったのに急に怒り出したと思ったんだからな。……まあ、それがあいつなりの照れ隠しだってわかってからは焦ることも無くなったが」
「そこではありませんわ。昔からの知り合いがここに居てくれることが羨ましいのです」
「……あんな奴、扱いが面倒くさいだけだっての」
照れたようにそっぽを向いて頬をかく一夏を、セシリアはなんとも穏やかな目で見つめていた、
ISバトルはいつ始まりますか?(現場猫風)