ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:熱烈オルッコ党員

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まあ、タイトルで察してしまうでしょうが鈴ちゃんが転校してきます。
で、ですね。実は転校時期とか色々調べる内に、原作で重大なミスに気付きまして。
最初千冬姉は入学時の初日に「再来週に対抗戦をやる」と言ってたんですが、その後鈴と一夏が戦うのって5月なんですね。
……ええ、リアルに変な声が出ました。千冬姉、あなたに取って二週間は一ヶ月分ということなのですか……?というか1巻からなんてミスしてんのやと思いつつ、今作はこの週でクラス対抗戦します。

ランキングでISの小説探すの日課になってるので、日間ランキング入ってるのみてまたリアルに変な声出たゾ。
マジでありがとうございます。オルコッ党の勢力拡大の為にこれからも頑張りたいと思います。


転校生は──

「織斑くんおはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

 月曜日、身体のダメージも回復した一夏が教室に入ると席が隣の相川にそう声をかけられた。

 一応、先週末には倒れて気絶した身なのだが、心配よりも転校生の話が先かと苦笑を漏らす。

 まあ、たしかに転校生もビッグニュースではあるが。

 

「ふーん、この時期にか?」

 

 机に鞄を放り投げつつ、一夏が疑問を示す。今は四月で、まだ入学から二週間しか経っていない。

 そこに転入ということは、簡単には出来ない。それこそ、セシリアの様に国などの大きな後ろ盾がないと難しいのだ。

 そういった面で考えると、どこかの代表候補生というのが妥当な線だろう。

 

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

 一夏の考えを読んだわけではないだろうが、彼の思っていた通りの言葉が返ってきた。

 と、一夏が教室に入ってきたときは自分の席に座っていたセシリアが、立ち上がって一夏達の方へやってきた。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

 

 例によって、腰に手を当ててのポーズをとっている。

 気取ったポーズだが、彼女がやると様になって見える。今度どこかのタイミングでやってみようと思いながら一夏が否定の言葉を口にした。

 

「いや、俺に接触したくての転入だろ」

 

 IS学園では外部からの接触は守ってくれるが、学園内の生徒になりさえすればいくらでも接触できるのだ。

 それこそ、セシリアがやっているように。

 彼女の祖国イギリスからは、今の一夏とセシリアの関係は好都合に思われているに違いないだろう。

 もしかしたら、イギリスに先を越されたという意味ではセシリアの存在を危ぶんでの転入というのはあながち間違ってはいないのかもしれないが。

 

「このクラスに転入してくるわけでは無いのだろう? だったら騒ぐほどの事は無い」

 

 一夏の言った、接触という言葉を受けて箒がそう言った。

 ライバルが増えるというのも問題ではあるのたが、どちらかというと一夏を物扱いしていることに、気が立っての事だ。

 

「にしても転校生か……どんな奴なんだろうな」

 

 ふと、一夏が呟く。

 

「……気になるのか?」

「ああ、少しは」

「ふん……」

 

 今度こそ、同情を不機嫌が超えた。

 見れば、セシリアも若干だが、顔を歪ませているのが箒の目に映った。

 だが、肝心の一夏は二人の方を気にせず、「中国……中国か」などとつぶつぶつと呟いていたが。

 

「あ、ゴメン。一夏ってこのクラスだったよね? もう来てる?」

 

 ふと、教室の前方の入り口周辺から声が聞こえた。

 聞き馴染んだ声だったがゆえに、一夏は知り合いが来たのだろうと席を立とうとしたところで、違和感。

 クラスメートは見知らぬ存在に、少なからず動揺している。だが、一夏はこの声を知っていた。

 

「うそ……だろ」

 

 かすれるような声が一夏の口から漏れた。

 この声を、聞き間違えるはずがなかった。なぜなら、つい一年前まで嫌というほど聞かされた声なのだから。

 一夏が思考をまとめて、名前を呼ぶより早く、一向に動かない一夏に業を煮やしたのか、件の少女が人垣を掻き分けて、やってきた。

 

「鈴……?」

「そ、久し振りね一夏。元気してた?」

 

 気安い様子で、手を振ってくる。

 

──なんでお前がここに。

──まさか転校生って。

──つーか来るなら連絡しろよ馬鹿。

 

 などなど、一夏の脳裏を言葉が駆け巡る。

 だが、そのどれもが声にはならなかった。

 

「え……は……? いや、えぇ……?」

 

 出てくるのは要領を得ない言葉のみ。

 セシリア達は怪訝そうな視線を送っていたが、件の少女も同じ様に胡散臭そうな視線を一夏に送る。

 

「アンタ、久し振りにあった幼馴染に対する態度がソレ? 驚かせたくて連絡しなかったけど、失敗だったかなこりゃ」

「おいコラ、連絡なしは確信犯か」

 

 と、一夏がようやく再起動したタイミングで、セシリアがようやく彼女の正体に気付いた。

 

「中国代表候補生……凰鈴音……」

 

 先程まで、話題の中心にあった、転校生の事だった。

 だが、セシリアの説明を受けて尚、いや、受けたが故に一夏はますます混乱した。

 

「え、お前代表候補生になってたのか? いつの間に? というかIS操縦者に」

「まとめて聞かないでよ。あたしだって色々聞きたい事はあるんだし」

 

 それもそうかと思った一夏は、逸る気持ちを抑える。

 お互いの事情を話すのは、後でも出来る。今は、再会を喜ぶべきだろう。

 

「お前と会うのも久しぶりだな。──中二の終わりに転校したから会うのは一年と少し振りか?」

「そうね。どう? 久しぶりに再会した幼馴染に何か言うことは?」

 

 胸を張って立つ少女──ではなく鈴。

 そんな彼女の胸の辺りを見て、一夏はひとつ頷く。

 

「うん、あまり変わってないな。そりゃ一年じゃ変わらんか」

「ぶっ飛ばすわよ。アンタ」

「俺は病気怪我がなく息災で良かったという意味で、変わってないなって言ったんだぞ? それに対して怒られるとは心外だな」

「だったら胸をみて言うんじゃないわよッ」

 

 ナチュラルな一夏のセクハラに、クラスメートが少しざわついた。

 あまり、この様な物言いをする性格だとは思っていなかったからだ。

 だが、そんなクラスの雰囲気を他所に、一夏と鈴は楽しげに笑い合う。セクハラを受けた鈴も口調こそ怒っている様子だが、表情を見れば本心からではなく、じゃれているような印象を受ける。

 

(なんなのだコレは)

(なんですのコレは)

 

 奇しくも、箒とセシリアの思った感想は同じだった。

 面白くない。ものすごく面白くない。非常に面白くない。

 箒は二人の、長年の付き合いがなければ出来ないであろうそのやり取りに、自身の唯一と言っても良い『昔からの仲』というアドバンテージが消えつつあるの事を理解し、セシリアは一夏が見せる普段のどこか斜に構えた振る舞いではなくある意味、年相応のどこか浮ついた様子の一夏を見て心がざわつく。

 というか、幼馴染で代表候補生で専用機持ちとかスペックだけ見れば箒とセシリアの合わせ技である。

 

「おい、そろそろSHRだ。クラスに戻れ」

 

 箒とセシリアが鈴の存在に恐れおののいていると、鈴の後ろに現れた千冬が声をかける。

 

「あ、千冬さん。お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだな。相変わらず、元気な様で何よりだ」

「ソレだけが取り柄みたいなモンですから」

「そう謙遜するな。──ああそれと、ここでは織斑先生と呼ぶように」

 

 千冬とも、普通に話している。それに、珍しく千冬の方も口元にうっすら笑みを浮かべて対応するくらいなのだから、驚くべきことだ。

 

「んじゃ一夏、あたしはそろそろ戻るから」

「あ、今日昼飯どうだ?」

「いいわよ。じゃ、終わったら迎え来るわね」

 

 さり気なく昼食の約束をして、鈴は教室から出ていった。

 

「……織斑さん。彼女とは親しいので?」

「そ、そうだぞ。彼女とはどういう関係で」

 

 途端、セシリアと箒が一夏に質門を投げる。

 それに一夏が答えるよりも早く、千冬が口を開いた。

 

「後にしろ、SHRが先だ。……昼食の時間にでも聞けばいいさ」

 

 そう言うと、パンと手を叩き意識を切り替えさせる。

 無論、それだけ意識が切り替わるはずもなく、箒とセシリアは午前中の授業でそれなりの注意を受けた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「いーちーか。ご飯行きましょ」

「おう。んじゃ、行くか」

 

 さて、昼食の時間である。

 約束通り、鈴が迎えに来ると一夏が教室を出たところで、口を開く。

 

「悪いが、二人ばかしついて来るがいいか?」

 

 そう言って親指を立てて後ろからついて来た箒とセシリアを指す。

 それを見た鈴は、じっと目を細める。

 

「あー……なるほどなるほど。いいわよ。どうせならみんなで食べた方が賑やかでいいからね」

 

 何やら、納得した様子で頷くと、身を翻して先頭となって歩きだす。

 

「自慢気に歩きだしてるが、場所知ってるのか?」

「知るわけ無いでしょ。でもこの時間だったらみんなが向かってる方に行けば間違いないでしょ」

 

 それもその通りなので、一夏達は黙ってついてくことにした。

 箒とセシリアは参加したい旨を伝えた時、鈴は気にした様子もなく二つ返事で了承してくれたのが、二人にとっては意外だった。

 もし、一夏に惚れていたら二人きりになれなかったが故に、不機嫌な様子を見せてもおかしくないだけに。

 

「……どうしたもんか」

 

 箒がなぜついてきたかはさっぱりわからないが、セシリアがついて来たがった理由はなんとなく察した一夏は、この後の展開で訪れるであろう質問にどう答えようかと、少しだけ悩む。

 正直に言ってもいいか、悩むところなのだ。なにせ、自分だけの事ではないのだから。

 

 そうこう考えてる間に、食堂に到着。

 各々食事を受け取ると運良く空いていたテーブルに腰を下ろす。

 

「びっくりしたわよ。アンタがISを動かすってニュースで見て」

「それはこっちのセリフだっての。いつの間にIS操縦者になってやがるんだよ。それに代表候補生って」

 

 最初の話題は鈴と一夏がISに携わった経緯についてだ。

 お互い、それまではまったくと言っていい程ISに関わってないだけに疑問は尽きない。

 

「まあ、色々ありまして。で、アンタの方はなんでISを動かしたのよ」

 

 だが、鈴としては細かい事は言うつもりはないのか、はぐらかす様な答えになった。

 なら、自分も細かい事は省いても良いと思ったのか、一夏も意味深げに答えることにした。

 

「こっちの方でもまあ、色々ありまして」

「真似すんじゃなわよ。……まあ、勿体ぶってるけど報道の通りでしょうけどね。藍越学園とIS学園を間違えたって聞いた時はンな訳ないでしょって思ったけど、アンタならやりかねないと思ったし」

「なんだその絶妙に失礼な評価は」

「でも事実でしょ?」

「まあ……はい……そうです……」

「やっぱりねえ。アンタってしっかりしてそうに見えてその実、抜けてるトコあるから」

 

 アンタの事なんてお見通しなのよと言わんばかりの鈴の言葉に、一夏はぐぬぬと小さく唸った。

 と、いよいよ我慢の限界に達したのか、二人の会話にセシリアと箒が割り込んだ。

 

「一夏さん。そろそろこちらの彼女との関係を教えてもらいたいのですが」

「そうだぞ。も、もしかして、つ、つ、付き合ってたりするのか!?」

 

 やはり、この質問か。

 なんで箒も気になってるんだと思いつつ、なんて答えようか迷っていると、鈴がなんでも無いことの様に言い放った。

 

「そうだと良かったんだけどね。残念ながら振られてるのよねあたしは」

「お、おい鈴、それは──」

 

 まさか、正直に答えるとは思わなかった一夏が、慌てた様に鈴を咎める。

 

「なーんで振った側のアンタが焦ってるのよ」

「いや、だってなあ……」

「別に引きずってる訳でもないし、アンタが気にしてもしょうがないでしょ」

「それはそうなんだが……」

 

 やはり、人に聞かせるような話ではないだけに、鈴が気にした様子が無いのが一夏としては意外だった。

 すると、今度は咳払いが聞こえた。またしても置いていかれたセシリアが存在をアピールする。……まあ、セシリアと箒もあまりの衝撃に言葉を失っていたのもあるが。

 

「あの、わたくし達を置いて盛り上がらないで下さいな。……いやでも、結構驚きましたが」

「ああ、すまん。でも質問にはちゃんと答えただろ?」

 

 個人的には、こういう風に伝えるつもりはなかったが、と付け加える。

 

「にしても……驚きましたわ。まさかそんな事があったとは」

「まあ、わざわざ言う話でもないしな」

 

 中学時代、小学校の時代、色々と調べられている様だが、流石にこういった込み入った話は知られていない様で、一夏はひとまず安心した。

 さて、この話は終わりだと気を取り直そうとするが、そう思ったのは一夏だけで、セシリアはまだ、この件を掘り下げたい様だ。

 

「でも、なんでお断りしたんですの? 可愛い方ですし、お付き合いされても良かったのでは?」

「鈴のいるところで振った理由を聞くんじゃねえ。……いや、鈴が居ないトコでも、お前に言うつもりはないが」

「それは失礼。わたくしも気になる話でしたので、気が立ってまして」

「ああそう」

 

 鈴には申し訳ないが、セシリアは本心から安堵のため息を吐いた。

 と、そのタイミングで水を切らした鈴がコップを片手に席を立つ。

 

「ちょっと水取ってくるわ。……えーと、そこのポニテの人、場所教えてもらってもいい?」

「な、なんで私が」

「いーからいーから」

 

 半ば強引に箒を連れて席を離れる。

 程なくして、もう一夏に声を聞かれないと判断したのか、コップに水を注ぎながら箒に問う。

 

「……で、アンタは一夏の事が好きなの?」

「べ、別に私は──」

 

 途端、顔を真赤にした箒の言葉をみなまで聞かず、早々に察した鈴はこれ見よがしに肩を大きく落とす。

 

「あーはいはい。わかったからもういいわよ。──ほんと、あの馬鹿はどれだけの人を惚れさせれば気が済むのよ……」

「は、話を聞け! 違うと言っているだろう!」

 

 この様子を見て、誰が信じられるというのだろうか。いや、一夏なら気付かないだろうが。

 

「そんなわかりやすく動揺しておいて否定するのは無理があるわよ。……まあ、行動を起こした側から一個アドバイスしてあげるけどさ。一夏の告白を待とうなんて思わずに自分から告った方が良いわよ。あいつ、自分から告白するなんて事は絶対しないでしょうから」

「よ、余計なお世話だ。それに、普通は男から告白するものだろう!」

「そんなんばっか言って普段から待ちの姿勢ばっかだから、あの金髪さんに先を越されるんでしょーが」

 

 箒がうっと言葉を詰まらせた。

 その様子に、鈴の言葉は間違いがないのだという事を雄弁に語っていた。

 

「な、なんで今日転校してきたばかりのお前が知ってるんだ」

「見てりゃわかるわよ。今だって一夏取られちゃってんじゃないの」

「お前が飲み物を取りについて来いと言うからだろう!?」

「あらそう? アタシが見る限りアンタはあの中に割り込めないとは思うけどねー。アタシと一夏が話し込んだ時も話に割り込むきっかけは金髪さんが作ってたし。アンタはそれに乗っかってただけじゃん」

「うっ」

 

 駄目だ。何を言っても返される事実に箒は言葉を失った。

 そもそも、箒自身が自覚もしていることでもあるのだから。

 コミュニケーションが苦手な箒と違って、セシリアはガンガン一夏にアタックをかけている。

 そんなセシリアに箒は羨ましいと思うのと同時に、自身の情けなさにも歯噛みしていた。

 

「ま、今はあの子はまだ本気っぽくないからいいだろうけど、本気になりだしたら大変だと思うわよ? ……付け加えるなら、一夏の方も満更じゃなさそうだしね」

「……そういうお前はどうなんだ? 一夏の事はもう吹っ切れたのか?」

「本気で好きだった自負はあるからまあ、未練が無いと言ったら嘘になるかもしれないわね。一夏の方から告白してくれたら諸手を挙げてOKするだろうし」

 

 だけど、と続ける。

 

「告白はもうしないかな。一回振った相手からもう一度告白されたらあいつも迷惑だろうし」

 

 そこで区切ると、鈴は一夏の方をチラリと伺う。

 セシリアと楽しげに話している彼の様子を見ても、中学の頃の様に心がざわつくことはなかった。

 

「今の一夏に必要なのは恋人よりも、気の置けない友達っぽいしね。そういう意味ではアタシ以上の適任はいないでしょ?」

 

 そう言って笑う鈴の表情が眩しくて、箒は何も言えなかった。




はい、という訳で鈴ちゃんは今作では友達枠になります。
……せっかくランキング入ったのに、ヒロインを削るのはどうかと思ったんですが、既に鈴ちゃん友達ルートでプロット組んでしまってるのでこのまま行くことにしました。
というか、一夏との距離感考えたら、ヒロインズからみたら意外と一番の敵になりそうな予感もあります

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