ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
放課後、一夏は箒と剣道場にいた。
既に一本立ち会いをしたのだろう。
面だけを外した箒の額には薄っすらと汗が浮かんでおり、なぜか難しい顔をしていた。
「やはりというか案の定というか……」
「言葉を濁すくらいならハッキリと言ってくれ」
「弱いな。手を抜いてるんじゃないかって思ったくらいには」
「だろうな……」
竹刀を握る手をまじまじと見る一夏。
昔は自分の身体の一部の様に感じられたソレも、昔の感覚で振ってみるものの、違和感の塊であった。
「剣を置いて相当の期間が空いた。無理もないな」
「多少はやれると思ったが……甘かったか」
「得るに難く失うに易し、だ。とは言え、完全に失ったわけは無い。少しずつ取り返していこう」
「少しずつ、か。来週にはどうにかってのは重ね重ね甘かったかな」
「当たり前だ。少しの鍛錬でどうにかなると思ったら、それは剣道を甘く見過ぎだ」
と、そこで言葉を切ると、箒がまた難しい顔をした。
そう、どう計算しても間に合わないのだ。
いくら飲み込みの早い一夏とて、一週間では限界がある。
「……一度引き受けておいてこう言うのはアレなのだが、今更剣道をやっても無駄だと思うのだが」
「無駄ってことは無いだろ」
一夏の言葉に怒りが混じったように感じて、箒は慌てて手を振った。
相変わらず、自分は誰かに想いを伝えるのが下手だ。
誤解が解けるように、今度は言葉を選びながら慎重に口を開く。
「ああ、いや、すまない。言葉選びを間違えた。……無駄ではない。無駄ではないのだが、今から剣道をやるよりはISを動かした方がまだ有意義だと思ってだな」
そういう理由か、と一夏は一つ頷いた。
確かに、箒の言う通り剣道をやるよりもISを使って剣を振ったほうが、有意義ではあるだろう。
幸い、一夏は専用機持ち、いつでも使うことは出来るのだ。
とはいえ、動かそうとしても、今の一夏は一人でやれることは限られている。誰かに教えてもらう必要がある。となると、結局、頼るのはセシリアしかいない。
「あいつ、俺の面倒ばっか見て自分の練習できてないだろ? それは悪いと思ってさ」
「……ほう、お前はオルコットの方が大事か。私の方の鍛錬の時間は削っても問題ないと」
「いやいやいや、どうしてそうなる!? お前はいつも結論が急すぎるぞ!?」
今度は箒の方に不穏な雰囲気が混ざったのを一夏が感じとり、焦って返す。
だが、幸いにも箒は本気で怒っていた訳ではなく、ふっと頰を緩めた。
「冗談だ。私の方は問題ない。お前も知っての通り、私は迷惑だと思ったらハッキリと断るからな。だが、今はお前の力になれるなら、その方が嬉しい」
「……ビビらせんなよ。お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ」
マジで焦ったぜと、胸をなでおろしながら、箒には言わなかった事も頭の中で反芻する。
(あいつとばっか一緒にいると噂は消えそうにないし)
どうにもこうにも、周りからの目が痛かった。
あの二人は付き合ってるのではないかという視線をひしひしと感じるのだ。
それを受けて、セシリアが遠慮するのならまだしも、それに乗じてガンガン来るのだ。
彼女の目的を知っているし、しなければならない事情もなんとなくわかるから無下に出来ないのが、困ったところなのだが。
「それに、アイツは射撃主体だからな。相手の懐に飛び込むコツなんかはここで鍛えたい」
「なるほど。そういう事であれば、任された」
☆☆☆
箒との訓練を終え、慌ててやってきた一夏とISの訓練を終え、時間ギリギリとなってしまった食堂にここでも慌ただしくセシリアと一夏は駆け込んでいた。
なんとかありつけた食事を口に運びつつ、セシリアは今日の訓練を思い出し、呟く。
「正直、驚きました。まさか昨日の今日でここまで動かせる様になるとは」
そう、昨日は飛行することもままならなかった一夏だったが、今日は見違えるように動けるようになっていたのだ。
とはいえ、初心者なのは変わらないので直すべきところはあるのだが、それでもまるっきり動けないよりは教える側からしても助かったのだ。
「昨日、お前を送った後に千冬姉の映像を見返してな。『機体の前にどうこう』とかそういうイメージよりは千冬姉を思い浮かべた方がよっぽど参考になった。んで、動けるようになったから『機体の前にどうこう』って奴もすんなり入ってくるようになったわ」
「……普通は逆なんですけどね。理論通り動くことを徹底的に学んで、その上で無意識下で動けるように定着するというのに」
「昔からこうなんだ。剣道をやってた時も型稽古やるよりも実践で叩き込まれたほうが身についた。その後、型の大事さもわかるようになった」
なるほど、と返事を返しつつ、セシリアは一夏は自身と同じ理論的思考を元に動くタイプだと思っていたが、実際は違うのかと思い始めていた。
普段の生活ぶりから、感情に身を任せるタイプではないと思っていたが、こと、戦いにおいては感情に身を任せるタイプなのだろう。
どうしてこうも真逆なのかとも思うが、おそらく誘拐された一件も多少は絡んでいるのは間違いないだろう。
まあ、考えてもしょうがないと頭を振ったセシリアは、自慢気に胸を張っている彼に一応は言っておかねばと、ジト目を向けた。
「……昨夜も夜ふかしされたので?」
「そこに食いつかれるとは思わなかったな」
苦笑交じりで一夏は頭をかく仕草をした。
これ見よがしにため息を吐いてみても、どうせ彼には響かないとなんとなくセシリアもわかっている。とはいえ、言わねば今度は自分の気が収まらないのだ。
「わたくしが言っても聞かないだろうってのは薄々わかってきましたので良いですわ。どうせ、動画を見始めたら次から次へと動画が出てきたから止めるに止められなくなったとかそんな理由でしょうから」
「すごいな。俺への理解度がどんどん高まってるじゃないか」
「まったく……」
もう一度ため息を吐いても、彼には堪えた様子はない。
なんて頑固な人かしら、とセシリアは呆れを含んだ表情で睨んで見る。
そんな視線を向けられた一夏は居心地が悪いのをごまかすためか、話を変えようとした。
「そろそろ食堂閉まるぞ。ほれほれ、食った食った」
「そんな急かさないでいただけますか」
「お前が余計な話をするから時間が無くなったんだろ。自業自得ださっさと食え」
既に夕食を食べ終えている一夏が机をトントンと煽るように叩く。
そんなに急かすくらいなら一人で先に帰ればとも思うが、彼はそんな事はしないだろうというのも、セシリアもわかっていた。
不器用だが、優しいものだと微笑ましく思っていると一夏がギロリと睨んできた。
「何考えてるか知らんが、一人でニヤニヤしてるのはどうかと思うぞ。変な奴だと思われて敬遠されるぞ」
「あら、ここにはあなたしかいませんので。見られて困る事はありませんわ」
「俺に見られて困ると思えっての。お前、本気で俺を惚れさせる気あんのかよ」
「それは、まあ」
口ごもるセシリアに、一夏はこれ見よがしにため息を吐いて見せ、テーブルに肘をつけたまま頭を預けた。
「そこはあるってハッキリ言っとけよ。俺に素直に白状した事といい、開き直りすぎなんだよお前は」
「わたくしも十五歳の幼気な少女なのですよ? せねばならないと思っても、そう割り切って飲み込めませんわ」
「それを対象の俺に言うなっつーの。言っちゃなんだが、俺もこの境遇だし」
「はあ」
一夏の言葉の意味がわからず、思わず曖昧な返事になってしまった。
どういうことだろうか。確かに、男一人の境遇で大変そうだが、特別困ったようなところは見たことが無いだけに。
「こっちは高校生にもなって恋愛禁止にされてるようなもんだ」
「その様におっしゃるって事は、恋愛願望がおありで?」
それこそ、意外だった。
あまり、恋愛ごとに興味が無さそうな彼だけに、興味すら無いと思っていた。
けれど、考えてみれば昨夜の言葉を思い返してみると、それらしいことは言ってた気がする。
「そりゃまあ、俺も十五の健全な少年だからな。世間一般程度には恋愛願望はあるさ」
でもな、と一夏は続ける。
「惚れた相手が国からハニトラをかけるようにって命令されてたら洒落になんねーだろ」
「なるほど、そういう事であれば気楽に恋愛などしてられませんわね。あ、わたくしはフリーですので、いつでもどうぞ」
「どうぞ、じゃねえっつーの。ハニトラ要員筆頭格が何言ってやがんだ」
隙あらばアピールを欠かさない彼女の姿勢に、そろそろこちらが根負けしそうな気がしてきた。
いや、負けたら実験動物コースなので負けるつもりは毛頭ないが。
と、ふと気になる事があったので、一夏は質問する事にしてみた。
「もしさ、俺に好きな人出来たらお前はどうすんだ?」
「好きな人が出来た程度で引き下がるとお思いになって?」
「……じゃあ、俺がその娘と付き合ってたらどうする?」
「世の中には略奪愛という言葉がありましてよ」
「なんかお前こえーよ……」
奪い取る気まんまんな彼女の思考に、一夏はちょっと引いた。
「それにしても、このやり取りだけ聞いたら求愛されてるような気がするから不思議だ」
「まったくですわね」
「お前、俺のことめっちゃ好きって思われんぞ」
「それは……困りますわね」
「困るってのは失礼だなあ、オイ。昨日も言ったが、惚れた事にしとけっての」
「そこが問題なのですわ」
いつもの調子で、適当に返すと、意外にもセシリアが真面目な表情で返してきた。
「ハッキリと言いますが、わたくしは本気で付き合おうと思う程、あなたの事を好いては無いのです」
「ハッキリと言うんじゃねーよ。しまいにゃ女だろうが容赦なく張っ倒すぞコラ」
「かと言ってあなたを騙してしまえば良いと割り切れるほど、嫌いでもないのです」
「…………ああ、そう」
「そこ、本気で照れられても……」
顔を若干赤くした一夏を見て、セシリアも思わず赤くしてしまうのだった。
難産でした。こういう風に書きたいって思っても、なかなか文章にならない。
そろそろバトルを書きたい病に侵されてきたので次回はバトルです。
10話使ってやっときたよ・・・