ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
「クラス代表就任パーティ?」
昼食を済ませ、食堂から返ってきた一夏が不思議そうな声をあげた。
セシリアも箒も知らないのか、共に不思議そうに顔を見合わせる。
そんな一夏達にクラスメイトの女子が口々に言葉を発する。
「そうそう、私達も盛り上がりたいのもあるんだけどさ」
「二人が戦うってなってさ、なかなか親睦会も出来なかったし。対抗戦の前に景気づけにもなるかなって」
成る程、別に一夏とセシリアは戦うとなっていたが、険悪な関係ではなく開こうと思えば、開けただろうが、練習に励む一夏を見て誘いにくかったのだろう。が、今であれば就任パーティを口実に開くことが出来る。
異論がある訳ではなかったセシリアも問題ない意思を示す。
全員参加が基本らしいが、断るつもりは無いので一夏も同じ様に頷きを返す。箒に関しては断りそうな気配もあったが、そこは一夏が代わりに参加の意思を半ば無理やり伝えたりしたが。
「パーティは明日の放課後だっけか? 軽食類の準備はしなくていいのか?」
そう言って発案者のクラスメイト──相川──に疑問を投げる。
質門を受けた相川は「別に何もいらないよー」と返す。どうやら食堂で全て揃えられる様だ。
けれど、一夏の質門の意図が気になったようで、続けて言葉を紡ぐ。
「なんか準備してって言って準備できる物でもあるの?」
「これでも、喫茶店でのバイト実績はあるからな。軽食類なら一通り作れると思うが」
「へえ! 織斑くんってコーヒー以外も料理できるんだ!」
無理言って働かせてもらった喫茶店で、料理も教えてもらってたりする。まあ、客に提供したことはないが。
それでも、両親が不在な家庭環境であって、織斑家の料理担当だった一夏の腕はそれなりのものである。後、コーヒーは料理ではない。
そんな一夏の一面が知れたところで、どうせだったら作ってもらおうかという機運が少なからず昇る。
「なんなら、適当に作ろうか?」
そう一夏が聞いてやると、クラスメートが沸き立つ。
その内の何人かはガッツポーズをするくらいである。
言ってみたものの、そこまで期待されるとは思ってはなかったのか、一夏は苦笑いを口元に浮かべた。
「わ、私もなにか手伝うか?」
「わたくしも、お手伝いいたしますわ」
流石に、気の毒に思えたのか、箒とセシリアが提案する。
それを、一夏は妙に胡散臭げにみやる。
箒が料理をしたところは、一夏が知る範囲ではあまり記憶がない。偶に、箒の母が料理を作る時に、自分と一緒に軽く手伝うのと、家庭科の調理実習くらいだ。そこでの記憶は、それは包丁を剣道の竹刀よろしく握っていた姿である。
まあ、その後は成長の余地が合ったかも知れないが、彼女は転校してからずっと政府の監督下で保護されて生活していたとの事。果たして、自分で料理する機会はあったのだろうか。
セシリアも同様だ。見るからにお嬢様育ちの彼女が、料理をする光景は正直ピンと来ない。
まあ、趣味で料理をしていた可能性もあるが。
「ちなみに、二人の得意料理は?」
「チャーハンだ」
「サンドイッチですわ」
一夏の考えは、二人に得意料理を聞き、そこからなんとなくの腕前を把握しようと思ったのだ。二人から返ってきた言葉にふむ、と顎に手をやる。
箒に関しては、イメージとかけ離れているのだが。完全にもう一人の幼馴染とキャラが被っていることを彼女は自覚しているのだろうか。
ただまあ、鈴曰く、チャーハンは基本にして一番奥深いらしい。そんなチャーハンを得意料理とする位なのだから、まあ料理の腕は安心して良いのかもしれない。
セシリアの方は安心だ。パンを切って、具材を挟むだけのサンドイッチを不味くするのは、ほぼ不可能だ。
そして、この二つの料理を作るのに共通する材料がある。それは、卵だ。
卵料理は簡単に作れるので楽だが、殻を割るのが面倒ではある。そこを二人に担ってもらうだけで、負担はぐっと減る。
「じゃあ、頼むわ。卵を大量に割るだけの仕事で退屈かもしれんが」
「いえいえ、料理をするのは楽しいですから。他になにかお手伝いすることがあれば遠慮なく」
「そうか……うむ。それならでき──いや、その位なら私に任せてもらおう」
一夏は、自慢気に答えるセシリアの影に隠れて、不安げな言葉を発した箒に気付くことは出来なかった。
☆☆☆
「出来ないんなら、素直にそう言えよ……」
翌日の放課後、軽食を作ろうと食堂の調理場で、一夏は項垂れていた。
彼の目の前に差し出された二つのボウルの中には、卵が入っている。そして、殻も入っている。
一つに殻、一つに中身ではない。混在だ。
割合で言えば、箒の担当したボウルの方がマシか。なんとか殻を取り出そうとした形跡もある。そういう意味では情状酌量の余地はありそうだ。
だが、もう一方は駄目だ。まるで駄目だ。
「めっちゃテンポ良いなって思ってたけど、そりゃ握り潰してたんだからはやいわな」
お嬢様は、やはり料理が出来なかったらしい。よく自信満々に言えたな。
だが、箒のように謙虚さを持つわけでなく、片手割に挑戦するのはどうなのだろうか。そして、失敗をそのまま放置して突き進むのも。
「だって、前にテレビで拝見した時、シェフがこの様にやってましたので、やれるのだろうと」
「それで出来ると思ったお前はどんだけ自意識過剰なんだよ」
その理屈で言えば、千冬の動画を見れば誰でも世界最強になれる事になる。
まあ、追求は後にして、この殻入の卵をどうにかせねばならない。
「とりあえず、箒の方は良いからかき混ぜてくれ。セシリアは大きめの殻だけ取ってからな」
それだけ言い残すと、一夏は棚を開き、てなにやら探し出す。
目的のものはそれほど時間をかけずに見つかった。
ちょうど、二人分あったので、取り出した道具を持ち出す。
「かき混ぜたら、空いてるボウルにコイツでこしながら入れてくれ。たぶん全部取れるだろうからな」
一夏が持ってきたのは、こし器。
確かに、これなら殻だけ取り除く事は可能だろう。
「その……すまない。面倒をかけて」
「気にすんなって。どうせ溶いてもらった後にこすつもりだったし」
まあ、でもと続ける。
「卵くらいは綺麗に割れるようにならんとな。後はもっと早く報告してくれ」
どうにも、素直になれないのが箒の欠点ではある。
もちろん、それがいじらしく魅力的に映るときもあるが。
「セシリアの方はアレだ。横着すぎる考えを改めろ。話はそれからだ」
「むぅ……」
拗ねた様にふくれっ面をするが、一夏は言葉を撤回するつもりはない。
その後は、特に問題もなく、卵の準備は出来た。
一夏は「後は俺がやっとくから」と伝え、二人を追い出す。
こんなことなら、ゆで卵の殻剥きにしとくべきだったと己の迂闊さを呪った。
いや、でもゆで卵では、駄目なのだ。今日は、どうしても作りたい一品があった。
「……だし巻き卵、上手く作れるといいんだが」
☆☆☆
さて、そろそろ開催時間だと一夏が最後に作り終えた料理を手に調理場を出ると、既に準備万端だと飲み物の入ったコップを手にした生徒が目に飛び込んできた。
……色々と、ツッコミどころがあるのだが。
「どうみても、一組じゃない奴らもいないか、コレ」
先ず、人数からしておかしい。既に二十数名はここに集まっている。
人影の向こうでは特徴的なツインテールも見えており、美味しそうにフライドチキンを食べていた。
「おい鈴! お前がなんでここにいるかは置いといて、なんで先に食ってんだよ」
一夏がそう声をかけるも、鈴は舌をちらっと出すだけである。
まるで反省の色が見られなかった。
「だって遅いんだもん。みんな待ちくたびれたみたいよ」
「俺が悪いのか? そもそも、部外者のお前がなんでいるんだよ」
一夏は憮然とした表情を浮かべつつも、ソファー状の椅子に座る。よく見れば、乾杯は終えているのか、既に飲み始めているようである。
と、一夏が座るやいなや、右側に箒が座り、左隣にセシリアが座った。素晴らしい連携である。
一夏としては、鈴が隣に来るだろうと思っていたが、彼女は隣のテーブルに座っていた。どうやら、空気を読んだらしい。
「つーか親睦会なのに俺ハブられてないか?」
料理を作ってる間に乾杯が終わっているとか、これ以上ない疎外感を感じる。
一夏がそうぼやいていると、隣に座るセシリアがジュースの入った瓶を持ち「まあまあ」と宥めた。
それと同時に瓶をこちらに向ける。
「お注ぎしますわ」
「いや、俺は自分でやるから構わんぞ? というか主役がなにやってんだよ」
「そうはいきませんわ。先に始めてしまったお詫びですし、美味しい料理のお礼ですわ」
そこまで言われてはしょうがない。観念した一夏はコップを手に、セシリアの方を向く。
ぎこちない手付きで注がれたジュースを一口飲む。
「うん、やっぱり美人に注いでもらうのが一番だな」
「あら、お世辞でも嬉しいですわね」
「本音だって」
肩をすくめながら一夏がそう言うと、遠くの方から間延びした声が聞こえた。
「わたしのこと呼んだあー?」
ダボダボの制服を着込んだ少女が間延びするような声と共にこちらを見てきた。
たしか名前は……と、一夏は記憶を探り、自己紹介の時を思い返す。少しして、なぜこんな反応を返されたのか思い至った。
──彼女の名前は本音だったな、と。
知らず知らずのうちに、名前を呼んでいた事に苦笑して一夏は「なんでもないさ」と軽く手を振る。
「一夏、私のも飲め」
「いや、まだセシリアについでもらった分が残っているんだが……」
「なんだ。私のジュースが飲めないと言うのか?」
どこのパワハラ上司だよと思いながらも、一夏は今ある分を飲み干して、コップに注いでもらい、一口飲む。
「どうだ?」
「いや、どうだって言われても……。普通のジュースだ、としか言い様がないぞ」
他に言いようもないだろと言ってやると、箒はふてくされたような表情を浮かべた。
そんな箒をからかうようにセシリアが楽しそうに笑う。
「一夏さん。箒さんは拗ねているんですわ。自分には美人って言ってくれないのか、と」
セシリアの説明を聞いて、なんだそんな事かと一夏は目をしばたかせる。
「別にわざわざ言わなくても良いだろ。お前は昔から美人なわけだし」
気安くそう言ってやると、箒は顔を真赤にした。
なぜ、箒が顔を染めたのか露ほど理解できない一夏は、周りを見渡しながら、おもむろに口を開く。
「それにしてもアレだな。こうやって飲み物を注いでもらうっていうのはなんかキャバクラみたいだな」
ソファーの周りに美女二人。こうしてジュースを注がれるのも、中身が酒になればキャバクラそのものだ。
感じたまま、正直に一夏が言うと、彼に両隣に座るセシリアと箒。そして周りを囲む女子が怪訝そうな視線を向けた。
どういう意味で見られているのか悟った一夏は、手をヒラヒラと振ってみせる。
「俺だって行ったことはないっての。でもホラ、イメージはこんな感じだろ?」
サラッと言ってやると全員が全員、安心したように溜息を吐く。一夏からみても、びっくりするぐらいタイミングが合っており、それこそ一分の乱れも無かった。本当に行ったことがあると思われたとしたら、心外なのだが。
「む……」
と、そこで箒の唸る声。
どうしたのかと見れば、箸の先には一口食べられただし巻き卵がある。
「美味しい……。ああ、本当に……」
残りも口に入れ、何かを確かめるように、目を閉じ、感嘆の声が漏らす箒。
そんなに美味しいのかとクラスメートもだし巻き卵に手を伸ばす。
「ホントだ。すんごい美味しい!」
「他の料理も美味しいけど、これも美味しいねえ」
口々に、称賛の声が上がる。
だが、一夏はそちらの方には何を返すわけもなく、じっと箒の方を見ていた。
「……また、このだし巻き卵が食べられるなんて」
箒の言葉の意味がわからないのか、セシリアを始め殆どの生徒が首をかしげる。
だが、一夏だけは安堵のため息を吐いた。
「良かった。箒にそう言ってもらえて」
「……これは、母がよく作ってくれただし巻き卵だ。……本当に、懐かしい」
「おばさんのだし巻き卵美味しかったもんな。俺もあの味が忘れられなくて、何回も試行錯誤したんだ」
そう言って一夏もだし巻き卵を口にした。
記憶の通り、再現出来たことに改めてホッとする。
「転校して、家族とも離れ離れになったって言ってたからさ。箒が喜んでくれるといいなって」
余計なお世話だと言われるだろうか。
何れにせよ、正直ではない箒の事だ。素直にお礼を言うような事はないだろう。
そう一夏は思っていただけに、箒の口からでた言葉は意外なものだった。
「本当にありがとう一夏。もう二度と食べられないと思っていた。まさか、もう一度食べられるなんて……」
一夏をまっすぐ見ながら、儚げな笑みと共にお礼を口にした。
まさか、ここまで直球で来られると思わなかった一夏は、照れた様に頰を掻く。
そして、セシリアは「やはり、幼馴染はズルいですわ……」と呟く。流石に、この空気の中には突っ込めむのは無理だった。
セシリアの次くらいに箒とラウラが好きです。
あんまこの小説は箒の深堀がなかったので、ここらで入れてみようと
あと、毎度おなじみバトルを書きたい衝動に駆られて来たので、次回はセシリアVS鈴ちゃんです。
クラス代表が一夏じゃなくてセシリアの二次小説ってあんなないなあって今更ながらに思った