ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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変わった事と変わらない事

 クラス代表決めで一騒動はあったが、その後は何事もなく授業は消化され、今は昼食の時間だ。

 お昼休みになった瞬間、彼を昼食へと誘おうとする女子に囲まれていたがなんとか脱出して今は幼馴染の篠ノ之箒と食事をともにしていた。

 なぜ箒が一夏と二人きりで食事をしているかと問われたら、彼が女子の囲いを突破する際にダシに使われたからである。

 久しぶりに再会した幼馴染と旧交を温めたいと言われれば、クラスメートも素直に引かざるを得ない。

 もっとも、ダシに使われた箒も箒で満更ではない。初恋――それも現在進行形――の相手に誘われて、悪い気になるはずもなかった。

 

 

「改めて、久しぶりだな。箒」

「そうだな。息災のようで何よりだ」

「お前も、変わらずだな」

 

 

 日本中の女子高生の中でも、息災なんて使う言葉を使う女子高生は箒くらいだろう。

 もっとも、それが箒らしいっちゃらしい。あえて、声には出さないが。

 一夏は目の前に座る少女をチラリと見る。勝ち気そうな表情と、ポニーテール。小学生の頃の箒がそのまま大きくなったような感じを受ける。――もっとも一部では大幅な成長を遂げた箇所もあるが。

 そんな、昔と殆ど変わっていない幼馴染を懐かしく思う。

 

「箒は相変わらず続けてるみたいだな、剣道。優勝したの、新聞で見たぜ」

「まあ、な。私には剣道しかないからな。……それよりも、『箒は』という事はお前は止めてしまったのか」

「ああ。俺としちゃ続けたかったんだがな」

 

 

 その言葉に嘘はない。

 可能なら一夏も剣道は続けたいという思いはあった。

 だが、環境がそれを許してくれなかった。

 

 

「部活にしろ、剣道場に通うにしろ、結構な金がかかるからな。わがままは言えなかったよ」

「そうか……」

 

 

 一夏には親がいない。肉親と言えるのも千冬だけだ。

 その事は箒も知っている。故に、どうして続けていなかったと怒る事など出来るはずもない。

 

 

「なんでも、お前の親父さん。気を使って月謝はタダにしてくれてたんだわ。それに道具一式も」

「そうなのか?」

「俺も、お前が引っ越してから千冬姉に聞いてびっくりしたよ」

 

 

 そう言ってカップを持ち上げる。

 中身は定食のサービスで付いてきたコーヒーだ。

 ミルクや砂糖を足さずにブラックのままですする。

 

 

「飯は美味いのに、コーヒーは不味いんだな」

 

 

 一口飲んだ一夏は、顔を歪ませた。

 食事のレベルが思ったより高かったが故に、期待しすぎたと言わんばかりに吐き捨てる。

 

 

「豆は良いのを使ってるってのが余計に腹が立つ」

「そういうのもわかるのか」

「お前も飲んでみるか?」

 

 質問の形式をとりつつも、返答は期待していないようだ。

 箒が返事を返すよりも早く、箒のトレイにコップが置かれる。

 一夏の口をつけたコップを使うというのは中々恥ずかしいが、合法的に飲めるのであればこんな機会を逃すわけにはいかない。

 コーヒーなど一切飲まない箒だったが、今回は自らの欲求に素直に従い、飲むことにした。

 

(わ、私の顔、赤くなってないよな……?)

 

 

 無論、真っ赤に染まっている。が、一夏は気にした風もなく、箒が飲むのをじっと待っていた。

 恐る恐る口をつけると苦味が箒の口の中に広がった。そして、どことなく酸っぱいような感じを受ける。

 

 

「……苦い。それに酸い感じがする」

「まあ、苦いのは置いとくとして……。酸味が強すぎるんだよ。使ってる豆は良い物だろうがな。設備だって国立なんだから最高。ただし、豆の管理、これが最悪だ」

 

 

 箒の言葉を聞き、我が意を得たりとばかりに語りだす。

 

 

「多分、生の豆を仕入れてるってわけじゃないだろうな。焙煎済みの豆を仕入れてるな。そんでそれを長いこと放置って感じか」

 

 

 一夏は力説しているが、箒にはなんのことかさっぱりという様子で、口直しに緑茶の入った湯呑を傾ける。

 やはり自分にはこっちの方が合っている。そんな風に思った。

 

 

「というか一夏。お前はどこでそんな知識を身に着けたんだ」

「バイト先だなあ。喫茶店で働いてたんだけど、そこの店長に教えてもらった。暇さえあれば入り浸ってたしなあ……。しっかり仕込んでもらったわ」

「中学生でアルバイトに勤しむのは、いかがなものかと思うがな」

 

 

 その言葉を聞いた一夏が、気まずげに頬を掻く仕草をみて、箒は己の失言に気付いた。

 最初に一夏自身が言っていた事だ。金がかかるから剣道は続けられない、と。

 つまり、一夏は少しでも家計の足しにするために働いていたと考えるのが自然だ。

 

 

「いや、すまなかった。責めるつもりで言ったつもりじゃないんだ。……千冬さんの助けになろうとしてやったことだろう?」

「いいんだよ。……結局、千冬姉には受け取って貰えなかったし」

「ちょっと待て。だとしたら、そこまで働く道理はないだろう」

 

 

 うっと一夏が言葉をつまらせた。

 失言をしていたのは一夏の方らしい。視線をコーヒーに落とすと、言い訳がましく声を絞り出した。

 

 

「…………コーヒー豆って結構高いんだよな」

「お前って奴は……」

 

 

 呆れ気味に箒がため息を吐くと、一夏はおどけて「すまん」と手を合わせる。

 こういう些細なやり取りが懐かしい。おもわず緩んだ頬に箒は、自分が久しぶりに笑えている事に気付いた。

と、一夏が「そういえばさあ」と声をあげる。

 

 

「お前ISの事詳しい?」

「お前よりは、な」

「お、さすが天才の妹だけの事はあるな」

「茶化すな。……参考書の内容すらままならないお前よりはマシなだけだ。私が特別優れている訳じゃない」

「言うじゃねえの……」

 

 

 やっぱもっと読み込んでおくべきだったかと、一夏は頭を抱える。

 もっとも、一夏が参考書を手渡されたのは三月になってからだ。そこから一ヶ月程度で覚えろというのは正直無理があった。

 と、そこ一人の女子生徒がやって来て、二人――というよりは、一夏――に声をかけた。

 

 

「あなた、噂のコでしょ?」

 

 

 一声のする方に視線をずらす。

 胸元を見ると、三年生を示す赤色のリボンだ。

 

 

「来週、代表候補生のコと勝負するって聞いたけど、ほんと?」

「女子の間で、噂が回んのはやっぱ早いんだなあ……」

「その反応を見ると、嘘じゃないみたいね」

 

 

 言いつつ、件の三年生が一夏の隣に座る。

 組んだ腕を机に乗せ、顔を傾ける。……制服と制服が擦れそうな距離感に、箒は眉間にシワがよっている事を自覚した。

 

 

「でも、君って素人でしょ? ISの稼働時間はどれくらい?」

「はあ。まあ、一時間も動かしてはないと思うんですが」

「じゃあ、無理よ。相手は代表候補生なんだから、少なくても三〇〇時間は動かしてるわよ?」

 

 

 だから、と彼女はさらに一夏との距離を詰める。

 もはや腕と腕が密着していた。箒の顔が凄まじいことになってきていた。

 

 

「私が教えてあげよっか、ISについて」

 

 

 にこっと人の良い笑みを浮かべた彼女を見ながら、一夏はすうっと自分の感情が冷めていくのを感じた。

 結局の所、ISの指導にかこつけて自分に近づきたいだけなのだろう、と。

 

 

「……あなたに教わらなくても、こちらでなんとかしますんで」

「ふうん。結構な自信家なのね。でも、私が教えた方が上手く行くとおもうけどなあ」

 

 

 彼女の言葉を聞いた一夏は「へえ」と笑みを浮かべた。

 それは箒が知らない。初めて見せる表情だ。なんというか、見ていると苛つくそんな顔だ。

 

「……何が面白いのかしら?」

 

 

 彼女の顔に露骨に不快感が浮かんだ。

 一夏は肩をすくめると、口を開いた。――先程よりも、からかうような声音を含めて。

 

 

「自信家って……そっくりそのままあなたにお返ししますよ」

「はあ……!?」

「素人の俺が一週間かそこらの訓練で、代表候補生に勝てるって本気で思ってるのですか? いやはや……そちらの方がとんだ自信家では? それが本当なら、今すぐコーチとして各国に売り込んだらどうでしょうか。 『たった一週間で素人を代表候補生にします!』……結構な触れ込みだと思いますが」

 

 

 わなわなと肩を震わせた彼女だったが、それでも一夏に言い返せなかったのか、そのまま席を離れた。

 それを見届けた箒は、大きくため息を吐く。

 満足気に彼女を見送った一夏が不思議そうな顔で箒を見る。

 

 

「……どうした?」

「どうした、はこちらのセリフだ」

「まあ、そうだよな。……悪い、びっくりさせて」

「まったくだ。どうしたのだ、急に」

「ああいう手合は嫌いなんだよ。あんなミエミエの誘いとか舐めんなって話だ」

「だが、ISの事を教えてもらえるんなら──」

「本気でISの事を教えてもらえると思ったのか?」

 

 

 一夏に鋭い視線を向けられて箒はうっと言葉に詰まった。

 さっきと同じだ。雰囲気が完全に変わっている。

 

 

「教えてくれるつったって真面目にやるとは思えんね。……IS学園って一応、エリートの集まりのはずなんだが」

 

 

 やれやれと頭を振る。

 気分を切り替えようとしてコーヒーを飲もうとしたところで、コーヒーの不味さを思い出し口元カップを下ろす。

 

 

「話を戻すとして。箒、ISの事を教えてくれないか? 幼馴染のよしみで一つ頼む」

「私が、か?」

「箒が、だ」

 

 

 本来なら、一夏の提案は嬉しいものだ。

 だが、他ならぬ一夏自身の放った言葉が返事をするのを躊躇わせていた。

 自身がISの生みの親である篠ノ之束の妹だから自分もISに詳しいと思いこんでいるかもしれない。

 だとすれば、自分に一夏の希望に沿うことは出来ないだろう。とてもじゃないが、セシリアに勝たせるように育てる、なんて事は言えるはずも無い。

 

 

「悪いが、私が教えればオルコットに勝てるなんて大見栄は張れんぞ。お前は私が姉さんがISを作ったから私も――」

「そういう理由でお前に頼んだつもりはねえよ」

 

 

 箒の言葉を遮るように、一夏が口をはさむ。

 心なし、不機嫌そうな感じで言葉を重ねる。

 

 

「むしろオルコットに勝てるって言った時点で、そんな無責任な事を言う奴には頼まねえよ。あいつは代表候補生なんだろ? たった一週間の特訓で勝てる筈がないだろうよ」

 

 

 それに、と続ける。

 

 

「別にお前が束さんの妹だから頼んだ訳じゃねえよ。見ず知らずの連中に頼むより、幼馴染で気軽に話せるお前の方が良いと思っただけだし」

「お前がそう言うなら、私としては問題はないが」

「本当か!? じゃあ、是非頼む!」

 

 

 ガタンと椅子を倒して、箒の手をとった。

 突然、想い人に手を握られ箒の身体が強ばる。

 

 

(突然手を握る奴があるか! もっとこう、心の準備をさせてだな……!)

 

 

 と、舞い上がりつつも、箒も一つだけ言っておこうと、口を開いた。

 

 

「座学の面では教えられる事もあるが、実技は無理だからな」

「は?」

「は? ではない。私だって稼働時間は一時間もないんだからな」

「マジかよ……」

「うむ。……というか代表候補生でもない限り、ISを動かしたことのある生徒なんて殆どいないと思うぞ。精々、試験の時に動かした程度だな」

 

 

 そもそも、ISのコア自体が世界で467機しかないのだ。

 それこそ代表候補生でもなければ、ISに触れることなどおいそれとは叶わない。もっと言ってしまえば、ただの(・・・)代表候補生でも日常的に扱うことは出来ない。日常的に使いたいのならば、その上、専用機持ちにならなければならない。

 そういった意味で言えば、セシリアはまさしくエリート以外の何物でもないだろう。

 

「まあ、幸いお前にも専用機は用意される。ぶっつけ本番でオルコットと戦う事はないだろう」

「なんの気休めにもなってないよな、それ。……どうすっかなあ、これ」

 

 

 ははは、と座りながら力なく笑う一夏。

 それを見て、箒は無性に苛立つ気持ちを抱いた。昔、小学校の頃の一夏はこんな性格だっただろうか、と。

 織斑一夏と言えば、負けず嫌いで何事にも精一杯取り組む、悪く言えば無鉄砲の嫌いがあった。

 だが、今の一夏からはそんな雰囲気は感じられない。大人になったと言えばそれまでだが、ここまで達観されると箒としてはイライラする気持ちが湧き上がる。

 

 

「いっそ、オルコットに教えてもらうか。ISの動かし方」

 

 

 一夏からすれば、冗談で言ったつもりのその言葉、今の箒には冗談として流せる余裕は無かった。

 力強くテーブルを叩き、立ち上がる。

 驚き、目を丸くする一夏に箒はビシッと人差し指を突きつけた。

 

 

「ふざけるな! 曲がりなりにも、来週戦う相手に教えを請うとはどういう了見だ!」

「何怒ってるんだよ。他に頼れる相手がいないんだから他にどうしようもないだろ? つーか冗談にマジギレすんなって」

「だったら先生方に……千冬さんに頼れば良いだけだろう!?」

「あのなあ、千冬姉が俺個人の頼みを聞いてくれる訳がないだろ? ちょっとは冷静になれって」

 

 

 まるで聞き分けのない子供に聞かせるように一夏が口を開く。

 

 

「大体、そんなにこの勝負が大事か? 勝つことが大事か?」

「どういう意味だ?」

 

 

 勝つこと以外に、他に大事な事があると言わんばかりな一夏に箒は苛立つ。

 まるで、勝利に執着する自分が間違っている、そう否定されたように感じた。

 

 

「そりゃ、誰かを守るためだとか、自分の命がかかってるとかだったら俺も気張るさ。でもな、この勝負はなーんにもかかってない。どっちがクラス代表に相応しいか決める勝負だろ? 珍しさと話題性だけでISの事も禄に知らずに推薦されてやる気の欠片もない俺と、代表候補生で専用機持ちで自薦してまでクラス代表をやろうとする気概を持ったオルコット。どっちがクラス代表に相応しいかなんて自明の理だろうよ」

 

 

 あのまま、投票をしていたらおそらく自分がクラス代表に決まっていただろう。

 自薦他薦は問わないと千冬が言ってしまった時点で、一夏の推薦を取り消すわけにはいかない。

 自分が確実に代表にならず、そして自分自身の学園生活に波風が立つことのないようにクラスメートが納得するようにISによる対決で雌雄を決しよう――と、一夏は考えて模擬戦による結果で決めようと提案したのだ。

 逆に、セシリアが格下の一夏に模擬戦を申し込むとなると大人げないだとかそういった話になってくるのだが、一夏がセシリアに挑戦するという構図をとれば何の問題もない。

 

「つーわけで、端っからこの勝負のオチは見えてるんだわ。俺自身、ISの事をこれから勉強せにゃならんのにクラス代表とかやってる場合じゃねえし」

「それは、まあ、そうなんだが……。お前、やるからには頑張ると言っていたではないか」

「んなもん、あの場を取り繕うための方便だって。やる気なんてこれっぽっちもありませんって言ったら顰蹙を買うだろ? だったら口先だけでもやる気があるってところを見せとかんとな。──それに、オルコットの方がクラス代表に相応しいっていうのは本音だしな」

 

 

 確かに、一夏の言っている事は正しい。

 彼我の力量差を踏まえ、そしてこれからの学園生活を円満にしていくためには完璧な回答だろう。

 けれど、箒が釈然としない気持ちを抱いたままなのは事実。

 

 

「お前、大分変わったな。昔はそんな性格じゃなかったと思うが」

「そうかい」

「ああ、無鉄砲で向こう見ずで命知らずだったような」

「お前、俺に対してそんな事思ってたのか!?」

 

 

 一夏の心は結構、傷付いた。たしかに小学生時分は無茶をしていたとは思うが、まさか幼馴染にそこまで思われてたとは。

 

 

「お前は三人の男子に囲まれている女子を助けようとする男だから、な」

「あったなあ、そんな事も。我ながら、無茶やってたなあ」

 

 

 立ったついでにトレイを手にとった箒は、返却口へと歩き出す。

 一夏も同じように立ち上がり箒の横に立つ。

 

 

「それでも、その少女が救われたのは事実だ」

「……お前もだいぶ変わったよな。前はそんな事言うような奴じゃなかった」

 

 

 照れたようにそっぽを向いた一夏を妙におかしく感じる。

 まあ、五年ぶりの再会と考えれば変わったところも多いだろう。それでも、変わってないところもある。

 昔から、一夏は褒められたりして照れるとそっぽを向く。どうやらこういったところは変わってないと感じ箒の表情が少し緩んだ。

 

 

「さて、昼休みも残り少ない。折角だ、予習の時間とするか」

「おう。頼むわ」

 

 

 そんなこんなで一夏にとっては、IS学園に入学してからようやく初の心穏やかな休み時間を過ごすことが出来た。

 

 




予習の時のモッピーとワンサマー
「箒。このアクティブなんちゃらってのはなんだ」
「ズガガガーンってやつだ」
「……じゃあこの広域うんたらってのは」
「びしゅーんってやつだ」
「…………(´・ω・`)」
「どうしてそんな顔をするんだ!?」
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