ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
試合当日の日がやってきた。
第一試合。組み合わせはセシリアと鈴である。
噂の新入生同士の戦い、それも代表候補生でもあり、なおかつ専用機同士。その上、共に最新鋭の第三世代機同士の戦いとなったのでアリーナは満員である。
一夏と箒はというと、ピットのリアルタイムモニターでふたりの戦いを観戦することにした。
一組の生徒は二人の席を確保してくれていたようだが、一夏としては二人を応援しようと思っていたので辞退したのだ。
箒も箒で、鈴になにか恩を感じているのか、平等に見たいとついて来ていた。
「そういや、鈴のISも第三世代機だったんだよな」
「うむ。ただし、セシリアの様に試験的に作られたわけではなく、『実用性と効率化』を主眼に開発された機体らしい」
「ふーん。となると、第三世代機の特徴を持ちつつ、第二世代機の特徴も持ってるって事か」
画面の両端には、二人の専用機のスペックが映されてる。
セシリアの方は既にわかっているので、鈴の方のスペックも注目がいく。やはり、気になるのはは第三世代兵器特有のイメージインターフェイスを使用した武装だろう。
「あの衝撃砲ってのが厄介そうだな。砲身も砲弾も見えないとなると対処が難しい。ハイパーセンサーで空間の歪みを探らせて対処する……ってのが俺の考えだが、それだと遅いか?」
「歪みを探るということは、既に撃たれた後に対応する事になるから難しいな。──あえて、距離を詰めるというはどうだ?。完全に封じることは出来ないだろうが、手を制限させることは出来る」
「俺ならそうする。……というか、そうするしかないのが正しいけど、セシリアにやれっていうのは無茶だな」
セシリアの近接戦闘のレベルは、一夏にすら劣る。
その程度の腕前では、ただの自殺志願と相違ないだろう。
それは、鈴のIS『甲龍』の装備を見れば一目瞭然だ。
「青竜刀……というよりは、刃に持ち手がついている大剣か。二振りあるということは二刀流の剣士か」
「普通なら、あんな大剣は一振りでも持て余すだろうけどな。ISにはパワーアシストがあるから、問題なく振るえるわな」
「だが、剣は二振り持ったらその分二倍の手数になるわけではない。使いこなせないのなら、むしろ手数は一刀流にも劣る。それでも、二振りとも持ち出したという事は彼女は十全に振るえるという事だ」
箒の剣士としての、指摘に一夏は頷きを返す。だが、分析をすればするほど厄介な存在だと思わせる。
大剣を嫌がり距離を取っても、不可視の弾丸を浴びせられる。ならばと接近すれば、今度は大質量の大剣が襲いかかる。
単純だが、強力な戦術だ。
そして、単純な分、打ち破るのは難しい。
「とはいえ、セシリアも凡庸な狙撃手ではない。衝撃砲の不可視の弾丸さえ対応できれば、中距離戦は彼女の方に分はあるだろう」
「それに、今回はBT兵器も使えるって言ってたもんな」
前回の一夏との対戦では、BT兵器と呼ばれるビット兵器は準備が間に合わず使用していなかった。
だが、今回は完璧に調整をすませ、万全の状態で臨めるとの事だ。
「中近距離を得意とする鈴と、中遠距離を得意とするセシリア。単純に考えて、中距離での主導権を握った方が有利になる」
箒の言葉を引き継ぐように、一夏が続けた。
「けど、それだけだと決定打に欠ける。勝負が分かれるとすれば、中距離からの展開だな。自分の得意な距離に持ち込めるか、それとも苦手な距離での戦いを強いられるのか。それがこの勝負の分かれ目か」
そうこう言ってる間に、戦端は開かれた。
距離を詰めようとする鈴とは対象的に、バックブーストをかけ後退するセシリア。
やはり、お互いにイニシアチブを握れるポジション取りを狙っている。
「そこ!」
言葉と共にセシリアの放ったレーザーは鈴に命中。シールドエネルギーを減らす。が、鈴は構わず尚もセシリアに突貫する。
常識外れとも言っていい行動。が、それをすることで相手の意表をつき、奇襲という事になる。
「──ふっ!」
「ちぃ!」
が、無謀ともとれる常識外れの動きは、既に一夏との試合で嫌という程経験した。セシリアは跳び箱を飛ぶような要領で斜め上めがけて飛ぶと、そのまま前転する様な形で回転しながら鈴の突撃を回避し背後をとる。と、同時に地上に頭を向けたままの体勢でライフルによる狙撃。これも命中し再び甲龍のシールドエネルギーを削る。
「ああもう!」
背後から狙撃を受けた鈴は意識を両肩のアンロックユニットに向ける。
不可視の銃口を形成し、セシリアに向けると狙いもそこそこに砲弾を撃つ。
命中させることよりも牽制を目的に放った砲弾だったが、やはり視えないというのが、問題なのだろう。
空間の揺らぎを察知したセシリアは慌てて狙撃を止め、距離を取った。
回避したセシリアと鈴の間に再び間が出来る。
最初の攻防はセシリアの方に軍配が上がった。中遠距離が得意なセシリアだが流石は代表候補性。ショートレンジでの戦いでも近接武器を出すこと無く凌ぎ、その上反撃をしてみせた。
「──行きなさい!」
距離は開いたが、セシリアにとっては好都合。
自身の愛機ブルー・ティアーズのメイン兵装。ビットを使うには丁度いいからだ。
セシリアの言葉と共にフィン状のビットが解き放ち、鈴を中心に上下左右に配置する。
「では踊りましょう! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
「女二人で踊る
瞬間、ビットからレーザーが放たれる。
ハイパーセンサーを頼りに回避をする鈴だが、ビットから発射されてから命中するまでの予測時間は〇・四秒。
撃たれてから避けては遅い上に、砲門は四つ。それも鈴の反応しにくい箇所から放たれる。
「くっ……!」
四発中、二発命中。ビットのレーザーはセシリアの手に持つライフルよりも威力は弱い。が、鈴の体勢を崩すには十分。
すうっと鈴は冷や汗を流す。この状態ではセシリアが放つであろうライフルの射撃は避けられない。故に衝撃を覚悟した鈴だったが、意外にもセシリアはライフルではなく引き続きビットによる射撃という選択肢を取る。
その後のビットによる射撃は受けたものの、ライフルよりは低いダメージのため立て直しは効く。
体勢を立て直した鈴は尚も行われるビットの射撃を避けながら思考する。
(今、明らかな隙があったのにアイツは見逃した)
──隙を見逃した?
──ライフルは必要ないと舐められた?
様々な推測が浮かんでくるが打ち消す。
セシリアの態度からしてそれはありえない。
隙を見逃すような力量ではない事は最初に刃を交えた時点でわかっているし、相手を舐めるような性格ではない事は普段の立ち振舞から考えても容易に想像つく。
(ブラフのってパターンもある……確かめてみる価値はあるわね……)
意図はわからないが敢えて見逃した可能性もある。
なればこそ、鈴は真意を探るため敢えて体勢を崩す。勿論、ビットのレーザーが命中すると同時にである。
これなら先ほどと同じ様に射撃によって体勢を崩した様に見えるだろう。だが、またしてもセシリアはその隙を突かずにビットの射撃を優先させる。
この時点でブラフの可能性は消えた。となると残されたパターンは二つ。
一つは鈴の思惑を見抜いた上での行為。それを確かめるべく鈴はもう一度、衝撃砲をセシリアに向けて放つ。
「この程度の射撃で!」
が、それは難なくセシリアに躱される。が、鈴の狙いは別にある。
果たして、狙い通りの結果になったのだろう。鈴は得心がいった、そんな表情を浮かべた。
(やっぱりね……ビットを動かしている最中は自分が、自分が動いている間はビットを動かせない)
鈴の言葉通り、セシリアが回避行動に移った瞬間、それまで縦横無尽に動き回っていたビットが動きを止めたのだ。
思い返せばビットを動かしている最中セシリアはその場に佇んだまま一歩も動いていなかった。
ここまでくれば答えは一つだ。セシリアは鈴の隙が出来た時、敢えてライフルを撃たなかったのではなく、
(さてと、読み切ったわよ)
ここまで読めば戦況は一変する。
回避が難しくなればセシリアに攻撃を仕掛ける素振りを見せれば、それだけでビットによる攻撃は防げる。
「今度はこっちの番よ!」
ビットの射撃を始めた瞬間、鈴がセシリアに向かって加速させる。距離を詰められまいと後退するセシリアに合わせ、縦横無尽に動いていたビットは、例によって動きを止めた。
「吹っ飛べ!」
両肩の発射口から、不可視の弾丸が放たれる。
その弾丸を、セシリアは避けきることが出来ずに、吹き飛ばされる。
「やはり、厄介ですわね……!」
「それがウリだからね!」
今度は、連射性を高め、放つ。
上へ、下へ、空間を全て利用する彼女の機動に、なかなか弾丸は命中しない。
だが、今はこれでいい。
もとより、試験的に作られたセシリアの機体と、燃費を第一に作られた鈴の機体では、持久戦になった時有利なのは鈴の方だ。
それに、砲弾がその身を捉えるのも時間の問題だろう。先程よりもセシリアの回避に余裕はなく、危うい場面も増えてきた。
このまま押し切る。そう思って、砲撃をなお一層苛烈にした瞬間だった。鈴の身体を、蒼い閃光が撃ち抜いた。
「は……?」
崩れた体勢を立て直すも、動揺は何も収まっていない。
なぜ、撃たれた。なぜ、アレほどギリギリで反撃出来ている。
疑問が湧き上がるが、答えは出てこない。
「先ずは一発。厄介ですが、もう通じませんわ」
「……なんなのアンタ!? さっきまでギリギリで避けてたのに!?」
追い込んだと思っていたが、まさか追い込まれたとでも言うのか。
そんな鈴の叫びに、セシリアはあっけらかんと答えた。
「ああ、それならわざとですわ。──砲弾のスピードをも調整できるか確かめるために。ギリギリで避け始めたのを見せれば、弾速を上げて命中させようとするだろうと思いましたので」
「ンなっ……!?」
「ソレができれば、あるいはわたくしとも撃ち合えたかも知れませんが、そこまで優秀な武装ではないようですわね。もしくは、調整機能はあるが、鈴さんには扱えないのかもしれませんが」
衝撃砲は360度自在に砲身を形成し、発射を可能とする。そして、砲弾の威力や連射性を変えるのも自由自在だ。
これだけでも、厄介な能力ではある。
だが、しかし。
砲弾の速度自体は、変えることは出来ないのだ。
そして、セシリアが警戒していたのは、この一点だけだった。
「確かに、あなたは高いレベルで近接と射撃を両立するオールラウンダーですわね。近接戦闘など、わたくしが挑めばものの数分で決着がつくでしょう」
それは、比べるまでもない事実だ。
だが、射撃の腕はどうだろうか。
「残念ながら、わたくしと射撃戦をするには少しばかり鈴さんの技量が足りないようです」
セシリアが近接戦では鈴と技量の差があるように、射撃戦では鈴はセシリアとの技量の差は相当な物がある。
精度はもちろん、駆け引きも含め、鈴はセシリアに勝てる部分はない。
だが、それでもここまで射撃戦が成り立ったのは、衝撃砲の特性をセシリアが探っていたから他ならない。
その、探っていたのは弾速の調整機能だ。
調整機能があるならば、様々な駆引きに利用できる。
視えない砲弾という特殊性を活かし、低速の砲弾をあるポイントに向けて撃っておき、その砲弾に命中させるように追い込む。
逆に、これ以上弾速は上げられないと思わせ、砲弾の速度に合わせて回避を始めたところで、弾速を上げて撃ち落とすという事も可能だ。
「弾速を調整すれば、確実にわたくしを落とせた場面でも、あなたはソレをしなかった。ブラフだったとしても、ここまで隠す意味はない」
「でも……そんなのはありえない。いくら弾速が同じだって、龍砲の砲弾は視えないのに!」
声を荒げる鈴に、セシリアはどこまでも冷静に告げる。
「弾速は先程申し上げたように一定。射線は自在に展開できるとは言え、砲弾は直線にしか飛ばないのですから通常の射撃武器と変わらない。発射の瞬間は、僅かですが空間に揺らぎが出ますわね」
「だから、それだけでなんで避けられるのよ! アンタは!」
「弾速、射線、発射口、そして撃つタイミング。これだけわかっていながら、このわたくしが避けられないとでも?」
まるで、当然のように。
何を聞いていると言わんばかりに。
冷静に、そして冷酷に、セシリアが告げた。
「発射されてから着弾までの時間は変わらない。なら、発射された事を察知してからでも回避が出来る距離を維持し続ければ、被弾することはなく、ギリギリで回避する事も可能ですわ」
そして、とセシリアが続ける前に鈴が距離を詰める為に動き出そうとして──
鈴のISをセシリアがライフルから放たれたレーザーが命中。更に、空中へと躍り出たビット兵器が追い打ちをかけるように鈴を包囲して、四方から射撃を放つ。
「距離を維持するというのは、近づけさせない事とも同義。わたくしはこの距離を縮めさせるつもりはありませんわ」
正直、一夏といい勝負をしたからと舐めていた。
鈴は事ここに至って己の迂闊さを後悔した。
だが、おいそれと負けを認めるほど、鈴の性格は大人しくもなかった。
「やっぱチマチマと削るのはアタシの性に合わないみたいだから、こっからは接近戦に切り替えようかしらね」
眼下に、機体を加速。射撃が駄目なら、大剣。大剣が駄目なら、射撃。柔軟な戦術切り替えこそが鈴のスタイル。
セシリアも近づけさせまいとビットからレーザーが放たれるが、まるでどこから撃たれるのか読んでいるかの如く回避。
(ビットはすべてアタシの死角から撃たれる──なら、死角を作ればそこからしか撃たれない)
鈴は、あえて死角を作る。
根拠はないが、感覚に頼って形成した死角は、結果として回避をするのに苦にはならないポイントとなる。
考えることなく、直感で最適解を選ぶことが出来るセンス。だからこそ、鈴は一年足らずで代表候補なり得た。
「──貰いましてよ!」
だが、セシリアとて回避されるのは織り込み済み。
もとよりビットは決定打に欠ける。故のライフルであり、ミサイルビットだ。
直様ライフルの引き金を引き、ミサイルビットを発射。
このまま、鈴がライフルのレーザーを避けようとすれば、誘導できるミサイルの餌食に。
どちらも命中するなら、最大の戦果。避けられたとしても、少なくともミサイルの直撃は受ける。
それぞれの特性を踏まえた、武装展開。
だが──
「甘いってのッ!」
ミサイルを撃ち落とそうと衝撃砲の砲身を向けようとしたが、発射の直前に直感が告げる。
──ダメだ。アレは、この距離では撃ち落とせない。
ならばと、鈴は迫りくるレーザーに照準をあわせる。
龍袍の砲弾は、PIC技術を利用した兵器。理屈はよくわからないが空間に圧力をかける事で砲弾を形成している事を鈴は知っている。そして、ソレだけ知っていれば十分だ。
──ライフルの方は一度受けてるから威力はわかる。
龍袍の砲弾の威力を調整。
狙いを定め発射された砲弾は、鈴の予想通りぶつかりあった瞬間、相殺される。
「はァ!?」
セシリアの口から、驚愕の声が漏れる。
一瞬、何をされたのかわからなかったが、聡明な彼女の頭脳は答えを導く。
(わたくしのレーザーと衝撃砲の威力を全く同じにして、打ち消しあった!?)
信じられないが、信じるほかない。
現に、お互いの射撃は相殺されたのだから。
でも、まだ、と思考を切り替える。ミサイルの方は残っている。
「ミサイルの威力は知らないけど──!」
両肩に設置されている龍袍の発射口。
一射目の設定を広範囲へ細かな弾丸を撒き散らす散弾に設定。
──命中の直前なら、撃ち落とせる。
鈴の直感通り、後数メートルというところで、ミサイルが網のように広がった衝撃砲の砲弾が命中。
だが、この距離の爆発は、爆風をまともに浴び、直撃ではなくともダメージを受けてしまう。ならば──
──爆発の衝撃を、龍袍で押し返せ。
二射目は、最大威力だ。
空間が、爆風を押し返す。一瞬、爆風の進行するスピードが緩む。
その一瞬さえあれば、爆風の効果範囲内から離脱も可能だ。
「なんという……なんというセンス……!」
必中を期した策を、半ばその場で考えたような、場当たり的な方法で回避されたことに、セシリアは畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
自身が、三年でたどり着いた場所に、たった一年で上り詰めたというのも、その考えに拍車をかける。
先程までは、手を抜いていたという事か。
「さあ、本気で行くわよ──!」
口元には笑みを浮かべているものの、その目は得物を狙う猛禽類の様にギラついていた。
だが、セシリアもおいそれと接近を許すつもりはない。
ライフルを鈴に向け、引き金を絞ろうとしたところで──
アリーナのシールドを破り、何かが降ってきた。
次の更新は早ければ1/29です
その日になければ1/29日夜より1/31まで出張なので2/1になる予定です。